小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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13話 : 犠牲

 

 

「木の葉への連絡は完了した」

 

「ありがとう。これでひとまずは落ち着ける」

 

「他の者は?」

 

「今は町の病院で治療中だ………しかし、長かった」

 

激戦が終わった後、メンマ達は負傷者の応急処置をしながら、網の本部へと向かった。本部にある連絡用の鳩を使い、木の葉側に連絡をするために。

 

飛雷神の術を使ってもよかったのだが、ここから木の葉までの距離を往復するのはとても疲れる。そして火遁・劫火螺旋球の後遺症か、メンマは右手に痛みを覚えていた。チャクラも回復しきっていない。

 

「くそ、手は料理人の命だっつーのに」

 

「ゆっくり休んでくれ。だが………本当に倒せたのか? 報告によると、丘のような巨大な化物が急に現れたとのことだが」

 

「………まあ、もう襲ってこないとだけ言っておこうか」

 

そう考えれば、倒したと言えなくもない。ザンゲツはメンマの遠回しな物言いに対し何事か感じ取ったようだが、追求はしなかった。

 

「そういえばお前、シンとサイには会ったのか?」

 

「いや、さっき会おうとしたんだけど………結構酷い怪我でな」

 

今は治療中で、この後に会う、と返す。シンは両腕を折られ、サイは胸から肩口にかけて斬り裂かれたらしい。治療はいのとサクラ、白が当たっている。メンマも、この報告が終われば本格的な治療を受けるつもりだった。

 

「まあともかく………無事に会えて良かったよ」

 

「先代から話には聞いていたが………まさか、あの二人がお前の友達とはな」

 

「おかしいか?」

 

「おかしいね。お前例の事件以降、誰ともかかわり合いになろうとしなかったじゃないか。先代が死んだあの事件でも、私たちからは一定の距離を置いていた」

 

「………それに関しては否定しない」

 

「自覚しているのか分からないが、お前は私の、ひいては網の恩人なんだ。だから幹部待遇で誘ったのに――――」

 

ザンゲツ――――紅音はそこまで言うと、「いや、よそう」と呟き、首を横に振った。

 

「そうしてくれ。まあ、シンとサイはあの事件の中で出会ったんだけどな」

 

「そうらしいな………それで、これからどうするつもりだ?」

 

「ああ、それは――――」

 

色々と今後の方針について話す。すると、ザンゲツは意外そうに呟いた。

 

「ほう、この機会にあの二人を霧隠れの方に戻すと?」

 

「五代目火影殿の意志でね。ほら、霧隠れの追い忍が殺されたから、その代わりとしてウタカタを霧隠れに送るんだ」

 

「………正気か? あの二人は霧の抜け忍だろう。確か先代水影………四代目水影の暗殺を謀り、失敗した後に里を抜けたと聞くが」

 

「ちょっとね。そのあたりは複雑な事情があるんだ」

 

表向きはそうなっている。水影暗殺を企んだのも事実といえば事実だ。だが、内実は少し違う。再不斬は“傀儡となっていた四代目水影”を暗殺しようとしたのだ。

 

うちはマダラの妨害により失敗したが、その事件が起きた時、水影ひいてはマダラの存在に感づいた者がいたのではないだろうか。事件の後、ほどなくして水影の代替りが行われていることから、その可能性は高いと思われる。切っ掛けとなった、再不斬の行動――――それが霧の上層部に取って、どう考えられているかによるが。

 

「深くは言えないけど、これは必要な処置なんだ――――今は水影、いや霧隠れの説得が最優先でね」

 

「………五影会談か。しかし、逆効果となる可能性もあるぞ」

 

「いや、それは無い。今回の角都と飛段を討ち取った功績をあの二人のものとするからね。それを手土産にすればいいんだ、あの二人は里に戻れるだろう」

 

SかSSランクの任務をこなし、かつ霧隠れの忍び達の仇を討ったという功績。一時抜けた里だが、裏でも表向きでも戻れるに足る功績と事情がある。戦力も欲しいだろうし、裏切りの可能性が無いと分かれば拒む理由もない。あの二人も承諾した。鬼鮫の首は取れなかったが、暁二人を倒したのだ。大名暗殺犯の捕縛と同程度の価値があるだろう。

 

「しかし功績をあの二人に渡す、というのは木の葉側の忍び達が承知せんだろう。幸い死者は出なかったようが、中々に苦しい戦闘だったと聞くが」

 

