小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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11話 : 砂隠れでの死闘(1)

鬼の国の外れにある一軒家の居間。一人の少女が、お茶を飲んでいた。湯気が立つそれに息を吹きかけ、冷ましながらゆっくりと湯飲みを口に運んでいく。

 

「うむ、うまい」

 

口の中に広がる味に満足し、少女はこくこくと頷いた。それもそうだ。とある組織の頭領が金にものを言わせて調達した茶葉なのだから。

 

「お主も、飲んでみるか?」

 

この味をどうか誰かに分かって欲しいと、少女が傍らに控えている護衛の忍びに声を掛ける。

 

「………結構です」

 

男は表情を変えないまま、その申し出を断った。

 

「相変わらず無愛想な奴じゃのう」

 

男が断ると分かっていたのだろう。少女は動じず、また湯飲みを口に運んでいく。その時、少し空気が揺れた。

 

「風が出てきたのう」

 

「そうですね、紫苑様」

 

あくまで事務的にしか答えない、愛想の欠片もない護衛の忍び。紫苑と呼ばれた少女は、その護衛の忍びの方を向き、ため息を吐いた。

 

「紫苑でいいと言っておるじゃろう、イタチよ。それに、つっ立っとらんで座ったらどうじゃ」

 

「任務ですので」

 

また無愛想に答える。この対応も、2年間変わらないもの。

 

初めはうちはイタチの無愛想な返答に腹を立てた紫苑であったが、それがどう対応していいのか分からない戸惑いによるものだと分かってからは腹を立てなくなった。それに、無愛想なだけではない。退屈した紫苑が時たま隙をついて悪戯などを仕掛けると、イタチは困った風な笑顔を浮かべながらも、対応してくれる。

 

「うむ、しかしこの前のお主の様子は傑作じゃったぞ」

 

傍付きの者に作らせた蕎麦の中に、紫苑がこっそりあるものを入れたのだ。それをイタチに食べさせたのだ。

 

「………火の実なんてものをどこから入手したのですか?」

 

「うむ、菊夜の奴が買い物をしたときにの。おまけとしてもらったそうじゃ」

 

菊夜は昔からの傍付きの女丈夫だ。紫苑の母の旧友かつ、弟子でもあったそうな。齢28になる黒髪のおっとりとした美人で、昔から紫苑の世話をしている。

 

「お主の顔、傑作じゃったぞ」

 

悪戯な笑みを浮かべる紫苑に、イタチは憮然とした表情になる。火の実を食べた瞬間思わず叫び声を上げそうになったイタチだが、何とか声も上げずに我慢していた。だが、顔は真っ赤で心音も上がり、全身から汗がふきでていた。その様子を察知した紫苑が、イタチに向けて何度も「どうじゃ?」と質問した。言葉も返せないイタチであったが、何とか気を引き絞り、火の実入り蕎麦の感想を言ったのだ。

 

「いいから、忘れて下さい。それに、あなたも菊夜殿に怒られたでしょう」

 

察知した菊夜は紫苑に拳骨をした後、「今度やったら同じ事を紫苑様にもしますよ」と説教をしたのだ。

 

「う、思い出させるでない。菊夜の拳骨は痛いのじゃ」

 

その時の衝撃を思い出した紫苑が、頭をさする。

 

そこに、また風が吹いた。風は先程より強く吹き、紫苑の頬を撫でた。

 

何とはなしに、二人の間に沈黙が生まれた。

 

「……あの人が此処に現れてから、お主が此処に留まるようになってから、もう2年になるのか」

 

紫苑が、その時の事を思い出す。傍付きの者と2人静かに暮らしていた所に、突如現れた男達。暁と名乗った忍び、ペインとイタチの2人は、いきなり紫苑の素性を聞いてきたのだ。

 

鬼の国でも死んだ者とされていた紫苑の素性を聞き、やはりと返したペインに対して、紫苑と菊夜の警戒心は最大限にまで高まった。だがペインは特別2人に対して危害を加えるわけでもなく、逆に「物騒だから」と護衛の忍びを置いて帰った。

 

その声に偽りが無いと判断した紫苑は、それを受け入れた。

そこから、珍妙な同居生活が始まったのだ。

 

「あのときは何事かと思ったぞ」

 

「………」

 

言葉をかけられたイタチは内心で「自分もです」と答えそうになったが、自重した。ペインに止められているからだ。それを紫苑が察したのだろう。ため息を吐いた後、イタチに責めるような口調で言葉を向ける。

 

「ふむ、やはり話してくれぬか」

 

