ドラゴンボールFG 〜転生少女達と戦闘民族は仲間だった⁉︎〜   作:竜華

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第10話 紅い勝利者

「……ははっ……そう、やろなぁ……。こんな、終わり方、する、わけ……あらへんよなぁ……」

 

 思わず、笑いがこみ上げてきた。多少の呆れと、現実に対する絶望を含んだ笑みが、俺・キャッツべの口から零れ出す。

 

 ……分かってた、分かってたさ。俺の攻撃を数発食らったぐらいで、ターレスが倒れないって事位はな。

 

 俺の予想が正しければ、俺とこいつの実力はほぼ互角だ。もしこのまま戦い続けていれば 、ーどちらかが相手に決定打を与えない限り ー おそらく決着がつくことはない。最悪の場合、2人共々死んでしまうだろう。アボカの話を聞いていた限り、ターレスは原作にいるキャラだ。今死なれてしまったら、この世界の歴史が大きく歪むことは免れないだろう。

 

 アボカは、何処か複雑そうな表情でこちらを見つめて言った。

 

「……どうする?交代するか?僕だったら、すぐに終わらせられるよ。多分、殺さない程度に……。そうすれば、歴史は変に歪まない」

 

「……いい。自分でやる」

 

「でも、お前、そんな状態じゃ戦えないじゃん!!」

 

「いいんだよっ!!」

 

 俺に伸ばしてきた手を、全力で叩き落とした。叩いた自分の手の平が、ジンジンと痛みを持つ。

 

「……っ悪い!!痛かったか!?」

 

 ハッと我に返った。慌てて、叩いてしまったアボカの手を取って見る。彼女の手の甲は、真っ赤になっていた。どれほど痛かったのだろうか。そう考えると、手の平だけでなく、手の甲も痛くなってくる。

 

「……大丈夫、心配しなくても平気だよ。僕だってサイヤ人だ。この位、どうって事ない」

 

「そっか……」

 

 いつもの声のトーンが聞けたので一安心。怒ってはいないようだ。

 

 そう安堵の吐息を漏らした途端

 

「……お前の気持ちはよく分かった。いいよ、戦っておいで」

 

「!?、」

 

 あろうことか、さっきとは真逆の事を言ってきた。

 

「え、ええんか?」

 

「うん。だって、ターレスさんに指名されたのはお前の方だし、お前も戦いたかったんでしょ?むしろ、お前の気持ちをよく考えずにこんな提案をした僕が悪いもん。僕は、お前がマジでヤバくなったときのために、気でも溜めとくよ」

 

「アボカ……」

 

 あ、でも、と真剣な表情で続ける。

 

「……絶対、諦めないで。でも、死ぬのもダメ。諦めても死んでも、僕は許さない。全力で、それでもって自分を大切にしながら戦っておいで」

 

 そう言って軽く笑いかけてくる。その微笑みが、今の俺にどれだけの戦意を与えてくれたのか。それを、こいつは分かっているのだろうか。

 

 からからの喉に唾を流し込み、再びターレスの前に立った。自身の足元はおぼつかず、視界がフラフラと揺れる。他の人から見たら、こんな状態で戦えるわけないだろう、と笑われるような、最悪のコンディション。でも、今はやるしかない。勝つために。

 

「「……さぁ、第2ラウンドを始めようや(ぜ)!!」」

 

 ドンッ…!!

 

 さっきは、ターレスに仕掛けられたから、今度はこちらから仕掛けてやる。

 

「っらぁ!!」

 

 地面を蹴り上げ、空中で横に回転をかけた。右脚をタイミング良く出すと、脚が空気を斬っていく。そして、それは、ターレスの左の二の腕に見事に決まった。勢いに負けた彼の腕は、ボキッ、という音を立てて、嫌な方向に折れ曲がる。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ターレスの悲痛な咆哮が大地に響んだ。その場に蹲り、苦しげに唸りながら、身体を震わせる。

 

「……ほら……、来いよ俺に……勝ちたいんやろ…?」

 

 その挑発に、彼はハッとした表情を見せた。ゆっくりと、折れた左腕を押さえながら、立ち上がる。

 

「……お望み通り……仕返し、して……やるよ……!!」

 

 まだ使える右手を握り締め、俺に向かってきた…のだろう。

 

「っんなっ!?」

 

 ターレスが消えたという事実に、脳が追いつかずにいると、右の肋骨の辺りから生まれた激痛が身体中を駆け巡った。先程、ターレスから聞こえたあの音が、今度は自分の中から聞こえる。

 

「っがはぁっ……!!」

 

 息が吸えない程の痛み。畜生、あいつは、こんな痛みを感じていたのか。

 

 目前では、拳を突き出したターレスが突っ立っている。顔を上げて、意地悪に笑った。

 

「……言っただろ。『仕返しする』ってよぉ……」

 

「……くそっ!!やりやがったな!!」

 

 折れてしまったであろう右の肋骨を庇い、後ろに退く。

 

 もう、体力的に肉弾戦はできない。気功波1つで、この勝負を終わらせよう。

 

「これで終わりにしてやるわ!!《ダークサイド・キャノン》!!」

 

 左手を突き出し、技名を吠える。これが、今の自分が全力で使える最大の技だ。

 

 左手に気を集中させれば、たちまち、赤い気弾が誕生する。こいつが当たれば、確実にターレスに勝てる。かすかな希望をこの気弾に託して、

 

「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 撃ち放つ!!

 

 自分でも驚く程のスピードでターレスに向かっていった閃光は、ある地点で何かに弾き返されるように止められる。

 

「俺だってなぁ……勝ちたいんだよおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 ターレスの放った紫色の気功波だった。威力は、俺のそれとほぼ同じとみた。今から、耐久勝負の始まりだ。

 

「うぅ……うぎぃ……!!」

 

 歯を強く食いしばって、押されないように力を入れた。しかし、相手も同じく、力を込めてくる。押していきたいのに、逆に押されてしまっている。

 

 ……嫌だ、嫌だ。負けたくない、負けたくないんだ。今負けたら、あの人との約束を守り抜くという目標から、大きく離れてしまう。そんなの……、そんなの……。

 

「……嫌だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 刹那、視界が一瞬だけ、本当に一瞬だけ、紅く染まった。身体が狂ったように熱くなったかと思うと、異常な程に力が、自信と共に溢れ出す。

 

「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 叫びと共に、気の量を増やした。一気に、ターレスの気功波を打ち破り、彼めがけて突進していく。

 

「なっ…なにっ…!?」

 

 ドォォォォォォォォォォォォォ……ン……!!

 

 ターレスの声を最後に、彼の身体は気弾に飲み込まれた。激しい爆発音と爆炎を辺りに拡散させると、煙と瓦礫と化した岩を巻き上げながら、天高く炎柱を創り上げる。

 

「……今度こそ、勝った……?」

 

 一瞬の熱も、力も、自信も、既に嘘のように消え失せていた。今残っているのは、尋常じゃない疲労感と、勝利に対する酔いのみ。

 

 敗者になったターレスは、粉々になった岩と、煙を纏って、その場に倒れていた。身体中血だらけ、傷だらけだ。このままでは、出血多量で死んでしまう。

 

「……ア、ボカ……こいつ……あの、変な……機械に……」

 

 そこまで言うと、急に身体から完全に力が抜けた。意識も、どんどん沈んでいく。

 

 最後に、慌てた様子で有る駆け寄ってくるアボカの姿を目の端に捉えて、俺は目を閉じた。

 

 


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