チートを持って転生したけど、同僚馬鹿ップルが面倒くさい~2X歳から始めるアイドル活動!?~ 作:被る幸
・シンデレラ・プロジェクトの一部のメンバーについて
アニメ1話で地方在住のメンバーが東京にいるような描写がありましたが、この作品では地元に住んでいます。
・アナスタシアの苗字について
七実は親しい相手以外は、基本的に苗字呼びなので捏造させていただきました。
以上の点をご了承ください。
どうも、私を見ているであろう皆様。
年少組との関係改善の1歩として、白坂ちゃんとお友達になり歓喜に打ち震えている今日この頃。
気力、体力共に充実しており、係長業務もレッスンも鼻歌混じりにいつも以上の成果を出せているような気がます。
まあ、それはさて置き話は変わりますが、人間という存在は自分の知らない文化に触れたときに受け入れるか、拒絶します。
それは、今までの生活の中に根付いた文化が自己形成に関わる部分が多大にあり、拒絶してしまうのは影響され否が応でも変化が促されてしまうことに恐怖を感じるからでしょう。
逆に受け入れる場合は、その文化が好ましく自分のためになると思うからかもしれません。
そして、受け入れる場合において人間はその見知らぬ新しい文化に対して憧憬とも言える強い感情に支配され、一部の人間はその文化に染まりきってしまうことがあります。
日本人が騎士に憧れ、外国人が武士と言う存在に憧れるというのは、その文化について知らない部分があるからこそ憧憬の感情を持つのかもしれません。
結局人間は完全ではなく、無いものねだりしかしないと言う事でしょう。
何故こんな事を急に語りだしているかと言いますと、それは私が今現在置かれている状況が深く関係しています。
『おい、あれニンジャアイドルじゃね!?』
『本当だ!ニンジャアイドルだ!』
私は今、東京国際空港にいます。
3月も半ばが過ぎようとし、シンデレラ・プロジェクトも順調に進行していまして地方ではメンバー募集のオーディションも終了し、地方選抜を突破した5名がアイドル候補生としてこのプロジェクトのメンバーとして登録されました。
北海道から2名、大阪から1名、三重から1名、熊本から1名と資料を見た限り、なかなか個性豊かなアイドル候補生が集まったようです。
私が関わる以上全員にトップアイドルになってもらうことは確定事項ですが、どういった路線で売り出していくかや、どういうユニットを組ませるかを考えるだけで楽しくなりそうですね。
で、今日は北海道からの1名と大阪からの1名がやってくるので、アイドル方面での仕事も無く、係長業もあらかた終わらせていた私に白羽の矢が立ったというわけです。
昼行灯も『ただの346の人間より、現役アイドルのお出迎えの方が嬉しいだろう?』といっていましたし、支援業務が主になるものの深く関わっていく事には変わりないので、ここで良好な関係を構築できるに越したことは無いと迎えに来たのですが、どうしてこうなった。
『ニンジャアイドル』というのは、黒歴史や公園での一件を撮影した動画がY○U TUBE等の動画共有サイトに投稿された際に外国人から付けられた私の渾名です。
『彼女の身体能力は何だ!‥‥そうか、彼女はニンジャの末裔だったんだ!』
という全く持って根拠の無い見当違いなコメントに何故か賛同するものが増え、海外では渡 七実=ニンジャなる公式が完成され、下手をすると日本より高い知名度を誇っています。
外国人の忍者に対する好感度の高さと食いつきは異常すぎると言う一言に尽きます。いったい、彼らの何がそうも忍者へと駆り立てるというのでしょうか。
『ニンジャ』と言う単語が、観光等で訪れていた外国人達に瞬く間に広がり、現在私は周囲を外国人観光客で包囲されています。
しかし、直接声をかける勇気は無いのか、全員が数mの距離を取ってひそひそと話しこんでいます。
『なあ、お前。声かけて来いよ』
『馬鹿、お前。彼女はきっと、スパイを炙り出しに来てるんだよ。
邪魔したら、ニンポウでサヨナラすることになるぞ』
『サイン欲しいな。アイドルもしてるんだから、頼めばいけるか?』
『しかし、凄い変装だ。誰かが言われなければ、僕は普通のビジネスマンだと思って気が付かなかったよ』
