るろうに使い魔‐ハルケギニア剣客浪漫譚‐   作:お団子

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第三十五幕『ラグドリアンの誓い』

 直ぐ様この場所は、戦場へと早変わりした。

 飛び交う魔法の呪文、風が唸り、炎が荒れ、水が迸り、土が揺れ動く。

 タバサとキュルケは、素早く動いて回避する。反応が間に合わなかったルイズも、剣心に連れられる形でその場を離れた。

 相手は不死身の兵隊達、斬ろうが叩こうが死ぬことはない。だがたった一つだけ、弱点とされるものがあった。

 

 それは『火』。

 

 キュルケの放つ『ファイアー・ボール』が、一人のメイジに当たって燃え上がると、そのまま起き上がることなく倒れ込んだのだ。

「やった! 炎が効くわ! 燃やせばいいのよ!」

 それを聞いたタバサは、直ぐ様キュルケの援護に回る。キュルケの放つ火の玉は、それから後三人ほど燃やし尽くした。

 しかし、この快進撃も長くは続かなかった。

 突如、ポツリポツリと水滴が空から落ちてきたのだ。その量は段々と多くなり、やがて音を立てて雨が降り出し始めた。

 タバサが、珍しく焦ったように空を見上げる。そこにはいつの間にか巨大な雨雲が発生していた。

 

 

 

 

 

第三十五幕『ラグドリアンの誓い』

 

 

 

 

 

 それを見たアンリエッタは嬉々とした声を上げた。

「見てご覧なさい! 雨よ、雨! 雨の中で『水』に勝てると思っているの? この雨のおかげで、わたしたちの勝利は動かなくなったわ!!」

 ゆるぎない勝ちを確信するアンリエッタを見て、剣心は首をかしげた。

「そんなものでござるか?」

「…まあ、すっごい不利なのは確かね…」

 キュルケが苦い顔をして言った。雨が降る以上、彼女の火も弱まる。それに相手のアンリエッタはこれで水の鎧を敵方に全員展開できることだろう。タバサの風や、剣心の刀では相手を傷つけることすら敵わない。

 

「…どうする、一旦逃げる?」

 伺うような表情で、キュルケは尋ねた。だが実をいえば、それほど絶望視しているわけでもなかった。

 だって、今自分たちの隣にいるのは、そんな窮地から何度も救ってきてくれた、あの緋村剣心がいるからだ。

 彼が諦めない限り、自分たちだって全力を尽くす。そう決意しているキュルケ達をよそに、剣心は鋭い目で、ルーンを唱えるアンリエッタを見つめた。

「そうだな…、倒せないのなら無力化するまででござる」

 そう言って、剣心は逆刃刀を一度鞘に納めた。何をするか見当がついたタバサは、それに習って剣心の動向を見やった。

 

 

 

 アンリエッタは悲しい表情でルイズ達を見つめていた。出来れば、彼女達は殺したくない。杖を捨てて道を開けて欲しかった。

 だけど、彼女らはどうやら退くつもりはないようだった。この雨を見れば、自分たちの勝ちは明白だというのに…。

「……あくまで退くつもりはないようですわね…」

 はぁ…とアンリエッタはため息をついた。ならば仕方ない、この状況がどういう意味か分からせてあげるまで。その内に諦めて逃げてくれることを祈ろう。

 そう思い、まず全員に水のバリアを貼ろうと杖を高々とあげて、ルーンを唱えた、その時だった。

 

「――――えっ…?」

 

 一瞬、本当に一瞬だった。何かとぶつかるような痛みを、高く上げていた手の方から感じた。

 そしてぎょっとする。杖が弾き飛ばされていたのだ。本当にいつの間にか。

「っ……しまった!!」

 慌てて探索するアンリエッタのすぐ横には、抜身となった逆刃刀が深々と突き刺さっていた。

 

 

 

(済まない、姫殿……)

 飛天御剣流『飛龍閃』にて、アンリエッタの杖を弾き飛ばした後、剣心は心の中で彼女に謝ると、素早く鞘とデルフの柄を握り、敵の一団へと向かっていった。

 遅れてタバサも続く。

 すかさず飛んでくる魔法の光を、デルフで全て受けとめると、今度は鞘を使ってメイジの杖のみを的確な動作で弾き飛ばした。

 

「キュルケ殿、炎!!」

 そう叫ぶ剣心の言葉に、キュルケはピンと来ると、急いで呪文を唱えて小さな炎を作り出し、それを宙に舞う杖めがけて放った。

 ボン! と小気味よい音を立てて杖は燃えた。

 

(無力化すればいい。確かにそうだわ!)

