るろうに使い魔‐ハルケギニア剣客浪漫譚‐   作:お団子

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第九幕『土くれ 対 飛天』

 剣心達を見下ろす、三十メイル程はあるだろう巨大なゴーレムは、ゆっくりとその手を大きくあげた。そして次の瞬間、目にも止まらぬ速さで、剣心達に向かって振り下ろした。

 轟音と共に屋根はガラガラと崩れ、音を立てて小屋は壊されていく。

 それを見て呆気に取られていたキュルケは、皆は大丈夫なのかとふと不安になった。

「ルイズ! タバサ! ケンシン!」

 するとそれに応えるように、もうもうと立ち込める煙の中から、一つの影が飛び出した。

 ルイズとタバサを両脇に抱えながら、剣心が外へと脱出していたのだ。ルイズはその手に、黒い箱をちゃんと大事に持って来ていた。

「とりあえず、みんな無事でござるな」

 彼女達に怪我がないことを確かめると、剣心は改めてゴーレムの方を向いた。そして逆刃刀を構えながら、鋭い眼で睨んだ。

「みんな下がって欲しい。この土人形の相手は、拙者がする」

 

 

 

 

 

             第九幕 『土くれ 対 飛天』

 

 

 

 

 

「ホラ、ルイズ! 何ボーッとしてんのよ!?」

 退く途中で急に足を止めたルイズに対し、キュルケが叫んだ。あのゴーレムはやはり手強い。キュルケの『ファイアー・ボール』はおろか、タバサの『ウィンディ・アイシクル』さえも難なく耐えたその土の壁は、たとえ傷を付けたとしてもすぐ地面の土を拾って元通りにしてしまうのだ。

 自分達では歯が立たない。――そう思ったタバサは、せめて剣心の邪魔にならないようにと、シルフィードを呼んで空中から援護することにしたのだ。

 キュルケもそれに賛成し、てっきりルイズも乗るものかと思った矢先、ルイズは手に抱えている秘宝の入った黒い箱を見つめると、何とそこから『破壊の剣』だけを取り出したのだ。

 それを見たキュルケが叫ぶ。

「何やってんのよ! ケンシンの邪魔でもするつもり!?」

「あいつを捕まえれば、誰ももう、わたしをゼロのルイズとは呼ばないでしょ!!」

 ルイズは本気だった。元より、フーケを探す志願をしたのもそのためだった。

 フーケを捕まえれば、誰も自分を馬鹿にしなくなる。『ゼロ』と陰口も叩かなくなる。

 だから、怖くて足が竦んでしまっても、逃げ出したい気持ちを抑えてでも、勇気を持って立ち向かっていかなくてはならない。

 自分も立派な貴族だということを、証明するために―――。

「ちょっと! ルイ――」

 キュルケの制止も聞かず、ルイズはそのまま剣を持ってゴーレムに走っていった。

 

 

 

 

 一方、ゴーレムと対峙している剣心はというと。

 ゴーレムの猛攻を難なくかわしながら、どう突き崩すせばいいものか…と思案していた。大きさとタフさに惑わされがちだが、攻撃自体はかなり単調だ。

 回避に支障は無い。しかしこれほど大きいと、こちらも逆刃刀だと決め手に欠けるのだ。

 馬鹿正直に正面突破で、そのまま手足を切り飛ばす……という荒業も出来なくはない。

 しかし、このゴーレムは、普段は土だが攻撃する瞬間『錬金』で鋼鉄に変化する。斬鉄は出来るが、風を切る速さとで飛んでくる木の幹のような野太い腕だと、斬るのは至難の技。それにそんな面倒な戦いをせずとも、これを操る主、フーケを倒した方が手っ取り早い。そう結論づけたのだ。

 では、そのフーケはどこにいるのか。ふと、過去にある『芸術家』が動かしていた、絡繰り機械を思い出す。

 あれは機械だから中に入って操作していたが、このゴーレムはただの岩の塊だ。中で操っている可能性はまず無いだろう。

 となれば、次に考えられるのは周りの森の中。恐らく茂みに身を隠し、こちらを観察しながら、杖を振って操っているに違いない。

 しかし、それらしい気配は探っているが特に何も感じない。さてどうしたものかと再び思考すると、ふと剣をブンブン振り回すルイズが目に入った。

「き、来なさいよ! こっちには『破壊の剣』があるんだから!」

「ル、ルイズ殿!! 危な―――」

 剣心はハッとした。ルイズとは距離が離れすぎている。直ぐには助けにいけない。

 そしてそんな彼女に気がついたのか、ゴーレムは標的を変更し、ルイズ目がけて腕を振り上げた。

(ま、負けてなるもんですかぁ……っ!!)