チート能力の1つ『ステルス』を使えば、周囲を取り囲む外国人達は私のことを認識できなくなるでしょうが、この能力は範囲や対象を指定できないので、もうすぐやってくるであろうアイドル候補生の娘も気が付かなくなる可能性が極めて高いです。
それに消えたら消えたで、『やっぱり、ニンジャだ!』と余計に騒がしくなるのが目に見えていますし。
とりあえず、向こうから何かしらのアクションがない限り現状維持と行きましょう。
時計で時間を確認するともうすぐ1人のアイドル候補生が載っている飛行機が到着する時間になろうとしていました。
もう1人のほうも、その後20分程度で到着する予定ですから30分くらいこの状況を耐えたらいいので、何とかなるでしょう。人間、終わりが見えていると大抵の事は耐えられるものです。
『あ、あの‥‥』
『はい?』
タブレット端末で仕事の続きを片付けていると、1人の外国人の少年に声を掛けられました。
その手には色紙とサインペンが握られており、言葉にせずとも何をして欲しいかはわかります。
これまでにも何度かサインを求められ書いた事があるのですが、やっぱりこうしてファンと面と向き合って求められるとうれしいような、恥ずかしいような複雑な気分になります。
アイドルになった途端、こうも日常が変化するとは思いませんでしたが、これからも変化し続けるのでしょうか。
そんな未来のことは、チートを持つ私でもわからないので考える無駄なのでしょうけど。あんまり、先のことを言っていると鬼が笑うと言いますし。
とりあえず、勇気を持って声をかけてきた少年の意志をむげにはできませんので、色紙とサインペンを受け取ります。
『サインでいいですか?』
『はい、お願いします!』
『君、名前は?』
『ジョージ!ジョージ・ジョースター!』
黄金のような輝きを放つ強い意志を感じさせるやんちゃで利発そうな少年です。
きっとこういう子なら、社会の暗い部分を見たとしても擦れたりすること無く、真っ直ぐと正道を進んでいくのでしょう。
そんな子に期待のこもった視線で見られてしまっては、応えなくてはアイドルではありません。
受け取った色紙を真っ直ぐ上に投げます。
1:1.618の黄金長方形の軌跡をなぞるように回転した色紙は無限の力と可能性を得て『黄金の回転』に至ります。という冗談はさて置き、一切ぶれることなく安定した回転で頭上高く放り投げれらた色紙は地球上に存在するあらゆる物体がそうであるように万有引力に引かれ落下を始めました。
その落下開始のタイミングに合わせてサインペンを抜きます。
『両手を前に出してください』
『え‥‥あ、はい』
少年が両手を突き出すと同じタイミングで、色紙は私の頭の位置まで落ちてきました。
回転する色紙にサインペンを走らせて一瞬でサインをし、最後にサインペンの底で色紙を軽く突いてやると、サインが入った色紙は突き出された少年の両手に収まります。
まあ、ちゃんと書いたサインよりは乱雑にはなりますが、それでも判別は可能レベルですから大丈夫でしょう。
元となったのは漫画やアニメでよくある剣士キャラが、落ちて来る物体を様々な形に斬るというものですが、チート能力のちょっとした応用でこういったことも可能となります。
本家本元の鑢 七実も見稽古から得た能力を応用して、打撃技混成接続やそれに忍法足軽を組み合わせて打撃の重さを消したりしていましたから、こういった応用は不可能ではないのでしょう。
しばしの間沈黙が支配していましたが、全員我に帰ると惜しみない歓声と賛辞、拍手を送ってくれました。
空港を揺るがさんばかりの騒ぎに、警備員の人が駆けつける事態となり注意を受けることになりましたが、全員興奮の方が勝ったようであり、警備員が去った後は我先にサインを貰いに来ました。
一応、私が忍者だということは否定したのですが。
『本物のニンジャサインだ!帰ったら、皆に自慢しよう!』
『先生は、ニンジャはもう日本にいないって言ってたけど‥‥やっぱり、公の場ではいない事にしないといけなかっただけなんだわ!』
「ドーモ、七実=サン。アナスタシアです」
どうやら、全く信じていないようで『忍者だけど、それは秘密にしなければならない事だから言えない』という納得のされ方をしてしまいました。
しかも、銀髪碧眼の少女からは変な挨拶をされましたし。
一応、私も挨拶を返しましたが、そうするともの凄い嬉しそうな顔でニコニコしたまま、今現在も私の隣の椅子に座っています。
