小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

55 / 141
間章の2
一話 : 宿は道連れ湯は色気・前編


日が暮れ、少し過ぎた時間。とある旅館に、木の葉隠れの忍び達が来ていた。その筋では有名な宿で、ここの湯は疲労に格別効くらしい。

 

「ふー………流石に、疲れたな」

 

「おい、チョウザ。もうちょっと端に寄ってくれ。座れんから………しかし、何か湯気が多いなここ」

 

周りがよく見えん、と奈良シカクが呟く。

 

「おお、すまん。久しぶりの休みだしつい、の。ようやっと一区切りついたな………」

 

「ああ。十全とは言えんが、何とか他国の里に侮られんぐらいには回復した」

 

「で、何でお前はそんなに不機嫌なんだ、いのいち」

 

「いや、忙しくてな………愛しの娘に、稽古付けてあげられなかったことが………」

 

ため息を吐く山中いのいちに、シカクが呆れ声をかける。

 

「まあ、担当上忍が何とかするだろ。アスマとか紅とかガイが」

 

担当上忍の中で1名のみ名前が挙がらなかったが、誰も指摘しない。信頼って難しいのである。

 

「いや、カカシもなあ。最近凄い真面目になったと聞くし………」

 

「キリハちゃんともうひとりの娘………何だったか、チョウジ」

 

「サクラだよ。春野サクラ」

 

「ああ、サクラちゃんか。その2人で狼狽えていたと聞いたぞ。すわ、天変地異の前触れか! ってな具合に」

 

温泉宿に木の葉隠れの里の旧家・名家の家長達が一同に介していた。とはいっても、温泉に入っているだけだが

 

「そういえば、最近キリハちゃんとはどうなんだ、シカマル」

 

「だからどうもこうもねーよ。それよりも修行風景を見てるだけではらはらするぜ」

 

まったく、とシカマルは1人深いため息を吐く。こんな場違いな所に連れてこられたのと日頃のキリハの行動を思い出して。

 

「………相変わらず、無茶ばっかりでよ。俺が止めても聞きゃあしねえ。親父達からも何とか言ってくれねーか」

 

「ミナトに似て、人の言うことを聞かん所があるからなあ。凄い頑固だし」

 

「怒ると怖いのはクシナさん譲りかな。日向のヒザシさんから聞いたんだけど、あの日向ネジ君も、中忍試験本戦時のキリハちゃんの怒気は正直怖かったと言っていたらしいよ」

「………尻に敷かれんなよ、シカマル」

 

「突っ込み所が多すぎるわ! あと、キリハ本人は兄貴の………うずまきナルトの事で頭いっぱいだよ!」

 

シカマルの一言に場が凍り付く。

 

「………そういえば、お前ナルト君と話しをしたんだっけな」

 

「ああ? まあ、話したけどよ」

 

「どんな感じだった? その………」

 

シカク達の顔が少し不安気になる。

 

「ああ………何て言うか………」

 

「「「何て言うか?」」」

 

その場にいる親父共全員が迫ってくる。シカマルは何この拷問、と呟きながら答えた。

 

「一言で言うと………」

 

「「「一言で言うと?」」」

 

合唱する親父ズにシカマルはあっさりと言い切った。

 

「変なヤツだったな。ああ、間違いない」

 

その場にいる全員がずっこけた。

 

「二言でいうと………凄い変な奴だった」

 

シカマルは1人思い出す。それとなく自来也から聞いた特徴と照らし合わせて。そしてキリハから耳にタコが出来るぐらいに聞かされた活劇を思い出しても、だ。人格が把握できない。つかみ所が無いというのか。

 

「………まあ、馬鹿に明るい奴だったのは確かだ。前もって想像していたのとは全く逆の印象だった」

 

助けられた時は、もっとこう、ぶっきらぼうな感じな人だと思いっていた。キリハから人柱力の話を聞かされた時に思い浮かべた兄貴像もそうだ。もっと歪んでいるかと思っていたのに、実際は違った。それでも、起こした数々の事件というかイベントは、明るいだけの者では到底不可能な、奇天烈かつ破天荒なものばかり。そう考えれば、キリハにも似ている。まるで風だ。時に凪。時に嵐。気まぐれにも程があるが。

 

シカマルがそう語ると、親父ズは皆が苦笑を浮かべていた。

 

「………ふん、ミナトに似てやがる」

 

「はあ!?」

 