「そこは火影の意志だから、木の葉の忍び―――カカシ、キリハ達は納得すると思うよ」

下手すれば、いや下手しなくても戦争が起こるこの状況では、最悪の事態を防ぐために霧隠れとの相互理解が必要となる。両里とも、現状の深きを知って何が必要かが分からないほど暗愚ではない。

 

「………成程。それに、最近の霧隠れの里は他里との交流を促進したいと考えているらしいからな」

 

「悪名高い風習そのほか、全て先代の暴走のよるものだったんだろう………血霧の里のイメージを引きずりたくないんだろうなあ。今代の水影は2種の血継限界持ちらしいから、過去の因縁はほぼ断ち切られていると考えて良いだろうし」

 

そして血霧の里のイメージを消し去るには、他里との交流を復活すれば良いことだ。

 

「橋渡しするに足る人材………成程、適任だな」

 

砂隠れの風影、つまりは我愛羅を守る任務にも従事していたあの二人だ。橋渡しするに十分な人材と言える。メンマはあの二人がいなくなること、考えると少し寂しいが――――という言葉は飲み込んだ。女の前で弱音を吐くのは趣味じゃないと。

 

『ほう。つまり我は女ではないというのか?』

 

(いや、キューちゃんは特別だから)

 

特に問題は無いと言うと、キューちゃんが息を飲む音が聞こえた。

 

『………お主、自分の言葉を理解しているのか?』

 

(へ?)

 

『………もう、いい』

 

『いいの?』

 

『いい!』

 

何故か怒るキューちゃん。気を取り直してメンマはザンゲツとの会話を再開した。

 

「ふむ、全て承知の上か………いいだろう。私からも口添えはしておく」

 

「ありがたい。あと、借りたい場所があるんだが」

 

前おいて場所を告げると、ザンゲツは訝しげに訪ねてきた。

 

「一日だけなら構わんが………何故にその場所を?」

 

「紫苑の治療に必要なんだ。何なら紅音――――いや、今はザンゲツか。ザンゲツも来るといい。きっといいものが見れる」

 

「………悪戯を企む笑みだな。ふむ、ひとまずはその件、了解しておくが………期待は出来るんだろうな?」

 

難しい言葉を混ぜながらも、挑発的に笑う紅音。その笑顔は、無鉄砲だった昔のままだった。

 

「うちの自慢の居候が提供する一大イベントも兼ねているからな………見ないと絶対に後悔するぜ」

 

「成程、楽しみにしておこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ういっす。もう治療は済んだか?」

 

「あ、ナルトさん。はい、二人の治療は済みました。流石に骨折はすぐに直せないですが」

 

「いや、十分だよ」

 

「はい………あの、本当に良かったんですか?」

 

「ん、功績と霧隠れに戻る件のことか………いいと言うか、それが最善の選択だからね。俺だけの意志でもないし」

 

「でも、口添えはしてくれたんでしょう?」

 

「………それは、まあ」

 

「それなら、是非言わせて下さい………ありがとうございました」

 

メンマは花咲くような笑みを浮かべながら礼を言う白に一瞬だけ見惚れた。いや、いい笑顔で笑うようになったもんだと内心で呟きながら。

 

「最後まで一緒に戦えないのが心残りですが………」

 

「いや、戦うさ。そっちは霧隠れの内部で、こっちは対十尾に向けて………最終的に目指す所は一緒だから」

 

戦争をおこさせない、あの化物を止めるという目的に関しては同じだ。

 

「………目的を同じとする同志、というわけですね」

 

「そっちは霧隠れを優先する状況が増えるだろうけど………まあ、これで丸く収まるさ。

 それに帰るべき場所に帰れるんだ――――これ程嬉しいことは無いだろう」

 

「――――はい。ですがナルト………いや、メンマさんは何処に帰るんですか?」

 

その問い、返答するのに一瞬だけ言葉につまったが、自分は初志を貫徹するのみだと。メンマはそう言い聞かせた。

 

「こっちは根無し草の風来坊だからねえ………夢に向かってあちこちに流れるさ」

 

全部終わった後でね。

 

そう残し、メンマはシンとサイが居る部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「おお!!」

 

「ナルト!」

 

「おひさ~」

 

実に8年ぶりの再会………いや、変わってないな特に兄の方。お~心の友よ~、と言いあいながら抱き合いたかったが、両腕を骨折しているので自重した。

 

