チートを持って転生したけど、同僚馬鹿ップルが面倒くさい~2X歳から始めるアイドル活動!?~   作:被る幸

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モブ2名とアイドル1名からみた、七実についてです。


キャラ崩壊や本編の七実のイメージを損なう可能性がありますのでご注意ください。





番外編1 あなたから見た渡 七実

とある飼育員

 

 

最悪の事態が起こった。あの時、あの場所で、あの光景を見ていた普通の人間なら同じ思いを抱いたでしょう。

 

あれはアイドルのバラエティ番組で、冬場で元気の無い動物をアイドルが元気付けてあげようという企画での出来事でした。

冬場になって客足が遠くなりがちになる動物園にとっても集客率向上や話題づくりになるとすぐさま許可が下り、園長や他の飼育員の人も喜んでいました。僕も、生でアイドルが見られるなんてラッキーだと思っていました。

やってくるアイドルは2人のようですが、それでも現役アイドルの撮影風景を見られる機会はまたとない。

撮影前日は興奮で眠れませんでした。

そんなやや寝不足で迎えた撮影当日、朝早くやってきたロケバスから降りてきた2人を見た瞬間それも吹き飛びました。

小悪魔系バラエティアイドル輿水 幸子ちゃんにデビューしたばかりなのに話題沸騰中のアイドル史上最強アイドル渡 七実さんが間近にいるのです。これに興奮せずにどうしましょう。

僕は346プロでは小日向 美穂ちゃんのファンなので少し残念ではありましたが、それでもあの感動は忘れようがありません。

2人共アイドルというだけあって、辺りが輝いているかのような存在感がありました。

アイドルは撮影外では態度が相当悪いという噂も聞いたことがありましたが、少なくともこの2人は違いました。

幸子ちゃんはテレビのまんまのドヤ顔で『ふふっ、早速視線を感じます。これもボクがかわいいからですよね』って言ってました。

渡さんは、番組の進行表を確認しながら他のスタッフと入念な打ち合わせをしていたり、幸子ちゃんをからかって遊んでいました。

真冬なので厚着をしている為、あの鍛え上げられた筋肉を見ることが出来ないのは少し残念でした。

しかしあの特撮を見ていなければ、あんな華奢で儚げに見える人が最強アイドルなんて誰が思うでしょうか。人は見かけにはよらないというのは、つくづく本当だと思いました。

 

最初の小動物とのふれあいコーナーでは幸子ちゃんがウサギに逃げられたり、何故かカピバラと張り合ったりと普通の光景のはずなのに笑い所満載で、流石バラエティアイドルだなぁと感心していました。

渡さんの方では、動物達が自発的に芸を見せたり、お悩み相談室が開かれていました。765プロの我那覇 響ちゃんも動物と会話ができるらしいので、渡さんも同じなのでしょう。

僕たち飼育員からしたら垂涎ものの能力ですが、無いものねだりしても仕方ないのですぐ諦めました。

撮影の合間に動物から聞き出した改善して欲しい点といくつかの改良案がまとめられた手書きのレポートを渡された飼育員は、苦笑いしてましたけど。

何でも、うちの経営状態を見通しているかのような的確でそのまま採用しても問題ないような物だったそうで、後日その通りに改修が行われました。

アイドル事務所の事務員って、本当に凄い。そう思いました。

 

その次にやってきたのが、今回の話のメインとなるやんちゃな子供のせいで育児ノイローゼ気味な母ライオンのいる檻です。

母ライオンが甘やかしすぎた所為で、手がつけらない程にやんちゃになってしまった子供は飼育員の間でも有名な問題児でした。

ライオンである自分の強さを理解して鼻にかけているのか、明らかに周囲を見下した態度をとり、気に入らなければ暴れる。

子供であってもライオンはライオン、その爪や牙は僕たち人間には十分すぎる凶器になりえます。

そうして飼育員たちが手をつけられないでいるとますます調子に乗り傲岸不遜な態度に拍車を掛けるという最悪の悪循環でした。

今回は檻の中に設置した特別製のステージでライブを行うだけと聞いていたので大丈夫だろうと思っていましたが、渡さんは何を思ったのか普通に檻の中に入って行きました。

史上最強のアイドルといったって、それはアイドルの中での話であり人間がライオンに敵うはずないのです。

他の飼育員たちがスタッフの皆さんにそう訴えかけても返ってくる言葉は。

 

