白銀の来訪者   作:月光花

30 / 47
またしてもリアルが忙し過ぎる。

では、どうぞ。


第2話 開幕

  Side シノン

 

 目の前にいる男、ゲーデの姿を目にしたオレは動揺を隠せず、思考がグルグルと巡って上手く纏まらなかった。

 

何故コイツが此処にいる? どうやってこの世界に来た? グラニデはどうなった? どうしてオレに攻撃を仕掛けた?

 

「悪いが……」

 

手を伸ばしながら問いを投げようとオレの言葉を、ゲーデの声が遮る。特に感情が籠められていない、落ち着いた様子の声だ。

 

だが同時に、次の瞬間オレの目が夜闇の中で視界の一角を鋭く動く影を捉えた。

 

「っ……!」

 

反射的に大太刀を振るって防御するが、打ち合った瞬間に予想以上の衝撃が伝わり、刀身を通して体が押し出される。

 

(重い……っ!)

 

即座に大太刀の峰に左腕を押し付け、足に踏ん張りを効かせることでどうにか止まる。

 

打ち合った衝撃の元へ目を向けると、そこに見えたのは三日月を思わせるような反りの形状をした黒紫色の大きな刃が見えた。

 

そのまま視線を移動させていくと刃の根本部分から機械的な細長い棒状の柄が伸びており、ゲーデの“右手”がそれを握っている。

 

(鎌……しかもコイツは、デバイスか……!)

 

「……俺にも話し込んでいる余裕は無い」

 

言うと、ゲーデは鎌を引き戻して唐竹に振り下ろす。

 

軽く後ろに跳んで刃を避けるが、ゲーデは遠心力を殆ど殺さずにそのまま体を回転。

 

横から薙ぎ払うような斬撃に対して即座に大太刀を割り込ませるが、衝撃を受け止められずに左側へ吹き飛ばされる。

 

(腕の形が変わっても、馬鹿力は健在か……!)

 

ヴェルフグリントが空中に小さな魔法陣を展開し、そこに左手を着いた数回のバック転で態勢を整えながら後退して距離を置く。

 

しかし、既にゲーデは素早い踏み込みで距離を詰めて来ている。

 

「ふっ……!」

 

そこから鎌の斬撃が来るかと思いきや、ゲーデは振りかぶった鎌を真っ直ぐ投擲してきた。

 

大太刀を右薙ぎに振るって鎌を弾き返すが、ゲーデはそのまま接近しながら鎌をキャッチ。オレの胴元を狙ったフルスイングを放つ。

 

「ちっ……!」

 

摺り足で体の向きを鎌の刃に対して正面に向け、刃の根本部分を狙って大太刀を唐竹に振り下ろす。普通に止めれば、刃の反りで体を斬られる危険がある。

 

大太刀を鎌の刃に引っ掛けるように打ち付けたおかげで、オレとゲーデは互いに動きが止まり、再び睨み合うような状態になる。

 

「お前……本気かよ……!」

 

「言っただろう。余裕は無い、とな」

 

瞬間、拮抗していた鎌が脱力と同時に引き戻され、オレの態勢が僅かだが前のめりに崩れる。そこへ、引き戻された鎌と入れ替わるようにこめかみを狙った鋭い上段蹴りが迫る。

 

大太刀から放した右手で蹴りを受け止めるが、間髪入れずに今度は真下から真っ直ぐに振り上げられた鎌が迫る。

 

右手を押し出すと同時に背狼の魔力噴射で急速後退して鎌を避けるが、ゲーデはそのまま鎌を振り抜いて遠心力で空中を一回転。

 

「お前が相手なら尚更な……」

 

満月を描くような軌道で刃を振り回し、再び唐竹に振り下ろされる。同時に、刃の周囲に紫色の光が渦巻き、第二の刃が形成される。

 

それを見てすぐ、オレも大太刀の刀身に闘気を走らせ、真上へと振り上げる。

 

「太刀紅蓮!」

 

乱絶閃(らんぜつせん)…… 牙山(がざん)!」

 

炎を纏う大太刀と紫色の刃がぶつかり合い、火花が飛び散る。だが、打ち合った瞬間にゲーデの振るった闇色の刃が輝き、そこから伸びた闇色の鋭い爪が左右から挟み込むように迫る。

 

爆発で大太刀を弾かれて防御は無理だと判断し、即座に背狼の魔力噴射とアクセルフィンの加速で距離を取る。

 

