白銀の来訪者   作:月光花

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すんごいお久しぶりです。

今回は一度目の襲撃を乗り越えたその後の話です。

では、どうぞ。


第3話 刻まれた傷

  Side Out

 

 突然の襲撃を乗り越え、連絡を受けたシノンは話し合いと治療の為にと転移魔法によって時空管理局の本局に移動した。

 

出迎えとして待機していたクロノと軽い挨拶を交わし、医務室へ移動しながら現在の状況を簡単に説明してもらった。

 

オレが戦闘を開始したのとほぼ同じ時刻、自宅にいたなのはが突然結界の発動を感知し、その少し後にあのハンマー型のデバイスを持ったゴスロリ少女に襲撃されたらしい。

 

クロノ達もアースラで結界の発動を観測したそうだが、なのはの救援として向かったフェイトもあのゴスロリ少女と女騎士に敗北したそうだ。

 

幸い2人とも大きな外傷は無いらしいが、なのはの方は魔導師が魔力を生成する器官、リンカーコアが異常なまでに縮小して今は眠っているそうだ。

 

あのゴスロリ少女と女騎士が一緒になってオレの元へとやってきたのはその後で、ゲーデを含めた5人組の逃走後の足取りは未だ掴めていない。

 

治療に関しては、フェイトは左腕に包帯を巻き、オレは左肩にガーゼと包帯、それと腹部に湿布を一枚張っただけですぐに終わった。骨が折れていたわけでもないし、合流する前に治癒術で出来る限りの治療はしておいたからこんなものだろう。

 

「それにしても、半年ぶりの再会がこんな形になるとは災難だったな」

 

「いや、一応キミも襲撃されたんだが……まあ、確かに素直に再会を喜べる形じゃないか」

 

「あはは……でも、久しぶりだね、シノン。ビデオレターで声は聴いたけど、直接会って話すのは私も楽しみだったから」

 

「それはなのはに言ってやれ。お前が来るのを一番楽しみにしていたからな」

 

そんな話をしながら案内された部屋に入ると、そこではベッドから体を起こしたなのはが医師に軽い診察を受けていた。

 

入室したオレ達を見た医師はクロノに少しよろしいですか、と言って場所を移そうとした。その際、何故かクロノはオレにも声を掛けてきた。

 

「キミも来てくれ、現状について話しておきたいことがある」

 

「……分かった。なのは、安静にしていろよ」

 

特に断る理由も無いので、オレはなのはに一言声を掛けてからクロノに続く。

 

なのはがオレの言葉にうん、と笑顔で短く返事を返し、部屋の外に出た廊下で医師とクロノが話を始めた。

 

「まず彼女の容態についてですが、一連の被害者と症状が一致していますが若いだけあってもうリンカーコアの回復が始まっています。2、3日もすれば魔力も戻るでしょう。外傷は殆ど有りませんし、少し休めば普通に動けます」

 

「そうですか……他には?」

 

そのまま幾つかの報告を終え、医師は立ち去って行った。

 

クロノも踵を返し、壁に背中を預けて立っていたオレの近くへとやって来る。

 

「待たせたな。それで、現状についてなんだが、今回のように魔導師を狙った襲撃事件が既に数十件起こっている。襲撃された被害者全員には今回のなのはのようにリンカーコアが異様なまでに縮小するという診断結果が出ている」

 

「犯人は言うまでもなくあの連中なんだろうが……何をどうやったらリンカーコアが縮小するなんてことになるんだ? なのはは具体的に何をされた」

 

「簡単に言えば、魔力を強引に奪われたんだ。魔力を生み出す核、リンカーコアを一時的に摘出して内包する全魔力を吸い出す。だけど、リンカーコアも少し特殊だが内臓の一種みたいなものだ」

 

「外部から強引に干渉されれば少なからずダメージを受ける、か」

 

つまり、あの襲撃者共は魔力を保有している人間を手当たり次第に襲い、魔力を奪って姿を消すなんてことをしていると。

 

