白銀の来訪者   作:月光花

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今回はコラボの回です。

お相手は雨期様の作品『チートじゃ済まない』です。

では、どうぞ。


外伝その1 ある日の来訪者

  Side シノン

 

 高町家に世話になることとなって数日、高町家の皆は素性が碌に知れないオレを本当に手厚く迎え入れてくれた。

 

オレがこの世界での戸籍を持っていないことを知っても、大して理由を訊かずに「知り合いに頼りになる奴がいるから、すぐに用意させよう」とだけ言って戸籍を用意してくれた。

 

なんというか、感謝しているが家族揃って良い人過ぎて心配になってくる。

 

そんな日常を経験して数日後の現在、オレは森の奥深くに広がる草原で一人座禅を組んでいた。膝元には鞘に納められたままの大太刀、ヴェルフグリントが静かに置かれている。

 

今しているのは、精神統一による己の状態確認。

 

肉体が子供に戻ってしまったことで、オレの力は全体的にひどく弱体化している。それは筋力などといった膂力だけでなく、術技の出力も含まれる。

 

やろうとは思わないが、今のオレが全盛期と同等の出力で術技をぶっ放せば肉体が技の反動を受け切れず、最悪体がぶっ壊れて終わりだろう。

 

例えばだが、術技を放つ際のオレの体を蛇口としてみよう。

 

この場合、長年の修練によって鍛え上げられたオレの精神力(闘気と言い換えても良い)はタンクになるのだが、いくらデタラメな貯蔵があっても使うのは術者だ。

 

どれだけの水(闘気)があっても、外に出せる量は蛇口の大きさ次第。

 

感覚頼りで現状のオレが出せる最大出力を10とするなら、全盛期の最大出力はそれこそ50~100に匹敵するだろう。

 

都合約5倍~10倍の差だ。これだけ大量の水を10の出力までしか出せない蛇口で出そうとすればどうなるか。

 

結果は火を見るよりも明らかだろう。蛇口そのものが弾け飛んでしまう。

 

だからこそ、現状でこの問題を解決出来る手段や方法はないものかとこうして考えている。昔から、こうした考え事は人の気配が無い静かな森の中で解決法を探している。

 

いや、正確に言えば解決法は分かっている。体を鍛え続ければいいのだ。

 

鍛錬を重ねることで肉体をより強靭に鍛え上げ、全盛期のソレと同等に引き上げればいい。だが、それは現実的な解決法ではない。

 

鍛えると言っても体格の成長などは一朝一夕でどうにかなる問題ではないのだ。

 

オレもそれを理解している。何も、すぐに全盛期の力を発揮出来ないかなどとは考えていない。

 

最低限の要求を言うなら、右腕のブーストを加えてあと2、3倍の術技の出力が欲しいところである。

 

しかしながら、それを可能とする良い方法は浮かんでこない。まあ、そう簡単には解決しない問題なのだから不思議なことではないのだが。

 

「どうしたもんかな……」

 

ゆっくりと目を開き、自然と言葉を呟いた。

 

小さな溜め息と共に持ち上がった視線が頭上に広がる青空をぼんやりと映す。

 

そんな時、森の中に一際強い風が吹いた。

 

草木を大きく揺らし、シノンの銀髪を浮き上がらせたその風はほんの一瞬で収まった。しかし、風が収まった途端、森の中は先程までとは別次元とも言える違和感に覆われていた。

 

『マスター……』

 

「ああ……何か、とんでもないのがいるな」

 

視線と姿勢、気持ちをそのままにしてシノンはヴェルフグリントの言葉に同意する。

 

突如現れた気配を察知したシノンはソレが自分の元に近付いていることに気付いている。シノンは座禅を解いて大太刀を左手にゆっくりと立ち上がるが、その場を動かない。

 

謎の気配は徐々にシノンへと近付いていく。

 

視認が可能な距離、約50メートルを過ぎた所でシノンの空間認識能力は近付いてくるソレとの距離を心の中で正確に捉える。

 

「っ……!」

 

小さな足音を聞くと同時にオレの体は動き出した。

 

