小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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その5

 

 

 

「喰らえ!」

 

「死ねえ!」

 

城の入り口。ドトウ配下の雪忍、白いチャクラの鎧を着込んだ下忍達が氷遁の術を使ってくる。一つ一つの術は大した威力ではない。最新式の黒色のチャクラの鎧を着ている、あの幹部の忍びが放つ術に威力には、到底及ばない。

 

「休むな! 物量で押せ!」

 

だが、術の数だけは多い。城門の前、開けた広場の真ん中に立っているメンマに向けて容赦のない氷の散弾が放たれる。その散弾の数は百にも及ぶ。逃げ場は無いと思われた。

 

「…………甘いな」

 

だがメンマは生きている。その全てをかわし、捌き、弾いてなお、そこに立っていた。髪の色は赤。顔は狐の面で遮られて見えない。だが、その威圧感はその場にいた全員を圧倒している。

 

「くっ、ならばこれはどうだ!」

 

次に放たれるは大きな氷の槍。複数の人間で発動したのだろうそれは、大きな岩をもつらぬくほどの質量を持っていた。

 

「潰れろ!」

 

だが遅い。メンマは構えもせず、ただ歩くだけ。前に歩くだけで、その巨大な氷の槍を交わしきる。

 

「遅い」

 

「何ぃ!?」

 

「喚くな」

 

風遁・大突破を使うメンマ。その風に、下忍達は吹き飛ばされたかに見えた。だが、チャクラの鎧がそれを阻む。全員が突風に耐え、そこに健在していた。

 

それを見たメンマの口の端が歪む。

 

未だ戦意が消えていない相手に向け。メンマは手を翳した。

 

 

――――僅かに赤い色を帯びたチャクラがその手に重なる。

 

内なるあやかしのチャクラが鳴動しメンマの四肢に流れ込む。

 

そのチャクラの意味を、目の前の雪忍達は知らない。

 

 

右手を握る。様々な障害を殴り飛ばしてきた右手を。この手で何を為すべきか。未熟なる我が身は、未だこの方法でしか障害を蹴散らせなくても。それでも為すべき事があるならば、ためらいはしない。時間は待ってはくれないのだから。

 

「巫山戯るな!」

 

氷の槍が、散弾が。矢が剣が斧が、メンマを貫かんと全方位から殺到する。

逃げ場などない。避けられる数ではないだろう。

 

――――しかし、生きている。メンマはまだ。

 

傷一つ無く立っている。先程までは様子見。今は世界でもトップクラスのチャクラコントロールを身につけたメンマだ。氷の凶器群が襲ったのはメンマの残像。この程度のスピードの攻撃、避けきれない筈がない。

 

「く………だが、まだまだ! 我ら1人ではお前に適わなくても、数がある! 術を防ぐ鎧もある! ………怯むな、攻撃を!」

 

成る程。チャクラの障壁は強力だ。しかもこの数。術を主体とした忍びならば、勝てないかもしれない。倒すには体術による攻撃しかなく、それでは1人1人倒すのに時間が掛かりすぎる。そもそも、正面突破を選ばない。そんな非効率、選択しはしない。

 

「成る程………確かに。並の忍びならば、お前達を倒しきる事はできないだろう」

 

――――けれど。

 

けれど、けれど、けれど。

 

『だがどうやら、彼はただの忍びでは無いらしい』

 

ノリノリなマダオの相づちと同時。メンマのチャクラが更に膨れあがる。メンマの意志に呼応して。

 

 

「麺の君………我が相棒、“九那実”。俺は君と共に、こう言おう」

 

 

チャクラが膨れあがる。その勢い、まるで天を貫くかのよう。迫力に圧され、後ずさる雪忍達の目の前。

 

その中心で、メンマは一言、告げた。

 

 

『「最初はグー」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遠くから爆音が聞こえて、数分………どうやら始まったようだな」

 

しかし、真っ正面からか、と呟く。サスケと雪絵は廊下にある棚の陰に隠れながら、会話を続ける。

 

「真っ正面からって………大丈夫なの?」

 

雪絵が心配そうにサスケに訊ねる。サスケは肩を竦めながら言う。

 

「むしろ負ける理由がみつからない………あいつは、強いからな。それに、チャクラの鎧についてはもう分かった」

 

サスケは答え、今居る廊下の曲がり角へと走る。そして廊下の向こうから現れた雪忍に奇襲を仕掛けた。一歩踏み込み、軸足を回転させて回し蹴り。鳩尾へ一発、手応えを確認しながら跳躍し、回転の勢いを殺さないままもう1人の顎へと後ろ回し蹴り。踵が顎の先端を捉える。急所への的確かつ鋭い打撃により、2人はなすすべもなく昏倒した。

 

「………ってな具合だ。術の障壁は確かに驚異だが、体術に関してはノーマーク。それに、チャクラの鎧に関しても万能じゃない。身につけている者の任意で障壁を展開させる必要があるからな」

 

術のように印を組む必要は無いが、障壁を展開するには術者の意志が必要となる。

 

「今のように、死角からの一撃で事は足りる。気配察知とか、基本の技量が疎かになっているこいつらならば勝つのは容易い」

 

もし手練れの忍びが身につけていれば、それこそ驚異となるだろう。

 

「あとは、容赦のない強烈な一撃で粉砕するとかな。チャクラで身体能力を活性した上の一撃なら、障壁の上からでも突き破れる」

 

忍具や体術による衝撃を和らげるであろう障壁も、その範囲には限度がある。

 

「でも、そんな事が出来るの?」

 

「急所なら、今みたいにある程度和らげられても関係ない。まあ、力一杯打つ必要があるけど。俺とは……桃とクシナならば、その方法で十分対処できる」

 

「………残りの2人は?」

 

「そうだな。例えば…………!」

 

