小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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10話 : 傷

 

 

 

「兄さん、起きないね………」

 

「何、治療は無事終わったんだ。じきに起きるさ」

 

親子2人の視線の先には、寝ているメンマの姿があった。気絶したメンマを、いのとサクラが治療しようとしたのだが、そこで急に雨が降ってきたのだ。このまま治療すれば、身体が冷えてしまい危険だということで、何処か雨水をしのげる所を探す事となった。メンマと同じく、大怪我をしていた人柱力の少女フウも連れて。

 

そして、このボロ家を見つけた。、あちらこちらに雨漏りがあり、薄汚い如何にも幽霊が出てきそうなボロ屋に、一同は一瞬ここに留まるか迷ったのだが、時間が惜しいということで結局は留まる事にした。

 

もしメンマが起きていたら、「コレ、イエジャナーイ!」と叫んでいた事だろう。

 

その後、家の中でサクラ、いのによる治療が開始された。いのはメンマ、サクラはフウの治療に当たったが、完全回復とはいかなかった。いの、サクラともに戦闘後で、残っているチャクラ量が完全回復に必要な量まで至らなかったためだ。兵糧丸を使用しても全然足りず、結局は応急処置程度の治療しかできなかった。

 

だが、流石は人柱力である。中の尾獣が容器を修復しようとしているのだろう。傷は塞がり、容態も徐々に安定していった。

 

そして一通りの治療が終わった後、メンマとマダオに向けての大詰問会となった。

 

未だ若い姿を保っているマダオこと四代目火影である波風ミナトの姿に関しての説明である。マダオはいの達の押しに耐えきれず、あれよあれよという間に色々な事を話してしまった。サスケと行動を共にしている事。再不斬と白、そして多由也について。

 

サスケの事を話した時は、すわ桃色の邪神が覚醒かと思われたが、キリハの当て身により邪神復活の憂き目は無くなった。少女は世界を救ったのである。

 

そんなごたごたの横で、マダオが「計画通り」と世紀末の神的な笑みを浮かべていたのは誰も気づかなかったが。

 

 

閑話休題。

 

 

「じゃあ、サスケ君達は今砂隠れにいるんですね?」

 

「ああ。暁の襲撃に備えてる」

 

「………“暁”ですか………あの、サスケ君はやっぱりお兄さんを?」

 

「それは僕の口からは言えないね。もうすぐ会えると思うから、その時に聞いてみればいい。それより問題は、だ」

 

マダオが腕を組みながら、状況を説明する。

 

「さっき戦ってた暁のメンバー、飛段って奴から聞いたんだけどね。どうも今、砂隠れに暁のメンバーが向かっているらしいんだ」

 

「相手の狙いは………風影様ですね」

 

ヒナタの言葉に、マダオが頷いた。

 

「最低でも2人、もしかしたら4人が向かっているだろうね」

 

「………そんな! だったら、速く砂と木の葉にその事を知らせないと」

 

「それはキバ君とシノ君に任せたよ」

 

サクラといのがメンマとフウを治療している最中、その情報を聞いたキリハが二人に指示をしたのだ。今頃は国境付近までたどり着いていることだろう。

 

「足が速いキバ君と、索敵が得意なシノ君だし、大丈夫だよ。さっきの戦闘での怪我も、軽いものだったからね」

 

奈良シカマルは戦闘後に青い顔を引き連れてやってきた滝隠れの長と会談中だ。秋道チョウジと応援に駆け付けたリー、テンテン、日向ネジもそちらに向かっていた。

 

「大丈夫かな………」

 

「………先の襲撃の件、里からすれば寝耳に水、って感じだったし。長も、悪い人ではなさそうだったから」

 

「そうね………でも、暁が2人、もしかしたら4人なんでしょ………あの、四代目様」

 

サクラが訪ねる。

 

「一度は死んだ身というか死人に近い存在だしね。マダオでいいよ。最近はそう呼ばれているから」

 

「はあ、マダオ………ってそれどんな意味が」

 