 いかな不死身とはいえど、杖をなくしたメイジ相手に自分たちが遅れを取る訳がない。成程理には適っている。

 キュルケがそう考えていた頃には、剣心は飛天の剣をもって風の如き速さで一団の間を縫うように走り、その途中すれ違うメイジたちの杖を全て叩き落としていった。

 魔法はデルフで体よく吸収し、杖の持つ手を鞘で弾き、時には自らデルフで叩き割ったりもしていた。

 

「ホント、どうやったらあんな動きが出来るのかしら…」

 そう呟きながら飛んでいった杖を的確に炎で燃やす中、キュルケはふとタバサの方へと視線を移して…そして目を見張った。今の彼女の動きは、自分の知る親友の戦い方とは、ちょっと違っていたのだ。

 

 タバサが、一人のメイジ相手に立ち向かっていく。メイジは、彼女めがけて風の魔法を放つ。

 いつもの彼女なら、ここは無難に避けて様子を見たことだろう。

 しかし、あろうことかこの青髪の少女は身を屈ませて、風の刃を前にして突っ込んでいった。

 頬に小さく切り傷をつくるも、魔法を避けたタバサはそのまま接近戦を挑んでいく。

 直ぐに相手側は『ブレイド』の呪文を使って斬り掛ろうとするが、今度はそれを絶妙な体捌きと杖の動きだけで逸らした。

「あの子…あんなにアグレッシブだったかしら…?」

 普段見るタバサのそれとは、全く違う戦法。時折剣心の方を向いては、まるでそこから学び取るように動きを変えていた。

 

 

 タバサは、そのまま長い節くれの杖を回転させて、敵メイジの杖を持つ手を狙って、思い切り叩いた。宙を舞った杖を振り返らず、タバサは先端の方のみを杖に向けてルーンを詠唱、杖は真っ二つに切り裂かれた。

 余韻に浸る間もなく、次に襲ってくる二人のメイジを、タバサは見据えた。そして…あの構えをとる。

 腰に杖をあて、屈んで待つ抜刀術の構え。しかしタバサは、待ちに徹さず思い切り地を蹴った。

 呆気にとられている(ように感じる)メイジをよそに、素早く杖を振る。遅いながらも的確な動作でまず一人の杖が弾き飛ばされる。

 その隙を狙って、もう一人のメイジが呪文を唱えようとするが、今度は『ジャベリン』で作った氷の刃が閃き、もう一人のメイジの杖をそのまま二つに切り飛ばした。

 

「はは…相変わらずブレないわね、あの二人」

 相手は何度も蘇る不死身の軍隊だというのに、いつもと変わらず無双を続ける二人を見て、キュルケがニヤリと笑った。

 

「ホント、この二人が味方な時は、何が来ても負ける気がしないわ」

 

 そう言っている間に、剣心は最後のメイジの杖を叩き潰した。これで全員もれなく弱体化。メイジからただの動くだけの死体へと成り下がった。

 剣心は、一旦鞘を腰に納め、タバサの方を見る。

「タバサ殿、任せても良いでござるか?」

 タバサは、頷くような仕草をした後、すぐさま呪文を唱える。敵全員を吹き飛ばす『ウィンド・ブレイク』を、『龍巻閃』の様に身体を一回転させながら放った。

 ゴウッ!! と暴風が辺りを覆い尽くし、その射程上にいた敵達は、その風の元吹き飛ばされていった。

(あの子の風…また少し強くなったわね…)

 タバサが放った『風』の呪文の威力にそう疑問を感じながら、キュルケはタバサを見た。

 

 

 

(何よ、もう…ケンシンもタバサも…)

 この光景を見て、ルイズは複雑そうな表情をした。

 さっきは大見得切ってあんなこと言ったのに、いつの間にかあるべきポジションをタバサに取られていた事に、不満を感じていたのだった。

 

 本当なら、剣心の隣にいるのは…自分のはずなのに…。

 

(わたしだって…戦えるのに…)

 そんな悔しい思いをしながら、じゃあ自分には何ができるだろうか、と考えた。『爆発』以外に…。

「他に何かないの!? 伝説の『虚無』の力はこれだけなの…!?」

 ルイズは、思わず『始祖の祈祷書』を懐から取り出し、ページを捲っていた。

 何かないか、何か…そうして捲っている内に、本来真っ白だったところに、新しい文字が光っているのを見つけた。

 

 

 

「嘘……」

 やっとのことで杖を拾い上げたアンリエッタは、その光景を見て、そして唖然としていた。

 暗かったとはいえ、水晶のように光る杖を見つけるのに、そんなに時間はかけていないはずだ。精々数十秒かそこいらである。

 なのに、杖を拾い上げてそれを向け、呪文を唱えようとしてみれば、その唱えるべき対象はもういない。皆吹き飛ばされて視界から消え失せた後だった。

 その雨の中、無表情でこちらを見る剣心とタバサは、未だに疲れどころか息切れ一つしていない。まるで何事もなかったかのように、ただアンリエッタを見つめるだけだった。

 ふと、アンリエッタの脳裏に、オールド・オスマンの言葉が過ぎる。

 

