小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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ていうか設定間違えてました………orz



10話 : 乱戦

「これで完了、か」

 

工事が終り、整えられた道を見ながらウタカタは感慨深げに息を吐いた。着工からかなりの時間を要して出来上がった道。ひとつの者を作り上げるのはこんなに難しく労力の要る作業なのだと、ウタカタは今回経験して初めて知った。

 

「ほらよ、ウタカタ」

 

「………確かに」

 

給料袋を受けとったウタカタは中身を確認した後、驚いた表情を浮かべる。

 

「少し多くないですか?」

 

「何、働きに見あってのことだ。随分と助かったよ」

 

いいから受けとんな、と親方は笑った。ウタカタは分かりましたと頷き、給料懐を袋を入れ、もう一度自分が作ったものを見届けると、踵を返した。

 

そのまま、森の外へと抜けようと、ウタカタは歩を進める。出口で木の葉の護衛が待っているのだ。あとは護衛と一緒に霧隠れに戻るだけ。

 

ウタカタは今回稼いだ金あのラーメン屋にでラーメンの代金を返したいと思っていたが、どうやら見つからないようで、代わりにとシンに預けることとなった。霧隠れの部隊も壊滅したと聞くし、これ以上火の国にとどまることはできない。

 

「ようやく、か………ん?」

 

出口にさしかかったとき、その場にいる者たちの顔を見たウタカタは顔をしかめた。木の葉の護衛と、網の護衛は分かる。何もおかしくはない。だが混じって一人、どう見ても子供にしか見えない人物がいるではないか。

 

「………ついてくるなと言ったのに」

 

あれだけ言ったにも関わらず、とウタカタは思わず頭を抱えてしまった。

 

「ウタカタさん………」

 

「ホタル………今朝、言っただろうが」

 

「ですが………ウタカタさんはやっぱり、霧へ帰るんですか?」

 

「まあな」

 

「えっと、あと一日だけ………そうだ、この近くに、夜に蛍が飛び交う素敵な場所があるんですよ」

 

「………ありがたいが、もう限界なんでな。これ以上ここには留まれない。迷惑をかけることになる」

 

「そんな………」

 

「心配するな。いずれ、遊びにこれたら遊びにくるさ」

 

「それは………本当ですか?」

 

嘘だ。だけど、こうでも言わなければ引き下がるまいと、ウタカタは嘘をついた。

 

「ああ。だから、待っていろ」

 

「………はい」

 

しょんぼりとうつむく少女。一同は彼女を置いて、その場を後にした。

 

そうして歩き、遠ざかってからウタカタは一度だけ振り返った。

 

「ん………あの、馬鹿」

 

見れば、少女は小さな身体、その全身を使いこちらに向けて手を振っていた。

 

 

「健気だ、ね」

 

少し悲しそうに、キリハが呟く。

 

「………言うな。アンタ方も気づいているんだろうが」

 

「そうだね………急ごうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、一同は山の上へと登っていく。木の葉の忍びが8名に、網の忍びが2名。

そして、ウタカタ。11人は二手に分かれながら、それぞれの方向へと歩いていく。

 

「ったく………すげえ血臭だぜ」

 

キバが顔をしかめながら、“この先にいるであろう人物に向けて”呟いた。

 

「しかし、途中で襲って来ると思ってましたよ待ってくれるとは、違い随分と人道的な忍びじゃないですか」

 

「事情があるんだろうよ。一般人を巻き込まない事情とやらが、な」

 

「それを知っていると?」

 

「知りたくはなかったけどな………そろそろだぜ」

 

「どうやら問答無用のようだ。何故ならば、こちらの方に殺気を向けている」

 

「くう~ん」

 

「びびるな、赤丸。一歩退けば相手の殺気に呑み込まれるぞ」

 

 

「………確認。暁のコートを着た忍び二人と、他4人が接近中。方向、このまま。距離…………っ、急速に接近、接敵までおよそ30秒!」

 

 

「ようやく来たね………!」

 

「俺とサイはウタカタの護衛に回る……………頼んだぜ、シカマル」

 