『ってそれたけしじゃん………』

 

そういえばあの兵法家じみた子供、どうしているだろうか。

 

「本当に久しぶりだな………まあ、噂には聞いていたけどよ」

 

「でも噂だけで、実際にはあえなかったけどね」

 

苦笑する兄弟。調子を少し落とし、聞きたかったことを口に出した。

 

「それで………紫苑は今どうしているんだ?」

 

「隠れ家から連れてきた。今はここにいる………ああ、来たようだ」

 

同時、入り口の扉が開いた。そこには、菊夜に連れられた紫苑の姿があった。二人が駆け寄る。

 

「紫苑!」

 

「おお、その声は!」

 

紫苑は耳に入ってきた声を聞き、喜びの顔を浮かべ―――

 

 

「………誰だったかの?」

 

 

―――首を傾げる。

 

 

シンが盛大にずっこけた。

 

「感動の再会なのにこんな仕打ち!? 俺だよ、シンだよ!」

 

「まあ、シンだし」

 

「まあ、兄さんだしね」

 

「まあ、シン君ですし」

 

致し方無しと頷く3人。

 

「つーか菊夜さんまで!?」

 

打ちひしがれるシンの声が部屋に響いた。

 

「ふふ、冗談じゃ………久しぶりだの」

 

このやり取りも懐かしい、と紫苑が笑みを浮かべた。

 

「そもそもお前のような人間を忘れられるはずが無いだろう」

 

「え、それはどういった方向で……いや、言わないで下さい」

 

「うむ、お主の想像に任せよう………しかし、怪我をしたと聞いたが大丈夫なのか?」

 

「ああ、治療は受けたからね。完治とまではいかないけど、一ヶ月もすれば治るよ」

 

「いやしかし、あのくのいち綺麗だった………白ちゃんだっけか。なあナルト、あの娘に告白したいんだけど、手伝ってくれないか?」

 

「どうしてもというのなら手伝ってもいいけど………ただし、真っ二つだぞ?」

 

夫の首切包丁が黙っちゃいねー、と言ってやるとシンは顔を青ざめさせた。

 

「あ、じゃあいいです」

 

「ふむ、久しぶりの再会だというのに、別の女の話をするとはの………相変わらずデリカシーのないやつじゃ」

 

「あ、そういえば噂で聞いたような。なんでも網のとある部署に、告白戦線50連敗した金髪の猛者がいるって」

 

「全て真実です」

 

「うん、駄目駄目ですねえ」

 

「………」

 

本格的に落ち込んだシンを放置し、メンマ達は話を続けた。紫苑の治療についてだ。

 

「え、光ヶ池でするの?」

 

「ああ」

 

ザンゲツの許可は取っていること、治療の内訳について説明をすると、成程と二人は頷いた。

 

「それなら、あの場所以外ないね………」

 

「他には誰が参加するの?」

 

「主催は多由也で―――他は俺、うちは兄弟、白、ももっち、フウ、ウタカタ、ホタルにザンゲツ、あとはこの面々と」

 

「木の葉の忍びは?」

 

「すぐに里に帰るらしい。里に所属する忍びがここ、網本部に長居するのは………危険だしな」

 

里に所属する忍びに対し、恨みをもつ者は少なくない。今回の木の葉側からの無理な要請もある。事情についてを公表できない以上、全員の理解を得るのは不可能だ。

 

『一部で暴走する者が出てもおかしくないしの』

 

『ん、耳が痛いね』

 

というものの、別に何処か………木の葉に限った話でもない。皆の考えが同じではないのは人の常だからして、派閥も生まれようもの。

 

「可能性ある以上、予防は必要だからね」

 

サイとシンも頷いた。どこにでも“やらかす”人間がいるということ、網に所属している二人ならばよく知っているだろう。ここが網の本部でなければ、また違った選択肢もとれるのだが。

 

「うん、複雑だけどそうするのが懸命だろうね………っと、そういえば他の木の葉の忍びは?」

 

「今は感動の再会ってところか。話があるから俺も今から行くけど………」

 

「妾はここにおるぞ」

 

「私も、木の葉の忍びと会うのは少し………」

 

あの事件と、イタチの境遇についてを知っている二人だ。

 

良い印象は持っていないのだろう。

 

(………そうだよな。少し無神経だったか)

 

メンマは二人にゴメンとだけ言葉を残し、シンだけを連れてキリハ達がいる病室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し離れた病室。そこでは、かつての7班が揃っていた。