『七実さまなら、大丈夫です』

 

『依頼を七実さまが請け負った。なら何処に心配する必要が?』

 

勿論、全員がそうだったわけではありませんが。ちょっとした狂気ですよ。

成人した大人たちが冗談などではなく、本気でそう言うのです。

346プロは大企業の皮を被った邪神でも崇拝するカルト教団なのかと、その時は本気で思いました。

下っ端飼育員の僕は何もする事ができず、ただ流れを見守る事しかできませんでした。

そして、その時が訪れました。

 

突然襲い掛かる体勢を取った子ライオンが、そのまま渡さんの首に噛み付こうとしたのです。

脳裏に浮かぶ惨劇の光景に、僕たちは目を瞑ったり、悲鳴をあげたりしました。

しかし、そんな平凡の域を出ることのできない僕たち程度の想像をあの人は軽々と越えていきました。

 

 

「はい、残念」

 

 

少し首を傾けただけで噛み付きを回避したと思ったら、目にも映らぬ早業で着地前の子ライオンの首根っこを掴んだ渡さんが居ました。

普通の人なら命の恐怖に震えるはずなのに、渡さんはロケバスから降りてきたときと変わらない表情で子ライオンを地面に降ろします。

その変わらない表情が、少しだけつまらなさそうに見えたのは気のせいだったのでしょうか。

この後烏の乱入があったりしたのですが、それすら掻き消すような事が起こりました。

 

 

「落ち着きなさい」

 

 

笑うかもしれませんが、確かに僕はこの瞬間死んだんです。

まるで空気自体が重くなってしまったかのような感覚と共にやってきた圧倒的な殺意の波動、それは死神の鎌の様に容易く僕を刈り取っていきました。

最後に覚えているのは身体の奥から力が抜けていく恐怖と二十数年生きてきたこれまでの走馬灯でした。

 

次に目を覚ましたときには、全てが終わっていました。

自分が生きていると理解したときには、僕は子供のように泣きました。生きているって素晴らしいと。

そして、僕の心には渡 七実というアイドルという存在が深く刻まれました。

 

今なら、はっきり言えます。

 

 

七実さまに問題などあるはずがありません。

 

 

 

 

 

とあるカメラマン

 

 

俺は346プロに所属するカメラマンだ。

この業界で二十数年近くやっている、ようやくベテランになれたってくらいのちんけな男だ。

周りは『神の目』とか囃し立てる馬鹿もいるが、こんなみすぼらしい神がいるかってんだ。

昔はアイドル何ざくだらねぇ、俺は世界の真実ってヤツをこのカメラに収めるんだ。って粋がってた時期もあったが、そんな俺も今じゃアイドル専門カメラマンになっちまったてんだから世の中わからねえ。

いや、俺がこうなったのも必然か。

かつて、業界を根幹から揺るがす事件があった。

 

『日高 舞ショック』

 

聞く者全て圧倒し魅力する歌唱力、名前の通り天女の舞の如きダンス、一目見れば忘れる事ができない美貌。

それまでテレビ番組に花を添える程度の存在でしかなかったアイドルの地位を一気に引き上げた。

権力を振りかざす大御所達に対する傍若無人な振る舞い、アイドル達を食い物にしていたテレビ局の局長を吊るし上げ、誰にも媚びることなく自分の正しいと思った道を真っ直ぐに翔る。それによって起きた数々の出来事は良くも悪くも業界に混乱を招いた