「お前こそしくじるなよ、シン。こっちもな………めんどくせーけど、やるしかない」

 

そうして、シカマルは全員に指示を飛ばす。

 

「シノ、サイは俺と一緒にあっちの銀髪の方をやる! キバはいの、シンと一緒に、横にいる二人を相手にしてくれ!」

 

「「「了解!」」」

 

「サクラちゃんとチョウジ君も周りの方を! ヒナタちゃんは私と一緒にもう一人の暁の方をやるよ!」

 

「「「分かったわ(よ)!」」

 

「俺は何もせずとも良いのか?」

 

「俺達を巻き込まない自信があるか?」

 

「無いな」

 

「なら一定の距離をとっていてくれ。できるなら逃げて欲しいが、伏兵が怖い」

 

「………分かった」

 

「みんな、無理はするな………っても無理か。手はず通りにやるぞ――――散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり気づかれてるぜ、角都よ」

 

「日向の白眼と犬塚の鼻、油女の蟲だからな。それは仕方ないが………ふん。奇襲のリスクを抱えて逃げるより、先ににこちらの動きを封じ込める気か。身の程知らずが」

 

「なあ、殺していいんだよな?」

 

「人柱力以外は殺して構わん。死体を傷つけすぎるなよ。死体屋に高く売れるかもしれんからな。お前が死なん程度で、どうにかしろ」

 

「それをよりによって俺にいうかよ……ちっ、面倒くせえな」

 

「我慢しろ。木の葉の忍びは金になるからな………あと、“あれ”の使いどころを間違うなよ」

 

飛段は自分の指輪をこつこつと叩きながら、角都に忠告をする。

 

「はっ、わーってるって。霧のクソ共でコツは掴めたからな………っとお、見えた!」

 

そうして二人は、前方に木の葉の忍びを確認する。

 

「数は………11か」

 

多いな、と呟いた後、角都は隣の飛段にいつも通りの言葉をかける。

 

「死ぬなよ、飛段」

 

「へっ………だから、それを俺にいうかよ角都!」

 

叫びながら飛段は走る速度を更に上げ、突っ込む。

 

「ヒャぁ!」

 

そして、手に持つ鎌をぶん回す。胴をなぐ一撃。

 

「くっ!」

 

「問答無用かよっ!」

 

 

間合いの中にいたシノ、キバが鎌をさけるべく跳躍する。

 

「行け」

 

角都は控えている人形へと命令。敵方に向けて散開させる。

 

「はっ!」

 

その一瞬の隙を狙い、ヒナタが角都の懐へと入り込む。

 

(白眼、日向、柔拳か!)

 

角都は踏み込んでくる相手を見極めると同時、戦術を選択。迫る掌打を受け止めずに、掌で横へと逸らしながらヒナタの側面へと回りこもうとする、が。

 

「させない!」

 

ヒナタは放った掌打を懐へと戻すと共に身体の向きを修正し、再び角都を正面に捉えた。敵の情報は知らされていた。ヒナタは自分の柔拳を以てすれば、心臓を貫かずに止められるかもしれないと、そう考えての接近戦。

 

角都はその戦術と相手の意図を数秒で看破した。80年を生きた古強者で、体術にも死角はない。側面に回ると同時に放った蹴りが、ヒナタの側頭部へと飛ぶ。ヒナタは出しかけた掌を止め、防御へと腕を回し、蹴りとは逆の方向へ重心を移動した。

 

「くっ!?」

 

ガードした上から伝わる、予想外の衝撃にヒナタは驚きの声を上げる。まるで石のように堅かったからだ。衝撃を殺していなければ、腕を痛めていたかもしれない程に。

 

(これが、例の……!)

 

土遁・土矛。身体を硬化して、攻撃力・防御力を高める術だ。

 

(……もらった!)

 

痛みに動きを硬直させるヒナタ。そこに、角都が追撃をしかけるが―――横から邪魔が入る。

 

「ヒナタちゃん、下がって!」

 

追撃をしかけようとする角都に向け、キリハがクナイを投擲。普通のクナイならば、自分の防御は破れない。角都は迫り来るクナイを一瞥しながら、クナイを硬化した皮膚で受けつつ、追撃を続けようとする。だがクナイの外郭を覆うチャクラを見ぬき、側面へと転がった。

 

(飛燕か……!)

