ハターン・モンスータの狩りと愛の日々 作:ヨイヤサ・リングマスター
アカムトルムけっこう好きなんですが、ウカムはあまり好きではありませんけど。
ウカムの大剣は特徴的で好きですけどモンスターとしての見た目や防具のデザインがねぇ~。せめて色が黒ければ……
「グァァァァァァァー!」
その鳴き声は地面から炎柱を噴出させ、破滅の音が響き渡る。
その名はアカムトルム。
決して人が立ち向かっていっていいものではなく、必ず逃げださなければいけないもの。
それこそが常識。
その姿を一目見ただけで戦おう、抗おうと考えることすら出来なくなってしまう存在。
人間とはモンスター、特にアカムトルムのような化物が現れたら家だろうが村だろうが何を捨ててでも自分の命を失う前に逃げるのが普通。
だがその常識も普通の行いさえも無視する者、それこそがハンターなのだが今現在アカムトルムと交戦中なのはカーザン族の戦士達だった。
「族長!
戦えない者達はどうにか近くの集落まで逃げのびることに成功したそうです!
我々も早く逃げましょう!!」
そこそこの実力がありそうな若い男が族長と呼ばれる男に言う。
装備を見る限り上位クラスのハンターのようだがそれでもアカムトルムを相手にするには心許ない装備であちこちに焦げ跡が目立つ姿だ。
「俺が逃げるのは全員が避難を終えてからじゃ。
今度は俺が一人でアカムトルムの相手を引き受けるからその間にお前は残りの前衛達と一緒に怪我人を連れて逃げちょれ」
そう言って伝令に来た若者を下がらせる。
この族長、ヒノコの父は今回アカムトルムが村の近くで暴れ出したことで村の若い衆を率いてこうして戦えない子どもや女性や年寄りが逃げ切るための時間稼ぎをしているのだがその人数は当初の半分以下にまで減っていた。
運よく怪我で動けなくなっただけの者は後方に下がらせ、安全な場所まで避難させていったが、何人かはアカムトルムの巨体に突き飛ばされ、溶岩の中に落ちて骨も残さずに焼け死に。
またある者はその巨体に踏みつぶされ圧死し、原型をとどめること無く辺りを血の海に染めたがそれも火山の熱気ですぐに乾き、目立たなくなる。
そして最後の一人であった若者の姿が見えなくなったことを見届けると族長はアカムトルムに向き直る。
「はっはー、待っててくれたのかアカムトルム?
俺は族長として村を壊滅させたテメェを殺さにゃいかんから逃げる訳にはいかんからのう」
もちろんアカムトルムにそんな考えがあるはずがない。
だがここまで長時間に渡り族長たちカーザン族の戦士との勝負に多少の疲れを感じる程度には弱っていたのだ。
「俺の村を壊した報いを受けるのじゃ!」
族長は両手に握っていた愛用のハンマーの柄を握りしめ再びアカムトルムに突貫した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!」
「グォォォォォォォォォー!」
両者は激突した。
だが当たり前のことだが体の大きさが違いすぎたため族長はアカムトルムとの最後の勝負に負けた。
アカムトルムが疲れていると言ってもそれが両者の間にある決定的なまでの差を埋めるには至らなかった。
「くぅぅぅ、本来の目的である村の皆が逃げるまでの足止めを果たしたのは良いがこりゃ俺には勝てねえな。
ヒノコよ……村の皆を頼んだぞ……」
アカムトルムは族長を吹き飛ばしたあと止まることなく自分に傷をつけた、鬱陶しいだけの存在を確実に殺すためにその鋭い爪を振り上げ……振り下ろした。
……だがその爪が族長の頭を千切り飛ばすこともなければ攻撃が逸れて地面を抉るということもなかった。
「あんたがカーザン族の族長だな?
俺は通りすがりのハンター、ハターン・モンスータだ」
族長めがけて振り下ろされたアカムトルムの爪はハターンの腕一本で受け止められたのだ。
「さぁて、依頼人の父親も見つけたことだしこっから先は一方的にボコらせてもらうぜアカムトルム!」
その後の展開はこの場にいた族長と、ハターンに連れられてきたその娘ヒノコは一族の歴史に新しく『化物殺しの化物というのは人間である』という一文を付け加えることとなるのだった。
ハターンside
以前アカムトルムを倒したのはまだ十代の時だったな。
似たようなモンスターのウカムルバスはこないだ『キリン娘愛好会』を潰す時におまけとして討伐したがそれでもアカムトルムを最後に倒したのは現在27歳の俺にとってはかなり前のこととなる。
だが、だからこそ……楽しい!
「お前、随分と力自慢みたいだな」
愛剣『竜骨砕き』を両手で握り力を込める。
そして切る。
ガキィン!
「グ……ァァァァ……ァァァ……」
「ほぉう、俺の一撃を堪えるとはさすがは火山の覇者だけはある。
だが次の一撃は受けようと思わん方がいいぜ」
最初の一撃はただの筋力と剣の重さを使っただけの斬撃。
だが二撃目に俺が繰り出した斬撃は俺の闘気を刃に練り込んだ一撃だ。
大きく振りかぶって……斬る!
シュン
そして……火山が割れた。
「どうよ、次元をも切り裂く俺の斬撃は。
といってもこの一撃を食らって生きてた奴は見たこと無いけどな」
斬撃はアカムトルムは巨体を上下で真っ二つに切り裂き、溢れんばかりの大量の血が大地を赤く染めた。
アカムトルムとの勝負は俺の圧勝であっという間に片がついた。
だが、
「あ、ちょっとヤバいかもな……」
今回俺は一つ失敗した。
割と本気の斬撃を出したのはまぁいい。
筋力と剣の重さだけによる一撃に耐えたアカムトルムの強さ(俺より弱いがな)に敬意を払ってのものだからだ。
問題はここが火山でこの技は延長線上、今回は手加減したから大体直線距離で1㎞位になるが、地面も火山もまとめて切り裂いてしまったことなのだ。
つまり火山までも切り裂いちまったから溶岩が流れ出て物凄い速さで俺らに向かって流れてきてるんだわ。
「「溶岩が流れてきとるぅぅぅー!」」
あーあー、カーザン族の族長とその娘ってんなら多少の荒事に慣れているだろうに情けない声を上げちゃってまぁ。
俺が原因だし助けない訳にはいかないしな。
「それじゃ二人ともしっかり捕まってろよ。
一気に下山するから舌噛むんじゃねえぞ」
二人を担いで500mを5秒くらいの速度で駆け下りる。
どうにか火山が割れたことで流れだした溶岩流から逃れることは出来たがおかげでカーザン族の村があった場所はきれいに溶岩で埋まってしまった。
……俺が受けた依頼はアカムトルムの討伐だからこれって問題ないよな?
今回は普通のバトルが書いてみたいというノリで書きました。
でも、やはりハターンの強さとうっかりが目立つ最後になったのは書いてる途中でバトル展開に飽きたからですw