ハターン・モンスータの狩りと愛の日々 作:ヨイヤサ・リングマスター
「さぁさ、ハターンちゃん。
ママは長旅で疲れてるんだから早いとこ家に連れて行ってよ~♪」
「家の場所知ってるんだから一人で先帰ってろよ。
俺はまだ感傷に浸ってハードボイルドにミルクを飲んでいたいんだから。
ほら、イトラ達も何とか言ってやってくれよ」
「私はお義母さんに認めてもらうためなら何でもするから丁重に断らせてもらいます♪
師匠が私と結婚してくれるなら師匠の味方しますけど♪」
一瞬の逡巡もなくそう言ってのけるイトラ。
「あたし達もリュカさんにはハターン以上に世話になってるし無理だぜ。
というかこの方がおもしれーじゃん♪」
「確かに面白いよね。
僕様ちゃんもハタっちには世話になってるけどそれはそれ、これはこれ、だもん♪」
イエーイ、とハイタッチをかまし、あくまで俺をからかって楽しもうという意思がありありと見てとれるサラとディオシキ。
やれやれ、こいつらのことだから家に帰ったら、母さんがやってきたお祝いでもしようって流れで俺がみんなの飯を作る羽目になるんだろうな。
「ところで母さん一人で来たのか?
父さんはどうしたんだよ」
俺の両親もハンターとしてかなり名が知れてるのだがそれ以上にバカップルとしての方が有名なのだ。
結婚して27年だというのに今だに新婚のようなラブラブな毎日を送っている両親を見せつけるもんだから俺は家を出たんだがな。
ホントにバカップルだぜ。
「パパは狩りよ。
『ちょっくら一人で狩りに行ってくるぜハニー』って言って一番いい装備を着て行っちゃったし、けっこう長くかかりそうね」
まったく父さんも自由人だな。
俺の父、ジドストラ・モンスータはハンター出身の叩き上げでハンター協会の会長というこの業界のトップにまでなった人なんだが元ハンターだけあって事務仕事をほとんど部下の人に任せて狩り三昧なおっさんなのだ。
これまでも仕事の手伝いをさせられたりで迷惑極まりない人だったが、ガキの頃は夜中にジャングルに放置されたり風船にくくりつけられて何処か遠い空に飛ばされたりと散々だったことを考えると少しはマシになってきてるのかもしれないな。
本人は愛情のつもりらしいがあまりにも迷惑だったので俺は10歳の時にハンターとなって独り立ちせざるを得なかったんだよな。
今となってはいい思い出だが。
「わかった、じゃあ父さんが帰ってくるまで俺の家に泊って行ってくれ。
それとくれぐれもイトラに余計なことを吹き込むなよ。
絶対だからな!」
「はいはーい♪
でもせっかく遠路はるばるやってきたんだからあなたの可愛いお弟子さんたちと語らうことも必要でしょうし部屋は私たち4人一緒でいいわよ。
どうせ普段はイトラちゃんはハターンちゃんと、ディオシキちゃんはサラちゃんと一緒に寝てるんでしょ?」
う、鋭い。
サラとディオシキが一緒に寝ているのはこの二人の仲の良さを知っていれば予想がつくかもしれないがイトラが毎夜ピッキングで俺の寝室に忍び込んでいることまで見抜いてくるとは……
恐るべし俺の母!
とまぁ、そんな意味のないやり取りを終えたのち、結局俺は母さんを家に招いて料理を作り、母さん達は部屋に籠ってしまったので一人取り残された俺は自室で読書タイムとなった。
母さんはほっといても迷惑掛けてくるけど近づいて行くと余計面倒なことになるからな。
そしてベッドに横になりながら手にとったのは雑誌『週刊キリン娘』。
この雑誌を出版している会社『キリン娘愛好社』はかつての『キリン娘愛好会』の会員が立ち上げた会社で『キリン娘愛好会』が潰れたあと真面目な会員の生き残りたちを集めて愛好会よりも大きな組織へと育っているのだった。
こりゃ『キリン娘愛好会』を潰したのはいい方向にしか向かってないかもな。
イトラside
うふふ、ここでお義母様に認められれば私と師匠の愛の日々は確実に前進するはず。
必ず認められて見せるわ!
「そういえばサラさんとディオシキさんは何で師匠みたいに素敵な人との結婚を断ったりしたんですか?
私なら師匠ほどの素晴らしい人と結婚できるなら問答無用で結婚しますけど」
実はけっこう気になってたんですよね。
この二人はハターン師匠になみなみならぬ愛情を持っているのは確か……のようですけどそれを表には出しませんし私の応援をしてくれるのもありがたいですけど正直不安でもあるのです。
ここらで一つ聞いておきたいものですね。
「僕様ちゃんはハタっちのことはライクであってラブではないからさ。
そこにあるのは愛でも友情でもなく魂の共鳴!
というか僕様ちゃんは自分が変人である自覚があるから誰が相手でも結婚なんてするつもりはないんだけどね♪」
「あたしもハターンのことは好きだけど何かに縛られるのは好きじゃねーんだよ。
まぁ、子どもだけだったら5分に一人のペースでポコポコ産んでやってもいいんだけどリュカさんはハターンの伴侶を探してるみたいだからあたしじゃ駄目なのさ」
なんともったいない。
サラさんもディオシキさんも同じ女性として嫉妬してしまうくらいに美しいのに結婚を考えていないなんて。
私はそんな いかず後家にはなりませんよ!
師匠を愛してますから!!
「さて、盛り上がってるところ悪いんだけどここらでイトラちゃんの花嫁試験を始めましょうか」
あ、いけない。ハターン師匠のことを考えるとついトリップしちゃうのよね。
お義母様の前でいきなり失敗しちゃったかな。
「はい、お願いします!
このイトラ・ウボンガ、ハターン師匠の名に懸けてお義母様の期待に応えられるように頑張ります!」
さぁ、これからが本番よ!