「禁則事項です」

 

ひとさし指を上げるマダオ。それを、娘ががっしと掴んだ。

 

「話が進まないよ父さん」

 

折るよ? と笑う娘に、マダオは内心で「立派になって………クシナそっくりだなあ」と、心の中で感涙の水を、全身からは汗を垂れ流していた。

 

「………いや、ごめんごめん」

 

一トリップを終え、なははと笑うマダオに、サクラが訊ねる。

 

「暁4人を相手にしたとして………サスケ君達、大丈夫なんでしょうか?」

 

「それはねえ………大丈夫と言えば大丈夫だけど、大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃないなあ………勝負に絶対は無いから。中忍にもなったんだから、それは分かるでしょ?」

「それは………そうですけど」

 

「ただ言える事があるんだよね。サスケ君の力量、2年半前の比じゃない程に高くなっているんだ。彼、この二年半………ほぼ毎日、死にものぐるいで修行したから」

 

サスケは力量的には上忍の上クラスで、カカシや再不斬に匹敵するレベルとなっていた。それが修行によるものでも、このような短期間にあれほど成長するとは、マダオも思っていなかった。

 

「え、もしかして………父さんが鍛えたの?」

 

「うん、大まかな所とか基本方針は僕が決めたね。ナルト君と同じく。体術の訓練、組み手に関しては桃やんとか白ちゃんとか、ナルト君と一緒にやっていたけど」

 

人前ではナルト君と呼ぶマダオであった。

 

「………えっと、多由也さんは?」

 

キリハが訪ねる。

 

「料理に結界術に新術開発に。主にサポート系の能力を磨いていたね。特におかかおにぎりに関して、彼女の右に出る者はいないと思うよ」

 

おかかおにぎりというキーワードに反応したのか、背後でサクラの目がキュピーンと光ったが、マダオは無視した。君子危うきに近寄らずであると。

 

「………えっと、おかかのおにぎりはともかく。新術って、音系の?」

 

「3パターン開発した。それは見てのお楽しみかな………いや、聞いてのお楽しみ?」

 

腕を組みながら、マダオが首をかしげる。

 

「それでも、この短期間に3つも術を開発するなんて、すごいですね。毎日が修行三昧でした?」

 

「いや、そうでもないよ。ま、あの二人………サスケ君と多由也ちゃんはそうしたかったみたいだけど」

 

それまでは当たり前のようにあった“無理”。解消したらしたで、無くなったら無くなったで、逆に不安になる時があるらしい。因果なものであると、マダオは苦笑した。

 

「ま、限界近くまでいった時には、流石に休ませたけどね」

 

身体を極限状態にまで追い込むのは修行の常だが、壊れては意味がない。そのあたりはマダオが調節していた。多由也の音韻術も併用していたので、回復は早かったのだが。

 

「そんな2人だから、きっと大丈夫。僕はそう信じてるよ」

 

笑顔で断言するマダオ。それを見て、サクラ達はそれ以上何も言えなくなった。

 

 

それから、一時間。眠る2人の様子をみながら、時間が過ぎていった。

 

「………雨、止まないね」

 

窓から外を見ていたキリハが、ぽつりとつぶやく。

 

「そうだね………あ、雷が」

 

それなりに近い場所に落ちたのだろう、大気を落雷による轟音が響かせた。間もなくして、雷の音に反応したフウがうめき声をあげた。

 

「えっと、起きては…………いないか」

 

雷の音で目が覚めたかと思ったが、どうやら寝返りをうっただけであった。

 

「………フウちゃんも傷の治りが速いね」

 

寝返りをうつ際に見えた傷。先程まではうっすらと開いていた傷が、今ではもう塞がりかけていたのを見てキリハが呟いた。

 

「………そうね」

 

いのが答えるも、その声は何処か暗かった。

 

「ん、いのちゃん………どうしたの? 暗い顔して」

 

「いや、さっきこの娘を治療した時にね」

 

いのがぽつりぽつりと話しだす。昨夜ナルトから聞いた、傷の話を交えて。

 