幸か不幸か、現状では死人は出ていないそうだが、やっていることは普通に犯罪行為だ。人を殺していないだけでやっていることは辻斬りと大差ない。

 

まあ、オレとしてはそんなことは現状ではどうでもいい、それほど重要なことじゃない。あの連中が何をやっていようが、次に戦う時は相応の報いを受けさせるだけだ。

 

オレにとって重要なのは、その襲撃者連中にゲーデが関わっていることだ。

 

何故アイツが“こっち”にいるのか、何故あの連中に協力しているのか、他にも訊きたいことは山ほどある。故に、ゲーデが管理局に捕まるのは少し都合が悪い。

 

「そもそもだ……何で連中は他人を襲ってまで魔力を集めてる。今回のようなケースはもちろん、魔導師を襲えば管理局に目を付けられるのは分かり切ってるだろ」

 

「そうだ……連中の目的、それについて話すのが本題なんだ。僕も艦長も、今回の件には是非キミの力を借りたいと思っているからね」

 

「その言い方から察するに、今回の事件もアースラが担当というわけか。まあ、元から詳しい話は訊くつもりだったし、逃げはしねぇさ」

 

そこまで話した所で後ろからドアが開く音が聞こえた。

 

振り返ると、私服に着替えたなのはとフェイトが一緒に部屋から出てきたようだった。必然と話の流れが切れ、オレとクロノは軽いアイコンタクトで話を打ち切った。

 

「なのは、もう動いて大丈夫か?」

 

「うん。ちょっとだけフラフラするけど、歩くだけなら大丈夫」

 

オレの問いに答えるなのはの顔には、確かに僅かな疲労感が見える。

 

だが、同時に笑顔の中にはソレを上回る活力が感じられた。恐らく、体の不調よりも久しぶりにフェイトに会えた嬉しさが大きいのだろう。

 

辛そうなら肩でも貸してやろうかと思ったが、今やっては逆に無粋だろう。そう考えたながら、無理はするなよ、とだけ言ってクロノを先頭にしてその場から移動した。

 

(なのはさん……普段から明るい人ですが、今は特に嬉しそうですね)

 

(友人との再会、か……オレにはあまり縁は無いが、良いモノだな)

 

互いに笑顔を浮かべながら楽しそうに話すなのはとフェイトを見ながら、オレはヴェルフグリントの念話に答えて2人を黙って見守った。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

  Side Out

 

 医務室から移動したシノン達はクロノを先頭に移動し、別の部屋へと着いた。

 

そこには既に先客の姿があり、入室してきたシノン達を見て駆け寄って来る。

 

「なのは! シノン! 久しぶりだねぇ!」

 

「なのは、シノン、久しぶり」

 

嬉しそうな声で駆け寄って来た人間、アルフとユーノはシノン達全員の無事を確認してひとまずは安堵の息を吐いた。

 

そして、なのは達が楽しそうに話す中、後ろにいたシノンは部屋の中心に配置されたポッドへと歩を進めた。

 

その中には、待機状態のレイジングハートとバルディッシュが浮遊しながら保管されていた。ただ、その外見には至る所に亀裂が走り、少々痛々しく見える。

 

「……フレームだけじゃない。コアをやられたか」

 

「ああ。けど、修理に必要なパーツはすぐに揃うから数日中には元通りに出来るよ。それにしても……少し見ただけで分かるのか」

 

「半年間何もしてなかったわけではないからな。せっかくお前と戦ってまで専門的な資料を手に入れたんだ。少しは理解も出来るさ」

 

この半年間、シノンは地球の知識だけでなくクロノとの模擬戦で勝ち得た魔法技術やデバイスなどの資料にも学を広げていた。

 

学べるということは幸せなこと、と今までの人生でよく理解しているシノンにとっては勉学について特に苦渋を感じるようなことはない。

 

そして、進んで学ぼうとする強い意志も合わされば、自然とシノンの知識は日を追うごとにその量を拡大させ、深くなっていった。

 

