チートを持って転生したけど、同僚馬鹿ップルが面倒くさい~2X歳から始めるアイドル活動!?~   作:被る幸

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更新が滞ってしまい申し訳ありません。
最近は番外編ばかりになりつつありますが、恐らく次も番外編になると思います。


番外編17 IF Merry X-mas!

どうも、私を見ているであろう皆様。

12月25日の深夜1時、良い子達は寝静まっている雪の降り積もるクリスマスの夜。美城プロダクションアイドル女子寮前にサンタに扮した私は立っていました。

これから私が行うのは『サンタを信じている未成年アイドルの夢を壊さない』という極めて貞淑な(バーチャス)任務(ミッション)です。

この任務の達成の為に、各プロデューサーには業務を調整しながらアイドル達の欲しいものを聞き出し、家族が遠方にいるアイドルに関しては連絡を取り、場合によっては直接出向いてプレゼントを受け取って来てもらいました。

勿論、私も探偵技能等のチートを惜しむことなく使用して情報収集を行いましたから、喜ばれないプレゼントはないでしょう。

当初の予定では、夜中の間に共有スペースにプレゼントを配置するというありがちなパターンだったのですが、芸能プロダクションあるある上位にランク入りする『期待に対して自らハードルを上げてしまう』が発動してしまったのです。

龍崎ちゃんのプロデューサーである彼は、純粋無垢なサンタさんを待ち望む声に対して、ついクリスマスの朝にはサンタさんがプレゼントを枕元に置いてくれていると答えてしまったのでした。

夢を壊してしまわないようにしようという優しい思いは十二分に理解できますが、大人であるなら口に出してしまう前にこれが実現可能かを考慮すべきでしょう。

その優しい言葉を何一つ疑うことなく信じてしまった龍崎ちゃんは、女子寮で他の年少組アイドルにそれを話してしまい、各プロデューサー達が状況を把握した頃には後戻りできない状態でした。

言い出しっぺであるそのプロデューサーにサンタ役を任せようという話も出ましたが、彼の拙い潜入スキルでばれてしまって夢を壊してしまう可能性やプロデューサーとはいえ男性が深夜の女子寮に入り込むのはゴシップのネタになりかねないという事で、その2つの条件を満たせる私に白羽の矢が立ったという訳です。

私も年少組アイドルの夢を守ることには賛成派ですし、迷惑料兼クリスマスプレゼントとして『グレンモーレンジ』を頂きましたから、全力で頑張らせていただきましょう。

事前に寮監には通達してあるので、入り口と各部屋の合鍵は入手済みです。

チート級特殊メイクと変装技術の粋を集めて自身に施した超本格的サンタコスプレは、この計画を知っている人間が見ても私と気がつくことはないでしょう。

何かの拍子でばれてしまっては計画が水の泡となるので寮内に置くことができず、とあるコネを使って絶対にばれない場所に今日まで預けておいたプレゼントの詰まった袋を肩に担ぎ気合を入れなおします。

 

 

「では‥‥今から、貞淑な任務(バーチャスミッション)を開始します」

 

 

サンタフェイスで自然な笑みを作りつつ、誰に言うでもなく呟きました。

これまでも発動させていた気配遮断スキルと消音スキルを最大出力にして、私はゆっくりと寮へと入ります。

玄関には幼少組が仕掛けたと思われる拙い鳴子系のトラップが仕掛けられていましたが、きちんと解除しておき『他の人が引っかかったら危ないじゃろう』という旨をグリーンランド語で書いたポストカードを挟んでおきました。