「こうやって、傷跡が消えるっていうこと………どうなのかなあ、って確かに、女の子としては、傷が残らないっていうのはいいことなのかもしれないけどね」

 

首を振るいの。鎮痛な面持ちで続ける。

 

「でも、跡も無くなる事実を、実際にこの目で見るとね………」

 

かなりの深い傷でも、すぐに治る。そして、跡も無くなる。でも、それを見た誰かは、傷つけた誰かは傷つけた事実を忘れるのではないかと。軽く、思ってしまうのではないかと。傷が癒えたとして。跡が綺麗に消えたとして。じゃあ、傷を受けた思い出は癒えるのか。傷を受けた際に、同じく傷んだ精神も、すぐに癒えてしまうのか。

 

「“ちょっとやそっと乱暴に扱っても、容易く死なないのであれば………”ってことかな? 確かに、行為はエスカレートしていくだろうね。それが集団であれば尚更」

 

集団心理。それは責任が分割されるという妄想が産み出すものでもある。

 

「人柱力にそれが集中するのは………責める理由がわかりやすいからだろうね」

 

「………それは、人で無いからですか? 尾獣を宿している。つまりは、化け物だから何をしてもいいって事ですか!?」

 

サクラが激昂する。マダオは、その問いには答えない。

 

「良い悪い以前に、相手は“化物”だ。つまりは人でなし。人でないものを人扱いする必要は無い、って考えてしまうのだろうね」

 

マダオは何処か遠いところを見ながら、言葉を続ける。

 

「………前に、ある男が言ったよ。“過ぎた力を持つ者、必要でない上に過剰な力を持つ者はいずれ災いを呼ぶ。それは最早化け物だ。人でないものを、人の扱いをしなくても良いし、何より近くに居て欲しくない”ってね」

 

「そういえば、滝の忍び、シグレも言ってたね。爆弾、とか」

 

そういった具体性を持つ言葉で表されるのは最悪の事態を生む。恐れるあまり傷つけても良いと思ってしまう。そして、集団が生まれる。暴走する集団が。

 

「集団の中に生まれる集団心理というのは恐ろしいものでね。それまでは確実にあった筈の倫理が、綺麗さっぱり吹きとぶんだよ。反対意見も出ない。あってもそれすら飲み込んで、ただ暴走する塊になってしまう」

 

何か切っ掛けが無いと止まれなくなる。責任の転嫁というものもあるのだろうが、場の空気もある。

 

まるで雪だるま式に増えていくそれは留まる事を知らず、そぐわない対応をしたもの諸共に巻き込んでいく。無事でいるためには、その玉の奥に引っ込んで上手く立ち回るしかなくなるのだ。それを聞いたキリハは、そんな馬鹿なと言う。

 

「だって、傷つける者は多くてもさ。傷つけられるのはたった一人じゃないの!? それを道具とか…………要らなくなった道具は捨てるだけとか………」

 

キリハは拳を握りしめながら、地面に目を落とす。

 

「………って、父さん?」

 

怒りをあらわにしていたキリハが、自分の額に手をあてながら唸るマダオを見て、どうしたんですかと訪ねる。

 

「………まいったね」

 

いつかと同じ言葉じゃないか、というのはマダオの口の中だけで唱えられた。

 

「いや、あの場に残っていなくて本当に良かった。もしその言葉をナルト君が聞いていたら………」

 

「聞いていたら………?」

 

顔を掌に覆いながら首を振るマダオに、ヒナタが訪ねる。

 

「いや、何でもない。理由は言えないけど………ともかく、絶対に彼には言わないでね」

 

真剣な表情。皆はうなずいた。

 

 

 

 

 

 

 

「………でも、このまま木の葉に連れて行っていいのかな」

 

「キリハ?」

 

「だって、木の葉に保護されても一緒でしょ? このまま戦争になったりしたら、兵器として前線に送られちゃうじゃない」

 

「だから逃がすって訳? 暁に狙われているのに?」

 