 

石をも貫く風のクナイ。まともに受ければ貫かれるだろうと判断した角都は、回避を選択。そのまま転がりつつけ、ヒナタとキリハから距離を取ろうとする。

 

「させないっ!」

 

キリハは遠距離戦をするつもりはなかった。角都は一線級の上忍でも有り得ない、複数の系統の忍術を使いこなす相手だ。術勝負を挑んでも勝ち目はないということを理解していた。

 

故の接近戦。キリハは飛燕をまとわせたクナイを手に、瞬身の術を使い、一気に距離を詰める。近接し、角都の心臓目掛けクナイを突き出した。

 

「早いが、それだけだ!」

 

だが角都、その行動を予想していたとばかりに、クナイの一撃を受け流す。同時に、キリハの腹へと拳を叩き込む。

 

「くっ?!」

 

キリハが苦悶の声を上げる。すんでのところでガードはできたが、硬い拳による一撃なのでダメージは零ではない。痛みもあるため、思わず声に出てしまう。だが、キリハもそれだけでは終わらない。拳の威力に押され後方に吹き飛ばされながらも、左手でクナイを取り出し、持っていたクナイと一緒に投擲すると、術の印を組んだ。

 

「風遁・烈風掌!」

 

手と手を合わせる柏手。直後、爆風が発生した。追い風により加速したクナイが、角都の心臓目掛けて飛んでいく。

 

「くっ!」

 

角都はそれを躱しきれず、腕と頬に掠り傷を負う。切り裂かれた傷から赤い血がにじみ出て、地面へと滴り落ちたが、それを無視して今の攻防で得た情報から敵手の特性を分析していた。

 

(中々やる………戦術もタイミングも見事。それに、日向の娘のを前面に出して来たということは………こちらの情報は筒抜けか)

 

柔拳ならば、土遁・土矛の硬度も無意味。あちらの金髪の娘の方もそうだ。あのレベルの飛燕を相手にするのは分が悪い。

 

(ならば遠距離戦で………ん、日向の娘が前方に? ………そうか、回天を盾にして……!)

 

絶対防御とも呼ばれる回天を盾にしながら、機を見て近接、格闘戦へと引きずり込む。

 

(金髪の娘の方は速度………瞬身で一気か、クナイで防御を貫く気か)

 

受けながら近接するか、躱しきって近接するか。どちらにせよ遠距離戦に付き合う気はないらしい。

 

(七尾捕獲の際に邪魔をした男………ふん、情報がもれているか。だが、どうということはない)

 

角都は前方の警戒を怠らないまま、横目で人形と他の忍びとの戦闘を確認する。

 

(それなりに張ってはいるが、分が悪いか………ふん、いざとなればアレを使う必要がでてくるか)

 

戦況を把握。そして戦術を理解した角都は、相手の望む形になろうとも、それでも自らの得手を選ぶ。

 

 

 

秘伝忍術・地怨虞。体内より出でた黒い触手を自在に操り、また忍びの心臓を取り込むことによって、基本5大性質の忍術を行使することができる禁術。角都が里の上役を殺したあの日からずっと、彼自身を支えてきた術だ。

 

ヒナタは角都の表情とチャクラを白眼で観察する。

 

その後、後ろにいるキリハに小声で話す。

 

(………恐ろしいね。こっちの狙いは全て読み切られてる)

 

(それでも、曲げないか………余程あの術に信頼を置いているみたいだね)

 

(うん………あるいは、こう言っているのかも)

 

(………?)

 

(“小賢しい戦術ごと、吹き飛ばしてやる”って。チャクラもそう言ってるよ)

 

(たしかにね………)

 

一筋縄ではいかない相手だと。キリハとヒナタの二人は、戦う前にシカマルから角都のことを聞かされてはいた。その時も“厄介な敵だな”と思っていたが、実際に対峙してみるとまた違う感想を持った。80年を生きた、歴戦の古強者。いわば忍び歴史とも言える角都の強さを垣間見た二人は、自らの身体に走る恐怖感を隠せないでいた。

 

(………厄介どころじゃない)

 

(厄災そのものだね………っ、来る!)

