小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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間章の1
一話 : その後、それぞれの一日


 

●音隠れの里

 

玉座に座る大蛇丸。その全身は包帯で覆われていた。カブトからの報告を聞いた大蛇丸が、眉をしかめる。

 

「………うちはサスケが、何者かに攫われたのね?」

 

「はい」

 

「そう………まあ、写輪眼は残念だったけど、今はこの君麻呂の血継限界があるしね。とりあえずだけど、今回はこれで良しとしておきましょうか」

 

「写輪眼は諦められるのですか?」

 

「まさか。カブト、うちはサスケの消息は掴めているのかしら?」

 

「いえ。スパイからの報告では、木の葉の北側、終末の谷近辺で消息を絶ったと」

 

「………近いわね。無駄かもしれないけど、探索は続けなさい」

 

「了解しました………で、大蛇丸様、君麻呂の身体にはもう馴染まれたのですか?」

 

大蛇丸は不屍転生の術を使っていた。腕が使えなくなった前の身体を捨て、君麻呂の身体に移ったのだ。

 

「いいえ、まだよ。もう少し時間がかかるようね」

 

「そうですか………ああ、それと、抜け忍の多由也の事ですが」

 

「ひとまず放っておきなさい。あの九尾のガキと一緒にいるんでしょ? ………戦力が揃っていないのに手を出しても返り討ちが関の山よ。木の葉には渡っていないようだしね。今は好きにやらせておくしかないわ」

 

「はい、承知しました」

 

「用はそれだけ、カブト?」

 

「あ、いえ。その、大蛇丸様宛へと、手紙があるのですが………」

 

「手紙? 誰から………いえ、どこから届いたの?」

 

「うずまきナルトに気絶させられた時にですね………その、次郎坊の服の腰元に挟まっていたようで」

 

「そう………で、中身は見たの?」

 

「それが白紙で………3枚綴りなのですが、どれも何も書いていませんでした」

 

「いいわ、取りあえず貸してみなさい………あら、文字が浮かんできたわね」

 

私のチャクラに反応したのかしらと呟きながら、一枚目を読み出す。

 

 

「………ええ、と? 『これだけは言っておきたかったんだけど』」

 

ぺらりと二枚目をめくる。

 

「『オカマで忍者って』」

 

オカマの下りを見た後、怒りに手を振るわせながら、3枚目をめくる。

 

 

「『どんだけ~』」

 

 

大蛇丸の空しい声が、玉座の間に響き渡った。

 

 

「「…………」」

 

場が沈黙する。

 

 

「…………って何よこれは!」

 

興奮した大蛇丸が、紙を破り捨てた。

 

「ってああ、怒ったせいで目眩が。うう、魂が抜けそう………」

 

「ええ、大蛇丸様!? 誰か、ええと………い、医療忍者ァ~~~!」

 

「いや医療忍者はアンタでしょ! ってああ、怒鳴ったらまた目眩が……」

 

数分後。何とか容態を持ち直した大蛇○は、天井を見上げながら呟く。

 

 

「………ここまで私を虚仮にしてくれるなんてね………」

 

 

いつか絶対殺す、と誓う大蛇○であった。

 

 

 

 

 

 

 

●木の葉隠れの里

 

「以上で、報告は全てです」

 

「そうか………奈良シカマル」

 

「へい」

 

「………そう怖い顔をするな」

 

「まあ、ね。まあ先の戦闘の事………理屈は分かるんですが、納得は出来ないっつーか」

 

「それでも、貴重な体験はできただろう? 前の大戦ではそんな事をしている暇も無かったからな。下忍だから、という言い訳がなんの慰めにもならない状況だった。父母からも聞いているだろう」

 

「………親父達から、話を聞いてはいますが………」

 

「ふん、無理に納得しろとは言わんぞ。文句があるなら言ってくれてもいい。別に咎め立てたりはせん」

 

「………いえ、いいです。ようするに、何であれ………勝てば良かったんですから。負けた俺達が何を言っても情けなくなるだけです。そういう事ですよね?」

 

あの一戦で、同期の面々の忍者としての意識が変わるのも確かだし、視野が広がるのもそうだ。強くなるんだから、特別悪いこと何て無い。そう思っていたシカマルは、しっかりと割り切って答えた。

 

「………ふん、思考も中忍らしくなってきたな。それに、木の葉崩しの後、上がってきた報告書で見たのだが………慣れないチーム編成で音の中忍を相手取って、勝利を収めたそうだな?」

 

「あのときは………相手がこっちを舐めきっていたってのもありますよ。それに、運の要素が強かったですから、アレは」

 

二度とやりたくない、と肩をすくめるシカマル。だが、綱手はそれでも大したものだと返す。

 

「それでも勝てる道筋をあの絵図を短時間で思いつき、描ききったというのも事実だろう。無理な作戦ではなかったし、十分現実的で堅実な策だったと思うぞ」

 

綱手の褒め言葉に、シカマルは頭をかきながら、嫌そうに答える。

 