 

「久しぶりだな、キリハ」

 

ベッドに横たわっているキリハに対し、サスケが言った。

 

「サスケ君………うん、久しぶり」

 

戦闘中はじっくり話はできなかったけど、とキリハは苦笑しながら返す。

 

「それにしてもサスケ君………何か、変わったわ」

 

隣にいるサクラがサスケの顔をまじまじと見ながら、言う。

 

「お前の兄の―――“おかげ”というべきか、“せい”というべきか」

 

どちらなのかは悩むところだがな、とサスケは苦笑する。

 

「腕も、上げたようだしね………師匠は誰が?」

 

「全体の方針を決めたのはマダオ師だ」

 

「マダオ師?」

 

「ああ、ほら、えっと…………なんだっけか……………………………………そうだ、四代目火影だ!」

 

ようやく思い出せた、とサスケが額の汗をぬぐう。

 

「え、なんでマダオ? 本名は波風ミナトなのに」

 

「そういえば何でマダオと………言いやすいから使ってたけど」

 

マダオの意味とはなんだろうと、首を傾げて悩むサスケであった。

 

「まあいいか。しかし先生の修行を受けたとはね………かな~り、厳しかったでしょ」

 

カカシは目を細めて笑った。

 

「ああ。普通に笑顔で、鬼のような修行内容を告げてきたな」

 

極めて合理的だったけど、と言いながらも、サスケは厳しい修行を思い出したせいか、遠い目をした。

 

「あの笑顔はねえ………」

 

昔を思い出したカカシも、遠い目になる。

 

「そうなるとカカシ先生とサスケ君………兄弟弟子になるんだね」

 

「………」

 

「こらこら無言で落ち込まない。何でそんな顔するかな」

 

「あの雨の日、ずぶ濡れになりながら待ち続けた4時間………」

 

写輪眼が回りだすサスケ。右手ではチチチチと鳥が鳴いていた。

 

「あ、私も思い出したら………何故かチャクラが吹き上がってくるよ………?」

 

と、腕を振り出すサクラ。

 

「そうだよね、あれは無いよねほんとに………」

 

と、掌をかざすキリハ。

 

「………」

 

今度はカカシが無言になる。額からは冷や汗が出ていた。

 

「ま、まあそれは置いて! その腰の刀ってかなりの業物だなあ!」

 

ははは、とカカシが話の方向を転換した。命の危険を感じたようだ。

 

「ああ、これか。これはキリハの………その耳飾りと一緒に用立てたらしい」

 

「そうなんだ………」

 

風が封じ込められたという耳飾りを触りながら、キリハは嬉しそうに頷いた。

 

「そういえばキリハ、あんたその耳飾りが無かったら、どうなっていたか分からないわよ」

 

あの時、キリハは反射的に弱いながらも風を生み出し、わずかに雷遁の軌道を変えたのだった。あれが無ければ直撃し、神経諸共焼かれていたかもしれないと治療にあたったサクラが説明をする。

 

「シカマルも本望だろうよ………その耳飾りが役割を果たせて」

 

「………え?」

 

どういうこと、とキリハがサスケにたずねる。

 

「いや、どういうことも何も………その耳飾りはシカマルからの依頼でナルトが用意したものだぞ。知らなかったのか?」

 

「えええ!? だってシカマル君、“これはお前の兄貴から”だって言って………!」

 

キリハの言葉を聞いたサスケが、サクラとアイコンタクト。

 

(どういうことだ?)

 

(かくがくしかじかしゃーんなろ)

 

(シカマル………無茶しやがって)

 

あまりのシカマルの男っぷりに、サスケをもってしても泣かざるをえない。

さぞそれを聞かされた時のキリハは綺麗な笑みを浮かべていたんだろう。今更撤回はできないということか。

 

「キリハ………確かに用意したのはナルトだが、依頼したのはシカマルだ……いわば二人からの贈り物となる」

 

「そうなんだ………」

 

キリハは耳飾りを触りながら、なぜだか顔を赤くした。何かを思い出したらしい。

 

「………そういえばあの時、後方でなにかあったと聞いたが」

 

割と空気の読めないサスケがすかさず突っ込むと、キリハの顔が真っ赤になった。

 

「う、ううん、何もないよ何もなかったから!」

 

「いや、しかしシカマルが出血多量だと………」

 

「何もない!」

 

叫んだあと、キリハは布団にくるまり顔を隠した。

 

(………いったい何が?)

