白銀の来訪者   作:月光花

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約一ヶ月ぶりの更新です。遅くなってしまいました。

今回はラスボス到着までのダンジョン攻略(という名のサーチ&デストロイ)です。

では、どうぞ。


第14話 積極的破壊活動

  Side Out

 

 「なのは、体や魔力は大丈夫?」

 

「うん。流石に全快じゃないけど、しっかり休んだから充分動ける! シノン君に言われたとおり、私達は庭園の駆動炉を止めよう!」

 

バリアジャケットを着たなのはとユーノが通路を走り、転送ゲートへ向かう。

 

エイミィから報告を聞いたが、先に突入したクロノとシノンはすでに庭園内部で暴れ回っているらしい。それはもう派手に。

 

「アンタ達、アタシも一緒に行くよ」

 

聞こえてきた声に振り向くと、そこには戦闘時の姿をしたアルフがいた。

 

フェイトも気にはなるが、今はプレシアを止めることを優先したいらしい。なのは達に断る理由は無く、3人は改めて時の庭園に侵入した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 一方、ブリッジで崩れ落ちたフェイトは医務室のベッドに寝ていた。

 

光を失った瞳からは活力を感じられず、無気力な雰囲気だけが漂っている。

 

これからどうなるのかわからないが、フェイトはそれさえ知ろうとは思わなかった。もう何もしたくないのだ。

 

先程まで側にいたアルフもなのは達が心配だからと言ってこの場にいない。

 

少しだけハッキリとしてきた視界の中で、フェイトはモニターを見た。

 

(母さんは最後まで私に微笑んでくれなかった……私が生きていたいと思ったのは、母さんに認めてほしかったから。どんなに酷いことをされても、ただ母さんに笑ってほしかった……)

 

だが、現実は違った。

 

認めてほしいと、笑っていてほしいと願ったプレシアの姿は与えられたアリシアの記憶であり、自分に返ってきたのは明確な拒絶と嫌悪だった。

 

庭園内部を映すモニターになのは、ユーノ、アルフの3人が映る。

 

(アルフ……ずっと私の側にいてくれたアルフ。言うことを聞かなかった私の側にいてくれて、きっと悲しいと思うこともあったはず……)

 

続いて視界がなのはを捉える。

 

(何度も戦った白い女の子……何度も戦って、何度も突き放し続けた私の名前を呼んでくれた……私は、一度も名前を呼んでないのに……)

 

気が付けば、ベットから身を起こしたフェイトは罅割れたバルディッシュを手に取っていた。

 

『ただ捨てればいいって訳じゃないよね……でも、逃げればいいって訳じゃ、もっと無い』

 

最後の決闘を始める前になのはが口にした言葉が脳裏によみがえる。

 

その時、待機状態のバルディッシュがデバイスフォームに形態を変える。しかし、フレームの全体に走った亀裂は消えず、ボロボロなのは変わりない。

 

『Get Set.』

 

バルディッシュがぎこちない動きで無理矢理に起動し、短く言葉を紡いだ。前置きはいらず、行こう、と。その姿を見て、フェイトの目から涙が流れた。

 

「そうだよね……バルディッシュも、ずっと私の側にいてくれたんだもんね……あの人が言ったとおり、お前もこのまま終わるなんて、嫌だよね」

 

『Yes,sir.』

 

肯定の声を返したバルディッシュが金色の輝きに包まれ、フレーム全体を包んだところで勢い良く弾ける。

 

光が弾けたそこには、傷一つ無い姿に戻ったバルデッシュがあった。

 

『Recovery.』

 

「私達の全ては、まだ始まってもいない……」

 

入院服の上から魔力光を弾けさせ、フェイトはバリアジャケットを纏って足元に魔法陣が発生させる。

 

「だから、本当の自分を始めるために……まずは、今の自分を終わらせよう」

 

そう言ったフェイトは転移魔法を使い、時の庭園へと突入した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 その頃、時の庭園では3つの振動が鳴り響いていた。

 

1つ目は次元空間そのものを襲う次元震、2つ目は庭園上部で暴走する駆動炉を目指して傀儡兵と戦闘するなのは達、そして最も大きく連続で響く振動が、庭園の最下部を目指すシノン達だった。

 

突入した者達はそれぞれ庭園の中心で何処までも上下に延びている螺旋階段の中央空洞を飛行し、目的地を目指している。

 

城の主の下へ向かうシノン達の方は、当然目的地に近付くにつれて妨害や傀儡兵の数が増していくが、そんなものは管理局の執務官とそれを倒したシノンの障害にすらならない。

 

庭園内部の内装は高級そうなデザインなのだが、2人の暴れっぷりにはそんなもの知ったことかと言うように、一切の遠慮が見えない。

 

