白銀の来訪者   作:月光花

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どうも、すごいお久しぶりです。

仕事忙しいのとエクシリア2のクリア頑張ってたらいつの間にかすごい時間経ってましたww

……ルドガー、幸薄すぎワロタwww

なんか、後半は流れが少し強引になってます。

では、どうぞ。



第9話 災厄の種

  Side Out

 

 「な、なんてことしてんのあの子達!!」

 

緊急事態を知らせるアラーム音が鳴り響く中、ハッキリと聞き取れるほどの声を上げているのは先程までモニターを見ていたエイミィだった。

 

その隣に立つクロノは何も言わないが、厳しい顔でモニターを見ている。

 

そこにあるのは、海鳴市のすぐ近くに広がる海面の映像だ。しかし、映し出されているのは青空の下に広がる穏やかで美しい海ではない。

 

空は曇りどころか雷の音すら響かせる雷雲が渦巻き、海面には遠目の人間が見てもハッキリと脅威が伝わりそうな程大きな竜巻が6つ。最後に竜巻によって発生した大津波だ。

 

もし近くに人が住む小さな島や都市があれば、1時間もしない内に壊滅しているだろう。

 

普通に見れば世界の終わりを知らせるような大災害だが、これはある意味で人為的に引き起こされたものだった。

 

その原因は地球にばら撒かれた災厄の種、ジュエルシード。そして、海の中に沈んでいた6つの種を芽生えさせたのは、フェイトとアルフの2人。

 

やったことは単純で、海中に向けて電気の魔力流を叩き込み、6つのジュエルシードを強制発動させて位置を特定したのだ。

 

発動したジュエルシードは自身の最も近くにある触媒、海水を掌握して激流と暴風を組み合わせた竜巻を発生させ、最終的には雲を通して雷まで扱えるようになった。

 

結果、このような大災厄の現場が誕生したわけだが、これを見た専門家の意見は……

 

「まったく呆れた無茶をする子だわ……!」

 

この通り、ブリッジの全員を代表するように、リンディは怒りを通り越して呆れていた。

 

「無謀ですね。あのままでは間違いなく自滅します。アレだけ広範囲に魔力流を打ち込んですぐにジュエルシード6個を封印……個人が発揮できる魔力量をとっくに超えてる」

 

そう。フェイトのやり方は危険や成功率が低い、などの次元ではない。不可能なのだ。

 

一つ一つならともかく、6個のジュエルシードを同時に発動させたことで単純な計算でも難易度は6倍だ。しかも強制発動の為に大量の魔力を消費し、フェイトのコンディションは全快から程遠い。

 

その証拠に、戦闘を開始したフェイトは封印どころかジュエルシードの暴走によって生じた雷や突風、巻き上げられた海水の激流に手も足も出ない。

 

「どういう状況ですか~…………ああ、大体分かりましたんでやっぱりいいです」

 

ブリッジの入り口方面から聞こえてきたその声にリンディが振り向くと、そこには何故か両脇になのはとユーノを抱えたまま歩くシノンがいた。

 

「……なにしてるの?」

 

「いや、一番慌ててるわりに高町なのはの走る速度が遅かったんで、どうせだからユーノ・スクライアも一緒に抱えて走ってきました」

 

2人の人間を抱えたまま走ってきたというのに、シノンは汗1つ掻いていない。

 

シノンに降ろされたなのははモニターに映るフェイトの姿に目を見開き、ユーノは多少ふらつきながらも頭を数回振って立ち上がる。

 

「あの、私急いで現場に……!」

 

「いや、その必要は無いよ。放っておいてもあの子は自滅する」

 

「えっ? で、でも……!」

 

「仮に自滅しなくても力を使い果たしたところで叩けばいい。一応捕獲の準備を」

 

フェイトの状況を見たなのはが慌てた様子で進言するが、クロノの冷静な声がそれを阻んだ。残酷に思えるような決断になのはは戸惑いを隠せないが、そこへリンディが言葉を続けた。

 

「私たちは常に最善の選択をしなければならない。残酷に見えるかもしれないけど、これが現実」

 

その言葉を聞いたなのははついに反対の言葉を失い、言葉を無くして俯いた。

 

後ろに立つユーノも同じように言葉が出せなかったが、視線が沈みそうになる直前に右肩を誰かに掴まれた。

 