魔法陣に足を着けて減速し、オレとゲーデは再び武器を構えながら睨み合う。

 

そして、数秒の沈黙を挟んで再びゲーデに踏み込もうとした瞬間……オレは背後から迫る気配を感じて横へと飛び退いた。

 

すると、オレの立っていた場所を高速で飛翔する何かが通過した。しかも、避けたと思ったその物体は赤色の光で放物線を描きながら旋回し、再びオレに迫る。

 

「誘導弾か……」

 

呟きながら大太刀をクルリと回転させ、鞘を納めるながら闘気を纏わせて風を集める。

 

「龍爪……旋空破!」

 

即座に抜刀すると、解き放たれた風の刃が無数に放たれ、誘導弾を切り刻む。

 

小さな爆発を起こして消えていくものをよく見てみると、ソレは指の間に挟んで持てる位の大きさをした鉄球だった。

 

すぐに周囲の気配を探りながら誘導弾の射手を探そうとするが、誘導弾を叩き落としたと思えば間髪入れずと言うように今度は頭上から別の気配が迫る。

 

「ちっ……!」

 

軽く舌打ちしながら目を向けると、さっき逃がした女騎士が手に持った剣を唐竹に振り下ろしてくる。大太刀を右薙ぎに振るって女騎士の持つ剣の腹を横から叩き、斬撃を大きく逸らす。

 

そこへ腹を狙った回し蹴りを打ち込んで女騎士の態勢を崩す。

 

斬り伏せようと大太刀を振り上げて踏み込むが、それを阻むようにオレの足元から緑色の光を放つワイヤーが飛び出し、オレの両腕と両足を拘束した。

 

なのはが相手を拘束する際に使うレストリクトロックに似ているが、拘束力は明らかにこちらの方が上だ。

 

「無駄ですよ……その拘束魔法には魔力の発露を妨害させる機能も備わっています。一度捕まれば、簡単には逃げることが出来ません」

 

引き千切れないかと腕を動かしていると、新たに声が聞こえてくる。

 

目を向けると、そこにいたのは赤、青、緑の色を強く宿した3人の騎士。

 

3人の内1人、ガントレットと脚甲を装備した青色の服の男は男だが、頭部と背後には動物のものと思われる耳と尻尾が生えている。

 

残る2人は女性、しかも赤色の派手なゴスロリ服を着て長いハンマー型のデバイスを肩に担ぐ少女はなのはやフェイトよりも幼い外見をしている。

 

最後の1人は全体的に緑色のドレスのような服を着た金髪の女性。両手の指に嵌められた指輪からは緑色の光を放つワイヤーが伸びており、その先はオレの足元だ。

 

『やはり……思い違いではなかった。あの子たちは……』

 

「ヴェルフグリント、どうした?」

 

「おい、ゲーデ! 何でお前が来てんだよ!」

 

思い詰めるような声で独り言を呟くヴェルフグリントに声を掛けるが、それを掻き消すような怒鳴り声がオレの意識を引き付けた。

 

見ると、ハンマーを持ったゴスロリ少女が大鎌を肩で担ぐゲーデに食って掛かっている。だが、ゲーデは特に表情を変えずに目を合わせる。

 

「この一帯に包囲網が敷かれつつある。来る途中で一角を崩してきたが、立て直される前に離脱した方が良い」

 

「アタシが言いたいのはそういうことじゃ……あぁ、もうっ!」

 

静かな声で返すゲーデに少女はさらに食いつこうとするが、現状をよく理解しているのか苛立ちながらも話を打ち切る。

 

そして、少女が次に目を向けたのは拘束されているオレだった。

 

少女が左手を掲げ、一瞬の発光の後に一冊の本が現れた。見た目は表紙に大きな剣十字の装飾が飾られた大きな本だ。

 

だが、その本を目にした瞬間、オレの背筋に凄まじい悪寒が走った。

 

アレはなんだ? 普通の本でないことは分かるが、発せられる禍々しさが尋常ではない。まるで呪術を纏わせて作られた呪いの魔導書のようだ。

 

本のページがゆっくりと開き、妖しい光を徐々に強めていく。

 

「下手な抵抗はすんなよ。そうすればさっきの魔導師の女と同じく、怪我の治療ぐらいはしてやるからよ」

 

その言葉に、本に意識を向けていたオレの意識が引き戻された。

 

今、コイツは魔導士の女と言ったか?