シカマルが驚く。火影の執務室にかけられていた写真とか、キリハに見せられた写真を見るに、もっと威厳があって真面目一徹な人かと思っていたのに。

 

「ああ。まあ、任務の時はそうだったな。私生活ではだらしがないのにも程があったが」

 

「ガキん頃は悪戯好きだったしなあ。色んな術を試して、暴発させて………当時のアカデミーの先生によく怒られていたな」

 

「それでも、才能は本物だったからなあ。俺らが中忍になった頃、当時のアカデミーの先生と話をした時に聞いたよ。怒るに怒れなかったって、愚痴られた」

 

「………想像とは全然違うな」

 

「まあ、カカシとか教え子に対しては真面目な顔しか見せてなかったからな。知っているのはそれこそ、俺達のような昔なじみの奴だけだ」

 

「仮にも火影だったしなあ」

 

「いや、仮にもとか………」

 

シカマルが突っ込むが、親父ズは昔話モードに入っていて聞いちゃくれねえ。

 

「………はあ。俺はもうあがるぞ」

 

これ以上つかってるとのぼせそうだし、といつものぶっちょう面をしながら、シカマルが言う。

 

「もっとゆっくりつかっていかねえのか?」

 

お前も相当に疲れてるんだろ、とシカクが訊ねる。

 

「シカマル、同期のみんなの修行を見ていたせいか、疲れ気味だもんね………ほんと、お疲れ様だよ」

 

「けっ、お前に言われる事じゃねーよ。同期の面々の修行を見るっていうのは、綱手様からの直々の命令だ………でも」

 

気を遣ってくれてありがとよ、と幼なじみのチョウジに告げる。

 

「でも、本当にのぼせそうだからあがるわ」

 

「あ、じゃあボクも」

 

つられ、チョウジも一緒に入浴場から出る。

 

そして服を着ようとした時だ。

 

「ん、これは………?」

 

脱衣所に置いてある服。その下に、何かがあるのに気づいたシカマルはそれを慎重に手に取り、呟く。

 

「………手紙?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでチョウザ。シカマル君は実際どうなんだ?」

 

「ああ、修行の事か? チョウジが自慢げに話してたな。みんな驚いてるって。知識の豊富さもそうだけど、状況設定が秀逸だってアスマがかなり褒めてたらしい」

 

「………だ、そうだぞシカク」

 

「けっ、お前ン所のいのちゃんも医療忍術頑張ってるそうじゃねーかよ」

 

「いやいや。チョウジ君の方も頑張ってるそうじゃないか」

 

「まあな。シカマル君に負けたくないとかで、最近特に力が入っとるらしい。まあ、任務に失敗した下忍の全員が頑張っとるらしいが………」

 

一端、話が切れる。

 

「それにしても………うずまきナルト、か」

 

その場にいる3人、上忍、山中いのいち、秋道チョウザ、奈良シカクは波風ミナトとはかなり長い付き合いだった。戦友であり、親友でもあったミナトの忘れ形見。

 

「………クシナの妊娠が聞かされる前ぐらいだったか。約束したのは」

 

「ああ。一度休暇を取って、4人男同士水入らずで旅行に行こうって話な」

 

「きっかけは何だったか………ああ、お互いの結婚生活の話だ」

 

「愚痴りあうのが目的だったかなあ………子供できた後はそんな事考えなかったけど」

 

3人が苦笑しあう。そして全員が、あの時九尾に立ち向かっていくミナトの背中を思い出した。

 

「………バカヤロウが。笑顔のまま、走って行っちまいやがって」

 

「屍鬼封尽、か。あの時は相談も何も無かったな。まあ、言えば止められると思っていたのだろうけど」

 

「最後の言葉が笑顔だけ、っていうのも………あいつらしいな」

 

3人、様々な事を思い出し、少し顔が俯せになる。

 

「………いけねえ。辛気くさくなっちまった」

 

こんな顔してると、あいつに怒られちまうな、とシカクが無理にでも笑いながら呟いた。笑う時は笑おう、というのがあいつの信条だった。それに今、俺達に出来る事は思い出して悲しくなる事ではなく、あいつのやった事を誇るべきだ。木の葉を守り死んでいった英雄達と同じに。

 

「でも、経緯はともあれナルト君が生きていてくれてよかったよ。もし死んでいたらミナトに顔向けできない所だった」

 

「自来也様から話しを聞いた時には心底驚いたが。今の、シカマルから聞いた話にも驚いたな」

 