反射的に持ち上がった首と共に視線が持ち上がると、そこには何処か近寄りがたいような気配を漂わせたシノンがいた。見ると、彼の右手がユーノの肩を掴んでいる。

 

「ユーノ、1つ答えろ。お前の目で見て、あの場所の結界はどれくらい保つ」

 

「え?」

 

普段よりも低い声での質問を出され、ユーノは結界魔導師である自分の実力から即座に適切な答えを叩き出し、それを口にした。

 

「えっと……多分、限界まで粘っても15分。結界を張った本人の制御が緩めば、もっと短くなると思う。そもそも、あの状況をいつまでも結界の中に留めるなんて不可能だよ」

 

「……わかった。それだけ分かれば充分だ。ありがとな」

 

ユーノの返答を聞いたシノンは数秒の間を置き、礼を言って軽く肩を叩いた。

 

そのままユーノの隣を通過したシノンが向かった先には、行き先がモニターに映る現場にセットされている転送ゲートがあった。

 

「待ちなさいシノン君。何処へ行くつもりなの?」

 

「現場に向かってジュエルシードを全て封印します。そちらが言う最善の判断とやらはわかりましたが、オレは事件が片付いたらあの街に住もうと思ってますんで、もし世界ごと消えたら困ります」

 

ユーノの推測が正しく、もしフェイト達が力尽きれば結界は消える。

 

そうすれば、あの場所で起こっている巨大な津波や竜巻は間違いなくすぐ近くの海鳴市を飲み込んで絶大な被害をもたらすだろう。

 

仮に管理局の人間が結界の展開を引き継いで時間を繋げたとしても、暴走したジュエルシードの1つが次元震を発生させてしまったら誘爆のような形で次元震が連続発生し、最悪の場合は世界ごと消える。

 

ユーノの情報からそこまで事態を予測したシノンの観察眼は大したものだが、口にした理由が色んな意味で予想外なせいか何処か締まらない。

 

だが、誰もが言葉を出さなかった空気の中、シノンの進行を割り込んだクロノが阻む。

 

「なんだ? お前に止める理由は無いだろ。オレは有事の際にある程度自由に動ける許可を貰ってるし、お前たち管理局は戦力を失わなくて済む」

 

それは事実だ。

 

シノンは確かに契約の際に独自の判断で行動する許可を貰っているし、傭兵として雇われたシノンはアースラの元々の戦力に加えられていない。

 

「いや、行かせるわけにはいかない。キミの力はフェイト・テスタロッサの背後に控えているこの事件の黒幕を倒すために必要だ」

 

「知るか。こっちは移住先の未来がかかってんだよ」

 

黒幕、という言葉にピクリと反応するが、シノンは平然とした様子で否定した。

 

そして、一瞬の発光と共にデバイスのセットアップを完了させ、腰に差した大太刀の柄に手を添える。この距離なら、確実にクロノの首を刎ね跳ばせるだろう。

 

「止めたきゃ好きにしろ。ただし、死ぬ覚悟はしとけよ? 今のオレは色々と腹が立ってんだ」

 

放たれる殺気からシノンが本気だと感じ取り、再びブリッジは沈黙に包まれる。

 

「やめなさい」

 

リンディの声が短い沈黙を破り、全員の視線がそちらを向く。

 

「シノン君。どうせ行くなら雇い主として依頼するわ。今から現場に向かい、ジュエルシードを回収、その後にフェイト・テスタロッサの身柄を確保してください。やれますね?」

 

「……了解しました」

 

リンディの命令に対してシノンは普段よりも冷たい声で答えた。まるで、必死に何かの感情を抑え込んでいるように見える。

 

だが、それを追求されるよりも早くシノンは転送ゲートへ歩を進める。

 

「それと、なのはさんとユーノ君も同行してください。主にシノン君のサポートをお願いしたいけど、現場での具体的な行動はあなた達の判断に任せます」

 

つまりは現場に着いたら好きに行動してもいい、ということだ。

 

数秒間唖然となるが、意味を理解したと同時になのはは笑顔を浮かべた。

 

「はいっ! ユーノ君、行こう!」

 

「あ……う、うんっ!」

 

シノンの後を追うようになのは達は転送ゲートへと走り出し、セットアップと共に服装が普段着からバリアジャケットに変わる。

 

「フェイトのことは任せる。お前は用があるらしいが、オレにとってはどうでもいい相手だ。助けるなり捕まえるなり好きにしろ」

 

転送ゲートの内部から溢れる光に包まれながら、シノンはなのは達を見ずに言う。

 

