小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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7話 : いざ往かん

滝隠れの里の外れにある森、その最奥部にとある家があった。家と呼ぶのもおこがましいかもしれない、そこら辺の木で取りあえず建てました感が一目で分かるような、質素というか滅茶苦茶な構造をしていた。それを少し離れた所から見ている、2人の指名手配犯の姿があった。

 

「…………あそこだな。気配がする。急ぐぞ、飛段。分かってると思うが、今度は油断するなよ」

 

「は、わあってるぜ角都よ。それよりもここを見つけるのに随分と時間がかかっちまったな…………例の、木の葉の使者とかいう奴らがこの近くに来てるんじゃねえか?」

 

先の作戦の後、不測の事態により一度アジトに戻った2人は、リーダーから再び七尾回収の任を命じられていた。

 

「だから急ぐと言ってるんだ。七尾の回収を邪魔されるわけにはいかん………まあ、足止めに関して手は打ってある」

 

「………ああ、あの滝隠れの若造かあ? 茶髪の………あれ、名前なんだっけ?」

 

顎に手をやって考える飛段を見た角都は、心の中だけで呟く。

 

(………相変わらず、興味の無い人間の名前を覚えられん奴だな)

 

「んあ、何か言ったか?」

 

「いや、何も言っていない」

 

「はっ、いいけどよ。しかし、また俺らが使わされるとはな」

 

飛段は面倒くせーな、と愚痴った。

 

「仕方ないだろう。これは俺達のノルマだからな。デイダラとサソリも、今は自分のノルマである一尾の回収に向かっている筈だ」

 

「あれ、イタチと鬼鮫の野郎共はどうしてたっけ?」

 

「………イタチは相変わらずだ。お姫様の護衛で、鬼の国の外れに居る」

 

2年前からそこは変わらないだろう、と角都が飛段に告げる。

 

「あれ、それだと鬼鮫の野郎は?」

 

「………トビが失踪したからな。余った鬼鮫は、デイダラとサソリとスリーマンセルを組んで砂隠れだ。お前、聞いていなかったのか」

 

「ああ、忘れた………でも、随分と大仰な組み合わせなこって」

 

過剰戦力と言えるかもしれないが、念には念を入れて、とのリーダーの指示に従っての新しい編成だった。

 

「あのペインが逃がした、九尾の抜け殻だったか。もしかしたら介入してくるかもしれん、ということでな」

 

用意は周到にだ、と貫禄の言葉を発する角都。

 

「………ペイン、か」

 

角都は虚空を見上げ、何かを口に出そうとしていた。

 

「………あ? 角都よお、お前何かリーダーに含むものがあんのか?」

 

「いや、戯れ言だ。妄想に過ぎん。しかし飛段よ、お前は少し前からリーダーの事をじっと見ているようだが、お前こそ何か思う所があるのか?」

 

「ああ? いや、はっきりとは分からねーけどよ。あいつ、変わっただろ? それで、変わった後の姿というか雰囲気というか、何か、こう………俺に近い何かを感じるんだよ」

「………お前にしては、はっきりとしない物言いだな。まあ、前と変わったというのは否定しないが」

 

「音隠れの糞蛇野郎共と組む、なんてなあ。以前のリーダーの性格というか、気性なら、有り得なかっただろ」

 

「………ふん、デイダラあたりは、未だに納得していないようだがな。利害の一致だ。合理的とも言える。互いの利害、利益が異なった時にはどうなるか分からんが。しかし、お前に似た雰囲気、か」

 

「あん? 何か言ったか角都よ」

 

聞かれた角都は首を振って、思い過ごしだということにした。

 

「いや、何も言っていない。それより急ぐぞ、相棒」

 

「はっ、りょーかいりょーかい。じゃあいっちょやってやりますかあ!」

 

飛段の鎌が、勢いよく抜き放たれ―――その勢いのまま、後方にある枝にぶつかった。枝は切り裂かれ、地面に向けて自由落下した。大きな音が周囲に響く。直後、家の中にある気配が揺れた。

