●キューちゃんの本名
「あれキューちゃん、畑の見回り終わったの?」
「ああ。そこらの鳥に言い聞かせておいたから、もう畑の方は襲われんじゃろ。あと野犬共が畑を狙っとるのか、周りを彷徨いておった」
「そうなんだ。で、一睨みすると?」
「一目散に逃げ追ったわ。野犬共も、もう近寄ってくる事もないじゃろ」
「ありがとう。で、キューちゃん、身体の方はもう大丈夫なの?」
メンマが心配そうに訪ねると、天狐のキューちゃん、本名を“九那実”というらしい彼女は、大丈夫じゃと微笑みながら答える。
「大丈夫じゃ。あの声による後遺症はない」
木の葉隠れを脱出する直前に聞いた『殺す』という声。キューちゃんはあれによって暴走し、その後も何やらチャクラが安定しなかったのだ。
極めつけはこの隠れ家に到着してからだ。その後、数日の間は高熱が収まらなかった。数日後、ようやく熱が収まったが、原因は何だったのか。未だはっきりとは分かっていない。
「まあ、あの声がワシの心か魂に干渉したとも考えられるが………」
「遠距離でそれをやるとか、メチャクチャだな。間違いなく手練だろうし………一対一で戦うとか想像したくないね」
「同意する。何、ある程度は独立して動けるように成ったし、姿も………ほれこの通り」
言葉と同時、キューちゃんは今までの7、8歳ぐらいの姿から、13,4歳ぐらいの姿へと変化する。
「この程度の姿になら、数時間は元に戻れるようになったしの。便利といえば便利になったと言える」
あの姿では、小さすぎて何をするにも大変じゃったしの、と笑う。ちなみに大人の姿…………人間で言えば22,3歳ぐらいの姿には、まだ戻れないらしい。戻れたとしても、数秒でまた元に戻ってしまうとか。
「白と再不斬が模擬戦相手に困っておったようだしの。ちょうど良いと言える」
「そうだねえ………俺としてはあまりそういう危ない事はしてほしく無いんだけど」
「何、たかが模擬戦じゃから心配するな。実戦には出んようにするしな。ほれ、あのとき………ワシが起きあがった時に言ってくれたじゃろう?」
悪戯な表情を浮かべ、キューちゃんは質問してくる。
「“絶対に守る”と………それとも、あれはその場凌ぎの嘘じゃったのか?」
少し悲しげな表情を浮かべるキューちゃん。それが嘘泣きだと分かっていても、メンマが答えられる言葉は一つしかない。
「いや、嘘じゃないから」
「ならば良し。過保護はやめい」
童女姿に戻り、胸を張るキューちゃん。メンマはそんなキューちゃんをさっと抱き上げ、耳元に囁いた。
「了解………九那実さん」
キューちゃんの顔が爆発したかのように真っ赤になった。
「な、な、何を」
「いや顔を真っ赤にする魔法………って痛い痛い、噛まないで!」
「うるさいうるさいうるさい!」
普段はキューちゃんで良いと念押しされたメンマであった。
●修行風景 ~忍具のお勉強~
隠れ家の広場で、メンマとサスケの2人が座りながら忍具についての話をしている。
「ほら、これは鋼糸で、これは光玉。煙玉に起爆札」
「一通りは知ってるって言ったろうに………今更何でまたこの忍具について勉強しなきゃならねえんだ?」
若干不機嫌そうな顔を浮かべ、サスケがメンマとマダオに反論する。その反論された2人は、何も分かっちゃいないと言った風に首を振り肩をすくめながら諭すように語りかける。
「いつも、忍具が揃っていて万全な状況で戦えるとも限らないだろ? 例えば………」
メンマは煙玉を取りだしながら、言う。
「クナイも手裏剣も起爆札も無い、この煙玉だけで戦わなきゃいけない場合もある」
敵の攻撃で、忍具が入った袋を落としてしまうかもしれない。大勢の敵との戦いの後、手裏剣もクナイも全て使ってしまっているかもしれない。
「そんな時、この残った忍具をどう有効に使うか。単品でどう使って対処するか………まあ、その時その時で思い浮かぶかもしれないけど」
場合によっては、対策案が浮かばないかもしれない。そんな状況を防ぐ為に、今から訓練をするのだ。
「まだちょっと、頭が固いしなあ、サスケは。実戦経験が少ないのが原因だと思うけど………行動に余裕が無い」
一撃一撃を決める気で戦っている。虚もそれなりにあるが、僅かだけだ。十分に活かせていない。