 

(かくがくしかじか私の拳で記憶を失えー)

 

(………ふむ、あの鮮血の裏にはそんな事情が)

 

確かに嫌な事件だ、とサスケは目を伏せた。

 

(でも、俺も少しだけど見えたんだよなあの時………と、これは黙っておこう。何故かカカシから殺気が出てるし)

 

口は災いのもとだ。赤毛の同居人で積んだ経験値を活かし、サスケは沈黙を金とした。

 

「そういえばあの赤毛の………中忍試験で会ったよね、音の忍びだったっけ? 多由也って娘はなんでサスケ君と一緒にいたのかな」

 

サクラは何でもないように取り繕いながら、ライバルになりそうな人物の詳細を尋ねた。目は光っていたが。

 

「ああ、木の葉崩しの少し後にな。大蛇丸に施されていた洗脳が解けて………その後、音を抜けようとしたところを、ナルトが助けたんだ」

 

「サスケ君とはどういう関係?」

 

「………どういう関係と言われてもな。まあ、その………なんだ」

 

サスケは視線を少し上げ、頬をぽりぽりと掻いた。

 

答えに詰まっているようだ。

 

 

そこに部屋の表で待っているはずの多由也が現れた。

 

 

「おいサスケ、今から話しをするらしいから皆集まれって………な、何だよ」

 

何でじろじろが見るんだよ、と多由也がたじろぎながら言った。

 

「じ~」

 

「何だピンク野郎。ウチの顔に文句でもあるのか」

 

「………あるといえばあるわね」

 

サクラは視線を多由也の胸に集中させながら、言う。

 

「ど、何処見てやがる!?」

 

「………モイデモイイ?」

 

「何を言ってやがる!?」

 

「そういえば白ちゃんと多由也ちゃんと………キューちゃんは、前に温泉で一緒になったよねー」

 

とても大きかったよ、と復活したキリハが昔あった出来事を伝えた。キリハの言葉、その一部分に対し、サクラは激しく反応する。

 

「温泉………ということは婚前旅行!? サスケ君と婚前旅行なの!? ていうか何で鼻を抑えてるのサスケ君!?」

 

見ればサスケは顔を真っ赤にしながら、鼻を抑えていた。

 

「っ、てめえ………もしかしてあの時の声を聞いてやがったのか!?」

 

同じく多由也も顔を真っ赤にし、胸を抑えながらサスケに詰め寄った。

 

「い、いや、っておいさり気なく逃げんな! 助けろカカシ!」

 

「いやー、先生ちょっと自分を見つめ直す旅に出てくるよ」

 

人生に迷っちゃったから、と背中を煤けさせるカカシ上忍。彼女いない歴=年齢の三十路は「探さないで下さい」とだけ言い残し、部屋を出て行った。

 

「サスケ君!?」

 

「サスケ!」

 

「い、いやちょっとま………」

 

混沌とする病室。そこに、新たなる乱入者が参上した。

 

「何を騒いでるんだー」

 

「サスケ、話しがあるんだが………」

 

ナルトとイタチ。

 

そしてシンは、多由也を指差しながら驚いた。

 

「おいっす! 元気ですか………ってああ、君が噂の!」

 

「な、なんだよ金髪ヤロー」

 

「祭りに居た、噂の赤髪美少女!」

 

「………巷、噂、美少女?」

 

誰のことだ、と多由也が訝しげにシンの方を見る。

 

「いや、ね。網の花火職人の間で一時期噂になってたんだよ。すげー可愛い着物美少女二人組が、辺境の村の祭りに現れたって」

 

そういえば写真も出まわってたなあ、とシンが言うと、サスケが顔色を蒼くした。

 

「赤髪と………黒髪だと?」

 

「うん。あとはヤクザとお嬢がいてね………ってこれはまた別だったか」

 

そこでサスケは悟る。黒髪、しかし白ではないということは、あの時の祭りの時の光景が―――女装させられていた時のあれが、写真に撮られていたのだと。

 

「そしてその写真はここにあります」

 

聞かせてもらったからには仕方ないと、メンマが写真を取り出した。そして手早く配布し始める。

 

「号外~、号外~」

 

一人一枚、写真が行き届き――――多由也とナルトを除く皆の視線がサスケに集中する。

 

「「サスケ君………」」

 

元班員の二人は何故か顔を赤らめていた。これはこれで………と呟く木の葉の忍びの明日はどっちだ。

 