 

飛段の手元、高速で印が組まれ――――結の印が結ばれる。同時、ヒナタは全身からチャクラを噴出した。

 

「雷遁・偽暗」

 

それを見届けないまま、角都は術を発動。角都の肩に現れた仮面。そこから、雷の槍が吹き出す。

 

 

「――――八卦掌・回天!」

 

 

雷槍とチャクラの盾。両者はぶつかり、勢い良く粉塵を巻き上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、んだぁこれは!?」

 

飛段は自分の周りを飛び交っている奇妙なものを指差し、嫌そうに声をあげる。蟲の群れと墨で出来た獣。愛用の鎌で切っても切っても、一切手応えがない。

 

「鬱陶しいんだよ!」

 

飛段は鎌を振り回して切払い、目の前にいたシノへと襲いかかる。

 

「………っ!?」

 

「まずは一匹ィ!」

 

袈裟懸け一閃。鎌はシノの身体を切り裂き、二つに分断した………かに思われた。

 

「あん、蟲ぃ!?」

 

シノの蟲分身。本体は樹の上に避難していたのだ。斬られた蟲達はばらばらに飛散し、飛段の周りに殺到する。飛段のチャクラを奪おうというのだ。蟲にたかられた飛段は即座にその場から飛び退き、襲い来る蟲達を再び鎌で再び振り払う。

 

「へっ、捕まらねえよ………っとお!?」

 

蟲に集中している飛段、その側面から今度は墨の化物が襲いかかる。それは墨の狼。

サイの超獣偽画によって描かれた獣が、飛段の首筋を引き裂かんと跳躍する。

 

「くらうかっ!」

 

飛段はそれをも切り裂き、一端距離を開ける。

 

(くそっ、手応えの無いやつらばかりかよ………七尾の人柱力から俺の力について聞いてんのかあ?!)

 

遠距離限定で戦術を展開してくる相手に、飛段は苛立をつのらせる。もっと引き裂きたいのだ。もっと切り裂きたいのだ。もっと無残に殺さなければ、ジャシン様は認めてくれない。それに、これではだめだ。

 

(蟲とか墨じゃなくてよお! 人間をぶち殺さなけりゃあ意味がねえ)

 

清廉とした黒ではなく、鉄の臭いを漂わせるどす黒い赤をぶちまけなければ、信仰心は満たされない。飛段はそう思っていた。だが彼の信仰に反し、敵は距離を保ったまま近づいてこようともしない。

 

再び、蟲と墨、黒色の有象無象が飛段に襲いかかった。

 

「無駄だっつんてんだろうが!」

 

鎌を二閃、三閃。先程と同じように切払われ、蟲は散らされ、墨は形を失い地面に落ちて行く。

 

「こんなんじゃ俺は…………!?」

 

倒せない。そう続けようとした飛段だが、腹に感じた違和感に顔をしかめた。

 

「………ってーなこの野郎」

 

腹に感じた違和感。それを飛段は理解する。墨が落ちた地面から黒の刺が突きでていて―――――それが、自分を貫いたのだ。

 

「―――秘術・影縫い」

 

飛段から遠く、離れた距離でシカマルは呟く。そして飛段の様子を観察し、顔を僅かにしかめた。

 

(肝臓、脾臓を貫いても全く効果無し…………俄には信じ難かったけど、不死ってーのは本当みてーだな)

 

一方、貫かれた飛段は痛みに顔をしかめるでもなく、ただそこにつったっているだけ。腹に突き刺さった影を切払い、笑い声を上げるだけだった。

 

(………サイの超獣偽画と俺の影で牽制して、シノの蟲でしとめる。最初の作戦通りに進めるしかない)

 

あわよくば、と思っていたが、どうやらそんなに簡単じゃないみたいだ。見せつけられた飛段の不死っぷりに、シカマルは思わず溜息をついてしまう。

 

「へっ、墨に紛れて、か。でもこんなんじゃ俺は殺せねー、よ!」

 