「まあ、自分より弱い相手なら力押しで勝てるだろうけど、それが自分より強い相手の場合は?」
「………修行してそいつより強くなるって事だろ?」
「それが最善だけど、それは答えになってないよ。時間は待ってはくれないんだから。答えは簡単、イカサマをするのさ」
「イカサマぁ!?」
「そう。相手の弱点、苦手とするものを見つけ、そこで勝負をすればいい。自分が勝てる所で勝負をすれば、勝てる」
「………いや、でも、どうやって」
「まあそれは戦闘中に考えるしかないんだけどね。その為にも、思考に幅を持たす必要がある。忍具も然りだ。使いようによっては、場を決定する武器となるかもしれない」
「煙玉、光玉も使ってか」
「そう。逃げるのが最善、っていう時もあるしね。ようは視点を集中させなければいいって事。冷静に全体を把握して、対処すればいい。
それができれば、戦術の幅が広がる。忍具の特性を知る事も大事だね。この2つがあれば、対処方法は色々と浮かんでくるから」
「全体を把握する………」
「そう。自分の死角を無くして、逆に相手の死角から攻撃する。忍者の基本でもあるしね。裏の裏っていうのは」
「そうだな…………っと、これは何だ?」
とサスケが箱から一つの武器を取り出す。
「ああ、それはトンファーだよ。貸して」
サスケからトンファーを受け取り、練習用の的の方へ向かう。
「これは………こう!」
トンファーを回転させながら、的を打つ。
「突くのにも使えるし、こうやって防御するのにも使える。まあ扱いが難しい武器だから、これは止めといた方がいいけど………そうだな」
メンマは何かを思いついたのか、サスケの方を向き笑う。
「どういう角度から攻撃が来るのか、一度見ておくのもいいか」
ちょっと立って、とサスケを立たした後、メンマはサスケの方に近寄り、対峙する。
「じゃあいくよ?」
「ああ」
対峙する2人の間に、緊迫した空気が流れた。
「受けよ、我が必殺のトンファーを!」
トンファーが勢いよく回転し始める。
「………!!」
サスケはトンファーを凝視し、それに当たるまいと構えを取る。
直後、メンマが一歩前に出て、サスケが防御しようと腕を上げる。
勝敗は一瞬にして決した。
∧_∧ トンファーキ~ック!
_( ´ナ`)
/ ) ドゴォォォ _ /
∩ / ,イ 、 ノ/ ∧ ∧―= ̄ `ヽ, _
| | / / | ( 〈 ∵. … (サ 〈__ > ゛ 、_
| | | | ヽ ー=- ̄ ̄=_、 (/ , ´ノ \
| | | | `iー__=―_ ;, / / /
| |ニ(!、) =_二__ ̄_=;, / / ,'
∪ / / / /| |
/ / !、_/ / 〉
/ _/ |_/
ヽ、_ヽ
上と見せて、下である。まさに外道。きたないさすが主人公きたない。
「…………て、めえ………っ!」
予想だにしない角度からの攻撃をくらい、腹を抑えながら蹲るサスケ。
「と、こういう使い方もできる」
そんなサスケを見ながら、しれっと話を続けるメンマ。
「いや、それは人としてどうかと………」
「いやいや、マダオさん。そう強く蹴ったつもりは無かったんだけど」
これぐらい避けて貰わないと困るなあ、と肩をすくめるメンマ。
「…………っ」
サスケは腹を抑えながら、唸っている。前蹴りがまともに腹部へと入ったせいか、呼吸困難に陥っているようだ。なら、授業の時間だな。
「今のように先入観を利用すれば、相手の意識を誘導してやればこういう事もできる。武器ってのは持っているだけで意味があるってことだね。相手は、その方向へ意識を集中するから、場合によってはわざと見せてそれを囮にするのも………ん、何? トンファー貸せって?」
うずくまったままのサスケが手を差し出すので、その手にトンファーを渡す。
(ふん、同じ手は通用せんぞ)
にやりと笑う。まるで悪役であるが、知ったことか。サスケはおもむろに立ち上がったあと、一歩踏み出した直後、何故か正面から横に視線を逸らした。
そして、ポツリと呟く。
「…………あ、九那実さんが全裸で水浴びしてる」
「「マジで!?」」
即座に反応し、サスケの視線の方向を見る2人。同時、サスケがニヤリと笑いながら、メンマの懐に入り込む。今までの修行の成果を思わせる、神速の踏み込みからの一撃。
トンファーパンチ!