 

「あー………やっちまった?」

 

「馬鹿が、やっちまったではないだろう」

 

「のあっ!?」

 

こめかみに青筋を立てながら、角都は飛段のこめかみに蹴りをぶち当てた。容赦なしの踵だった。ヤクザキックを喰らわされた飛段は、そのまま木の枝の上から落ちた。すわ頭から落ちようかという体勢だったが、すんでのところで回転、足から着地する事に成功する。

 

「危ねえなおい、死ぬところだったろうが!?」

 

「お前が死ぬか! いいから急げこの馬鹿!」

 

「うるせえ、このジジイ! 死ななくてもスーパー痛かったじゃねえか! 後で覚えてろよお!」

 

 

不死コンビは怒鳴りあいながら、七尾の人柱力である少女、フウが居る家へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

同時刻。メンマはようやく復活した九那実と久しぶりの会話を楽しんでいた。

 

「もう大丈夫なの、キューちゃん」

 

『ああ………心配をかけたな』

 

「いや、まあ………心配したけど。それで、もう普通に話せるの?」

 

『ああ。大丈夫、大丈夫じゃ。それで、七尾の人柱力を迎えにいくのじゃろう?」

 

「今向かっている最中。それで、キューちゃんは七尾がどんななのか知ってる?」

 

『いや、知らん。互いに交流など無かったからの』

 

「そうなんだ………おっと」

 

『どうした?』

 

「いや、前の団体さんに気づかれそうだったんで」

 

『それでもこの距離で気付かれないって凄いね。まるで追い忍だね。ストーカーだね』

 

「人聞き悪いことを言うな。遊撃兵と言え。隠れている方が襲われたとしても不意打ちしやすいし」

 

不意打ちは俺の得意技です、とメンマは自信満々に告げた。

 

『胸を張ってまでいう事か。しかしまあ、戦いは機先を制する者が勝つとも言える』

 

「そうそう。それに、もう此処からは前情報なんぞ当てにならないし」

 

それで先日痛い目見たし油断はしないと、メンマは胆に力を込めた。

マダオが、呆れたように言う

 

『いや、あれはきっと不可抗力なんだよ』

 

(そうだろうなあ。というか想像できるか、あんなもん。偶然にも程があるだろ。ちくしょう神様何て大嫌いだって、あれ神様じゃん。うん納得した)

 

『まあ、そう表すに相応しい能力は持っていたよね。断言するけど、あれうちはマダラ並か、もしかしたらそれ以上に厄介な相手だよ』

 

(そうだよなあ。砂隠れに現れるかもしれんなあ………残っているサスケ達は本当に大丈夫だろか)

 

『………流石に、いち組織のボスが各地をうろちょろするのは無いと思うけど。あれは木の葉襲撃の際の事態の行く末を見ていただけと思うよ。あとは、ほら………岩とか霧の忍びを操っていたとか』

 

「まあ、十中八九それだろうなあ。あの後すぐに退いたって事を考えても。まあ、砂隠れには現れないだろうって、俺も分かってはいるんだけどね」

 

『………いやいや、あやつらも2年半前より格段に強くなっているじゃろうが。そう神経質になる事はないだろうに』

 

「いや、まあ、そうなんだけどね」

 

メンマは思う。あの長門の力を見たら、どうにも不安になってしまうよ。もしかしたら何でもありなんじゃないかとも。

 

『策も練ってるみたいだしね。それにしても五大国のどの里にも悟らせないであの規模の作戦を敢行するとは………あの長門、暗躍も大分いける口と見たね』

 

「酒みたいに言うなよ………かくなる上は各自が対処していくしかないのかあ」

 

『大まかな流れは里の長が決めるでしょ。僕たちは暁を削るのと、人柱力狩りを防ぐ事に専念すれば良いと思うよ』

 

「それだけか?」

 

『うん。事態が本格的に動き出すのは、雷影殿が回復してからだろうし』

 

メンマは頷いた。雷影さんは一方的にやられてただ黙ってるような性格じゃあないらしく、即座に反撃に出る以外の行動は考えられないと聞いていたからだ。

 