解読には時間がかかるかもしれませんが、私と同じでタブレット端末を常時持ち歩き検索癖のある橘さんなら今日中に正解に辿り着けるでしょう。

罠を仕掛けることについては情報がありましたし、私を罠にかけるなら昼行燈のような老獪な狡猾さが必要です。

まあ、幼少組にそんなものを教え込もうとする輩は毟りますが。

気配を探りますが、活動状態な気配は寮監と高校生組の数人だけですね。

テレビ番組や趣味等に没頭し過ぎて時間を忘れてしまい夜更かししてしまうのは若さの特権ではありますが、アイドルなのですから美容にも気を使ってほしいとは思います。

特にこの時期は年始にかけての特番撮影やイベントが調整していても多くなってしまいますからね。

かく言う私もこの任務(ミッション)終了後は、収録が予定されていますのでそのまま現地に向かう予定です。

誰でしょうね『アイドル自ら材料を調達し調理するおせち料理特番』なんて悪乗り以外の何物でもない頭の可笑しい企画を通してしまった人間は。

しかも、道具もレンタル、私物又は自作でなければならず、扱う際には人の手を借りてはならないなんてどんな縛りプレイでしょうね。

これ1級船舶免許を持っていて釣りや漁もできる私がいなかったら魚貝類系の素材が全滅しかねないところでした。

そんな無茶振りをされている私ではありますが、私以外の参加者である346プロバラドル四天王輿水ちゃんと宮本さん、我が弟子であるみくとアーニャもそれぞれにも過酷なミッションが課せられています。

因みに、この中で深夜業が可能な宮本さんは数時間後には私と一緒に海の上ですね。

独特の価値観で爆発力の高いフリーダム露仏同盟のフランス側である宮本さんが一緒ならば、私が淡々と釣果を重ねるだけの映像よりも面白いものが撮れることでしょう。

 

 

『あっ、サンタさんだ!』

 

 

この後のことを考えながら、優雅さを保ちつつ極限まで無駄を省いた動きで迅速にアイドル達の枕元にプレゼントを置く任務をこなしているとあの子に見つかってしまいました。

生きている人間とは違う感覚で感知してくる幽霊関係には対人気配遮断スキルが効果ありません。

これが白坂ちゃんの親友であるあの子ではなく、害意ある悪霊や怨霊であれば最近習得した除霊スキルで現世からさよならしてもらうのですが、少々厄介ですね。

 

 

「ほっほっほ、内緒じゃよ」

 

 

想定内の事態ではありますので、人差し指を口の前で立てながらできるだけ好々爺に聞こえるようなお爺さん声を作り出して対応します。

女性声の声帯模写は幾度となく披露したことはありますが、男性声は人体構造的に疑問を持たれてしまいそうなので誰かに聞かせたことはありません。

ですが、私のチート声帯に不可能はありませんので問題なくできているでしょう。

 

 

『すっご~~い!わたし、初めて見た!

でも、わかった!内緒だね!!』

 

 

あの子が純粋無垢な少女霊で助かりました。

これで失敗しても詐術と話術を駆使すれば誤魔化すことは容易ですが、やはり意図して人を騙すのは気持ちいいものではありません。

 

 

「良い子じゃの。そんな君にもプレゼントを用意しておるから、朝になったらいつも一緒にいる女の子の所に行きなさい」

 

『えっ、いいの!?幽霊なのに!?』

 

「ほっほっほ、良い子にはプレゼントをあげる。それが、儂等サンタクロースじゃよ」

 

 

白坂ちゃんからクリスマスが近くなるとあの子の元気が無くなると聞いていましたから、抜かりなく準備しています。

霊体に干渉するような品は今の私では流石に無理なので、白坂ちゃんと一緒に楽しめるよう休日の調整と水族館のフリーパスを用意しました。

これなら傍から見ると1人でも悪目立ちすることはありませんし、小さな声でなら会話していても大丈夫でしょう。

それに最悪の事態を想定し当日は私も陰ながら見守るつもりなので、問題なんて起こるはずがありません。

 

 

『やったぁ!!わたし、幽霊 《あの子》!今後ともよろしくね、サンタさん!!』

 

「ほっほっほ、儂は魔人 サンタクロース。お嬢ちゃんが良い子である限り、今後とも宜しくじゃ」

 

 

待ちきれないという気持ちを全身で表すかのように宙返りや捻りを繰り返すあの子を見て、プレゼントを用意して良かったと思います。

恐らく、今頃同じようにサンタクロースとなっているお父さんお母さんも、子供のこんな姿を見たいと思っているからプレゼントを用意するのでしょうね。

さて、そろそろ任務を再開しなければこの後の収録に響いてしまいそうです。

 