ボォン! という2つの噴射音が鳴り、最初の不可視の加速がオレの体を真後ろへ急速旋回させる。

 

続く2回目の噴射音がオレの体を前に押し出し、一瞬で背後へと移動する。

 

そして、腰を沈めたオレは左手に持つ大太刀を左腰に添え、右手が柄を握り締める。

 

(……斬る)

 

心の中から雑念を全て捨て去り、抜き放った刃がオレの殺意を代表するように空間を疾る。斬る相手の姿が見えずとも、その斬線は確実に首筋を捉えた。

 

敵か味方か、それ以前に何者であるか。

 

人の行動として当然といえる確認すら行わなかったオレは、今更ながら自分の行動をかなり奇怪なものと感じ、同時にまったく不思議に思わなかった。

 

何故なら、察知した気配がオレの本能と呼べる部分にそうしろと叫んでいるのだ。今のこの時も『殺せ』という叫びがオレの体を引っ張っている。

 

現れた気配を色んな意味で咀嚼して一言にすると、『やばい』という言葉に落ち着くのだが、そんな“やばい奴”を相手にオレの無意識部分が『逃げろ』ではなく『殺せ』と叫んでいるのは、恐らくは単純に前者が不可能だからだ。

 

気配を察知した瞬間に直感で理解した。

 

 

“あぁ、これ無理。逃げ切れん。そして勝てん”

 

 

こんな感じである。

 

グラニデで何度も死ぬような経験をしたせいか、今となってはこういう時は逆に思考が異様なほど落ち着いてしまう。

 

言葉に表すなら、逆立ちしても勝てやしない、死神の鎌が首筋に添えられている。そんな感じの状況だろうか。

 

正直、今放っている渾身の抜刀術も背後のヤツを殺せるのかと問われれば、冷静な思考部分はやはり『無理』と断言してしまう。

 

そして、ヤケクソに近い形になってしまうオレの斬撃は……

 

 

 

 

「ほぉ、迷いが無く速いな。だが、軽い」

 

 

 

 

……不敵な笑みと共に、()()()()()()()()()()()

 

「マジかよ……」

 

予想外であり、予想通りでもある結果に呟きが零れ、全身から力が抜け落ちる。

 

「武装拳って言ってな、前にも一度だけ見せたろ。使う奴の練度次第で全身が強力な刃となり鎧となるってわけだ」

 

そんなオレの様子を笑うわけでも、怒るわけでもなく、目の前のソイツは何処か誇らしげにそう言って、オレの肩を何度か叩いた。

 

すると、大太刀を握る右腕の肩がゴキッ! と重い音を鳴らし、力が抜け落ちた右手がだらりと垂れ下がり、大太刀の刀身が地面に軽くめり込む。

 

「んで、こいつが抜骨な。ちょいと触れ方に工夫を加えるだけで相手の関節を外しちまえるわけだ」

 

それに反応して視線が持ち上がり、オレは逆光に目を細めながらその存在の顔を見た。

 

成人男性の平均身長と比較しても高いと言える身長、ついさっきオレの斬撃を受け止めた右手と共に鍛え抜かれて引き締まった肉体。

 

だがそれよりも、オレはソイツの青白い髪と赤い瞳、口元に浮かぶ好戦的な笑みに見覚えがあった。というか、前に何度か会っている。

 

「一条……要か?」

 

「おう、元気そうだな、シノン。暇だったんでちょっと遊びに来た」

 

ニヤリと笑みを深めたその男、一条要はそう言ってもう一度オレの肩を叩いた。

 

この男には以前、何度か正体不明の次元転移に巻き込まれて並行世界に跳ばされた時に世話になったのだが、もしかして今回はこいつが次元転移に巻き込まれたのだろうか。

 

いや、だが聞き違いでなければ、コイツは今確かに“遊びに来た”と言った。

 

「……ちなみにだが、どうやって来た?」

 

「力尽くで次元に穴あけて神様に連れて来てもらった」

 

「……そうか」

 

色々と突っ込みたい部分が盛沢山の解答だったが、会う度に人外の法則へと進んでいくコイツとオレでは常識の部分で致命的な食い違いがあるのだろう。

 

