ハターン・モンスータの狩りと愛の日々   作:ヨイヤサ・リングマスター

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いやいや俺なんかに一目惚れ娘はいないでしょ

 朝食を食べたあと俺達三人は俺の馴染みの鍛冶屋に向かうこととなった。

 

 俺を置いて先先行こうとするサラはこうして見るとイトラよりも幼く見えるな。

 

 イトラにしても俺に心を開いてくれたのは嬉しいんだがサラよりも俺にべったりくっついてくるし。

 

 俺の日常では今日も狩りに出かけて怪我ひとつなく瞬殺して今日の夜には酒場で飲んで食って帰って寝るつもりだったのにこりゃ本当にこいつらを追い出さない限り俺の日常は遠のいてしまうな。

 

 はぁ、不幸だ。

 

 

「お、見えてきたぞ。

 あの店が俺の馴染みの鍛冶屋だ」

 

 

 街の外れに一軒だけポツンと建っている寂しい場所だが周りに何もないこともあり、店はかなりの広さを持っていた。

 

 この店の雰囲気はあまり好きじゃないから今回みたいな理由でもなければ来たくはなかったんだがな。

 

 

「へいらっしゃい!

 これはこれは珍しいハターン坊やか。

 何か入り用かのう?」

 

 

 店から出てきたこの男は店主のトン・カンジヤという見た目は薄汚い爺さんだがこの街だけでなくこの世界に広く名の知れた天才鍛冶屋なのだ。

 

 俺の駆け出しの頃から色々と世話になってるもんだから呼び方はいつまでも『坊や』なんだがな。

 

 別に俺は気にしてないが。

 

 

「久しいなトン爺さん。

 今日は俺の元弟子の弟子の防具の依頼に来たんだ。

 俺の昔使ってた防具を持ってきたからこいつ用に仕立て直してくれ」

 

 

「ほうほうほう、しかしワシもそろそろ引退しようと思っておったのでな。

 今回の仕事はワシの孫に任せてもよいかのう?」

 

 

 俺の昔の防具を受け取りながらをトン爺さんは店の奥に向かっていった。

 

 

「おーい、チカ。

 お前に初のお客さんがきたぞ~い」

 

 

「おい、俺はまだあんたの孫に任せるとは言ってないぞ。

 信頼できるのか?」

 

 

 だが、俺の言葉を無視してトン爺さんは店の奥に進んでいく。

 

 仕方がないので俺達三人もついて行くのだが店内はまだ昼間だというのにかなり薄暗かった。

 

 

「なぁ、ハターン。

 あたし飽きたから遊んできていいか?」

 

 

「お前はもっと人の師匠になることのなんたるかを学べ。

 俺は本来お前にもイトラにも手を貸す必要はこれっぽっちもないんだぞ!」

 

 

「私なんかのせいでごめんなさい……」

 

 

 あぁもうイトラもそんなに落ち込むな。

 

 俺はサラの丸投げなやり方に文句言っただけなんだから。

 

 

「ほらイトラよく見てみろ。

 ハターンはこの顔の時は慌ててるんだ。

 お前が泣くのを見て良心にチクチクきてる証拠だぞ♪」

 

 

 くぅ、俺はポーカーフェイスには自信があるのだが、サラみたいにごく一部の人間には微妙な違いを見抜かれてしまうから俺は人づき合いが嫌いなんだよ。

 

 

 しばらくそうして無駄話をしながら店の中を歩いて行くと漸くトン爺さんはひとつだけ丈夫そうな金属製の扉の前で止まった。

 

 

「おーい、チカ、寝てるのか?

 お前さんにお客さんじゃぞ~」

 

 

 爺さんはドアをガンガンと叩くが返事はない。

 

 

「トン爺さんもういいさ。

 いつも通りあんたが仕事を引き受けてくれないか」

 

 

「そうはいかん!

 ワシの孫は最近までジャンボ村にて知り合いの鍛冶屋のところに修行に出ていたのじゃが、こっちに帰ってきてからずっと寝て過ごしてるぐうたら娘なんじゃよ」

 

 

「実に共感できるな。

 むしろ何者にも邪魔されず己のやりたいようにやってるなんて俺からしたら羨ましい限りだ」

 

 

 俺は自分のやりたいように生きてるつもりなんだが周りにはサラみたいに俺の日常をかき乱す連中がわんさかいるからな。

 

 俺がそんなことを考えていると少しだけ鋼鉄製の扉が開いた。

 

 

「爺ちゃん、ここに来るお客さんってのはもしかしてトイダーヴァの街で一番のハンターのハターンさんか?」

 

 

 ドアチェーンが掛かっているので扉は完全に開かず、声の主は姿を出さずに眠そうな声で聞いてくる。

 

 

「おお、そうじゃよ。

 ワシに依頼を出せるハンターなんぞハターン坊やくらいしかおらんからのう」

 

 

 そうなのだ。

 

 この店が客が少ないのはこの店の立地の悪さと知名度の低さだけでなく金がものすごいかかるからなのだ。

 

 職人気質のトン爺さんは気に入らない奴からは億単位の金を巻き上げるからな。

 

 ……別に俺は元弟子の弟子の命を守るための防具を安物で揃えるのが俺の関係者に相応しくないからここに来ただけだ!

 

 決して俺はお人好しではない……と思いたい。

 

 

「あー、俺がハターンだ。

 あんたはトン爺さんの孫らしいが寝てるところ起こして悪かったな。

 俺らのことは気にせずゆっくり寝ててくれ」

 

 

 客が言うセリフじゃないかもしれないが俺も熟睡してるところを起こされる辛さはよく知ってるからな。

 

 そうしてトン爺さんを説得して爺さんにイトラの防具を作ってもらえばそれで今日の予定は終了だ。

 

 

ガチャガチャガチャガチャ

 

 何やら物凄い勢いで扉のチェーンが外されていく。

 

 一対いくつつけてたんだよ。

 

 

ガチャ

「はじめましてハターンさん。

 トン・カンジヤの孫のチカ・カンジヤと申します。

 今日はあなたの武具を精一杯作らせてもらいます」

 

 

 さっきまでの眠そうな声はどうしたのか、まだ見たところ18歳くらいの女の子チカは顔を真っ赤にして出てきた。

 

 

「あんた寝てたんだろ?

 今回の依頼はトン爺さんに任せるからこのまま寝てても良かったんだぞ」

 

 

 チカはさっきまで寝ていたために寝ぐせがひどいことになっているがそんな事には構わず俺の依頼を受けたいと言ってきた。

 

 そこまでして俺の依頼を受けるなんてどうしたんだろうな。

 

 

「ハターン、ちょっといいか?」

 

 

 サラが小声で俺に呼びかけてくる。

 

 

「この子はお前に惚れてるんだよ。

 お前の名前はこの世界のどこに行ってもハンターやそれに関連する人たちで知らない人はいないくらいの『最強』のハンターなんだから」

 

 

 そんな馬鹿な。

 

 俺はこの子とは初対面だし、会ってすぐに恋に落ちるなんてことはないだろう。

 

 サラの発言は無視だな。

 

 

「以前からハターンさんのお噂は聞いていましたが貴方様の武具の製作に携われるとはこのチカ、感激の極みでしょう!」

 

 

「あー、それなんだが俺の武具じゃなくてこっちの子の防具を頼みたいんだ」

 

 

 俺はイトラを前に出すと途端にチカの表情が消えていく。

 

 どうしたんだ?

 

 サラは修羅場だ修羅場だ♪と楽しそうに言ってるがどういう意味なんだろうな。


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