『やっぱり忍者はいたんですね!ママはもう日本には忍者も侍もいないって言ってましたけど、やっぱり家族にも教えるわけにはいかなかっただけなんですね!』
まだ興奮が冷めないのか、日本語ではなくロシア語で色々話しかけてきます。
『いや、私はただの事務員アイドルですよ』
『そうでした‥‥秘密ですもんね♪』
日本人もそうですが、殊更外国人は一度そうだと思い込んだらなかなか変えようとしません。
納得は全てに優先されると言う言葉がありますが、今の彼女もそうなのでしょうか。
そういえば、アクロバティックサインに熱中しすぎて忘れていましたが、もう北海道からのアイドル候補生の娘が来るはずなのですが、何処にいるのでしょうか。
資料によれば、ロシアとのハーフで、名前をアナス‥タシ‥‥ア。
添付された写真と、先程からしきりに話しかけてくる少女を見比べます。
『どうしました?』
『‥‥いえ』
彼女が、そのアイドル候補生でした。
一応資料や添付写真には目を通していたのですが、写真はいかにもなクール系のロシア美少女だったので、目の前のハイテンションな少女が同一人物だとは思えなかったのです。
いや、これは言い訳でしかありませんね。明らかな、私の落ち度です。
幸いといっては何ですが、彼女にはそれを悟られてはいないようなので、申し訳ありませんがそれを利用させてもらいましょう。
大人になるとこういった小狡さばかり上手くなっていくような気がしますが、この過ちを糧に次に活かす。それが感情を上手く制御できない子供には出来ない、大人の特権というものです。
プロジェクト開始前から人間関係でのトラブルは避けたいところですし、誤魔化せて良好に過ごせるのなら無理に真実を明るみにする必要はないはずです。
『シンデレラ・プロジェクトへようこそ。これから、よろしくお願いします』
『はい、よろしくお願いします。アーニャと呼んでください、
『‥‥』
『あっ、秘密でしたね。気をつけます』
人間、第一印象が大切という事を痛感しました。
もうカリーニナさん(アナスタシアさんの苗字)の中での私という存在は忍者で固定されてしまったようです。
これを変えるのは至難の業でしょう。人類の到達点の身体能力や他のチートを使うたびに勘違いは重なっていきそうですし。
とりあえず、もう一人の候補生を待つとしましょう。
私の忍者道は、平和なのでしょうか。
○
それから10分ほど、ロシア語で質問攻めしてくるカリーニナさんの疑問に一つ一つ答えていると、大阪からのアイドル候補生である前川 みくさんがやってきました。
私が来るとは聞かされていなかったようで、こちらを見つけた瞬間驚きで目を見開いていました。
しかし、流石はこのオーディションを勝ち抜いてきただけあって、すぐさま人懐っこそうな柔和な笑顔を浮かべます。
「初めまして、前川 みくです。現役アイドルである渡 七実さんに御足労を掛けてしまい、申し訳ありません」
猫かぶりというのが見え見えではありますが、ちゃんと状況を判断して敬語を使おうとする姿勢は評価できます。
芸能界という輝かしい世界の裏は事務所同士の鎬の削りあいやアイドル同士のいざこざと様々な思いの渦巻く魔境ですから、状況判断能力や態度の使い分け等は必須ではないもののあるとないでは過ごしやすさが大きく変わりますから。
見たところ光るものを持っているようですし、天海 春香のような不動のセンターは難しいかもしれませんが、メンバーの中では絶対欠かす事のできない立ち位置を獲得しそうですね。
渡された資料によると可愛い猫耳アイドルを目指しているとの事ですが、大阪人ですしツッコミ気質がありそうですし、フリーダムな天然キャラと組ませてみたら面白い反応が見られるかもしれません。
そう、このカリーニナさんみたいな。
メンバー全員が決まっていないため、ユニット構成がどうなるかはまだ決まっていませんが、この2人で一応案をあげておきましょう。
「初めまして、渡 七実です。そこまで堅苦しくならなくて結構ですよ、同じ事務所のアイドルとなるのですから。
近所のお姉さんに話しかけるくらいの気持ちで構いません」
「は、はい」
「こちらが貴女と同じくシンデレラ・プロジェクトのメンバーとなるアナスタシア・カリーニナさんです」
『私の名前はアナスタシアです』「アーニャと呼んでください」