なので、気にしたら負けだと内心で自分を納得させ、こめかみを指で数回揉んだ後に右腕を左手で掴み、一瞬の溜めを置いて関節をはめ直す。

 

打撲ではなく脱臼なので、コレは治癒術では治すことが出来ない。

 

右肩から関節を外した時と似たような音が鳴り、鈍痛を堪えながら右手を握って開いてを数回繰り返す。肘から先の感覚が無いので少し不安だが、大丈夫そうだ。

 

そのまま地面に刺さった大太刀を引き抜き、ゆっくりと鞘に納めた。

 

「……それで? 遊びに来たのは分かったが、どうして殺気を撒き散らしながら近付いて来たんだ? おかげでこっちは生きた心地がしなかったんだが」

 

「だってお前、あんまり自分から戦おうとしねぇじゃん。だから殺気叩き付けて揺さぶってみたんだけど、ビンゴだったな」

 

腰に手を当てながら笑う要に溜め息を吐く。

 

確かに、オレは自分から関わろうと決めたこと以外……強いて言うなら興味本位や面白半分で売られたような喧嘩にはノリが悪い方だ。

 

今までの人生経験が色々とアレなので、関わる必要の無い、めんどくさい荒事は避けるし、基本どうでもいいので極力無視している。

 

今さら殺し合いを否定するつもりなど微塵も無いが、自他共に血まみれになるような状況は御免こうむる。所々狂っている自覚はあるが、そういう方向性は皆無だ。

 

「望んだ結果が得られたようで何よりだが、用はそれだけか?」

 

「おいおい、ちょっとからかっただけで終わりとか空し過ぎるだろ。さっきまでなんか考え事してたみたいだし、良かったら話してくれよ」

 

げんなりしながら問うオレとは対照的に、要は面白そうなものを見つけたように上機嫌な声で詰め寄って来た。

 

というか、人が考え事をしていると分かっているのに殺気を叩き付けてくるとは、ずいぶんと良い性格してもんだコイツは。

 

(まあ、いいか……実際、オレ一人ではお手上げだしな……)

 

そう考えたオレは軽く息を吐き、現在の悩みを要に打ち明けた。

 

 

「あ、そういえば昼飯作ってきたけど、要も食うか?」

 

「え、マジで? もらうわ」

 

パニール&リリス直伝、ラタトゥイユとデザートのクレープシュゼットは大好評だった。

 

食材豊富の翠屋に感謝である。

 

 

 

 

   *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *   

 

 

 

 

  Side Out

 

 「……なるほどね、今の肉体の状態が全盛期と比べて相当に弱くて、思い通りの全力を出せないと。鍛えりゃいつか辿り着けるかもしんないけど、それは現実的じゃない」

 

「ああ。だから最低でも現状の2、3倍は技の威力を上げたいんだが、良い方法がまったく浮かんでこない。まあ、そんなもんが有ればとっくに誰かが形にしてそうだし、当然と言えば当然なんだが」

 

草原に座り込み、シノンと要は静かに話し込んでいた。

 

シノンの悩みを聞いた要は腕を組みながら首を捻り、閉じた瞼の中で考える。

 

「そういえば、要は今のオレみたいな悩みは無かったのか?」

 

「無いな。俺、ガキの頃から肉体の限界なんて殆ど無いようなもんだったし、戦う時も生身で敵を殴ってたからな」

 

見てろ、と言って要は立ち上がり、何も無い方向に向かって左拳を鋭く突き出した。

 

瞬間、風が砕け散った。

 

見えない大気を殴ったような轟音が吹き荒れ、虚空へと一直線に風が貫く。

 

渦巻いた風によって視界に入る森全体の木々が揺さぶられ、小さな草や花びらが一斉に空へと舞い上がる。

 

はたして、誰が信じるだろう。

 

タダの左ストレートによって生じた打撃の衝撃波が大気を貫き、水平に突き進む形で小規模のサイクロンを形成したなどと。

 

たしかに、この調子ならシノンの抱えている悩みを暇潰しに訊くくらいの余裕はありそうだ。

 

それから数分ほど無言の時間が流れるが、ゆっくりと瞼を開いた要が組んでいた腕を解き、一度頷いて言葉を発した。

 

