白銀の来訪者   作:月光花

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今回はVSプレシア・テスタロッサです。

では、どうぞ。


第16話 『魔法』VS『魔導』

  Side Out

 

 戦闘開始から僅か数分で、シノン達いる室内は無残な姿に変わり果てていた。

 

壁や床には数え切れないほどの穴が空いており、そこから広がる亀裂が繋がって部屋全体に蜘蛛の巣のような模様を作っている。

 

それがたった1人の人間によるものであり、勝負を仕掛けた男2人が現状では逃げ回っているだけというのは、どういうわけだろう。

 

だが、現在進行形でプレシアの攻撃を避けるシノンとクロノにも、言い分はある。何せ、目の前の相手がそれだけ滅茶苦茶な存在なのだ。

 

ラルヴァによって出力を底上げし、完全に制御された11個のジュエルシード。それを行使するプレシアの力は、まるで『戦争』そのものだった。

 

秒間で何十発と放たれる大威力のフォトンランサー、命中と同時に大爆発を起こして着弾点は“消滅”する紫電の雷撃、近付けば蛇のように迫る魔力鞭(高出力スタンガン機能付き)、締めは頑丈な自動防御。

 

(魔導師ってのは、あんな移動要塞みたいな戦い方が1つの理想なのか? 部屋の中走り回って大太刀振り回してるオレが馬鹿みたいじゃねぇか)

 

(勘弁してくれ。ロストロギアと未知のエネルギーの助力を得てまであんな戦い方をするのが理想だなんて、僕でも軽く発狂ものだぞ)

 

念話で軽口を叩き合うシノンとクロノに焦りや不安の色は無い。絶えず襲い掛かるプレシアの攻撃に対し、2人の被弾は未だにゼロだ。

 

シノンは室内を走り回り、クロノは飛び続ける。それに対して、攻撃を放ち続けるプレシアはその場所から一歩も動いていない。

 

シノンとクロノは常に場所を移動しなければ降り注ぐフォトンランサーと紫電に蜂の巣にされてしまうが、プレシアはその戦い方から動く必要も無いのだ。

 

その中で、今まで逃げ回っていたシノンとクロノが同時に攻勢に転じた。

 

『Blaze Cannon.』

 

クロノが飛行しながらS2Uの先端をプレシアに向け、そこから青色の魔力砲撃が放たれる。当然自動防御で防がれるが、爆煙が目くらましとなる。

 

そこへ、シノンが背狼の急加速によって距離を詰めて大太刀を打ち込むが、再び障壁に阻まれる。そこへ敵の接近を探知した魔力鞭がまるで生き物のように迫る。

 

シノンは両足で飛び退き、すぐさま連続のバックステップで鞭の迎撃範囲から逃れる。避けながら大太刀を切り上げから唐竹へと振るうが、斬り落とされた魔力鞭はすぐに繋がって元に戻る。

 

やはり、実体の無いあの鞭は魔力さえ供給すればいくらでも元に戻るようだ。

 

攻撃失敗。

 

そう思ったプレシアの口元に嘲笑が浮かぶが、シノンはそれこそが滑稽だと言うような笑みを返した。

 

直後、1発の魔力弾が障壁内部の“床”を貫通し、プレシアの肩を撃ち抜いた。その精密な軌道で空を飛ぶ魔力弾はクロノのスティンガースナイプだ。

 

つまりは、ブレイズキャノンを目くらましにして突撃したシノンすらも陽動だったのだ。本命であるクロノはシノンが仕掛けると同時にスナイプを撃ち、床下を進んでプレシアの足元を撃ち抜いたわけだ。

 

最初の斬撃を受け止められた時、シノンはプレシアが展開しているプロテクションが床下にまで届いていないことを見抜いていた。

 

それが分かれば、思いついた作戦を念話で話し合って実行するまでだ。

 

「ぐっ……!」

 

攻撃を受けた事実と魔力弾のダメージにプレシアの精神が大きく動揺する。それにより今まで絶えなかった弾幕が薄れ、シノンに詠唱の時間が生まれた。

 

「氷刃よ、鋭く宙を駆け抜けろ……フリーズランサー!!」

 

大気中の水分を集中、凍結させたことで出来た2メートルほどの無数の氷槍が指を鳴らす音と共に発射され、真っ直ぐプレシアに迫る。

 

プレシアのフォトンランサーに劣らぬ連射速度で放たれた氷槍は全て障壁に阻まれるが、右腕を通して威力がブーストされたことで、障壁が確実に削れていく。

 

