小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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※※この章からは、メインは三人称になります※※


2章 : 暁編
1話 : 動き始めた影


 

暗い洞窟の中。雲隠れの尾獣、生き霊と呼ばれる化け猫である二尾をその身に宿す人柱力、二位ユギトは、背後から襲い来る恐怖から逃れようと、必死に逃げていた。

 

齢二つで人柱力となった彼女は、その当時は忌まれる存在となったが、修行の末に尾獣の制御に成功。自ら信頼を勝ち得た程の努力家で、実力者でもある。そんな彼女でも、背後にある強敵からは逃げるしかなかった。

 

対峙した瞬間、理解したからだ。真正面からやりあっても勝てない、と。

 

「くそ…………何なんだ、アイツらは………!」

 

ユギトは修行中に突如現れた一人と一体を思いだし、下唇を噛んだ。一体は、とてつもない怪物。自分の覚醒体に匹敵する程の巨躯を持つ化け物だ。尾は無かった。尾獣では無いだろう。その身は漆黒に包まれており、形が安定していなかった。亀のような、獣のような形状をした、黒い塊というのが正しい表現だと思われる。

 

一人はその怪物を従える………恐らくは忍びであろう。フードを被っているので男か女かは分からないが、強敵だと言うことは理解できた。相手のチャクラを感じた、正直な感想だ。今までに感じた事の無い凄みがあった。あの化け物を従えているのを考えても、ただ者ではない事は分かった。

 

(この先に行けば………!)

 

少し開けた場所がある。その広場の天井には、万が一の襲撃を考えて起爆札をセットしているのだ。幸い、ここは雲隠れ近くの里。自分の修行場だ。地の利はこちらにある。あいつらがいかな規格外の怪物とはいえ、洞窟の崩落による巨岩の圧殺からは逃れられまい。

ユギトはそう考えていた。全速で洞窟を駆け抜ける。背後からは、化け物の足音が聞こえるので、どうやら追い続けてくれているようだった。

 

(後、少し………よし、かかった!)

 

洞窟の広場の向こう。安全地帯に逃げ込んだと同時、化け物が結界内に入る。同時、起爆札が爆発した。自分と、あと特定の忍び以外が侵入すると同時に、爆発するように結界を組んだのだ。

 

獲物は罠にかかり、天井から巨大な岩が降り注ぐ。

 

こちらの通路は、崩落から免れていた。土遁を扱える忍びに協力してもらって作った自慢の罠だ。逃れる術は無い。確実に殺った、と確信した瞬間だ。

 

 

怪物が吠え、

 

 

「な…………!?」

 

雄叫びを聞いたユギトは、一瞬意識が飛んだ。気構えも何もない。ただ、本能に直撃するかのような、慈悲の無い鳴き声。威嚇するための、ただの咆哮。死を告げる声。だが、その絶望感はどうだ。忍びとしての気構え、そして人としての理性を飛び越えた音の暴力

 

直後、黒い巨大な塊から、尾が三つ飛び出し、降り注ぐ巨岩へと突き刺さる。そしていとも容易くその巨岩を打ち砕き、その上にある天井までも突き破った。

 

「馬鹿な―――ぐっ!?」

 

砕かれた巨岩。だが、その欠片はまだ残っている。一つでも頭部に直撃すれば、即死は免れない程の大きさの岩の数々。それが、雨の如き規模で男と怪物に降り注ぐ。

 

男は、その岩の雨を避けようともしない。ただ、手をかざして一言だけ呟いた。

 

印も何もない。チャクラの性質変化も、形態変化も感じられない。ただの言葉と手掌で、岩の雨は全て弾かれた。

 

「何が起きた………」

 

それを直視したユギトが、驚愕し、硬直する。だが、ユギトとて熟練の忍び。見たことも無い術だが、忍びの世界ではそのような事態は珍しくもない。一瞬硬直しただけで、瞬時に思考を回転させる。その術理、そして対処方法を考え出す。

 

飛んでくる岩を避けながら、ひとまず退こうと後方の通路へと跳躍する。

 

