今回はシノン&リンディVSヴォルケンズです。
では、どうぞ。
Side Out
戦闘が開始されてすぐ、正面から打ち合ったシノンとシグナムの間には無数の斬撃が飛び交っていた。
距離を詰める踏み込みから互いに袈裟斬りで打ち合い、返す刃で放たれた右薙ぎの斬撃によって僅かに距離が開く。
しかし、シノンは間を置かずにすかさず踏み込んで唐竹に太刀を振り降ろす。
対してシグナムは前進を止めずに顔の少し前で構えた剣の刀身を右へ水平に倒し、シノンの斬撃を受け止めた瞬間に剣を上に跳ね上げる。
カァン!! と短く鋭い金属音が響き、シノンの態勢が跳ね上げられた太刀に釣られて後ろに大きく崩れる。
しかし、シノンはその勢いに逆らわずに体を後ろへとターンさせて姿勢を整え、一瞬の力の溜めを置いて加速した左薙ぎの斬撃が風切り音を鳴らして放たれる。
それは背後から迫っていたシグナムの唐竹の斬撃と衝突し、鍔迫り合いとなって両者の動きはその場で止まる。
体に巡らせる力を緩めずに両者はそのまま睨み合うが、数秒の間を置いてその場から同時に飛び退く。
直後、着地したシノンの足元が緑色の光を放ち、飛び出したワイヤーが前の戦闘と同じようにシノンを拘束しようと迫る。
しかし……
(大丈夫、こっちで止めるわ)
頭の中に聞こえた念話の後にリンディが左腕を持ち上げると、シノンを拘束しようとしたワイヤーが動きを止めて地面に落ちた。
「術式への妨害干渉……!」
自身のバインドが外部から即座に解除されたシャマルが驚愕の声を上げ、その隙を狙ってシノンが太刀を構える。
しかし、動き出そうとした瞬間に背後から迫る気配を感じて横へと飛び退くと、頭上から急下降してきたザフィーラの拳が立っていた場所に突き刺さって衝撃波が吹き荒れる。
「派手だな」
呟きながら後ろを見ると、そこには剣を構えたシグナムの姿がある。
前後を挟まれる形となるが、シノンは太刀を左手に持ち替えて右手を持ち上げる。
「穿て、吹き荒ぶ大気の刃……」
その呟きをシグナムとザフィーラが聞き逃すはずもなく、ほぼ同じタイミングで前後からシノンを挟撃する。
しかし、それを当然予測していたシノンはその場から飛び退くと同時に背狼の急加速で追撃を振り切る。
「……タービュランス!!」
そして持ち上げた右手をリンディの方向へと向け、詠唱の完成と共に指を鳴らす。
直後、リンディのすぐ背後で収縮した風が天へ昇るように炸裂し、凄まじい突風が吹き荒れる。
術技の識別機能によってリンディにダメージは無いが、拡散する風の刃はその背後から鉄槌を振り降ろそうとしていたヴィータを吹き飛ばした。
「くそ……っ!」
悪態を付きながら空中で態勢を整えたヴィータはシグナムの傍に着地し、ザフィーラはシャマルを守る為に後ろへ下がる。
同じくシノンもリンディの前へと移動し、再び睨み合うような形となる。
(やっぱりというか……人数の差は分かりやすい力になるわね)
(ただ強いだけならまだやりようも有るんですが、連携も上手く取れるとなると面倒ですね……とりあえず、後衛の2人はお願いします)
(了解よ。そっちにはバインドの妨害くらいしか出来ないけど、絶対に
一見すると絶体絶命の状況に見えるが、シノンとリンディの2人からすれば今の状況は不利であっても危機ではなかった。
何故なら、守護騎士達の目的はシノン達を殺すことではないからだ。
対象を殺してしまっては魔力を蒐集することは出来ない。つまりシノン達を無力化しなくてはいけないのだが、そうなるとベルカ式のカートリッジシステムを使った大火力のゴリ押しは“やり過ぎ”の危険があるので逆に足枷になってしまう。
ならば当然手加減すれば良い、ということになるのだが、シノンとリンディの2人が相手となるとそれは自殺行為に等しい。
何せ1人は管理局の提督、もう1人は総合的な戦闘力でAAAランクの執務官を破った傭兵である。
もちろん守護騎士達は2人の実力を完全に把握しているわけではないが、今までの戦闘でその強さは充分に理解出来た。
守護騎士達と違ってシノン達は手加減する理由も無く、下手に加減をすればやられる可能性もある。
結果、守護騎士達は人数と火力で勝っていながらも気兼ね無く全力を出すことも、また下手に手加減することも出来ないという中々面倒な状況に陥っていた。