「まあ、現状俺達にできることは、この任務が無事終わるよう木の葉側の部隊をサポートすることだけだね」

 

『うむ。しかし、前方のあやつらも………以前とは見違える程に腕を上げたの』

 

「あ、キューちゃんもそう思った? かなり強くなったよね。結構きつい修行をこなしてきたみたいだし」

 

『そうじゃの。温泉でも………そう言っておったし』

 

何かを思いだしたのか、キューちゃんの顔が赤くなるのが分かった。

 

『うん、相当に鍛えられてるよ。キリちゃんもシカマル君も、上忍に相応しい能力を持っているね。他のみんなも、それに近い実力を持ってると見たよ僕は』

 

「そうだなあ………赤い狐、ばれるの怖いなあ。まあキリハとシカマル達が話さなければばれないだろうけど。あ、そういえば波風キリハの兄である“うずまきナルト”に関しては、全員がその情報を与えられてるんだっけ?」

 

『………中忍になったと同時に聞かされたって言ってたじゃない』

 

「そうだったっけ。しかし、中忍か………大丈夫なんかなぁ」

 

『ただの中忍じゃあないよ。みんな独特の秘術を保持しているからね』

 

木の葉の旧家・名家の秘術と血継限界。どれも凶悪な性能もっている以上、中忍の枠には収まらないとマダオは主張した。

 

『それに、その秘術があるからこそ木の葉は大陸一の忍び里で居られたんだよ』

 

「数に質って事ね。特定の戦場では鬼のような効果を発揮するだろうしなあ………流石は木の葉隠れの里って所か。隙が無くて層が厚い」

 

里は古く、歴史もある。人材も豊富で、里全体の総任務回数も大陸一。故に、術開発も進んでいる。ということは、人材も豊富。戦力が減ってもすぐに補充が可能ということだ。

『それに木の葉は気候的にも恵まれていて、人間も動物も、等しく住みやすい環境だしね。好きこのんで離れていく人は少ない』

 

『それでいて食材も豊富、だったか』

 

「そうだね。前に木の葉に留まっていた要因でもあるしね。でも、だからこそ色々な思想を持つ人間も出てくる。派閥もできやすい?」

 

『否定できないね。ま、木の葉の忍びには濃い性格持っている人も多いし』

 

「それに関しては、店を開いた初日に理解したよ…………ん?」

 

歩を進めながら話をしていた途中、気配を感じたメンマはその場に立ち止まり感覚を集中した。より深く、探る。

 

「………滝隠れの忍か。いや、それにしても」

 

『いやいや、随分と数が多い。こりゃあ一悶着あるかもね』

 

何かあるかもしれないから、用意だけはしておいた方がいいか。そう判断したメンマは、前を歩く木の葉一行と、それに近づく何者かの動向を注視し始めた。

 

 

 

 

一方。キリハ達は指定された約束の場所である虫鳴峠まで、あと少しの地点まで辿り着いたが、そこで足を止めた。

 

「………気配、だね………誰か近づいてくる」

 

先頭のキリハこちらに近づいてくる複数の気配を察知したのだ。全員に警戒を促し、いつでも戦闘に移れるようにと告げた。応じた各々は戦闘態勢を取った。前方の気配は隠密行動ではなく堂々と接近しているため、敵襲という可能性は薄い。

 

だが、場所が場所であり、時期が時期である。シカマルが、全員に注意を促した。間もなくして、気配の主が姿を現した。

 

「こんにちは」

 

「………こんにちは」

 

現れたのは、滝隠れの忍び。額当てを見るに間違いないだろう、とキリハは判断した。

 

「………あなた方が、木の葉の?」

 

「はい。木の葉隠れの上忍、波風キリハと申します。あなたが、迎えの人でしょうか? 指定の場所から、少し離れているようですが………」

 

「そのことについては、お詫びします。お恥ずかしい事ですが、指定の場所に関する情報が外部に漏れてしまったようで」

 