_ _ .' , ..∧_∧
∧ _ - ― = ̄  ̄`:, .∴ ' ( ナ )
, サ'' ̄ __――=', …,‘ r⌒> _/ /
/ -―  ̄ ̄  ̄"'" . ’ | y'⌒ ⌒i
/ ノ /~/ ドゴォォォ | / ノ |
/ , イ )フ / , ー' /´ヾ_ノ
/ _, \/. / , ノ
| / \ `、 / / /
j / / ハ | / / ,'
/ ノ ~ { | / /| |
/ / | (_ !、_/ / 〉
`、_〉 ー‐‐` |_/
サスケの拳がメンマの横っ面にクリーンヒット。だが、その直後であった。
「影分身!?」
殴られ吹き飛んだメンマの姿が、煙と共に消える。
樹上の方向から声がした。
「ふははは、甘い! 甘いぞ甘すぎる! 狙いは良かったが………俺が今更キューちゃんの貧乳如きに、本気で釣られると思うたか!」
樹上で腕を組み、ロリとちゃうわ! といいながら高らかに笑い声を上げるメンマ。とうっ、と地面に降り立ち、また腕を組みなおしてうむうむと感心したような声を上げる。
「しかし、やるようになったものよ。おしむらくは囮にする相手が悪かったな。実は隠れ巨乳であった多由也とか、清純派アイドルそのものの白ならば話は別であったろうが………ん?」
途中、背後に気配を感じたメンマが、言葉を止める。
「………ず、いぶんとまあ………面白い事を、いうておるのう?」
メンマがピシリと硬直する。地を這うように低い声。濃密なその殺気。
(………いる、振り返ればヤツがいる!)
「のう、こっちを振り向かんか?」
「イエス、マム!」
逆らう=死という方程式を瞬時に解いたメンマ、もの凄い勢いで振り返った瞬間。
「乳がそんなに偉いのかーーー!」
目尻に涙を溜め顔を真っ赤にしたキューちゃんに、ぶん殴られた。夜空に瞬く星となった。
ぷんぷんと怒りながら隠れ家の方へと戻っていくキューちゃん。
しばらくして、車田落ちで落下してきたメンマに、サスケはニヤリと笑いながら告げた。
「ふっ、気配は察知していたからな………裏の裏だ。これで、いいんだろう?」
絶対にボロを出すと思っていたからな。サスケはそう笑いながらい、メンマに背を向けて去っていった。
その隣ではマダオが染まってきたねえ、と言いながらうんうんと頷いていた。
●修行風景その2 ~忍具と忍術~
「次は忍具を併用した術の練習を始めます」
「どうでもいいけど回復早いなお前」
「それが取り柄じゃからの」
キューちゃん酷え、と呟いた後睨まれたメンマ。急いで、術の説明を始める。
「えっと、サスケは雷遁と火遁が得意だったよな?」
「ああ」
「よし、じゃあまずは俺でも使える雷遁を………」
メインは風遁の方だが、雷遁の方も初級限定だが、扱えるのだ。
「そして道具はこれ………」
メンマは鋼糸を手に取る。そして地面に落ちてあった枝を手に取り、空中へと投げる。
「雷遁、雷華の術!」
それに鋼糸を巻き付けたまま、術を発動。雷が鋼糸を伝導して、木へと流れていく。少し焦げたようだ。
「と、こんなもん。火遁にも似たような術あった…………たしか、火遁…龍火の術だっけ」
「そうだな………大蛇丸のヤツ相手に使ったな、そういえば」
「大蛇○ねえ………あ、ごめんちょっとトイレ」
悪い、と手を前に出して謝る。
「まったく。早くすませてこんか」
その数分後。
「よし、じゃあ次はまた鋼糸を使って………2人ともちょっと離れて」
キューちゃんとサスケが離れたのを確認したあと、メンマは説明を始める。
「今から使うのは光遁といって、世界でも恐らく俺しか使えない忍術だから………よく見ててね」
直後メンマはエイやっと飛び上がり、左右の木へと鋼糸を投げつける。
固定され、空中で静止するメンマ。
そして足を上げて、叫んだ。
「光遁・かっこいいポーズ!」
太陽をバックに、ポーズを決めるメンマ。サスケがずっこけた。
「一応聞いておくが…………何だ、それは?」
「え、だからほら、かっこいいポーズ」