やはりその口調と様子からは怒りの気配が感じられるが、なのははそれを尋ねず、ただ黙って強く頷いた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side シノン

 

 結界内に転送されて最初に感じたのは、全身を叩く強風と豪雨だった。

 

一瞬目を細めるが、すぐに全身を環境に適応させて周りを見渡す。

 

すぐに激流の海上にある6つの竜巻を確認し、側に居る2人に“行くぞ”と視線を送って行き先を伝える。

 

『Accel Fin』

 

ヴェルフグリントの声に続いてオレの両肩に白銀色のフィンがそれぞれ2枚ずつ展開され、全身が重力から開放されたように軽くなる。

 

そしてすぐに前方へ加速。同時にスタートした高町なのはとユーノ・スクライアを徐々に引き離し、ジュエルシードの暴走現場へと飛行する。

 

(し、シノン君、なんでそんな速いのぉ~……!)

 

(シノンの使ってる飛行魔法がなのはのフライヤーフィンの上位版だからかもね。だけど、アクセルフィンって瞬間的な反応と発揮速度は優れてるけど、細かい機動が難しいらしいよ)

 

(確かにそういう短所はあるが、オレの場合はそもそも“曲がれない”からな。だから瞬間的な発揮速度が高いこの魔法が良いってヴェルフグリントに言われたんだよ)

 

つまりはスキーの直滑降と同じく、旋回性能を捨てて直線速度に優れる魔法を取ったわけだ。それに、オレの保有魔力なら他の奴よりも人一倍大きな出力を出せる。

 

そんなわけで、暴走現場に第一位として辿り着いたオレは改めて現状を見る。

 

「まずは竜巻を消滅させるべきか。荒れた海の方は……最悪の場合は精霊召還でウンディーネに沈めてもらうか」

 

現状のオレの力と暴走体のステータスを頭の中で見比べ、出来るだけ早く事態を収拾させる方法を順にシュミレートしていく。

 

だが、思考を巡らせている中、視界の端からこちらに迫る影があった。

 

額に宝石が埋め込まれたオレンジの毛並みをした狼。確かアルフとかいう名前で、クロノの話じゃフェイトの使い魔らしい。

 

そいつが発光の後に人間の女性へと姿を変え、怒りの表情でオレに拳を突き出してきた。

 

魔力で強化されているようでかなりの速度だが、格闘戦の技術が無いのか怒りで感情を制御出来ないのか、大振り過ぎて拳の機動が丸分かりだ。

 

とりあえず、相手をしてる暇は無いのでアルフの拳を右手で受け止めて指が骨に触れる深さまで強く握る。

 

その痛みでアルフの顔から怒りの気配が薄れ、少しだけ冷静さが戻る。

 

「そこをどけ。オレはお前らに用は無い」

 

「ジュエルシードの封印だけが目的だってのかい!? 信用出来るか! 何が来ようと何が起ころうと、アタシがフェイトを守ってやるんだ!」

 

アルフが拳にさらなる力を込めて前へと進もうとする。それを見て後ろにいたなのは達が止めようとするが、それよりも先にオレは動いた。

 

拳を握る右手を横へ払い、無防備となったアルフの頬を左手でぶん殴る。

 

バキッ! と命中を知らせるような音が響き、顔面に襲い掛かった脳も揺らす衝撃によってアルフは空中で確かに後退した。

 

殴られたまま数秒呆然となるが、アルフはすぐに表情を怒りの色に染めてオレへと向き直ろうとする。しかし、怒りを爆発させるより先にオレの左手が襟元を強く掴んで引き寄せた。

 

「ふざけんじゃねぇぞ。何が来ようと、何が起ころうと守る? じゃあこの様はなんだ?

守れてないだろうが!! このままじゃフェイトもお前も、自分の勝手な都合で無謀な挑戦して犬死にするだけだ! 本当に守りたいって思うなら、こんなことさせてんじゃねぇよ!!」

 

もう限界だった。怒鳴らずにはいられない。

 

こいつ等も管理局も、自分達の都合ばかりを優先して自分の行動に巻き込まれるかもしれない無関係な人間達のことを何も考えていない。

 

何が正しいか間違ってるか、などという以前に最低限でも守るべきルールが過程に含まれていない。こんなんじゃどっちも似たようなものだ。

 