『飛天御剣流はご存知ですかな? かつてワイバーンから私を救ってくれた恩人が振るっていた流派の一つでしてな。その強さはメイジの比ではない、あのエルフとも、正面からやりあえると私は思っております』

 

 嘘じゃなかった……。本当に目の前の男は、剣一本だけだというのに…この軍勢を相手にもろともしていない。

 雨が降って、勝利は揺るがないものだと信じていた。なのに、その全てを悉く打ち崩されてしまった。

 緋村剣心という使い魔によって。

 

(どうしよう……)

 思わず恐怖で身体を震わせるアンリエッタを、ウェールズが優しく包み込む。

「安心しなさい。ぼくのアンリエッタ。これが終われば、晴れてぼくたちの障害を阻むものはいなくなる。――さあ杖をとって、一緒に詠唱してくれ」

 今のアンリエッタにとって、ウェールズの声だけが心の支えだった。彼が杖を掲げると、アンリエッタもそれに習って杖を掲げる。

 強力な魔力が、二人の間に流れ始めていた。

『水』、『水』、『水』の三乗に、『風』、『風』、『風』の三乗。それが合わさり、巨大な六芒星を作り出し、そこから水を纏った巨大な竜巻が出現する。

『トライアングル』同士でも、こうも互いに息が合うのは珍しい。殆どない、と言っても過言ではないだろう。

 

 王家のみに許された秘術、『へクサゴン・スペル』。

 詠唱は干渉しあい、段々と膨れ上がっていく。

 

 城でさえ一撃で崩壊させそうな、その津波と暴風の合わせ技に、大気は唸り、揺れ動いた。

 

 

 

 唸るような風を一瞥しながら、剣心は考察する。

(さて、どうするか…)

 流石にあの竜巻は受けきれそうもない。あれを何とか回避したあと、反撃に移るのが無難か。

 そう考えて一旦この場は離れようとルイズ達に告げようとすると、キュルケの困ったような声が聞こえてきた。

 

「ねえ、この子急に固まったまま動かないんだけど!!」

 

「どうしたでござるか!?」

 キュルケ達の目の前にも、あの台風は見えている。早く離れたいとする気持ちは一緒だろう。

 しかし、ルイズにはまるで何も見えていないかのように、『始祖の祈祷書』を持ってブツブツと呟いていた。

「ルイズ殿?」

 剣心が足早でルイズの隣に来ると、デルフが何事か閃いたようだった。

「ああ、『解除』か。確かにこの状況にゃあうってつけかもな」

「…『解除』?」

「あいつらと俺は、根っこは同じ魔法で動いてんのさ。四大系統とは根本的に違う、『先住』の魔法。ブリミルもあれにゃあ苦労したもんだ」

 昔を懐かしむような口調で、デルフは言った。

「けどよ、ブリミルだって手を拱いてたワケじゃねえ。いやはや、対した奴だったぜ。きちんと対策は取ってあったのさ。今動いている『先住』の魔法を文字通り解除する呪文。それが今娘っ子が唱えている『ディスペル・マジック』さ」

 

 成程、ルイズはルイズなりに自分の出来ることを考えているんだろう。剣心は思った。

 だが、どうにも詠唱は終わらなさそうな様子である。その前にあっちの呪文の方が先に完成するだろう。

 そんな状況なのに、今のルイズには何も届いていない。ただ集中してルーンを紡いでいるだけだった。

「で、この子、結局どうしたいのよ?」

 キュルケが疑問符を浮かべて尋ねる。

「ルイズ殿は自分なりに、どうすればいいのかを考えている。それだけでござるよ」

 そう言って、剣心は少し微笑んだ。

 何故だろう。ルイズのルーンを聞いていると、不思議と力が漲ってくる。高揚感を隠せなくなる。

 今目の前に渦巻く台風を、受け止めることも出来るんじゃないかという、可能性で溢れてくるのだ。

「ふーん、そう。でもあれに対抗するには、せめて『伝説』ぐらいもってこないとね…って、そう言えばどっちも伝説なんだっけ」

 キュルケはそう茶化したが、同じように不思議と危機感は感じなかった。

 案外、この二人ならあれもどうにかしてくれるんじゃないか? と、段々大きくなる竜巻を見やりながらも、キュルケやタバサはそう思っていたのだ。

 

「二人は下がって、ここは拙者達がやるでござる」

 剣心はそう言って、ルイズの眼前に、まるで彼女を守る盾のように立ちはだかった。邪魔しちゃ悪いとキュルケ達も素直に頷き、そして被害が及ばない場所へと隠れる。

 

 渦巻く奔流を前にしても、剣心の表情はどこか晴れやかだった。

(何だろう…この感じは…)