それを許さんと言わんばかりにプレシアの射撃魔法が集中するが、大太刀を床に突き刺したシノンが取った行動は回避ではなく詠唱術、つまりは自分だけが使える『魔法』での迎撃だった。

 

「大火力が自分だけの取り得だと思うなよ」

 

プレシアはその発言と行動に一瞬眉を顰めるが、どれだけやれるか試してやると言うような笑みを浮かべ、紫電の雷撃を放つ。

 

「雷雲よ、虚空より集いて刃と為せ……サンダーブレード!!」

 

それを迎え撃つのは、シノンの背後から射出された雷撃を帯びた巨大な剣。

 

激突により周囲にスパークが飛び散り、目を塞いでしまいそうな程に強烈な青白と紫の雷光が部屋中を照らす。視界が悪くなったが、互いの術者は攻撃を相殺された事実を勘で理解していた。

 

続いてフォトンランサーの一斉掃射が放たれ、感付いたシノンは迎撃しようと両手と言葉を走らせる。

 

今更だが、本来シノンは詠唱術を発動させるのに毎回指を鳴らす必要は無い。ただ指を鳴らした音が頭の中で術を発動させるスイッチにしっくり来るだけだ。

 

現在は言葉の詠唱だけで術は発動するし、今のシノンにとって指を鳴らす行為は昔からの癖みたいなものだ。

 

「青き命の流れよ、地の底より産声を上げよ……アクアレイザー!!」

 

面制圧で迫る魔力弾に対し、シノンは自分の前方から大量の水を壁のような形で噴き出させて防御。そこからすぐに、反撃の為の詠唱に入る。

 

「灼熱の業火、進みて眼前にある蛮行を滅せよ……スパイラルフレア!!」

 

右腕が突き出され、赤色の魔法陣から放たれた巨大な火球が水の壁を一瞬で蒸発させてプレシアへと迫る。

 

その攻撃に対し、プレシアは防御を選択。自分の眼前に巨大な魔法陣を展開し、火球を正面から受け止める。しかし、その威力はプレシアの想像を上回っており、顔に僅かな苦悶の色が浮かぶ。

 

だが、シノンの詠唱はすでに次の術を唱え、照準をプレシアに定めている。

 

「出でよ、害悪を飲み込む猛き水塊……セイントバブル!!」

 

プレシアの四方に巨大な水泡が無数に出現する。それが一斉に炸裂し、凄まじい衝撃がプレシアを守るプロテクションに軋むような音を響かせる。

 

「この程度で……!」

 

苛立ちを含んだような声で反撃しようとするプレシア。だが、背後からプロテクションに直撃した砲撃魔法に勢いを逸らされた。

 

振り返ると、そこには障壁の削れた場所を狙ってスティンガーレイを連続で放つクロノの姿があった。恐らく、放火が片方に傾く瞬間を狙っていたのだろう。

 

この機会を逃せば、また先程のように一方的に逃げ回る状況となる。そう判断したクロノは空を飛びながらスティンガースナイプを4発撃ち出し、プレシアの四方から攻撃を仕掛ける。

 

「調子に……乗らないことね!」

 

だが、怒りを露にしたプレシアが声を上げ、敵意の矛先がクロノを捉えた。

 

周囲を浮遊していた魔力鞭が動き出し、クロノの放ったスナイプを残らず叩き落とす。その光景に驚きは無い。思念操作で自在に操れるなら、攻撃にも使える。

 

そのまま真っ直ぐ伸びた魔力鞭はクロノの元へと走り、すぐに追い着く。

 

逃げ切れないと判断したクロノは左手に障壁を発生させて受け止めるが、それによって足が止まってしまう。

 

そこへ間髪入れずに魔力弾の集中砲火が降り注ぎ、衝撃を受け止め切れなかったクロノは吹き飛ばされて壁に激突した。

 

(まず1人……)

 

ニヤリと口元を歪め、トドメを刺そうとプレシアの周りに紫電が集中する。

 

今から放とうとしているのは、海上を狙撃した時と同じ次元跳躍魔法の攻撃。例え全魔力を防御に注ぎ込もうと、障壁をすり抜けて数億ボルトの電流が直撃する。

 

だがこの時、怒りに身を任せたプレシアは大きなミスを犯した。

 

