とある製薬会社に務めていた研究員のヤケクソ日記   作:色々残念

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プラント42は弱らせてから退治しよう

固定された鉄骨に拳が叩き込まれる度に刻印される拳の跡。鳴り響く轟音は消音材を使用した壁に吸収されて室外に漏れ出ることはない。鉄骨に拳の着弾する瞬間を常人に目視することは叶わず、叩き込まれた事を示すのは数多の拳の跡だけ。徐々にひしゃげていく頑丈な鉄骨が悲鳴を上げている。これだけのことをしていながらジョンにとっては手加減をした軽い運動に過ぎない。左右から拳の連撃を叩き込まれ続けた鉄骨が細りはじめていく。繰り出された上段廻し蹴りによってへし折れた鉄骨が固定から外れて吹き飛び壁に叩きつけられるかと思えば、尋常ではない速度で回り込んでいたジョンが鉄骨を片手で受け止める。

 

「鉄ではやはり脆すぎるな」

 

ジョンはそう言うとへし折れた鉄骨をその場に置き室外に歩いていく。専用のトレーニングルームから出たジョンは汗をかいてはいないが気分的にシャワーを浴びにいこうとシャワールームまで向かう。シャワーを浴びて服を着替えたジョンは朝食の準備を行い、用意した食材を調理していく。完成した朝食を食べた後は、パソコンを起動して部下から送られてくる報告書と添え付けられた写真を確認する。情報の確認が終わったら研究の時間。今日はハーブタブレットの効能を更に高める実験を行う。結果としては通常の3倍程度には回復量を高めることに成功。

 

顔に特殊メイクを施して今日は実年齢相応の顔に変えて外出用の服に着替える。昼食は外出先で食べると決めていたので財布を持ち、外に出たジョン。徒歩で評判の良い店に入り料理を注文する。評判通りの美味しい料理を食べ終えたら店を出て、拠点へと帰っていく。帰り道の途中路地裏で襲いかかってきた刺客から向けられた銃口。眉間を狙い放たれた銃弾の数々を全て左腕義手で掴み取る。開いた義手の手の平から溢れて落ちる鉛弾を見ても戦意を喪失せずにナイフを抜いた刺客が急所を狙い振るうナイフを躱し叩き折る。折れた鋭い切っ先が地に落ちるよりも速く動いた手が刺客の首を掴み、片手で身体を持ち上げていた。そしてそのまま首を握り潰して刺客を絶命させたジョンは通信機器を取り出して連絡をする。

 

「料理を頼む、赤いワインは1本」

 

死体処理専門の裏の業者に連絡して処理を引き受けてもらい。拠点に帰ってきたジョンは座り心地の良い椅子に座りながら休憩をする。思い浮かべるのは先程の刺客。絶望的な戦力差を知ろうと逃げずに立ち向かう勇敢な奴ではあったが、殺し屋としては未熟だ。拳銃やナイフだけで殺せる様な相手であるか下調べをしていないあたり一人前の殺し屋とは呼べない。戦力偵察にもならない駆け出しの半人前を寄越した理由は、それくらいの奴でなければ誰も私の殺しは引き受けないからだろうか。熟練の殺し屋が言うには私の相手をするのは山の様に札束を積まれても割りに合わないらしい。始祖ウィルスによる進化を遂げた私の相手をしようと思う奴はウィルスの適合者か、私を見くびるもの達くらいだ。

 

今回は誰が依頼したのかその情報を探りあてるとしよう。パソコンを起動して数多の組織に潜入中の部下達と世界中に潜ませている諜報員達から情報を受け取り、紡ぎ合わせていく。私の殺しを依頼したのはどうやらミゲルだったらしいが裏に潜んでいる奴がいるようだ。成功報酬はとてもミゲルが払えるとは思えないほど高額で、後ろ楯になっている組織がいることは間違いない。その組織に関する情報を収集するにはもう少し時間がかかりそうだ。見えている釣り餌であるミゲルに私が食い付くことを待っている可能性が高い。ミゲルの元に私が向かうのは罠に嵌まりに行くも同然。たまには他人の手を借りてみるとするか。通信機器を手に取るとある番号を入力した。繋がった先の知人に一言。

