小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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5話 : 癒しを求めて三千里

 

「俺等は神様なんかやない。だから、選ばなあかんのや………!」

 

 

       小池メンマ著 「スープの根源に至るまで」から抜粋

 

 

 

 

 

 

「と言うことで、売り子を確保しにいきます」

 

『今3ステップぐらい飛び越したよね、君』

 

脳内会議、というか心中会議で話し合う。てーかこうして文字にすると自殺について語りあっているようで嫌だな。

 

正面にはマダオ、何故か小型化した檻の向こうには童女キューちゃん。

慣れたもので、これが日常の光景になっている。当初は凄い暴れてたけど。

 

それは置いといて、取りあえずだが癒しが必要だ。拙僧、そう考えついたで候。

 

もう開店から2年が経過している。日々の営業は順調で――――だけど、加速度的に心が荒んでいった。

 

原因は分かっている。あの木の葉の濃すぎる面子のせいだ。

 

『だったら場所を移せばいいのに………』

 

駄目だ。リピーターを裏切ることなど出来ない。

 

『まあいいけど』

 

ようは、場所を移すことなく、心の平穏を保ってくれる人が必要。

解決案に気づいてから、その決断は速かった。

 

つまりは、だ!

 

 

「癒し系が足りないんだよ……ッ!!」

 

 

拳が軋む程に強く、悲痛な思いと言葉に。それだけ切実な問題だ。変人の相手はもうこりごりなんだよ。一手仕損じればあっちの方向に展開しそうな特徴ありすぎる面子とのやり取りはもう勘弁。本当におなかいっぱいです。

 

せめて一時の清涼を。

そう、テウチ師匠のところにいたアヤメさん――――すなわち看板娘を!

 

脳内原作キャラリストからリストアップ。癒し系を検索した結果、最終的にとある人物の顔が上がった。

 

時期的にもちょうどいいし………っていうかこの世界って癒し系担当の人が少なすぎると思う。

 

『そうかもしれない………でも、どういう人なの? どうせ忍者なんだろうけど』

 

「………そうだけど!」

 

むしろこの魔窟に一般人は立ち入り禁止だ。精神崩壊でもされると後味悪い。

さて今回の癒し系、心苦しい事に男である。

 

『………で?』

 

「霧の抜け忍です。キューちゃんに近い、と言っていいのかもね」

 

『………え、どゆこと?』

 

「名前は白。元追い忍なので、面を持っています。ということは―――」

 

『憤!』

 

「ゲボァ!?」

 

心の中。マダオの頂心肘が、良い具合に決まった。

 

『それ以上は言わせる訳には行かないね………!』

 

「一話で言ったじゃん」

 

『グハァ?!』

 

未熟者めが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでやってきました、波の国!」

 

『往来で何を………白い眼で見られているよ?』

 

そういえば日向家が一杯。

いや、いけないね。久しぶりの休暇にはしゃいでしまったようだ。

 

『ただでさえ目立つ容姿してるんだから、自重してね』

 

そうだった。今は小池ではないのだった。赤毛が素敵な男の子だった。

変化バージョン、パターン2である。

 

と、1人会話をしていると、テンション低すぎる民衆に既知の外を見る目で見られた。

まあ流石に声には出していないけど、1人でどんどん百面相していたらふつー引かれますね。仕方ないので、戯れ笑おう。

 

『誰がそのネタ分かるのさ』

 

(忍だし分かるでしょ。っと、それはそれとして、あの4人は来てるのかな……)

 

取りあえず、辺りの気配を探ってみた。感知系じゃないけど、びびっと、こう。

………カカシ一行はまだ来ていない。忍務を受けたのを確認してから来たのだけど、まだ中忍あたりとドンパチしているところかな。なんだっけ、オニギリ兄弟?

 

『まあ下忍にへちょられる中忍は置いといて………再不斬だっけ? あの忍刀七人衆の一人っていう』

 

「ああ、ももっち?」

 

ガイの対極に位置する人である。眉毛的に。

 

『いや、そうじゃなくてね』

 

「カカシ居るし、多分大丈夫だと思う」

 

はたけカカシと桃地再不斬、この二人の力量の差はほとんどないと思われる。戦ったとして、一方的な状況――――すなわちどっちかが完殺されるといった事態には成り難いだろう。

 

その上、森の木陰で我らが星こと、白さんが待機している。見て聞いた所、キリハはサスケ並の力量を持ってるから、カカシ足を引っ張られて負ける、ということもない。

 

