とある製薬会社に務めていた研究員のヤケクソ日記 作：色々残念
月 日
詳細な情報を求めるエイダに私が持ち得るカーラ・ラダメスに関する全ての情報を無償で提供しておいた。これでエイダは確実に動くだろう。複製と本物が出会った時に何が起こるかまでは解らないが、穏やかなものになるとは到底思えんな。急拵えの複製が本物に勝る訳が無い。万を超える命を犠牲にしてまで造り上げた理想の人形を失った時にシモンズは正気を保っていられるのか。
人には気分次第で壊せる物が有る。壊せる物の規模は個人個人で違うが大国の大統領補佐官であり巨額の財力と世界各地に張り巡らされたネットワークを用いて古代から国や歴史を操作し続けている巨大組織「ファミリー」の長でもあるシモンズならばその気になれば国家すらも壊す事が出来るだろう。しかし「ファミリー」が作り上げた「変化のない安定した世界の構造」とやらを維持するためなら手段を選ばないシモンズがそんな行動に出るか。
女一人に狂うような男の正気に左右される世界が安定しているとは私にはとても思えないが、何とも迷惑な事だ。
月 日
意識を失ったカーラ・ラダメスを連れたエイダが私の元へ訪れた。既にこの時点で嫌な予感はしたが、何の用かと聞いてみると「カーラを匿い保護してほしい」との事だ。完全に私を巻き込む気のエイダに報酬は幾ら貰えるのかと聞くと「Ｃウイルスを造り出したカーラ・ラダメスの頭脳が報酬」と言われた。確かに金では買えない価値がその頭脳には有るが、協力して貰えなければ無価値も同然だと言い返すと「貴方なら彼女を手駒に変えられるでしょう」と微笑まれる。
私ならば可能であると評価されている事は有り難いが出来るかどうかも解らない事を期待されても非常に困るんだが。しおらしく「貴方だけにしか頼めないの」と言われても引き受けたら今現在「ファミリー」の長であるシモンズと完全に敵対する事になるな。まあ敵対する事自体は構わないが、エイダの複製を失い精神の安定を失ったシモンズが何か仕出かすんじゃあないかと危惧している。
不安材料を打ち明けると暫くは複製であるカーラのフリをしてシモンズと連絡を取り合い誤魔化しておくとエイダが言うので一時的にカーラを匿い保護すると決めた。期限はエイダがシモンズを欺き続けている間だけ。
「それでもきっと貴方なら出来る」と言ったエイダの期待に応えられるかは解らないが、やれる事はやっておこうか。
月 日
顔を特殊メイクで変えて変装した私は身動きが取れぬ様に拘束したカーラと会話を交わしたが完全にシモンズに洗脳されているようだ。シモンズが思い描くエイダ・ウォンになりきっている。しかし本来の名前であるカーラ・ラダメスという名に反応を示したあたり、エイダの複製と成り果てる前のかつての自我が完全に消えた訳では無さそうだ。奥底に眠る本来の自我を呼び覚ます事が出来ればシモンズへ盲目的に従う今の彼女を変えられるだろう。
それが良い結果になるとは限らないが。
月 日
エイダの複製と化した彼女の根底に残るカーラ・ラダメスとしての意思は自身の全てを否定したシモンズに対する激しい憎しみを抱いて復讐を決意していた。シモンズに作られたエイダ・ウォンの自我は完全に消え去り、シモンズへの復讐に燃えるカーラ・ラダメスの強い感情が残された。世界を崩壊させることで組織体としての国家の権威と枠組みを崩して「シモンズの望む安定した世界を壊してやる」と叫ぶカーラ・ラダメスにそんな事はやらないでシモンズだけに怒りを叩き込めと説得を開始。
思う存分直接ぶん殴って痛め付けて顔面を安定出来なくしてやってから君が開発したウイルスでも無理矢理投与して下劣な化物にでも変えてから拷問して殺したら少しは気が晴れると思うので先ずはそれをやってみてから考えろと諭してみると一考の余地が有ったのか考え込むカーラ・ラダメス。世界を崩壊させる手段を考えるよりも一人の男を破滅させてから始末する方が簡単だと私は思う。
あくまでも人間のシモンズが「ファミリー」の長であるならば人間を止めさせてやれば「ファミリー」の方からシモンズを廃棄するだろうともカーラに吹き込んでみると「それはとても素晴らしいわ」と心からの賛同を受けた。知性を残したまま安定の欠片もない身体に変えられて組織から切り捨てられるシモンズを想像してみろと囁いてみると酷薄な微笑を浮かべるカーラ。
本当に憎いのはシモンズだけだろうに世界を巻き込むのは筋違いだと教え込みながらシモンズ以外が標的とならない様にシモンズ個人への激しい憎悪を高めさせていく。内輪揉めに世界を巻き込まれては堪らない。何とか髭親父が惨たらしい最期を迎えるだけに留めておかなくてはいけないな。