 ふと左手を見れば、いつもは赤く光るルーンが、ルイズの髪色と同じ『桃色』の光を発していた。

 こうやってルイズのルーンを聞き続けると、力だけでなく心まで安らかになってくる。遠い記憶、赤ん坊の頃に、まだ生きていた母に聞かせられた子守唄の様だった。

「変なものでござるな」

「そういうもんさ、相棒。お前さんの仕事は、その飛天御剣流で敵を無双することじゃねえんだ。『呪文詠唱中の主人を守る』。それだけさ。そうすりゃ『ガンダールヴ』はいくらでもお前さんに力を貸すぜ」

 なるほど、今は『ガンダールヴ』の影響を受けているからか、とデルフの話を聞いて剣心は納得した。でも、今回はアルビオンと違い、どこか悪くない心地だった。

 そして…ふと昔を思い出す。

 

 

 

 まだ自分が『心太』だった頃…守れなかった大切な人の墓の前で、強くなろうと決意したあの頃の記憶を。

 

 

 

 歩む道を間違えて、大きな十字架を負ってしまったけれど、本当はこういう風に誰かを……何かを守りたかった。

 そう考えると、剣心の顔は思わず綻んだ。結局それに気付くのに、数十年の月日を要した。でも、まだ自分の力を必要としてくれる人がいる。その人を守るために全力を尽くす。何ともいいものだった。

 

 今なら、大剣で抜刀術に向かないデルフでも、最高の状態で『あれ』が撃てそうだ。

 

「お取り込み中悪いが、やはりあちらさんのが早いみたいだぜ」

 詠唱が完成したのだろう、竜巻の唸りに殺意が込められ始めた。そして次の瞬間、それは目にもとまらぬ速さで剣心達に襲いかかってきた。

 だが剣心は冷静にそれを見据えると、ゆっくりとデルフを鞘に納め、腰に置く。ワルド戦のときと同様、その構えは『抜刀術』だった。

 しかし、それを茂みの中隠れて見ていたタバサは、無意識に首を振った。

 

 

 違う。彼がこれから放つ技は、ワルドの時に見せた『双龍閃』とか、そんな次元じゃない…。もっと強力な…何か。

 

 

 タバサは目を凝らした。是非、それを自分も見極めたいと思って。

 そんな背景を知ってか知らずか、風と水の竜巻は剣心を飲み込もうと目前まで迫ってきた。

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 剣心は叫んだ。それと同時にルーンも、今まで以上に光り輝く。高揚感高らかに、『左足』を踏み込んだ。

 刹那、光の速さでデルフリンガーは抜き放たれる。それがまず『風』の台風に直撃し、激しく拮抗した。魔法は吸い込まれるようにデルフの方へと向かっていく。

 途中通り過ぎる風の刃を、その身に少し受けながらも、剣心は歯を食いしばってそれを耐えた。髪留めが解け、緋色の髪が流れるように広がる。

 時間にして一秒あったかないか、その風の衝突は剣心の振り抜きで全て掻き消えた。しかし、残る『水』の奔流が、躊躇なく剣心へと襲いかかる。

 しかし、剣心は素早く一回転、地を踏み砕きながら、更に威力を上げた『最強の二撃目』を繰り出した。

 再び、魔力と剣の衝突。辺りを吹き飛ばし、木々は荒れ、木の葉は耐え切れずに舞い上がっていった。

 

(…ケンシン…)

 

 その後ろで、ルイズは遂に呪文を完成させた。無論傷一つ負うことなく。

 眼前には巨大な水の塊が迫ってきているというのに、全然怖く感じられなかった。

 ただ、剣心が守ってくれている。それだけで不安も、さっきの変な嫉妬も何処かへと吹き飛んでいった。

 

 やっと、自分も戦いの役に立てて、その無防備な身体を、優しい使い魔が守ってくれて。

 今だけ、剣心と一緒に戦っているという実感が、ルイズにとってはこの上なく心地いいものだった。

 

 そして、この勝敗にもそろそろ決着が決まる運びとなっていった。

 拮抗していた水と剣の力も、徐々に力が弱まっていく。だがそれとは裏腹に、ルーンは更に強く光る。

 

 

 

飛天御剣流 奥義

 

 

 

 生と死の狭間で見出した、比類なき最強の技。それはルーンの力によって更に強く、更に大きなものへと変わっていった。

「うおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああ!!!!!!」

 勢いを無くし始めた強烈な水流に対し、剣心は思い切りデルフを振るい、水の奔流を横一閃に薙いだ。

 

 

 

 

 

- 天 翔 龍 閃 -

 

 

 

 

 

 それだけで、水は勢いと力を失い、ただの水滴へと変わっていく。

 その瞬間を見たルイズが、ウェールズ達に向けて『ディスペル・マジック』を放つ。

 眩い光が辺りを覆ったかと思うと、周りにいたメイジたちが、糸が切れたかのようにバタバタと倒れていく。

 それはウェールズも例外では無かった。

 覆い隠していた雲はゆっくりと晴れていき、空から月の光が差し込む。

 死人が蘇る悪夢は…こうして幕を閉じた。

 