「デバイスといえばさ……なのはを襲ったあの連中、何か変じゃなかったかい? デバイスだけじゃなくて、使ってた魔法とかもさ」

 

「アレは恐らく、ベルカ式のものだろう」

 

「ベルカ式?」

 

思い付いたような疑問を口にしたアルフにクロノが返答を返し、続いて生じた疑問に今度は端末を操作していたユーノが答えた。

 

「その昔、ミッド式と魔法勢力を2分した魔法体系だよ。使い手にもよるけど、殆どは遠距離や広範囲の攻撃をある程度削って対人戦闘に特化したタイプ。中でも優れた人は、騎士って称号を持つそうだけど」

 

「確かに、あの剣士の人、自分のことをベルカの騎士って言ってた」

 

「だが、ベルカ式の最大の特徴はデバイスに搭載されているカートリッジシステムと呼ばれるユニットだ。儀式によって圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスに組み込み、爆発的に出力を向上させるものだ。ついでに言えば、シノンのデバイスもベルカ式だぞ。魔法陣の形が僕達とは違うだろう?」

 

「飛行魔法しか碌に使わない上にカートリッジシステムも無いがな。だが、そういうことならあの女騎士の魔力が跳ね上がったのも納得だ」

 

ベルカ式についての説明を訊き、シノンは心中に抱いていた疑問を解消する。

 

カートリッジシステムによる瞬間的な出力向上。確かに、そんなことが出来るのなら多少のデメリットを抱えても対人戦闘に特化する価値はある。

 

魔力弾や砲撃の撃ち合いだろうと、刃やデバイスの衝突だろうと、戦闘中は一瞬の判断が勝敗を決するというのが基本だ。

 

その最中でこのカートリッジシステムを使用すれば、一瞬にして魔力を練り上げて大技を放つことが出来る。

 

事前に対策を立てられるのならばまだ対処出来るかもしれないが、何も知らない場合はノーチャージで放たれた相手の攻撃を防ぐか避けるかしないといけない。

 

だが、カートリッジによって向上した魔力に対抗できるだけの障壁、または移動魔法を咄嗟に使用するのはまず不可能だろう。

 

実際、なのはとフェイトは敵の攻撃を防ぎ切れずキツイ一撃をくらっている。

 

「さて……フェイト、そろそろ面接の時間だ。なのは、キミもちょっと良いか?」

 

「え? う、うん……シノン君は?」

 

自分も呼ばれたことが意外に思い一瞬唖然とするが、なのははおずおずと付いていく。その途中で、1人呼ばれていないシノンに目を向ける。

 

その問いに、クロノは少し申し訳無さそうな顔を浮かべる。

 

「すまないが、アルフ達と一緒にいてくれ。後でエイミィが来ると思うから、今回の事件の資料を受け取って目を通しておいてくれ」

 

「オレは構わんが……部外者に事件の資料なんぞ見せて良いのか? 正式な契約を結んだわけでも無いのに」

 

「構わないよ。僕と艦長で話し合った結果だ……それじゃあ、また後で」

 

シノンの質問に即答を返し、クロノはなのはとフェイトを連れて部屋を出ていった。

 

残ったシノン達もすぐに部屋の外へと足を運び、適当な休憩所を見付けて寛ぐことにした。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「……にしても、フェイトが地球にやって来る直前でこんなことが起こるなんてね。なんというか、ついてないね」

 

「違いない。けどお前の主人の場合、なのはが襲われなくても自分から協力を申し出るかもしれんぞ」

 

「あはは、それはあり得るかもね。フェイトもなのはと同じで他人が困ってたら放っておけないって思う子だから」

 

自販機で買った飲み物を片手に、3人はぼちぼち会話を進める。

 

そこへ通路を歩いていた1人の女性が3人の姿を見て、片手を挙げながら歩み寄る。

 

「お疲れエイミィ、もう事後処理は終わったのかい?」

 

「やっほ~♪ 3人共、お疲れ。こっちはもう大体片付いたよ。レイジングハートとバルディッシュの修理に必要な部品は揃って発注したし、クロノ君からコレを頼まれたから」

 

