もう最近は忙しくて休日にしかチマチマ小説書けませんわ。
では、どうぞ。
Side シノン
「あ、あぁぁ…………いやぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!」
絶叫を上げたプレシアが顔を手で覆い、アリシアの元へと走る。
オレとクロノはその行動に対して何もせず、ただ黙ってそれを見ている。
ポッドの中から放り出され、プレシアの腕に抱かれたアリシアの体は一目見ただけでも酷いものだった。
飛び散った破片によって顔面や体のあちこちを切り裂かれ、原形が崩れている。血は止め処なく流れ続け小さな体を真っ赤に塗り潰していく。
終わりだ。いくら無傷で大切に保管していても、所詮あの体は死体。肉体に免疫力がもう存在しない以上あの傷は治らない。
例え魔法で傷を塞いでも流れた血液は補充できない。輸血を使っても針を体に刺すので同じことの繰り返しだ。
「いえ……まだ……まだよ……傷を塞いで出血さえ一時的に止めれば……アルハザードに辿り着ければきっと……」
最終的には全てをアルハザードの技術に託すつもりか。分かっているのに認められない、認めたくないのだろう。
だが、愚かにもほどがある。なにより、その腕に抱かれている娘のアリシアが一番哀れだ。
「目を背けるのは此処までだ、プレシア・テスタロッサ。いい加減に現実を見ろ」
オレの言葉にプレシアはビクリと肩を震わせ、オレを睨み付けながらアリシアの体を庇うように抱きしめた。
「違うわ……目を背けるんじゃない、取り戻すのよ! 理不尽な運命に奪われた全てを!」
「仮にアルハザードでお前の望む全てが取り返せるとしても、この状況でそこに辿り着けると思うか?」
大太刀の矛先を突きつけ、一歩前に踏み出す。隣に立つクロノは僅かに迷いの表情を見せたが、黙ってデバイスを構える。
あと少しで本懐を遂げられたプレシアから見れば、オレ達の存在はそれこそ理不尽な運命とやらの体現だろう。
だが、引き下がるつもりはない。プレシアは自分の願いを叶えるために多くの他人を危険に晒した。ならば、その願いに逆らう存在が現れるのは当然のことだ。
「認めない……私は、こんな理不尽を認めはしない。取り戻してみせる……どんな手を使っても!!」
声を荒げながら立ち上がったプレシアの全身から紫電が迸り、再び目の中に敵意が宿る。
それに反応したクロノが素早くデバイスを突き出すが、オレは咄嗟に手を上げて動きを制する。
「待て、何か様子がおかしい」
そう言ったオレの視線が捉えているのはプレシアではなく、ドス黒い色の霞のような負。
先程まではただ空中を漂ってプレシアの力を増幅させているだけだったが、今は空中で激しく震え、プレシアの周りを吹き荒れる台風のように動き出した。
その動きは狂ったように見えて、どこか歓喜に増えているようにも見える。まるで飢えていた獣がようやく獲物を捕らえたときのように。
すると、激しく動いていた負は突然動きを止め、黒い球体状の形となり、プレシアをその中に取り込んでいく。負を操っているプレシア本人にもこの現象に覚えが無いのか、自分を襲う現象に驚きながらも腕の中のアリシアを守るように抱きしめる。
「母さん!!」
その時、オレ達の背後から声がした。
視線だけ振り返ると、そこには肩で息をしながらこっちへ走り寄ってくるフェイトの姿があった。そのさらに後ろを見ると、高町、ユーノ、アルフの3人がいた。駆動炉を封印した後、そのまま真っ直ぐ此処へ来たのだろう。
「よせ、お前も取り込まれるぞ」
オレとクロノの間を通り抜けようとしたフェイトの肩を掴み、力尽くで動きを止める。
プレシアを囲んでいく負の勢いは見境無しだ。プレシアだけでなく、そのまま大きさを膨れ上がらせて近くにあった瓦礫をも引き寄せて取り込んでいる。
あの中にフェイトが飛び込んだところで何も出来ずに負の糧になるだけだ。しかもあれだけの負が一箇所に集まっているのだ、絶対に何か起こる。
「“今”あの中に入ってもプレシアは助けられん。助けるなら、あの中から“何か”が出てきた時だ。その気が有るなら手伝え」
そう言って肩から手を放してやると、大分冷静さを取り戻したフェイトがコクリと頷いた。クロノに視線で許可を求めると、無言で頷かれた。
続いて入り口付近に立つ高町達を手招きし、負の球体を警戒しながら全員を集める。
「いいか? 時間に余裕が有るわけじゃないんで、これから起こる事とやることを簡潔に話す。反論は無しだ」
そう言い切ったオレに僅かながらでも不満の気配が出てくるのは仕方ないが、割り切ってもらう。あの負の塊が動き出すまで正確なカウントダウンが有るわけじゃないんだ。
「まずあの黒い球体だが、しばらくしたら中から“何か”が出てくる。それがプレシアか、はたまたグロテスクな化け物かはまだ分からんが、“危険”なのは確実だ。これから、その時の役割分担を決める。まずは……」
* * * * * * * * * * * * *
「……以上だ。いいか? 絶対にクロノかオレの指示以外で動くなよ。これが最も生存率の高い配置なんだ。誰かを助ける為でも勝手な行動を取れば、そのせいで仲間の誰かが死ぬ可能性がある」
念を押したオレの言葉に全員が頷きを返す。
「よし。それじゃあ、配置に着いてくれ」