だが、その途中。ユギトは男がこちらに手を向けているのを見た。また、あの弾く術だろう。顔面を両腕で交差し、そして来るであろう衝撃に耐えようとする。

 

だが、起きたのはまったくの埒外の事態。

 

言葉と同時。ユギトの身体は後方へと弾き飛ばされず、逆に男の方へと引き寄せられていった。

 

「なっ!」

 

そして、男の刀がユギトの腹部へと向けられた。致死のタイミング。だがユギトはその一刀を、咄嗟に上げた膝で受けた。膝に刀が食い込む。ユギトは激痛に耐えながら、返しの一撃を入れようと拳を振り上げた。だが、振り上げた拳は黒い獣の尾に貫かれた。

 

「ぐっ、ああああああああ!」

 

そのまま、岩壁へと叩きつけられる。そして獣は退避路である通路にも尾の一撃を見舞う。崩れる通路。それを見たユギトあ、広場の奥へと一端退く。

 

「っ、退路は…………防がれたか」

 

出口はもう一つあるが、ここで背後を見せる訳にもいかない。あの奇妙な術でまた吸い寄せられてしまうだろう。それに、この間合い。素直に逃がしてくれるとも思わない。

 

腹を決めたユギトは、痛めた片手を何とか動かし、印を組む。そして、自らを尾獣化させた。具現する二尾が尾獣。死を司り、怨霊を常に纏っている化け猫が、咆哮する。

 

「…………」

 

だが、相手は何の反応も示さない。ユギトは、一瞬まるで死人を相手しているかのような錯覚に陥った。

 

(………事実はどうであれ、今は関係ない)

 

どうみても、こいつは里に取って有害な存在にしかならない。黒ずんだ死の具現。ここで倒さなければ、里の皆に危害が及ぶだろう。

 

 

「里の仲間を、守るために! 雲隠れの二位ユギトの名に懸けて………お前を殺す!」

 

 

 

雄叫びと共に、巨躯が疾駆する。打って出るユギト。迎えるは、黒い獣。

 

怪物同士が、激突しあう。

 

 

衝突と同時、その衝撃で洞窟の全てが激震した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サスケの偽造誘拐から2年半後。満月のあの夜から18ヶ月が経過した後。木の葉隠れの里で、恒例の中忍選抜試験が行われようとしていた。前回、2年前は砂隠れの里で行われたので、今回は木の葉の番だ。

 

町はずれ、砂から木の葉隠れへの道中。とある宿場で俺は口寄せの屋台を開きながら、我愛羅達一行の到着を待っていた。

 

数日前。テマリが木の葉隠れへと中忍試験の打ち合わせに行っている最中、来るはずのサソリとデイダラの襲撃が無かったのだ。

 

メンマはあらゆる可能性を考えたが、情報が少なすぎるため断定できず、戦力を分散させる事にした。砂隠れには、サスケと再不斬と白と多由也。あと砂隠れで一番の腕を持つバキと、それに準ずる腕を持つテマリ。

 

メンマは我愛羅と話し合い、万が一の可能性を考えてこの5人に砂隠れの里へと残ってもらったのだ。我愛羅を除けば砂隠れの最強の上忍であるバキにも、ある程度の情報を流していた。

 

元が里第一の考えを持つバキだ。顔に渋面を浮かべながらも、何とか了承してもらえた。何より、三尾の件が頭に残っていたのだろう。不気味すぎる相手に、一時は手を組む事を選んだのだろう。

 

 

 

 

 

 

数日後。メンマのいる宿場町へ、砂隠れの忍び達がやってきた。我愛羅とカンクロウはすぐさまメンマ屋台に気づき、若干の笑顔を浮かべながらラーメン2つを頼んだ。

 

「あいよ、ニンニク味噌ラーメン一丁。細切れチャーシューましましだ」

 

メンマが提供したのは、スタミナ抜群の一品だった。頓挫しつつあるきつねラーメンの開発の他、現場のおっちゃん達のニーズから生まれたメニューで、旅の疲れも吹き飛ぶというもの。

 

「いや、でも口臭が………」

 

「案ずるな、兄弟」

 

メンマはカンクロウのもっともな心配を指す言葉を一蹴し、一粒の飴を取り出した。

 