「それで、この場所まで迎えにきた訳ですか………」

 

キリハは迎えに来た面々を見渡し、話を続ける。

 

「話では滝隠れの長様が直々にお出迎えになられるとの事ですが…………あなたが、シブキ様で?」

 

そう言うと、男は苦笑しながら首を振る。

 

「いえ、違います。失礼しました、私の名前はシグレと申しまして。長は、その………フウめやらを捕らえる際に、負傷してしまいましてね。代わりとして、私が使わされました」

 

「それは…………長様は無事なのですか?」

 

「はい。命には別状ありませんが、今は安静の身でして………その、急な話で本当に申し訳ありません」

 

「はあ………」

 

そこで、キリハは考える。この滝忍の言葉を聞いて、考える。

 

(………話としてはおかしくない。そう、“話は”おかしくない、けど)

 

キリハはそこで行動の方針を決めた。

 

「前置きは止めましょう。その人柱力の少女は何処にいるのでしょうか」

 

「只今、こちらに…………」

 

茶髪の、恐らくはリーダー格の男は、後ろの者に何かを命じている。

 

数秒の後、森の暗がりから、少女が姿を現した。陽に当たる草原のように、黄碧の色をした髪に、やや赤を帯びた橙色を灯す瞳。赤い巻物を背に、随分と活発な服装をしている。以前にキリハが見た少女と同じ容姿、同じ服装だ。

 

「………彼女が?」

 

「はい。彼女が七尾の人柱力で、名をフウと申します」

 

笑顔のまま、男は答えた。キリハも笑顔を返し、ただ心の中だけで“成る程ね”と呟いた。

 

「承りました。ですが、シグレ殿? お出迎えにしても………随分と数が多いのでは?」

「ええと………すみません、それには事情がありまして」

 

キリハの問いに、シグレは困ったような表情を浮かべる。周りにいる者達は、シグレと同年代か、それより年下である若い忍ばかりだ。

 

「恥ずかしい話、滝隠れの中でも、人柱力を渡す事に反対する者が居ましてね。万が一の事を考えて、この人数でお出迎えを。木の葉の方々に何かあれば事ですから」

 

と、シグレは真剣な表情で告げた。

 

「これ以上は、その。お耳汚しになってしまいますので。申しわけないのですが、出来れば説明は控えて頂きたく」

 

「いえ、当然の事です。了解しました」

 

キリハは滝の面々を視線だけで見渡した後、一つ息を吐き、シグレに向き直る。

 

「分かりました。ですが、後、一つだけ。聞きたいことがあるのですが」

 

「何でしょう?」

 

キリハは一本指を立てて訊ねる。

 

 

「“これ”は、あなた方の独断という事でよろしいのでしょうか?」

 

キリハが、笑顔で訊ねる。

 

その言葉を発するか発しないかのタイミングで、土を蹴って走り出す音が。

 

 

「………死ね!」

 

勢いよく飛び出したのは、今まで黙って俯いていた少女、フウ。クナイを構え、シグレと会話中であるキリハの元へ迫っていく。

 

一歩踏みだし、走る。4歩目を踏み込んだ時には、間合いの中に標的を捉えていた。スピードで言えば中忍でも上の位階だろう。加え、全くの不意打ち。

 

通常ならば“やれる”間合いだった。警戒していなければ避けられないだろうタイミングで、刺客は手に持ったクナイで、キリハの首を突き刺そうとする。

 

――――だが。

 

「ぐあっ!?」

 

悲鳴を上げたのは、刺客の少女の方だった。

 

「………随分と、いきなりだね?」

 

キリハは首を目掛け突き出されたクナイを左手で横に捌き、同時に右の掌打で相手の胸部を打ち据えていた。

 

「それに、余りにも………下手すぎる!」

 

「ぐっ!?」

 

不意の一撃を避けられるとは思っていなかったのだろう刺客は、予想外の事態に身体を硬直させてしまう。その隙を付いて、キリハは右の回し蹴りを放った。回転半径の小さい、鋭さと速さを重視した回し蹴り。こめかみにその蹴りを受け、少女は吹き飛ばされた。

