白銀の来訪者   作:月光花

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今回は化け物との戦闘2戦目の後半です。

では、どうぞ。


第19話 決着

  Side Out

 

 化け物の咆哮と破壊音が絶えず響く時の庭園最奥部。

 

そこでは、局地的な戦争と言っても過言ではないくらいの大規模破壊が起こっていた。

 

先程までは巨大な獣の口が着いた両腕と無数の蜘蛛の脚が壁や地面を抉っていた。

 

だが、今は化け物が紫色の皮膚を発光させる度に魔力で形成された光点から魔力弾が照準の気配無く無差別にばら撒かれ、集束した光点から巨大な紫電が拡散する。

 

その破壊の嵐の中で、シノン、アルフ、クロノは明らかな苦戦を強いられていた。

 

クロノの魔力弾や砲撃は化け物の魔法に残さず叩き落され、動きを止めようとしたアルフのバインドは怪力で引き千切られ、『背狼』の急加速で懐に入り込んだシノンの攻撃も凄まじい速度で再生される。

 

化け物が攻撃手段に魔法を加えたことで先程よりも攻め入る隙が減り、有効打となる攻撃をほとんど打ち込めないのだ。

 

クロノは連続で魔法を撃ち込む手数を、アルフはバインドやシールドでサポートするタイミングを、シノンは絶えず敵を削り続ける速度を殺されている。

 

それに加え、化け物の魔法はプレシアのような照準によるものではなく、当たればいいと言うような、弾幕で壁を作った無差別破壊に近い。

 

法則性が一切無い攻撃というのは放つ側には気楽なものだが、避ける側にとっては迷惑極まりない。なにせ、何処に飛んでくるか分からないのだ。攻撃の度に嫌でも気を配らねばならない。

 

攻撃は事実上の無駄で終わり、防御や防御では毎回神経をすり減らす。化け物の魔力貯蔵量やスタミナの程は知らないが、シノン達より少ないということは無いだろう。こんなことを続けていれば不利になる一方だ。

 

とはいえ、逆転の策がホイホイ出て来るほど簡単な状況でもない。それぞれで大きな違いはあるが、3人の思考は徐々に焦りと苛立ちを募らせていた。

 

(このままじゃジリ貧だな……)

 

(あぁ、もうっ!! さっきから同じことを繰り返すばっかりじゃないか……! )

 

(3人でも現状維持がやっとか……想像以上に厄介な相手だなコイツは)

 

念話でそれぞれ不満を零しながらも、3人は一瞬たりとも動きを止めない。

 

普通に拘束するだけでは無駄だと判断したアルフは使うのが苦手な設置型バインドを使用して化け物の脚を拘束し、即座に詠唱を終えたシノンの魔法、フレイムドラゴンが弾幕を食い破り、その隙間を潜ったクロノのスティンガースナイプが化け物の脚の関節を的確に撃ち抜く。

 

僅かにバランスを崩された化け物の体が揺らぎ、弾幕が薄れる。そして、その瞬間をシノン達は見逃さない。

 

『Blaze Cannon.』

 

S2Uから放たれた青色の砲撃が薄れた弾幕を突き破って穴を作り、そこへすぐさま駆け出したシノンをアルフが防御魔法とバインドでサポートする。

 

「寝ときな!!」

 

アルフが全力の魔力を注ぎ込んだバインドで化け物の体を重心が傾いた方向に引っ張り、巨大な体躯を魔力で強化された拳で地面に叩き伏せる。

 

その打撃は化け物に対して目立った傷を与えず、衝撃もすぐに再生されてしまう。だが、それでいい。アルフの狙いは“化け物を転倒させること”なのだから。

 

攻撃の本命は、鞘に納めた大太刀を左腰に差したシノンだ。化け物の転倒と同時に『背狼』で姿を掻き消したシノンは、化け物の頭部を眼前に捉える。

 

「腕は生やせても、頭を斬り落とせばどうだ?」

 

シノンの経験上、再生能力を生体機能として有している生物には四肢や胴体を再生出来たやつはいても、脳まで再生出来たやつは1つとしていない。

 

化け物の腕を斬り落とした際に大体の硬さは覚えた。間違い無く斬れるという確信が、シノンの中にはあった。

 

「っ……!」

 

だが、地面に横たわる化け物の1つ目がシノンの姿を捉えた瞬間、背筋に強烈な悪寒を感じたシノンは踏み込んだ右足で強引に地面を蹴って飛び退いた。

 

すると、化け物の1つ目が発光し、シノンの眼前を赤色のレーザー光線が通過した。もし飛び退いていなければ、シノンの体には風穴が開けられていた。

 

「ちっ……!」

 

仕損じたことに舌打ちしながらシノンは両肩にアクセルフィンを展開し、真後ろへ全力後退。元に戻った化け物の弾幕範囲内から離脱した。

 

(やはり、この3人だけで仕留めるのは難しいか……アルフ、フェイト達の方は?)