「……考えてみたけど、俺の知ってる限りでお前の望む力は手に入りそうにねぇ。だからさ、色々と試してみねぇか?」

 

「試す? 何をだ……?」

 

「俺が思いついた、または知ってる実戦に使えそうな技をだよ。俺はレアスキルのこともあって魔法で出来ることがあんまりないけどよ、お前は地水火風から基本何でも有りだろ? 応用でその技をやってみるんだよ」

 

要の言う通り、シノンはグラニデにおいてあらゆる精霊と契約を完了しているので地水火風はもちろん、光と闇の属性の術も使える。

 

それに、使える技を応用して自己流に改造するのは長所の1つだ。

 

多種の属性の術技を上手く組み合わせれば、まあ大抵の自然・物理現象は生み出すことが出来る。

 

それで要の言う技を再現してみる、ということだろう。

 

「……まあ、このまま考えるよりはいいか」

 

「そう来なくちゃな。んじゃ、どんどん試していこうぜ」

 

立ち上がると共に周囲を結界が包み込み、周りの空間が外界から隔絶される。

 

それを確認した2人は、頭を切り替えて鍛錬へと意識を注いだ。

 

 

 

 

   *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *   

 

 

 

 

 始めた鍛錬の流れを簡単に纏めてみよう。

 

まず、要が思いついた・知っている技の内容を規模や威力、見た目に至るまで詳細に説明し、シノンがまず頭の中でそれを再現出来るかシュミレートして実行する。

 

「そういえば、威力や規模はどうやって確かめる」

 

「ん? ああ、俺に撃ってみればいいだろ。心配すんな、例え腹に風穴空けられてもすぐに治るから俺」

 

「……そうかい」

 

そんな会話があったが、鍛錬は始まった。

 

やることは簡単に思えるが、実際にやってみれば実はかなりの苦行である。

 

自分が元から知っている力に変化を加えるというのは、それだけで負担を強いるものだ。未知への挑戦と言えば聞こえは良いが、頼りとなるのは術者の技量のみ。

 

 

・『集めやすいエネルギーを掌上で乱回転させて球形状に圧縮し、相手にぶつける技』

 

集めやすいという点から周囲の風を掌上に乱回転させながら圧縮してみたのだが、たった10センチの球体を作った時点で小規模のプラズマが出来上がってしまった。

 

「これは却下だ。威力はあるが不安定過ぎるし、下手をするとオレが消し飛ぶ」

 

「だな。いや~、ビックリしたわ。まさか大気まで圧縮しちまうとは」

 

 

・『視線に映す対象を遠距離から凄まじい温度の炎で燃やす技。閉じた片眼、または両眼を見開く瞬間に発動すると尚良し』

 

戦闘で両目を閉じるのは危険すぎるので、閉じた片眼を見開くのをトリガーにして標的のいる周囲の空間を包み込むように炎系の上級詠唱術、レイジングサンを発動させてみた。

 

「こりゃくらったら殆どの奴は消し炭になるな。俺も酸欠できつかった」

 

「酸欠がきついだけで外傷が一切無いお前も相当ぶっ飛んでると思うぞ」

 

「それこそ今さらだろ。てかさ、この炎の色って黒に変えらんね?」

 

「時間を重ねれば出来るかもしれんが、ソレ意味あんのか?」

 

 

・『発射したら徐々に大きくなる極大のレーザーと星型の弾幕爆撃をばら撒く技』

 

周囲の光を集めて太さ1メートルに届くレーザー砲撃を生み出し、炎の火球を星型に変形させて弾幕を作ったのだが、精神力の消耗が半端無く一度使っただけでシノンが昏倒した。

 

それと、元々の問題である出力不足のせいで要の望む威力が発揮出来なかった。それでも、放たれたレーザーと弾幕は周辺の森を数十メートル四方で更地にしてしまうほどの威力があった。

 

「……衰弱死するところだった。そういえば、何で弾幕の形が星なんだ? つか、こんなの使いこなせるならオレ接近戦する必要無ぇじゃん」

 