感情も動揺も心の内だけで殺す事になれた忍び。だが、その微細な針の如く揺れた心の抑揚を紫苑は感じ取っていた。イタチは素直に、その事を称賛した。

 

「鋭いんですね」

 

「ふふん、大したものじゃろう」

 

「ええ、本当に」

 

同意するイタチ。紫苑は、さらに言葉を重ねる。

 

「他には、そうじゃな。お主今日は何かあったのか?随分と落ち着かない様子じゃが」

 

「………ありました、というかありそうなんですが。よく分かりましたね」

 

「うむ、何処か焦っているように見えたからの。ひょっとしてついに待ち人が見つかったのか?」

 

紫苑の言葉に、イタチは内心で驚いていた。そしてイタチにしては珍しく、素直にそのことについてを問う。

 

「待ち人、ですか。あなたにいった覚えはないのですが」

 

「お主の様子を見て、何となくだが分かった。何かを求めて成そうと動く訳でもなく、いずれ訪れるであろう運命を待っているように見えた」

       

「………本当に、鋭いですね」

 

「当たり前じゃ」

 

紫苑はイタチの方に顔を向けながら、言う。

 

「例え(めしい)ていたとしてもな。光りが見えずとも、確かに見えるものはあるのじゃからな」

 

笑顔で、自信満々に紫苑は断言した。

 

「紫苑様は………強いのですね。眼が見えない事、苦痛ではないのですか?」

 

紫苑の言葉を聞いたイタチが、呟き眼をそむける。眩しいものから眼をそらすように。

 

「………“明日はきっと良い日だ”」

 

「は?」

 

紫苑の唐突な言葉を聞いたイタチは、思わず聞き返してしまう。

 

「とある男から聞いた言葉じゃ。明日はきっと良い日だと。昨日よりも今日よりも、明日はきっと良い日なんだと」

 

紫苑は、今はもう光りを映さない眼を目蓋で閉ざす。そして、かつての思い出の中で聞いた言葉を、記憶の中から引き出す。

 

「そう、信じていると言った。諦めなければ、努力すればもっと良い明日に辿り着けるんだと。報われない事もあるし、やりきれないこともあるけど、足を止めなければきっと良い明日を迎えられるんだとあやつは信じておった」

 

どこかの誰かの言葉で、自分はそれを借りている。自分を奮い立たせているために、その言葉を胸中で反芻しているといった。

 

「明日、ですか」

 

「そうじゃ。だから、妾はあの事件のことを恨まんし、眼が見えなくなった今にも挫けん。そう心がけている。そして、何時か来る明日を信じている。あやつの言葉を借りて、な」

 

イタチは沈黙する。

 

「確かに、眼が見えないのは確かに不便じゃ。挫けそうになる事もある」

 

紫苑は、静かに首を振った。初めから強い人間などおらず、在るのは強くあろうとしている人間だけ。紫苑はそれを自覚している。だが、それでも昨日にも今日にも負けてなんかやらないと決めている。

 

イタチはそんな紫苑の笑顔が、眩しかった。同胞を裏切り、両親を殺し、暁に所属している自分。弟に全てを託し、死を以て罪の決済を果たそうとしている自分。昨日に囚われ続けている自分に対して、紫苑はあまりにも前向きであった。

 

そんなイタチの胸中を、紫苑が更に抉る。

 

「イタチ。お主が死を望んでいるのは知っている」

 

イタチはもう驚かない。

 

「そこまで、気づかれていましたか」

 

「うむ。何処か暗い影を背負っておったしの。恐らくは自らが犯した過ちを贖うために、命を投げ出す所存と見た」

 

「………」

 

イタチは視線を逸らし、無言のまま立ち上がった。

 

「別に止めよとは言っておらんよ。お主が決めた事じゃ。それをどうこう言うつもりもない。ただ、1つだけ聞かせて欲しい」

 

「………何でしょう」

 

部屋を出て行こうとするイタチの背に向け、紫苑は告げた。

 

 

「本当に、それでいいのか?」

 

 

紫苑の言葉を背に。イタチは問いに答えないまま、外へと出て行った。

 

 

「紫苑様……」

 

心配そうな声を掛ける菊夜に、紫苑は笑いかける。

 

「大丈夫じゃ。あやつも、迷っているのじゃろう」

 

「いえ、そのこともあるのですが……」

 

「……あの馬鹿の事か」

 

「はい」

 

「なに、アヤツは紳士を自負していた。自称していた。ならば来ないはずがあるまい。紳士の先駆けと名乗ったあやつの言葉を信じるのじゃ」

 