 

(あとちょっとみたいなんだけど、傀儡兵が思ったよりも多くて足止めを食らってる。まだ時間が掛かるみたいだ)

 

(少し時間を掛けても良いから焦らないように伝えろ。あの化け物を完全に仕留められるチャンスは良くて1回しかない)

 

念話で冷静な指示を出しながら、シノンは内心で舌打ちする。

 

それは別に苛立ちによるものではなく、己自身に向けた落胆によるものだ。

 

先程の攻撃時、シノンの肉体が本来の姿であったなら間違い無く化け物の攻撃よりも先に斬り伏せられた。だが、この様はなんだ。

 

攻撃の威力や速度も、詠唱術とて全盛期の半分も満たない。しかも隠しているが、プレシアの障壁を斬り裂く時に放った抜刀術の反動で体の数箇所が痛みを上げている。

 

(少し無理をしただけでコレとはな……我ながら情けない)

 

騒動が片付いたら体を徹底的に鍛え直すと心の中で誓いながら、シノンは突き出された化け物の巨腕を跳躍して回避。

 

だが、それだけでは終わらず、頭上から降り注ぐ魔法の雨が追撃を仕掛ける。

 

アルフの展開した防御魔法がシノンの頭上に現れ、それを傘のようにしながら離れる。だが、放たれた魔力弾の何発かがシノンを追尾してくる。

 

「絶風刃!」

 

風を纏った大太刀を左に斬り上げ、虚空に線を描くように走った風の刃が魔力弾を斬り裂き、空中で爆散させる。

 

その爆煙の奥から化け物が足音を鳴らしながら迫り、左右の巨腕をクロノとアルフに向けて突き出した。

 

当然2人は避けようとするが、無差別に放たれる魔法の弾雨のせいで思うように動けない。クロノは2発のスナイプで魔法を迎撃しながら防御魔法を展開して巨腕を回避するが、アルフは防御で足を止められてしまった。

 

「やばっ……!」

 

大質量の物体が眼前に迫り、アルフの背筋に冷たい汗が流れる。人間とは違う獣の本能が必死に生き残る術を模索するが、まったく見付からない。

 

しかし、獣の本能でもお手上げの窮地は、真横から『背狼』の加速で強引に割り込んだシノンによって覆された。すれ違い様に左腕でアルフの体を抱え、肩に担ぐようにしてギリギリで巨腕から逃れる。

 

「た、助かったよ……」

 

「気にするな。回避と防御の時は無理をせずクロノと一緒に行動しろ。お前が最後までいなきゃ作戦が水の泡だ」

 

安堵の息を吐きながら感謝するアルフに冷静な声を返し、シノンは地面を跳躍しながら冷静な声を返す。成人女性1人を担いでいるのに、その移動速度はまったく衰えない。

 

「そうは言っても、このままじゃどうやっても追い詰められちまう……っ!! シノン! フェイト達が指定の場所に着いたって!」

 

「すぐに準備をさせろ。タイミングはこっちで調整する」

 

シノンは指示を出してすぐにアルフを肩から降ろし、クロノに視線を向ける。念話ではなくただのアイコンタクトだが、今はそれだけで充分に伝わる。

 

そしてすぐさま踵を返し、シノンは化け物へ正面から突撃し、アルフはクロノの後ろに移動して目を瞑り、精神を集中する。

 

シノンは『背狼』の急加速で降り注ぐ魔法を潜り抜け、回避先を狙って左右から襲い掛かった化け物の巨腕を跳躍で飛び越える。

 

化け物の額に大太刀を突き刺し、それを軸にして化け物の左のこめかみに全力の右膝蹴りを打ち込む。反動を付けて右足を戻して今度は化け物の一つ目に左足で蹴りを叩き込む。蹴りを打ち込んだ部分が凹み、今度は化け物の体が後ろに傾く。

 

「臥龍……空破ァ!!」

 

左拳がアッパーカットの軌道で振り抜かれ、後ろに傾いた化け物の顎を直撃する。その衝撃によってついに化け物の巨体が仰向けに倒れ込む。

 

「“聖なる光よ、悪しきを貫く槍と化せ”……ホリーランス!!」

 

空中から計12本の光の槍が降り注ぎ、1本1本が化け物の蜘蛛の足を正確に撃ち抜いていく。そのダメージは化け物の再生能力の前では微々たるものだが、今はこれで充分だ。

 

(足は止めた……クロノ! アルフ! 作戦開始だ!!)