「食後に一粒。すると、あら不思議。一時間後には口臭が消えているという魔法の飴だ」

開発者は白である。何でも、女性のたしなみらしい。あと、口の中でころころと飴を転がす九那実を見て俺達全員が和んだのはメンマのここだけの話だ。

 

「まじで! 助かる」

 

カンクロウと我愛羅に飴を渡す。

 

「じゃあ、じゃんじゃん喰ってくれ」

 

 

「「いただきます」」

 

 

 

 

 

「それにしても、2年前の中忍試験は凄かったらしいな」

 

「ああ。特に、3年前の本戦予備試験まで来ていた木の葉隠れの下忍の面々はな………1人を除き、全員が合格した」

 

「1人を除き、ってああ」

 

サスケか、とメンマは頷いた。

 

「正直、あいつらの成長速度は異常そのものだったじゃん」

 

「………ああ。まあ、なあ」

 

何ともいえない罪悪感がメンマの胸を襲う。

 

『メンマ君、相当に酷いこと言ったもんねえ。そりゃあ、必死になって修行もするわ』

 

(うるせえよ。仕方なかったんだよ)

 

『うむ。受けたからには最後まで、徹底的にというお主のスタンスは知っているが、あれは正直我も引いたぞ』

 

(え………そんなに?)

 

『『うん』』

 

2人に念押しされ、メンマが少しへこむ。そして、恐る恐るカンクロウと我愛羅に、木の葉の下忍達の様子について聞いた。

 

我愛羅とカンクロウは、渋い顔をしながら、説明をしてくれた。何でも、木の葉無双だったらしい。

 

キバは「俺は狗なんかじゃねえ!」 といいながら、持ち前の勢いに虚実の内合を組み合わせた、高度な体術で相手を粉砕したらしい。

 

(えっと………あの時俺、何ていったっけ)

 

『“狗では私は倒せない。フェイントに容易く引っかかり、突っ込むだけの狗なぞ踏みつけて終わりだ”とか、いいながら打ち下ろしの回し蹴りで一撃昏倒』

 

シノは「我は虫を極めし者………!」とかいいながら、時間差の全方位攻撃で相手のチャクラを食らいつくしたらしい。

 

『“この虫野郎! 見込みが甘え、塵らしく散り消えろ!”とかいいながら、風遁で一蹴したんだっけ。その直後に頭部への掌打八閃で昏倒』 

 

ヒナタは豪快な踏み込みで一気に接近。「貫け、柔拳!」の掛け声と共に柔剛一体の全力全開の一撃。防御諸共、相手を打倒したらしい。

 

『ええと、“慎重大いに結構、だが中途半端では意味がない。何より踏み込みが浅い、浅すぎる!”といいながら、強引な剛の力と柔の技でヒナタちゃんの一撃捌いた後、カウンターで腹部に一撃。昏倒』

 

力無き柔に意味は無い。柔無き剛は体術とは言えない。武は剛柔一体こそが真髄だ。その意味を知ったようだね。

 

テンテンは「見せてあげる。これが私の全力全開………!」とか叫びながら口寄せによる様々な武具攻撃を容赦なく繰り出し、圧倒的制圧力で相手を完封したとか。

 

『“質が足りない時は手数で補え! 何より武具を使う以上、相手を傷つける事をためらうな。迷いがあるならばここから去れ!” だったっけ。武器攻撃を受け流しで弾いた後、延髄に手刀で気絶』

 

「一応、相手は死んでいないぞ。でも、その砂隠れの下忍からは、“木の葉の白い悪魔”と恐れられているらしい。まあ、可愛い笑顔を浮かべながら、徹底的に攻撃する姿は」

 

………すげえ怖かったじゃん、とカンクロウが呟く。その下忍には励ましのお便りをだそうと決めたメンマであった。

 

いのは、「腸を………ぶちまけろ!」の雄叫びと共にボディーブロー。弱怪力の一撃だったが、見事に急所にきまったようだ。

 