そのどこまでも気高く、義侠に溢れる姿に誰もが心を奪われた。

勿論、アイドルの事を馬鹿にしていた俺も例外ではなかったさ。

彼女が映るテレビ番組やライブの様子を目にする度に思ったよ。何でこれを撮っているのが俺じゃないんだってね。

それからの行動は早かった。それまで勤めていたところを辞め、アイドルを撮れそうな会社を片っ端から当たったよ。

最初から日高 舞を撮れるとは思っちゃいねえ。いや、撮っちゃダメだったんだ。

彼女の歌、踊り、生き様に俺の仕事を照らし合わせても、足許にも及ばないってわかっていたからな。

だから、俺と同じように彼女に憧れてアイドルを目指す新人を撮りまくった。

どんな才能無い奴でも、有る奴でも関係なく、差別なく、賃金さえも気にせずに只管に撮り続けた。

みんな俺を笑ってたよ。『馬鹿だ』『考え無しだ』『みっともない』ってな。

でも、構わなかった。俺にはそうやって撮り続けることでしか、彼女の立つ高みへと目指す事ができなかった。

愚かと言われても構わなかった。何故なら、撮り続けるうちに俺には他のカメラマンには見えない何かが見えるようになっていたからだ。

一種のオーラ的な、そのアイドルの潜在的な何かを示すそれは、色形は個人差があるとはいえトップアイドルになる奴は決まって宝石のような輝きを放っていた。

それがわかっても俺は驕る事無く色々なアイドルを撮り続けた。

最初はくすんだ光しか放たないアイドルでもちょっとしたきっかけで輝きだすし、その逆もまた然りであると知っていたからだ。

楽しかった。輝くステージに立つ自分の姿を夢見てよ、本当に子供らしくどいつもこいつも目を輝かして語ってるんだぜ。

そんな姿を見せられたら、大人の俺がもっと頑張らねえとってな。

 

まあ、それからなんやかんやあって今でもこうしてアイドルを撮り続けている。

346プロで今アイドル部門の部長をやっている今西には、返しきれねえ恩が有るからな。

しかし、今西の奴は何で今回の仕事に俺を指名してきたんだ。

こういうことが今までになかったわけじゃないが、あいつが

 

『この仕事は、きっと君をも変えてしまうよ』

 

とか、意味深な発言をしてくる事なんてなかった。

いったい今回の仕事に何があるって言うんだ?

 

隠された何かを知るために企画書をもう一度見返してみる。

内容は、別段特別な事があるわけでもないアイドルバラエティで、俺が担当するのは最近着々とファンを増やしている輿水 幸子がメインとなる動物とのふれあいコーナーだ。

小動物から始まり猛獣へと至る。流れとしちゃあ無難だし、アイドル界のリアクション芸人枠とも呼ばれる輿水の表情変化も撮れるし、なかなか担当アイドルの強みを生かした仕事だな。

それが、アイドルの望む仕事であるかは別だがな。

獅子、虎、熊等を前にして檻の中に設置された特別ステージでのミニライブか、動きが多そうだから撮影位置とかも考え直さねえと。

そういえば、今回は新人アイドルがゲストとしてやってくるんだったな。確か名前は

 

 

「‥‥渡 七実ねえ」

 

 

俺も346で働いている身だ。噂になっているこいつの伝説は色々聞いているが、実際にあったことはなかったため判断に困る。

何故ならその伝説というものが、どれも荒唐無稽なものばかりなのだ。

 

曰く

『全く動かなくなった演出装置を修理する所か、改良を加え円滑且つ当初の計画より出来の良いものを作り上げた』

 

『汗一つかかず推定50kg越えの荷物を1人で何個も階段を使って運んでいた』

 

『倒れかけた時5m以上離れていた筈なのに、いつの間にか支えられていた』

 

『2徹しても間に合わない量の仕事を手伝ってもらったら、2時間も掛からず終わった』

 

『明らかに身長以上の垂直ジャンプが出来る』

 

『都内に居る野生生物は、全て七実さまの僕』

 

『アイドルを食いものしようとしていたヤクザ集団 ○○組が一晩で謎の壊滅したのは七実さまの仕業』

 

『七実さまが車を持っていないのは走った方が速いから、勿論運転技術はプロ並みである』

 

『同僚が食べている弁当を一口貰ったら、何処の高級レストランのものかと思ったら七実さまの手作りだった』

 

『手刀で鉄骨を両断でき、蹴りは装甲を貫く』

 

『伝説の暗殺者教団の末裔』

 

『壁を蹴って、垂直に昇っていった』

 

『気力の高まった七実さまは、身体が金色に輝く』

 

『現役の特殊部隊に所属する人間でも七実さまには敵わない』

 

『誰もいないことを確認した筈なのに、七実さまはそこに居た』

 

『実は世界の均衡を保つため暗躍する秘密結社の一員である』

 

と挙げたら限がありゃしねえ。

どれもこれもおもしろ半分に誇張しているだけだろう。

そんなのが出来る人間がいるとしたら、もうそいつは人間じゃねえ。もはや人間の形をした何かだ。

噂に踊らされるようじゃ、この業界では生きてはいけねえし、どうせこれから会うんだ。この目でしっかりと見極めさせてもらうとしますか。

 

 

 

 

何なんだ、アイツは!あんなオーラなんて、見たことねえ!