「犬死にしたいならテメェ等だけでやってろ! 無関係な人間まで巻き込むな! 勝手にジュエルシードを暴走させて、力が足りなかったら自分達は勝手に死んで他に丸投げか? ざけんな!!」

 

「あ、アタシは……っ」

 

完全に怒りの気配が消え、言葉に詰まったアルフは顔を俯かせる。だが、オレはこいつが何を言おうと興味無い。襟を掴む左手を突き飛ばし、再飛行で隣を突っ切る。

 

眼前に立ち上る6つの竜巻を捉え、オレは大太刀を抜刀した。

 

「さあて、さくっと終わらせようかね」

 

その言葉で意識を切り替え、オレは竜巻の中へと突っ込んでいった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side Out

 

 竜巻へと突撃したシノンの姿をフェイトは肩で息をしながら見ていた。

 

白銀色の魔力光の尾を引きながら6つの竜巻の中を飛び回って1人で大太刀を振り回しているが、先程までのフェイトとは逆に迫る竜巻を押し返している。

 

前に自分を助けてくれたこともあるが、フェイトにとっては色々と謎の多い存在である。

 

接点の無い現状では信用も何も無いが、結果論とはいえシノンがまたフェイトの命を救ったというのは逃れようの無い事実のようだった。

 

「くっ……!」

 

自分の力が足りなかった。

 

また他人に助けられた。

 

その2つから滲み出る悔しさを感じてフェイトは歯を噛み締めるが、魔力が殆ど残っていない今の状態では何も出来ないことを理解した冷静な心が肉体を抑制する。

 

「フェイトちゃん!」

 

後ろから自分を呼ぶ声に反応して振り向くと、アルフを後ろに連れたなのはが真っ直ぐ降りてきた。

 

近くを見渡すと、ユーノはバインドで竜巻を拘束してシノンをサポートしている。シノンの念話による指示が的確なのか、コンビとして相性が良いのか、かなり息が合っている。

 

「手伝って! 早くジュエルシードを止めないと大変なことになっちゃう!」

 

『Power charge』

 

なのはの持つレイジングハートから桜色の魔力が放出され、その全てがサイスモードのバルディッシュのコアに降り注ぎ、供給された魔力によって鎌状の魔力刃が再び形成される。

 

「2人でせーので一気に封印!」

 

それだけ言ってなのはは返答を待たずにレイジングハートをシューティングモードに変形させて少し離れた場所に移動。足元に魔法陣を展開して砲撃をチャージする。

 

だがフェイトはすぐに動き出せず、迷った目でなのはを見ている。

 

そんな様子のフェイトの肩に近くにいたアルフがそっと手を置いた。

 

「アルフ……」

 

「やろう、フェイト。アタシ達が始めたことなんだ。アタシ達が終わらせなきゃ」

 

『Sealing form. Set up.』

 

「バルディッシュ?」

 

槍の姿、シーリングフォームへと変形したバルデッシュを見て、フェイトは再びなのはを見上げる。その視線に対し、なのははウインクで返す。

 

フェイトは数秒だけ瞳を閉じ、決心を付けてアルフに頷く。主人の意思を理解し、アルフはユーノの近くに移動をしてバインドのサポートを手伝う。

 

そして、自分の使い魔の行動を目に映したフェイトは自身の足元に魔法陣を展開した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 (ユーノ、右の竜巻をこっちに寄せろ。そっちの狼、後ろの竜巻2つを止めろ)

 

(了解!)

 

(その呼び方やめてくれないかい? どうせならアルフで頼むよ)

 

一方、シノンは変わらず竜巻の中心で戦闘中だった。

 

全身を叩く突風や雨粒を気合でもろともせず、走る雷を背狼の高速移動で全て回避。自分を飲み込もうと迫る津波を大太刀の斬撃から放つ魔力波で吹き飛ばして直線状にある竜巻を削る。

 

緑色のチェーンバインドが竜巻の1つをシノンに引き寄せ、オレンジ色のチェーンバインドが後ろから迫る2つの竜巻の動きをその場に留める。

 

「魔皇刃!」

 

右側から迫る竜巻に高く振り上げた大太刀が叩きつけるように振り降ろされ、右腕のブーストを加えた闘気の爆発が竜巻を吹き飛ばした。

 

だが、入れ替わるように残りの3つの竜巻が迫る。

 

「吹き荒れよ炎風……フレアトルネード!」

 

左手で指を鳴らすとシノンを中心に紅蓮の炎が竜巻を作り、3つの竜巻を障壁のように受け止める。流石に押し返すほどの威力は出せないが、数秒の時間が稼げればシノンは充分だった。

 

「熱破……」

 

炎の竜巻から飛び出したシノンは大太刀だけでなく全身に炎を纏わせ、回転斬りの後に大太刀を足元に振り下ろした。

 

「……旋風陣!」

 

すると、足元から飛び出した炎の竜が螺旋を描き、火竜の竜巻が3つの竜巻全てを押し返した。

 

(シノン君! 離れて!)