『まあ、あの時は特に言うこともなかったね。状況を打破する力が無いっていうのは、いのちゃんもあの戦いで気づいたようだけど………成る程。医療忍術と怪力を選択したか』

そうだな、とメンマは頷いた。綱手やサクラほどの威力は出せないだろうが、いのの体術のセンスはサクラより上だ。何より、幻術も忍術もそれなりのものを持っている。秘術もある。あらゆる状況で活躍できるだろうと。

 

チョウジは「いのに、シカマルに、キリハ………僕1人だけ、置いていかれるわけにはいかないんだよ!」と、部分倍化の術で一撃。術スピードと予備動作に磨きが掛かっていたらしい。

 

『“遅すぎる。当たらん、当たらんなあ!”って言いながら肉弾戦車を軽く回避した後、浸透の掌打一撃で昏倒だったが………』

 

(動きではなく、攻撃の速度と精度を重点的に鍛えたか。破壊力はピカイチだし、賢い選択かな)

 

サクラも同じ。2年前はまだ医療忍術もそれなりのレベルだったが「しゃーんなろ!」という頭突きが決めてだったらしい。メンマは思う。さすがはデコりん。デコすぎるぜと

 

『意味が分からないけど………なんか、凄いね』

 

加え、今じゃあ相当の医療忍術の使い手になっているだろう。もしもの時は頼もうかね。サスケ拉致ってしまったんで、逆に殴られるかもしれないけど。

 

『ふむ。あの2人、一時期は喧嘩をしておったが、最近馬鹿に仲がいいのう』

 

(年頃だしね。青春だね。ああ、そういえばリーはどうなったんだろう)

 

リーは相変わらずの青春パワーで相手をのしたらしい。まあ、八門遁甲の体内門があるし、努力の天才だ。あの夜に対峙はしなかったが、問題ないだろう。

 

 

キリハは普通に勝ったらしい。相手は、木の葉隠れの別の小隊。開始直後の相手のクナイ攻撃を、風遁・烈風掌で打ち返した後、追撃。

 

返ってきたクナイを避ける下忍に瞬身で接近。隙をついて、顎へのフック気味の掌打の一撃から回し蹴りへつなげ、ノックアウト。開始数秒で決着が付いた。

 

「印の速さも威力も、体術のキレも格段に上がっていたじゃん………正直、真正面からはやり合いたくない相手じゃん」

 

底が見えなかった、とカンクロウが呟く。

 

「ああ、そういえば姉さんや日向ネジと同じく、波風キリハも上忍に昇格したらしいぞ………異例の速さだな」

 

「いや、我愛羅の方が異例だろ。その年で影を務めるとか、聞いたことないぞ」

 

『そうだね。最年少じゃないかな』

 

我愛羅の方を褒めるが、勢いよくスープを飲み込む振りをしながら、どんぶりで顔を隠してしまう。

 

「照れてるねえ」

 

「………聞こえてるぞ」

 

我愛羅は照れながらも、ドン、とラーメンのどんぶりを勢いよくテーブルに叩きつけた。

「………ああ、伝えておかなければならない情報が一つあるんだが………もしかして、既に掴んでいるか?」

 

「ああ。雲隠れの二尾の人柱力が、一ヶ月前から消息不明………始めて聞いた時はびっくりしたぜ」

 

「恐らくは、暁の仕業だろう。だが、話はそれだけで終わらない」

 

「ん、何だ?」

 

昨日掴んだ情報だが、と前置いて我愛羅は話し出す。

 

「その、戦いがあった現場………崩落した洞窟のあった山を見ていた猟師から掴んだ情報なんだが」

 

「何か見たのか?」

 

「ああ、恐らくは、洞窟の天井にある岩層を、突き破ったのだろうな。轟音と土煙と共に、黒い柱のようなものが三つ。山肌に突如現れたらしいその後、幾たびか激震が走った後、静かになったらしいが………」

 

「………うおい、山突き抜けるって一体どんな威力だよ。それに………三つ?」

 

「ああ、三つだ。ちょうど、消えた三尾の数と一致するな………これは、偶然か?」

 

「うーん、それだけの情報じゃあ分からないな。だが、奴らである可能性は高いと思う」

 

「そうか…………厄介な事になったな」

 