「………視線がやや上を見てるのがまた妙にむかつく………、とかそういう事を言ってるんじゃない! ほらほら、じゃねえよ! 一体何の役に立つんだその術は!」
「え、見る者を惹きつけ動きを止め、熟練者になると暗黒属性の敵ならば消し去ることもできる、超高等級忍術だけど」
それに、と続ける。
「特に大蛇○相手に有効。サスケが全裸でこれをやれば………大蛇○を悩殺できるZE!」
キラ☆っという笑顔を浮かべるメンマにサスケがぶち切れた。
「気持ち悪い想像させんじゃねえ!」
空中に浮かぶメンマ目掛け、跳躍。飛び蹴りを敢行するサスケ。
メンマは空中で身動きが取れないので、その蹴りを避ける事はできない。
だが、それはメンマの読み通りであった。
「甘いわ!」
「がああ!?」
接触と同時、メンマが爆発した。巻き込まれるサスケ。
「あほじゃの、こやつら。………後ろの。隠れておらんで、さっさと出てこんか」
ため息を吐きながらキューちゃんが後ろの藪に声をかける。
「ありゃ、ばれてたか。と、かっこいいポーズだけど、こういう使い方もできる。挑発した後、ボン、ね。ちなみに今併用した忍術は“分身大爆破”といって、影分身を併用したA級難度の忍術で、うちはイタチも使えるそうだから気を付ける事ー。今のは威力極小だったけど、本物はもっと凄い………ん? 何だ、この………鳥が泣くような音は」
直後、全身から煙りを立ち上らせながら、サスケが立ち上がった。
千の鳥を鳴らしながら。
「勝身煙………!?」
「いやさっきの爆発のせいじゃろ」
キューちゃんの冷静な突っ込み。それを合図として。
「死ね」
サスケが写輪眼を発動させながら特攻してきた。右手に雷を携えて。
「あ、キューちゃんどうしたの、あの2人………何か映画のラストシーン並の死闘を繰り広げてるけど」
向こうでは、サスケとメンマが「俺の右手が真っ赤に燃えるぅ!」とか、「このぶわぁか弟子があぁぁ!」とかいいながら殴り合っている。
「ただの、模擬戦じゃろ。しかし成長したのうあやつ」
サスケの方を見て、キューちゃんが呟く。
「うん、元々才能はあったからねー。飲み込みが早いし、頭の回転も早いからそりゃ本格的に鍛えれば成長も早いよ」
「しかし体術の方も一から教えるとはの。ほら、写輪眼でコピーできるのじゃろう? 今また、基本から体術というか併用したチャクラコントロールを教えておるのは何故じゃ?」
「いや、体術に関してはちょっとね。忍術とはちょっと勝手が違うんだ。筋肉の問題だから、コピーしてOKというにはちょっとね………」
「筋、肉?」
「そう。体術とはおおまかに言うと、筋肉の運用方法だから。個人個人、肉の付き方は違って当たり前だし………パンチ一つ打つにも、筋肉の使い方自体が違うんだ。コピーして無理に真似したら、いつもは使っていない筋肉に妙な負荷がかかっちゃったりして、すぐに身体が痛くなってくる」
一時的な動きとか、短期決戦なら問題無いんだけどね、と言いながらマダオは肩をすくめる。
「何をするにも体術は基本となるから。だから、素の状態………本人に一番合った体術を覚えさせる方が良いんだ」
「それでか。で、次は何の修行をする?」
「そうだねえ。軸となる戦術………今のところ、刀を使った戦術を考案してるけど」
「何か、問題があるのか?」
「ももっちのあの大刀みたいな、良い刀が無いんだよ。来週あたり、メンマ君がメンマ君に変化して砂隠れの里に赴くらしいから………その時に、調達しに行こうかって話してるところ」
「匠………おお、かなり昔に行ったあそこか。確か、忍具開発専門の里じゃったか」
「そうそう。手裏剣とかクナイとか、前に一括で購入した忍具も、使って残り数少なくなってきたから。補充も兼ねて」
ちなみに、忍具を購入する際、顧客情報は絶対に漏れないようになっている。忍具に関しては時に戦局を左右するものなので、5大国はその方針を受理。この規定は未だ破られていないのだ。下手に手を出すと、周りの里全てを敵に回す恐れがあることから、半ば争いの無い不可侵領域と化している。皮肉な話だが。