 

「じゃあ、儂はプレゼントを配らねばならんのでの。来年まで、良い子にしておるんじゃぞ」

 

『うん!また来年ね、サンタさん!』

 

「ほっほっほ」

 

 

腕が千切れてしまいそうなくらいの勢いで手を振り続けるあの子に見送られ、私はサンタクロースの責務を果たします。

プレゼントと配りは順調に進み、中には部屋の中にまで罠を仕掛けていた子もいましたが、全て解除且つポストカードを挟んでおきました。

なかなかに手の込んだ数重の罠でしたので、今後の成長に期待ですね。

寮生の中で起きていたまゆと松永さんについても、気配遮断スキルと無音活動で気がつかれないように背後に『良い子は寝る時間じゃよ』というポストカードと一緒に置いてきました。

気がついたときにどんな反応をするのかを確認できないのが、ちょっとだけ残念です。

 

 

「‥‥まったく、道理で部屋にいないわけですよ」

 

 

最後に訪れたみくの部屋には、アーニャ、智絵里、蘭子の3人が泊まりに来ており可愛らしい寝息を立てていました。

基本的に寮の部屋は1人用で設計されていますから、割と小柄なメンバーが多くても4人も集まると足の踏み場が殆どありません。

私のように爪先で全体重を支えつつ、無音移動ができる人間でなければ確実に任務を失敗していたことでしょう。

部屋の様子から察するに、どうやらこの部屋でクリスマスパーティーをして、そのままお泊りになった流れでしょう。

この4人の仲の良さはシンデレラガールズの中でもトップクラスであり、昨年のクリスマス前の様々なことを乗り越えたニュージェネレーションズにも負けません。

しかし、この4人の中で一番小さいのはみくだと知っている人はどれくらいいるのでしょうね。

みくはシンデレラガールズの中で下から数えた方が早い身長に対して、スタイルの良さはトップクラスですからその辺で何cmか大きく見られているのでしょう。

人間の視覚なんて意外と大雑把だったりしますので、勘違いをしている人が居ても致し方ないです。

 

 

「‥‥あったかい(チョーブルィ)

 

「‥‥ん、にゃぁ~~」

 

 

暖房機は絶賛稼働中ですがそれでも暖を求めるアーニャに抱きつかれ、みくは一瞬だけ眉を顰めますがすぐに穏やかな寝息に戻ります。

コンビを結成以来、度々ここに泊まっている李衣菜も『みくちゃんの部屋は、半分アーニャちゃん達の部屋になってる』と言っていたくらいですから、これくらいの事は日常茶飯事なのでしょう。

確かに暗視で見える部屋の中は、ねこ系グッズが占める割合が多いようですが、天球儀やクローバー模様の小箱、プロジェクトルームとは別の蹄鉄等明らかにみくの趣味とは違うものも見られます。

この侵食率なら李衣菜の言葉も納得できますね。

あまり長々と部屋を眺めるのはマナー違反ですのでそれぞれの枕元にプレゼントを置いて、さっさと退散しましょう。

 

 

「May the miracle of Christmas fill your heart with warmth and love. Merry Christmas!

《クリスマスの奇跡があなたの心を暖かさと愛でいっぱいになりますように。メリークリスマス!》」

 

 

最後に小さくクリスマスを祝う言葉を送り、私は部屋を後にします。

これにてこの貞淑な任務(バーチャスミッション)はほぼ完了ですね。

任務の難易度自体はそれほど高くなかったので特に問題はありませんでしたし、これくらいなら予定さえ調整すれば毎年でもできるでしょう。

というか、確実に来年以降もお願いされる予感がします。

廊下を無音で駆け抜けマスターキーを寮監に返納した私は、寮の入口を出てすぐの場所で立ち止まり時計を確認します。

さて、私の計算が正しければそろそろなのですが。

 

 

「ーーー!」

 

「予測通り」

 

 