 

この近くでオレが知っている魔導師の女なんて、およそ1人しかいない。

 

つまり、女騎士が途中で向かった先で襲われていたのは……

 

「…………した」

 

「あ? なんだ?」

 

「――――――アイツに何をした」

 

視線が持ち上がり、目の前の少女を睨み付けながら口にした言葉は予想よりもハッキリと周囲に聞こえた。

 

同時に、オレの言葉と共に叩き付けた殺気が目の前に立つ5人を確かに怯ませる。

 

「ッ! ……ヴィータ、下がれ!」

 

いち早く我に返ったゲーデが声を上げるが、遅い。一瞬でも大きな隙を作れれば、この程度の拘束など簡単に外せる。

 

右手に握る大太刀を手首のスナップで眼前に放り投げる。そしてすぐさま上半身、特に右肩の辺りに負荷を掛けるようにして体を強く捻る。

 

「ふっ……!」

 

ゴキッ! という音がハッキリと耳に聞こえると共に右肩に重く鋭い痛みが走り、力の抜けた右腕がダラリと垂れ下がる。

 

右肩の関節を外したことでワイヤーの拘束力が上半身だけ大きく緩み、ワイヤーを振り解いた左手で放り投げた大太刀を掴む。

 

「光龍槍!!」

 

左手だけで突き出した大太刀の矛先から強い輝きと共に光線が目の前の少女に向かって放たれ、小さな肉体が後方へと吹き飛んだ。

 

しかし、直撃の寸前に紅色の障壁が見えたので、恐らく直撃はしていないだろうが今はコレで充分だ。

 

仲間が吹っ飛ばされたことで残り4人の視線は自然とそちらに引き寄せられる。その隙に、オレは引き戻した大太刀を振り上げ、足元を左薙ぎに一閃。両足を縛るワイヤーを斬り裂く。

 

「ヴィータちゃん!」

 

「ヴィータ! ……貴様ッ!」

 

先に我に返った女騎士が怒りを宿した目で剣を振り上げ、金髪の女が指先から伸ばすワイヤーで再びオレを拘束しようとする。

 

「守護……氷槍陣!」

 

左手に握る大太刀をクルリと回して逆手に持ち替え、足元の魔法陣に突き刺す。すると、オレを中心にして鋭く大きい氷の槍が飛び出し、金髪女のワイヤーと女騎士の攻撃を吹き飛ばす。

 

その隙にオレは足に力を溜めて後ろへ大きく飛び退き、距離を開ける。

 

だが……

 

「やはり、お前は一筋縄ではいかないな」

 

……虚をついて動いたオレの行動を、即座に先読みした奴が1人いた。

 

背後から聞こえた声に振り向くと、そこには大鎌を振り上げたゲーデの姿が見えた。

 

「くっ……!」

 

背狼の魔力噴射を右肩と左肩の2ヵ所から同時に行い、体の向きを無理矢理後ろへ向ける。

 

強引な加速と方向転換に内臓が揺らされて吐き気がこみ上げるが、意識の外に追いやって大太刀を振るう。

 

だが、片手で……しかもマトモな姿勢さえ取れていない状態で放った斬撃はゲーデの大鎌に大きく弾かれ、握り締められた右拳に闘気の輝きが灯る。

 

どうにか避ける、または防ごうと思考を走らせる。だが、背狼の強引な加速で態勢は崩れ、右腕は関節を外しているので動かせない。

 

「沈め」

 

そして、抵抗の手段を封殺されたオレの腹部に振り下ろされたゲーデの拳が直撃し、一瞬遅れて響いた衝撃がオレの体を真下に吹き飛ばした。

 

地上に向かって落下しながら薄れていく視界の中で、ゲーデは勝ち誇るわけでもなく、蔑むわけでもなく、ただ静かにオレを見下ろしていた。

 

手を伸ばすことすら出来ずに地に堕ちたオレは、ただ無様に見上げることしか出来なかった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side Out

 

 地上へ落下し、落下したシノンは先程と同じように家の屋根をぶち破り、大きな土煙と衝撃音を広げた。そのシノンの姿をゲーデは空から静かに見下ろしていた。

 

「流石だなゲーデ、後は私とお前で……」

 

その後ろから声を掛けてきた女騎士、シグナムが剣を片手に叩き落とされたシノンを追撃しようと前に進み出る。

 