「依頼をしたい」

 

翌日の朝熟練の殺し屋に相応の料金を支払い。ミゲルの始末を依頼したジョン。遠く離れた場所から双眼鏡で一部始終を確認すると見事な狙撃で頭を撃ち抜かれたミゲルが倒れ込む姿が見えた。ミゲルから遠く離れた位置でミゲルを監視していた人間を発見したジョンは監視していた人間の顔を撮影して照合していく。何処の組織の人間か判明させる為だ。見つけ出した組織。判明した拠点の場所。装備を整えて攻め込む準備は万全。L・ホークを片手に鉄扉を蹴り飛ばす。吹き飛んだ鉄扉が組織の構成員を幾人か巻き込んでいく。銀色の大型自動拳銃が連続して火を噴くと鉄扉の下敷きになった構成員以外の構成員達の眉間に穴が開いて次々に倒れ込んだ。空になった弾装を捨て装填された50口径の銃弾。鉄扉の下から這い出してきた構成員達の頭部を容赦なく弾丸が貫いていった。現れる増援。飛び交う銃弾の雨。ジュアヴォと構成員達の持つ機関銃から放たれた全ての弾を人間離れした速度で回避するジョン。

 

L・ホークによる反動を腕力で完全に抑え込んだ精密な射撃がジュアヴォと構成員達の命を奪っていく。1人また1人と失われていく構成員達。死体も残さず消え去っていくジュアヴォ。かすりもしない機関銃。減っていく構成員の数。遂にはジュアヴォを置き去りに背を向けて逃げ出す構成員も現れたが1人残らずL・ホークの餌食となる。そして全ての構成員とジュアヴォが死亡した。組織としては死んだも同然だが、まだ組織の長が残っている。拠点の奥に足を踏み入れるとアタッシュケースを片手に持った1人の男が居た。私財を持って逃走しようとしたらしいが一足遅かったようだ。ジョンは男と距離を詰めると男の胸ぐらを掴んで片手で持ち上げる。

 

「私を狙った理由は何だ?」

 

そう平坦に問いかけるジョンへ男は慌てた様子で「あ、あんたの金が目当てだったんだ。ゆ、許してくれ、あれだけ殺せば気は済んだだろ。み、見逃してくれ」と必死に命ごいをする男にため息を吐いたジョンは「同じ立場になった時に、貴様だったら見逃すのか?そんな訳はないだろう」と言い放つと手刀で胸骨を突き破り男の心臓を貫いた。死体となった男の手から力が抜けて滑り落ちたアタッシュケースを掴み取り中を確認すると金の延べ棒がぎっしりと詰まっている。ジョンは呆れた顔で「これだけ稼いでおきながら、私の金を欲しがるとはな」と言うとアタッシュケースを閉じて片手に持つ。胸に穴が開いた男の死体に向かって「死人には必要のないものだ。私がもらっておくとしよう」と言って組織の拠点を後にするジョン。

 

使い込んだ銃弾の補充に商人の元へ向かったジョンは、店内に入りアタッシュケースから金の延べ棒を1本取り出すと「これで買えるだけのL・ホークの弾をくれ」と言った。商人は「金の純度を確かめてからになるから少し時間がかかるが、それで良いなら待っててくれ。それまで金髪は話し相手になっとけ」と金の延べ棒を片手に金髪の青年を押しやってくる。勘違いで暴れ回り商人の元で働くようになった金髪の青年と穏やかに会話を交わしていると帰ってきた商人が「純金なのは間違いないな、これ1本ならこれぐらいは弾を用意出来たぞ。弾装はサービスだ」と持ってきた銃弾を受け取っていく。使い込んだ銃弾よりも多く補充が出来たようだった。商人は笑って「今回は何して稼いできたんだ」とジョンに問いかける。ジョンも笑って「私を狙ってきた奴等を返り討ちにしたら手に入った」と正直に答えた。商人は大笑いして「運が良いのか悪いのか解らねぇなあんたは」と楽しそうに言いながら「まあ常連さんが無事で良かったと思うことにするよ」と肩を竦めた。

