白銀の来訪者   作:月光花

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続いてこっちを更新しました。

今回でひとまず無印編は終わりです。

では、どうぞ。


第23話 帰還

  Side なのは

 

 プレシアさんのお城、時の庭園が崩壊した後に私は地球に帰ってきて5日が過ぎた。

 

今日の朝早くにクロノ君から電話が来て、フェイトちゃんの処遇が決定したと聞かされた。

 

フェイトちゃんは今日からアースラで護送されて本局に移動、そこで取り調べと裁判などを行って処罰を決めるらしい。

 

でも、フェイトちゃんの動機が複雑な家庭事情によるもので、その詳細からほぼ確実に無罪になるらしい。

 

そして今日、本局に移動となる少し前に私はフェイトちゃんと会えることになった。

 

やっと会えるというのもあるけど、何よりもフェイトちゃんから私に会いたいと言ってくれたことが嬉しかった。

 

けどフェイトちゃんの表情からは少し悲しみの色がある。きっとプレシアさんやシノン君のことがあったからだと思う。

 

 

 

 

   *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *   

 

 

 

 

 突然現れたローブの人に攻撃されたプレシアさんは、私の目から見ても重傷だった。

 

シノン君がローブの人を抑えている間に、私はプレシアさんを運ぶクロノ君とユーノ君の2人と一緒にアースラに戻った。

 

到着してすぐにプレシアさんは医務室に運ばれ、緊急手術が行われた。

 

その少し後から気絶したフェイトちゃんを抱えたアルフさんがやって来たけど、シノン君はまだ時の庭園の中でローブの人と戦っていた。

 

エイミィさんがモニターで見せてくれた映像には、大太刀を振り回すシノン君と赤黒い双剣を振るうローブの人が戦っていた。

 

どっちも目で追うことさえ難しい速さで攻撃を放ち、部屋の中で一定の範囲内を止まらず走り続けている。

 

シノン君の戦っているところは何度か見たことあったし、槍の技を教えてもらう時に相手をしてもらったけど、今の速さはその時と比べ物にならない。

 

事前に打ち合わせでもしたんじゃないかと思わせる程に武器が打ち合い、無数の火花が室内に飛び散る。その中で、戦う2人は殆ど動きを止めなかった。

 

そんな時、手術室からお医者さんが出て来て、フェイトちゃんとアルフさんに部屋の中に入ってくれと頼んだ。

 

勇気を出して、私も入って良いかと言ったら、フェイトちゃんは静かに許してくれた。

 

医務室に入ると、そこには手術台の上で横になっているプレシアさんがいた。

 

だけど、その顔色は目に見えて悪く、今にも消えてしまいそうな程に弱々しいものだった。

 

「フェイト……」

 

虚ろな目で持ち上げられたプレシアさんの手が宙を漂っていたけど、フェイトちゃんが慌てたようにその手を握り締めた。

 

「母さん……!」

 

「ああ……そこに、いるのね……もう、目も良く見えなのよ……」

 

必死に呼び掛けるフェイトちゃんの声に、プレシアさんは冷静な声を返す。

 

プレシアさんは苦笑しながら手を動かし、手探りでフェイトちゃんの頬を撫でる。

 

「母さん……ごめん、なさい……私があの時……!」

 

「これも報いよ……どちらにせよ、私の命は長くなかった……」

 

プレシアさんの言葉に、私だけでなくフェイトちゃんも驚いた。

 

傍にいたお医者さんの話によると、すでにプレシアさんの体は重い病気でボロボロになってしまっているそうだ。

 

さっきまではジュエルシードの力を使って無理矢理抑え込んでたらしいけど、その無茶のせいでもう体がもたないとも言われた。

 

「“あの子”にも散々怒られてしまったわね……フェイト、聞きなさい」

 

一人苦笑するプレシアさんの言葉に、フェイトちゃんは涙で顔をグシャグシャにしながらも強く頷いた。

 

プレシアさんは、そんなフェイトちゃんの頭をゆっくりと撫でながら……

 

「この先、過去に囚われて生きるのはやめなさい……貴方は、貴方の幸せの為に自由に生きなさい。“親子”揃って同じ失敗をするなんて、笑えないもの」

 