「いや、その辺はタダのこだわりなんだけどさ……やっぱ無理か、マスタースパーク」

 

 

・『口から咆哮と共に凄まじい振動波を放ち、分子結合を破壊する技』

 

風と地の属性を応用して口から放つ声の空気の振動を増幅し、指向性を与えてみた。

 

結果的に言えば、成功はした。直撃を受けた要の肉体は軽くないダメージを受け、直線状にあった森の木々は空間を抉られたように消滅していた。

 

しかし、反動と余波が予想以上に強力だったせいでシノンの体も振動波を受けてしまい、喉が潰れる数歩手前までズタズタになった。

 

比喩などではなく、言葉の通りに血反吐を撒き散らしことになった。

 

「あ゙あ゙~……く゛そが、まだなお゛んね゙」

 

「おい、やめろ。頼むからその声で喋んなって。下手なホラー映画より怖いから」

 

自分の喉に治癒術を施しながら酷く歪な声で喋るシノン。要は傍に座ってそれを見ているが、シノンの声に少し引き気味である。

 

そういうわけで、2人は会話の方法を念話に切り替える。

 

(というか、何で振動波を浴びたのにお前の右手は無傷なんだ?)

 

(これは義手だからな。痛んだら困るし、武装拳で防いだ)

 

 

・『縦、横、斜めの3つの斬撃を“同時”に放つことで逃げ場の無い斬撃を放つ技』

 

「いや、無理だろ。3つ同時とか、それもう人の技じゃねぇから」

 

「まあ、別の意味での“魔法”だしな。やっぱ難しいか?」

 

「“ほぼ同時”の速度で2撃が限界だ。でも、それじゃあ防げるし避けられるよな」

 

「俺に斬り掛かってきた時に高速移動と合わせて使ってみたらどうだ?」

 

「……後でやってみよう。とりあえずは保留だ」

 

 

 

 

   *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *   

 

 

 

 

 そんな形でしばらくの時間が経過した時、要が口を開いた。

 

「あらかたやってみたけど、人間相手に使うのを躊躇う凶悪な技が増えるだけで最初の問題を解決出来る方法は浮かんでこないな」

 

「その人間相手に使うのを躊躇う技の発案者は全てお前だけどな。たしかに、これじゃあオレが大量殺戮兵器への道を進むだけで問題の解決にはならんな」

 

あれから他にも、現在のシノンに実現可能な技は幾つかあった。

 

風と土の属性の術を利用して大太刀を高周波ブレードにしたり。

 

タイダルウェーブなどの広範囲の水属性魔法と同時に風属性の力を加えて局所的な絶対零度の空間を作り出したり。

 

地面を砕いて生み出した大量の砂で広範囲を飲み込み、そのまま砂を圧縮して敵を押し潰したり。

 

大太刀の刀身に集めた光を集束・加速させて斬撃と一緒に光の断層をぶっ放したり。

 

なんというか、危うく何処に向かっていたのか分からなくなりそうなくらい酷かった。

 

しかも、途中から2人とも乗り気になるのだから余計に性質が悪い。

 

ちなみに、全部の技を的役としてくらった要は全ての技を何も無かったように耐えるか、ワンパンチで無効化している。バランスブレイカー此処に極まれりである。

 

「でもよ、難しい問題だよな。どんだけ術技を工夫しても、結局は一度に出せる出力の限界が壁になっちまうし……」

 

「やっぱり地道に鍛えていくしかないか。そう簡単に今より強くなれれば、誰も苦労はしないし…………あ、そうだ。良いこと閃いた」

 

「何だ? なんか思い付いたのか?」

 

「今やってみる。ちょっとそこに立っててくれ」

 

突然ポンと両手を合わせたシノンの指示に首を傾げるが、要は黙ってその場に立つ。

 

シノンは大太刀を抜き放ち、両手で柄を握って肩の力を抜く。軽く息を吐いてから大太刀に闘気の光が宿り、徐々に強さを増していく。

 

そこで、要は軽い驚愕と共に目を細めた。

 

今までに何度か見たシノンの術技は肉体から生み出される闘気を武器へと込めて、それに様々な『形』を与えて技と成すものだった。

 

