どうしても書きたくて書いてしまいました。
プロローグ
(何この無駄にデカイケーキ)
この世界に生を受けて一年目。
私は無駄にデカイバースデーケーキを前にそんな事を思っていた。
えーと、誤解しないで欲しいのですが、私の年齢は二十二歳です。
赤ちゃんではありません。
何が言いたいのかといいますと、要するに……私は転生しました。
転生して今日で一年ということです。
おめでとう私。ありがとう私。
気がついたら見知らぬ場所……何とも非現実的な事なのですが、起こってしまったことなので現実として受け入れるしかありません。
臨機応変に対応ですッ!!
まぁ、転生というか見た目や価値観が変わって別の世界に来ちゃった。って感じなんですけどね。
っと、今では冷静に受け入れていますが転生した直後は混乱して建物を壊してしまったのを覚えています。
あぁ、またまた誤解しないで欲しいのですが前世の私は非力な一般人でした。その辺に転がっている石と変わらない存在でした。
そんな私が一撃で建物を破壊できる力を得た。それほどの力がないと生きていけない世界に転生してしまった私。
それだけでもかなり物騒な世界に転生してしまったんだなと思っていた矢先、私の頭の中に様々な情報が入り込んできた。
帝国やら将軍……極めつけはナイトレイドに帝具という存在。
私は絶望した。それはもう絶望した。
私が転生したのは『アカメが斬る!』の世界でした。
あはは…………笑えないよ。
漫画の世界だからそう簡単には死なないんじゃ……という希望があると思いきや、待っているのは殺しや暗殺、虐殺など様々な死が蠢く腐敗した国。
女だから、子供だからといって見逃してくれない何とも嬉しくない平等な世界。
この国が変わるまで引き篭っていたいのですが、とあるデブがそうさせてくれないので…………ムカつくんですよね。
「グフフ……今日もここに居られましたか。エリア将軍」
私が声の聞こえた方を見ると、グチャグチャと汚い咀嚼音を響かせながら肉を食べるデブがいた。
☆ ☆ ☆
少女がこの宮殿内にある温室に現れたのは、ちょうど一年前の今日であった。
皇帝陛下がいきなり『オネスト!温室内に女の子がッ!!』と興奮した様子で言ってきた。
大臣であるオネストは、子供に良く見られる自分の世界に入り込んでしまって現実と妄想がごちゃまぜになってしまう症状だと思い、軽く微笑むだけで聞き逃していた。
しかし、『オネスト! オネストッ!!』と袖を引っ張る幼い皇帝は中々に諦めが悪く、遂に根負けしたオネストは、渋々手をつけていた書類を後にして皇帝に引っ張られる形で温室に連れて行かれた。
温室内のちょうど中心にあるテーブルとイスが置かれた場所に、少女が座っていた。
そしてオネストは疑問に思った。
様々な植物が植えてあるこの温室は、終始宮殿に居る皇帝陛下のお気に入りの場所であった。
この温室に入るには鍵が必要で皇帝陛下とオネスト、そして宮殿内の警護をしているブドー大将軍以外は持っていない。
つまり誰かが鍵を開けて少女をこの中に入れたのだが……
皇帝陛下は目の前の少女を『知らない』と答え、当然オネストもこの少女のことを知らなかったので、嫌々オネストは近衛兵と鍛錬をしていたブドー大将軍に聞いてみたが『知らん』と答えた。
オネストは困り果て、とりあえず皇帝陛下と自身の安全を考えて
イバラとシュテンは帝国最高と言われている拳法寺。皇拳寺から派遣されたオネスト大臣専用の手駒でその実力は折り紙付き、帝具を持った人間ですら倒したことのある程なのだ。
イバラとシュテンが来たことで少しだけ心に余裕が出来たオネストは、少女のことを調べようと近づく。
近づいても何の反応も示さないあたり、どうやら少女は寝ているらしく背もたれに寄りかかったまま微動だにしなかった。
「きひっ……どうやらおじょーさんは眠っちまってるらしいねぇ」
「その笑いはやめろイバラ。この娘とお前の容姿も合わさって色々と危ない」
「そんなこと言ったらよぉ、お前とこのおじょーさんも似合わないぜぇ。美女と野獣って感じだよぉ」
「ふむ……」
全くもってその通りだと思ったオネストは、未だに起きる様子を見せない少女を観察する。
顔立ちは整っており、髪をツインテールにしているせいか少し幼いように感じる。
服装は、何故か白銀に輝く鎧を着ている。