「あ、そうか」

 

「………何にしろ、問題は暁ね。色々と、ケリをつけなければ何もできないわ」

 

「そうだね………いっそ、サスケ君達が返り討ちにしてくれれば楽になるのに」

 

「流石に全員は無理だね。あの2人だけなら、何とかなるかもしれないけど」

 

「あの2人?」

 

聞かれたマダオは、2人の能力について説明する。そんな中、聞き慣れない単語を耳にしたサクラが、マダオに対してその事を訊ねる。

 

「あの、“うげー爆弾”と“閣下”って………何のことですか?」

 

「暁メンバーの暗号名。他には“オコジョ”とか、“ポチョムキン”とか“神”とか“バーロー”とか“おまる”とか色々あるけど」

 

「………一体どんな流れでそういう名前になったのさ」

 

「ええと、あれは確か一年前………」

 

答えながら、マダオはその時の事を回想する。

 

 

 

 

 

 

 

 

一年ほど前の事である。それは夜半を過ぎて行われた、隠れ家で暁の事について話し合っている時の議題だった。おっかない暁のメンバーについて議論している最中、メンマが発案した“もっと親しみやすい感じにしてみよう”という企画に則って、皆が案を出し合った。

 

「じゃあうちはイタチはコードネーム“オコジョ”で」

 

「ちょっと待て」

 

サスケが突っ込む。流石に兄の事だ。うちはオコジョは勘弁して欲しいらしい。

 

「じゃあ“カモ”、とかにする? でも、それじゃあ綱手姫と被ってしまうよ」

 

「何でカモになる。それよりもっと良い名前があるだろうが」

 

そこから数分話し合ったが、結局はオコジョに決定された。他に良い名前が思い浮かばなかったのである。

 

無論、その時点で全員が酔っている。

 

会議は更に加速し続けた。

 

「次、デイダラは………うげー爆弾で」

 

ジェニファーなのである。すごいへべれけなのである。

おえっと爆弾をはき出すのである。

 

「サソリ………人形………薔薇乙女………閣下だね」

 

「閣下だね。しかし本当に“それ”で攻めてきたらどうする?」

 

メンマは頭の中で想像してみた。襲ってくる薔薇乙女達の大群。勝機が見いだせなかった。

 

「あまつさえ、青の国で造られた汎用人形が攻めてきたら………!」

 

「即刻お持ち帰りします。俺の癒しのために…………って成る程。おばあちゃんはチヨバアですねって誰が分かるのこのネタ」

 

「しかし、あの野郎が“ポチョムキン”っていうのは………あれ、何故だ畜生。違和感が全然ねえ」

 

“コードネームはポチョムキン”のあまりのフィット感に、再不斬が唸っている。

 

「顔が何て言うかポチョムキンって感じだもんね」

 

「切り裂いてくるしね」

 

そんな感じで、次々暗号名が付けられていった。ちなみにペインが“神”、小南が“バーロー”、マダラが“タラちゃん”となった。おまるは前と変わらずにお○であった。

 

酔いと睡眠不足というものは時に恐怖も忘れさせる恐ろしいものである。

 

 

 

 

 

 

 

「睡眠の重要性!」

 

現世に復帰したマダオが叫ぶ。

 

「わっ、急になに?」

 

「いや、忘れて」

 

流石に娘ズにそんな話聞かせられないと思ったマダオは、全力で記憶消去にかかる。同時、柔らかくなった空気に安堵する。こういう空気を続かせるのは心身共に良くないと思ったマダオの気配りだった。

 

それからも、会話は続く。やがて話題が変わる。マダオは、隠れ家での生活を語り始めた。笑顔で語られる様々な話を聞いたヒナタが、マダオに言う。

 

「平和で楽しい日々だったんですね」

 

「………いや、あれを平和というのは………ちょっと違うと思うな」

 

マダオが、この2年半の間に起きた様々な事件のことを思い出す。

 

本当に、色々な事があったのだ。四季の変化に彩られながら、胸の中に次々と刻まれていく思い出。

 