「色々と助けられたらしいからな………何から何まで、大きすぎる借りだな」

 

子供達を助けられた事とか。返す借りが多すぎて、どうしたらいいのかと唸る。

 

もっとも、メンマ本人はそんな事気にもしていなかった。誰が悪いわけでもない、というのが彼の考えだったからだ。

 

「これから、返していこうか………いかん、これ以上入っていると本当にのぼせてしまうな。あがるか」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、女湯では。

 

「ふい~…………たまらないねえ、いのちゃん」

 

「オヤジか、あんたは」

 

相変わらずの突っ込みっぷりである。

 

「シカマルから聞いていたけど………あんた、今本当に疲れてるようだから、きっちりと休みなさいよ?」

 

「分かってるよ~」

 

「駄目だこの娘………」

 

ふやけきっている。それほどに過酷な修行を自分に強いていたのだろう。

 

「シカマルの胃は大丈夫かしら………」

 

心配性の幼なじみの胃を気遣ういのであった。

 

そこに。

 

「あ、こっちですね」

 

「九那実さん、足下気を付けて」

 

「うむ、すまんうおっ!?」

 

自分たちと同じぐらいの背丈を持つ、3人組の女の子が入ってきた。1人は滑ったのか、一瞬体勢が崩れていた。

 

「あはは、気を付けてくださ………」

 

笑おうとした白が、湯船に使っている2人を見た途端、一瞬だが硬直した。直後に何でもない風に取り繕ったので、ばれなかったが。

 

「あはは、多由也さんちょっと」

 

白は入り口、キューちゃんの手を取っている多由也の方に行くと、近づき小声で話す。

 

(ボクの本名禁止、九那実さんは九那実さんと呼んで下さい)

 

「………はあ?」

 

告げられた白の言葉にわけがわからない、という風に首を傾げながら湯の方へ歩いていく多由也。そして2人を見たあと、白の言葉に内心で頷いた。

 

(了解)

 

(いえいえ。それにしても何ていうタイミングですか………)

 

マダオが選んだ宿だが、時機が重なるとは。偶然にも程がある。

 

(そういう星の元に生まれておるのかもしれんのう)

 

(すごい説得力ですね………ともあれ、気づかれてないようですから入りますか。今の2点に気をつければばれませんよきっと)

 

(うむ。キリハのやつふやけておるのう。まるでクラゲのようじゃ)

 

会議が終わった3人は、やがて湯船に入る。

 

「失礼します」

 

「いえいえ………ってあなた達肌白い~………綺麗だしー!」

 

いのが騒ぎだす。

 

「そうだねえ。まるで新雪のようだねえ」

 

白とキューちゃんを見ながら、キリハが呟く。

 

「だからオヤジっぽいわよアンタ。すいません、彼女ちょっと今、ふやけてて」

 

「ふむ。どうしたのかのう」

 

変わったしゃべり方をするキューちゃんにいのは驚く。が、即座になんでもないように言葉を返す。変人の巣窟、木の葉隠れの里で花屋を経営する彼女。日々の戦場で鍛えられた彼女の経験値は、伊達ではないようだ。

 

「そう、接客は戦争なのよ………」

 

思わず呟きが零れてしまう、花屋の看板娘。白の方は、その呟きを聞いた後、深く同意の頷きを返していた。木の葉隠れという場所はそういう場所なのである。

 

キリハの方は、脱力の極致にあるのか、目が糸目になっていた。その糸目で多由也達3人を見ながら、訊ねる。

 

「ん~………みんな、何処かであったっけ?」

 

キリハの唐突な質問。

 

だが、白は焦ることなく対処する。

 

「いえ、初対面の筈ですが………」

 

心底不思議そうに首を傾げる。勿論、白の演技であるが、キリハはそれを見破れなかった。というかふやけているので、観察眼も鈍っているのだろう。

 

それに、白の容姿は前とはかなり違っている。儚さが消えた力強い容姿は、その綺麗さを増しに増している。加え、キリハが白の顔を見たのは、白が通りすがりの一般人の格好をしていた時だ。あの橋の一戦では、白の面は割れていない。敵として出逢った訳でもないので、自然その警戒は緩くなっている。

 

「そういえば私も………いや、やっぱ違うか」

 

いのは多由也を凝視しながら、呟く。だが多由也はの容姿と雰囲気は、呪印から開放された前後ではまるで別人のように変わっている。気づける筈もない。

 

(………やっぱり、勘違いね)