「全くだ。もしかして、その尾獣と暁がつるんでたりして」

 

「でも、それだと腑に落ちない点がある。尾獣はとにかく巨大だ。故に目立つのは避けられない。隠密を主とする暁が、尾獣を使う理由も無いのではないか?」

 

「そうだなあ………そもそも、そんなモノを使わなくても、奴らなら生身だけで倒せるだろうし」

 

そのような存在を使うメリットが無い。あるいは、他に何らかの理由があるのかもしれないが、メンマ達の手持ちの情報だけでは判断できなかった。

 

「で、お前が今回俺の護衛に回るとは………どういう風の吹き回しだ?」

 

「いや、護衛もあるけどね。雨隠れの里というか、暁の動向も探っておきたいんだ。とにかく今は情報が足りないから情報収集に徹したい。いつの間にかアホ面下げて爆心地っていう事態は是非とも避けたいんで」

 

メンマは嫌だった。失敗したら死である以上、それは洒落になってないのだ。

 

「………成程な」

 

「ああ。あと、木の葉側にも確認したい事がある。だから、よろしく頼むよ」

 

「分かった………こちらの上忍の一人に変化していてくれ。前もって、本人には連絡してある」

 

「ああ、ありがとう」

 

「気にするな。じゃあ、行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、木の葉隠れの里。

 

「お久しぶりっす」

 

「おお、来たか」

 

やってきた風影一行+メンマを迎え入れる綱手。

 

「風影殿も、もう少しで到着するようです」

 

「ああ、分かった。シズネ、お茶の用意をしてくれ」

 

そして数分後。一同は同じ部屋に介していた。砂隠れは、五代目風影である我愛羅、補佐兼護衛役のカンクロウ。木の葉隠れは五代目火影と、同じくシズネ。そして、もう一人。

「遅いぞ、自来也」

 

「すまん。収集した情報の整理に手間取っての」

 

三忍の一人、自来也。

 

「それじゃあ、始めようか。以前も知らせたと思うけど、まずは情報の整理を」

 

外部の情報提供者として、メンマ。総勢6人での会議が始まる。

 

「暁に関しては、以前知らせた通りだ。他の五影もこれくらいの情報は掴んでるだろうが………問題は」

 

一区切り置いて、メンマは話し出した。

 

「ここ数年。最近は特に動向が怪しいという、雨隠れの里にある。原因は分かっている。数年前にかの山椒魚の半蔵が殺されて、頭が交代したらしい」

 

恐らく、だが。動きが変わった理由、これ以外にあるまい。ペインがどういう考えで動き出したのかは分からないが。

 

「まさかあの、半蔵が………!?」

 

自来也と綱手が驚く。動向がおかしい事は知っていても、その原因は知らなかったのだろう。あと、半蔵とは直接の面識もあるので、驚きの度合いも大きいのだろう。

 

「事実だ。クーデターの際、一族郎党皆殺しにされたらしい。とある筋からの信頼できる情報だ」

 

「しかし、一体誰が………?」

 

S級クラスの賞金首といえ、単体でそれを成し遂げるのは困難だ。内乱も考えにくい。半蔵はそれほどの権威を保持していた。ということは、答えは一つ。

 

「暁が表向きに動き始めたか」

 

自来也が訊ねる。

 

「そうだ。だが、それはたった一人によって行われたらしい」

 

「馬鹿な、それこそ有り得ん!」

 

自来也が叫ぶ。半蔵の慎重さについて良く知っている故の叫びだろう。仙人モードの自来也とて不可能な所行だ。世界は広いとはいえ、それほどの実力者ならば顔は売れている筈。単独で半蔵を殺害できる程の忍びの存在など、自来也も綱手も思い当たらない。

 

「追加情報がある。これも、噂だけの眉唾ものなんだが………」

 

少し、もったいぶって話す。これは本来ならば有り得ない情報、俺でも知り得ない情報だからだ。余計な猜疑心を生みたくない俺は、慎重に言葉を選んでいく。

 

「………何だ? 取りあえず、聞かせてくれ」

 

「それが、暁の頭であるということだ。そして、もう一つ」

 