そんな現状を理解しながら、前衛を務めるシノンは真っ直ぐにシグナムとヴィータへと切り込む。
対するシグナムは無言で、続くヴィータは舌打ちを一度鳴らして突撃する。
「フッ……!」
「シッ……!」
シグナムの剣とシノンの太刀が袈裟斬り、逆袈裟、一拍置いて唐竹でぶつかり合うが、シノンは反動を乗せて即座に後方へ飛び退く。
「オラァァ!!」
直後、シグナムの体でシノンの視界から隠れていたヴィータが気合の入った声で頭上からハンマーを振り降ろした。
シノンの立っていた場所のコンクリートが凄まじい衝撃波と共に砕け散るが、シノンは意にも返さず攻撃を放った瞬間のヴィータを狙う。
「ハァッ……!」
だが、それをさせまいと入れ替わるようにヴィータの背後から跳躍したシグナムが体を回転させながら遠心力を乗せた剣を振り降ろす。
シノンは即座に攻撃の対象をシグナムに変更し、『重』によって練り上げられた闘気と共に頭上目掛けて剣を振り上げる。
「月閃光・
斬撃と共に4つの光が三日月の軌跡を描くように放たれ、剣を振り降ろしたシグナムを後方へと大きく吹き飛ばした。
だが、直撃の寸前に彼女の体を紫色のオーラが包んでいたのを見たシノンは大したダメージは与えられていないと判断する。
「テメェ……!」
『Schwalbefliegen.』
怒りを孕んだ声と共にヴィータは左手の指の間に挟むように持つ4つの鉄球を眼前に放り投げ、気合と共に横薙ぎに振るったハンマーで打ち出す。
ガァン!! と金属を強く叩いたような音と共に4つの鉄球が真紅の光を帯びて急加速し、意思を宿したような軌道でシノンに迫る。
前回の戦闘でソレが誘導弾だと理解しているシノンは袈裟斬りから右薙ぎに振るった太刀で直撃コースの鉄球を斬り裂き、即座に足に力を巡らせて空中へ高く離脱した。
「逃がすかぁ!!」
吠えるヴィータの左手に握られているのは砲丸サイズの巨大な鉄球。ハンマーのフルスイングによって放たれた鉄球は空中に逃れたシノンを残りの2発の誘導弾と共に追撃する。
しかし、シノンの顔に焦りは無い。
何故なら、彼が必要としたのは逃げ場ではなく僅かな時間だったのだから。
「絶風……連刃!!」
振り下ろされた太刀と共に突風が吹き荒れ、放たれた4つの風の刃が全ての誘導弾を斬り裂く。
「やべっ……!」
飛来する斬撃が自分に迫っていると理解したヴィータは慌てて飛び退く。
次の瞬間、放たれた風の斬撃がビルの屋上の端に近い位置を斜めに斬り裂き、切断面が轟音を立てながら“ズレ”を起こして崩れていく。
「マジかよっ……!」
結界魔法の中なので現実の空間には一切影響が無いのだが、目の前でビルが切断される光景を目にしてヴィータは僅かに動揺する。
そこへ、飛行魔法によって真っ直ぐ急降下してくるシノンは太刀を構え、練り上げられた闘気が技と共に解き放たれんと輝く。
対して、それに受けて立つと言うように戻って来たシグナムが剣を両手で握り、柄本の部分に取り付けられたカートリッジシステムから1発の薬莢が排出される。
跳ね上がる魔力と共に噴き出すように放たれた炎がシグナムの剣を覆い尽くし、迎撃の構えを取る。
対するシノンも、構えた太刀の刀身に冷気を纏わせ真っ直ぐに突撃する。
「紫電……一閃!!」
「砕氷刃……晶華!!」
互いの刀身が激突し、衝突した場所から放たれた炎と冷気がせめぎ合う。
しかしそれもほんの数秒のこと、2人の間で水蒸気爆発を思わせるような爆発と衝撃が両者の距離を強制的に広げる。
威力的に2人の攻撃はほぼ互角。
だが、流石に至近距離での爆発に晒されたせいか無傷とはいかず、2人共バリアジャケットの右腕部分が少々破損している。
当然痛みもあるが、どちらもソレを意にも介さず武器を構え直す。
すぐさま武器を魔力と闘気の輝きが包み込み、両者は一切のフェイントを挟まず再び激突した。
* * * * * * * * * * * * *
「相変わらずというか、やっぱりスゴイわね」
激突する前衛3人の戦いを少し離れた位置で見ながら、リンディは感心するように呟いた。
ジュエルシード事件では色々と軋轢や問題などがあったが、あの強さを見ると今回は雇って良かったと素直に思えてくる。
「ついでに、良い機会なのかもしれないわね」