だが、シノンの握る大太刀から排出された闘気は技の『形』を作らず、そのまま刀身に留まり続けていた。闘気はそのまま量を増やし、大太刀の刀身を包み込む。

 

「……行くぞ」

 

ただ一言そう言ったシノンの顔には、僅かながら汗が流れている。

 

恐らく、要には見えない部分に気を回して余裕が無いのだろう。

 

無言で頷きながら身構えた要の姿を確認し、シノンは大太刀を唐竹に振り下ろした。

 

それに対して防御の為の武装拳を纏った要の左腕が割り込み、斬撃を受け止める。だが、その瞬間に大太刀の刀身から放たれた闘気が炸裂し、斬撃の威力を爆発的に押し上げた。

 

「うおっ……!」

 

予想を上回る威力に要が少し驚愕するが、地面にめり込む足に力を入れ直してその場に踏み止まった。

 

やがて闘気が霧散し、大太刀を振り下ろしたシノンは息を吐く。

 

「よし……」

 

「今の何だ? 威力がかなり跳ね上がってたぞ」

 

「いや、さっき要が言ってた“一度に出せる出力の限界”っていうのが引っかかってな。一度に全部の力を出すのが無理なら、“幾つかに分割して溜めてから撃てば良い”と思った」

 

その言葉に、要はなんとなくだが今シノンがやったことを理解した。

 

つまり、シノンは技を使う際に排出した闘気をすぐには技として爆発させず、溜めるように刀身に留めておいたのだ。

 

ただ単に闘気を溜めるのとは違う、それでは結局出力の限界にぶち当たって威力は変わらない。“溜める”のではなく“重ねる”のがこの技だ。

 

それと同じ手順を数回繰り返し、留めた闘気を一度に纏めて爆発させた結果がご覧の通りだ。一度に放出する出力の限界は変わっていないが、結果的には数倍の破壊力を引き出せた。

 

「なるほど、ショットガンの弾を拡散させず一列に並べて一点に集中させたようなもんか」

 

「まあ、間違っちゃいないな。今のでやり方のコツは大体掴んだ。流石に全部は無理だろうが、初級の技くらいならすぐに扱えそうだ」

 

大太刀を鞘に納めながらシノンは手応えを確かめ、自分の今の状態と照らし合わせる。

 

そして、それを聞いた要は……

 

 

「ふぅん、それじゃあ……少しは俺と正面からやり合えるようになったわけだ」

 

 

……普段通りの口調で、そんなことを言い出した。

 

その言葉に凄まじく嫌な予感を感じたシノンがゆっくり振り返ると、そこには全体的に白色のカラーを纏った指貫グローブ型のデバイス、アリストテレスを装着した要がいた。

 

両拳を合わせながら実に楽しそうな笑みを浮かべており、放たれる威圧感がビリビリとシノンの全身を揺さぶって来る。

 

「実戦に勝る修業は無しってな。ただ突っ立て標的になるだけじゃ俺としてもつまんねぇしよ……ちょっとやり合おうや」

 

『マスター、アレはもしかしなくても……』

 

「ああ、目を見りゃ分かる……あの野郎、マジでやる気だ……」

 

嫌な汗をダラダラ流しながらも、要から放たれる威圧感を受けてシノンは反射的に身構え、腰に差した大太刀に手を添える。

 

「力は抑えてやる。だが、手加減はしねぇぜ。向かってくるなり逃げ回るなり、好きにしな」

 

「(ブチッ!!)……オーケー、こうなりゃもう何も言わねぇ。その余裕綽々としたツラに一発強烈なのお見舞いしてやんよ」

 

要の舐めくさった発言がトリガーとなり、何だか色々とヤケになったシノンは虚ろな瞳で口元に歪んだ笑みを浮かべ、大太刀を抜刀する。

 

色んな意味で常識に対するストッパーがゲシュタルト崩壊したその空間にはドス黒い殺気が漂い、比喩でもなく気温が下がっていく。

 

そして……

 

「精々潰されんなよ! 世界単位の中年迷子ぉ!!!」

 

「ほざけやこの若白髪ぁぁぁ!!!」

 