いや、似たようなのなら一度だけ見たことがある。

業界に広く顔が利く今西に頼み込んで捻じ込んでもらった、あの日高 舞の引退ライブの時に。

日高 舞のオーラは絶えず輝き照らし続ける太陽のような巨大なものだったが、こいつは違う。

最初に会ったときはあまり強いオーラを感じない、中の下程度のアイドルだと思っていたが違う。

こいつは隠してやがったんだ。

 

騒ぎ立てる烏と獅子を黙らせるために一瞬だけ見せた本気。

その超新星爆発の如きオーラは、檻の外から撮影している俺達ですら『死んだ』と錯覚してしまうほどに濃く、圧倒的だった。

俺以外の撮影班は全員何が起こったかわからないという表情で地面に倒れ伏している。

日高 舞という規格外を経験していなかったら、俺も同じようになっていただろう。今ですら、動かずカメラを保持しているので精一杯だ。

今西の奴が言ってた理由が今わかったぜ。

こいつは自分の強さを知っている。それが普通の人間とどれだけ隔絶しているかも。

だから、こいつはいつも手加減をせざるを得ない。俺達人間が力を入れ過ぎて赤子や小動物を傷つけてしまわないようにするのと同じように。

幾多の少女が人生を捧げんとするアイドル業ですら、こいつにとっては本気を出せる場ではない。

恐らく今更になってアイドルデビューしたのも、単なる気まぐれなんだろう。もっと早くデビューしていたら第二次日高 舞ショックを起こしていたに違いない。

 

俺を変えるか。全く持ってその通りだったよ。

こいつの本気を撮ってみたい。体の自由がようやく戻ってきたころに、俺の胸の奥を支配していたのはそんな思いだった。

しかし、アイツの本気を撮るには今の俺程度の技能じゃ、足元に及ぶどころか比べる事すらおこがましい。

どうやら、周囲からもてはやされるようになって気がつかない内にいい気になっていたようだ。

いつか絶対その本気を最高の映像としてカメラに収めてやるからな、覚悟しておけ超新星アイドルめ。

 

 

 

 

 

 

とあるアイドル

 

あの日のことですか。

正直言って、ボクにとっては思い出したくない日です。

ボクが最初にあの人と話したのは新春企画の撮影の時でした。

 

 

「渡 七実です。この中では最年長になりますが、新人ですのであまり気にしないでください」

 

 

もう1人の事務員からアイドルになった千川 ちひろさんと一緒に挨拶したあの人は、人の良さそうなお姉さんにしか見えませんでした。

本格的なアイドル活動はこれが初めてと言うことなので、かわいいボクが先輩としてアドバイスをしてあげようと思ったのですが、事務員として何度も現場に入ったことがある2人には不要のようでしたね。

まあ、うちの事務員さんたちはかなり優秀な人が多いって聞いていましたから、かわいいボクは何とも思いませんでしたけど。本当ですからね!

 

撮影が始まる前に監督の独断で配役や脚本が少し変わった時には、川島さんや楓さんを除いて不満の声があがりましたが、あの人に与えられた役は過酷なものでした。

登場人物たちの中で最も強いキャラである為、単独での戦いの場面を演じなければならないのです。

あの企画のコンセプトとしてスタントマンは使用できないため、誰もが無茶だと訴えました。

だって、つい最近まで事務員としてデスクワークをしていた人が本職の人でも難色を示すレベルの戦闘シーンなんて出来るはずがないと考えるのが普通でしょう。

ですが、あの人は違いました。

 

 

「これって、私が動き易いようにしたら駄目ですか?」

 

「戦闘スタイルって剣に限定する必要あります?」

 

「何分で全滅させればいいですか?」

 

 

突然振られた無茶な要求にもあの人は応えました。周りの想像の遥か上を飛び去る形で。

1kg強ある特殊な素材で作られた身の丈ほどある大剣をまるで手の延長のように操り、繰り出される拳や蹴りは素人でもわかるぐらいの力強さに溢れていました。

いざ撮影が始まり、あの人が上着を脱ぎタンクトップ姿になったときボク達に衝撃が走りました。

 

 