カリーニナさんはまだまだ日本語が堪能ではないらしく、ロシア語と日本語の混じった話し方をします。
私はチートによって、おおよそこの世界に存在する言語を読み書き、話せますので問題ありませんが、他のメンバーとの意思疎通に齟齬等が生じないか心配になります。
アイドルとしては、その不慣れな日本語がキャラとして立ちますので強みではあるのですが。
「うん、みくもみくでいいよ。アーニャちゃん」
『はい』「よろしく、みく」
仲良く握手を交わす2人を見て、とりあえず大丈夫そうだと安心します。
私はチート転生者なオリ主ではありますが、二言三言の言葉で人間関係を改善させたり、その人の意識を変えてしまうことなど不可能なので、こればっかりはどうしよう出来ません。
洗脳や、人格破壊は悲しい事にできてしまうのですが、この能力は今世において絶対使用しないと決めていますので明るみにでる事はないでしょう。
「ところで、みくは‥‥ニンジャですか?サムライですか?」
「え、何その2択!?」
「誤魔化すということは、みくはニンジャですね!」
「ちょっ、ちょっと待って!みくにわかるように説明してよ、アーニャちゃん!!」
カリーニナさんの天然が炸裂し、前川さんがツッコミに追われる。
正に私が先程考えていたユニットの姿そのものが繰り広げられており、考えが間違っていなかったと確信します。
『
「違うからね!みくはかわいいねこちゃんなの!ニンジャじゃないの!」
「‥‥ネコニンジャですね!」
「だから、いったん忍者から離れて!何、その無駄なニンジャ押し!
外国人って、忍者や侍が好きすぎるでしょ!」
「えっと、私はパパがロシア人でママは日本人ですから、ハーフですよ?」
「そうなんだ、お父さんの血が強かったんだね‥‥って、だったらお母さんから聞いてるでしょ!」
この会話、全く意図したものではないというのに、かなり面白く感じるのは私だけでしょうか。
もうこの2人はユニット化決定で、体力に歌唱力、ダンス次第ではシンデレラ・プロジェクトの第一弾としてデビューさせてもいいかもしれません。
ユニット名は2人のキャラから考えるに『サイベリアン』とかいいかもしれませんね。
売り込み路線は輿水ちゃんと同じバラエティアイドルがいいでしょう。
そうすると前川さんの負担が大きくなるかもしれませんが、今もこの会話を楽しんでいるようですから、こういったことは得意なのかもしれません。流石は大阪人。
『忘れてました』「ニンジャであることは秘密なんですよね」
「ちっが~~う!アーニャちゃん、日本で忍者見たこと無いでしょ?」
「それは‥‥」
カリーニナさんは私の方をちらりと見ました。
ああ、私のことを忍者と誤解したままでしたね。
きっと今のカリーニナさんの頭の中では私のことを話したいけど、忍者のことは秘密にしないといけない筈だから、もし許可無く話してしまったら忍法をくらうことになるとかの勘違いが渦巻いているのでしょう。
「アーニャちゃんも○ARUTOとかに憧れたくちでしょ?螺○丸とか、千○とか?」
「何を言ってるんですか、みく?あれは漫画、つまり『空想』ですよ?」
「えっ、これみくが正される流れなの?」
「いいですか、みく。ニンジャというのですね‥‥」
どうやら攻守が交代したようですね。
今度はカリーニナさんが前川さんに忍者が何たるかを講義し始めました。
殆どの日本人たちが知らないような忍者の生まれた理由や流派やその特長について、所々ロシア語が混ざりながらも熱く語っています。
「聞いていますか、みく!」
「悪かったから!みくが、悪かったから!もう、許してよぉ!」
前川さんが助けを求めるような視線を向けてきました。
今日の予定は、346本社の場所を説明してアイドル寮に2人を送り届けるだけなので、時間的余裕は十二分にあります。
少しくらい長引いたとしても、チートを使ってしまえば業務はあらかた片づきますので無理して急ぐ必要もありません。
それよりも、今はこの2人がユニットを組むことが出来そうか等の相性の確認の方が優先されるでしょう。
決して、面白そうだから放置してみようと言う個人的な興味などではなく、シンデレラ・プロジェクトに携わるものとして、アイドル部門の係長として可能性を見極める必要が在るのです。
とりあえず、巻き込まれしまわないように気配を薄くしておきましょう。