 

商人の元を後にしたジョンは自身の拠点に戻り、金の延べ棒が詰まったアタッシュケースを金庫にしまってからL・ホークの点検を行う。隅から隅まで念入りに手入れをして新品同然に磨き上げておく。そして昼食を食べに外出するジョン。朝から忙しくて朝食を食べる暇がなかった彼はとても腹を空かせていた。気に入っている店に入るとメニューの端から端までの料理を注文する。全ての料理を食べ終えて満腹となった彼は店内から出てベンチに座ると胃の内容物の消化が終わるまで休憩していた。完全に消化が終わり休憩を終わらせた彼は自身の拠点に帰っていく。今度は襲撃を受けることなく帰ってくることができたようだ。

 

拠点に戻ってきたジョンはトレーニングルームに行き、特殊な合金で作製されたバーベルを片手で持ち上げる。見た目以上の超重量のバーベルの端を掴み軽々と持ち上げて平然と素振りをするジョン。風を切る程の素早さで振るわれる度に空気が薙ぎ払われていく。満足がいくまで素振りをしたジョンは、バーベルをゆっくり特製の床に置いた。頑丈な床に深々とめり込んだ超重量のバーベル。それだけで規格外の重量があることが理解できる。そんな超重量のバーベルで万を越える回数の素振りを行いながらジョンは汗1つかいていない。

 

「これでナイフを振るう時は、もっと速く振れそうだな」

 

そう言うとトレーニングルームを後にしてシャワーを浴びに行くジョン。汗をかいていなくても気分的にはシャワーを浴びたいらしい。シャワーを浴びて服を着替えると今度は始祖花の実験を行うようだ。始祖ウィルス以外のウィルスを始祖花に投与してみて経過を観察する。望んだ結果は得られたが、実験に使用した始祖花は危険性を考慮して焼却処分となった。プラント42やモンスタープラントの様な存在を生み出す訳にはいかないからだ。そんなことをしているうちにちょうど夕食の時間になったので外食することにしたジョンは、顔に特殊メイクを施して実年齢の半分程度の年齢の顔に変えて正装をすると財布を片手に拠点から外に出た。有名なレストランで夕食を食べることにしたジョンは、店内に入るとメニューを一通り眺めてから注文する。

 

満足のいく食事を終えてレストランを後にしたジョンは、心地よい満腹感を感じながら拠点に帰っていく。身も心も満たされた気持ちで帰還した後は、歯をハーブ配合の歯磨き粉で磨いてから、全ての武器の手入れを行う。普段使うことのない武器であろうとも念入りに手入れを行い手に馴染ませておく。いつ使う時がきても大丈夫なように。それからベッドに横になると今日の出来事を日記に書いておく。全てを書き終えたら日記を閉じて枕元へL・ホークと共に置いた。すぐに手の届く位置に置いておくと安心できるようだ。そして就寝するジョン。彼の日常はこれで終わりとなる。

 

 月 日

いつも通りの日常をおくろうとしたが昼食の帰りに刺客に襲われた。返り討ちにして誰が依頼したのか調べるとミゲルの名前が出てきたが裏に組織が潜んでいるようだ。私を殺した時の成功報酬がミゲルにはとても払えないものだったのでな。ミゲルは私を誘き寄せる餌にされたのだろう。私が直接手を下さずともやりようはある。ここは知人に任せるとするか。

 

 月 日

知人に仕事を依頼すると前払いの支払いを終えてすぐに結果が出た。ミゲルは死亡してミゲルを監視していたもの達の顔を撮影して照合していくと、ある組織の構成員だということが解る。その組織の拠点を突き止め、此方から襲撃を行なって組織を壊滅させた。組織が私を狙った理由は私の資金が目当てだったらしい。逆に私が組織の金を奪うことになったが敗者には何も残らないのがこの世界だ。消耗した銃弾の補充に商人の元へ向かい金髪君と会話をして以前セルゲイに彼が拐われた時のことでお礼を言われたりもした。商人の持ってきた銃弾を受け取り商店を後にした私は拠点に帰ると銃の手入れを行なってから昼食を食べに向かう。