 

(分かった。僕も準備に入る)

 

(お願いフェイト……ちゃんと届いて……!)

 

シノンの念話による合図を聞き、クロノはS2Uを一振りすると共に足元に大型の魔法陣を展開。その後ろにいるアルフは瞼の力を強め、主人の名を心で読ぶ。

 

反撃の狼煙は、今打ち上げられた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「届いたよ、アルフ……バルディッシュ、攻撃ポイントの情報を……」

 

『Yes,sir. レイジングハートに送信。発射タイミングを調整します』

 

自身の使い魔の声を心の中に受け取り、瞳を開いたフェイトはシーリングフォームに姿を変えたバルディッシュを横に一閃。足元に大型の魔法陣を展開する。

 

現在フェイト達がいるのは、シノン達が化け物と戦闘を続けている時の庭園最下部から2つほど上の階。この場所を指示したのは、作戦を練り上げたシノンとクロノ。

 

少し離れた場所にはフェイトよりも巨大な魔法陣を展開したなのはと、サポートの為に2人の中間に立つユーノがいる。

 

周辺には無数の傀儡兵の残骸が転がっており、先程までの戦闘がいかに激しく、一方的なものだったかよく理解出来る。

 

「私が最初に撃つから、アナタは貫通したのを確認してから撃って」

 

「うん、わかった。絶対に成功させよう!」

 

フェイトの指示になのはは笑顔で答え、2人は己の魔法を発射する為の最終段階に入る。

 

フェイトの魔法陣からはより一層激しいスパークが迸り、なのはの周りには無数の小さな光、大気中に漂う残留魔力が集っていく。

 

だが、それを許さんと言うように周囲に無数の魔法陣が発生し、傀儡兵がわらわらと押し寄せてきた。その脅威を取り払うのは、2人の中間に立つユーノの役目だ。

 

「周りの敵は僕が抑える! 2人は魔法の制御に集中して!」

 

両の手の平を合わせ、足元に展開された翡翠色の魔法陣から無数のチェーンバインドが飛び出す。それは傀儡兵の巨体を残らず拘束し、ギシギシと締め上げる。

 

もちろん、数が数なので凄まじい負担がユーノを襲うことになるが、引くわけにはいかないと歯を食いしばり、魔力を総動員してバインドを維持する。

 

「サンダー…………レイジィィィィ!!!」

 

バルディッシュが魔法陣に突き刺さり、魔法陣から無数の雷撃が放たれる。本来はロックオン機能と合わせて放つ範囲攻撃魔法だが、今回は正確な照準は必要無い。

 

何故なら2人が狙うのは、眼下の床なのだから。

 

絶えず降り注ぐ雷撃によって着弾点が大爆発を起こし、数秒で床に大穴が空く。雷撃はそのまま下方へと続き、再び数秒の間を挟んで床を貫く。

 

「っ!……今っ!!」

 

「全力全開!!…… スターライト、ブレイカァァァ!!!」

 

2つ目の床を貫通してすぐ、フェイトはなのはに向けて合図を飛ばす。

 

合図を受け取ったなのははレイジングハートを振り上げ、放たれた極大の砲撃はフェイトのサンダーレイジが命中した場所の中心を寸分違わず撃ち抜いた。

 

そして、放たれたスターライトブレイカーは2つ目の床をぶち抜いたフェイトの雷撃に続き、 その真下で倒れる( ・・・・・・・・)その真下で倒れていた化け物の巨体を飲み込んだ。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 化け物にとって、その現象は不意打ちも良い所だったろう。

 

シノンのアッパーカットで仰向けにぶっ倒され、ホーリーランスで体を串刺しにされ、傷口を再生して起き上がろうとしたところに襲い掛かってきたのは凄まじい雷撃のシャワーと桜色の極光。

 

突然頭上から襲い掛かってきた攻撃に対し、化け物には避けるどころか防御する暇もありはしなかった。

 

降り注いだ雷撃が化け物の巨体を撃ち抜き、光の柱がソレを上回る破壊力と共に呑み込む。

 

「■■■■■■■!!!!!!!」

 

逃げ場の無い破壊の嵐の中で化け物は頭上を睨み付けるように見上げながら咆哮を上げ、暴れ回る。

 