「ネコニンジャなのに、そんなことも知らないなんて、立派なニンジャになれませんよ!」
「だから、みくは忍者じゃないんだってばぁ~~。
渡さんも見てないで助け‥‥って、いない!」
「さすが、
どうやら気配を薄くしすぎたみたいで、目の前に座っているのに気がつきません。
視覚的にも聴覚的にも認識されにくくなるこの『ステルス』は有能な能力ではあるのですが、いまいち加減が上手くいかないのが難点ですね。
探そうとして何処かに行かれても困るので、すぐさま解除しましょう。
「ここに居ますよ?」
「えっ、嘘!何で気づかなかったの!」
『
いつまでも空港の一画を占拠する訳にも行きませんし、そろそろ潮時という奴でしょうか。
時間も丁度いいですし、どこかでお昼でも食べながら続きを観賞させてもらうことにしましょう。
資料によると前川さんは魚が苦手なようです。ネコ=魚大好きというイメージがつき易いのに、何故自ら茨の道を進まんとするようなキャラ付けを選んだのでしょうか。
武内Pだから大丈夫でしょうが、これが九杜Pが担当だったりしたら魚市場でのロケやら、ギリギリ我慢できるレベルで魚関係の仕事を入れられるところでしょう。
それはさておき、この辺りで肉料理の美味しいお店があったでしょうか。
私も活動範囲が広い方ではないので、本社周りならいくつか候補をあげることが出来るのですが、あまり来る事が無い空港周辺のグルメ情報は少ないのです。
最悪、少し我慢してもらって本社周りで食べましょう。
「とりあえず、お昼になりますし、どこかで昼食を取ろうと思うのですが。
2人もお昼はまだですか?もし、リクエストがあるなら聞きますが」
「和食がいいです!」
「み、みくは、お魚よりもお肉のほうがいいです」
和食と肉、両方の条件を満たせるものは多いですが、ある程度選択の自由度を与えてあげたほうがいいでしょうから、専門店的な場所は避けるべきでしょうし、一応アイドルの先輩としての威厳を保ちたいのでファミレス等で済ませるのはなんか嫌です。
人間というのは、何歳になっても見栄を張りたい生物なのです。
「わかりました。この辺で済ませますか?
私は、この辺の店事情に明るくないので、本社近くならいい店があるのですが」
「みくは、まだ我慢できますから。そっちで大丈夫です」
『問題ありません』「大丈夫です」
2人共我慢できるとなれば、もうあそこしかありませんね。
あそこなら2人が満足できる料理を出してくれるはずです。いつもは夜にしか行きませんが、昼間もやっているらしいので大丈夫でしょう。
そうと決まれば、即行動です。空港を出て、駐車場へと向かい社用車に荷物を積み込み後部座席に2人を座らせます。
一応、私も自分の車を持っていないわけではないなのですが、買う際に趣味に走ってしまったため座席が足りません。
見稽古でプロドライバー達のテクニックを習得したからと調子に乗ってスポーツカーなんて買うのではなかったと今更ながら反省しています。
乗っていて楽しいですし、私の能力に十全に答えてくれるので最高の一言に尽きるのですが、千人近くの諭吉さんがお亡くなりになりました。
まあ、反省はしていますが後悔はしていませんので、幸せな愚痴というやつなのですが。
「シートベルトは締めました?」
『はい』
「ばっちりです」
「では、出発します」
新進気鋭、心が弾む、美味佳肴
シンデレラ・プロジェクトが本格始動しても、平和で穏やかに、それでいて楽しく過ごせそうですね。
○
妖精社、営業時間は10:00~15:00までお得なランチメニューもあり、お酒が飲めなくても来る価値はあります。
昼間という事でいつも見かける常連達の姿はなく、学生カップルやサラリーマン、OLといった違う顔ぶれで溢れており、いつも飲み騒ぐあの店と同じなのかと思いたくなるほど別の顔をしていました。
いつもの席が空いていたので、特に理由は無いのですがそこに座ります。
アイドル業や係長業務が忙しくなりつつある最近でも最低週2のペースで飲みに来ているので、何だか落ち着きすら感じられるようになりました。
私はランチメニューの中にあった『豚のしょうが焼き定食』をカリーニナさんは『肉じゃが定食』、前川さんは『ハンバーグセット』を頼みました。
ここのしょうが焼きはお酒にも合うのですが、ご飯にはもっと合います。