「ですが、その時の記憶が無いことには………」

 

「それも心配ない」

 

紫苑は嬉しそうに悲しそうに。

 

ただ、笑った。

 

 

「あやつは、約束を忘れない。業は、あやつを離さない。全ては流れのままに。だから、絶対に来る。思い出してしまう………ふふ、そう考えると運命とは真実、呪いのようじゃな」

 

 

 

 

 

 

そして、家の外へと出て行ったイタチは、虚空を見て一人呟いていた。

 

「”それでいいのか”、か……」

 

イタチは先程の問いをぽつり呟き、空を見上げる。

 

(あれだけの罪、命を以て贖う他に何があるというのか)

 

イタチは、考えてみた。考えてみたが、答えはでない。今自分が思っている以外の選択肢など、選ぶことができない。

 

「……それに」

 

懐に入れてあった手紙を取りだし、一人呟く。そこには、とある人物の遺言が書かれていた。誰に向けてという訳でもないが、然るべき相手に渡さなければいけない。それが、少なくとも自分ではないとイタチは自覚していた。スサノオの影響により全身の細胞が痛んでいる自分に、これを受け取る資格はないと思っている。

 

これを元に、色々と動き出さなければいけないのは分かっている。

 

ペインは言った。

 

「既に準備は整った」と。

 

二~五尾までを飲み込んだ今、あいつが動き出すのは時間の問題だろう。

 

今も、鬼鮫たち3人が一尾強襲の任を遂行している傍ら、隠れながらそれを監視していると聞いた。

 

 

 

 

「………時間が、無いんだ」

 

切実な言葉がイタチから絞り出される。

 

鬼鮫に伝言は頼む事はできたとはいえ、あいつがサスケと出逢う確率は低い。

 

それでも、何とか此処に来て貰わなければ困るのだ。

 

「………サスケ。何処にいるのか分からないが、速く来い」

 

 

手遅れになる前に、とイタチは心の中だけで言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっちにいったぞ、サスケ!」

 

「分かってる!」

 

多由也の言葉に答え返しながらも。サスケは視線を敵から離さずに、じっと見据える。

 

風が吹いた。砂煙が舞い上がり、僅かだがサスケと音忍の視界を塞ぐ。

 

同時、動く。音忍が砂煙で薄れた視界の影にて瞬身の術を使う。言うまでもなく、近接するためだ。サスケの腰にある刀を見て、至近距離の方が良いと判断したのだろう。

一瞬で懐へと飛び込む。だが、サスケはそれを読んでいた。刀に添えていた手を迷い無く離し、至近距離での応戦を選択した。

 

激突。

 

数mはある岩場の上で2人の忍者は交差しながらも、一合二合の攻防を組み交わす。一合目は互いに防御、しかし2合目はサスケが勝った。写輪眼で相手の動きを捉え、向けられた一撃を片手で捌きながら、音忍の顎に一撃を加えたのだ。

 

相手は苦悶の声を上げながら吹き飛び、岩場の上から下へと落下してゆく。

そのままでは頭から落下する体勢だったが、落下途中に体勢を立て直し、空中で回転。

あぶなげない動作で、足から地面へと着地する。

 

立ち位置が変わる。岩場の上にサスケ、下に音の上忍という構図だ。早めに決着を付けたいサスケが、攻めてこない音忍の元へと飛び降りる。対し、跳躍する音忍。

 

今度は空中で交差。だがサスケは再び、音忍のクナイによる一撃を写輪眼避けながら、今度は懐の鋼糸を取り出した。従来のものよりもやや太めのそれは、思いっきり握っても手が切れない代物だ。それを相手の身体に巻き付けながら、素早く印を組む。

 

すぐさま発動するは雷遁・雷華の術。火遁・竜火の術と同様の術理を持つそれは、鋼糸の上を奔った。

 

「があっ!?」

 

鋼糸を振りほどこうとした音忍が鋼糸から伝わる雷撃を受けて硬直する。サスケは鋼糸を引っ張り、落ちてくる音忍に向けてとどめの回し蹴りを放った。その人体急所である米神を的確に捉えたサスケの一撃を受け、音忍は気絶した。

 

同じように、再不斬、白、テマリ達も音忍を撃破していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、後方。その様子を見ていた暁のメンバーが3人。

 

「あれは写輪眼………ということは、もしかして、うん!」

 

デイダラが興奮した面持ちで、頷く。

 

「あっちはなんと、再不斬の小僧のようですねえ。波の国で死んだものと思っていましたが」

 

