小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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2話 : 遭遇戦(超級)

 

 

まさか、と思った。あるわけない、と叫びたい衝動に駆られる。まさかまさか、かの童謡のような事態が現実に起こる得るとは。

 

様々な難事、珍事に携わってきたが、これだけの無茶振りな状況にはついぞ出逢ったことがない。

 

そうして小池メンマが謳った。

 

ある日、森の中、神様に、出逢った。

 

死の咲く、森の道でー、と。

 

(いやちょっと待ってまずいまずいまずいまずいまずい)

 

頭の中ではデフォルメされたマダオがどうしてこうなったと言いながら踊っている。ありがとうマダオ。少し落ち着いたよ。

 

『どういたしまして、って言ってる場合じゃないよ』

 

分かってるよ。目の前を敵を見据える。滝のような汗が全身から吹き出ている。もうどうにも止まらない。それほどまでに目の前に映る人物が強いからだ。

 

通称“雨隠れの神”。今思い出した。彼はそう呼ばれていた筈。一人呟き、納得する。これだけの力量、神と呼ばれる筈だ。

 

(拙いな………)

 

メンマは対峙する相手を見据え、どうしようかとひとりごちた。なにせ先の会議でも名前が挙がった、というか俺が挙げた噂の人物だ。

 

三大瞳術の中で最も崇高たる螺旋の紋様。輪廻眼を持つ暁の首領、ペインその人である。

(………それよりも)

 

若い。それに、髪の毛の色が黒い。

 

(原作知識、今はもうほとんど思い出せないけど………)

 

こんな容姿をしていたか、と首を傾げる。記憶では確か金髪だったような気がするが、よく思い出せない。長門という、かつて自来也の弟子だった少年の髪は黒かったが、こいつがそうなのだろうか。

 

(分からない事が多すぎる)

 

能力に関しては印象深いものもあるし、書きためたものがあるので覚えてはいるが、人物の容姿に関してはその限りではない。

 

(こんな顔だったか?)

 

目の前の人物を見据える。黒い髪と螺旋の瞳。そして尋常ではない程に研ぎ澄まされているチャクラ。

 

(それに………一人か)

 

六道と言うことで、分身体のようなものが6人いるとまでは覚えているが、そいつらはいない。気配を探ってみたが、影も形もない。

 

(………ヤバいなあ)

 

気配を隠しているのか、それとも今は周囲にはいないのか。前者だと本格的に拙い。後者でも、安心はできないが。

 

(口寄せを使うんだろうなあ………)

 

メンマはもしかしたら此処にこれない、などという希望的観測は持たない。現実は非常に非情である。来る、と想定して動かないと予想外の事態になった時に動揺してしまう。

戦闘の最中、思考と動きが止まってしまうのは殺してくれと言っているようなもの。

 

加え、見過ごせない要因がもうひとつ。メンマは相手の能力の全容が分からなかった。口寄せを使うとか、螺旋丸を吸収するとか、一部分の術に関しては覚えているがその他の術については定かではない。

 

情報が戦場の命運を左様する昨今、108の秘技(予想)を持つであろうこのお方とのチキチキ遭遇戦ガチバトルは是が非でもお断りしたいものだが。

 

『………結界が、張られてるね』

 

飛雷神の術対策だろうか、それとも別の何かが目的なのか。時空間移動忍術を封じる結界が張られている。随分と高度な結界術である。だが、目の前の人物ならば確かに可能なのだろう。

 

『大魔王からは逃げられない、というものか』

 

(そうだねキューちゃん)

 

しかし、大魔王との遭遇戦とか笑えない。乾いた笑いならばいくらでも出てくるが。

 

「どうしてこうなった…………」

 

思わず呟き、このような事態に陥った原因を探してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

会見から数日経過した。俺は朝もはよから宿の前に立ち、欠伸をしていた。

 

「ふわああ………ねむ」

 

昨日にエロ仙人とカンクロウ、任務を終えて戻ってきたカカシを交えて遅くまで作戦会議………をする訳もなく。

 

「語り合おう」

 

カカシの一言によって急遽漫談会議となったのだ。議題は“俺の嫁”。

 

テーマは“イチャイチャメモリアル”に継ぐ新作漫画、“イチャイチャナイト”についてだ。互いに己の魂を主張しあい、時には殴り合い、時には肩を叩きながら激論を交わしていたのだ。

 