サスケが答えようとした時だ。横の壁に亀裂が走ったかと思うと、そこから人が勢いよく飛び出してきた。白い鎧を身につけている雪忍は、衝撃で気絶しているのかピクリとも動かない。それを指さしながら、サスケが言う。

 

「こんな風に。馬鹿みたいなチャクラを篭めた拳で力一杯殴り飛ばされれば、耐える事もできない」

 

「ん? サスケ、呼んだ?」

 

壁の向こうから瓦礫を踏み越えながら、メンマが姿を現した。

 

「呼んだよ。しかし、もうここまで来たのか」

 

速いな、と言うサスケに、メンマはああ、と言いながら返す。

 

「全員倒してないからね。倒したのは、ほら………例の、元抜け忍の一味だけ」

 

あの黒い鎧を身につけた幹部3人。網からの資料によると、首領が狼牙ナダレ、女が鶴翼フブキ、巨漢の男が冬熊ミゾレというらしい。それ以外にも僅かだが生き残りが居るとのこと。

 

「真っ先にそいつ倒して、後はちらほら。それだけで戦意は喪失したよ。元が雪の民って下忍も、結構多いからね」

 

メンマの説明に、サスケが頷く。どうりで速かった訳だ。あと、後方の撮影隊と三太夫の護衛には多由也が居るとしてだ。

 

残りの2人はどうしたのかとサスケが訊ねる。

 

「ん? あの2人は別行動。忍び込んで、背後から一撃ってのを繰り返してるよ。元が得意分野だしね」

 

「ああ、そういえばそうだったな………」

 

再不斬が得意とするのは、無音暗殺術。今回に限っては本当に殺す訳でもないが、急所を狙う業は長けている筈。気絶させるのも容易いだろう。

 

「そっちも、上手く脱出できたようだね」

 

「ああ。牢の結界壊すのに千鳥使ったけどな。他は問題ない」

 

「そう………チャクラ残量はどのくらい?」

 

「………あと2発って所だ。まだまだ行ける」

 

「そうか………じゃあ、雪絵さんは撮影隊の所まで戻ってくれ。護衛はつけるから」

 

そういいながら、メンマは影分身を使う。姿はイワオのもの。本体の方は変化を解いた。金髪の少年の姿が現れる。

 

「………え?」

 

雪絵が驚き、イワオとメンマの姿を交互に見ながら不思議そうな声を出す。

 

「まあ、説明は後で。今は避難を最優先に」

 

「………分かったわ」

 

「あと、マキノ監督と三太夫によろしく………じゃあ、行こうかサスケ」

 

言葉と共に、2人は並びながら歩いていく。そこに、再不斬と白が合流した。4人は頷きあうと、城の最奥をめざし、歩を進めようとした。その時、4人の背中に向け、雪絵が声をかける。

 

「………最後に一つだけ、聞きたいんだけど」

 

雪絵の言葉に、メンマとサスケが足を止め、振り返る。

 

「あなた達は、ドトウに勝てるのよね?」

 

その問いに、4人は頷きながら答えた。

 

 

「たかがあの程度の相手、物の数じゃありませんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして最奥。メンマは玉座の間の扉を蹴り破る。勢いよく開いた扉の向こうから、煙が上がった。

 

「煙玉?」

 

玉座の間にいる雪忍の幹部3人が呟く。同時、煙の中から、1人の金髪の少年が姿を現した。

 

「………何者だ?」

 

メンマの姿を見たドトウが、言う。玉座から立ち上がり、石の階段の上、高みから見下ろすドトウが訊ねる。背後には、護衛の抜け忍が3人。

 

メンマはドトウ問いに答えず。ただ、一方的に言い放った。

 

「返してもらいに来た…………」

 

「何………?」

 

水晶はメンマ達の手の中。「返してもらう」というのはおかしい。疑問の声を上げるドトウに向かって、メンマは叫んだ。

 

 

「………ハッピーエンドを、返してもらいに来た!」

 

 

同時、ドトウに向けて紫水晶を投げる。

 

「………貴様、これは何のつもりだ?」

 

先程の報告で、ドトウは既に知っている。不様な事に、正面を破られ、敗退し戦意を喪失している部下の事を。そして小雪に逃げられた事も知っている。既に人質も無い今、これを何故こちらに渡そうとするのか。

 

その場にいる雪忍の幹部と、その他雪の下忍達から疑問符が上がる。意図が理解できないドトウに対し、メンマは水晶を投げたままの姿勢を崩さず、真剣な顔で言い放つ。

 

「………ひとまず、預けといてやる」

 

そして一拍おき、自然体に戻り何でもないように告げる。

笑うように、宣戦を布告した。

 

 

「そんで、お前達潰して奪い返してやるな?」

 

 

その物言いに。正面にいたドトウ、雪忍、全員が圧倒された。

広場の中央に悠然と立つ、4人を目の前にして。

 

「くっ………舐めるなあ!」

 

ドトウが立ち上がり、腕を振り払う。そして来ていた上着を脱ぎ捨てた。黒く光る鎧。しかも、動力らしき陰陽を示した球が胸の中心と両腕、合計3つもついている。

 

紛う事なき最新型。しかも、より改良が加えられているようだ。

 

「氷遁・黒龍暴風雪!」

 

印を組んだドトウから、全てを吹き飛ばす黒龍が放たれた。しかも三頭。威力と規模で言えば、A級に匹敵するであろう大術。氷遁というよりは、むしろ風遁に近い。

 

だが、その一撃はメンマ達に届かない。

 

「太陽の如く、溶かせ」

 

入り口の後ろから、それを相殺するべく、放たれたからだ。九連の狐火。貫くまでは至らずとも、その強力な火炎は黒龍を消し尽くした。

 

相殺の余波で、広場に暴風が吹き荒れる。

 