鬼鮫が楽しそうに笑う。

 

「どうやらうずまきナルトはいないようだが、予想外な奴らが居たな………どうする?」

 

一人冷静なサソリが、2人に問う。返答は、簡潔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、音忍達数人を蹴散らしたサスケ達は、遠くから暁の姿を捉えていた。

 

「………暁はツーマンセルで動くはずじゃなかったのか?」

 

サスケが呆れた口調で言う。

 

「木の葉に来た時は2人組だったんだがな」

 

再不斬がため息を吐きながら答える。だが、その視線はぎらついていた。敵方に鬼鮫が居るせいだ。

 

「何か理由があるってことか。どうするじゃん、我愛羅?」

 

後方から合図の音を聞いて駆けつけた我愛羅に、カンクロウが問う。

 

「打ち合わせ通りにやるしかないだろう。サスケ、お前はデイダラをおびき寄せてくれ」

「ああ、了解した。そっちはサソリを頼むぞ。その名前の通り、毒による攻撃が得意な奴なんだろう? ………なら、一撃も喰らえない相手というわけだ。砂の防御を持っているお前の方が適している」

 

「………言われずとも、だ。そもそもあいつは砂隠れの抜け忍だ。現風影として、責務は果たす」

 

「私とカンクロウは我愛羅のサポートに回る」

 

「分かっている。白は俺に付いてこい………鬼鮫の野郎を、倒す」

 

「分かりました………しかし、サスケ君のお兄さんの姿が無いですね」

 

「………そうだな。正直、この状況下では兄さんの姿が無いのは助かるんだが、何かあったのか………」

 

「…今は考えていても仕方ない。まずは眼前の敵だ。白と多由也は残りの音忍を頼む。倒した後は、不測の事態に備えてくれ。多由也、お前の音韻術でな。俺達は暁の野郎共をたたむ」

 

一拍置いて、再不斬が皆に問う。

 

「………用意はいいか?」

 

全員がうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくて戦闘が始まった。サスケは一人、近づいてきたデイダラと対峙する。

 

「写輪眼………ってことはイタチの弟のうちはサスケか、うん?」

 

「そうだ。そういうお前は暁の………デイダラだな? 狙いは我愛羅の中に居る一尾か」

 

「ああ、お前の姿を見るまではそうだったんだけどな、うん」

 

デイダラは目を細めながら、サスケを睨み付ける。

 

「………そっちはサソリのダンナに任せた。オイラの目的はお前だ」

 

デイダラが、サスケの“目”に指を向けて宣告する。

 

「オイラはその写輪眼が気に入らないんでね、うん」

 

その言葉と共に、サスケはデイダラの威圧感が増すのを感じた。

 

(ナルトは“うげー爆弾”とか言ってたけど。そんな可愛いレベルじゃないぜ、これ)

 

サスケは、目の前の敵から感じられる威圧感から、相手の強さを想定する。

 

結論、強い。とてつもなく。

 

模擬戦ばかりで実戦経験の少ないサスケでも分かる程に、相手の存在感は際立っていた。雪の国で戦ったドトウは勿論、先程気絶させた音忍でさえ比較対象にならない。

 

上忍の上。今の再不斬やナルトと同等の実力者だ。サスケはそれを認識し、出し惜しみできる相手ではないと判断。腰に下げられた愛刀、雷紋を抜く。

 

「………変わった刀だな、うん?」

 

デイダラは、その抜き放たれた刀を見た後、首を傾げる。見た目特筆すべき所がない、簡素な造形。片刃の表面には、段平模様が浮かんでいる。

 

「突き重視に、速さ優先。加え、隠し玉がありそうと見たけど、うん?」

 

造形師でもあるデイダラは一目で雷紋の特性を見抜き、頷く。そして、起爆粘土で作り出した爆弾を手に持ちながら叫んだ。

 

「………まずは小手調べだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやおや、まさかここで会えるとは思ってませんでしたよ」

 

「それはこっちの台詞だ」

 

サスケ達から少し離れた場所。砂場のない平原で、再不斬と鬼鮫は対峙していた。

 

「いやはや、まさかあなたがイタチさんの弟君と一緒に行動していたとは。しかも砂隠れの風影の護衛にねえ?」

 

鬼鮫は横目でサスケがいた方向を見る。

 

「………何か、あいつにあるのか?」

 

「ええ、伝言がね。ですが、伝えるにしても見極めなければならないものがありまして。そういうあなたは、私とやりあうつもりですか?」

 

「ああ、依頼人の要望でな。加え、俺の目的を達成するためでもある」

 