急所を貫かれたというのに、飛段はまったく頓着せずに手の鎌を振り回す。常人ならば即死している程の傷なのだが、動きが衰えた様子もないようだ。

 

「痛覚が無いのか、テメーは!」

 

「見れば分かるだろうが。腹あ突き破りやがって、スーパー激痛だクソヤローが!」

 

「なら大人しく死んでくれよ頼むから」

 

頭を抱えながら、シカマルがぼやく。

 

「問題はない。何故ならば、こいつはすぐに動けなくなるからだ」

 

シカマルの後方にいるシノが、再度蟲を展開する。

 

「いくら身体が不死であろうとも、チャクラが無ければ何もできないだろう………そのチャクラ、喰らい尽くす」

 

サイも、新たな墨の獣を展開し、周囲に配置する。

 

「牽制とはいえ、僕も忘れないで下さいね」

 

「………あんがとよ」

 

頼もしい味方の言葉を受けてシカマルは立ち上がり、飛段を睨む。

 

(………行くか。影真似で動きを止めて、シノの蟲で片をつける)

 

飛段の体術の腕前は暁の中でも一番下らしいが、所詮は上忍クラス。例えばリーのような体術特化型ならば、この3人では勝てないだろう。瞬時に距離を詰められ、やられてしまう。

 

(その点、飛段の速度はそれほどでもない。十分対処できる範囲だ。3対1なら、勝てる)

 

耐久力と不死性、それと対象に自らの傷を移す呪術、“死司憑血”は確かに恐ろしいが、事前情報があれば打つ手はいくらでもある。戦術を練る機会もあったし、勝つために必要な駒もある。これで負ける程、シカマルは頭が悪くはなかった。角都のような能力を相手にするならばまた状況は難しくなっただろうが、飛段の能力には穴がある。

 

(いける―――やれる………が、あとひとつ)

 

問題となる部分をシカマルは確認する。

 

「………で、どうする? あっちも派手にやってるようだけど、助けを呼ばねえのか?」

爆音が聞こえてくる方向、キリハとヒナタが角都を相手にしている方向を指しながら、シカマルは飛段に聞いてみる。合流されれば厄介なことになる。その意志があるかどうかを確認し、合流するならば妨害しようと思ったが―――

 

「はっ、呼ばねーよ。おまえらごとき、俺だけで十分だっつ-の」

 

「………そりゃまた、強気なことで」

 

どうやらそのつもりはないようだ。シカマルは肩を竦めながら、内心でほくそ笑う。

飛段の能力、誰かと連携を取られるのが一番厄介なのだ。乱戦になれば、傷を負う者は必ず出てくる。そうなれば、必ず誰かが死ぬ。だが今のような、距離を開けての打合いならば、そうはならない。確実に勝てるはずだ。

 

「………何か考えてやがんな。ま、大体のところは分かるけどよ」

 

飛段は地面を染めている墨を見ながら、先程の自分の腹を突き破った影の槍を思い出した。

 

(あれが影を使う秘術。ということは、影縛りって術もあるか………)

 

後衛の墨で牽制しながら、前方の影でこちらの動きを止める。その後、最後衛の蟲使いが蟲を展開させ、チャクラを食らいつくす。

 

(こっちの弱点見極めて、最善の策を取ってきやがる………クソ、面倒くせえ!)

 

苛立を心に含ませながら、飛段は標的へと距離を詰めるべく、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、いの、シン、キバの方は決着がつこうとしていた。術を行使する人形、耐久力もあるし高い筋力も保持している。だが、木の葉の面々は以前の襲撃の際、この人形と戦ったことがあった。一度戦った相手に負けるほど、木の葉の忍びは弱卒揃いではない。

 

シンは得意の体術で相手の攻撃を撃ち落としながら、着実にダメージを与えていた。忍術の才能でいえば弟に遠く及ばない彼だが、チャクラのコントロールと体術の練度にかけては弟のはるか上をいく。かつては捨てられた才能。だがそれが故に、彼は強く成った。

“こなくそ”という、土台となる想いの上に積み上げた努力。そして夢のため、鍛えに鍛えた体術の冴えは、努力の天才、ロック・リーに勝るとも劣らない。

 