 

気に入っている店に入り メニューの端から端まで注文。全ての料理を食べ終えて店内から出るとベンチに座り休憩する。休憩を終えて拠点に帰り軽い運動を行なってからシャワーを浴びて服を着替えた。そして始祖花で実験を行い変異させることができたが危険性を考慮して焼却処分を行なう。運動と実験をしているうちに夕食の時間になったので特殊メイクを施して正装もしてから有名なレストランに向かった。満足のいく食事を終えて拠点に帰ってきたら歯をハーブ配合の歯磨き粉で磨いて、全ての武器の手入れを行う。手入れが終わったら日記を書く。少々荒事はあったがたいしたことではなかったので問題はない。これで今日の日記は終わりとしよう。

 

 月 日

再現実験体の内1体が脱走したらしい。それはリサ・トレヴァーの再現実験体で、再現対象よりも知能が大幅に向上しているとのことだ。リサ・トレヴァー、彼女のことは恋人がいる方のジョンと呼ばれた友人が気にしていたが、女の研究員を襲い顔の皮を剥ぐという奇行を繰り返すことから処分が決定し3日間に渡り生体反応停止の確認を行なったが、それでも彼女は生きていた。再現実験体を作製している組織が回収していて今も生きているリサ・トレヴァーは貴重なサンプルとして厳重に保管されている。再現実験体の方はそこまで厳重に保管していなかったようだな。オリジナルに比べれば価値は劣るという考えなのだろうか。知能が向上しているなら上位互換になる筈だが、制御に問題があったから脱走ということになったのかもしれない。

 

どちらにせよ厄介な再現実験体が野放しになっているのは危険過ぎる。早急に対策を練る必要があるな。




ネタバレ注意
バイオハザード1に登場するクリーチャー
プラント42
tウィルス流出が原因で偶発的に誕生した肉食性の怪植物
観測ポイント42で発見されたことから、その名が付けられた
tウィルスの強い影響を受け、他のプラントを圧倒するほどの驚異的な速度で成長を続け、寄宿舎の床や壁面を突き破るまでに巨大化した
プラント42の栄養源には2種類あり、一つは根から吸収している薬品成分、もう一つは球根から生えた触手状のツルが人間から吸収する血液となっている
UMB系薬品「VーJOLT」が有効でありプラント42を弱体化させることができる

モンスタープラント
洋館の温室で発見された植物の突然変異体
tウィルスで汚染された水分を吸収したことで各部が異常に肥大し、外皮を硬化させている
そのため、植物とは思えないほど耐久性が高く、衝撃を無効化する能力を持っている
また、ウィルスの影響のためか攻撃性が高く、人間が近寄ると葉や茎が変形してできた触手を叩き付けてくる
ただし、植物であることには変わりないので、除草剤に対する耐性は極めて低い

バイオハザード1リメイク版に登場するクリーチャー
リサ・トレヴァー
アークレイ研究所で20年以上もウィルス投与実験を繰り返された結果、自我を失い、見るも無惨な異形に変貌した成人女性
実験によって不死身の肉体を得ており、さらにネメシス計画で発展する以前の寄生生物の原型を体内に移植する実験においては、新型ウィルス「G」の発見という研究員の予想を遥かに上回る結果をもたらしている
試作ウィルスが新たに開発されては、それを体内に投与される日々を過ごしたリサ
彼女は同じく実験体となって息絶えた母親の面影を求めるあまり、女性研究員を次々と襲撃するようになった
顔の皮を剥いでは自分の体に付けるという奇行を繰り返したため、アークレイ研究所では急遽リサの廃棄処理が決定
彼女は、長年実験で弄ばれた挙げ句、闇に葬り去られることになる
驚異的生命力を持つ存在だったため、リサの生命反応停止の確認は3日間に渡って行われた
だが、それだけ念入りに死亡が確認されたにもかかわらず、リサは死んでいなかった

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