そう言うと、エイミィは手に持った携帯端末をシノンに手渡す。

 

どうも、と短く礼を言って端末を受け取り、労いの意味を込めて自販機から新たに購入した飲み物を手渡す。

 

ソファーに腰を下ろして端末に記録された情報に目を通すと、まず最初に表示されたのは今回の事件に関係していると思われるロストロギアの情報。

 

「闇の書……」

 

記憶に深く刻み込むように呟き、ページを進めながら情報を読み取る。

 

まだそれほど情報の総量は多いわけではなかったので、全ての項目に目を通すのはほんの数分で終了した。

 

「コレに書かれてる事件発生の範囲から考えて、襲撃者が拠点にしてるのは……」

 

「うん。十中八九、地球だと思う。個人が扱える転移魔法じゃ移動出来る距離には限りがあるから」

 

目を通した端末をエイミィに返しながら、シノンは頭の中で纏める。

 

 

闇の書。

 

 

管理局の歴史上、遥か昔からその存在を確認されている第一級ロストロギア。

 

転生機能と呼ばれるシステムによって自身の主として素質のある人間をランダムで選出し、選び抜かれた者をマスターとして登録する。

 

守護騎士、ヴォルケンリッターと呼ばれる存在が完成に至るまでの666の(ページ)を外部から蒐集した魔力で埋め尽くし、集めたその力は大災厄と呼ぶに等しい破壊を撒き散らすとされている。

 

過去、何度か闇の書が完成を遂げた際には、例外無く大規模の被害とそれに伴う死傷者が発生しているそうだ。

 

だが、それほど絶大な力をもたらすというのに、過去闇の書の主に選ばれた人間は例外無く()()()()()()

 

その事実も合わさったこともあり、一部では“呪われた魔導書”などとも呼ばれている。

 

(なんだってそのランダムで選ばれる主が地球の人間なんだよ……)

 

何らかの悪意を疑いたくなるような現状に、シノンは内心で溜め息を吐く。

 

「けど、なのはの住んでる世界って本局からはかなり遠いですよね。中継ポートを使わないと転送出来ないけど、アースラは今整備中だし……」

 

「そうなんだよねぇ……けど、その辺は大丈夫。後で艦長が説明してくれるよ」

 

ユーノの質問に対し、エイミィは何処か楽しそうな笑顔を浮かべる。

 

その笑顔に3人は首を傾げるが、それよりも気になることが頭に浮かんだアルフがエイミィに別の質問を投げた。

 

「そう言えばさ、フェイトが面談に行った相手の人なんだけど……エイミィ、どんな人なのか知ってるかい? アタシは使い魔だから面談に立ち会えなくて、会ったことないんだよ」

 

「グレアム提督のこと? うん、知ってるよ。クロノ君の指導教官を担当した人で、管理局のレコードにも名前が残ってる歴戦の勇士ってやつだね。一番出世してた時で艦隊指揮官にまで昇進したはずだよ」

 

「それって……もしかしなくても滅茶苦茶偉い人、だよね?」

 

「だねぇ。けど、良い人だよ。とっても優しいし」

 

そこまで話して、エイミィの持つ別の端末が電子音を鳴らした。

 

エイミィは慣れた手つきで端末を操作し、空中にスクリーンを表示してその内容に目を通して小さく頷く。

 

「艦長が今後の行動についてブリーフィングがしたいってさ。他のアースラスタッフも全員集まるみたいだし、私達も行こう」

 

その言葉に異論を出す者はおらず、シノン達3人は無言で立ち上がり、手に持つ飲み物を一気に飲み干してエイミィの後へと続いた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「先程、上層部より正式な通達が入りました。これより私達アースラスタッフはロストロギア、闇の書及び、魔導師襲撃事件の調査を担当することになりました」

 

アースラスタッフ一同となのはやフェイトを始めとした外部協力者を含めた全員がブリーフィングルームに集合し、前に立つリンディが話を始める。

 