……優しい笑顔を浮かべて、そう言った。

 

その言葉に、ついにフェイトちゃんの涙が溢れ出し、泣き声が響いた。

 

過去に囚われるというのは、多分あのローブの人に復讐するということだと思う。フェイトちゃんならそうするだろうと、プレシアさんは予想していた。

 

「母親を語る資格も無いけれど……どうか、覚えていてちょうだい」

 

少し悲しそうな目をしたプレシアさんの言葉に、フェイトちゃんは泣きながらも必死に首を振って否定を返した。

 

「わたし、は……! 母さんの、娘で……! 良かった、と、思ってる……!」

 

所々が途切れていたけど、確かに伝わったフェイトちゃんの言葉にプレシアさんが僅かに目を見開き、ゆっくりと微笑んだ。

 

「そう……それなら……アリシアやリニスも……少しは許して、くれる……かしら……」

 

その言葉を最後に、プレシアさんの瞼がゆっくりと閉ざされた。

 

命が途絶えた最後の顔は、何処か満たされたような笑顔だった。

 

 

 

 

   *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *   

 

 

 

 

 それから今に至るまで、私はフェイトちゃんと会う機会が無かった。

 

だけど、いざ会ってみたら、思っていた以上にたくさんお話が出来た。

 

友達になりたいと言ってくれて、名前を呼び合って、ようやく分かり合えたような気がした。

 

嬉しい筈なのに、どうしても涙が止まらなかった。

 

ずっと話したいって思ってたけど、自然と会話が減って、私達は海を見詰めていた。

 

その中で、先に口を開いたのはフェイトちゃんの方だった。

 

「ずっと……お礼が言いたかったんだ。ジュエルシードのこと、母さんのこと、私のこと……たくさん、お礼が言いたかった」

 

「私も、フェイトちゃんとお話したかったんだ。でも、改めて話すと、あんまり言葉が出てこなくて……」

 

「私も似たようなものだよ……だけど、出来れば“あの人”にもお礼が言いたかったな……」

 

フェイトちゃんが言った“あの人”というのが誰のことかは、私もすぐに分かった。

 

あの時、崩れていく時の庭園に最後まで残ったシノン君。結局、シノン君は時の庭園が完全に崩壊しても帰ってこなかった。

 

リンディさんとクロノ君の話では虚数空間に飲み込まれたらどんな生き物でも助からないらしい。

 

簡単に捉えればシノン君は“死んだ”ということ。小学生の私でも簡単に理解できた。

 

そう、確かに理解した。でも不思議と悲しさをまったく感じなかった。

 

シノン君が死んで悲しくない? そんなのは絶対にありえない。誓ってそう言える。

 

最初に会ってからそんなに長くもないけど、シノン君はいきなり鍛えてくださいと頼んだ私に嫌な顔一つせず応えてくれた。

 

『思い切りは良いが踏み込みが浅い。本来それくらいの長さの槍なら上半身のバネだけでも充分な速度と威力は出せんだ。え? 強化魔法? アホか、んなもん使うのは体捌きと打ち込みの基礎を覚えてからだ。生身で覚えなきゃ正しい基盤にならねぇだろ』

 

前もって言った通り厳しかったけど、真剣に教えてくれる気持ちがハッキリ分かった。

 

ダメな所を叱って、上手に出来たらちゃんと褒めてくれた。

 

最初は少し怖い人だと思ったけど、話してみればとても良い人だった。少なくとも、鍛えてもらった私はそう思う。

 

そんなことがあったからなのか、不思議とこう思ってしまう……

 

「きっと言えるよ」

 

「え?」

 

「理由も無いし、何となくだけど……シノン君は生きてるって思うんだ」

 

そう。何となくだけど、その言葉は私の心にすっぽりと収まった。

 

私は悲しくなかったわけじゃない。悲しむ理由が無いと心の奥底で強く思ったんだ。

 

あのシノン君が死んだなんて実は本心で鼻で笑っていたのかもしれない。

 

私の知っている限り、シノン君は簡単には死なない。本人も死に難さが一番の長所と言っていたくらいだ。

 