 

 

「……姫さま!!」

 誰かに呼ばれる声が聞こえて、アンリエッタは目を開けた。どうやら詠唱中に気絶してしまったらしい。

「ルイズ……わたし、は……」

 真っ先に飛び込んできたのはルイズの顔だった。そこでアンリエッタは、何が起こったのか、そして自分が何をしたのか、それを思い出した。

 急いで起き上がり、隣を見れば、そこには冷たく横たわったウェールズの姿があった。安らかな笑顔で、ずっと動かないまま。

 

「……ウェールズさま」

 

 アンリエッタは、ほろほろと涙を流した。自分のしてしまった過ち、それは決して許されるものではない。

 悪夢だと分かっていた。でも、自分はその悪夢に身をゆだねた。その結果、大事な親友にまで手にかけようとした。その迷惑のせいで、たくさんの人が…死んだ。

 

「目は…覚めましたか?」

 

 ルイズが、悲哀とも侮蔑とも取れるような声で言った。彼女にも色々思うことはあるのかもしれないが、そこにいるのはいつものルイズだった。

 でも、自分には彼女に縋る権利すらない。一度、彼女を殺そうとしたのだ。なんて言ったらいいのか、なんて赦しを乞えばいいのか、それを聞く資格は…ない。

「あの…起きて早々で申し訳ないのですが、ケンシンを治して欲しいのです」

 困ったような口調だったが、そこは有無を言わせないような感じでルイズは告げた。

 見れば、隣には髪留めが解け、女のように髪を流しながらデルフを納めている剣心の姿があった。

 

「いや、拙者には必要ござらん。それよりも、他にもまだ息のある者が何人かいた。そっちの方を頼むでござるよ」

 そう言って、この間にキュルケやタバサが探してきた、重傷ながらもまだ生きているヒポグリフ隊の兵隊達の方を剣心は指した。

 確かに、あちこち切り傷を覗かせてはいるが、普通に立って歩いている分剣心の傷はさほど深くはないのだろう。―――アンリエッタには信じがたいことではあるが。

 あの水と風の竜巻を受けて、ここまでの傷で済む彼は、一体何をして突破したのだろう…?

 

 

「あれは…何?」

 そう思ったのはアンリエッタだけではなかったようだ。タバサもまた、不思議そうな表情で剣心に尋ねた。

「まあ、『奥の手』でござるな」

「しっかしおでれーたぜ相棒。まさかホントに防ぎ切っちまうなんてな。飛天御剣流を生み出した奴ってのは、どんなバケモノなんだ?」

「いや、デルフの吸収能力がなかったら、こうまで上手くいかなかったでござるよ」

「そうだろそうだろ!! やっと相棒も俺の価値が分かってくれたみてえじゃねえか!! 感激すぎて涙が…出てくらあ…っ」

 カチカチわめきながら吃り始めるデルフ。それを見て、ああ、アイツも相当苦労してたのねぇ、とルイズは思った。

 そのルイズの横目では、アンリエッタが暗い表情ながらも献身的な姿勢で、自分を探しに来てくれた忠臣達の傷を癒していた。

 

 ある程度大事にはならない程度まで皆を回復させると、アンリエッタは剣心の方を向いて言った。

「傷を見せてくださいまし。せめて、これだけは役立たせてください」

 そう言って呪文を詠唱しようとするが、無理をし続けたのか、急にふらついて剣心の胸に飛び込むような塩梅となった。剣心はアンリエッタの肩を静かに抱いて微笑む。

「無理をするものではござらんよ。拙者は本当に大丈夫でござる」

 あくまで、今の自分を気遣っての発言なのだろう。しかし、それを聞いたアンリエッタは顔をうつむかた。

 

(どうして、何で恩義を受けとってくれないの……?) 

 そんな我侭に似た感情が、アンリエッタの中で沸ふつと湧き上がってくる。

 彼に聞く資格なんて無いと思う。でも、それを跳ね除けても今、聞きたい。

「何故…? わたくしに忠誠を誓わない以上、赤の他人の筈なのに…どうしてあなたは…そこまでわたくしを…」

 遣る瀬無さそうな声で、アンリエッタは尋ねた。何で彼は、こんなにも無欲なのだろう。なのに、何でこんなにも自分を助けようとしたんだろう。

 何か欲しいものがある様でもなく、忠誠を誓うわけでもなく、でも本当に危なくなったときは、誰よりも早く駆けつけてくる。

 結局のところ、王族として生まれ、王族として育ったアンリエッタは、剣心のその心に住む気持ちが全然分からないのだった。

 そんなアンリエッタに、剣心は刺さっている逆刃刀を掴みながら、こう言った。

 