カンクロウは眼鏡お嬢様のセーラ一択。なんでも周りが気の強い女性ばっかりなので、癒しを求めたいらしい。テマリに後でちくっておこう。じゃん。

 

カカシはロリなロリィだった。駄目だこいつ早く何とかしないと。ちなみに自来也の書いたロリィは何故か金髪だった。こいつも物理的に何とかしないと………。

 

ちなみに俺はライズだ。それ以外有り得ん。キューちゃんに後で噛みつかれようが、それだけは譲れない。

 

ちなみにサスケはジーンがいいらしい。再不斬は読んでいない。読ませてからかおうと本を持っていった所、部屋から出てきた白にみつかったのだ。後はお察し下さい。

 

我愛羅は読んでいないらしい。流石は風影。真面目ですな。彼女的な存在がいるし。

 

ちなみにマダオには聞いていない。リアル嫁がいたマダオなどに聞くことなど、一つもないからだ。

 

すると、心の中のマダオが突然叫びだした。

 

『………やさしくない。やさしくない!』

 

………ちょっ、おまえ、それは。

 

『はやく、きえて!』

 

それは、まさか………!

 

『あなたには.……… この人の……… 負ける者の悲しみなどわからないのよッ』

 

ぐあああああ! やめろ!

 

『ねぇ………ビュウ。大人になるってかなしい事なの』

 

トラウマをほじくり返すなああああああ! 復讐か、復讐なのか! てめえに聞かせたのはこういう使い方をさせるためなんかじゃねえよ!?

 

『サラマンダーより、ずっとはやい!!』

 

「てめえ表に出ろおおおおおおおお!」

 

最後の一言が決定打。トリガーワードを連発された俺はぶちきれた。

 

 

 

 

 

 

数分後。

 

「おはよー………って随分と疲れてるけど」

 

どうしたの、と背後から銀髪マスクさんがやる気のない声で聞いてくる。

 

「………何でもない。男達の慟哭について話していたのさ」

 

拳を交えて。主に前半はいいが、後半は許せんということで。

 

(………それはひとまず横に置いといて。このマスクさん時間通りに来ましたがな)

 

昨日に自来也から聞いた話は本当だったようだ。どうも以前と比べて任務に対する構え………いうかぶっちゃけていえば遅刻に関してはましになったらしい。でも、やる気満々というわけでもない。さもあらん、人は容易く変われないという事だろう。

 

『お主とマダオも似たようなものだろうに』

 

ごもっともで。

 

ともあれ、カカシと一緒に俺は試験会場である死の森へと向かった。何でも、雨隠れの受験生を見て欲しいとのこと。2年前、砂で行われた時の受験生とは随分と様子が違っているらしい。

 

「じゃあ、これを」

 

「ん、これは暗部の面か」

 

「顔を隠しておいた方がいいからね。後、例の赤髪の姿には変化しない方がいいよ」

 

カカシに忠告された。あの時こっぴどくやられたというか俺がやってしまった面々が俺の事を探しているようだ。“赤毛の狐面、コロス”とよなよな森の中から声が聞こえてくるらしい。そりゃ、あんなに罵詈雑言浴びせながら徹底的にぶちのめしたらなあ。温厚なヒナタでさえ怒るだろうね。

 

「とまれかくまれ………逝こうか」

 

都合の悪い事は忘れるに限る。何時かは爆発するのかもしれないが、その時はその時だ

 

「いや、字が違う気が………まあいいか」

 

流石は面倒くさがりやナンバー1。年期の入ったスルーっぷりです。道中。カカシはかつての生徒であったサスケの事を聞いてきた。あの後、カカシに限ってはうちはの顛末を話すことにしたらしい。

 

「うちはイタチが、ねえ………」

 

カカシは自分の写輪眼を抑えながら、ぽつりと呟く。亡き親友の事を思い出しているのかもしれない。

 

「それで、サスケはどうする事にしたの?」

 

「まずはイタチと話をするって。どうも、イタチ本人は裁かれる事を望んでいるようだから」

 

これは俺なりに考えた末の結論だ。万華鏡写輪眼の開眼ということもあるが、何よりイタチは殺される事を望んでいる。本来は優しい心根の持ち主であるイタチの事だ。罪の呵責に苛まれているに違いない。

 

「それ以外の道は見えなくなっているだろうね。復讐される事、死ぬことしか望んでいないと思う。だから、ひとまず殴って眼を覚まさせるって」

 