だから、シノン君は死んでない。きっとその内けろっと帰ってくる。

 

「うん……そうだと良いな」

 

そう言って、私とフェイトちゃんは青空を見上げた。

 

 

その中で、視界の中に気になるモノを見つけた。

 

 

青空の中で白色の光を放つソレは、ここ最近で私が随分と見慣れたものだった。

 

「魔法陣……?」

 

『術式を感知しました。どうやら、次元転移の魔法のようです。転移完了まで、およそ5秒……』

 

レイジングハートの報告を聞いている内に、上空の魔法陣は光を強めて小さな雷を纏っていく。もう、どうにかする時間は無い。

 

魔法陣が一瞬だけ強い輝きを放ち、その姿を完全に消した。

 

そして次の瞬間、魔法陣から飛び出してきた何かが真っ直ぐ海へ落ちて来て、大きな水柱を作り上げた。

 

私とフェイトちゃん、それと近くで見ていたクロノ君、アルフさん、ユーノ君もやって来て海の方向を警戒する。

 

何が来るのかじっと待っていると、海に落ちたソレは慌てたようにすぐに正体を現した。

 

「げほっ! げほっ! ……ハァ……ハァ……何で、転送先が……海上なんだよ」

 

『転移に使う魔力をケチって修理した転送ポートを使ったからでしょう。この街に転移出来ただけでも良しとしましょう』

 

「お前はそれで良いかもしれんが……げほっ! ……海水が鼻に入ったこの痛みはどうしたもんかね……」

 

見えてきたのは、ずぶ濡れの恰好で激しく咳き込みながら陸へと這い上がり、傍に浮いた銀色のカードと話す人影。

 

頭に少しだけ海草が乗っているけど、日の光を浴びてもハッキリと分かる綺麗な銀髪はここにいる全員がよく覚えているものだった。

 

「よう、しばらくだな」

 

右手を軽く上げた声の主は、普段と変わらない口調でそう言った。

 

「……ね? 言った通りでしょ?」

 

「……うん。そうだね……」

 

私の言葉にフェイトちゃんは微笑を零し、手を繋いで一緒に歩き出す。

 

それに続いてクロノ君、ユーノ君、アルフさんも声の主の方へ歩く。

 

色々と言いたいことがあったけど、最初の言葉は自然と口にすることが出来た。

 

「おかえり、シノン君!」

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side シノン

 

 アルハザードで充分な休息と準備を終えて、オレとヴェルフグリントは地球へ帰還することにした。

 

そして、帰還の際に出された方法は3つ。

 

1つ目は今回と同様、オレの魔力の殆どを使ってソフィアによる次元転移。

 

2つ目は比較的に損傷の少ない転送ポートを新たに探してソレを使う。

 

3つ目は前回使用した転送ポートに応急処置を施して使用する。

 

どれを選んでも地球に転移出来るのは確実だそうだが、魔力吸収の凄まじい脱力感と転送ポートを探すのに掛かる時間を遠慮した結果、オレは3つ目を選択した。

 

そして、その結果がコレである。

 

海鳴市の海上に転移したオレはそのまま海中へ急速落下。咄嗟にシルフの力を借りて発生させた風の障壁で海面との衝撃は相殺出来たが、海水をもろに浴びてしまった。

 

おかげで鼻の奥がジリジリと痛むし口の中には海水の味が広がっている。

 

さんざんな結果だが、帰還の方法にどれだけ気を遣うべきか分かっただけでも良しとしよう。そう思わないと、何だかすごい悲しくなる。

 

そんなことがあって、辿り着いた海岸の近くにちょうど高町達がいたのだが、どうにも失敗したかもしれない。

 

高町とフェイトが互いに髪のリボンを解いて手を繋ぎ、少し涙目になっている。どうにも、オレには別れの瞬間としか思えない。しかもオレの登場と言葉で場の空気が固まってしまっている。

 

だが、ありがたいことに責められるようなことはなく、返って来たのは“おかえり”という言葉と笑顔だった。

 

(シノン……すまないが……色々と訊きたいことがある)

 