「『人斬り抜刀斎』の下りは、聞いたでござろう?」

「ええ。それが……?」

「彼が言っていたことは、何一つ偽りはござらんよ。拙者は、かつてたくさんの人を殺めてきた」

 どこか冷たくも悲しそうな表情をしながら、剣心は語り始めた。

「新時代の向こうにある平和を目指して、言われるがまま人を斬った。本当に、誰一人とて例外なく…」

 剣心は悲しそうな声で呟く。その声の裏には、恐らくあの青年のことも入っているのかもしれない。ルイズは、なんとなくそう思った。

「そして漸く、激闘の果てに新時代は迎えた。けど、だからといって争いや諍いが無くなるわけではない。ちょっとしたことで人が傷つき、そして悲しむ者が現れる。

拙者は、そういった人々を助けてあげたいからこそ、今この剣を振るっているでござるよ。…それが、人斬りの過去を償う答えだと信じて…」

 剣心は、ここで逆刃刀をルイズ達に見せた。

 

「じゃあ、その剣は…わざとそんな形にしてたのね…」

 

 ナマクラだと思ってた。何でこんなにもこの刀にこだわるのか、ずっと不思議だった。

 でも、ようやく分かった。この刀は、彼の『信念』そのものなのだ。殺すことしか出来ない彼にとって、『殺せない刀』というのは、それだけで意味があるのだと…。

「少なくとも、拙者には、姫殿は悲しんでいるように見えた。悪夢に狂っている裏で、その中に眠る良心をずっと抑え続けてきた。そうでござろう?」

 アンリエッタは言葉を詰まらせた。こんなにも自分の気持ちを把握している、剣心のその口ぶりに。

「それにあのまま行かせたら、ルイズ殿だって悲しむ。拙者はもう、誰かが悲しむ顔は見たくない。それを放っておくことなどしたくはない。だからせめて、目の前に映る人々は守っていきたい。そう思っているでござる」

 でも…、とここで剣心は、心底申し訳なさそうな表情をアンリエッタに見せて頭を下げた。

 

「姫殿には本当に済まないと思っている。言い訳にしかならないとはいえ、ウェールズ殿が殺されたのは、拙者の油断のせいだった。あの時、少しでも反応が間に合っていれば…」

 それを聞いたルイズが、慌ててアンリエッタに向かって言った。

「そんな、ケンシンのせいじゃないわよ!! わたしが勝手にでしゃばったから…それだから…」

 俯くルイズを見て、アンリエッタは首を振った。

 違う…そもそもそんな危険な任務を頼んだのは、ワルドという裏切り者を護衛につけるよう動いたのは、自分なんだ…。

 そう言おうとして、不意に誰かの声に遮られた。

 

 

「……ここは…どこだ…?」

 その声を聞いて、一同は驚いたように一斉にそちらを見やる。

 何と、ウェールズが息を吹き返し、虚ろな目で辺りを見回していたのだ。

 その顔に、さっきまでの邪悪さは微塵も感じられない。ルイズ達が一度目にした、優しくも誇り高い姿だったウェールズの表情だ。

「ウェールズさま!!」

 アンリエッタは、我を忘れて彼を抱き起こした。涙が再び溢れ出す。それは、歓喜の涙だった。

「ウェールズさま…今度こそ…」

「その声は…アンリエッタかい…?」

 虚ろな目をアンリエッタに向けて、ウェールズは微笑んだ。

 

「やっと…会えた…きみに…」

 

 アンリエッタは、無我夢中で抱きしめた。その瞳から涙という雫が落ちる。

 奇跡…というほかなかった。『解除』が偽りの命を吹き飛ばしたときに、わずかに残っていたウェールズの生命の息吹に火を灯したのかもしれない。

 だけど、それは長くは続きそうには無かった。

 じわり…とウェールズの胸から大きな血溜まりが浮き出てくる。ワルドに刺し貫かれた、あの傷だ。

 アンリエッタは急いで呪文を唱えようとしても、傷口は徐々に広がっていく。治るどころか酷くなる一方だった。

「いやだ…どうして…?」

 泣きじゃくるアンリエッタを見て、ウェールズは優しく告げる。

「無駄だよ…この傷はもう塞がりはしない。ぼくはちょっと帰ってきただけなんだろう…もしかしたら水の精霊が気まぐれを起こしたのかもしれないね…」

「ウェールズさま…いや、いやですわ…またわたしを一人にするの?」

 アンリエッタは嗚咽を漏らして、噛み締めるように呟いた。ウェールズは、そんな彼女の隣にいる、懐かしい友の姿の方を見つめた。

 

「ありがとう…きみ達のおかげで、ぼくは彼女に会えた」

「いや…それより、本当に済まなかった…あの時、拙者が助けに入っていれば…」

「いいんだ…君たちに会わなかったら、僕はどの道あの戦争の中で果てていたからね…」

 申し訳なさそうに顔を俯かせる剣心を見て、ウェールズはゆっくりと首を振った。そして、アンリエッタをもう一度見てから、ウェールズは剣心の方を向いてこう告げる。

 