そう口にしながら視線を正面に戻すと、こちらを睨み付けながら警戒するシャマルとザフィーラの姿があった。
すると、リンディが視線を戻したのを引き金にザフィーラが拳を握り締めて真っ直ぐ突っ込んでくる。
それに対してリンディはその場を動かず、ただザフィーラに向けて左手を持ち上げる。
すると、ザフィーラの眼前に立ちはだかるように3枚の防御魔法陣が現れる。
「ウオァァァァ!!!」
気合の入った咆哮と共に手甲を装着した拳が振り抜かれる。
ザフィーラの最も得意とする役割は防御だが、放たれたその拳は並の魔導師の防御魔法を軽々と粉砕する破壊力を持っている。
だが……
「くっ……硬いな……」
リンディの防御魔法には亀裂の1つも入っていなかった。
それならばと後方に控えるシャマルは術者を直接狙ってバインドを放つが、その全てが拘束前にリンディの術式干渉によって妨害・無効化されて霧散する。
提督という地位に就いてからは前線を退いているが、結界魔導士としての技量は全くもって錆び付いていない。
恐らく、防御や拘束において彼女の絶対値はなのはやユーノをも上回っているだろう。
「突然だけど、貴方達は闇の書を完成させたら具体的に何が起こるのか、分かっているの?」
「……いきなり何も言い出すかと思えば……どうして貴方にそんなことを答えなければいけないんですか……」
「……私が、10年前の闇の書事件で夫を失ったから……それでは不足かしら」
戸惑うように拒絶の言葉を口にしたシャマルの顔が、リンディの言葉で驚愕に染まる。
隣に立つザフィーラもシャマル程ではないが動揺を隠し切れていなかった。
数秒の沈黙の後、どうにか驚愕を振り払ったシャマルは何か言葉を絞り出そうと口元を震わせる。
「わ、私達は……!」
どうにか言葉を口に出したその瞬間、それを遮るように結界に覆われていた空に変化が起こった。
『ッ……!』
その場にいた全員の視線がその方向を向くと、見えたのは結界の上部に出現した光を放つ1つの魔法陣。
その中から飛び出した桜色と金色の光が尾を引きながら真っ直ぐに地上を目指して降下してくる。
( 艦長! シノン君! お待たせしましたぁ! 頼もしい増援と共に、アースラスタッフ到着です! 結界内からの転送準備も出来てます!)
続いてリンディとシノンに届いた念話が、その光の正体をすぐに教えてくれた。
理解した2人は即座に飛行魔法を展開してその場から離脱し、エイミィから伝えられた場所まで移動する。
当然それを許さんと守護騎士達は追撃するが、その進路に上空から飛び出した桜色と金色の光の主がゆっくりと降り立った。
「選手交代……で良いのか?」
「うん、任せて」
「あとは私達が、戦うから」
シノンの問いかけに答えながら光の中から歩み出た2人の少女、なのはとフェイトは強い決意を宿した瞳で守護騎士達と相対する。
一度は力及ばずあっさりと敗れ去った相手だが、今の2人はかつてとは違う。
具体的に違うのは、2人の手に握られている改良を施した新たなデバイス。
名を、レイジングハート・エクセリオンとバルディッシュ・アサルト。
見た目が明らかに変わったわけではないが、レイジングハートには箱型マガジンのオートマチック式、バルディッシュには回転弾倉を内蔵したリボルバー式のカートリッジシステムが搭載されている。
これで、少なくとも出力や火力で押し負けるようなことはほぼ無くなった。
ならば後は、ソレを使うなのはとフェイト次第である。
前回の戦闘による因縁か、なのはの視線はヴィータと、フェイトの視線はシグナムと交わる。
エイミィに指定された座標に到着したリンディは転移魔法陣に包まれて姿を消し、入れ替わるようにクロノ、ユーノ、アルフがバリアジャケットを纏ってシノンの傍に立つ。
アースラの主戦力と守護騎士が揃い、睨み合う両者の緊張が結界内を満たしていく。
「さぁて、此処からは第2ラウンドだ」
確認するような呟きと共に、シノンを含めた全員が戦闘へと意識を切り替えた。
ご覧いただきありがとうございます。
今回は区切りが良いのでこの辺で切ります。
抑え込んで何もさせないリンディとは違い、シノンの方は時間稼ぎでビルの幾つかが両断・倒壊しました。相手Sランク騎士2人だからね、仕方ないね。
次回は多分なのはとフェイトの2人がメインになります。
では、また次回。