例え長期戦になっても、プレシアは守勢に徹するべきだった。時間が経てば抑え切れなくなった次元震が解き放たれ、自然とプレシアの勝ちは決まったのだから。

 

そして、クロノを仕留めるために全ての攻撃を集中させたせいで、シノンのマークを完全に外してしまった。

 

「オレから目を離したな」

 

聞こえた声に反応し、プレシアが振り向く。

 

その先には、強く踏み抜いた右足で地面を砕き、鞘に納められた大太刀を抜き放とうとしているシノンの姿があった。

 

普段後ろ腰に差している鞘を左側に差しており、力を溜めるように体勢を深く沈めている。プレシアに覚えは無いが、それは抜刀術の構え。

 

「っ……!」

 

一気に大太刀の刀身が鞘から引き抜かれ、眼前に迫る銀閃に目を見開きながらプレシアは思考を止めていなかった。

 

斬撃がプレシアの体に到達するまで1秒も無い。だが、それよりも防御魔法の展開の方が速いという確信があった。

 

結果はその通りとなり、プレシアと大太刀の刀身の間に一瞬で形成されたプロテクションが割り込む。

 

瞬間的に高められた集中力によって、シノンの視界にはプロテクションの出現がハッキリと認識できた。

 

だが、それでもシノンは抜き放った斬撃を止めない。否、止める必要が無い。

 

 

その証拠に、プレシアの展開したプロテクションは綺麗に両断されていた。

 

 

「なっ……!」

 

目の前で起こった現象に対し、信じられないと言うようにプレシアが驚愕する。

 

(どうして!?……いくら彼の術を受け続けて強度が削られているとはいえ、今までの彼の斬撃の威力から逆算して破れるはずは……!)

 

だが、プレシアが信じなくとも流れる時間は止まらない。

 

右薙ぎに抜き放った大太刀の刃が返され、来た道を戻るように大太刀の第2撃が放たれる。今斬ったのは障壁だけであり、プレシアを斬ったわけではない。

 

次の瞬間、大太刀の峰がプレシアの腹部を直撃し、ドフッ!! と耳にハッキリ聞こえる程の打撃音が鳴った。

 

身体強化もしていなかったのか、峰打ちで腹部を叩かれたプレシアの体は後方に吹っ飛び、数回床をバウンドして倒れた。

 

「障壁を斬られて随分と驚いていたようだが……」

 

驚愕が抑え切れず顔に出ていたのか、それを理解していたシノンは大太刀を手に持ちながら特に感情を宿していない声でプレシアの前に立つ。

 

「2回も刀を打ち込んだんだ。そいつの固さは“大体覚えられる”。あの程度なら、斬れないわけはねぇよ。そもそも、いつからオレの斬撃が“本気”だって確信を得たんだ?」

 

至極当然のように答えるシノンの言葉に、プレシアは言葉を失った。

 

目の前のこの少年は、たったの2回刀を打ち込んだだけでその強度を理解し、この程度なら斬れる、という感覚任せの確信で障壁を両断して見せたのだ。

 

これに関して、魔法は何も関係無い。

 

シノン自身の力であり、積み重ねてきた修練によって可能となった“技”だ。

 

魔導師という科学理論の世界にドップリ浸かってきたプレシアがこの展開を予想出来なかったのも、ある意味で仕方無いことかもしれない。

 

しかし、そんな後悔が報われることはなく、勝敗は此処に決した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 シノンの力加減に間違いが無ければ、プレシアに打ち込んだ峰打ちは骨の数本を砕いた。ジュエルシードの力なら治癒魔法で瞬時に治すことも出来るかもしれないが、現状でシノンの攻撃を防げる防御手段は無いと判明している。

 

例え立ち上がってきても、再び無力化される可能性は充分にある。

 

「何故……」

 

ふと、小さく声がした。

 

その音源に視線を向けると、シノンの目の前にうつ伏せで倒れながら悲痛な顔で涙を流しているプレシアの姿があった。

 

「……こんなはずじゃなかったのに。何故、もう一度愛しい娘に会いたい、笑顔を見たいという願いさえも叶わないの?」

 

縋り付くように、救いを求めるように先程まで殺そうとしていた相手に問う。

 

しかし、その問いにまず返ってきたのは言葉ではなく、プレシアの体を拘束する青色のバインド。それに続いて、壁に開いた穴からクロノが姿を現した。

 

頭を打ったのか流れた血で左目が塞がっているが、普通に歩けているようなので重傷と言うわけではないのだろう。

 