「きみに…アンを…任せてもいいかい?」

 

「え…!?」

「彼女は、優しいだけに危ういからね…きみになら…ぼくも安心出来るんだ…」

 ルイズ達は唖然とした。ただの一介の平民に、一国の王子が頼み事をしているのだ。しかも、その内容もまた、『自分の愛した姫を頼む』という大きなものだった。

 水の精霊の件といい、やっぱりケンシンは凄い…そうルイズは思う反面、どこか寂しいと思う感情もあった。

「…約束するでござるよ」

「ありがとう…友よ…。王子としてではなく、一人の男として、礼を言うよ…」

 確かな友情が結ばれつつあったが、そうしている間にもウェールズの時間は失われつつある。

 彼は最後に、ラグドリアン湖へ行きたいと頼み込んだ。何でも、アンリエッタに誓って欲しいことがあるらしい。

 一行は、ウェールズの命が消えない内に、シルフィードを呼んで急いでラグドリアン湖へと向かっていった。

 

 

 

 ラグドリアンの湖畔、そこでウェールズは、アンリエッタの肩に身体を預ける格好で水辺を歩いていた。

 うっすらと朝日が登る光を見つめながら、ウェールズは言った。

「…あの時、ぼくはこう思ったんだ…このまま二人で、全てを捨てられたらと」

 ウェールズの一言一言は、話すたびに段々とか細いものになってゆく。それでも、アンリエッタは何度も頷いた。

 そして、ずっと聞きたいと思っていた事を、ウェールズに尋ねる。

「…どうして、そんな優しいことを、あの時に仰って下さらなかったの。どうして愛していると、仰ってくれなかったの」

 やがて、ゆっくりとウェールズは答える。

「きみを不幸にすると知って、その言葉を口にすることは、ぼくにはできなかった」

「何をおっしゃるの…あなたに愛されることが、わたくしの幸せだったのですよ…」

 ウェールズは黙ってしまった。愛する気持ちは同じなのに、その想いゆえにすれ違った二人。それは、今この場でも埋められることはなかった。

 それでも、『彼女の幸せ』を願って、ウェールズは言った。

 

「誓ってくれ、アンリエッタ…僕を忘れて、他の男を愛すると…その言葉を、水の精

霊の前で言って欲しい」

 

 アンリエッタは首を振った。そんな事、言えるはずがない。

 それでも、ウェールズは力を振り絞るかのように言った。

「お願いだ…じゃないと、ぼくの魂は永劫さ迷うだろう…きみはぼくを不幸にしたいのかい…」

「…ならば、ウェールズさまも誓ってくださいまし。わたくしを愛すると…今なら、誓ってくださいますわね」

 それを聞いて、ウェールズは力なくも頷いた。段々と彼に生気が無くなっていくのを、痛いほど伝えてくる。

 アンリエッタは水辺へと近付いていった。朝日が写って光り輝き、神秘的な美しさを魅せる湖の端に、足を入れる。

 悲しげな表情をしつつも、アンリエッタは誓いの言葉を口にする。

 

「誓います、ウェールズさまを…」

 

 その時だった。この湖で彼と会った、様々なことが脳裏に去来した。

 初めての出会い、影武者を使ってまで逢瀬を繰り返した事、この湖面で交わした口づけの事…。

 それが一気に襲ってきたのである。ほろほろと、アンリエッタは涙を流して、何度も首を振った。

 

 

 

「…言えません。誓えませんわ。やはり…わたくしには…」

 

 

 

「…そう、か…ごめんよ…アン…」

 優しい声だった。それが、彼の最後の言葉となった。

 アンリエッタはウェールズを見る。しかし、彼はもう項垂れたまま答えなかった。

「ウェールズ…さま…」

 肩を揺さぶっても、どんなに声をかけても、もう彼には届かない。彼はもう、遠くへと行ってしまったのだ。自分の知らない、何処かへと……。

 

 様々な思い出が、泡のように浮かんできては、泡のように弾けて消えていく。淡く、そして儚い記憶の跡だった。

 振り返っても、もうあの宝石のような時間は、帰ってこない。

 

 

「ごめんなさい。でも…思ってもないことを…わたくしも言えませんでしたの…」

 

 

 アンリエッタはそう言って、静かにまぶたを閉じた。そこから、大粒の涙が流れていった。

 暫くして、アンリエッタはゆっくりとウェールズの亡骸を湖に横たえさせた。そして杖を振り、ルーンを唱える。

 水が動き始め。それがウェールズを優しく包み込んだ後、やがて湖の中へと吸い込まれていった。

 

 

 ウェールズの姿が見えなくなっても、アンリエッタは湖を見ながら佇んでいた。

 そしてそれを、木陰の中から剣心達も見守り続けていた。隣で泣きじゃくるルイズの頭を優しく撫でながら。

 