「上手くいった!」

 

その光景を見て作戦の成功を確認し、アルフは笑顔で拳を握る。

 

化け物が出現する前にシノンが提案した作戦は割りと簡単なもので、タイミングを合わせて最大火力の攻撃を一斉に叩き込むというものだった。

 

拘ったのは、攻撃を化け物に当てる方法。再生能力が有ると後から分かったとはいえ、確実に仕留める為には回避も防御も出来ないよう、不意を打つしかない。

 

そこで、なのは・フェイト・ユーノの3人は最下部から2つほど上の階に移動し、真上の位置から最大火力の魔法を準備。ユーノはそのサポートに回る。

 

対してシノン・クロノ・アルフの3人は最下部に残り、なのは達の準備が整うまで現れた敵と交戦する。

 

そして、攻撃を命中させる際に重要となったのが、フェイトとアルフの存在だった。

 

魔導師によって生み出された使い魔と主の間には『精神リンク』と呼ばれる能力がある。呼んで字の如く、潜在的に精神を繋ぐことなのだが、時には様々な現象を起こす。

 

時には主の気分や感情を察知したり、記憶が使い間の中に流れ込むこともある。そしてこの能力は集中すれば、互いの位置や状況を即座に把握することも可能なのだ。

 

コレにより、フェイトは最下部のアルフを通して化け物の位置を正確に特定し、そこに魔法を撃ち込んだ。つまりは、精神リンクをビーコンのように利用したのだ。

 

「畳み掛けるぞ!!」

 

その瞬間、クロノは前もって準備しておいた“仕掛け”を発動させた。

 

足元に発生させた大型の魔法陣に続き、部屋の壁際から小さな魔法陣が無数に展開される。10や20を軽く超える魔法陣から発生したのは、環状魔法陣が取り巻く魔力刃、スティンガーブレイド。

 

それ等全てが空中に浮遊し、クロノがS2Uを一振りすると、100を超える矛先の全てが化け物に向けられる。

 

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!」

 

その声を号令とし、全ての魔力刃が化け物に向かって殺到。その名の通り、処刑するような

魔力刃の一斉射撃が化け物の肉体に降り注いだ。

 

無数の雷撃、極大の集束砲撃、100を超える魔力刃と、次々と大火力の魔法を撃ち込まれたというのに、化け物はまだ生きていた。

 

全身のあらゆるところに負った火傷や裂傷によって青色の血をぶちまけ、右腕は消滅、左腕はかろうじて原形を留めているが肘の部分から今にも千切れそうだ。

 

「これだけやっても死なないのかい!?」

 

未だ死なない化け物の底知れぬ生命力に、アルフは驚愕と呆れを混ぜたような声を出す。

 

クロノのエクスキューションシフトはともかく、なのはとフェイトの魔法は床を貫通させる為に対物破壊、つまりは殺傷設定を用いて攻撃した。無人世界に住まう凶暴な原生生物が相手でもただの肉塊と化す破壊力だった。

 

それでも死なないなど、どれだけ出鱈目なのだこの化け物は。

 

だが……

 

「充分だ」

 

今この場には、その出鱈目と理を同じくする力の持ち主がいた。

 

大太刀を左手に持ち、右手を天に掲げるシノン。その全身からは凄まじいほどの威圧感が放たれており、誰もが言葉を発せられず、強制的な静寂が出来上がる。

 

そして、詠唱が始まる。

 

「“天光満つる所に我は在り”」

 

言霊に導かれ、化け物を中心にした巨大な魔法陣が空中に何重にも広がり、重なり、1つの形を成していく。

 

「“黄泉の門開く所に汝在り”」

 

展開された術式が雷雲を呼び、ほんの数秒で凄まじい雷撃を巻き起こす。

 

「“出でよ、神の雷”」

 

魔法陣の頂点に巻き起こる雷撃が集束し、目を開くことも難しい程のスパーク光が迸る。

 

「これでサヨナラだ……インディグネイション」

 

指が鳴らされ、最下部の部屋に小さな音が響き渡る。

 

次の瞬間、憤怒を意味する裁きの雷撃が時の庭園を貫き、閃光が化け物の肉体を掻き消した。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

シノンにはオリジナルの秘奥義を付けたいと思っていますが、今回は皆さんご存知の大火力詠唱術、インディグネイションにて決着としました。

フェイトとアルフの精神リンクで位置や状況を把握できるというのは、一応オリジナルです。原作だと精神状況や感情だけみたいだったので。

無印編は恐らくあと3、4話で終わると思います。

では、また次回。

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