そう、鬼と形容するしか出来ない、極限まで鍛え上げられた身体がそこにありました。

日野さんや姫川さんのようにスポーツ経験があり引き締まった身体をしているアイドルも中にはいますが、あれはそんな生易しいものではありませんでした。

オリンピックでメダルを目指すアスリート、または純粋に戦う事を魅せられた達人武道家。

少なくともかわいさ等を売りにするアイドルの身体ではありませんでした。やばそうな傷跡や刺青等を探してしまったのは、ボクだけではない筈です。

戦闘シーンが始まってからのあの人は『無双』という言葉がぴったりな暴れっぷりでした。

剣を片手で水平に構え身体を弓のように撓らせたかと思うとそのまま爆発的な加速で突きを放ち、そこそこの強度があるはずの敵役の模型を大きく陥没させるパンチを繰り出し、いつ振りぬかれたかわからなかった回し蹴りは模型の首を粉砕し、撮影慣れしたカメラマンでさえ捉えるのに苦労する速さで駆けて刃が潰してある筈の剣で模型を両断する。

開いた口がふさがらないというのは、ああいった状況を言うのでしょうね。

 

人間じゃない。そう思ったボクを誰が責められるでしょうか。

きっとあの場にいた人の総意だったと、胸を張って言えますから。

 

次の機会は、ある番組での撮影でした。

プロデューサーさんがどうしてもというので、バラエティ番組の動物とのふれあいコーナーに出演する事になり、そのゲストとして招かれたのがあの人でした。

あの光景を覚えているボクとしては、少し‥‥いえ正直かなり緊張していましたが、虚勢を維持しながらいざ話してみると普通の気さくなお姉さんでした。

失礼な言葉遣いをした瞬間に○されると思っていた心配は杞憂だったのです。

それからは、弄られながらも楽しく過ごせていたと思います。

 

 

あの瞬間まで。

 

 

圧倒的な威圧感。

まるで格上のアイドルのパフォーマンスを見せ付けられ、心の奥にある大切な何かを折られかけてしまった時よりも強大で、無慈悲なそれを受けたボクは撮影中と頭では理解しても身体からは力が抜け、呼吸も上手く行えず、特設ステージの中でもがいていました。

死んでしまう。これ以上受けると心が壊れて、人間でなくなってしまう。

たった一瞬が、何分にも思え走馬灯さえ見えた気がします。

 

普通の人ならトラウマを抱えるには十分な出来事でしょうが、トップアイドルとなるかわいいボクには衝撃的な出来事の一つでしかありません。

まあ、その第一位が久しぶりに更新された日ではありましたが。

では、どうしてボクがあの人に対して怯えた態度をとるかですか?

そんなの簡単です。

ボクが怖いのはあの出来事ではなく、()()()そのものなんです。

あの威圧感の後、現場の復旧のために休憩が入りました。あの人も自分の所為でこうなったというのを察してか、色々お手伝いをしていたそうです。

ボクはちょっと着替えをしていて、離れていたので又聞きなのですが飼育員の人があの人に言ったそうです。

 

『貴女が相手となるとライオンですら形無しですな』

 

先ほどの出来事を笑い話にするためのお世辞のようなものだったのでしょう。

それに対してあの人は、こう答えたそうです。

 

『すみません、騒ぎにしてしまって。まだ手加減するべきでした』

 

あの人は『まだ』と言ったのです。

つまりはあれですら手加減で、本気ではないと言う事なのです。

最初は周りも冗談かと思っていたのですが、あの人が真剣に謝罪する様子を見てその言葉が真実であると判断したそうです。

 

いったい、あの人が本気になった時に何が起こるのか

あの笑顔の下で、何を考えているのか

 

それら一切がわからなくて、怖いんです。

ボクの考えすぎなのかもしれません。でも、これは知識ではなく感情なんです。

どうしようもないじゃないですか。

あの人が、ボクの態度にほんの少しだけ寂しそうにしているのがわかっていても、その所為で楓さんや川島さん、菜々さん、千川さん以外のアイドルから距離をとられているとしても。

怖いものは、怖いんですよ。

 

 

だから、ボクは願わずにはいられません。

いつかあの強すぎるあの人を本当に理解して上げられる人が出来る事を

 

そして、ボクがこの恐怖を乗り越え、あの人と並び立つ事ができる日を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今後は、番外編として他キャラ視点だけではなく色々と挑戦していきたいと思います。
現在は第二弾として某掲示板風を予定していますが。
予定は未定です。




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