寮から背後においてあったプレゼントに驚いたまゆの声が聞こえてきて、それが呼び水となり次々に起きたアイドル達の驚愕の声が深夜の寮に響きます。

それと同時に私は手に持っていた鈴を鳴らし、空となった袋をはためかせながら寮から撤退を開始しました。

雪の降り積もった道を最近会得した軽気功を使用して足跡を付けずに軽快な足取りで去ります。

 

 

「待って、サンタさぁ~ん!!」

 

 

年少組の可愛らしい待っての声に止まりたくなりますが、最高のサンタクロースを演じて夢を守るを決めた以上は綺麗に終わらせなければなりません。

高らかに響き渡る鈴の音と走り去る後ろ姿だけを記憶に残させて、私は気配遮断スキルを最大稼働させて視界から消えます。

これで、サンタクロースという夢の存在を疑い始めていた子達に夢を見せることができたでしょう。これをもって本貞淑な任務(バーチャスミッション)は完了です。

後は、この特殊メイクと衣装を処分して何食わぬ顔で収録に向かうだけですね。

私は気配遮断スキルや軽気功を最大稼働させたまま、常人では出せない速度で雪道を足跡を残さず目的の公園まで駆け抜けました。

途中にあった自動販売機でホットのココアとコーヒーを購入し、合流ポイントであるベンチに辿り着きます。

 

 

「お疲れ様です~」

 

 

合流ポイントにいたのは、鼻を垂らしたトナカイ(ブリッツェン)を撫でながらベンチに座る私と同じくサンタクロースの衣装を纏う雪のような銀髪の少女でした。

 

 

「遅れてしまいましたか?」

 

「大丈夫です~。むしろ早いくらいですよ~」

 

 

彼女はイヴ・サンタクロースと言って、この世界におけるサンタクロース族の1人だそうです。

数年前のクリスマスに何故か身包みを剥がされ段ボールを羽織った状態だったところを保護し、色々助けてあげたことから交友が続いています。

因みに、未成年の身包みを剥いだ下手人には、私とブリッツェンのロングホーントレインで天誅を下していますので安心してください。

まだまだサンタクロース見習いで日本の一部の地域しか担当させてもらっていないそうですが、将来は祖父や父のような立派なサンタクロースになることが夢だそうです。

アイマス世界はリアル系な世界の筈なのですが、サンタクロースが実在するとは思いませんでした。

 

 

「七実さんは、私の命の恩人ですからこれくらい恩返しです~」

 

「そんな恩返しとか気にしなくていいんですよ」

 

「ダメです。私達サンタクロースは良い事はちゃんと忘れないんです~」

 

 

良い子にプレゼントを配るサンタクロースらしい台詞ですね。

今回私がサンタクロースさんに頼んだのは、アイドル達へのプレゼントの預かりと謎の技術により距離による音の減衰率が低い鈴の貸し出しです。

本職のサンタクロースにプレゼントを預かってもらえばバレることは絶対ありませんので、まさにうってつけでした。

そして、この謎技術で作製された鈴を使用したことにより、外で鳴らした鈴の音も寮内まで聞こえた事でしょう。

作製技術について非常に気になるところではありますが、残念ながらサンタクロース族門外不出のものらしいので諦めるしかありません。

返すのが惜しく思える逸品ですが、サンタクロースさんは私を信頼して鈴を貸してくれたのですから素直に返却します。

ついでに、ここに来るまでに買っておいた温かいココアと予め用意しておいた冷えても美味しく食べられるサンドイッチを渡しておきまましょう。

 

 

「簡単なものですが、良かったら食べてください」

 

「わあ、ありがとうございます~」

 

 

そんなサンタクロースさんの姿をブリッツェンが羨ましそうに見ていたので、優しく頭を撫でてやりながらちゃんと用意しておいた越冬にんじんを食べさせてあげます。

糖分が高く生でも美味しく食べられる越冬にんじんをブリッツェンは瞬く間に用意しておいた5本を平らげてしまいました。

彼はこの後サンタクロースさんと共に与えらた区域の良い子達にプレゼントを配るという大任を果たすのですし、下手人を成敗した時は一時的にタッグを組んだ仲ですから、ちょっとくらいは甘やかしても問題はないでしょう。

