ハターン・モンスータの狩りと愛の日々 作:ヨイヤサ・リングマスター
気弱な性格を直すのには成功したが
あー、何と言うか俺は今、イトラがミラボレアスを討伐したあと返り血で体中真っ赤に染まってしまっていたので一人で武具の整備ができるようにするために防具を脱がして手入れの仕方を教えようとしたのさ。
しかしイトラは防具の下も血でべったりだったのでその前にタオルを渡してまずは体を拭くように言ったのだが、その血を拭う作業を俺にせがんできたのだ。
こいつってもっとこう奥ゆかしい、加害者妄想の持ち主じゃなかったっけ?
「ハターン師匠♪
私は師匠に体を拭いてほしいんですけどいいですか?」
「イトラ、自分で出来ることは自分でするのが俺の弟子たる者の条件だ。
それにまだ幼いとはいえ、女の子が男に肌をさらすのはよくない」
性格もずいぶんと明るくなったようだが、ここで俺に頼ってくるようではまだまだだな。
「ハターン師匠、もう一度言いますね♪
私は師匠に体を拭いてほしいんです」
「俺ももう一度言う。
自分で出来ることは自分でするんだ。
女の子としての恥じらいを持つのだ」
俺の考えは変わらない。
これまでも似たような弟子を見てきたがこう言えば最終的には向こうが折れたし今回も俺は退く気はない。
だが、イトラはこれまでの弟子とは大きく違った。
「なんならあたしが拭いてやろーか?」
先ほどからその流れを見ていたサラがタオルを手にイトラに近づくがそれをイトラは人間とは思えない眼で睨む。
サラは俺に次ぐトイダーヴァの街のナンバー2のハンターだというのにそのひと睨みで身動きが取れなくなったようだ。
「お・ま・え・コ・ロ・ス・ゾ♪」
やれやれ、まさか今回の試練がこのような結果になろうとはな。
サラが動けなくなったので仕方なく俺は目にもとまらぬ速さでイトラの背後に回り込み、一瞬で締め落とした。
「くきゅ~」
「やはり身体能力はまだ人並みだな。
先ほどの眼力はサラが絶えれないとなるとトイダーヴァの街でも俺以外には耐えられないだろうな。
半端ない力強さを持っていたし、もう少し鍛えればサラよりも速く弟子卒業できるかもしれん」
「……ぷはぁっ、あたしとしたことがイトラに睨まれただけで身動き一つ取れなかったぜ。
なぁ、ハターン。
本当にイトラをこのままハンターとして鍛えても大丈夫なのか?
一人で生きる力を手に入れる代わりに人格破綻者になっちまうぞ」
確かにサラの心配はもっともだろう。
今更だが。
俺みたいに生まれつき恐怖を感じない体質でもない限り才能を開花させ、今以上に強くなったイトラの眼力をまともに見て意識を保てる奴はほとんどいないだろうからな。
「だが、俺の弟子たちはみんなどこか人格が破綻した奴らばかりだし問題はないだろう。
お前は勘で動くタイプだし俺の指導なんかほとんど受けてないから割と普通なんだろうが他の奴らもイトラほどではないにしろ破綻している」
そう、俺がこの世界で異常な知名度を誇っているのは俺の強さだけでなく俺の弟子たちの異常性も関係しているのだ。
俺はあまり弟子を取らない方だがそれでもサラやイトラの他に何人か弟子を育てたことがあるのだが、その誰もが異常な性癖や性格であり、常軌を逸した行動を常とする変人集団なのだ。
……そういえばあいつらは元気だろうか。
俺は人間嫌いだが、それでも弟子を可愛く思わないほど人間をやめてないからな。
サラみたいにうっとうしい奴ばかりだし、できれば会いたくないとも思うが、それでも弟子を愛している。
変人なだけでなく一流のハンターだから忙しいらしいが。
そもそもあいつらが理由もなくトイダーヴァの街に寄ることもめってにないし手紙もよこさないのが普通だし。
「まっ、とりあえずイトラの着替えはサラに任せるぞ。
俺は弟子で子どもとは言え、女の子の裸を見る趣味はないからな」
サラをその場に残しベースキャンプに備え付けられたベッドに横になる。
サラは何やら面倒くさがって『あたしが弟子の時はヤラシー視線を向けていた癖に……』とかなんとか言ってるが俺は聞いちゃいない。
俺は弟子には手を出さないからな……たぶん……きっと……
サラもあれでいて、面倒見のいいところもあるし、あのまま放置したりはしないだろう。
やれやれ、とりあえずイトラの気弱な性格を直すのには成功したし良しとするか。
こうして迎えの馬車が来るまで俺は一人眠るのだった。
イトラはずいぶんと性格が変わりましたが最初からこうする予定でした。