「………そこの、お前等。死にたくなければ動くな!」

 

視界の端、怖じ気ついている下忍達に言い放つ。一連のやりとりで、既に戦意を失っているだろう。圧倒的余裕を持つ格上。それに正面から対峙して尚立ち向かえる程、こいつらは忍びとして鍛えられていない。意識と心の方は、まだ民である部分が大きいからだ。

 

「散!」

 

そしてメンマが号令をかける。九那実は一瞬でメンマの中に戻る。

 

再不斬はナダレ、白はフブキ、メンマはミゾレを抑えながら外へと出ていく。

 

 

「貴様ら………!」

 

「お前の相手は俺だ!」

 

そしてサスケがドトウへと突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、いい加減放しな!」

 

外、森の中。白のクナイによる攻撃を防ぎ、叫びながら赤い髪の雪忍、鶴翼フブキは背中の翼を展開する。

 

「おっと」

 

対する白はフブキから手を離し、近くにあった木の枝の上に立つ。

 

「………さてと」

 

ここまでは作戦通り、と白が呟く。対するフブキは木々の間を飛び回り、白の方へと手裏剣を投げる。例の氷の刃が詰まった玉、氷玉を交えながら。

 

「………秘術」

 

対する白は、その飛来する凶器を前に、印を組む。

 

「堅牢氷壁」

 

直後、白の前に大きな氷の盾が現れる。見るからに分厚いそれは、飛来する攻撃の尽くを防ぎ、砕いた。

 

「何ぃ!?」

 

自分たちにしか扱えない筈の氷遁。それを使った白を見て、フブキは動揺する。

 

「貴様、鎧もないのにどうやって我々と同じ氷遁を!?」

 

「………一緒にしないでくれます?」

 

白はフブキの問いに答えず、呆れた声を出すだけ。フブキはそれを信じられず、また同じ攻撃を繰り出す。今度は氷遁。ツバメ吹雪を交え、更に数を多くする。

 

「そんな力の無い攻撃、通りませんよ」

 

だが、氷壁の防御は貫けなかった。

 

「くっ………じゃあこれはどうだ!」

 

フブキは埒があかないと判断し、飛行するスピードを上げながら隙を見て、白の背後に降り立つ。そして地面に手をつき、叫んだ。

 

「氷牢の術!」

 

中距離で放たれた術。白は避ける間もなく、氷の柱に覆われる。

 

「………学習しませんね」

 

だが、それはフェイクだ。

 

「秘術・幻鏡氷壁。学習能力もゼロですか………」

 

呆れた声を出す白。フブキは焦りながらも、再び飛行を続ける。飛行している限り、白は自分に攻撃を届かせる事はできない。そう考えての事だった。再び、手裏剣とクナイ、ツバメ吹雪の攻撃。

 

「一緒だと思わない事ね! 氷遁・燕嵐の術!」

 

渾身のチャクラが篭められた、黒色の燕。氷壁に当たる寸前、その身を針に変え、堅牢たる氷壁に突っ込み、それを貫通すると白の身体を貫いた。

 

「っ、分身か!」

 

またしても偽物。砕けたのは、氷で出来た分身でしかなかった。分身が砕けたと同時、氷壁にも罅が入り、辺りに散乱する。

 

その樹上に居た白は、素早く片手で印を組み、告げる。

 

「千殺氷礫」

 

千殺水翔の氷版である。砕け宙に舞っている氷の破片がフブキに殺到する。突如飛来し、更に結構な速度と数を持つ氷の飛礫にフブキは焦って障壁を展開する。

 

「くっ、術は効かないと言っただろう!」

 

冷静に対処すれば、負けはない。そう判断したが故の言葉だった。

 

だが、背後。前方に注意を集中していたフブキは、木に張り巡らされていた鋼の糸に絡め取られる。白が氷分身であらかじめ用意していた場所である。絡め取られ、地に落ちるフブキ。だがその鋼糸は背後の翼によって切断された。再び飛行し始めるフブキは、白の方を見ながら叫ぶ。

 

「くっ、これしきの事でやられる雪忍じゃないわよ!」

 

「いえ、そうでもありません」

 

その背後から、白の言葉。

 

「いつのま………あぐっ!?」

 

白の回し蹴りを受けたフブキが、今度こそ地面に落ちる。

 

行った事は簡単だ。千殺氷礫で視界を防いだ間に、氷分身と入れ替わっただけ。元が速度に優れる白だ。絡め取られている間に、フブキの死角から背後に回り込むのは造作もない事だった。

 

攻撃を受けたフブキは吹き飛ばされ、地面に降りてしまう。そこに、白が着地する。

 

離れた距離。対峙する2人は、互いににらみ合った。そして白が印を組んだ。こんどは両手の印である。

 

「馬鹿の一つ覚えかい………」

 

互いの周りに氷の壁が張られた。木々の間に張られたそれは、まるで自分達を取り囲むが如く。

 

―――フブキはこのとき、先程と同じ術、堅牢氷壁の術が使われたと思った。

 

「………ふん。かなり、やるようだね。でもお前ではこの鎧の障壁は破れまい」

 

「いえ、そうでも無いです。隙はありますから。例えば―――」

 

印を組みながら、笑う。フブキはその白を無視し、隙を見て再び上方へ飛行しようと試みる。この場は離脱するしかない。そう判断しての選択だった。だが、隙はない。だったら隙を生み出すまで、と印を組み術を発動する。

 

「氷遁・ツバメふぶ」

 

 

――――瞬間、白の切り札が出された。

 

「秘術」

 

フブキが印を組み、その術をチャクラの鎧が増幅し、今正に放たれんとした刹那を狙った一撃。フブキは気づかなかった。自分達を中心として取り囲むよう、周りの六角形の頂点である位置に氷の壁が置かれた意味を。

