ハターン・モンスータの狩りと愛の日々   作:ヨイヤサ・リングマスター

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第九章:狩り場で一泊するのって修学旅行気分になれそうじゃね? 編
一人で夜を過ごすというのは叶わぬ夢


 闘技場での武神闘宴を終えたイトラを連れてサラとディオシキも加えた俺達4人は酒場で食事も済ませて家に帰ったわけだ。

 

 ちなみにカヤネは精神的ショックが酷いらしくギルドお抱えの病院に放り込んでやった。

 

 

「……しっかしまぁ、予想はしていたがここまで壊されるとはなぁ……」

 

 

 俺の家は見事に破壊されていた。

 

 それこそ前に大泥棒マック・スティッドが来た時以上に破壊の限りを尽くされていた。

 

 

「いやいやハタっち。

 僕様ちゃん達が勝負事で手を抜くなんてありあえないからある意味当然の帰結じゃないのかな?」

 

 

「盛り上がったぜぇ、超盛り上がったぜぇ!

 あたしの拳とディーちゃんの拳によるカードバトルは最高だったのさ♪」

 

 

 とりあえず食事の時にマルに大工の手配を依頼をしておいたから明日には修理してくれるだろうが今回はどこかに宿をとるしかないなこれは。

 

 

「それじゃあ今夜はこれにて解散だ。

 明日には家の立て直しも住んでいるだろうからその時まで各自のんびりと過ごせよ」

 

 

 俺もたまには一人になりたいし今夜は酒場で夜を明かそうかな。

 

 そんな事を考えながら再び酒場に向かって走りだしたんだが後ろからイトラが追ってくる。

 

 しかし、まだまだ俺の本気の走りについてこれるほどではないな。

 

 さみしがり屋のイトラは一人で夜を過ごすのが嫌なんだろうが、今のイトラにちょっかい出すような命知らずはこの街にはいないだろうしたまには一人で夜を過ごすことを覚えさせるにはいい経験だ。

 

 俺は振り返ることもなくトイダーヴァの街を走り抜けた。

 

 そして酒場!

 

 アルコールは飲めないが俺専用の席には専用の本棚も備え付けてあるから今夜は優雅に読書でもするかな。

 

 適当に手にとった今月号の『月刊 狩りに生きる』を読み始める。

 

 

「お、この子めっちゃ可愛いじゃん!

 でもギルドナイト志望かぁ、どうせルナが食っちまうんだろうなぁ……」

 

 

 雑誌の特集でまたも可愛い女性ハンターの特集が組まれていたので懐かしの我が同志を思い出す。

 

 そんな風に久し振りの一人の時間(周りに他の客はいるが)を満喫していた俺なのだが不意に俺に声を掛けてくる男がいた。

 

 そう男だよ。

 

 これが可愛らしい女の子やカッコいい美女なら喜んで寡黙に渋く誘いに乗ったんだろうが男が相手ではあまり気乗りがしないな。

 

 

「心の隙間埋めましょうか?」

 

 

 そして勝手に俺に近づいてくるなんてまた厄介事でも持ちこむ気か!?

 

 俺に近づくには許可がいるぞこの野郎。

 

 一体全体どこのどいつだよ!

 

 

「俺に何か用か……ってお前かよ」

 

 

「えぇ、僕ですよハターンさん。

 お久しぶりです。

 風のまにまに漂う音楽家の副業にハンターをやっている吟遊詩人のロッド・キツサです」

 

 

「本当に久しぶりだな、『不憫』のロッド。

 相変わらず不幸ライフを満喫しているような顔つきじゃないか」

 

 

「その名で呼ばないでほしいね『最強』のハターンさん。

 師匠にも言われたけど僕は人よりも波乱万丈な人生を送っているだけで決して不幸ではないんだからさ」

 

 

 と、人畜無害に見える完璧なまでの笑みを浮かべるロッド。

 

 相変わらずポジティブな考え方の持ち主だな。

 