 

 

「良かったね、ブリッツェン」

 

 

にんじんを食べ終えたブリッツェンは満足そうに鼻を鳴らそうとしますが、決して床に落ちることなく垂れ続けている鼻汁の所為で上手くできません。

落ちそうで落ちないそれは見ていると何とももどかしい気持ちになりますが、拭いてあげても数秒で元通りになってしまうので諦めました。

その所為でプレゼント配りに影響を及ぼすようであれば、習得している獣医学スキルで本格的な治療を施すところですが問題ないならもう個性だと思うべきでしょう。

 

 

「じゃあ、私は行きますね」

 

「はい、気をつけてください」

 

 

クリスマスの時にしか会えないのですから、もう少し話していたいのですがサンタクロースさんにも自身の責務があるので引き留めるのは無粋です。

 

 

「では、またクリスマスに。

Have Yourself a Merry Little Christmas!《よいクリスマスを!》」

 

「May the true spirit of the season find you and fill your heart with joy.

《クリスマスの思いがあなたに届きますように。そして、あなたの心を幸せいっぱいにしますように。》

そして、再会はもっと早くなりますよ~♪」

 

「それは、どういう意味で‥」

 

 

言葉の意味を確認する前にサンタクロースさんは現代女子高生風なデコレーションが施されたそりに乗って空へと駆けあがっていきました。

チートを使えばそりに乗り込むことも可能でしたが、流石にサンタクロースの仕事を私個人の興味だけで妨害するのは気が引けますのでやめておきます。

サンタクロースさんが嘘をつく必要はありませんので、何かしらの用事で日本に来ることがあるのでしょう。

クリスマスに会う際は時間的な余裕がありませんでしたから、ゆっくりと話せるならお酒でも飲みながらゆっくりと語り合うとしましょうか。

 

 

「さて、私もそろそろ収録に向かわないと」

 

 

時計を確認すると少し急がなければ、余裕を持ってロケの集合地点に到着できなさそうです。

やはり社会人として最低限集合時間に30分以上は余裕を持って到着しておいて、色々な確認をしておきたいですね。

特に今回のロケはアイドルが行うものとしては特殊な部類に入りますから、慣れない撮影スタッフだとうっかりミスが発生している可能性もあります。

事前に確認はしていますし、トラブルが発生する可能性は限りなく低いのですが、それでも完全な0%ではないので慢心は禁物でしょう。

そんな私と同様に忙しいクリスマスを過ごしているかもしれない皆様に言葉を送るのなら。

 

『I hope that your Christmas would be enjoyable and may the essence of Christmas remain always with you. Merry X-mas!

《楽しいクリスマスを過ごしてる事を祈っています。そしてクリスマスの気分がいつまでも続きますように。》』

 

 

 

 

 

後日、346プロダクションの新規採用アイドルの中にイヴ・サンタクロースという名前を見つけて、別れ際の言葉の意味を理解するのですが、それはまた別の話です。

 

 

 

 

 

 

 

「見て見て!智絵里ちゃん、みくちゃん、アーニャちゃん!

サンタさん!本当にサンタさんだよ!!」

 

「そうだね、蘭子ちゃん」

 

 

鈴の音を残しながら去っていくサンタさんの姿に、いつものようなちょっと難しい言い回しではなく年相応にはしゃぐ蘭子ちゃんの姿に私までつられて笑顔になっちゃいます。

 

 

『ミク!サンタよ!!サンタ!!やっぱり、サンタはいたの!!』

 

『わかったから、揺さぶらないで!』

 

 