 

「約束は必ず守り通す故、せめて、安らかに眠るでござるよ。この地に来て、初めての友よ――――」

 

 

 湖をその目に移しながら、剣心はそう誓った。

 ラグドリアン湖で、この誓った約束が大きく響くことになるのは、まだ、先の話になる…。

 

 

 

 その数日後、アルビオンでは――――。

「報告がありました…『アンドバリの指輪』を使っての籠絡作戦…失敗とのことです…」

 王党派は消え去り、今や完全に新皇帝のものとなったロンディニウムの居城。

 その一室にて、オリヴァー・クロムウェルは震えるような声で志々雄に作戦失敗の報を伝えた。

 その顔は、いつもしている余裕の表情ではなく、顔は蒼白、そして恐怖で歪んでいた。

 

「申し訳ございませぬ…まさか…このような結果になろうとは…」

「別にいいさ。特に期待してたワケじゃねえしな」

 

 対する志々雄は、いつもと変わらぬ余裕の笑みでクロムウェルに向けていた。寛ぐようにソファに腰掛け、優雅に煙管を吸っている。

「んで、何で失敗したと?」

「はあ、それが報告によると…皇太子一団を追って一匹の風竜と、その上に何人かが乗っていたと書いておりますが、それが誰かまでとは…」

 冷や汗を垂らしながら、クロムウェルは答える。それは仮にもこの国の皇帝とは程遠い表情だ。

 むしろ、『皇帝』という扱いきれぬ重圧に、必死に耐えているようだった。

 

「まあ、十中八九抜刀斎と小娘だろ。俺が送った刺客は、どうやら間に合わなかったようだな」

「しかし…シシオ様…何故『アンドバリの指輪』を、どうやって退けたのか…」

 理解できぬ、といった感じでクロムウェルは呟いた。死んでも蘇るあの不死身軍隊に、死角などなかったはずだ。

「『虚無』にはそういう力もある、ってなだけだろ。イチイチ狼狽えんな」

 それに対し、志々雄の答えは淡々としたものだった。未だ謎が多い『虚無』なら、そういったことの対処法でも書かれていたのだろう…そう考えをめぐらしていた。

 ならば、他にも幾つかの呪文は当然あるはず。

 強力な呪文を持つ『虚無』の担い手…それを守る盾『ガンダールヴ』。

 

「抜刀斎一人だけでも充分楽しめるだと思ったが、成程虚無の娘も侮れないな」

「では…どうなさいます…」

 もはや縋り付くような雰囲気を醸すクロムウェルに対し、志々雄は告げる。

「言ったろ。まず奴等を仕留めることが先決だとな、まあ、生き残ったら生き残ったでそれは、俺が楽しめるからいいんだが」

「ご冗談を…」

「今送った刺客が、どれ程の働きをするか、それを見た後からでもいいだろう」

 あいつか…クロムウェルはあの男の姿を思い出し、そして身震いをした。

 確かに奴は強い。だが、どこか扱いきれぬ危うさも同時に持っている。まさにあれは…人を斬るために生まれてきた存在だと言っても過言ではないだろう。

「シシオ様…あの…あ奴は一体何者…」

 そう聞こうとした時、一匹の魔法人形『アルヴィー』が急に窓へと飛んできた。

 

 

 アルヴィーは隙間を塗ってこの部屋へと入ってくると、志々雄の前でボンと二つに割れた。

 見ると、アルヴィー中身には何やら手紙のようなものが入っている。

「何だ、もう来たのか」

 人形の中身にある手紙を取って、それを広げて書いてあることを読んだ。異世界の文字だが、ここに来て長く経つ志々雄には、難なく読めているようだった。

 それに書かれている内容を見て、志々雄はニヤリと笑みを浮かべた。

 クロムウェルですら思わず背筋が凍りつくような笑み…『剣客』としての獰猛な笑みだった。

「すまねえオリヴァー。少し空けるぜ。直ぐに帰ってくるとは思うが、何か進展があったら使いでも寄越せ」

「シシオ様…どちらへ…?」

 クロムウェルが慌てた様子で、志々雄に尋ねた。彼に手紙が来るたび、こうして何処かへと赴くのはクロムウェルも知ってはいたが、何せ今は状況が状況だった。

 しかし志々雄はそれに答えることはなく、まずソファから腰を上げると、火薬の仕込んだ黒手袋を手に深く差し入れ、椅子に掛けていた愛刀『無限刃』を腰に差し、そして同じく机に掛けていたマントのようなものを肩に背負った。

 それは、『シュヴァリエ』の称号がついたマント…その書かれている紋章は、杖を二つに交差した模様は…このハルケギニアでも随一を誇る魔法大国、『ガリア』の紋章だった。

 それを持って扉を開け、部屋から出ていこうとしたとき、志々雄は言った。

「決まってるだろ? 依頼だ」

 

 


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