「そうか………サスケは、強くなったんだな」

 

「あらゆる意味でね。以前とは別人だってぐらいには」

 

基礎能力を磨きに磨いた。マダオと俺の経験談を元に状況を想定した模擬戦闘を重ね、戦術にも幅ができた。体術も血反吐が出るまで鍛えた。頭の固さも取れた。匠の里の業師に特注で作ってもらった刀もある。チャクラの形態変化、性質変化の助長を促す特殊な金属鉱を合成して作った切り札。

 

銘を“雷紋”という。雷紋とは力の集約を意味する紋様。魔除けの意味もあるらしい。ラーメンのどんぶりに刻まれる模様としても使われている、不思議な紋様だ。

 

雷紋は、サスケの戦闘能力を飛躍的にとはいわないが、かなりの度合いで高めてくれる。元が攻撃に移動に、速度に優れるサスケだ。再不斬の持つ首切り包丁のような身の丈にも匹敵するような大刀ならばその速度を殺すことにもなろうが、雷紋はせいぜいが打刀程度。刀を持つ事によって速度は多少落ちることとなったが、それよりも間合いの広がりと、忍術運用の助長という利点の方が大きい。

 

「………呪印は使わず、生身で目的を成し遂げるつもりか」

 

「ああ」

 

一時期は迷っていたようだが、多由也の気持ちの事もあるのだろう。それに何より、もう憎しみや恨みで戦うのは嫌だと言っていた。それは甘さともいう、弱さともいう。だが、強さとも言う。長い夜でも己を失わず、暗い闇を前にしても尚、戦う意志を維持できる心を持っている。奪い勝つための力ではなく、守り負けないための強さだ。

 

「今の俺でも、サスケとは正面切って戦いたくないね」

 

成長したサスケを前に、再不斬も同じ感想を抱いていた。

 

「そういえば、あの映画じゃあその一端を見られたっけ………」

 

カカシが半眼で見つめてくる。まずい。やはりばれていたらしい。

 

「風雲姫の冒険…完結編………出てたでしょ」

 

「やっぱり分かる?」

 

あの雪の国での事件、そしてその事件後の撮影とを編集し、掛け合わせて作成した、マキノ監督渾身の作。今も上映中の大ヒットロングラン映画、”風雲姫の冒険…完結編”に、サスケが登場するシーンが在ったのだ。あのとき、俺の影分身体と再不斬とが担いで連れて行った監督とカメラさん。見事にあの最後の一撃のシーンをカメラの中にとらえていたらしい。

 

編集と合成で顔は変えてもらったが、動きを見れば分かる人には分かる。

とはいっても、はっきりとサスケと分かるのは、カカシとかサクラとかキリハなどの、日頃身近でサスケの動きを見ていた者だけなのだが。

 

「裏の人間には、あれが忍びの動きだって事は分かってたみたいだけどね」

 

だが、取り立てて追求することも無かったらしい。何しろ、富士風雪絵はいまや世界で3本の指に入る程の有名人だ。

いかな忍びとはいえ、迂闊に手を出すことも出来ない。というか、出す意味もない。

あれがうちは一族の生き残りだと分かればまた違ったかもしれないが。

 

「五代目にはオレが進言したからね。サスケの事云々は裏で話したから」

 

木の葉も静観を選んだらしい。カカシグッジョブ。

 

「しかし、雪の国の忍び相手にねえ………」

 

やや不機嫌そうに、カカシは頭をかきながら呟いた。彼の中でも、12年前の雪の国での一戦は忌まわしき思い出として胸の中に残っていたようだ。もう仇はいないが、できるなら自分で借りを返したかったのだろう。

 

「ま、あの鎧は厄介だったけど、中身がスカだったからね。何とかなったよ」

 

「………狼牙ナダレは?」

 

「用心棒の先生にばっさりやってもらいました」

 

「用心棒、ねえ………そういえば、最後の一撃。サスケのあれ、新術のようだったけど」

あれは何、と訊ねてくる。

 

「俺案、サスケ改良の新技です」

 

「そうなんだ………結構な術使うねえ。見栄えもいいし。サクラが映画館できゃーきゃー叫んでたよ」

 

「………というか聞きたいんだけど、あれがサスケだって気づいていたのは誰と誰?」

 