 

「ぐ、あっ?!」

 

苦痛の声が響き、煙が発生し、ボンという音が鳴った。“変化の術”が解けた音だ。

 

「やっぱりね」

 

キリハは呟きながら周囲にいた忍び達に向き直った。

 

「ひの、ふの………森に隠れているのを含めて、24人か。それで、あなた達? これはどういう事でしょうか」

 

「………」

 

言葉を受けた忍び達が目に見えて狼狽える。眼前の男、シグレだけは笑顔を保持したまま、動かない。そのまま、キリハに言葉を向けた。

 

「………一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「何なりと。あと、これは勘なんですけど」

 

一息だけ、間を置いてキリハは告げた。

 

「あなたには敬語は似合わない。そんな感じがするから………さっさと本性を現したらどうかな?」

 

「随分と、勘の鋭いお方で」

 

シグレはそう前置いた後、能面のような表情と共に言葉を通常のものに戻した。

 

「それで………奇襲に気づいたのも貴様の勘か?」

 

男の様子が一変した。気配も鋭くなり、威圧感を発してくる。目に見えて、周囲の忍び達の気配がより一層鋭くなった。それに呼応し、キリハの後ろにいるシカマル達の気配も濃くなっていく。その中で中心となっている二人は会話を続けた。

 

「まさか。勘は勘で、そんなに便利なものでもないよ。それに、勘に頼る程でもなかったから…………えっと、気づいた理由だっけ?」

 

そんな中、キリハだけは様子を変えずに肩をすくめ、相手の要望に応えその理由を説明しようとする。

 

「あなた達、ヒナタちゃんの方を意識しすぎだった。あれだけあからさまな挙動を取られたら、アカデミー生でも気づくよ?」

 

ヒナタを気にする。つまり、“白眼が発動されていないか、また発動されるのではないか”と警戒していたと叫んでいるようなものだ。キリハから見て、シグレ除く若い忍び達は、明らかにヒナタの方を注視しているように見えていた。

 

「隠し事があるって宣伝してるようなものだよ。あと、あの人。変化の術下手すぎ。加え、辛抱足りなさすぎ。わざと隙を見せた途端、速攻で襲ってくるとか………少しは気づかれてるかどうか怪しもうよ」

 

そこで一息ため息を吐いて、代わりとシカマルが一歩前に出た。

 

「………それで、シグレ殿。これは一体どういうことなんだ? 是非とも説明して頂きたいが」

 

あくまで冷静に、周囲への注意も怠らない。いつ飛びかかられるか分からない状況であっても、最低限のラインは必要だ。そう考えたシカマルは、同時にある程度の敵の力量を量っていた。

 

(飛びかかってこないで、未だ余裕を保っているのはこちらを甘く見ている証拠か)

 

数で劣る俺達など、いつでも殺せると思っているのだろうが。

呆れたシカマルに、シグレが答えた。

 

「どうもこうも、なあ?」

 

その余裕を信じている男は、肩をすくめたままシカマルの問いに答えた。

 

「木の葉にアレは渡さないと。そういう意味だが?」

 

「………アレ?」

 

キバは赤丸に乗ったまま、シグレに訊ねる。

 

「あの、虫娘の事だ。察しが悪いな、木の葉の忍びは」

 

ふん、と鼻で笑って男は忌々しげに答える。

 

「確かに、あのような化け物など滝隠れの里には必要のないものだ。里が決定した“誰かに渡す”という点に関しては同意もしよう。だが、それも相手による」

 

淡々と、シグレは続けた。

 

「我らは弱小の里。それは理解している。だが、そんな我らのような小里にだけしか分からない事もある………勝ち目に乗るということだ。次に起こる戦争、何処か勝つかなんて事は分かり切っている。それを、里の爺共は分かっていない。現状の維持だけに精一杯で、視野が狭くなっているのだ」

 

「あんたは視野が広い、ってこと?」

 