「世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだよ。ずっと昔から、もしかしたら今も、誰だってそうなんだ」

 

歩み寄りながらそう言うクロノの言葉にも、何処か悲しさが宿っていた。

 

そしてそこに、普段と大して変わらぬ表情と声色をしたシノンがプレシアの心の叫びを否定した。

 

「お前だって心の底じゃ理解してるだろう。そんな願いさえも叶えてくれないのがお前の生きる世界の姿だ。理不尽に、冷酷に、ただ今在る現実しか映さない。そこに過去という通り道は絶対に存在しない」

 

言うことは真実であり当たり前のことなのだろう。しかし、何故かその言葉は、プレシアの心に強く響いてくる。

 

「その世界でお前は前を見ず、狂気にとり憑かれたように過去を逃げ道に選んだ。それがお前の選択であり、結果だろう。死んだアリシアが見れば、今のお前をどう思うだろうな」

 

そこまで聞いて、プレシアは耳を塞ぎたくなかった。

 

「ハッキリ言ってやる」

 

その先の言葉を聞きたくないと心が叫ぶが、拘束された体は動いてくれない。

 

「過去を認められず、“今”を生きることすら出来ないヤツが、未来を語るな」

 

声の音量は変わらなかったというのに、その言葉はプレシアの心を貫き、ナイフで裂かれたような痛みをもたらした。

 

戦っているわけでもないのに、傷付いたわけでもないのに、心が痛かった。

 

「……あ、あぁ、あああああああああああ!!!!」

 

その痛みとシノンの言葉を否定するようにプレシアが叫び声を上げ、バインドに縛られた全身が凄まじい勢いで放電する。恐らく、全身から放たれた魔力が変換資質によって紫電に変わっているのだろう。

 

自分の肉体が傷付くこともいとわないと言うほどの出力で電撃が放たれ、体を拘束していたバインドが次々と砕け散っていく。

 

「違う……違う……私は、違う……!」

 

ブツブツと小さな声で呟きながら、プレシアは虚ろな目で片手を持ち上げる。そのモーションに反応し、背後で紫電が3つに集中する。

 

「「っ……!」」

 

それを目にしたシノンとクロノはすぐさまその場から飛び退き、自分達に放たれた1発ずつの紫電をどうにか回避した。

 

そこでふと気付いた。

 

今放たれた紫電は3発。その内の2発は左右前方に立つシノンとクロノに向けられていたが、残りの1発は何処に向かっていったのか。

 

紫電を放ったプレシア本人もシノン達と同じ瞬間にその疑問に至ったらしく、ハッとなってすぐに行き先を目で追った。

 

そして気付いた。

 

 

最後の紫電が向かった先にあるもの。それは、部屋の一角に置かれていたアリシアの体を保管する生体ポッドだった。

 

 

その存在にはシノン達も当然気付いていたが、死体をどうこうするつもりは無いし、プレシアの相手をしていてそれどころではなかった。

 

「ダメ……っ!」

 

震える声で呟き、プレシアが術式を展開する。何かの魔法を使おうとしているのか、それとも魔法を解除しようとしているのかシノン達には分からなかったが、死に物狂いと言うべき必死は目に見えて理解できた。

 

だが、世界はまたしても、理不尽な現実を叩き付ける。

 

紫電が生体ポッドに直撃し、命中を知らせる風がシノンの銀髪を揺らした。

 

目を凝らして見てみると、着弾した紫電が生体ポッドの前に展開された魔法陣と拮抗している。恐らく、あらかじめプレシアが防御魔法を施したのだろう。

 

自分の存在意義と言っても過言ではないアリシアの体を、プレシアが何の保険も掛けずに戦場に置いておくはずはない。

 

しかし、シノンとクロノの目から見ても、生体ポッドに施された防御魔法の強度では、紫電を防ぎ切れない。術を施したプレシアも、当然理解出来ているはずだ。

 

そして、遂に障壁が砕け散り、生体ポッドの目の前で大爆発が起こる。

 

それによりポッドのガラスに無数の皹が走り、内側に入り込んだ無数の割れた破片が内部のアリシアの体を……斬り刻んだ。

 

「あ、あぁぁ…………いやぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!!」

 

その光景を前に、手で顔を覆ったプレシアの絶叫が部屋の中に響き渡った。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

どうにか、プレシアとの戦いは終わりました。けど、まだ無印編の戦いは終わりません。ボスで第2戦とか、よく有ることでしょ?

では、また次回。

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