アースラスタッフはエイミィとクロノを除いた全員が後方で整列し、その前に並ぶ椅子になのは達が座っている。例外として、シノンだけは壁に背中を預けて話を聞いている。

 

「ですが現在、アースラが整備中の為、事件の発生予想地点に臨時作戦本部を設置することとします。

分割は、観測班のアレックスとランディ、ギャレットをリーダーとした捜査スタッフ一同、司令部には私とクロノ執務官、リンディ執務官補佐、フェイトさん。

以上の3組に分かれて調査を進めることとします」

 

呼ばれた順に部屋の中にいるアースラスタッフが返事を返し、担当する役割を決めていく。シノン、なのは、ユーノは現状で外部協力者となっているので特に指示は無い。

 

「ちなみに司令部は、なのはさんとシノン君の保護の意味も兼ねて……なのはさんのお家のすぐ近所になりま~す♪」

 

ニッコリと笑いながらそう言ったリンディの発言に、なのはとフェイトは一瞬唖然としてから顔を合わせる。

 

だが、すぐにその意味を理解したのか、なのはとフェイトの顔には、心から嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。

 

そしてその笑顔を見た周りの人間も、微笑ましいものを見るように顔を綻ばせていた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「うわぁ~! ……本当にウチの近くだ~!」

 

翌日、海鳴市のマンションの一室にて、なのはとフェイトはベランダから街並みを見下ろして感動の声を上げていた。

 

そんな2人を見て、リンディも口元に微笑が浮かんでいる。

 

マンションの一階、正面入り口では引っ越し業者がせっせと作業を進め、家具や荷物を運んでいる。

 

部屋の中ではエイミィが端末を操作して司令部として扱う設備の起動確認と点検を端から端まで順番に行っている。

 

そして、シノンは……

 

「エイミィさん、この棚は何処に置けば?」

 

「ん? ああ、それはクロノ君の部屋の壁際に置いておいて。にしてもシノン君……何で大人が数人掛かりで運ぶ棚を1人で運んでるの?」

 

「業者の人は業者の人で分担が決まってるんで手伝いを頼んで邪魔するわけにもいかないし、クロノに頼むってのも少し変でしょう。ユーノは、アレですし……」

 

そう言ってシノンとエイミィが目を向けた先には、なのはとフェイト、アルフとユーノの姿があった。

 

だが、アルフはオレンジの毛並みをした子犬の姿をしており、ユーノは初めて会った時に見たフェレットの姿をしている。

 

アルフは元々動物からフェイトの使い魔になったので大した抵抗も無いのだろうが、変身魔法でフェレットの姿をしているだけのユーノは乾いた笑みを浮かべている。

 

まあ、無理も無いだろう。

 

幾らフェレットの姿をしているとはいえ、淡い恋心を抱いている相手に愛玩動物として頬すりされれば誰だって複雑な気分になる。

 

なのはは何処か天然が入った性格なので断言は出来ないが、アレでは異性として見られているとはとても思えない。

 

「ユーノ君、かわいそうに……」

 

「なのはに悪気が微塵も無いってのも、この場合はただの追い打ちですね」

 

シノンとエイミィがユーノに憐れみの視線を向けていると、私服姿のクロノが自分用の荷物の入った段ボールを抱えてやってくる。

 

「なのは、フェイト、友達が来ているよ」

 

「「は~い!」」

 

クロノの言葉に元気な声を返し、なのはとフェイトは玄関へと向かった。

 

それを見送り、シノンは抱えたままの大きな棚の具体的な置き場所をクロノに訊いて引越しの手伝いへと戻った。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「「こんにちは~」」

 

引越し中の玄関で声を上げていたのは、2人の少女だった。

 

1人はウェーブの入った紫色の髪と青色の目をした、大人しそうな雰囲気を漂わせている。もう1人は長い金髪に緑色の目をしており、こちらは活発な雰囲気を纏っている。

 