いのが嘲笑を浴びせかける。

 

「そうだ。俺は力を見た。あの方の圧倒的な力を見た。あれが唯一、絶対なる力というものだ」

 

シグレは興奮を隠せないように話し、それに引っかかったキリハが問いかけた。

 

「あの方………ってもしかして雨隠れの長の事かな」

 

「そうだ。あのような力、俺は今まで見たことがない。正しく、神の所行だった」

 

その言葉には、信仰に誓い響きを感じた。力に対する信仰だろうか。男の瞳は何処か危うい光りを灯していた。

 

「だが、里の爺共にそれを話しても理解しようとしない。聞くこともしない。だから、俺が引っ張っていくのだ。お前らの死体を以て新たなる同盟を結ぶ決意とする。これは滝隠れのためになる、英断だ」

 

「そう………フウっていう少女も、その取引の道具と言う訳?」

 

「勿論だ。主の言うことを聞かない兵器など、危なくて仕方がない。それに、化け物には化け物に相応しい使い方があるだろう。なに、最後に人様の役に立てるのだ。あの小娘も本望だろうて」

 

シグレは尾獣と人柱力の“正しい”使い方だと言い、下卑た嗤いを零した。それを観察していた油女シノが無表情のまま問うた。

 

「………よく口が回る。俺達にそこまで話していいのか?」

 

「何、冥土の土産だよ………どうせ、誰にも話せない」

 

皆殺しを宣言する男を見て、シカマルは目を細くしながら相手の思惑を読み取っていた。

 

(………加え、背後の忍び、恐らくは同士の意志を統一し、更に強めるため、か)

 

木の葉の面々は包囲が狭まっていくのを感じる。まだ増援が居たようだと。

じゃり、と地面を踏みしめる音がする。いよいよ緊迫していく場の中で、一人だけ違う空気を纏っている者が居た。

 

その者は――――キリハは、俯き前髪に表情を隠しながら、口を開いた。

 

「随分と、語ってくれるもんだね。前にフウって人を見たけど………」

 

キリハは2週間ほど前に見た少女の姿を思い出していた。痛みに顔を顰め、森の方へと逃げていった少女。あの苦痛を浮かべた顔、そして流れていた血の赤。兄と我愛羅以外の人柱力を見たのは、初めてだった。そして一目見ただけで分かった。あの少女も同じなのだと。あの表情。あの血。あの姿。あの瞳。

 

「あの人は………血を流して苦しんでいたよ。痛いと辛いって思う人間じゃない。なのに…………道具? 兵器!?」

 

キリハは血が出るほどに拳を握りしめ、歯を軋らせながら、叫んだ。

 

「人柱力って言ってもさ! 尾獣が封印されているだけの、“人間”じゃない! 苦しみもすれば、痛みも感じる、人間じゃないか!」

 

叫びと共に、キリハのチャクラと殺気が膨れあがった。

 

「誰も彼もが人間じゃない! 人間を、道具扱いするな! 都合のいいように理屈だけならべて、さもそうするのが当たりまえだなんて言わないでよ!」

 

人柱力を“そういうものだ”と決めつけて、死ねと言う。人間を見ないで、ただ誰かが並び立てた理屈を信じて、死ねと言う。流す涙も血も見ないで、ただ死ねと言う。

 

キリハはそれが我慢ならなかった。確かに、危険な存在かもしれない。偽りのない事実かもしれない。だがそれだけで死ねと言う、道具扱いする、兵器と信じて疑わない人達が居るという。

 

「―――ふざけるな。そんな理屈は、認めない」

 

「な………っ、風?」

 

怒りに震えるキリハに呼応するよう、暴風が場に荒れ狂った。チャクラに反応した耳飾りが、輝く。目に見えて膨らんだチャクラを前に、滝隠れ忍び達が一歩後ずさる。

 

キリハはシグレを指さし、告げる。

 

「あなただけは許さない。これ以上誰にも、そんな巫山戯た理屈を語らせはしない!」

 

「………戯れ言を! 全員かかれ!」

 