一拍おいて、俺は自分の目を指さす。

 

「そいつの目には、螺旋の紋様が刻まれていたらしい」

 

「………螺旋の、紋様?」

 

カンクロウが首を傾げる。その問いには、我愛羅が答えた。

 

「三大瞳術の一つ、輪廻眼か。かの六道仙人が宿したとされる………だが、それはあくまで伝説ではなかったのか?」

 

「知らん。あくまで噂だ。でも、それだけの事をやってのける人物だ。伝説の輪廻眼、持っていてもおかしくないだろう」

 

「そうだな………どうした、自来也。顔色が悪いぞ」

 

「いや………話を続けてくれ」

 

「そうだな。ともあれ、暁の狙いは一つだ。人柱力の確保。これに関しては、間違いないだろう」

 

「雲隠れの二尾の人柱力が行方不明らしいが」

 

「ああ。それについては木の葉でも確認が取れている。今までは情報交換もままならなかったが、やっこさんも焦ってきているらしい。限定だが、情報交換もできた」

 

「………あの声に関してか。他の人柱力も聞こえていたのか?」

 

綱手は重々しくああ、と返しながら詳しく話しだした。

 

「確認が取れているのは雲隠れの二尾、八尾。そして滝隠れの七尾………全員が、その声とやらを聞いたらしい」

 

「他の人柱力の面々は?」

 

「霧、岩とは接触できていない。霧に関してはいつも通りの秘密主義。岩も、連絡したが返答が無い」

 

「非同盟国の霧、岩とは連絡が取れていないって事っすか」

 

それもまあ当たり前か、と呟く。

 

「ああ。あと………ここ最近だけど、霧隠れの里近くの孤島と、岩隠れ近辺の山場で大きな戦闘の形跡があったようだ。これは、“網”からの情報だからまず間違いはないだろう」

 

一つ、情報を提供する。

 

「………ほう」

 

「だが人柱力の生死は不明らしい」

 

首を振りながら、肩をすくめる。

 

「………不明な点は多々ある。だが、方針は決まったな」

 

「確たる情報が無い今、迂闊には動けない………ということは、雨隠れの忍者の監視か。そういえば、今年の雨隠れの里からの中忍試験受験者、例年にくらべてかなり多いと聞いたが」

 

「ああ………去年の3倍だ」

 

「え、マジですかシズネさん?」

 

「はい、マジです」

 

「う~ん…………あ、もしかして暁のメンバー全員が受験に紛れていたりして」

 

「ははは、有り得んだろうそれじゃ」

 

「そうですよねえ、あはははは」

 

「あはははは………」

 

だんだん、声が小さくなっていく2人。

 

「………本当にそうだったらどうしようか」

 

ぼそり、とメンマが呟く。

 

「怖いこと言うなよ………」

 

綱手もまた顔を逸らしながら呟いた。

 

「ちなみに、暁の構成員、個々のメンバーの力量はどうなんだ?実際対峙した事がないので、いまいち力量が掴めない」

 

「………ほぼ全員が大蛇丸クラスだ。かつ殺傷能力に優れた固有忍術の使い手。性格も極めて危険だ。風影殿も単独では危険な相手だ」

 

約一名を除いては、とつけ加える。

 

「………すまん、ナルト。試験の間だけ、試験会場周辺に潜んでいてくれないか」

 

「元よりそのつもりっす。次に狙われるのは、まず間違いなく我愛羅だろうし」

 

自分の存在は未だ把握されていない筈だから、判明している標的といえば、我愛羅しかない。メンマはそこを重点的に守ればいいと考えていた。木の葉の忍びもいるし、そうそうやられる事はないだろうと。

 

「ともあれ、今最優先でやるべき事は、暁と雨隠れの関係性を確かめる事だ。明確な証拠を握れれば、後は五大国の隠れ里で連携、総力を持って叩き潰すまでだ」

 

「全方位に喧嘩売ってますもんね………尾獣を奪うとか、宣戦布告と同意ですし」

 

「いかな暁といえど、五大国を敵に回して勝てる筈もない。まずは、証拠を掴む事だ」

 