だが、左手の軽いスナップと共に振るわれたゲーデの大鎌が眼前に置かれ、壁のように立ちはだかってシグナムの歩みを止める。

 

「何のつもりだ……」

 

「撤退する。これ以上時間を掛ければ崩れた包囲網が復活する」

 

「だが、まだアイツの魔力を……」

 

ゲーデの言葉に反論を返すシグナムの目は、勿体ない、とでも言うようにシノンが落下した場所を見ている。

 

だが、ゲーデは静かに首を横に振ってその意思を否定する。

 

「お前も分かっているはずだ。あの男はそう簡単には倒せない。さっきの5体1であそこまでやったんだ、殺す気でやらねばむしろこっちが危険だ」

 

その言葉に、シグナムは何も言わずに無言の肯定を返すしかなかった。

 

たしかにこのまま5体1で攻めればシノンを倒すことは可能だろう。しかし、シグナムもそれが簡単に出来るとは思えなかった。

 

時間を掛け過ぎるわけにもいかない。ましてや、相手を殺すことなどあってはならない。

 

それでは、自分達が守ろうとしているものが根本から崩れ去ってしまう。

 

「……分かった」

 

俯きながら頷いたシグナムは踵を返し、他の3人を引き連れて包囲網の穴へと飛んでいく。その際にヴィータがごねていたようだが、同じ理由を話せば納得するだろう。

 

ゲーデも大鎌を一振りすると共に収納し、その後に続こうとする。だが、その寸前、ゲーデはシノンの落ちた場所を一瞥し、呟いた。

 

「チャンス、かもしれんな……」

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「……行ったか」

 

墜落した家の中で、仰向けに倒れていたシノンは呟きながらゆっくりと体を起こす。

 

ぶち破ってきた天井から外に出て周囲を見渡すと、やはりゲーデ達の姿は何処にも見当たらなかった。

 

一先ず危険は去ったらしく、シノンは溜め息を吐いて全身の力を抜いた。

 

そして、左手に握ったヴェルフグリントを地面に突き刺し、右腕を握って軽い呼吸と共に力を溜めて……

 

「ふっ……!」

 

……先程と似たような音を立てて関節をはめ直した。

 

当然激痛が襲い掛かるが数回の深呼吸で痛みは落ち着き、右腕を軽く動かしてみても問題は無さそうだった。

 

そんな時、空を……いや周囲の空間を覆い尽くしていた結界が少しずつ揺らいでいる光景がシノンの目に映った。

 

『マスター、結界が解けます』

 

「連中は上手いこと逃げたってことか。とりあえず、移動するか」

 

街中を大太刀片手に歩くわけにもいかず、セットアップを解除して人気の少ない場所を目指して移動する。幸いこの辺の地理は頭に入っているので、問題は無い。

 

やがて、シノンは辿り着いた公園のベンチに座って体を休め、右腕の調子を見ているとヴェルフグリントが静かに声を発した。

 

『マスター、通信が入っています』

 

「……繋いでくれ」

 

周囲に人の気配が無いことを確認してから通信を開くと、通信の相手はまずシノンの顔を見るなり安堵の息を吐いた。

 

どうやら、何があったのか詳しく説明する必要は無さそうだ。

 

『お久しぶりですね。一先ず、無事なようで安心しました』

 

「まったくの無傷ってわけではありませんがね。とりあえず、お久しぶりです。半年ぶりですね、リンディさん」

 

この2人の半年の時を置いての再会は、どういうわけか穏やかとは程遠い空気の中で起こるものとなった。

 

この時、今更かもしれないがシノンは心の中で、大きな厄介ごとが起こるような予感が強く渦巻いていた。

 

 

この襲撃を引き金に、第一級ロストロギア闇の書によって後に”闇の書事件”と呼ばれる騒動が幕を開けた。

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

考えた結果、ゲーデの武器は大鎌にしました。他のフォームとかについてはまだ纏まっていませんが。

今回はVSゲーデ&ヴォルケンズでしたが、結果的にはシノンをボコッて終わりって感じでした。

あんまり魔法を使って無いんで忘れそうになるかもしれませんが、シノンの魔力ランクはSSランクもあるので守護騎士からしたらシノンは、はぐれメタル並に狙う価値があります。

しかも、バレてないけど右手にはちょっとした核融合炉まである始末ww

次は多分説明会になると思います。

では、また次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。