シグレが号令をかける。だが、それと同時に何かが飛来する。

 

「なっ、起爆札!?」

 

それを視認したシグレが、叫ぶ。木の葉一行の後方から、起爆札付きクナイが複数飛んできたのだ。

 

「散開!」

 

爆発から逃れるために、散開する。直後に、爆発が起きた。滝隠れの忍び達は被害を受けなかったが、包囲が崩されてしまう。

 

シカマルは、クナイと同時に飛んできた、チャクラが篭められた紙飛行機を受け取り、それに書いていた文を見る。

 

(………思っていた通り。足止めの可能性が高いか)

 

そして、こうも書かれていた。

 

“こちらは先にフウの方を保護しにいくが、それでいいかと”

 

「………」

 

シカマルは言葉を発さず、腕を上げた。予め決めていた“OK”の合図だ。

やることを済ませたシカマルは、号令を発した。

 

「全員、行くぞ! 一人も逃すな――――ここを死守する!」

 

シカマルの号令と共に、木の葉側も小隊単位で散開し、切り込んでいく。

 

 

 

死闘が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、起爆札を投げたメンマは、シカマルの合図を受け取って、森の奥深くまで入っていった。

 

「あの野郎の物言いはかなーり苛ついたけど………言いたいことはキリハが言ってくれたしな」

 

あとは信頼して任せようとの言葉に、マダオが頷いた。

 

『そうだね。でも、その場所が分からないけど』

 

「このままじゃ埒があかんな………ひとまず、上に昇ってみるか」

 

メンマは一番背の高い木を見つけると、それに飛び移った。足底をチャクラで吸着し、頂上まで素早く登っていく。そして、フウの家があると思われる方向を見た。

 

そこで家そのものではないが、一カ所だけ煙が立ち上っている所を発見した。

 

「拙いな、もう始まってるようだ」

 

『それにかなり距離が離れて………このままじゃ間に合いそうにないけど、どうする?』

「手はあるけど、不死コンビに1対2か。使える策は少ないけど………迷っている暇はない」

 

『いや、策はあるぞ。こういうのはどうじゃ?』

 

キューちゃんが角都・飛段のコンビに対する戦術案を提案。それを聞いたメンマは、成る程と頷く。

 

「………確率は五分だけど、まあ上等か。もしかしたら行けるかも。流石キューちゃん、えげつない!」

 

『年の功だっちゃわいねー!』

 

『お主ら好き勝手言ってくれるのぉ!?』

 

「ってまあ、説教は後で! じゃあ、行きますか! セット!」

 

 

メンマは懐から札の付いたクナイを取り出し、右手に構えた。

 

 

『………飛ぶの?』

 

「応!」

 

まず始めに木のてっぺんに足底を吸着。目的の方向に向け、直立した。そして呼吸が止まる程にその場で、全身を捻る。ぎりぎりと筋肉が音鳴る程に、全力で全身を捻転させた

 

ねじりの果て、引き絞った果てで一瞬、硬直させてから、一気に解放する。

 

「いけええええええええええ!」

 

回転の勢いそのままに。メンマは戦闘が行われていると思われる場所目掛けて、手に持ったクナイを全力で投擲した。

 

先端が重くなっているクナイが空を駆けて往き――――

 

「――――角度よし! 飛距離よし!」

 

フォロースルーも束の間に。クナイの着地点を確認した後、メンマは自らの掌に拳を打ち込み、自らを鼓舞した。

 

「………準備よし! 覚悟よし!」

 

これから赴く場所は死地だ。この目で見てはいないが相手は恐らく暁だろう。

メンマはそれをしっかりと認識し、把握した上で自分に問いかけた。

 

行くか、ここから逃げるか。

 

「ってえ、誰が逃げるかよ!」

 

 

声によって選ばない方を蹴り飛ばし、選びたい方を叫び、

 

 

「――――ジャンプ!」

 

 

投げたクナイに刻まれた印の元へ。戦意を携えた馬鹿は、雷のように飛んだ。

 

 

 

 


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