 

聞こえてきた念話に反応してシノンは一瞬だけ振り返る。

 

その一瞬で桜色と金色の魔力光を視界に捉え、即座に両肩のアクセルフィンを羽ばたかせて竜巻の中心地から退避する。

 

「今だよフェイトちゃん! せーのっ!」

 

「サンダー……」

 

「ディバイィィン……」

 

シノンの離脱を確認した2人のデバイスが互いに魔力の光を放つ。

 

なのはのレイジングハートは先端に桜色の魔力を収束し、フェイトは槍の姿となったバルディッシュを迸る雷光と共に天に向けて振り上げる。

 

「レイジィィィィッ!!」

 

「バスターーーーーッ!!」

 

2人で同時に放たれた魔力は片方が魔力砲撃に、片方が天より降り注ぐ雷撃の一斉射撃となり、着弾した海面を初めに凄まじい衝撃と爆発を発生させた。

 

その強大な破壊力は暴走する6つのジュエルシードを完全に封印した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 封印されたジュエルシードが海上から浮上し、なのはとフェイトの中間で停止する。

 

だが、2人は動きを見せず、黙ってお互いを見つめ合っている。

 

シノンとユーノはなのはの、アルフはフェイトの少し後ろに黙って控えている。

 

(ああ、そっか……私、この子と……フェイトちゃんと……)

 

力を合わせ、なのはは己の心の本当の望みを理解した。

 

それは単純な勝利などでなく、ただの和解などでなく、もっと簡単なものだった。

 

瞳の中に同じ孤独を宿したことがあるからこそ、その孤独を分け合いたいと願う。

 

「友達に……なりたいんだ……」

 

そうだ。そう言いたかったのだ。

 

それが、高町なのはの本当に願う事だった。

 

 

だが、その繋がりを引き裂くように、アラーム音が静寂を突き破った。

 

 

『次元干渉!? 別次元から本艦及び戦闘空域に向けて、魔力攻撃来ます! 着弾まで……ダメ! 間に合わない! あと6秒!』

 

通信越しにエイミィの悲鳴じみた声が聞こえ、海上全体に凄まじい雷鳴が響いた。

 

全員の視線が曇天の空に向けられると、雲の切れ目から紫の雷が垣間見えた。

 

危険を感じ取ったシノンはなのはの腕を掴み、ユーノ目掛けて強引に投げ飛ばす。

 

(ユーノ、なのはを守れ)

 

念話でユーノに指示を送り、シノンは危険を承知でジュエルシード目掛けて突っ込む。

 

ヴェルフグリントに格納準備をさせ、浮かぶジュエルシードに手を伸ばす。だが、同時に雲を突っ切って紫の雷撃が放たれた。

 

ユーノは言われた通り自分となのはを翡翠色の障壁で覆って紫電を防ぎ、アルフも雷鳴を耳にして即座に自分を障壁で覆う。

 

シノンも舌打ちしながら左手を突き出し、防御魔法のラウンドシールドを展開した。

 

ひとまず全員が自身の安全を確保したかと思われた。だが、その中で1人、フェイトだけが何もせず呆然と空を見上げていた。

 

「アイツ、なにしてんだ……!」

 

障壁の展開を中止してアクセルフィンで急加速。さらに左右の肩の後ろと背中からの背狼の魔力噴射を加え、シノンは一瞬でフェイトの眼前に移動する。

 

障壁を再展開する時間は無い。回避は間に合わない。

 

2つの選択肢を考えると同時に却下。ならば……

 

「斬る」

 

誰に対してでもなく呟き、シノンは静かに大太刀を正眼に構えた。

 

ゆっくり大太刀を振り上げながら、立ち上る集中力によって紫の雷撃を瞳が捉える。

 

「ハァァ!!」

 

鋭い気合の声と共に白銀色の魔力を纏う大太刀が振り下ろされる。その瞬間、降り注いだ紫色の雷が確かに“割れた”。

 