蘭子ちゃんに劣らずの大興奮なアーニャちゃんはみくちゃんの肩を掴んで揺さぶりながら、ロシア語ではしゃいでいます。

私もロシア語の勉強していて、簡単な会話くらいならできるようになったけど、まだまだみくちゃんのように流暢に話すことはできません。

頑張って勉強しているけど差が出てるのは、やっぱり七実さんとNEX-USの皆でロシアでロケとライブをして現地の人達と交流したからなのかもしれません。

言葉を覚えるならネイティブスピーカーの人と話すのが一番良いって学校の先生も言っていました。

今度、海外でロケをする時にはプロデューサーさんに言って私も参加させてもらわないと。

そんなことを考えているとサンタさんの姿は消えてしまいましたが、まだ微かに聞こえる鈴の音が見間違えじゃないと教えてくれます。

鈴の音だけでなく、蘭子ちゃんと同じでサンタさんの姿にはしゃぐ他の子達の声も聞こえてきました。

そういえば、サンタさんの騒ぎになる前に誰かの大きな声がしたけど誰だったんだろう。

 

 

「私、ちょっと行ってくる!」

 

「ミク、チエリ!私達も行きますよ!」

 

 

サンタさんを追いかける気満々な2人は、いそいそと防寒着を着込み始めます。

今から追いかけても追いつけるかはわかりませんが、私も本物のサンタさんとお話してみたいのでクローゼットの中から置かせてもらっている防寒着を取り出します。

 

 

「うぇ‥‥みく、寒いのは遠慮したいんだけど‥‥」

 

 

雪の歌に出てくるねこちゃんと同じで、みくちゃんは基本的に寒いのが苦手です。

ロシアでのロケの時には、近くのスーパーやドラッグストアで懐炉を買い占めるのを手伝ったこともありました。

こんなに買って使うのかなと思ったけど、無事に帰ってきたみくちゃんは『もう二度と冬時期のロシアいかない。あれだけあっても足りないし、ネコミミまで凍り付いたにゃ』と言っていましたから、私が経験した北海道でのロケとは比べものにならないのでしょう。

 

 

「ミク、ネコも喜び庭駆けまわるです!」

 

「違う!ねこちゃんは炬燵で丸くなるの!」

 

 

アーニャちゃんが差し出した防寒着を受け取ろうとせずに、お布団に丸く包まって徹底抗戦の構えを見せるみくちゃんは本物のねこちゃんみたいでした。

 

 

「みくちゃん!みくちゃんなら追いつけるでしょ!お願い!」

 

 

七実さんから虚刀流を習いだしてから、元々凄かったみくちゃんとアーニャちゃんの運動神経は本当に凄くなりました。

アイドル達の運動会では100m走で12秒台、ハードルでも14秒台、走り幅跳びで5m後半、三段跳びで12m前半等の様々記録を残して、2人とも学校では登校する度にアイドルと兼任でも良いからと陸上部に勧誘されているそうです。

そして、アイドル達の運動会はファンの皆さんの間では『346の蹂躙祭』と酷い呼ばれ方をしているみたいです。

私も少し前から教えてもらい始めて少しだけ運動ができるようになりましたが、それでも2人にはまだまだ追いつけそうにはありません。

他にも346プロのアイドルで虚刀流や七実さんから武術を習っている子は多く、シンデレラガールズだと莉嘉ちゃんは居合いの段を取る為に色々と勉強中らしいです。

 

 

「いや、無理だから。雪の上をあんな風に軽快に走り去っていける相手に追いつくのは無理だから」

 

「ミク!『諦め(アンカース)』‥‥諦めたら駄目です!虚刀流の名が泣きます!」

 

「諦めじゃなくて、事実だから」

 

「ミク!」「みくちゃん!」

 

 

無理にみくちゃんを連れださなくてもいいのにと思う気持ちとやっぱり追いかけるなら4人一緒が良いと思う気持ちで、私の心が揺れ動きます。

 

 

「どっちや!サンタさん、どっち行ったん!?」

 

「わからんばい!」

 

「あの数々の忍者トラップを抜けるとは、サンタさんも忍者だったのですね!ならば、このあやめ、負けるわけにはいきません!」

 

 

私達以外にもサンタさんを追いかけようとしているアイドルは居るみたいで、外からサンタさんを探す声が一杯聞こえてきました。

すぐに追いかければ遅れは取り戻せるでしょうが、このままでは置いていかれてしまうでしょう。

蘭子ちゃんとアーニャちゃんの顔にも焦りの色が濃く出ていて、強硬手段も辞さないという覚悟が見えます。

 