飛行魔法で空中を舞いながら、クロノはマルチタスクで3発のスティンガースナイプを操り、周囲から接近してくる20体近い傀儡兵を残さず撃ち砕いていく。

 

傀儡兵にもそれぞれサイズの違いがあるが、防御魔法も使わない単純な物理装甲などクロノの魔力弾にとってはガラス細工も同然。大きい敵でも、2発撃ち込めば確実に砕ける。

 

そして、どれだけ頑張ってもクロノのスナイプ2発で砕けるような装甲では、シノンの前では紙屑も同然であった。

 

ちらりとクロノが視線を頭上に移すと、こちらの倍に届きそうな数の傀儡兵を相手に、その真っ只中を凄まじい速度で飛び回る白銀色の光が見えた。

 

少々変わった特性を持っているため、飛行魔法で立体的な機動は出来ないのだが、シノンは背狼による直線加速を重ねることでその欠点を捻じ伏せている。

 

噴射音が響いてシノンの姿が掻き消え、次の瞬間にはすれ違った2、3体の敵が綺麗に胴元から切断され、すぐさま爆散する。

 

加速が終わったところに傀儡兵が剣を振り上げてくるが、シノンは大太刀を左肩に担ぐようにしてそれに突進。右薙ぎに振り抜いた刀身が目の前の巨体を両断した。

 

その奥に待ち構えていた傀儡兵の頭を左手で鷲掴みにし、そのまま片手の力だけで傀儡兵の体を回転するように振り回し、近付いてきた他の傀儡兵の顔面に全力で叩き付ける。

 

2体の傀儡兵叩きつけた部分を中心に亀裂を走らせ、轟音と共に砕け散る。

 

そこからシノンは大太刀を振り下ろしながら急降下し、自分の体を回転させて縦に並んでいた3体の傀儡兵を両断する。

 

1体の傀儡兵が両肩の部分に担いだミサイルポッドのようなものから巨大な魔力弾を放ってくるが、シノンは近付きながら空中で体を踊るように回転させてかわし、大太刀で残らず斬り裂く。

 

シノンの機動力と近接戦闘の力に対して1体ずつで戦うのは不利だと判断したのか、残った傀儡兵は密集して壁を作りながらシノンを壁際に追い詰めていく。

 

しかし、それは失策だった。

 

巨体の傀儡兵が集っている今の状態は、シノンにとって追い込まれているのではなく、一網打尽に撃破できるチャンスを与えただけだ。

 

大太刀の刀身に赤い光が宿り、柄元から噴き出した炎は即座に刀身を覆って集束し、回転し、数秒のチャージを挟んで固定される。

 

「魔王……炎撃波ぁぁ!!」

 

大太刀が虚空を斬り裂き、放たれた大火力の炎がその太刀筋に存在する傀儡兵を全てを焼き払った。

 

密集していた傀儡兵は残らず爆散し、庭園内部に大爆発の衝撃と音を撒き散らした。

 

爆煙が晴れて静寂が訪れ、これで終わりかと判断したシノンとクロノは先を急ごうと庭園下方を目指して飛行を再開する。

 

「1体1体は大したことないが、図体デカイ奴等がこうまで集まれば無視できなくなるな。包囲された状態で纏めて自爆でもされたら少し厄介だ」

 

「突入時にも言ったが、傀儡兵は魔力で動くただの人形だ。無人兵器である以上、そういう攻撃をしてくることも予想しておいていいだろう」

 

シノンの感想に返答しながら、クロノは空中に表示された仮想スクリーンを操作していた。何をしているかと訊いてみると、今話した内容をなのは達に伝えたらしい。

 

「体力を温存するためにも、出来れば交戦は避けたい。だが、本当に集団で自爆でもされたら厄介だ。遭遇した敵はなるべく倒していこう」

 

そんな会話をしていた時、2人の会話を狙ったように、巨大な拳が側面の壁をぶち破ってきた。

 

「「…………っ!!」」

 

即座に反応した2人はすぐさま降下を中断し、クロノは急上昇、シノンは背狼の急加速で拳の軌道から外れた位置に離脱する。両者それぞれ、柔と剛を体現したような回避だ。

 

狙いを外した拳は反対面の壁に突き刺さり、続いて攻撃を放った本体が壁をぶち破って2人の前に姿を現した。

 

青と白を混ぜた鎧、両肩に搭載されたキャノン砲、つい先程殲滅した傀儡兵よりも一際大きい全身。軽く見ても20メートルはある巨体だ。

 

すぐさまクロノは思念操作によって3発のスナイプを、シノンは蒼破刃を放ち、2人の攻撃が巨体に直進する。

 

しかし、その攻撃は全て着弾の寸前で無色のシールドに阻まれ、消滅した。

 