つまりは、細部は違うだろうけど原作以外の展開になるとは思えない。

 

(こっちから介入するにも、タイミングがあるしな)

 

あと、忍務の道中に合流とか無理です。怪しすぎる。

一応は影分身を途中に配置してるけど。

 

そっちはそっち。

 

ということで、ちょっとお掃除しましょうか。

 

「……ィッ!?」

 

「………グッ?!」

 

物陰でこちらの様子をうかがっていたようだけど無駄無駄。再不斬に付いてきたらしい、霧隠れの抜け忍を昏倒させます。

 

方法は簡単。気配を殺して、背後からネギを一突き。

 

昔ながらの方法で、風邪を治してあげた。

 

 

……後は分かりますね?

 

 

『いや、それはどうかと』

 

「万事OK」

 

笑顔でサムズアップ。足下にはケツを抑えて昏倒する中忍(推定)達。

 

『シュールだねえ』

 

「大丈夫だから心配するねい」

 

『いや、何一つ大丈夫じゃないから!』

 

はっ? いかんいかん、心の疲労が脳にまで達したようだ。

 

どうも俺らしくない行動でした。言語野も犯されている様子。

本格的に癒し系が欲しい。

 

『その割には笑顔だった気がするが?』

 

「気のせいでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

取りあえず、町を見て回る。そして一句。

 

「何もない どこもかしこも 何もない」

 

『季語がないね。でも流通が抑えられてるんならしょうがないね。この国で言えば物資の、君の脳で言えば酸素の』

 

「失敬な、誰がテムさんか!」

 

『ふむ、そういうものなのか?』

 

キューちゃんの言葉に、マダオが真剣に説明している。

檻越しに話し会う二人。うーん、やっぱり檻ってやだなー。

 

「どうにかするかなー………って、ん?」

 

途中で配置しておいた影分身から、報告が入った。

 

『一人芝居みたいだね』

 

「まあどっちも俺だからそうだけど…………戦闘開始だってさ」

 

ようやく激突らしい。

 

カカシ一行VS眉なしの始まりだ。

 

『介入しないの?』

 

「まだね。とはいってもキリハ嬢も心配だしな………少し、見るか」

 

ミニミニサイズの水晶を取り出す。

 

『遠眼鏡の術だね』

 

「その通り」

 

便利なんで、前にマダオに教えて貰ったやつだ。

探知されるらしいけど、戦闘中ならばあの二人にも気付かれまい。

 

で、映った光景はというと――――

 

「水の中のカカシー♪ 水の上のざーぶざー♪ 白はどこーに行ーった♪ 見破られることもーなくー♪」

 

『歌うな。意味が分からん、3行にまとめてみせい』

 

「うん。

 カカシ劣勢。

 再不斬さんまじ眉毛無い。

 下忍ちょっとびびってる」

 

『カカシ君何やってんの?!』

 

水牢の術で囚われた所か………下忍3人はびびってるようだけど、腰は引けてない。

 

「相手に呑まれてはいない。三人とも、やる気ですな」

 

班編制は基本的に原作と変わっていないようだ。

うちはサスケ、春野サクラと――――ナルトに変わって、波風キリハ。

 

(さて、どうする?)

 

『まあ、ねえ』

 

………そうだな。取りあえず、静観するか。それはマダオも同じ。

 

もう、あの3人は忍者なのだ。そしてこれは里外での最初の任務。

 

ここで余計な手出しをすることは筋違いとなる。

忍務を果たすためには、賭けなければならないものがある。

 

それに、これは"初陣"である。この一戦を超えなければ、どのみちこの先に待ち受けている戦いに呑まれて果てるだろう。

特に波風キリハとうちはサスケは血と立場がある。ここで育たなければ、次の中忍試験からの一連の事件が厳しいことになる。

 

『………そうだね』

 

「お、動くぞ」

 

話している間にも、状況は変わる。

 

まず、サスケがももっちと対峙する。原作と変わらず、反撃は出来ていない。

しかし、防御は出来ているようだ。サスケの方は、原作より動きはいいかもしれない。もしかしてキリハ効果か。ライバル的なアレか。

 

ともあれ、3人は体勢を立て直したようだった。

サスケとサクラは正面から手裏剣を。キリハは同時に再不斬へと突っ込んでいく。

 

手裏剣での援護を上手く利用し、大刀の間合いの内へと入り込んだ。

下忍の初任務にしては、かなりの速度だ。本体からすればあくびが出る速さだろうが、十分の一しか力を持っていないという水分身には、避けられない速度。

 