「まあ、キリハとサクラぐらいかな。サクラがラストのシーンを見てまた、別の意味で叫んでたけど」

 

「マジでか」

 

「真剣と書いてマジです」

 

映画を見た後、演習場の広場にて「しゃーんなろー!」とか言いながら赤毛の人形を殴っていたらしい。とどめは師匠譲りの怪力拳で破砕。哀れ赤毛の人形は空に散ってしまいましたとさキリハはそれを苦笑して見てたそうだが。

 

「いや止めろよ。つーか怖いよ」

 

「………無理だね」

 

カカシは目を瞑ったまま首を横に振る。

 

「いやだってね。その後ね………そこらの岩掴んで握力だけで粉砕していたんだよ?」

 

「はっはっは」

 

怖い。冗談抜きで。月のない夜の帰り道は、気を付けるようにしようもし、出逢ってしまったら…………その時の事を想像してみる。

 

 

満月の夜。人気の無い小道。

其処には、月の光をデコで反射する女神の姿が---!

 

「………いや、女神は無いな」

 

『無いねえ』

 

『無いのう』

 

きっと邪神かなにかだろう。でも桃色の邪神って………何か良いな。

 

『良いのかよ!』

 

「で、何で赤毛? もしかしなくても拙者の事でござんすか?」

 

「うん。ちなみに“赤毛の狐面の忍”を見つけたら山中花店まで連絡を~とか張り紙があったらしいよ」

 

その紙の端には禍々しい血痕が付いていたらしい。みんな、良い感じに暴走しているなあ。一番暴走しているのは間違いなくサクラだろうけど。

 

『これで、サスケくんが最近多由也ちゃんとちょっと良い感じに仕上がってるとか悟られた日にゃあ………』

 

………怖いこと言うなよマダオ。

もしかしてを想像しちゃうじゃないか。

 

『………摺り下ろし林檎?』

 

素で怖い事言わないでくれ。しかしピンクの邪神は恐ろしいな。決めセリフはこうだ。「自慢の怪力で粉砕しちゃうぞ(★)」とか地味に怖い。映画化決定。

 

『いや、お子様には見せられないでしょ』

 

ホラー映画なら有りだと思うけど。

 

『何処の世界に邪神が勝つ映画があるのさ』

 

つーかサクラが勝つんだ………。

 

 

 

 

 

そんなこんなを話ながら数分後。俺達は死の森入り口に到着した。今年も試験官の役割を任じられたアンコ女史。随分と不機嫌そうな顔をした彼女に挨拶をした後、死の森の中へと入っていく。相変わらずの網タイツっぽいインナーに締め付けられる巨大なπO2に合掌したくなるが、何とか踏みとどまった。

 

 

そうして、森に入って数刻後。試験開始、つまり受験生が死の森に入ってから115時間が経過したらしい。俺とカカシは先程見た雨隠れの忍びについて話し合っていた。

 

「随分と珍しい術を使うヤツが多かったねえ」

 

「………そんなに珍しいのか?」

 

カカシ曰く、“俺でも見たことの無い術”らしい。

 

「………失伝した忍術、とかその辺りだろう。問題は、なんであの雨隠れの………恐らくは下忍~中忍クラスの忍び、か。あいつらがそんな忍術を扱えているかって事だ」

 

しかも、よりにもよってこの時機にか。

 

「どうにも………きな臭いね」

 

カカシがため息を吐く。

 

「でも、迂闊に手を出せないしね………このまま、調査を続ける?」

 

例の予備試験会場までいくか、とカカシが訊ねてくる。

 

「そろそろ、五代目が会場に到着する予定だし………?!」

 

カカシは最後まで言えなかった。言葉が爆音にかき消されたからだ。

 

「………受験生同士の戦闘かな」

 

そろそろ時間切れだし、と言おうとするが、言葉は再び爆音にかき消される。

 

「随分と派手だな………」

 

受験生が忍術を使ったのであろう。そう思ったと同時、森の向こうから暗部が駆け寄ってきた。

 

「カカシ上忍!」

 

「何だ、随分と慌てた様子で。何かあったの?」

 

「火影様が何者かに襲われております!」

 

「「何!?」」

 

どうやら雨隠れの受験生の一部が移動中の綱手とその護衛の一団を襲ったとの事。この新米の暗部は隊の上司に命令されて近場にいたカカシの元へと救援要請をしに来たらしい。

「状況は分かった、護衛の忍びは?」

 