“多由也女史の音楽事変~俺達とってもユートピア~”はまだ記憶に新しい。

 

他には、“うちはサスケ女装事件~トランスセクシャル・イン・パレード~”や、“うずまきナルトのプロジェクトX~僕がラーメンになった理由~。

 

“白による24時間耐久講義~ここが凄いよ再不斬さん!~や、“キューちゃん激論~揚げと稲荷ずしと私~。

 

“マダオと馬鹿な男達による胸囲徹底討論~いい加減決めようぜ、最高のカップって奴をよ!~。

 

――――本当に色々あったと、マダオは遠い目をした。あってしまったという方が正しいのかもしれないが。むしろ思い出ではなくトラウマなんじゃねーかというものもあった。大抵が爆発オチで話が終わる、酷い事件ばかりだったからだ。

 

でも。それでも、これは断言できるだろう。

 

楽しい日々だった、と。

 

そしてふと、気づいた事をぽつり呟いた。

 

 

「そういえば、サスケ君はいつも巻き込まれてたっけねえ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、砂隠れの里の外れ。見晴らしの良い場所に陣取っているサスケが、急にくしゃみをする。

 

「………風邪か?」

 

「いや、誰かが噂してるんだろ」

 

サスケは鼻をすりながら、多由也の言葉に答える。

 

「そういえば、あの3人は今木の葉の連中と同行しているんだっけか」

 

「キリハ達だな。何もなければいいが………」

 

「やっぱり、昔の仲間だし心配なのか?」

 

「まあ、一応はな」

 

若干視線を逸らしながら、サスケが答える。この2年半、色々な事件に遭遇し、充足を感じるに足る日々を送ったサスケ。性格も以前とは変わっていた。

 

「相っ変わらず、素直じゃねえな」

 

そう言いながらも、多由也は小さく笑っていた。多由也の方も口の悪さに関しては治らなかったが、中身に関してはかなり変わっていた。

 

「ああそうか。もしかしたらあの3人が、お前の事件のことを、木の葉の連中に伝えてるのかもしれねえもんな」

 

「………」

 

サスケは無言のまま、静かに絶望した。そんなサスケの顔を、傍らにいる多由也が面白そうに見つめていた。

 

 

 

 

「距離、近いじゃん………」

 

そしてそんな2人を、カンクロウが遠くからじっと見つめていた。

 

「カンクロウ? 何をそんなに落ち込んでいるんだ?」

 

「いや、だってあれ………」

 

指さし、更にへこむ。

 

「何か自然に近い距離で接しているじゃん」

 

カンクロウは、木の葉隠れの宿に泊まった時、でうずまきナルトに聞いたとある恋愛豆知識についてを思い出していた。何でも、人間はパーソナルスペース、つまりは動物でいう縄張り意識というものがあるらしい。たとえば、親密な関係の人であれば近づいて話していても不快感は感じないが、親密でない関係の人だと不快に感じる。人と人が心を接する時の物理的距離と、実際の心理的距離は同じであるという話だ。

 

「………くそ羨ましいじゃん」

 

俺も彼女が欲しい、と嘆くカンクロウ。そこで、視線を移すが、そこでまた別の2人組の姿が見えた。

 

再不斬と白である。

 

「ってあいつら近いってレベルじゃねーじゃん!」

 

コレが地域格差って奴か! と叫びながら暴れ回るカンクロウ。

 

「ちきしょう、地方はしょせん地方で、都会(イケメン)には叶わねーってやつなのか!いや、人間顔じゃないじゃん! 鬼人を見れば一目瞭然! 地方には地方の良さがあるじゃん! 帰ってこい田舎美人! 都会は危険じゃん!」

 

電波なセリフを叫びまくるカンクロウ。その頭に、背後から鉄扇が振り下ろされた。

 

「往来で恥ずかしい事を叫んでるんじゃないよ愚弟」

 

「………」

 

返事がない。ただの屍のようだ。

 

「って死んでねーじゃん。死にかけたけど」

 