 

そもそも、超人じみた勘の持ち主であるキリハが疑っていない。だから、大丈夫だろうと判断した。幼い頃から様々な人間と接してきたキリハ、彼女の人間の観察眼は結構なものだ。下心のある人物なら、そして危険な人物なら直ぐに分かる。それに、自分も花屋として結構な客と接してきた。その経験をふまえ、この人達は別に警戒する必要は無いと結論づけたのである。

 

「それに、キューちゃんはもっと小さいしねえ」

 

糸目のまま、ぼそりとキリハが呟く。

 

「…………」

 

危なかった、と内心で安堵する多由也と白であった。

 

 

 

 

 

数分後。話をしているうちに、互いの警戒は緩くなっていた。何というか、互いにシンパシーを感じるものがあったらしい。

 

「へー、旅行の帰りなんだ」

 

「そうですね。仲間の1人の提案で、温泉に行こうという事になりまして」

 

「ワシは疲れてはおらなんだがのう」

 

「あー…………まあ、そうだな」

 

あまり外には出ていなかったキューちゃんの愚痴に、多由也が反応した。

 

「あなた達も旅行ですか?」

 

「いや、ちょっとね。こっちの勉強が一段落ついたのと、パパ達の仕事が一段落ついたのと、タイミングがかぶってね。こうして慰安みたいな旅行に行こうかって話になったのよ」

 

「う~、癒される~」

 

「あの、こちらでふやけている方は………?」

 

「ああ、ちょっと疲れが溜まっていてね。そのせいでこんなになっちゃってるのよ」

 

「ん~」

 

「うおっと危ねえ」

 

倒れそうになるキリハを、多由也が受け止める。

 

「お~、大きいクッションだー」

 

キリハは多由也の胸にもたれかかる。そしてその双子山を枕にしながら、頭を振り出した。金色の髪が多由也の双子山の稜線をくすぐる。

 

「ちょっ…………んっ」

 

「あんた、キリハ!? 何やってんの!」

 

慌てたいのがキリハの頭を鷲掴みにして引き寄せる。そして、ぽかり頭を叩いた。

 

「痛いよいのちゃん~」

 

叩かれたキリハだが、糸目のままだった。本当に今日は駄目モードらしい。

 

「だってでかいし~、やーらかいしー………」

 

「ふむ、確かに…………そい」

 

キューちゃんが頷きながら、湯の中静かに多由也に近づく。そしておもむろに、双子山の頂上にある桃色の果実を指でつついた。

 

「ちょっ………あっ、んうっ?!」

 

止めようとした多由也だが、あまりにも神速かつ精緻な指捌きに防御する事あたわず。侵略を許してしまった。

 

「………エロい声ね。しかし、やっぱりでかいわー」

 

いのが悔しそうに呟く。

 

「そうですねえ」

 

ちなみに白は笑顔でその光景を見ていた。

 

「ちょっ、お前ら止め………!」

 

やがて水面下を移動しながら接近したキリハも、頂上攻略に乗り出した。目は糸目になっている。

 

「……………っ!」

 

金髪コンビの2重奏に圧倒される多由也。

 

 

 

 

 

 

一方、男湯。シカク達木の葉の忍びに気づいたメンマ一行は、姿を隠しながら入浴場を出てシカク達が出て行った後に入り直した。

 

………のだが、そこでとんでもないものを聞いてしまっていた。女湯で始まった会話を聞こうと、耳にチャクラを集中して聴覚を強化。こちらの音は漏れないように消音結界。

これも修行だというメンマとマダオの提案にサスケが頷き、なんだかんだと言いながらも気になる再不斬も参加。

 

それは当然であろう。桃源郷の会話である。男ならば聞かないという選択肢は無い。そんな奴は男じゃねえとメンマは断言する。

 

だが。そこで悲劇は起こったのである。予想以上に過激な展開とその声の艶やかさに当てられた少年が、開始僅か数分でダウンしてしまった。

 

「しっかりしろサスケ! 傷は浅いぞ!」

 

「ごぼごぼごぼ」

 

顔を真っ赤にしながら鼻血を出しているサスケが、湯船に沈んだ。多由也のあの声にやられたらしい。最も接する時間が長かったサスケだ。普段とのギャップにやられたのだろう。こうかはばつぐんだ!というやつらしい。

 

「くっ、多由也ちゃん恐るべし。流石は音使い………!」

 

マダオが戦慄する。

 