 刀を前に出して、防ぐように身構えるルイズの上に、鋼鉄となった拳が影になって覆われた。

 やっぱり、わたし死ぬのかな…。一瞬そう思ったルイズは、恐怖のあまり目を瞑って―――。

 ドガン!! と、目の前に大穴が空いた。

 空で見ていたキュルケが息を呑み、タバサも少し唖然とした表情で見下ろす。

 そんな中、ゆっくりとゴーレムは腕を上げると、そこにはルイズが潰された跡―――は残っておらず、窪んだ大穴だけポッカリと空いていた。

 

 

 

(―――っ……わたし…)

 目を閉じたまま、ルイズは思った。

 痛みは感じない。それとも感じる間に死んでしまったのか。

(ゴーレムに…潰されたはずなのに……)

 ようやく自分の中に、体の感覚が戻ってきた。どうやらまだ生きているようだ。

そして寝かされている。いや、これは手で支え持ってくれている感じだ。

(一体……何が…)

 ルイズは、恐る恐る目を開けた。

 そして見たのは、いつも隣にいてくれる自分の使い魔。

 強くて…そして心のどこかで頼りにしてしまう私の従者。

 緋村剣心が、ルイズを抱き上げてこちらを見つめていたのだ。

 

 

 

「ケン…シン…?」

「危ないところでござったな」

 剣心がホッと安堵の息を漏らした。正直かなりギリギリだったのだ。

 ルイズが走ってきた方角は、丁度ゴーレムの真後ろ。そんな中、あの速い腕の一撃がルイズに襲いかかったのだ。

 普通ならまず間に合わない。しかし、それでも助けようと足に力を込めた瞬間、再び体に羽が生えたように軽くなった。

 神速の如き速さで、剣心はルイズがゴーレムの拳に押し潰されようとしたその間に入り込み、間一髪助け出したのだ。

「っ…そうだ…『破壊の剣』は…?」

 ルイズは、ふと剣を握っているはずの自分の手を見た。そこには、刀身が折れ破片が散らばった『破壊の剣』の姿があった。

「どうして……伝説の武器じゃないの…」

 力なく項垂れるルイズに、剣心は優しく言葉をかける。

「それは、そんな大層なものではござらんよ…。分かったら、ルイズ殿も早く避難を――」

 そこまで言ったとき、振り切るようにルイズが首を振った。そして、決意するような目で剣心を見つめた。

「ケンシン、貴族はね、魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃないの――敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!」

「でもそれは、命を懸けてまで守る大切なものなのでござるか」

 剣心が、諭すような声でルイズに言い聞かせた。言葉が詰まる。何せ今さっき死にかけたのだ。そう言われると、ルイズも上手く反論できない。

 違う、違うの…と嫌々首を振るルイズの後ろに、巨大な腕がまた降り掛かる。

 剣心は、ルイズを担ぎ上げながらその攻撃を躱すが、これでは反撃もできない。

 手助けに来たはずなのに、いつの間にか足でまといになっている。それが、ルイズの心の中に抱えている、不安の火を更に強くした。

 

 

 

 

 実はずっと、気にかけていることがあった。ここ最近のルイズに出来た、新しい不安。

 それは、昨晩でのキュルケの言葉にあった。

『ま、あたしが何もしなくても、いずれあんたに愛想を尽かしてケンシンもこっちへ来るでしょ。ゼロのルイズの使い魔なんて、彼もさぞかし不憫でしょうからね!!』

 そう、この言葉がルイズの心を苦しませていたのだ。剣心が本当に自分を見捨てて、遠くへ行ってしまうという不安が。

 最初に召喚したときは、微塵もそんなこと考えなかった。しかし、失敗した時は慰めてくれて、決闘の時は自分の事のように怒ってくれて、寂しい時はいつもニコニコ隣をついてきてくれる。