 

先程とは違い、その氷の壁は鏡のように磨かれていた事を。

 

 

「六華散魂無縫針」

 

白の最大の切り札、秘術・魔鏡氷晶を併用しての一撃。

 

それは速度を極限まで高めた上での、千本による“六ヶ所同時点穴”。

雪の結晶、六華の如く六芒に配置された鏡から六つの必殺が放たれた。

 

一カ所を防いでも残りの5つが瞬きの間に襲いくる、防御も至難の秘術である。

 

通常時、防御に意識されていれば、チャクラの鎧の障壁に阻まれていただろうが、攻撃時であれば別だった。

 

術が発動される刹那の六針は、弱まった障壁を貫き、フブキの身体にある点穴を貫いた

 

悲鳴もなく、倒れるフブキ。

 

 

「………終わりです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻、メンマ対ミゾレの方も決着が付いていた。

 

「ぐっ、馬鹿な………!」

 

「………馬鹿はお前だ」

 

メンマの肘がミゾレの懐深く、鳩尾に突き刺さっていた。

 

「チャクラの基本は自然、即ち五行の性質との吸着、そして合一。分厚い鎧に身を纏い、それを忘れたお前達が………」

 

メンマが一歩退き、そこにミゾレが攻撃を加えんと腕を振りかぶる。

 

「うおおおおぉぉ!」

 

黒い暴風を纏った豪腕の一撃。それをかいくぐって踏み込む。

 

「道具に頼りきり、自分の強さも分からなくなったお前達が!」

 

同時、交差法による一撃が放たれる。螺旋を描いた掌打が、相手の鎧越しに衝撃を浸透させる。血を吐き、倒れるミゾレ。メンマはそれに背を向けながら、言い放った。

 

「力の意味を忘れたお前達が………勝てるわきゃあねえだろう」

 

そう言いながら、メンマはザンゲツから聞かされた情報を思い出す。術が禄に使えなかった忍。それが原因で里を抜けた忍び。体術・基礎技術の方はそれなりに高く、鎧を着けた当時は木の葉の忍びをも圧倒したと言う。道具に頼り切り、術を使えた喜びに本来の力を見失った、哀れな忍び。

 

弱い、と言い切れる程弱くはない。ただ、疎かだったと言うほか無い。

さっきの体術の打ち合いを思い出す。例のスノーボードからの攻撃は開始僅か数秒で使えなくなった。メンマが鋼の糸で注意をひいた後、渾身の両足蹴りでミゾレをボードからたたき落としたからだ。

 

そこからは体術というか、殴り合いの攻防。ミゾレの正面から破らんとする暴風を利用した一撃は、メンマに届く前に横に弾かれた。チャクラが篭められた掌によって弾かれたのだ。

 

そしてチャクラ吸着を利用した袖つかみ、同時重心を崩され、足を掛けながら投げられた。地面に叩きつけられたミゾレは、自らが持つ重量によりダメージを受けた。

 

衝撃は殺し切れないのだ。受け身も取れていないミゾレの身体の各所に、着々とダメージが積み重なっていった。逃げる、という手もあっただろうに、自らより小さい、しかも少年の容貌を持つメンマだ。何処か、意地になっていた部分もあったのだろう。

 

相手の力量を計れなかったが故の、この短時間での敗北だとメンマは思った。

 

「ドトウと同じだな………」

 

この程度の戦力で五大国に勝てると思っているドトウ。まるで相手が見えていない。自国の戦力だけしか見えていないのだ。自分しか見えていないそれは、この鎧に似通っている。

 

偉そうな事を言っている割に、肝心な所が抜けている。ガキの要塞だ、まるで。相手の力も知らず、戦に勝てるわけがない。戦争は1人でやるものではないのだから。

 

「まあ、狼牙ナダレの方は少し違うようだが………」

 

カカシの雷切で頬を裂かれたと聞く。慢心はしまい。1人技量が勝っているのも、それが原因だろう。

 

「まあ、何とかなるだろ………!?」

 

その時である。居城の一番上。天守閣に位置する場所から、煙が上がっていた。

 

「あれは………飛空挺?」

 

何かあったのだろう。そう判断したメンマは白の元へ急いで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、撮影隊もその光景を見ていた。撮影隊に戻った雪絵、そして護衛についていた多由也が上空を見上げる。

 

「何かあったな………ってアンタ!」

 

多由也がマキノ監督に叫ぶ。監督が雪上車で飛空挺を追おうとしていたからだ。危ないぞ、と言っても耳を貸さない監督と撮影隊。助監督までもが止めない。

 

『撮る』

 

その一言を主張するだけである。

 

「仕方ないな………ウチ達で守れるか?」

 

多由也が隣にいるメンマの影分身に訊ねる。その影分身はため息を吐きながら、仕方ないな、と返した。既に大勢は決したと言っていい。それにドトウが向かっている方向は虹の氷壁がある場所だ。恐らくは鍵で秘宝とやらを手にした後、逃げるのだろう。

 

「俺とサスケで追うから、後はよろしく」

 

「策は?」

 

「ある。問題無し」

 

自信満々に頷くメンマ。

 

「ちょっといいかしら?」

 

それを聞いた雪絵は、私も行くと言い出した。父が残したという物を見ておきたいのだろう。止めるべき三太夫は絶賛昏倒中である。手勢を率いて討ち入りに行こうとした所をメンマに殴られ、気絶させられたのだ。

 

無謀と蛮勇を止めるためではない。ただ、依頼人を死なせる訳にもいかないという理由でのことである。もちろん、雪絵の気持ちも考えての事だが。

 

「………どうしても行くのか?」

 

多由也が雪絵に問う。

 

「………ええ。それに、見ておきたいの。あの少年が約束を果たすところを」

 

「………分かった。そういう事なら仕方ない」

 