月 日
カーラの拘束を解きシモンズへの復讐がしたいならこの手を取れと手を差し伸べると力強く手が握られた。カーラがシャワーを浴びて衣服を着替えた後に逃げる隙を与えてみたが全く逃げようとしないあたり、協力者として判断されたようだ。その後はカーラと共同で研究を始めてＣウイルスの改良を行い強化Ｃウイルスの開発に着手した。シモンズに対する激しい憎悪を原動力にしたカーラの頭脳の働きは凄まじいもので、強化Ｃウイルスの完成まではあと僅かといったところだ。
月 日
遂に強化Ｃウイルスが完成。通常のＣウイルスを投与された場合サナギを経て生まれ変わった後に再び変異する事は無いが、強化Ｃウイルスの場合はそれと異なり。サナギの過程を経る事無く、強化と変異が永遠に進行し続ける事になる。つまり投与された者には永遠に安定なんてものは来ない。
「コレをシモンズに投与する日が待ち遠しい」と笑みを浮かべたカーラはとても愉しそうだった。何とかシモンズだけを復讐の対象にする事には成功したが、シモンズに対する憎しみがより深まっているようだ。
完成した強化Ｃウイルスを投与されたシモンズがどんな目に合わされるのかは知らないが、直ぐには楽になれない身体に変えられてカーラの気が済むまで思う存分痛め付けられる事は間違いない。
シモンズが「ファミリー」にも見捨てられ苦痛だけを与えられる最期を迎える事になっても私は別に構わないがな。
月 日
エイダから連絡が入りカーラを匿う期限が切れる日が来た。シモンズからカーラへ帰投命令が出たらしい。シモンズの元へ向かう事になるカーラは私と共に作成した強化Ｃウイルスを隠し持ち、カーラが自分の思い通りなると油断しているシモンズに投与するつもりのようだ。それが成功する事を心から願っている。さて、この拠点を廃棄するとしようか。これで失敗したとしても私に繋がる情報は何一つカーラの元には残らない。
成功する確率の方が高いとしても失敗する確率が僅かでもあるなら備えておく必要がある。それに相手は「ファミリー」の長、油断して良い連中ではない「ファミリー」を纏めて率いる者が無能な訳が無い。仕損じた場合カーラの洗脳を解いた相手が居る事に気付く可能性が有る。私の本当の顔をカーラには一度も見せなくて良かった。
結果がどうなろうと私に損はない。強化Ｃウイルスの製法は既に把握している。量産も可能ではあるが、使い道が限られている為そのつもりは無い。強化Ｃウイルスに対するワクチンを作成する為に使わせてもらおうか。
月 日
ディレック・Ｃ・シモンズがカーラ・ラダメスに何らかのウイルスを投与され怪物と化した為に「ファミリー」の上層部はシモンズの廃棄を決定。あっさりと切り捨てられたシモンズは研究施設に壊滅的な被害を出しながらも「ファミリー」によって処分されたが、その混乱に乗じて逃げ出したカーラを「ファミリー」は取り逃がしてしまったらしい。新たなる長の選定とカーラ・ラダメスの始末が「ファミリー」の最優先事項のようだ。
どうやらカーラは上手くやったらしいな。色々な意味で厄介な存在であったシモンズを消し去ってくれた事に深く感謝をしておこう。シモンズへの復讐を遂げた事で彼女の激しい憎しみが静まれば良いが、そうで無ければ今度は世界中に憎悪を撒き散らす事になるかもしれない。もしもそうなった場合は彼女の憎悪を煽った私が止めなくてはいけないな。
そうならない事を祈っておこう。
ネタバレ注意
変異シモンズ
ディレック・Ｃ・シモンズが強化型Ｃウイルスを投与された影響で変異を遂げた姿
自我を保ったまま複数の形態へ自在に変異する
自らの内臓や骨を硬質化させて強力な武器へと変化させる
周囲のゾンビを取り込んで身体の欠損を補う自己再生システムを獲得しており、大量のゾンビが発生するバイオテロの現場においては、無限ともいえる回復力を発揮する
ビースト
四足歩行の獣に姿を変えたシモンズ
弱点は背中の顔
ケンタウロス
歪なケンタウロスに姿を変えたシモンズ
腕を変異させて弾丸に加工した骨をまるでマシンガンの様に飛ばしてくる
弱点は肺
ダイナソー
異形のＴレックスを思わせる姿に変わったシモンズ
転がっている車両を口でくわえて投げてくる
弱点は目玉
ヒュージフライ・少
大量のゾンビを取り込んで巨大なハエと化したシモンズ
弱点は眼
ヒュージフライ・大
ヒュージフライが更にゾンビを取り込んで巨大化した姿
弱点は身体と脚の付け根にあるオレンジ色の関節、破壊すれば脚を本体から切り放せる
脚を破壊してから避雷針が刺さったゾンビを取り込ませて雷でダメージを与える
ダウンしたところに避雷針を刺す