……互いに大人気の無い叫び声と共に青白い水晶、武装・ORTに覆われた拳と膨れ上がる闘気を纏わせた大太刀の刀身が激突した。

 

 

 

 

   *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *   

 

 

 

 

 数分後、結界に覆われた草原は……もはや別空間としか思えない惨状と化していた。

 

爆撃を何度も重ねたような無数のクレーター、クレバスと誤解しそうな程に大きくひび割れた地面、爆発に力を貸すかのように一つ残さず燃えた木々。

 

その中でも一際破壊の規模が大きいクレータの中心に、シノンと要がいた。

 

と言っても、シノンはバズーカ砲のような破壊力の拳を何度も全身にくらったせいで肉体は内外共にズタボロになっており、息はしているが怪我と大量の出血のせいで動けそうにない。

 

しかも、ご丁寧にに四肢の関節まで外されている。戦いながら何度も動く手足で嵌め直していたのだが、ついには両手足全ての関節を外された。

 

その状態からマウントを取ってタコ殴りにするのだから、本当に容赦が無い。

 

対する要は未だ余裕を残して顔をしているが、左腕が肩口から斬り落とされ、腹部のど真ん中には大太刀が刺さっていた。

 

「腕一本、か。まあ、ガキの体でそんだけ出来れば上等だろ。まさか、あの高速移動まで重ね掛けして使ってくるとはな。武装拳が間に合わなかった」

 

そう言いながら要は腹部に刺さった大太刀を掴んで引き抜き、地面に突き刺す。

 

すると、腹部の傷が凄まじい速度で塞がり、斬り落とされた左腕も元通りに再生する。

 

「ハァ……ハァ……ちくしょう、いつか……泣かす……」

 

「楽しみに待っててやるよ。んじゃあな、それなりに楽しかったぜ」

 

ニヤリと笑みを浮かべた要はそう言って踵を返そうとするが、シノンがそれを呼び止めた。

 

持ち前の自然治癒になって呼吸も落ち着き、話すだけなら大分楽になった。

 

「待てよ……結界の外に、飯と一緒にサヴァランが入ってるから、持ってけ」

 

「サヴァラン?」

 

「デザートだよ。礼ってわけじゃないが、お前家族いるって言ったろ。味は保証してやるから食わせてやれ」

 

「おお、そりゃありがたい。んじゃあ、デザートの礼として今度は子供達連れてきて鍛えてやろうか?」

 

「おいやめろ。マジで洒落になんねぇぞソレ」

 

そんな会話をして、結界の外からデザートを回収した要は腕を振るって虚空を薙いだ。

 

すると、その空間がビリッ! と音を立てるように引き裂かれ、その奥には謎の空間が広がっている。

 

「んじゃ、今度こそまたな」

 

「おう、またな」

 

跳躍と共に片手を上げた要に対し、体が動かないシノンは仰向けに寝たまま返答する。

 

要が中に入ると、引き裂かれた空間は溶けるように塞がり、元に戻った。

 

結界も解除され、周りの景色は元通りの草原なのだが、ボロボロのシノンはしばらく元通りとはいかなそうだった。

 

「治癒術使っても動けるまでどれだけ掛かるか……」

 

『傷の治療はもちろんですが、両手足の関節を元に戻さなければ動けませんよ?』

 

ハートレスサークルの上で怪我の治りを待つシノンだったが、ヴェルフグリントのもっともな指摘に黙り込んでしまう。

 

やがて……

 

「……なのはに連絡入れるか」

 

『……ですね』

 

……渋々答えを出し、脱力して傷の治療に専念するのだった。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

今回のコラボ回では、シノンのちょっとした悩みを解消しました。あと死闘の体験による鍛錬も。

思い付いた新技の名前は次回あたりに出したいと思います。

ちなみに、TOXのアルヴィンが使うチャージとは全く違います。アレは技を“溜める”ものですが、シノンのは技を“重ねる”ものです。

技の具体的な例えを上げるなら『鋼殻のレギオス』のレイフォンが使う『連弾』です。アレと殆ど同じです。

しかし、改めて見ると本当にギャグが苦手だな私は。

では、また次回。

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