しかし、肩から篭手の部分は薄い布で覆われ、下は髪色と同じ紫色のスカートを履き、肝心の鎧の部分は上半身だけであった。
ドレスアーマーとでもいうのであろうか、防御力よりもお洒落を意識した服装であった。
そして、鎧には帝国のエンブレムが彫ってある所を見るとこの少女は帝国軍の人間ということになる。
他にも何かわかることがないか少女をジロジロと見ていると……いつの間にか目を開けていた少女と目があった。
その瞬間、オネストは体が鉄の様に重くなり地面に倒れた。
イバラとシュテンも同様に地面に倒れ、何が何だかわからないといった顔をしていた。
少女は何も言わず立ち上がると、屍人の様な目でオネストを見下す。
何も写さず、見た者を闇へと引きずり込むような目。
「おっお前は何者だ! 私に手を出せばただじゃすまされんぞ!!」
このままでは殺されると思ったオネストは、何とも見苦しいセリフを吐いた。
「…………」
しかし、何の反応も示さない少女は、何かを包み込むように両手を構えた。
その後のことをオネストと羅刹四鬼の二人は覚えていない。
彼等が気がついた時には少女はイスに座り、皇帝陛下はこの騒ぎに慌てて駆けつけたブドー大将軍と何やら話をしているようだった。
殺されなかったことにホッとする大臣だったが、それもつかの間。信じられない光景を目にする。
なんと……温室の約半分が消滅していたのだ。
何をしたのかはわからない。
しかし、羅刹四鬼の内の二人を簡単に倒した力量、体を拘束したり温室の半分を消滅させる力……十中八九帝具の力だと推理したオネストは、是非とも手駒として取り込もうと少女と話をすることにした。
「ふむ、お前は何者でどこからやってきた?」
「…………」
「ここがどこだかわかるかね?」
「…………」
「お前は帝具を持っているのだろう?」
「…………」
何を聞いても一言も喋らず、表情を変えない少女。
どうしたものかと困っていると、そんなオネストを見て皇帝陛下が笑って言った。
「はは、オネストよ。この子の名前はエリアというそうだ」
「陛下……どうやってこの少女の名前を?」
「ん? エリアは喋れん様だからな、筆談というやつだ」
そう言って皇帝陛下はテーブルの上を指さすと、『うん』『エリア』『ごめんなさい』等と書かれた紙が散らばっていた。
「なるほど、エリアと言ったな……お前は何者だ?」
オネストの問いにエリアは何も書かれていない紙に一言。
『人間』
と書いて見せた。
何とも的外れな答えを返されたオネストは頭を数回掻く。
このままではこの少女のペースに飲まれてしまう。
そう思ったオネストは本音を打ち明かす。
「ふぅ、お前が何者かはしらんが私の命を奪わないということは敵ではないということだろう。この際お前の素性は気にせん、どうだ、帝国で働く気はないか? もちろん悪いようにはしない。将軍の位をくれてやる」
素性もわからない人物に対しては破格の条件であった。
しかし、それほどまでにオネストはこの少女を敵に回したくなかった。
少女は先程も言ったが帝具持ちである。しかも性能を見る限りかなり強力な物だと考えられる。
そんな帝具を持った少女が帝国の敵になったら、幾ら帝国最強のエスデス将軍やブドー大将軍がいるといっても苦戦は免れないだろう。
そして、この少女が味方になれば……今よりより一層自分の思い通りに国を動かせる。
酒池肉林を思う存分振る舞える。
そう思っての条件であった。
「…………」
エリアは何も書かず、唯々オネストを光の失った目で見つめるだけであった。
どれくらい経ったのであろうか。静寂を破ったのはオネストでもエリアでもなく、皇帝陛下の隣で黙ってこの様子を眺めていたブドー大将軍であった。
「エリアと言ったな、陛下の宮殿を壊した罪は大きい……が、陛下がお前のことを気に入ったようだ。どうだ、私と一緒に陛下に尽くす気はないか?」
そう言って手を差し出した。
堅物で知られているブドー大将軍のまさかの援護に目を丸くするオネストであったが、すぐにエリアの方を見る。
『よろしく』
そう書かれた紙が一枚、オネストの目の前に置かれていた。
無事にエリアを味方につけて一年が経った。
相変わらず彼女は一言も話さず、何かあれば紙に書いて自分の意思を伝えるだけであった。