頭をかきながらも、多由也が了承する。

 

「いいの?」

 

「いいさ。どうせ危険はないだろうし」

 

「………随分と、信頼しているのね」

 

「ああ。そりゃそうさ」

 

多由也が頷き、口の端を上げる。

 

「あいつらが負ける訳ないからな………本体も、これから直ぐ現地向かうとの事だ。行ってみようか、虹の氷壁へ」

 

 

 

 

 

 

 

一方、残る一組。

 

「あれは………」

 

城の横にある岸壁、その切れ間にある平らな場所で、再不斬と雪忍…狼牙ナダレが対峙していた。初戦と同じ、互いに術を打ち合って数分。膠着状態に入ったと同時、城の方から煙が上がっていた。

 

「ふん、よそ見していいのか? 氷遁・破龍猛虎!」

 

気を取られた再不斬に、氷の虎が襲いかかる。

 

「ちっ!」

 

再不斬は岩場から横に跳躍。崖を飛び回りながら、襲ってくる虎を避ける。

そして崖の下に降り立った。

 

ナダレはそれを見て口の端を上げ、笑いながら新しい術を繰り出す。

 

「氷遁・狼牙雪崩の術!」

 

ナダレの背後にある雪。それが狼となり、雪崩の如く規模で襲いかかる。

氷の群狼。再不斬は後方に跳躍しながら、親指を噛みちぎり、呟く。

 

「………仕方ねえな」

 

忍具口寄せ。再不斬の背後には大刀。霧の忍び刀7人衆、その象徴である首斬り包丁が出現した。

 

そして腰元には3つの大きなひょうたんが呼び寄せられ、

 

「水遁!」

 

叫びと同時、ひょうたんの一つを上へ放り投げる。素早く印を組み、両手を前方に突き出す。ひょうたんが壊れ、中から水が溢れ出した。

 

ひょうたんの中にあったのは水。だが、ただの水ではない。再不斬は毎日チャクラを篭めていた、いわば再不斬特製の水である。それが両の掌の前に凝縮された後、一気に放たれる。

 

「水甲弾の術!」

 

全てを貫く水の甲弾が放たれる。後ろに下がった再不斬を襲おうと、縦一列に並んでいた群狼は、その甲弾に貫かれた。

 

「何!? ………くそっ!」

 

自慢の術が破られたナダレ。舌打ちをしながら、再び術を使ってくる。

 

「氷遁・黒狼牙雪崩の術!」

 

大きさは先程の倍、しかも渾身のチャクラが篭められているのか、色も黒。今度は横一列になって再不斬へと襲いかかる。

 

「成る程………だが」

 

再不斬の方は、水甲弾では打ち漏らしが出ると判断。背中の首斬り包丁を持ち、構える。

そして印を組んだ後。

 

「ふん!」

 

ひょうたんを包丁で叩き斬った。同時に、首斬り包丁に水を纏わせながら、身体事勢いよく回転させる。

 

「水遁!」

 

そして、着地と同時、遠心力を活かしたなぎ払いの一撃を放つ。

 

「水刃翔!」

 

切っ先から、水の刃が放たれる。巨大な鉄塊故の大重量、その強大な遠心力で放たれた一撃。かつ凝縮された水の刃は、目の前の群狼全てをなぎ払った。

 

「馬鹿なっ!?_」

 

動揺したのか、叫び動きを硬直させるナダレ。再不斬はそんなナダレに向け、回転の勢いのまま大刀を投げる。何とか避けるナダレ。だが反応が遅れたせいか、隙が大きくなり、再不斬はそこを詰めた。

 

隙をつき、瞬身の術により接近した再不斬はナダレの頬を殴り飛ばす。

 

「ぐあっ!」

 

吹き飛ぶナダレ。再不斬はそれを無視し、壁に突き刺さっていた愛刀を抜き取り、両手に構える。

 

「さてと」

 

そして接近。様子見ではなく、本気の踏み込み。ナダレは反応できない。鎧の加護で、成る程身体能力は確かに上がっただろう。だが、状況判断力が上がる訳ではない。精神力が上がる訳ではない。術を真っ向から破られた事、そして飛来する大刀に加え、再不斬自身が発する本物の上忍の威圧感と殺気に圧されていたせいだ。通常時よりも、動きと頭の回転が鈍くなっていた。

 

ナダレ自身はそのことには気づけない。何故だ、と問う暇も無く。原因を理解する時間も無く。

 

「こんな………」

 

首斬り包丁の柄を握る再不斬の手に、力が込められる。音を立てて軋み、白くなる再不斬の手がぶれる。

 

「仕舞だ、雑魚助」

 

鍛え、鍛えられた怪力で握られた鬼斬り包丁が、ぶれる。渾身の踏み込みと共に。

 

「こんな、所で!」

 

「………ぶっ散れ!」

 

 

再不斬の渾身の斬撃が放たれた。

 

 

「ぎあああああああぁぁ!?」

 

 

ナダレの身に宿る野望も、肉体も諸共に。

 

その全てが両断された。

 

「………つまんねえな、お前。こんなことじゃあ、どうせカカシにも勝てなかっただろうよ」

 

 

体術も技術も、お粗末に過ぎる。忍術と壁だけで勝てる程、戦闘は甘くない。この程度の力で、カカシに勝てる訳が無いのだ。

 

 

「………はっ。昔の強さのまま、素直に鍛えていれば………分からなかっただろうがよ」

 

再不斬はつまらなそうに言うと、背を向けその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ………」

 

一方、天守閣の上では、遠ざかる飛空挺を見ながら、サスケは1人失態を恥じていた。先程の攻防、優勢なのはサスケの方であった。黒龍暴風雪他、大技を連発してくるドトウに対し、サスケは写輪眼を駆使して回避。

 