 そうしている内に、彼の存在がまるで当たり前のように、そしてかけがえのない存在へと感じ始めてきたのだ。

 使い魔としてとなるとまだ抵抗があったけど、少なくとも召喚した事への後悔はそんなにしてなかった。

 それだけに恐かった。いずれ才能の無い自分を見限るのではないかと。そしていつしか、本当にキュルケに心奪われるのではないかと。

 だから、証したかった。自分は魔法が無くても立派に戦える。そしてその上で、自慢のご主人様であることを剣心に教えたかった。

 なのに、それすら叶わず、結果的に剣心には呆れられる始末。

 何もできない自分が情けなくて、気づけば涙をボロボロと流していた。

 

 

 

 剣心は、胸の中で泣いている彼女に気づきながらも、変わらず攻撃を回避し続け、様子を探っていた。

 そんな中、下を見つめるキュルケをよそに、タバサはシルフィードに何事か命じると、援護のために近づくのではなく、周囲を旋回するように飛び回り始めた。

 ふと、何かに気付いたかのように、タバサはある方向を注視した。そして確信めいたように一人頷くと、おもむろに呪文を唱え、氷の槍を作り出す。

 しかし、それをゴーレムにぶつけるのではなく、まるで剣心達に知らせを取るかのように真下へと落としていった。

 剣心も気付いたのか、降ってきた氷の槍を見て、真上の方を見上げる。タバサはそれを確認すると、杖をあらぬ方向にかざし、何か教えるような仕草を取った。

 その意味を感じ取った剣心は、一旦ルイズを降ろして、肩に掛けたデルフを抜くと、何事か呟き始めた。

「へえ、面白そうじゃねえか。ま、一丁やってみな」

 剣心は頷くと、一度デルフを完全に抜き出した。そしてそれをタバサの向けた杖の先目がけて思い切り投げ飛ばした。

 風圧を切るような音を立てて、デルフはすっ飛んでいくと、森の中へと消え、茂みの中へと隠れた。

 ――これでいい。剣心はそう思った。

 タバサの指した方角はフーケの気配を感じる場所。援護に回らずに、ひたすらシルフィードを駆り散策していた中で、大まかながらも居場所を突き止めてくれたのだ。

 デルフを投げたのは、フーケの様子を探るためだった。

 もしビビってそのまま逃げ出してくれれば御の字。秘宝は既に奪還してある。

 隠れる場所がバレて移動すれば、上にいるタバサ達が捕捉してくれるだろう。

 シラを切って出てきたとしても、投げたのは意思を持つ剣、デルフリンガーだ。そして後はゴーレムを倒せば、フーケも出てこざるを得なくなる。

 しかし本来ならこんな面倒なことをしなくても、剣心がそのまま殴り込みに行けば済む話である。

 では、なぜそうしなかったか?

 このままフーケを追い詰めて、捕まえてきたとしよう、しかしそれだと結局、剣心達の手柄になり、何もしていないルイズは、これからも馬鹿にされ続けるだろう。それだとせっかく命を懸けて決めたルイズの心意気に、水を差してしまう結果になる。

 彼女にも、それなりの活躍をさせたい。そしてフーケを捕まえる手助けをしたと、胸を張って帰らせてあげたい。

 そう思った剣心は、落ち込むルイズを見て、改めてこう言った。

「ルイズ殿、ちょっと相談があるでござる。あれを倒す手助けをして欲しいでござるよ」

「―――えっ?」

 パッと、一瞬驚いた顔でルイズは剣心を見上げた。

 しかし今度は、ふと表情を暗くする。魔法も使えない自分の力なんて、必要なのかと……。でも、剣心は、そんな不安を吹き飛ばすような笑顔を見せた。

「フーケを捕まえたいのでござろう? 騙されたと思って力を貸して欲しいでござるよ」

「……分ったわ」

 自分の使い魔だもん、ケンシンを信じてみよう。ルイズは意を決し、杖を取り出してゴーレムへと向けた。

「それで、どうすればいいの?」

 剣心は、こそこそと耳元で何やら呟いた。

 

 

 