年端もいかない少女、しかも話せない、素性もわからない……そんな少女が将軍になったということもあり、軍の内部はかなり混乱した。
しかし、将軍としての仕事はきっちりこなすので、初めは反発していた輩も徐々に彼女を認めるようになり、極めつけはエスデス将軍の『エリアは私が認めた者だ!』発言も大きかった。
将軍としての仕事、特に賊軍の掃討を担当しているエリアをオネストはエスデス将軍の次に頼っていた。
北の異民族の侵攻が激しくなり、エスデス将軍を中核とする北方征伐部隊を派遣して暫く立つが、どうにも帝都内で賊共の不穏な動きがあるようなのでエリアにその反乱分子を排除してもらおうとオネストは頼みに来ていた。
(また見ない内に知らん草木が増えたな……)
賊共の資料をエリアに渡したオネストはそんなことを思っていた。
エリアは仕事がない日はいつもこの温室にいる……というよりこの温室がエリアの部屋なのだ。
皇帝陛下に頼み、この温室を賊軍討伐の褒美として貰ったエリアは何処からともなく取ってきた草や種を植えている。
一見、何の考えもなく取ってきては植えているように見えるが、どうやら彼女が植えているものは何かしらの役に立つものであった。
オネストも時々食後のデザートとして果物を貰いに来たりしている。
(ちょうど肉も食べ終わりましたし、今日も何か貰うとしましょう……)
そんなことを考えていたオネストは、ふと自分を見ているエリアに気づく。
どうやら資料を読み終えた様で、サラサラと何か書いていた。
「どうでしょうかエリア将軍、やってくださりますかな?」
オネストはニンマリと意地汚い笑みを浮かべる。
そんなオネストを無表情で見つめるエリアは書き終わった紙を見せる。
『却下』
その文字を見た瞬間、オネストは目を丸くする。
今までどんな仕事でも『了解』と書いてきた彼女が、まさかの『却下』。
「どっどうしてですか?」
流石のオネストもこれには驚きを隠せなかった。
『早い』
エリアがその文字を見せると、またもオネストは意地汚い笑みをする。
なる程、今殺したところで反乱分子はまだまだ出てくる……大きくなったところを叩き潰す。という事ですか、流石は賊共から
「わかりました。時期が来たらお願いしますよ」
『わかった』
オネストは満足げに頷くと温室を後にしようと歩き出す。
数歩ほど歩くと、鼻を掠める甘ったるい匂い。
甘いものが好きなオネストはその匂いの発生源を突き止めるべく辺りを見渡す。
後ろを見ると、拳大ほどの大きさのある紫色の果物を持ってエリアが立っていた。
「ほほぅ……これを私にくれるのですか?」
『ほい』
「ありがとうございます。良いのですか、こんなに沢山貰って」
『ケーキのお礼』
「あぁ、それなら気にしないで下さい。それにしても、これは何ですか? 見た感じ馬鹿デカイ苺に見えますが……」
『マーグベリー。育てるのに苦労した』
「ヌフフ……ありがとうございます」
カゴいっぱいにマーグベリーを貰ったオネストは上機嫌に温室を後にした。
☆ ☆ ☆
さて、目を開けたらいきなりのゲス顔デブ&上半身裸のいやらしい目つきの男に筋肉モリモリヒゲもじゃ男がいたらどうするか。
まずはビックリして悲鳴をあげますよね。
私も悲鳴をあげようとしたんですが、何故か声が出ないんですよ。
ヤバいッ!? と思ったので今度は逃げようとしたのですが、ここで冷静になりましょう。
ゲス顔デブは兎も角、いやらしい男とヒゲもじゃ男は筋肉モリモリ……逃げても絶対に捕まると思いました。
よって私に残された選択肢は一つ。
捨て身の迎撃ですッ!!!!
そう考えた瞬間に頭の中に情報が入ってくる。
その情報通りに体を動かし、何故か持っていた【帝具】を使ったら何かスカウトされました。
勿論私は…………OKですよ。
いや、帝国軍側……しかも原作主人公たちが殺そうとしているゲス野郎のオネスト大臣に付くとか正直勘弁って思いましたよ。
でもね、断ったら私死ぬじゃん。
羅刹四鬼の最強イバラさんにシュテンさん、それにブドー大将軍までいるとか、どう考えても無理ゲーです。
確かに私の帝具を使えば逃げられるかもしれません。
でも、その後が問題なんですよ。
『羅刹四鬼とブドーから逃げた』→『そんなに強い奴がいるのか!!』→『闘争大好き原作チートキャラのエスデスさん登場』
絶対こうなりますッ!!