そう言うと、高町とフェイトは飛行魔法を展開して部屋を出る。その後ろにユーノが続き、部屋に残ったのはオレ、クロノ、アルフの3人。
続いてクロノは部屋の壁際に移動し、小さな魔法陣を何度も展開して“準備”を始める。
オレとアルフは現時点で特にやることはないので、大太刀を鞘に仕舞って腕を組み、体を休ませながら神経を研ぎ澄ませる。別に体力がキツイわけではないが、体力の余裕は有るだけ有った方がいいはずだ。
「……ねえ、1つ訊いていいかい?」
そんな時、後ろに立っていたアルフがおそるおそるといった感じで話しかけてきた。
生憎と黒い球体から目を離すわけにもいかないので、一瞬視線だけで振り向き、何だ? と前を見ながら答える。
「艦を出て行く時、フェイトに声を掛けてくれたじゃないか。アンタあの時、“経験上1つ言っておく”って言ったけど、どういう意味だい? もしかして、アンタも昔フェイトみたいに、親に捨てられたのかい? だから、あの子に後悔だけはするなって言ってくれたのか?」
「……悪いが、勘違いも良い所だ」
そういうことか、と余計なことを口走った過去の自分に内心溜め息を吐きながら返答する。
問いを投げたアルフと会話を聞いているクロノは恐らく呆然としているだろうが、残念ながら嘘ではない。
「順を追って説明すると、生まれた時からオレに身内はいない。“親みたいなもん”に捨てられたってのは微妙に合ってるが、あの子のソレとは違い過ぎる。次に、オレの発言はあの場で言った通り、ただのお節介だ。傍に廃人寸前の人間がいると、流石に気分が悪い」
後半に連れて徐々に吐き捨てるような口調に変わっていくが、これが正直な答えだ。
オレに家族というものは存在しない。生まれた時から……いや、造られた時から。
「そう……かい……」
オレの返答が予想外だったのか、アルフがどうにか返答した。
此処で会話を打ち切っても良かったが、自分でも意外なことに、オレの言葉は続いた。
「……でも、確かにオレとお前の主人の境遇はよく似てるのかもな」
「え? ……それってどういう……」
ドクン!!
その時、空間に大きな鼓動の音が響き、オレ達3人の意識が黒い球体に向けられた。
オレの言葉に反応して問い詰めようとしたアルフも動きを止め、クロノもデバイスを握り締める。
さっきまで大きさを膨れ上がらせていた黒い球体は形を留め、数回の脈動を起こし、動きを止めた。
「……来るぞ」
そう口にした瞬間、黒い球体が一瞬形を変え、内側を突き破って鋭い“何か”が飛び出してきた。
それを目にした瞬間にオレは腰に差した大太刀を抜刀。短い衝突音の後に体が確かな手応えを感じる。
だが……
(重いっ!!……くっ……!)
正面から弾き返すのを諦め、打ち付けた刀身を横にずらして右に受け流す。オレとアルフの右側を通り過ぎた物体は地面に衝突。だがそれだけで破壊力は納まらず、地面を貫通して床に大穴を空けた。
あんなもんの直撃を受ければ、今頃オレとアルフの胴体には巨大な風穴が開いていただろう。
床に大穴を空けた黒いものは良く見ると、何処か生物の脚のような形をしていた。
(これは……蜘蛛の脚か?)
脚は球体の中に吸い込まれ、再び取り込まれた。そして、黒い球体が霞のように消え始めた。その霞が晴れた先にいたのは、オレがこの世の者とは思えない程の異形の化け物だった。
全長は見た限り4~5メートルほど。先程オレに攻撃をしてきた蜘蛛の脚が数え切れないほど着いている下半身。人間の手を左右に数え切れないほど生やした胴体。紫の体色、獣の口のような形になっている両腕が着いた上半身。顔は赤い一つ目が輝いているのみ。
グラニデでもここまで禍々しい姿をしたモンスターは見たことはない。もしかしたら、こいつは本当の意味で
しかもこの化け物に理性は無いらしい、オレ達の姿を一つ目で捉えた瞬間に異様な咆哮を上げて獣の口が着いたような腕を突き出してきた。
オレとアルフはすぐさまその場から飛び退いて攻撃を回避し、左右から挟み込むような配置で化け物を警戒する。
「出てきたのは化け物か……クロノ、プラン通りにやれって高町達に伝えろ。アルフ、お前は壁際でクロノを守りつつオレのサポートだ」
「これが……こんな化け物が、あの鬼婆なのか? というか、本当に平気なのかい!? コイツの相手をあんた1人でやるなんて……!」
そう。アルフの言うとおり、もし黒い球体の中から出てくるのが化け物だった場合、それを前衛で相手にするのはオレ1人。それがオレの決めた役割分担だ。もちろん、この部屋に残ったクロノとアルフにも、ちゃんといる意味がある。
ちなみに、出てきたのがプレシアだった場合、部屋を出て行った高町達はUターンして戻り、全員で相手をするというプランだった。
「まあ、別に予想通りだよ。単に予想通り予想を裏切る化け物が出てきただけだ。それに……」
大太刀を一度宙に放り投げてキャッチし、首の骨を鳴らしながら何度か軽く肩を叩く。
「こういうデカブツの解体は、今まで何度も経験済みだ」
その言葉を引き金に、オレの思考は瞬時に研ぎ澄まされる。
さあ、此処からはアドリビトムの傭兵の本業開始だ。
ご覧いただきありがとうございます。
ようやくボスの二段階登場です。
テイルズ風なら、シノンは一番前の前衛1人、その後ろのアルフは中距離で格闘と支援系の術で援護、一番後ろのクロノはオール詠唱術で遠距離担当。そんな状態です。
では、また次回。