「まさかそんな趣味が………」

 

しかしこの赤髪のねーちゃんは良い乳してんなあ、とシンが呟きながら、多由也の方を見た。間もなく「このクソねずみが!」とぶっ飛ばされたのだが。

 

「サスケ………」

 

イタチさんはサスケと写真を見比べながら、凄い悲しそうな表情を浮かべた。しかし母さんに似ているな、と呟るあたり、心中かなり複雑なようだ。

 

そして、メンマは残念そうな顔をしていた。

 

 

「サスケェ…………」

 

 

「って、お前が全部仕組んだんだろうが!」

 

 

鞘付き雷文でぶんぶんとメンマに殴りかかるサスケ。それを笑いながら躱すメンマ。

そこに、新たに乱入者が現れた。

 

霧隠れの鬼人。苦労人にクラスチェンジした彼は、二人の首根っこを引っ掴んで怒鳴りつけた。

 

「招集かけたのに、遅刻するんじゃねえ!」

 

意外と時間に厳しい桃地さんが繰り出した拳骨は二つ。

 

ゴチンという鈍い音が全員の耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、だ。いい加減真面目にやるぞ………」

 

「「はい……」」

 

待たされた再不斬、額に青筋を浮かべながら低い声で元凶の二人に一喝する。二人の頭にはたんこぶが浮かんでいた。今この場には全ての事情を知らされた者たち………メンマチームとカカシ、イタチが揃っていた。

 

「今までの状況は整理したな?」

 

「ああ………しかし、十尾か」

 

俄には信じがたいな、とカカシが呟く。

 

「その時代から何百年、あるいはそれ以上の時間が経っているしな………千手の方にも、正確な口伝は残っていないと聞いた」

 

初代火影、仙人の肉体を正しく受け継いた彼だけが一端を理解し、対処する手を打てたのだろう。

 

「証拠はあの化物と、動き回る死体人形達だけだ。あんな芸当をやれるのは一人しかいない」

 

「六道仙人、か………それに、あの化物の力は確かに桁外れだったね」

 

「うちはマダラも殺されました。誰より強い瞳力を持っているでしょう」

 

「………そうか」

 

カカシはイタチを見ながら、複雑な表情を浮かべた。写輪眼はカカシにとっても深い関係のある眼。その一連の事件について、木の葉の忍びでもあるカカシはどう思っているのだろうか。色々と二人で過去の話や木の葉上層部などを話しあったらしいが、その内容についてはナルトも知らなかった。

 

「しかし、うちはマダラ――――無限月読か。先生はどう思われますか?」

 

カカシにしては珍しい敬語を使い、かつての師に可能かどうかを訪ねる。

 

「確かに、十尾から生み出されるチャクラがあれば可能かもしれない。だけど救われる人は限られるし―――」

 

と、マダオは紫苑が居る部屋の方をちらりと見る。

 

「所詮は夢の事。人間ならば夢だけでなく現実を見据えなきゃね」

 

死人の僕が言うのもなんだけど、とマダオが苦笑する。その顔には憂いの色が濃い。メンマだけがその表情に違和感を覚えたが、その場では黙り込んだ。

 

補足するように、カカシが溜息をつく。

 

「争いのない世界か。確かに理想郷――――ユートピアと言えるかもね。でも、そんなのに意味は………?」

 

 

カカシはその時、4人の額に青筋が浮かぶのを見た。

 

ぶちり、と何かが切れる音と一緒に。

 

「あの、先生? サスケも、何でそんなに怖い顔を。それに今の音は………?」

 

無表情で「NGワード、NGワード」を連呼するメンマ、サスケ、マダオ、再不斬。トラウマを持つ4人が身を踊らせてカカシに殴りかかった。

 

「ちょ、ちょっと待ってアッ―――!?」

 

カカシの断末魔が部屋の中に響き渡った。全てを見ていた二人は、争いというものの虚しさを語った。

 

「嫌な事件でしたね………」

 

白が鎮痛な面持ちで呟く。多由也はそのワードの元凶であるからして、また過去の光景を思い出したせいで、白の横で顔を真っ赤にしながらうつむいていた。

 

イタチは突然の展開に驚き、固まっていた。

 

 

「カカシは犠牲になったのじゃ………あの事件のな」

 

 

キューちゃんのしみじみとした声が、大気を虚しく震わせた。

 

 

 

 


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