紫髪の少女、月村すずかと金髪の少女、アリサ・バニングスの声を聞き、奥の部屋からなのはとフェイトが駆け寄って来る。

 

「ビデオメールで何度も会ったから初めましてっていうのもちょっと変かもしれないけど、改めて自己紹介するわ。アリサ・バニングスよ」

 

「月村すずかです。会えて嬉しいよ、フェイトちゃん」

 

「うん。私も嬉しいよ……アリサ、すずか」

 

全員が笑顔で出会えたことを喜んでいると、何かを思い出したようにアリサがなのはへ声を掛ける。

 

「そう言えばなのは、シノンはどうしたの? 今日も翠屋の手伝い?」

 

「ううん。シノン君なら、ほら……」

 

なのはが指を差した先には、大型の冷蔵庫を特に苦も無く1人でキッチンに運んでいるシノンの姿があった。

 

それだけでなく、冷蔵庫の次はテレビの大型の置台とテレビ本体をそれぞれ片手で運び、せっせと各ケーブルを繋げてテレビを使えるようにしている。

 

正直、大の大人が数人で運ぶような大型の家具を1人の子供が軽々と運んでいる光景は異様以外の何物でもないのだが、当の本人は涼しい顔で作業を続ける。

 

そんな中、玄関に集まるなのは達に気付いたのか、作業の手を止めて声を掛ける。

 

「よう、アリサにすずか、大体一週間ぶりか」

 

「そうね。にしてもアンタ、冷蔵庫とかクローゼットを段ボール箱みたいに1人で運ぶなんて、相変わらずデタラメな体してるわね」

 

「あら、おかげでこっちは大助かりよ。なのはさん、これから皆でなのはさんのお家の店に行こうと思うのだけど、構わないかしら?」

 

「あ、はい! お母さんとお父さんも喜ぶと思います!」

 

ふとした提案になのはは笑顔で頷き、リンディは支度をしてくると言って家の奥へと戻って行った。

 

その途中、リンディはテーブルクロスをそれぞれ片手に持っているのをクロノに突っ込まれていたシノンを見付けて声を掛けた。

 

「シノン君、後の作業は業者さんに任せて良いわ。それと、これから皆で翠屋にお茶しに行こうって話してきたんだけど、シノン君もどう?」

 

「あぁ、すいませんがオレはこの後用事があるので、皆さんで行って来てください」

 

「あら、そうなの? 分かったわ。今日はお手伝い有難う」

 

「いえ、前金まで貰った手前、それに見合う働きはしますよ」

 

そう言って両手に持ったテーブルクロスをリビングに置き、シノンはなのは達にも同じようにこれから用事が有ると断りを入れてマンションを後にした。

 

案の定、なのは達には渋い顔をされたが、今度埋め合わせして何か奢るという条件でシノンはどうにか解放された。

 

「さてと……それじゃあ、行くか」

 

マンションから数分程歩いたところで、シノンは呟きながら懐から手の平サイズの一枚の紙を取り出した。

 

そこには、海鳴市の一角を切り取った地図と短い文が書かれていた。

 

 

『明日の昼2時、公園に1人で来い。ゲーデ』

 

 

シノンはこのメッセージに随分前から気付いていた。

 

コレを渡された……というか、下手したら肋骨を粉砕しかねない程のパンチと共に押し付けられたのは、シノンがゲーデ達と交戦していた時だ。

 

そして、コレに気付いていながら、シノンはリンディ達に何も言わなかった。

 

何故ならシノンにとっても、2人だけで会うのは都合が良いのだから。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

今回は主に現状把握についてのお話でした。

正直、2期の話の流れをアニメにするか劇場版のようにするか迷いましたが、アニメを基準にすることにしました。

なのにオリ主、グレアム提督との接触フラグをへし折られる。JS事件での活躍は殆ど報告されてないからね、仕方ないね。

それと、なのはの親友2人、実は直接登場したのが今回で初めてという現実。中々登場というか……オリ主と絡ませる流れが浮かばなかった。

次回はオリ主の密会になります。

では、また次回。

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