「名家、旧家の面々に加え、猿飛上忍と日向上忍が応戦中です」

 

「そうか………」

 

カカシは思案顔になる。そしてすぐに判断を下した。自分は綱手様の元へと救援に向かうから。俺は外にいる我愛羅の元へと行ってくれ、とのことだ。

 

「了解」

 

確かに。今、俺がその襲撃場所に行くとややこしいことになりそうだし。

それに、同時襲撃の可能性もある。我愛羅の方にも刺客が向かっているのかもしれない。

「良し。じゃあ、急ぐぞ!」

 

俺はカカシと別れ、一人森の外へと急いだ。

 

 

 

 

そして、その道中。森の中を全速の一歩手前の速度で走っている最中だ。ふと見えたものに気を取られ、俺は足を止めた。

 

「………」

 

ほんの僅か。俺でも警戒状態でなければ分からなかったであろう、ほんの僅かな気配を感じ取ったのだ。

 

(………誰だ?)

 

気配の消し方から、隠れている相手は相当の手練れだという事が予想される。だが、その刺客が何故こんな所に居る? 現在戦闘が行われているという試験会場付近から、ここは随分と距離が離れている。此処に隠れている意味が分からない。

 

『襲撃実行者の撤退を支援する忍びじゃない?』

 

(そうかもな。だったら………)

 

倒しておくか、と思うがやっぱり止める。

 

『我愛羅君の方に向かうの?』

 

(ああ。そっちを優先する…………っと)

 

舌打ちをする。隠れていた気配が通常の濃度に戻り、それがこちらに近づいて来たからだ。

 

(足を止めたのが仇になったか)

 

俺が気配を察知した事、相手も悟ったのだろう。間違いなく俺を消しに来ている。

 

(速いな、くそ)

 

尋常な速度ではない。

 

(………もしかしなくても、俺より速い)

 

逃げようにも普通に逃げるだけでは補足されそうだ。

 

『走って逃げるの?』

 

(いや。煙玉使って目を眩ませた後、飛雷神の術を使う。相手の足も速いし、普通じゃ無理っぽい………でも)

 

『その前に相手の顔を見ておきたい?』

 

その通り。誰が動いているかを見ておきたい。逃げるのはそれからでもできる。飛雷神の術も、前よりは安定して使う事ができる。一日三回程度ならば副作用も起きない。

 

(あと少し………さて、鬼が出るか蛇が出るか………………っつ!?)

 

現れた人物を見て、俺は目を見開く。

 

結論から言うと神が出ました。藪蛇ならぬ藪神です。

 

 

いきなりラスボスである。どないなっとるんじゃ。金返せマダオ。

 

『いや、僕のせいじゃないけど………』

 

いや、分かってるけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場面は冒頭に戻る。

 

(何でこいつが此処にいる?)

 

綱手襲撃に一枚噛んでいるのは分かる。だが、それならば何故綱手襲撃に参加しない?

互いに対峙してから、分を越えたその時。目の前の男、ペインは口を開いた。

 

「ふん、まさかこんな所で会うとはな」

 

(………こっちのセリフだっちゅーに………っていや、待て)

 

俺は今変化している上に、面を被っている。こんな姿をした人間、この世界の何処にもいない筈だ。

 

(それなのにこいつ、まさか………!)

 

俺の予想の答えは、すぐに相手の口から出された。

 

「影分身の原理を応用したか。成程、随分と高度な術だが………俺には通用しない。元の姿に戻ったらどうだ」

 

うずまきナルト、とペインが言い放つ。

 

「………何のことだ? いや、それにどちら様でしょう?」

 

ひとまず惚けてみる。だがこの相手には通じなかったようだ。

 

「とぼけるな。いや、なんならその姿のままでも構わないぞ」

 

苦心の演技も、ばっさりと一刀両断された。何もかも見抜かれている。この変化している姿だと若干だが戦闘能力が落ちる事をも見抜かれている。

 

「仕方ない、か」

 

一言呟いた後、変化を解く。それを見たペインはため息を吐いた後、首を横に振った。

 

「………イタチが分からない筈だ。まさかこれほどまでに高度な変化を身につけていようとはな」

 

「どうしてお前には分かった?」

 

「なに、簡単だ。お主の身の内に潜むものを見ただけだ」

 

答え、ペインは印を素早く組んだ後、告げた。

 