カンクロウは頭を抑えながら、涙目になっていた。余程痛かったのだろう。

 

「うるさいよ。ちったあ真面目に見張りをしないか、馬鹿」

 

「いや、だってよ………」

 

理由を語り出したカンクロウに向け、テマリはため息を吐いた。

 

「今考える事じゃないだろうが。それに、私だってな………」

 

テマリも、愚痴りだす。生来の気の強さが災いしてか、周りに男が近寄ってこないのだ。

「まあ、私はそれでいいんだけどな」

 

「………ああ」

 

そこで、カンクロウは事情を察して沈黙する。黙る姉弟。

ふと、テマリがカンクロウに聞いてみる。

 

「なあ、やっぱり男っていうのはおしとやかな娘が好きなのか?」

 

「当たり前じゃん、そうに決まってるじゃん」

 

カンクロウの断言を聞いたテマリが、一際深いため息を吐く。

 

「そうか………やっぱり」

 

「どうしたじゃん?」

 

「いや、参考までに聞くがな駄弟。おしとやかな私っていうのはどう思う?」

 

「………ちょっと想像つかないじゃん」

 

カンクロウの言葉を聞いたテマリが、無言で鉄扇を振りかぶる。

 

「うそ! うそです姉上! いや、俺もちょっと見てみたいじゃん! ギャップ萌えってやつじゃん! きっとあいつもイチコロじゃん!」

 

「そ、そうか?」

 

弟の怒濤の褒め言葉を聞いたテマリが動揺する。

 

「そ、そうだ! 一回やってみればいいじゃん!」

 

「え、えっと………こうかな?」

 

片手を顎にそえ、ぶりっこ風のポーズ。度重なるアタックチャンスを掴めずにいる彼女は、結構追いつめられた。早めに良いポジションを確保しなければ、黄色のあの人に取られてしまうのである。そんなテマリが、意を決して一言。

 

「わ、わたし暗闇が怖くて………だから、傍にいてもいい?」

 

ぷるぷると震えるテマリ。

 

何時にない姉の様子を見た弟の返答は1つだった。

 

「うわきつ」

 

見せる相手が悪かった。普通の男ならば気が強い美人の気が弱い仕草だぜギャップ萌えー………とでもなったのかもしれないが、相手はよりにもよって弟だ。弟にとっての姉に対する異性感、所謂幻想などはとうの昔にぶちこわされている。

 

一方でやっちまった感が胸を占めるカンクロウ。じりじりと後退する弟に向けて発せられた姉からの言葉は、実にシンプルだった。テマリは能面のような表情で、一言だけカンクロウに告げる。

 

「遺言はあるか?」

 

本気の眼光。殺人鬼のそれを見たカンクロウは腰が抜けた。

 

「ま、待つじゃん! ほら、謝るから!」

 

だが、現実は無慈悲である。

 

「………降伏は無駄だ、抵抗しろ」

 

鉄扇が振り上げられる――――その時だった。

聴覚に、多由也からの合図の音が入ってきたのは。

 

2人共ハッと顔を上げ、となり見張りがいる方に視線を移した。見れば、サスケが立ち上がっている。そしてその手は、腰にある刀に添えられていた。

 

多由也は笛を吹いていた。特定のチャクラを持つ相手だけに聞こえる音を発しているのだ。距離はチャクラ量に比例する。

 

連絡用に開発した多由也の音韻術の1つ、秘術・音遠透写。

 

音が、特定の人物へと伝えるべき内容を運ぶ。それは、襲撃者が来たという音だ。それを聞いたテマリが、後ろの方角を見る。後方に待機している我愛羅も、この音を聞いてすぐに飛んでくるだろう。

 

「…………」

 

 

音譜の羅列による連絡は続く。やがてその内容を全て理解した2人は、更に表情を引き締める。

 

 

「………どうやら、テロリスト共が来たようじゃん」

 

「そのようだな――――3人とは、豪勢な」

 

 

どちらともなく、その額には汗が滲んでいた。

 

 

 


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