クナイが突き刺さった。水分身が崩れ、ただの水たまりになっていく。

 

「でも、まだ出てくるか」

 

水分身は本体より格段に能力が劣る。影分身とは違う。

その驚異は少なくなるが―――その分、チャクラの消費は少なくて済む。

 

コストが安く、死んでも損がないので、次々と出すことができるという訳だ。

 

「しかし、まるでゾンビだな」

 

さて、どうするか、と言った時だった。

水分身の性質を理解したのか、キリハがサスケとサクラに耳打ちをする。

 

再不斬はキリハの速度を警戒してか、うかつにはしかけない。

そうこうしている内に、下忍の3人組が陣形を変える。

 

「おお、成るほど」

 

俯瞰していると、よく分かった。そして予想に違わず、それは実行に移された。

 

まずキリハとサクラが水分身を引きつける。キリハは前に、サクラは一歩後ろに。

 

サスケはそれを手裏剣で援護しながらも、じりじりと間合いを詰める――――ように見せて、側面に出る。

 

キリハは高速で移動しながらクナイを投げつけ、接近戦に。水分身を正面に引きつけた。

 

サスケはキリハを援護しながら、移動して。

 

そうしてサスケの目の前に、"水分身という障害物"がなくなった。

 

『そこだ!』

 

マダオの叫びと共に、サスケは一転。本体までの間合いを詰めながら印を組み、火遁を放った。本命は水牢の術を使っている本体。

 

虎の印を最後に放たれる火の玉―――火遁・豪火球の術。

範囲の広いそれは、その場から動けない再不斬の本体には避けきれない。

 

カカシも術の範囲の中に居るので巻き添えになるが、そこは水牢の術がある。

つまり、水が守ってくれているので問題ないのだ。

 

再不斬は避ける為に水牢の術を解き、跳んで後ろに下がる。

 

 

「始まるか」

 

 

そこからは同じ。解放されたカカシが、再不斬を圧倒する。

写輪眼の能力を活かしきったカカシは、再不斬をもう一歩という所まで追いつめるが、

 

「やっぱりこうなるか」

 

後は原作の通り。白の千本が再不斬の首に突き刺さり、再不斬は仮死状態になる。

 

去る白とももっち。倒れるカカシ。

 

『行ったけど、追うの?』

 

「もちのろん」

 

ガトーの会社に運ばれた再不斬・白を追って、瞬身の術を使い最速で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(この向こうだな)

 

気配を消して、扉の前に立つ。満身創痍の再不斬と、中忍レベルである白には気付けないだろう。もしばれても、再不斬はしばらく起きられないので問題ない。

 

――――別の問題はあるけど。

 

『で、どうやって勧誘するの?』

 

「………考えてなかった」

 

『阿呆だの』

 

キューちゃんの辛辣な一言。でも言い返せない。

勢いに任せ過ぎたね。無計画っちゅーか、出たとこ勝負っつーか。

 

『まあ、取りあえず情報を集めてみたら?』

 

「あ、うん」

 

さすがはマダオ。伊達に四代目火影を名乗っていない。助言の通り、俺は扉の向こうの会話に耳を傾けた。ついでに、短距離での遠眼鏡の術を使う。

 

おお、部屋の中がよく見える。

 

向こうでは、原作通りの会話が繰り広げられていた。ガトーの皮肉、挑発。鍔鳴りと共に白刃を抜く居合い使い達。それに瞬時に反応する、白。

 

そして、あー、グラサンの糞野郎はほんとつまんねーと思っていた時だった。

 

ガトーから発せられた一言に、俺は全身が凍り付いた。

 

 

「ふん、甲斐甲斐しく世話を焼きおって。流石はくの一という事か?」

 

(………は?)

 

「あなたには関係ないでしょう?」

 

綺麗な笑顔でガトーを圧倒する白。やがて、怒りの表情そのままに、部屋から出てくる3人。俺は急いで身を隠しながらも、今の言葉を反芻していた。

 

 

「くの一って、え? ………くのいち? あれ、くの一ってどういう意味だっけ」

 

『くとノと一を書いて女と呼ぶ。つまり白は女の忍びだったんだよ!』

 

「そうか」

 

 

たっぷり十秒沈黙した後、俺は周りを気にせず叫んだ。

 

 

「な、なんだって―――――!?」

 

『リアクション遅ッ!?』

 

 

 

ちなみにばれました。

 

いかん、逃げねば。

 


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