焼いた豚肉の香ばしさに、甘さと生姜の辛味が絶妙なタレ、そしてそれらを包み込むようなうまみ成分の塊である脂部分。タレと肉の旨味が絡まりながらも、歯に楽しいシャキシャキ感を残した香ばしいたまねぎ、見苦しくない程度に山盛りにされた千切りきゃべつも箸休めに丁度よく、また胃にも優しいです。
これを白いご飯と一緒にかきこんだ時の満足感といったら、表現するまでも無いでしょう。
考えていたら涎が垂れてしまいそうになりますが、後輩の前でみっともない姿を見せるわけにはいきませんから少しチートを使ってやわらかい表情を維持します。
2人の方はこういった居酒屋風のお店にはなれていない様で、いろいろ周りを見回して落ち着かない様子です。
「落ち着きませんか?」
「そ、そういうわけじゃ、ないんですけど」
「ここがニンジャの隠れ家ですね、『
まだ引きずっているんですね、忍者ネタ。
車の中でも色々とはなしていたようですが、若いだけあって話のネタに困らなくて羨ましいです。
大人になってしまうと話す前にネタの吟味をする必要があり、更に雰囲気とかを察した話題選びを強いられますから、カリーニナさんのように自由奔放な性格は素直に羨ましいと思います。
「ここって、マジアワで話題になってた隠れ家的な居酒屋ですか?あのファンたちが探しても見つけきれなかったっていう」
そういえば、あの特別回以降も何度かマジアワのゲストとして呼ばれた事もありましたし、1回だけではありますが進行役をしたこともあります。
その時のゲストは城ヶ崎 美嘉ちゃんで、物怖じしない性格で私に対してもあまり畏怖等の感情を抱いていなかったのでやりやすかったですね。
カリスマJKモデルと言われている彼女ですが、意外に純情で家族思いなところもあり、話してみると自分の妹が如何に可愛いかと自慢していました。
まあ、そんなこんなでマジアワに出ていたのですが、確か瑞樹と一緒にやった時に
リスナーからの質問メールに『川島さん、高垣さん、安部さん、七実さま、千川さんは大変仲がよろしくて、プライベートでよく飲みに行くと聞いたのですが、大体どれくらいの頻度で飲みに行かれるですか』といったものがありました。
流石に許可無く店名まで出すわけにいかなかったので、そこら辺はぼかして話したのですが、それがファンの探究心を擽ったのか店を探す人間が一定数いたのですが、結局
それゆえ、ファンの中では私達が飲む店は『幻の隠れ家』として呼ばれているらしいです。
「そう呼ばれているみたいですね」
「じゃあ、いつもここで皆さんがお酒を飲んでるんですね!」
「ええ、一応サインも置いてありますよ」
あの出禁事件の後、謝罪とお詫びを兼ねて私達全員のサインの色紙を贈らせてもらいました。
私達はともかく瑞樹や楓はトップアイドルの一員ですから、一応価値はあると思いますし、話題にもなるでしょうから。
飾られたサインを指差すと前川さんは興奮し始めました。誰かのファンなのでしょうか。
「アーニャちゃん!アーニャちゃん!見て見て、サインだよ!
あのメンバーの集合サインなんて、みく、はじめて見たよ!」
「みく、興奮してますね。誰かのファンなんですか?」
「このメンバーの中なら川島さんと渡さんかな。2人共、仕事に対するプロ意識が高くて一貫してて、カッコイイもん!」
目の前でファン宣言されるのは、少々こそばゆいものがありますね。
キラキラと目を輝かせて語る様子は、お世辞や媚を売るためのものではないとはっきりわかりますし。
プロ意識が高いといわれていますが、私は私に出来る仕事をしているだけなので、そんな大層なものは一切無いのですが、せっかくのファンの前で夢を壊すようなことはしたくありません。
とりあえず、後でサインでもしてあげましょう。
そんなこんなを考えていると、注文をしていた料理が届きました。
「では、いただきましょうか」
「はい」『はい』
「「「いただきます」」」
さて、この新人2人との関係について、昔読んだ青いラッコの出てくる漫画の言葉を少し変えて述べるのなら。
『彼女たちは嬉しそうにしている。どうなりたいんだろう。どうなりたくないんだろう』
後日、残りの地方選抜メンバーも無事合流したのですが、その中の1人である熊本から来たアイドル候補生の言動を見て、封印していた黒歴史が記憶の奥底から強制サルベージされ、自宅に帰って枕を抱えてベッドや床を転げまわる事になるのですが、それはまた別の話です。