「土遁・土流槍」

 

地面を足で踏みつけると同時、地面が形を変えた。

 

「くっ!?」

 

足元の地面が隆起。形状が槍の姿に代わり、俺を貫かんと殺到する。俺は目視と同時に咄嗟に飛び上がり、背後の木の枝の上へと退避する。

 

「………ほう、なかなかやるようだな」

 

今の俺の動作を見たのだろう。ペインは感心したように頷く。

 

「あんた程では無いけどね」

 

印の速度、そして印を組むに至るまでの造作。共に超一流だ。咄嗟に距離を詰められなかった。術を妨害する事もできなかった。あまりに洗練された動作。間違いなく、今まで対峙した相手の中でも一番強い。

 

「………ふん、チャクラ量にものを言わせた力押しタイプだと思ったがな。どうやら違うようだ」

 

「…………」

 

ペインの呟きに俺は言葉を返さない。そういう戦闘方法もあるにはある。剛で柔を断つ、という戦闘方法も小細工を要する相手など、時には有効となる場合があるのだ。とりわけ、人柱力みたいな莫大なチャクラを保持するタイプはその戦術を頼る傾向が多い。

 

(でも、この相手にはその戦術は通用しないだろうな)

 

正面から突進したとしていなされるだけだろう。どうにも力の底が見えなかった。相手の戦術も見極められないのは初めてだ。

 

『………底が知れない、ってこういう事を言うんだね』

 

力量差はある。確実に相手の方が上であろう事は理解できる。それは間違いないのだが、問題はそこではない。

 

『どれだけの力の差があるか………正直、分からないね』

 

動作や雰囲気、術の精度からある程度の力量は測れる。修行時代、かの忍界大戦を経験した忍びほどではないが、それなりの実戦をこなしてきた。そこそこの修羅場は潜ってきたつもりだ。だがそんな俺でもこのペインの力量がどの位置にあるのかはっきりしない。

 

『それだけ、相手の方が上手って事だね』

 

マダオの呟きに、俺は頷く。恐らくは、その推察は正しいのだろう。だが、腑に落ちない点がある。

 

(こいつ、これほどまでに強かったか………?)

 

一対一、いや一体六でも、仙人モードの自来也なら対峙できていた筈。だがこの相手、どうにもおかしい点が多すぎる。力量もそうだが、存在が異様すぎる。単純な力量を見ても、それが分かる。図抜けているというレベルではないのだ。

 

 

思考の最中、知らず俺の口から言葉が零れ出す。

 

「………お前は、何者だ?」

 

その言葉に、ペインらしき男は嘲笑だけを返す。

 

「………聞いて答える馬鹿がいるのか?」

 

「それもごもっとも」

 

俺は言葉を返しながら、内心で首を傾げる。

 

奢りも無く、稚気の欠片もない相手を前に。油断も隙もないこの目の前で考える仕草を見せて俺を誘っているこの神とやらに対して、俺はかつてない危機感を抱いていた。

 

加え、胸中にあるのは違和感。何かが致命的に違っているという予感。何かが盛大にずれているという確信。

 

『………でも、それを考えるのは後だよ』

 

『今はこの場を凌ぐ事に集中じゃ』

 

(………ああ)

 

何とか、揺れる心を押さえつける。だが、ペインから発せられた言葉を聞いて、俺は再び動揺した。

 

「ふむ………どうやらお前、俺の正体に関して心辺りがあるようだな。成程、成程?」

 

どうしたものか、と顎に手を当てる。何の事だ、という言葉を返せない。洞察力に優れているだろうこいつに、俺程度の下手な演技は何の意味も成さないようだからだ。

 

これ以上話すと不味いことになるかもしれない。そう判断した俺は攻撃に移ろうとするが、相手に機先を制された。

 

「ふん」

 

螺旋の目が輝く。そして膨れあがる莫大なチャクラ。

 

「………今更、お前の中にいる九尾の残骸などに興味は無いが」

 

「………なっ!?」

 

気づかれている、と狼狽える暇も無い。異様な速度で組まれた印。直後、ペインらしき男の周りの空気が帯電し始めた。

 

「不穏分子には消えて貰うに限る」

 

だから死ね、と告げられたと同時だった。

 

 

「雷遁・雷流閃」

 

 

 

幾重にも束ねられた稲光が、視界を覆い尽くした。

 

 

 

 


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