その間隙を縫って近接し、攻撃を与えていたのだ。元が武人でしかないドトウ、チャクラの鎧の加護はあれど、生粋の忍びとは言い難い。その強力な最新鋭のチャクラの鎧をして、ようやく互角に持ち込める程でしかなかった。

 

サスケの方も、体術その他のスキルは上がっている。修行を始める前ならばひとたまりもなくやられていただろうが、今は違う。その攻防の途中、ドトウは自分の不利を悟ったのだろう。一際大きな術を放つと、屋上へと逃げていったのだ。そして、飛空挺に乗り込まれ、今はこの様である。

 

「くそっ」

 

「サスケ、無事か!」

 

そこに、メンマが現れた。チャクラ吸着を利用して、城壁を昇ってきたのだ。

 

「ああ。でもすまん、ドトウに逃げられた」

 

「そうみたいだな………でも、まあ」

 

メンマはサスケに笑いかける。その背中には、冬熊ミゾレが乗っていた鉄製の板を背負っていた。両手には、鎧の核らしき球が2つ。

 

「追いつけるさ」

 

メンマは笑って答えながら、スノーボードらしき板を足下に置く。そして、白に合図を送った。意図を察したサスケは、顔を青くしながら叫ぶ。

 

「ちょっと待て、本気かお前!」

 

サスケの叫び声を無視し、メンマは足下のボードをチャクラで吸着させる。その具合を確認した後、手に板を持ち、遠ざかっていくドトウの方を見た。

 

『用意完了。風向き良し。角度良し』

 

『準備完了』

 

「発射まで、5、4、3………」

 

そして「ええい、ままよ!」と叫びながら、サスケがメンマの背におぶさる。

 

同時、白からの合図。メンマは走り出し、叫んだ。

 

 

「アイ、キャン………!」

 

 

同時、足を活性化させて大跳躍を敢行する。

 

 

「………フラーーーーーーーーイ!」

 

 

メンマが即座に足下にボードを吸着するも、失速を続ける。

そこで、白の出番である。

 

 

「行きます! 即席秘術・氷道天翔の術!」

 

白の即興秘術。氷で出来た道がメンマとサスケの足下に出現した。自由落下による速さを活かし、氷の道を一気に滑る2人。

 

加速をしながら、少し上向きの角度になった氷の道の終点にさしかかろうとした時、メンマが印を組んだ。

 

 

「風遁・風龍波!」

 

 

弾というよりは波。火遁や水遁と同様の、龍を模した風遁術である。無事術は発動し、板の下方に風の塊がぶつかった。

 

加速したスピード、上向きの発射台のような道。それに上向きの風が加わった2人は。

 

 

『『「いいいいいいいいいいやっほおおおおぉぉぉ!」』』

 

「まじかよおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!」

 

 

3人+1は叫び声を上げながら虹の氷壁を目指してすっ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、目的地である虹の氷壁。風花ドトウは激怒していた。かの兄王が残したという秘宝。期待して、いざ鍵を手にして秘宝を開けてみれば、想像もつかなかったものが眠っていたのだ。

 

「は………発熱機だと!?」

 

怒りに叫ぶ。だが、ただの発熱機ではない。地面にある氷をも溶かす程の発熱機である。そして、溶かしきった直後である。

 

「これは………」

 

その下から草原が現れた。

 

それを見てドトウは悟った。これは先代君主である風花早雪が愛娘である小雪姫のために作ったもので、雪の国には来ないと言われる、春を作り出す装置であると。

 

「こんな、こんな物………!」

 

だが、これはドトウの望んでいたものではない。ただでさえ金がかかる鎧の開発、それを補うための資金となるべくものだった。金と、あの鎧の設計図、そして飛空挺に詰んでいる鎧の材料さえあれば、後は何とでもなる。

 

雪忍共も、今頃は目障りな抜け忍共を始末している事だろう。だが万が一、やられている場合も考えたドトウは、この秘宝を優先すべくここに来たのだ。設計図と、金。それさえあれば何とかなる。

 

「秘宝さえ、あれば………!」

 

何とでもなる。ドトウは心の底からそう思っていたのだ。

 

「………ぉぉ」

 

「?」

 

失意とそれに対する怒り。その対象であるのは、先王である兄…早雪である。

 

「くそ、春だと………? こんなもの、何になるのだ」

 

顔を真っ赤にして怒るドトウ。確かに、侵略の役には立つまい。だが、これを利用すれば、ともすれば雪の国に春を訪れさせることが出来るかもしれない。農作物を育てる事が出来るかもしれない。貧乏国家を脱出できるかもしれない。これはまさに、希望の塊であった。

 

だが、ドトウは気づかない。平和を謳う草原、春の光景の中、1人野心に燃えている王。何とも滑稽な絵であった。

 

――――そこに。

 

 

「何だ、気のせいか………?」

 

 

ドトウが後方を振り返り、呟く。

 

 

「いや、これは………まさか!」

 

 

そこでようやく。ドトウは後方、遠くから聞こえてくる声を察知した。

 

 

「ぉぉぉぉぉ」

 

 

最初は豆粒だった。

 

 

「何だ………アレは?!」

 

だが声が大きくなると共に、それはどんどん近づいてきた。信じがたいスピードだ。

 

 

「ぉぉぉぉおおおおお!」

 

 

そして豆粒が大きくなり、いよいよかなりの距離まできた所である。ドトウはこのこみあげる怒りをぶつけんと、印を組み術を発動した。

 

「氷遁・七龍暴風雪!」

 

限界まで高めたチャクラによる、ドトウ最大の術。七つの頭を持つ龍が、飛来するメンマとサスケの元に殺到する。

 

だがメンマは器用にも板を滑らし、風圧による力を利用しながら黒龍を横に捌いていく。正面から衝突すれば飲まれるだけだが、横を滑るだけならば問題は無い。次々に横に上にと避けていく。