 

「みくちゃん‥‥一緒に行こ?」

 

「智絵里ちゃんまで‥‥しょうがないにゃあ‥‥」

 

「ミク!」「みくちゃん!」

 

 

私も説得側に回って過半数を超えた途端、みくちゃんは諦めて様にアーニャちゃんから防寒着を受け取って一瞬で着替えました。

しっかりと枕元に置いてあるねこみみを付けるのも忘れないのが、みくちゃんのねこちゃんアイドルとしてのプライドの高さを感じさせます。

 

 

「もうっ、みくを駆り出したんだから、追いつけなくても絶対何かの手がかりくらいは掴むよ!」

 

はい(ダー)!』「当然のこと!」「うん!」

 

 

やっぱり、みくちゃんが号令を掛けるといつも通りの私達だなって思います。

それぞれの枕元に置いてあったプレゼントに足をぶつけてしまわないように、隅っこに避けてから私達も他のアイドル達と同じようにサンタさんを追いかけるのに参加します。

もう鈴の音は聞こえなくなってしまっていて、今から追いかけた所で追いつけたり何か見つけられたりする可能性は低いかもしれません。

でも、この4人だったらそんなものだって乗り越えられる気がします。

 

 

「とりあえず、みくとアーニャで去ってった方を探索するから、智絵里ちゃんと蘭子ちゃんは情報収集をお願い」

 

「わかった」「任せよ!」

 

 

まだ寝ている子もいるかもしれないので、騒がしくならないように気をつけて玄関へと向かいながらやる気満々のみくちゃんが指示を出します。

私と蘭子ちゃんは足も速くないし、雪の積もった道だとこけて怪我をしてしまうかもしれません。

それを理解しているからこそみくちゃんは私達に情報収集を頼んだのでしょう。

 

 

「ミク、どっちが先に見つけるか『勝負(マッチ)』ですね」

 

「受けて立つにゃ。まあ、今回もみくの勝ちだろうけど」

 

 

アーニャちゃんが勝負を持ち掛けると、幸子ちゃんみたいなドヤ顔でみくちゃんは勝ち誇って挑発をします。

つい先日のアイドルスポーツ番組内で色々なことで勝負をした際に、3勝負で2勝1分けと大勝したみくちゃんは自信満々でした。

同じ虚刀流門下生として競い合う2人は良いライバル関係みたいで、基本的には仲が良いけど一度勝負事となると物凄く負けず嫌いになります。

 

 

『上等よ!私が勝ったら、プロデューサーににゃんにゃんにゃんで寿司屋ロケを組んでもらうわ!』

 

『えっ、それ酷くない!?』

 

 

普段はちょっと自由過ぎる所もあるけど、いつもにこにこしていて穏やかなアーニャちゃんがこんなに子供っぽくなるのは珍しいし、そんなにこの前の負けが悔しかったのかな。

 

 

『絶対に負けない!』

 

『今日は私が勝つわ!』

 

「えっと、気をつけてね」

 

「吉報を待つ!」

 

 

靴に履き替えた途端、外へと駆けだしていった2人の後ろ姿を手を振って見送ります。

勝負の内容はロシア語だったので殆どわかりませんでしたが、それでもみくちゃんの急ぎようとにゃんにゃんにゃんという単語からお魚系のロケをさせるって言ったのでしょう。

 

 

「さて、我らも紅衣の聖人の聖遺物を捜索しようぞ!」

 

「うん、そうだね」

 

 

頼まれたことはしっかり熟さないと。よし、頑張りますよ。

 

 

 

 

 

この後すぐに、私達は寮監さんに叱られてお部屋で反省文を書くことになり、外に捜索に出ていたみくちゃんやアーニャちゃん達も帰ってきた子から捕まって反省文を書かされることになりました。

結局、何も手掛かりは見つからなかったようですが、本物のサンタさんに出会えたクリスマスの奇跡とこうしてみんなで大騒ぎした思い出で、私の心はとても温かくなりました。

来年もこんな風に楽しいクリスマスになるといいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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