「ほう、その目的とは?」

 

問われた再不斬が、背負っている首斬り包丁の柄を握る。

そして一息に前へと突き出す。

 

「手前の首だ、S級賞金首。大名殺った干柿鬼鮫の首を手土産に………俺は霧へと戻る」

「ほう………私の首はともかく、霧に戻るというのは少し、予想外ですねえ。だが、アナタの罪は重い。何しろ水影の暗殺未遂だ。私の首だけでは足りないんじゃないですか?」

鬼鮫は笑みを絶やさないまま、再不斬に訊ねる。だが、次の一言を聞いた瞬間、その笑みは消えることとなった。

 

「………何、先代の、うちはマダラの情報を持っていけば事足りる」

 

再不斬の言葉を聞いた鬼鮫の眼光が鋭くなる。鬼鮫のぎらつきを帯びたものものしい気配に、再不斬は一瞬後退しそうになった。だが、気で負けてはならぬと、再不斬はその場に踏みとどまる。

 

「………ほう、随分と腕を上げたようですねえ?」

 

それを見た鬼鮫が、面白そうだという表情を浮かべた。

 

「テメエに認められるまでもねえよ。小僧とはもう言わせねえぞ!」

 

その一言をもって、対峙する空気は刃のように鋭くなった。其処には、熟練の忍びが2人。かつては里を同じにした2人は、今殺気を眼前に押し付け合い、にらみ合っている。

 

「こちらも、その情報をどこで掴んだのか………答えてもらいますよ!」

 

その言葉を合図に、事態が動く。鬼鮫は目にも止まらぬ速さで印を組み、両の手を叩きつける。

 

「水遁・瀑水衝破!」

 

鬼鮫の膨大なチャクラが、その体内で性質を変化される。そして、それは口からはき出された。鬼鮫のチャクラと同じく、膨大な水量が一気に具現し、河も池も無い平原に荒れ狂う津波が顕現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様が一尾だな?」

 

「そういうお前はうちの抜け忍。赤砂のサソリで間違いないな?」

 

20m離れた場所で、我愛羅達とサソリが対峙している。サソリは、カンクロウが操っている人形を見た後、表情を僅かに変える。

 

「………チヨばあはどうした?」

 

「体調が優れないんで、代役として俺が此処にいるじゃん。お前を止めてくれって頼まれた」

 

「どちらにせよお前が我愛羅を狙うというのなら、止めるがな」

 

テマリが扇子を一薙ぎする。

 

「まずは小手調べ、大カマイタチの術!」

 

そしていきなり術を発動。

 

風の刃がサソリに襲いかかった。

 

「………ふん」

 

それをサソリは一蹴する。我愛羅有利のこの地形と、1対3という状況から、切り札を切ることにしたのだ。

 

「出ろ」

 

地形が不利ならば、有利に変えればいい。数が足りないのであれば、増やせばいい。サソリは、最初から全力で行くことに決めた。

 

「それが、三代目風影の人形………!」

 

カンクロウが驚きの声を上げた。

 

「良く知っているな。まあ、誰から聞いたかは知らんが、それも関係ない。一尾の人柱力を除いた全員は、ここで朽ちてもらう」

 

そう言ったあと、サソリは三代目の人形を操る。三代目風影の特殊能力は、チャクラを磁力に変え、砂鉄を自由自在に操る事。加え、サソリは毒の使い手。

 

「……砂鉄時雨」

 

我愛羅達に向け、触れれば即座に動けなくなるほどの毒がしみこまされた、砂鉄の散弾が放たれた。

 

「砂手裏剣!」

 

それを、我愛羅が迎え撃った。チャクラを篭められ硬質化した砂は砂鉄の散弾を相殺した。三代目が操る砂鉄は堅いが、所詮は人形。生来の能力と違い、砂鉄はチャクラによって強化されてはいない。対する我愛羅は、砂にチャクラを篭められる。威力はほぼ互角。察したサソリが口の端を上げた。

 

「面白い。砂鉄と砂、どちらが上か試してみようか!」

 

途端、大量の砂鉄がサソリの周りに浮かぶ。対する我愛羅も、そこら中にある砂を集め始めた。

 

「「勝負!」」

 

 

サスケ対デイダラ。

 

首斬り包丁対鮫肌。霧隠れの鬼人対怪人。

 

砂鉄対砂。三代目風影人形とサソリ対五代目風影とその兄弟。

 

 

世界でも有数の戦闘能力を持つ忍者達による、死闘が始まった。

 

 

 

 


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