 

「メンマ、正面だ!」

 

「分かってるよ!」

 

 

だが、途中、黒龍の一頭が正面からぶつかってきた。避けられないタイミング。だが、そこでマダオが叫んだ。

 

『強請るな………勝ち取れ! さすれば与えられん!』

 

「応よ!」

 

メンマは答えると同時、板を真っ正面に立てかけ、チャクラを集中。直進していた軌道を強引に真上に跳ね上げ、空中で回転する。空に板、地に頭。

 

メンマとサスケ、2人の天地が逆転する。

 

 

『『「「いいいやっほおおおおおぉぉぉ!」」』』

 

そして全員で興奮の声を上げる。サスケは飛び始めた最初は怖がっていたのだが、空を飛ぶ事にだんだん楽しくなっていったのであった。

 

少し壊れた、とも言う。

 

「何い!?」

 

それを見ていたドトウは、そのあまりにもデタラメな2人の行動に我が眼を疑った。一方、跳ね上がった軌道をそのままに、メンマとサスケはボードに乗ったままドトウの元へと急襲する。直上からの攻撃。対するドトウは動揺するも、即座に次弾を放った。

 

「七龍暴風雪ぅ!」

 

2人を襲う黒龍。今度は逃げようもない軌道。

そこでメンマとサスケは、ボードを蹴った。

 

「「離脱!」

 

勢いよく横方向へと逃げる。残されたボードは軌道を若干変え、黒龍の間を縫うように進んだ。

 

「しまっ!?」

 

ドトウが見たのは、迫り来るボードと、ボードの先端に鋼の糸でくくりつけられた2つの鎧の核の部分。赤い核の球が光り輝き、ドトウの障壁を浸食する。

 

「だが、甘いわ!」

 

避けられないと判断したドトウが、自前の障壁を全開にして、その一撃を防ぎきる。

 

砕け散るボードと核2つ。だが、そのドトウの鎧についている三つの核内、その右腕の一つが破壊される。

 

「よっしゃ、効いたぜ!」

 

メンマが叫ぶ。相手と逆の位相のチャクラを発すると聞いた時、思い浮かんだ策だ。

2つの力が作用しあえば、どうなるのかと。核の部分だけなので、いまいち威力が足りなかったようだが、ミゾレとフブキが持っていた2つ分の核で一つは壊せた。

 

「くっ………おのれ………おのれおのれ、おのれえぇぇぇぇ!」

 

ドトウは顔を憤怒の形相に変え、再び黒龍を放ってくる。だが素人の攻撃に大人しく当たってくれるような2人ではなかった。

 

「影分身の術!」

 

メンマは黒龍による攻勢を捌きながら、一体の影分身を出す。

 

「行け!」

 

そして特攻させる。

 

「そんなに死にたいか、小僧!」

 

至近まで近づけたが、黒龍による一撃で吹き飛ばされる。

 

「まだまだあ!」

 

多重影分身。だがその尽くが黒龍に吹き飛ばされる。

 

「後ろ、もらった!」

 

「気づいておるわ、馬鹿め!」

 

影分身を囮にしての、サスケの奇襲。それを見破ったドトウは、後方へ振り返りそのチャクラ量を活かした一撃を繰り出す。

 

「ぐうっ!?」

 

「あま………!?」

 

甘い、と言おうとしたドトウ。だが、その言葉の途中に凍り付く。サスケへの変化が、解けたのだ。

 

「これも影分身か!?」

 

「それも、おまけ付き!」

 

直後、分身体が爆発する。

 

「………くっ、所詮は浅知恵! ワシとこのチャクラの鎧には通じぬわ!」

 

分身大爆破の術。それも障壁に阻まれ、ダメージを与える事ができない。

爆発の向こう、障壁の向こうからドトウが健在を叫んだ。

 

「………ぬ」

 

だが辺り一体にはいつの間にか白い煙りが舞っていて、視界が防がれている。

そして煙の向こう。

 

「風花ドトウ………!」

 

後方から、鳥の音が聞こえ出す。

 

 

「偽りの君主、偽りの力………その全てを!」

 

 

かたや前方からは、チャクラの渦が輝き出す。

 

 

「「俺達が打ち砕く!」」

 

 

同時、術を発動したサスケが駆け出す。千鳥は既に発動済み。

分身大爆破で硬直した時間を利用したのである。

 

「速いっ!?」

 

チャクラによる全身の活性。鍛えられた四肢を更に活性したサスケは、上忍、いやそれ以上の速度でドトウに迫る。赤いマフラーを風にたなびかせ、地面を削りながらまるで疾風のように接近し、突き出す。

 

ドトウは振り返るので精一杯で、それを避けきれない。

 

「千鳥!」

 

雷の形態変化による、貫通を目的とした高速突き。

 

「ぬうううううぅぅ!」

 

それを防がんと、障壁をサスケの方に集中させる。性能が上がった鎧、もしサスケ1人の千鳥ならば、通じなかったのかもしれない。だが、サスケは今、1人ではなかった。

 

「螺旋丸!」

 

サスケの方に集中しているドトウ、その後方からメンマが螺旋丸をぶち当てる。

 

「く…………ぁっぁぁぁああああああ!」

 

両方の同時攻撃を防がんと、ドトウが障壁を全開にした、が。

 

「………鎧が!?」

 

その前の黒龍乱発で疲弊していた事もあり、限界を突破したのだろう。残りの鎧の核の一方が砕け散り、もう一方に罅が入った。螺旋丸と千鳥も、障壁の霧散と核の亀裂と同時、共に吹き飛ぶ。

 

「サスケ!」

 

「応!」

 

そこで終わる2人ではない。同時、叫びながら追撃を加える。

 

「はっ!」

 