「しかし、金はあるのか? この家の結界を張る時、材料代とかで滅茶苦茶多く金を使ったと聞いたが」
千鳥や螺旋丸にも耐えうる結界。その強度から、この隠れ家と周囲3里程は半ば異界と化している。煙も外には漏れない。
辿り着くにも、狐里心中を駆使した迷いの森を抜けなければならない。堅牢きわまりない隠れ里と化している。
メンマをして「パーフェクトだマダオ」と呟いてしまった程の仕事っぷりである。だが当然、製作資金もかなりのものとなった。
「そこなんだよねえ。まあ、そっちも案があるにはあるけど」
「………また、抜け忍の仕事を請け負うのか?」
「信用度は特Sだったでしょ? だから、何とかなると思うよ」
「そうじゃの………というか、あやつらまだやっとるのか」
向こうでは手裏剣とクナイの投げ合い合戦になっている。
「あーあー、畑の方に飛んで………おお、さすがキューちゃん早い」
一歩で間合いを詰めて、二歩目でサスケの膝を蹴って駆け上がり、とどめの膝蹴り。
その見事すぎる手際を見て、マダオが戦慄する。
「シャイニングウィザード………!」
あらゆる意味で。マダオはそんなキューちゃんをすげえ男前な顔で見ながら、「ナイス太もも」と呟いた。キューちゃんは留まらない。返す刀でメンマにもシャイニングウィザード。一瞬にして2人とも昏倒させた。
「お疲れ様ー、キューちゃぶらほっ!?」
そして3人目、マダオにも炸裂した。
「何で………」
と呟くマダオにキューちゃんは着物の裾を抑えながら、顔を真っ赤にして答える。
「見るなっ!」
いや見せたのそっちの方、と呟きながらマダオは意識を失った。一瞬見えた白い理想郷を思いだしながら。ぐっじょぶといいながら鼻血を吹く。親指だけを立てて、マダオは逝った。
薄れ往く意識の中、見えたのは自分と同じように親指を上げて気絶している2人の漢の姿だった。
ちなみに飯の時間なので3人を呼びに来た多由也がこの光景を見て、『何がなんだかさっぱり分からない』と小一時間立ちつくしたのは別のお話である。
●男達の挽歌
「白、どうしたんじゃ、あの男共?」
テーブルではメンマ、サスケ、再不斬、マダオの4人の男衆が座り、両肘をテーブルに、顔を両手で隠しながら落ち込んでいた。
「いや、ほら多由也さん今風邪ひいているでしょう?」
「うむ。今は寝込んでいるのじゃろ?」
「ええ。それで、ですね。風邪を引いて倒れる直前に事件が起こったんですよ」
「ふむ、事件とな?」
「ええ。練習中の笛の術ですが、ちょっと暴発しちゃったらしくて」
「ほう………しかしそれで何で、あの4人が落ち込んでいるんじゃ?」
「音色を間近で聞いたらしくて、ですね。………ボクが部屋に入った時にはもう手遅れで………幻術作用があったんでしょうか」
いや絶対にそうだろう、と呟いた後、白の顔が赤くなる。
「びっくりするほどユートピアってどういう意味でしょうか………」
白が部屋に入った瞬間、目にした光景は衝撃的だった。おしりを両手で叩きながら白目を剥き、「びっくりするほどユートピア!」と叫びながら、椅子で踏み台昇降運動をしている4人。それを目撃して、硬直してしまった白。それを間近で見てしまったのだろう、多由也は倒れてしまっていた。
――――偶然が産んだ、悲劇であった。
正気に戻った瞬間、椅子に座り…………30分間、あの体勢のままである。ちなみに倒れた多由也は白に運ばれ、今は部屋で眠っている。
「うむ、私が畑に行ってる間にそんな面白い事が………」
「キューさん………今はそっとしといてやりましょう」
後生ですから、と2人はその場を立ち去った。
小一時間後。男達は記憶から今回の事を消し去ったらしい。全てを忘れ、朗らかに笑い合ったという。多由也の事は責めなかった。わざとじゃなかったし、何より彼らは紳士だから。
余談だが、この日より4人に取って『ユートピア』は○禁ワードとなったらしい。
2年後、彼らの前でその言葉を口にしたカカシがどうなったのか。
それはまた、別のお話。