才能がない―――それがどうした。

 

特殊な術も使えない――――ならば拳がある。

 

シンも、紫苑に関する記憶は封じられていた。だがメンマと同じく、あの時の無念の気持ちは絶えず胸の隅に残り続けた。血反吐を吐いても立ち上がり、笑って相手に立ち向かう―――いつかのどこかで聞いた、物語に習って、彼は拳を突き出した。

 

吹き飛び、態勢を崩す人形。シンはその隙に追撃をしかける。

 

「あらよっ!」

 

懐に入り込み、顎を力いっぱい蹴り上げた。人形が宙を舞う――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのすぐ傍、いのはもう一人の人形の方を相手にしていた。人形は間合いに入ったいのに対し、火遁術を放つ。

 

「甘い!」

 

いのは近くにある樹を盾にしながら、人形が放つ火遁術を凌ぎきる。

そして、感じた。

 

(………思念は微かに残っているようだけど、積極的な思考は感じられない。そんな奴にっ!)

 

間髪入れずに放たれた術。いのは危険を承知の上で跳躍し、その術の効果範囲ぎりぎりの場所に突っ込んで行く。太ももと右の横腹をわずかにかすめ、痛覚が走る。

 

だが、いのは構わず駆け抜けた。

 

「そんな消極的男児にぃ!」

 

全速で前進。一歩ふみこむ度に、地面がわずかにえぐれる。その勢いのまま、いのは一歩踏み込み―――――そして、拳を突き出す。

 

「負けるような――――」

 

タイミングも動作も完璧。術の範囲を見切りながら前進、間合いに入り、攻撃直後に硬直している人形の隙をつく。

 

「――――いの様じゃないのよっ!」

 

怪力のアッパーカットが、人形の顎へと叩き込まれた。

 

人形が、宙を舞う――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そうして、宙を舞う人形が複数。それに向かって走る影があった。

 

「行くぜ赤丸ぅ!」

 

「ワンワン!」

 

キバと赤丸は絶妙なタイミングで、術を発動する。

 

「獣人分身!」

 

「ワン!」

 

一人と一匹は二人になり、左右に展開。宙で態勢を整えようとしている人形に向け、挟みこむような軌道で走る。木の葉でも名高い、犬塚一族は速さならばトップクラスである。

神速に恥じぬ速さで駆け、駆け、抜けて――――跳躍。

 

繰り出すは獣人体術が奥義がひとつ。

 

「牙通牙!」

 

態勢は整えても、空は飛べない人形。挟み込む軌道で繰り出された一撃を、避ける術は無かった。高速回転での体当たりを受け、その勢いで身体が回転し、受身もとれないまま地面へと叩きつけられる。

 

だが、二人の攻撃はそれで終わらない。二人は鋼糸を使い、宙で互いを引き寄せる。

 

―――人獣一体となる、混合変化を使うために。

 

「準備OK!」

 

キバと赤丸は双狼頭、双頭の巨大な狼に変化し、回転。すでに先程、牙通牙の時にマーキングはすんでいる。

 

「―――いくぜ、牙狼牙!」

 

地面に叩きつけられた人形に、追撃。巨大な狼が高速回転し、再度人形へと突っ込む。止めと思われた一撃、だがその感触にキバは顔をしかめる。

 

(まだか! くそ、前より耐久度が上がってやがる――――ならば!)

 

キバは牙狼牙の進路を地面沿いから空へ向ける。巻き込まれ、宙に舞う人形。だが途中でこぼれおち、空中から地面へと落下する。キバと赤丸は双狼頭変化を続け、そのまま空中へと舞い上がり―――回転を止める。

 

 

(止めだ、行くぜ――――)

 

 

そして、再び回転。標的を見据え落下する。

 

自由落下のエネルギーを利用した、高高度からの回転式貫通打法。

 

 

「――――天狼滅牙!」

 

 

獣人体術、秘義の壱。

 

天から降り注ぐ白狼の一撃が、倒れ伏す人形達を貫き、粉微塵に打ち砕いた。

 

 

 

 


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