だが、それは雷の消滅を示したわけではなかった。

 

振り下ろした大太刀の刀身は振り切られておらず、紫電と拮抗している。

 

「ぐぅ……!」

 

シノンの表情が苦痛に歪み、苦悶の声が漏れる。

 

手に持っているデバイスの刀身を通して強力な電流が体に通電しているのだ。

 

そのせいで痛みはもちろんだが、徐々に体が麻痺して紫電に押し負けている。拮抗が保てているのは感覚の無い右腕と大太刀の峰を魔力噴射で押し出している背狼のおかげだろう。

 

だが、このままでは紫電はシノンだけでなく後ろにいるフェイトの体も容易に貫くだろう。

 

(力が、足りない……!)

 

力というのは単純な腕力ではなく、魔力のこと。

 

魔力攻撃を無力化するのに一番簡単な方法はそれを上回る魔力をぶつけることだ。

 

目の前の紫電を無効化するなら強固な防御魔法や砲撃魔法などがあるが、シノンは今更どちらも準備出来る状況ではない。

 

しかもシノンは魔力総量はともかく、瞬間的な最大発揮量は大きくない。貯蔵タンクが大きくても、放出する蛇口の大きさが足りないのだ。

 

だが、シノンは引かない。諦めてたまるかと歯を食いしばり、麻痺のせいで力が抜けかけそうな左手に力を入れ直して大太刀を強く握る。

 

(もっと……もっと力が欲しい……! こんな、こんな雷なんて簡単に吹き飛ばせるような……! 魔導師としての力が欲しい……!)

 

徐々に遠のいていく意識の中、シノンは己の力の無さに怒りながらも必死に目の前の脅威を吹き飛ばす力を求める。

 

それは個人の欲望など微塵も存在せず、その瞬間はただ“純粋な願い”だった。

 

 

 

 

そして、その願いは異文明の生み出した災厄の種に干渉した。

 

 

 

 

なのはとフェイトによって封印された6つのジュエルシード。

 

その内の1つが眩い光を放ち、弾かれるように空中を突き抜けた。なのはとユーノが視線で追うと、その行き先は紫電と拮抗するシノンだった。

 

『マスター! 後ろです……!』

 

ヴェルフグリントが警告を飛ばすが、すでに遅かった。

 

そして、接近するジュエルシードは気付く余裕など無かったシノンの右手に直撃した。

 

「な……に……っ!」

 

不意打ちのようやってきた現象にシノンは驚きを隠せず、動きが止まる。

 

だが、動きを止めたシノンとは逆に、ジュエルシードはシノンの右手の甲の上で停止。そのまま右手の中へと食い込んで来た。血は一滴も流れていないが、メキメキと骨肉を食い破る音が全員の耳に届く。

 

「がっ、あああああああ!!!」

 

同時に感覚が無いはずの右手を通して内側から体を何かに喰われているような痛みが走り、体中に燃えるような熱が走る。その苦痛の大きさは、経験上で痛みに対してかなりの耐性があるシノンが絶叫を上げるほどだった。

 

瞬間、シノンを中心に蒼色の光が弾け飛び、同色の巨大な斬撃が紫電をぶった斬った。

 

その際に全方位へ衝撃波が拡散し、近くにいたフェイトは後方へ吹き飛ばされる。

 

見ると、シノンは右腕を左手で掴みながら必死に痛みを堪えている。抑えられている右腕は生き物が鼓動するように大きな膨張と伸縮を繰り返している。

 

シノンは痛みと高熱を堪えながら今にも消えそうな意識を必死に保って飛行魔法を維持する。

 

しかし、激痛が走る右腕が突然金色の光を放ち、光の消失と共に激痛と高熱が消え始めた。

 

(この光……なんだ? 前にも、何処かで……)

 

僅かに残った思考で光の見覚えを辿ったが、苦痛が消えた安心から力が抜け、意識が急激に刈り取られていく。

 

薄れていくシノンの視界が最後に捉えたのは、右の手の平に食い込むように沈んでいくジュエルシードそっくりの真紅の宝石だった。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

今回主人公が手にしたのは、なんとジュエルシードでしたー。いや、滅茶苦茶なのは分かってるけどね。

手にしたからには限界まで役立てていきます。

次回から多分、色々無茶なオリジナル設定が満載になると思います。じゃないとジュエルシード手に入れた説明も出来ないんで。

では、また次回。


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