 そして再び、巨大な土人形の目の前へと、剣心は合間見えた。その隣でルイズは、杖をゴーレムの足元へと構えている。

 まず大きな腕を振り上げて、今までと同じように剣心を潰そうとする。剣心はそれを回避し、股の間をくぐり抜けてルイズに背を向けさせるよう仕向ける。

 案の定、ゴーレムは剣心の方を狙っているのか、くるりと向きを変えた。

 ルイズは深く深呼吸した。自分に自信を持て。絶対に出来ると。

 いくら魔法を唱えても、失敗して爆発しか起こさない。ならば、その爆発の力を今は最大限に利用する。

「―――今でござる、ルイズ殿!」

 剣心の叫びと共に、ルイズはゴーレムの膝下を爆発させた。

 強力な『固定化』の壁を崩した威力の爆発に、ただの土が耐えるはずもなく、見事に粉々に砕け散った。

「おお、倒れるわよ!!」

 片足を失い、バランスを崩したゴーレムは、前のめりに倒れ込む寸前、両手をついて何とか支え込んだ。

 しかし、その両手を突き出した先は、寄りにもよって剣心の目の前―――。

「度が外れた人形劇も、これで幕引きでござるな」

 誰にでもない、フーケに対して剣心はそう言うと、刹那の速さで抜刀。逆刃の『刃』の部分を裏返し、そして目にも止まらぬ荒業で二本の腕を両断した。

『錬金』による硬化すら間に合わず、激しく宙に舞う土の柱が落ちてくると同時に、ゴーレムも音を立てて崩れ動かなくなった。

「…す…凄い…」

「ゴーレムを…倒しちゃた…」

「………」

 ルイズ達が驚きで唖然とする中、剣心は油断なくゴーレムに向けて刀を構えていた。

 しかし、ゴーレムは最早ピクリとも動く様子は見受けられない。

 恐らく、動かしても無駄だと悟ったのだろう。剣心は上を見ると、丁度シルフィードが降りてくる所だった。

 

 

 

 

 やがて、タバサの指していた方角からロングビルがやってきた。手には、デルフリンガーを持っている。

 今までどうしてたかを聞こうとした時、ロングビルはそれ遮るようにまくし立てた。

「みなさん大丈夫ですか? それより、この剣が刺さってた所にフーケらしき人影がありました。今ならまだ間に合います、探しましょう!!」

 成程、と剣心は思った。どうやらそれを言い訳にここから逃げ出す算段らしい。

 ゴーレムが倒されたときに直ぐ逃げなかったのは、タバサ達が上で見張って動くに動けなかったからだろう。

 おまけに心配するフリをして、それとなく剣心からは離れるようにしている。捕まえる機会は、今しかない。

「いい加減芝居はやめたらどうでござるか? ロングビル殿――いや、土くれのフーケ」

 タバサが警戒する目でロングビルを見つめる。キュルケとルイズは驚きで口を開けた。ロングビルは、オーバーすぎるリアクションで体を仰け反らせた。

「そ、そんな……心外ですよ! どうしてそんなことを言うのですか?」

「悪いけど、一部始終を見ていたのはフーケとお主だけではござらんよ…なあデルフ?」

 それを聞いて、デルフはカチカチと鍔を鳴らした。

「おう、ばっちりだ。この女嘘ばっかりだぜ! ゴーレムを操る呪文の声を、俺はちゃんと聞いていたからな!」

 ロングビルはギョッとした。流石に持っているのがインテリジェンス・ソードだったとは思わなかったようだ。

「観念するでござるよ。もう逃げ場はどこにも無いでござる」

 剣心の言葉に、ロングビルはガックリと項垂れる仕草をした。それを見て、ルイズは嫌な予感がした。

 暫く黙っていたロングビルだったが、やがてポツリとこう呟いた。

「……そう、なら仕方ないわね」

 その瞬間、手早い動きでルイズを捕まえると、持っているデルフを首元に近づけた。

「わたしも顔を見られたあんた達を、初めから生かして返す気なんてなかったのよ!!」

 遂に本性を表したロングビル――もといフーケは、獰猛な目付きで剣心達を睨んだ。

「動くな! ちょっとでも動いたらこの小娘の首を斬るわよ…。全員武器を下ろしなさい」

 錆び付いたとはいえ、刃物は刃物だ。切られたらまず助からないだろう。流石に部が悪い…そう判断したタバサとキュルケは杖を放り投げた。

 しかし剣心は動じず何もしない。フーケにしてみれば、この男こそ一番危ないのだ。けど今逆刃刀は鞘の中だ。もし不穏な動きを少しでも見せたら直ぐに首を切る。そう決心した。