まず、2人同時に回し蹴り。サスケが写輪眼でメンマの動きに合わせているのだ。ドトウの腹と背がまったく同時に打たれる。

 

「ぐう!?」

 

衝撃を前後に逃がせないドトウが呻き声を上げ、前方へと倒れようとする。

 

「はっ!」

 

そこに、サスケが蹴り上げを放つ。リーの蓮華、サスケの獅子連弾と同じ入りである、あの蹴りである。

 

 

「もういっちょ!」

 

そこを、メンマがさらに蹴り上げる。

 

「更に一つ!」

 

サスケが今度は跳躍し、ドトウを蹴り上げる。そしてメンマと視線を交わし、動きを写輪眼によりコピーする。思考もある程度は読む。写輪眼の心合わせの法の応用である。

 

 

「昇竜!」

 

蹴り上げ。

 

「ぐうっ!?」

 

「連牙!」

 

更に蹴り上げ。

 

「あがっ!?」

 

多重影分身の残りが同時に跳躍する。それを足場としたメンマとサスケが、まるで駆け上る龍の如く、ドトウを連続蹴りで上へ上へと蹴り上げていく。

 

頂点に達したと同時、蹴りを止める。そして2人は身体を捻りながら、ドトウにとどめの一撃を、振り下ろしの回し蹴りを放った。

 

「「流星脚!」」

 

2人同時の蹴りを受けたドトウが、勢いよく地面に叩きつけられる。

 

「「どうだ!」」

 

これでもう、起きあがれまい。それだけの手応えはあったが故の宣言。

 

「ぐ………まだ、だあああああ!」

 

「何!?」

 

「馬鹿な!」

 

障壁が軽減したとはいえ、ダメージは相当なもの。だが、ドトウの戦意は失われてはいなかった。爛々と輝く眼光は未だに健在。ドトウは印を組み、額についている血をぬぐわないまま、術を発動した。

 

「氷遁! ――――九龍暴風雪!」

 

残るチャクラの全てを使い、最後かつ最大の一撃を上空にいる2人に放つ。

それを見たメンマは、サスケと視線を交わす。

 

(………やれるな?)

 

(応!)

 

その直後、サスケに蹴り出されたメンマは、勢いよく黒龍の群れへと突っ込んで行った

 

一方、サスケは更に上空へと跳躍していた。メンマは掌にチャクラを手中。黒龍に真っ正面から突っ込んでいく。

 

「………大玉、螺旋丸!」

 

激突する黒龍と螺旋の塊。勝ったのはもちろん、螺旋の方だった。九つの龍の内八つを、大玉螺旋丸で消し去ったのだ。だが、一頭は殺し切れなかった。

 

「行ったぞ!」

 

メンマが上空を見上げる。残りの龍の内、一頭がサスケに向かったのだ。

 

 

「見えてるぜ」

 

 

一方。サスケはあくまで冷静に、思考を加速させる。

 

 

(千鳥………はリーチが短い………ならば!)

 

 

 

同時、サスケは懐から鋼糸を取り出して足に巻き付けた。メンマを足場に更に上へと飛んでいたが、やがて自由落下を始める。

 

そして、その途中。メンマの影分身を足場にして、跳躍した。

 

そのまま、襲い来る黒龍にへと、正面から突っ込んだ。

 

「血迷ったか、小僧!」

 

だが、その暴風の龍に飲まれる寸前である。

サスケは叫びながら全身のチャクラを練り上げ振り絞った。

 

「雷よりも速く………強く………熱く!」

 

 

黒龍に飲まれた直後、空に千の光が輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは………!」

 

一方、虹の氷壁近くまで来ていた撮影隊、多由也、雪絵、白、再不斬はその光景を眼にする。虹の氷壁に輝く、七色の光。

 

上空のサスケは、それを背に受け虹色に輝いている。直後、サスケから発せられた雷光が、空を輝かせる。

 

それは、まるでおとぎ話のような光景。

 

 

「………虹色の、翼?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けるかあ!」

 

 

渾身のチャクラを篭めた雷光が、黒龍を吹き飛ばす。サスケはその雷光を維持したまま、片方の足に鋼糸を巻き付けた。

 

鋼糸を締め付けようと両手を上げた直後、背後に雷が走る。そのまま落下の勢いを殺さず、雷光のチャクラを足先に集中させた。

 

驚愕に眼を見開くドトウだが、戦意は未だ衰えず。

 

 

「くうっ、小僧おぉぉおぉ!」

 

 

最後とばかりに、迎撃せんと右腕を振りかぶる。

 

 

サスケは、ただ一点。

 

 

足先にチャクラを。

 

為すべき事を。

 

果たすべき約束を。

 

望む結末を。

 

集中させ、全てをつかみ取るそのために。邪魔する障壁を打ち抜くため、全てを篭めた右足をただ前へと撃ち放った。

 

それは雷光の突きである雷遁・千鳥に対する、もう一つの切り札。

 

 

「貫けえええぇぇぇ!」

 

 

コントロールが難しい足先のチャクラ、弱まる威力を、鋼糸による伝導集中と落下速度で補った、必殺技である。

 

 

――――その名、雷遁・雷鳳。

 

 

鳳凰の如く雷の残光を背に纏った必殺の蹴りが、ドトウの一撃が届く前に突き刺さった

 

均衡は一瞬だけ。雷鳳が最後の障壁を突き破る。

 

ドトウの胸に残った核は、完全に破砕され、だが蹴りの勢いは衰えず。

 

 

「ぐああああぁぁぁぁ!?」

 

 

そのまま、ドトウの身体を吹き飛ばした。地面に降り立ったサスケ。

 

倒れるドトウを前に、赤いマフラーをたなびかせながら宣告した。

 

 

 

「俺達の………勝ちだ!」

 

 

 

 

 


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