「いや、違うだろ」

 

メンマが突っ込むが、そのメンマに再不斬が更に突っ込んだ。

 

「………お前も、鼻血を拭いたらどうだ?」

 

「おっと失敬」

 

紳士の顔をして鼻血を拭うメンマ。湯船に沈んでいたサスケだが、何とか意識を取り戻したようだ。

 

「…………」

 

「お~い、サスケ。生きてるかー」

 

「………返事が無い、ただの屍のようだ」

 

「ボケるなマダオ。まったく…………ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい、加減、放してくれ!」

 

胸を抱え込んで退避する多由也。

 

「いやあ、大きいっていうのも一苦労ですねえ」

 

見ながら、笑顔を浮かべている白。多由也はそんな白に一言、お前も大きくなったと言っていただろうがと言う。

 

「え? ………ボクのは駄目ですよ。触って良いのは」

 

白は、恋をしている乙女の笑顔を浮かべながら、そっと自分の胸を隠す。そして、静かに言い放った。

 

「たった、1人だけです」

 

 

その迫力とあまりにも綺麗な笑顔に、その場にいた全員が圧倒された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、男湯では。

 

「………てめえら、何をしやがる!」

 

白の言葉を聞いた男3人。嫉妬力による高速の拳で殴られた再不斬が、鼻を押さえながら文句を言っていた。だ、男3人の嫉妬パワーが篭められた視線を前に、それ以上は言えないでいる。

 

「………殴った事に理由はない。ただ、羨ましかっただけだ」

 

メンマが目を閉じながら腕を組み、渋い声で言う。

 

「殴りたかったから殴る。これ、正論でしょ?」

 

マダオは人差し指を立てながら、言う。。

 

「………いや、つい」

 

サスケが視線を逸らしながら答える。

 

「くそったれが………」

 

言いながらも、追求してこない再不斬。よく見れば、耳が赤くなっているような気がする。

 

 

「俺はもう出るぞ」

 

「分かった。ちなみにトイレはあっちだぞ………おっと」

 

指さすメンマに向けて、クナイが飛んできた。下ネタは禁句らしい。

 

「うーん、ダンナもねえ。恥ずかしさの限界だったのかなあ」

 

「まあね。案外照れ屋さんだし」

 

「それは見てれば分かるが」

 

「「あ、やっぱり?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

所、戻って女湯。

 

「く…………! これが、恋をしている乙女の力なのね!」

 

屋台の桃さんを思い出すわ! といのが戦慄する。ちなみにその言葉を聞いた白も内心で戦慄していたが、表情には出さない。九那実は多由也に振りほどかれた後、自分の胸をじっと見ていた。

 

「うーむ。ワシには平均というものがよく分からんのじゃが………今のワシの、これは…………大きいのかのう?」

 

キューちゃんが自分の胸部にある泰山を見ながら、呟く。

 

「えーっと………そういえば、ボクも分かりません」

 

「ウチもだ」

 

他のくの一との接点が無い白と多由也には、所謂女史の平均胸囲というものが分からなかった。

 

「ん~………私も、分からないや」

 

「そういえば、アンタもそういうのには疎かったわねえ」

 

いのが呆れ声を出した。

 

「えっと………見た目、平均より少し上ってところじゃない? それよりも形が美しすぎるわ!」

 

美乳にも程があるわよ! といのが悔しげな声で言う。

 

「将来性も抜群ですしねえ」

 

一度だけ大人verを見たことがある白と多由也が頷きあう。

 

「…………てい」

 

「んっ………って何をする?!」

 

そして、そキューちゃんの背後から静かに近寄ったキリハが、徐に肌を触り出す。

 

「ん~、肌も綺麗だねー」

 

まるで絹のよう、とキリハが呟く。それを聞いたいのも、肌の感触を確かめんとキューちゃんに近づいていく。多由也も、先程の逆襲とばかりにキューちゃん近づき、ゆっくりと肌を触りだした。

 

「どれどれ」

 

「ちょっ、お主等やめんかっ…………んうっ」

 

静止しようとしたが、その感触に声を出してしまうキューちゃん。

 

「凄い………何これ」

 

「………ふっ………んっ?!」

 

いのは“黄金比ってレベルじゃねーぞ!”と内心で叫びながら、背中から腰のラインをゆっくりと触り出す。

 

「完成された造形美………一種の芸術だな、これは」

 

さっきの攻勢でテンションがおかしくなった多由也もキューちゃんの胸元の稜線を指でなぞる。

 