(だろうな……リンディさんも見てるんだろう? 逃げる気は無いさ……)

 

クロノから飛ばされた念話に答え、ほんの小さくだが溜め息を吐く。

 

はてさて……敵の根城で暴れ回った後は次元世界のお巡りさんから事情聴取か。面倒さが祟って下手を打たないようにしなきゃな。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 『およそ一週間ぶりね、シノン君。まずは、生きていてくれて嬉しいわ』

 

通信越しに微笑みを浮かべるリンディさんと、その後ろで笑顔で手を振るエイミィさんに軽く頭を下げて一礼する。

 

「どうも……最初に言っておきますが、虚数空間からの帰還方法について話せることはありませんよ」

 

『そう言うと思ったわ。契約の際の条件にも“素性や能力などについては一切の詮索をしない”とあったものね。だから、1つ提案があるの……』

 

苦笑を浮かべたリンディさんの提案という言葉に、オレは内心で小さく首を傾げた。

 

『そんなに難しいことじゃないわ。互いの要求は一つ、“虚数空間に落ちたという事実を決して他言しないこと”。これだけよ』

 

……正直、少し驚いた。一部隊の最高責任者が傭兵相手に口約束で情報の秘匿を申し込むとは、中々出来ない体験だ。

 

「……話すのを拒否したオレが言うのもなんですが、それでよろしいんですか? こっちとしては連行されるのも想定していたんですが……」

 

『相手が貴方ではこちらのリスクが計り知れないわ。あなただって、大人しくついてくる気はないでしょう?』

 

「そりゃもちろん」

 

『そう言うことよ……それで、どうかしら?』

 

「承知しました。ただ、そちら側の関係者にも充分注意を払ってください。軽い雑談からも情報が漏れる可能性があります」

 

『わかっているわ。それと……最初に言うべきだったのだろうけど、言わせて頂戴。プレシア・テスタロッサを止めてくれて、ありがとう』

 

スクリーン越しでリンディさんが頭を下げ、すぐ近くに立っていたフェイトとアルフも同じように頭を下げた。

 

オレとしては、結局のところ戦う理由が金と移住先の為であり、プレシアを殺したあのローブ男を取り逃がしたこともあって感謝されるのも複雑な心境なのだが、そういうのは口にしない方が良いだろう。

 

さっき高町に聞いたが、今後のフェイトの処遇は管理局の本局で裁判が終わった後は再び地球に来るつもりらしい。説明する高町本人が一番嬉しそうな顔をしていた。

 

その裁判の関係者として、ユーノはクロノ達に同伴、裁判が終わった後はフェイトやアルフと同じで地球に戻るらしい。多分だが、個人的な理由で高町に会いたいのだろう。

 

そして……数十分の話し合いを経て、ついに別れの時間がやって来た。

 

地面に展開された転送用の魔法陣が徐々に光を放ち、フェイト、アルフ、ユーノ、クロノの4人はその上に立ってオレと高町の2人と向き合っている。

 

「またね……フェイトちゃん、アルフさん、ユーノ君、クロノ君」

 

涙を流しながら名前を呼ぶ高町の声に、フェイト達は静かに頷いて微笑を返す。

 

対してオレは、涙を流すなんてことは無かったが、アースラの艦内で比較的に話す機会が一番多かった同性のユーノに軽く手を上げておいた。

 

随分と寂しいもんだと自分でも思うが、男同士の別れ際の挨拶なんてこんなもので充分だろう。オレも詳しい方ではないのだが。

 

「なのは、シノン、また、会おうね」

 

「うん! 絶対……絶対にまた会おう!」

 

「またな、フェイト」

 

「……うん!」

 

そう言って魔法陣の光に包まれたフェイトの顔は、オレが大好きな……今まで見た中で一番嬉しそうな曇りの無い人間の笑顔を浮かべていた。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

主人公はとりあえず面倒事を避けるためにリンディさん取り引きして安全を確保しました。普通に見ればフェアな取引ですが、見方によっては情報を追及する立場にあるリンディさんの方が有利だったりします。

次回からは二期までの繋ぎ、まあ日常パートとかそこら辺です。

では、また次回。

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