どうやら、他とは違って防御障壁を持っているらしい。しかも、それなりに強力な出力に思える。

 

シノンとクロノはチラリと互いを見て目線を合わせ、クロノは傀儡兵の左、シノンは右を目指して何も言わずに散開する。

 

クロノは高速飛行しながら速度と貫通力に秀でた射撃魔法、スティンガーレイを照準、傀儡兵の胸部を狙って連射する。

 

当然その攻撃に対して防御障壁が展開されるが、クロノは連続で放つ魔力弾の着弾点を一箇所に絞り込み、障壁を確実に削っていく。

 

それを許すまいと傀儡兵が両肩のキャノン砲をぶっ放すが、飛行するクロノを捉えられず、着弾した壁に大爆発の大穴を開けただけだった。

 

そして傀儡兵の目が完全にクロノに引き付けられたこの瞬間、勝負は決した。

 

「風よ、刃となりて切り刻め……ウインドカッター」

 

その時、シノンの詠唱によって吹き荒れた斬風が防御障壁の一点、クロノが攻撃を集中させた場所を的確に抉り、障壁に穴を作った。

 

即座にこじ開けた穴の内部へクロノが4発のスナイプを入り込ませ、それに続いて背狼で加速したシノンが侵入し、頭部目掛けて上昇する。

 

蛇のような複雑な軌道で空中を走るスナイプが傀儡兵の四肢の間接部を的確に撃ち抜き、ドォン!! と音を立てて膝を付いた傀儡兵の頭上に大太刀を振り上げたシノンが接近する。

 

「はぁあああーーっ!!!」

 

咆哮と共に気合一閃、凄まじい速度で大太刀の斬撃を繰り出した。

 

唐竹の斬撃が叩き込まれ、刃によって描かれた線が一瞬だけ小さな輝きを放つ。

 

大太刀の刀身が頭から股間にかけて振り下ろされ、シノンは傀儡兵の足元に着地。そのまま大太刀をゆっくり鞘に納め、カチン! と柄尻が音を鳴らす。

 

すると、20メートル近くある傀儡兵の巨体が切断面から“ズレ”を起こし、やがて左右の半身が鈍い金属音を立てて崩れ落ちた。

 

今度こそ敵がいなくなったことを確認し、シノンとクロノは同時に息を吐く。

 

「無傷で倒せはしたが、こういう奴の相手は砲撃で火力が飛び抜けてる高町の方が向いてるかもな。力づくでジュエルシード封印出来るくらいだし」

 

「確かに、狭い空間であの巨体を相手にするなら大火力の砲撃が一番有効かもしれないな。僕も砲撃は使えるが、なのはの威力には負ける」

 

2人でこの場にいない人間のことを褒めながら再び先を進む。

 

道中傀儡兵が度々出現するが、互いに特化している能力の相性が良いらしく、2人は何の苦も無く薙ぎ払っていく。

 

遠距離攻撃を得意としたタイプをクロノが潰し、接近戦を仕掛けようとわらわら密集してきたタイプをシノンが次々と斬り伏せる。

 

やがて、長く続く螺旋階段の終点に辿り着き、シノンとクロノは庭園の床に足を着けた。足を進めた2人の先にあるのは、大きな扉。

 

シノンとクロノは数秒だけ視線を合わせ、無言で扉の前に立って侵入した時と同様に右足とS2Uを持ち上げ……

 

 

ドオォォン!!!

 

 

右足の蹴りと魔力砲撃で巨大な扉を吹っ飛ばした。

 

室内に盛大な破壊音を撒き散らし、扉が歪みを起こして宙を舞う。

 

だが、魔力の閃光と共に放たれた紫電がそれを迎撃。圧倒的な暴力で飛んでいった扉を一瞬で消し炭にした。

 

その光景を半ば予想していた2人は驚かず、シノンは抜刀した大太刀の刀身を肩に乗せ、クロノはデバイスを握り締めながら室内へと足を踏み入れる。

 

「ノックにしては随分雑音が酷いわね。呼び鈴でも着ければ良かったかしら?」

 

暴力を放った張本人は薄く笑いを浮かべながらこちらを見た。その人物の周りには浮遊する黒い霧。スクリーン越しで見たときよりも遥かに密度を増している。

 

その時初めて、元凶であるプレシア・テスタロッサの瞳が、2人を捉えた。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

射撃と拘束優先の万能型のクロノと近距離なら圧倒的なシノンが組めば、とりあえず大型の傀儡兵程度では中ボスにすら届きません。

原作では美少女2人が力合わせて庭園の外壁ぶち抜く攻撃出しましたが、こっちの2人組みは瞬間的な総合火力が高くないので。

次はボスの間に突入です。

では、また次回。

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