「ちょっ、たゆ………く、は………んっ………!!」

 

柔肌が蹂躙される度に、キューちゃんの声が響き渡る。魅了の効果でもあるのか、その声は人には出せない程に艶やかだった。その肌の触り心地と声に当てられた乙女3人の勢いは止まらない。むしろ勢いを増していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数分後。

 

「ふしゃーっ!!」

 

九那実は胸元を抑えながら八重歯を剥き出しにして、全員を威嚇していた。全身がピンク色に染まっているが、顔は真っ赤である。多由也、いの、キリハの3人はキューちゃんから羞恥による怒りの拳骨を喰らったため、頭を抑えている。

 

「いたた………ちょっと調子に乗りすぎたようね」

 

威嚇のうなり声を上げるキューちゃんに、調子に乗ってしまったのを謝罪する3人。

 

「うー…………!」

 

キューちゃんは4人を警戒しているのか、距離をおいたままだ。白を含む4人全員がその仕草に少しやられていた。

 

何て言うか、仕草が全て子供っぽいのだ。年にしても幼い。天上の華とも言える程に整ったキューちゃん容姿だ。その上、こんな可愛いというか子供っぽい仕草をされたら、同姓でもたまらないというものである。

 

しかも八重歯だ。これ以上は何をいわんや、である。

 

「こほん」

 

気を取り直した白が、一言入れる。

 

「………えっと、少し興奮しているようですから後でまた」

 

そういいながら、会話を続ける。

 

「………それにしても、いのさんも結構大きいですねえ」

 

「まあ、そうね。同年代でもトップクラスだし」

 

多由也の方を見ながら、自信を無くしたけど、と呟いたが。

 

「ん~、私は少し小さいね」

 

殴られて若干覚醒したキリハが、自分の胸を自分で鷲掴みにしながら、何でもないように言う。

 

「ちょっと、アンタ………」

 

少しは乙女としての恥じらいを持ちなさいよ、と言う。だがキリハは糸目のまま「何を~」と返してくるだけであった。

 

「ははは………でも、誰かに揉んでもらえれば大きくなるそうですよ?」

 

「そうなのっ!?」

 

いのが食いつく。

 

「ええ」

 

「………ああ。でも私には心に決めた人が!」

 

頭を抑えながら苦悩の声を上げるいの。白が苦笑した。

 

「ええと、確かにねえ。それに、女同士っていうのもあれですし」

 

「ん~、私は別に大きくなくていいよ」

 

「そうそう。邪魔になるだけだぞ」

 

「………そうじゃのう」

 

警戒しつつもこちらに戻ってきたキューちゃん。少し距離を取りながら、呟く。

 

「ん? ………でも、大きい事に越した事はないわ! だからキリハ!」

 

キューちゃんの返答に首を傾げながらも、いのはくわっと目を見開く。

 

シカマルの為にも! と内心で叫びながら両手を湯船から出す。

 

「行くわよ!」

 

「来ないで?!」

 

真正面からダイレクトアタックを仕掛けるいの。キリハはそれを見てとっさに横に逃げようとした。

 

「………しまった?!」

 

だが逃げられなかった。背後から忍び寄った多由也とキューちゃんに両の肩を掴まれたため、身動きが取れなくなってしまったのだ。

 

「………ふっふっふっふ。さあ、さあ!」

 

ラスボスのような笑みを浮かべながら、両手をわきわきして近づく乙女、山中いの。キューちゃんの艶やかな声が発する色気とその肌の感触に当てられて、どうもハイテンションになっているらしい。

 

「いや………!」

 

首を振りながら、抵抗するキリハ。だが、その抵抗も空しく。

 

「………………!!」

 

侵略されること、火の如し。艶やかな金の涼声が、湯気立ち上る星満天の夜空に響き渡る。

 

1人、白が空を見上げる。

 

「あ、流れ星…………」

 

 

 

 

 

 

一方、男湯では。

 

「お客様!? お客様ぁーーーっっ?!」

 

様子を見に来た旅館の従業員が、その惨状を見て叫んでいた。男3人は湯船の外の床を血の華で染め上げていたのだ。

 

「永遠はあるよ、ここにあるよ…………」

 

「はちみつくまさん………」

 

「もう………ゴールしてもいいよな…………」

 

だが、その顔は安らぎに満ちていた。そして倒れながらもその掌は、天にある星を掴まんと突き上げられていた。

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。