「教えてはくれぬでござるか? 何故こんな真似をしてまで待ち伏せをしたのか」

「…冥土の土産にするって言うんなら教えてあげてもいいわよ」

 剣心に対する警戒は崩さずに、フーケは説明を始めた。

 

 

 あの後、肝心の秘宝は手に入れたは良いものの、中身の剣はマジックアイテムでもない只の剣だし、マントは無駄に重くてとても着ることができなかった。

 何か別の使い道があるのか、とフーケはそう思い、今回の騒動を使ってどう使いこなすのかを見るつもりだったのだ。魔法学院の人間なら、使い方を知っていてもおかしくはないだろう。

 しかし、いざ観察してみれば剣は折れるしマントは使わずで全く役に立っていない。

 がっくりと落胆する中、その上無駄に勘の鋭い奴らを引き連れてしまったために、自分の正体すら危うくなってきた。

 そこで何とか誤魔化して一人一人闇討ちをしようかと思案した矢先、その正体がバレて今に至る、という訳である。

 

 

「成程、内通もお主自身で決行したことか」

「そうよ、わかったらホラ、あんたも武器をこっちへ投げなさい」

 刃の上に少量の血を走らせながら、フーケが言った。キュルケとタバサも、不安げな表情で剣心を見やった。二人とも、心の中で剣心なら何とかしてくれると頼りにしていたからだ。

 ルイズは、今不安と恐怖で一杯だった。そして怖かった。もしかしたら、彼は本当にわたしを……見捨てるんじゃないかと。

 そんな考えが一瞬頭をもたげたが、剣心の微笑みがそれをかき消してくれた。

 

 

(大丈夫、必ず助けるから)

 

 

 そう顔に表してくれるだけで、安心感で体が満たされる。

 そしてルイズは気付いた。この安心感はどこから来るのか、やっと分かったのだ。

 そうだ、彼が自分を見捨てるなんて、有り得ない。

 だって、彼はこんなにも優しいから。

 

 

 ケンシンなら、この場は任せられる――そう思ったルイズの前で、遂に剣心は動いた。

 

 

「分かった、今捨てるでござるよ」

 そう言って、腰から刀を鞘ごと取り出し、フーケに見せつけた。フーケはニヤリと笑い、キュルケとタバサはもうダメなのか…と顔を落とす。

 しかし、ルイズは最後まで剣心を信じた。

「よーし、そのままこっちに投げな」

 フーケの言葉に剣心は、言われたとおりに鞘を腰に下げると――

差し上げるように腕を突き出し、親指で鍔を弾いて、刀だけフーケに飛ばした。

「――――へっ……?」

 完全に不意をつかれたフーケが、その神速の飛刀に反応できるはずも無く。

 キョトンとした顔のまま、額に柄尻がガツンと直撃した。

 その衝撃たるや、当たったフーケは吹っ飛びながら宙を舞い、そして目を回して完全に気絶して倒れ込んでしまった。

 

 

「『飛天御剣流』抜刀術 ―飛龍閃―」

 

 

 そう呟くと、ポカァ…ンとしている三人をよそに剣心はゆっくりとルイズに近寄って首筋の傷を診た。

「怪我は大丈夫でござるか?」

 その言葉に、やっと思考が追いついてくると、早速三人は剣心に詰め寄った。

「平気……って何なのよさっきの!?」

「何? 今何したの!?」

「抜刀術…? 飛天御剣流……?」

 剣心は三者三様に驚くルイズ達をおいて、地面に刺さった逆刃刀とデルフを拾い上げると、フーケの方を向いた。

「説明は後、フーケが目を覚まさないうちに、早く学院に帰るでござるよ」

 ルイズはハッとした。そうだ、後半人質になったりしたけども…フーケを捕まえたのだ。あの悪名高い土くれのフーケを。

 殆ど手柄は剣心が立てているけど、それでも自分は足で纏いにならずに済んだ。ちゃんと戦うことができた。

「土くれのフーケを、捕まえたわよ!!」

 嬉しさと達成感で、ルイズ達は思い切り万歳をした。

 


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