 さてこの男、ロッド・キツサは俺の母さん、『頂点』のリュカ・モンスータの弟子の一人でこのトイダーヴァの街の第四位のハンターという実力だけは本物という一流の弓使いのハンターだ。

 

 実力だけと言ったのはこのロッドが類稀な不幸体質のためにこれまで何百何千のモンスターを狩ってきたと言うのに一度もレア素材を手にしたことがないという異常なまでに不幸な男だからなのだ。

 

 おまけに狩りに同行した奴に不幸をまき散らすという体質のために常にソロで下位装備(鉱石すらも上位、G級素材は決して出ない)で狩りに出かけているのだ。

 

 

「リュカ師匠のおかげでソロで下位装備のままでもG級モンスターを複数相手取るだけの実力はつきましたけど今だにハターンさんには敵いませんよ。

 やっぱり僕は狩りよりも音楽の道が向いていると思うんですよね」

 

 

 付け加えると音楽家としてはかなり引っ張りダコで不幸体質を差し引いてもその演奏を聞きたいという需要が殺到する天才音楽家なので本当にハンター稼業は副業としてやっている。

 

 それでもこの街の第四位の座をキープしているあたりが母さんの弟子たる実力の証明となっているだろう

 

「その考えには俺も同感だが、何か用事があるのか?

 俺はお前の不幸体質という異常性を緩和できる数少ない人間だが今夜は久し振りの一人だけの時間を得たからゆっくりと読書で優雅かつハードボイルドに過ごそうと思ってるのだ。

 早々にどっか行ってくれるとありがたいのだがね」

 

 

「ふふふ、やっぱりハターンさんは変わらないね。

 でも雑誌の『可愛い女性ハンター特集』を読むハードボイルドな人なんて僕は知らないけどね」

 

 

 これまた相変わらず口の減らない奴め。

 

 礼儀正しい癖にそう言うところはズバズバ言ってくるからこいつは厄介なんだよな。

 

 心の隙間を埋めて欲しいのは自分だろうに俺に声掛けてくるあたり何か厄介事を持ってきたのは間違いないんだろうがはてさて今度は何を言い出すつもりだ?

 

 

「さて、単刀直入に言わせてもらいますと新しいメロディーが閃きそうなので僕と一緒にそのメロディーの採取に同行してほしいのですよ」

 

 

「断る!

 俺がついていく必要がどこにあるんだ」

 

 

「この綺麗な星空と虫たちの鳴き声の中、世界レベェェ~ルの僕の音楽を聴くのも最高にハードボイルドなことだとは思いませんか?」

 

 

 む、それは言えてるかもしれん。

 

 

「メロディーを思いついたら誰かに聞いてもらいたいと思っていたのでハターンさんに同行してほしいんですよ。

 大丈夫、何もモンスターの討伐依頼とかではありませんし何も厄介なことなんてありませんから♪」

 

 

「……お前と一緒に狩りに出ると採取ツアーとかでも不幸まみれの展開になっちまうからな。

 だがまぁ、そこまで言うならついて行ってやるよ。

 俺も家が弟子たちに破壊されて今夜は酒場で過ごすつもりだったから狩り場で過ごす夜も悪くない」

 

 

 何やらロッドの口車に乗せられている気もするがやってくる厄介事を潰していくよりは自分から潰しに行けば少しは俺に降りかかる火の粉も減るだろう。

 

 それにこいつもこれで俺の知り合いの中では特に常識人ではあるから助けてやりたくなっちまうんだよな。

 

 まず間違いなく厄介な展開になるだろうが……

 




 弓使いを出したかったのでまたもやノリで出しちゃいましたw

 名前の方もウィリアム・テル、花栄、アーチャーなんかを元にしてもいいかと思いましたが『不憫』という二つ名を思いついたのでこうなりました。

 タリエシンは性格の方に少しだけ入ったかな。

 ちなみに家名の方は弓使い→弓塚、の流れですw

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