誰が好き好んで原作チートキャラのエスデスさんに狙われないといけないんですか。
っという訳で私は死にたくないので帝国軍にめでたく就職しました。
アレですね。意外に雇用条件いいですね。
しっかり働けば給料アップにボーナスまで……
これも民の方が重税で苦しんでるおかげです。本当にごめんなさい。
…………って思っておけばいいですかね。
正直な話、私は漫画の主人公やその仲間たちのように自分の命と引き換えに巨悪と戦う。なんて無謀なことできません。
本当にごめんなさい。
私の守りたいものは自分の命と手が届く命だけ……それ以外は知らない。
弱肉強食の世界なら強者になればいい、ただそれだけです。
それに私の価値観はどうやら他の人たちとは違うらしく、人を殺しても何とも思わないんですよね。
まぁ、そうじゃないと私みたいな平和な世界で生きていた人間には生きていけない世界なんですよね。
そういえば、あのデブが帝都にいる賊を殺して欲しいって言ってましたけど……十中八九ナイトレイドですよね。
渡された資料にも帝具、一斬必殺『村雨』を持ってるアカメちゃんとか万物両断『エクスタス』とか書いてありました。
勿論引き受けません。
私が拒否すると大臣はすっごい目を丸くして驚いていましたがそんなこと知らん。
だって怖いんだもん。
この世に四十八個しかなく、一騎当千の力を持つと言われ物まである超兵器『帝具』。
簡単に説明すれば某国民的アニメの未来から来たネコ型ロボットが持っているひみつ道具みたいなものです。オーバーテクノロジーです。
そんなチート性能な帝具を持った者同士で戦うと……相打ちはあっても両者生存はありえない。つまりどちらかが必ず死ぬということです。
そしてナイトレイドの皆さんが持っている帝具は六個。対するのは私の帝具だけ……六対一。
せめてエスデスさんが北の異民族討伐から帰ってきてからならまだしも、何の計画もなくただ『コイツらウザイから殺してー』なんて嫌です。ノーサンキューです。
確かに私の帝具と高い身体能力があれば殺せるかもしれません。
しかーし、原作が始まってもいないのに原作キャラを殺すのって……大丈夫なんですかね。
最悪、世界の修正力みたいなものが働いて私という存在が消されて何事もなかったことになりそうで怖いんですよ。
という訳で色々と不確定要素が含まれるので却下です。
原作に関わるようなお仕事は始まってからにして下さい。
私に断られた大臣は暫くフリーズしていましたが、再起動と共に気持ち悪い笑みを浮かべました。
『顔面殴りたい』
そんなことを思いながらもそんな気持ちを微塵も出さないクールな私の顔。
どんな事が起こっても鉄仮面のごとく表情を変えないマイ、フェイス。
無口で無表情とかどんだけコミュニケーション力がないんだ……大丈夫かよって思っていましたが意外になんとかなるものですね。
さて、仕事の依頼を断ったので何かお詫びの品でも送ろうかと思いましたが、生憎私が用意できる物は今が旬のマーグ高地産のマーグベリーだけです。
私が態々任務の合間を縫って取ってきた大変貴重な果物です。感謝しなさいッ!!
……実らせるまでに苦労しましたが、今では雑草の様に沢山生えてしまっているので困っていたんですよね。
適当にカゴに取って渡し、ついでにテーブルの上に置かれていたバースデーケーキのお礼をする。
こんな無駄にデカイケーキをくれるのは大臣しかいませんので。
何とも似合わない優しい笑みを浮かべた大臣が温室から出て行った後、私はイスに座り目を瞑る。
私がこの世界に転生した年が帝歴1023年。
つまり、一年経ったということは帝歴1024年…………アカメが斬る!の原作が始まる年です。
さて、原作を知っている私という異常者はどう物語に関わるのでしょうね。
私は立ち上がり温室の外へと続く扉を開ける。
まずは、原作の主役であるタツミ君のお出迎えといきますか。
ここまで読んで下さった方ありがとうございます。
こんな感じで書いていくと思いますので暇なときにでも読んで下さい。
無口&無表情キャラっていいですよねぇ……
感想書いて下さると作者の書く気力&テンションがあがりますッ!!!