「………てことは、襲ってくる暁の構成員を捉えて、情報を吐かせろと?」

 

「そこまでできれば上出来だろう。迂闊に動いて無駄な戦争を起こす気もない。確たる証拠があれば、同盟の理由も立つ」

 

「了解。やれるだけやってみます………ああ、そういえばキリハは? 今、里にはいないんですか?」

 

「今は任務で出ている。一週間後には戻ってくるだろう………さあ、一端置くか。あと、すまんがナルトだけ残ってくれ」

 

「分かった。こちらは宿に戻って待っている」

 

「ああ。俺も直ぐに行く」

 

 

我愛羅とカンクロウが退室する。

 

 

「一週間、か。多分会えないなあ」

 

そのころには予備試験も終わっているので、木の葉の里を出ているだろう。

 

「………会いたいか?」

 

「ええ、まあ」

 

まだ戻れないですけど、と呟く。

 

「それもそうか………まあ、ダンゾウの影響力も、ここ数年で大分落ちてきた。キリハの、里の皆への説得も進んでいるし」

 

「え、説得?」

 

「そうだ。主に、九尾と兄を同一視するなって事だな。ダンゾウの手のモノが流した噂で、里の者も先入観に囚われていた。その先入観を解くために、一生懸命話して回っているらしいぞ」

 

『キリハちゃん………』

 

「そんな事して大丈夫なんですか?」

 

「もう、16年も前の事だ。怨恨が薄くなっている者もいる。何より、元が筋違いな話だ。キリハが正面から話せば、分かってくれるというものさ」

 

「そう、ですか………」

 

それでも帰る事はないと思う。

 

「まあ………お前の気持ちもあると思うがな。それでも、キリハはお前が帰れる環境を作って起きたいんだよ。それに何より、兄が忌み嫌われているのが嫌なんだろう」

 

「…………」

 

「加え、あいつにとっての矜持もある。だから、止めるなよ?」

 

「………分かりました。あと、ダンゾウの方は大丈夫なんですか?」

 

「おおっぴらに妨害もできまい。それに、現在私はあいつと根の動向を探っていてな………そうしたら出るわ出るわ」

 

火影の認可を得ていない、不正な暗部派遣の痕跡など、色々と見つかったらしい。三代目の頃からそれは行われていたらしい。時にはあの雨隠れの半蔵にも、暗部の一部を派遣していたとか。その部隊は壊滅したらしいが。

 

「ん………? そういえば、クーデターがあったとされる時機と、暗部が壊滅した時機………重なりそうだな調べてみるか」

 

「そう、ですね。また、こちらでも調べておきます」

 

「頼む、シズネ。あるいはあいつを抑えられるかもしれん。これ以上、ダンゾウの好きにはさせないさ」

 

「………随分と、警戒しているんですね」

 

「うちはの裏事情を聞かされたんだ。それなりに警戒もするさ。上役にかんしてもな。私も正直、あのヒヒ親父と相談役の2人を甘く見ていた所もあったからな」

 

「ヒヒ親父、の………」

 

自来也が苦笑する。ダンゾウも、えらい言われようである。

 

「戦災孤児を“根”に引き入れて自分の私兵として扱っているという情報もある」

 

「まあ、暗部の育成など、“根”の文字通り木の葉の大樹を支えてもらっている部分もあるが………明らかにやりすぎたの」

 

火影の座に妄執し、暴走して目的を見失っているふしがあるらしい。

メンマは過去の事を思い出しながら、首を横に振った。

 

(因縁の相手だけど………ダンゾウ云々は取りあえず今の俺には関係ない)

 

暁撃退が至上目的だと納得させた。まずはそれを果たすこと。その後はもう狙われる心配も無くなるからだ。

 

「………じゃあ、そろそろ戻ります」

 

「ああ…………ナルト」

 

自来也に呼び止められる。

 

 

「………死ぬなよ」

 

「エロ仙人もね。くれぐれも一人で無茶はしないように…………何かあれば、キリハが悲しむだろうから」

 

「………分かったわい」

 

 

肝に銘じておく、と笑う自来也に背を向け、メンマは部屋を出て行った。

 

 

 

 


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