「………止めて下さいよ。褒めないで下さい。俺はそんなに大した奴じゃないですよ………それに、今回は不様に負けちまったんだから」

 

「なら次の場で勝てるようになればいい………奈良シカマル、そんなお前に任務を与える」

 

「………何でしょう」

 

「先の戦闘に参加した下忍達、その敗因を聞きながら、全部説明してやれ。全員だ。仲間の欠点を知っておくのも重要な事だしな」

 

一緒の任務に当たってもらう事が、これからも多くなっていくだろうしな、と呟く綱手。

「………了解。何かキリハの奴がやる気になってるんで、それに関しては心配ないと思いますけど。あいつに引っ張られて、同期の連中も色々と動き出すでしょうし」

 

落ち込む暇も無いでしょう、と肩をすくめる。

 

「引っ張るのは俺の役目じゃないです。柄じゃないし、適任でもないですから」

 

シカマルが頭をかきながら、答える。

 

「何でか、あいつに『頑張ろう』とか言われると、何かそういう気分が沸き上がってくるんですよ。不思議と。士気に関しては問題無いでしょうから、後は時間の問題ですね」

 

そういう気分にさせる。これも、力なのだろうか。

 

(そういえば、兄貴の方もそんな感じがするな)

 

不思議と、聞いてしまうような。疑いを持つ気持ちが薄れていくような。

 

「………そうだな。そうかもな。だが、纏め役は任せるぞ。勢いだけじゃ駄目だからな」

「了解です………あと、春野サクラと山中いのについてですが」

 

「ああ、それについては聞いている。医療忍術を学びたいと言っていた件に関してだな?」

 

前の戦闘で場を決定できるような、自分だけの武器が足りないと気づいた2人は、あの戦闘の翌日、医療忍術を学びたいと綱手に申し出ていたのだ。元々、くの一の方が微細なチャクラコントロールは得意だ。統計をとっても、その傾向は顕著に出ている。

 

前々から、2人で話には出ていた。自来也との修行でも、その事は聞いていた。そこに、医療忍術のスペシャリストである綱手姫が五代目火影に就任したのだ。

 

「自来也からも話には聞いていたしな………分かった。そちらは私の方で面倒を見よう」

「お願いします」

 

「ああ。で、だ」

 

と退室しようとするシカマルを綱手が引き留める。

 

「あともう一つ、聞いておかなくてはならん事がある」

 

机の前で腕を組み、綱手が眼光鋭くシカマルを睨み付ける。

 

「………何ですか?」

 

気圧されながらも、何とか返事をするシカマル。

 

やがて、綱手の方がゆっくりと口を開いた。

 

 

「波風キリハとは………どこまでいったんだ?」

 

 

それを聞いた途端、シカマルは頭から転げ落ちた。

 

「な、な、な」

 

「いや、自来也がしつこく聞いてくるんでな。人の執務室で愚痴るし。うざいことこの上ない。お前とキリハ、山中いのと秋道チョウジは幼なじみだと聞いていたが………そこら辺はどうなんだ?」

 

「いや、俺とキリハは何でも無いですよ!」

 

「ほう………ということはAまでは行ったんだな? やるな」

 

自来也に報告だと呟く綱手に、シカマルは慌てたように答えた。

 

「何も無いって言ってるじゃないですか! まだ手を繋いだだけで………!」

 

言葉の途中、しまったとばかりに口を紡ぐシカマル。その顔が赤くなる。綱手はいいことを聞いたとばかりにニヤリと笑みを浮かべ、更に問いつめる。

 

「ほう、やはりな。そこまでしか行っとらんか………まあキリハの奴は何処か鈍い所があるし、仕方ないのかもしれんが………」

 

うんうん、青春だなと呟く綱手にシカマルは「このババア」と思ったが口には出さなかった。本能で危機を察知したが故の英断である。幼なじみのいのと、母ヨシノ相手に磨いた、女の逆鱗。そのラインに関しての勘は、今日も冴えわたっていた。本人に聞けば、そんなの欲しくなかったと涙を流しそうだが。

 

「で、今もアタックはしているのか? ………まあアタックしても、全部さらっと流されていそうな雰囲気だが………」

 

「………そうなんですよ、聞いて下さいよ、ちょっと」

 

と、隣にシズネがいるにもかかわらず、色々と愚痴り出すシカマル。

 

小一時間愚痴った後、其処には同盟が生まれていた。

 

「分かります分かります!私も、ミナト兄さんにアタックしても、さらりと流されて………」

 

シズネの幼少の頃の四代目火影との出来事が、色々と話される。自来也の弟子ミナトと、綱手の弟子兼付き人であったシズネ。四代目が生きている頃は、少しだが親交があったらしい。その時に起きた涙なしには語れない事件の数々が、次々と場にぶちまけられる。

 

そして話が終わった後。

 

「シズネさん!」

 

「シカマル君!」

 

がっちりと交わされる握手。

 

 

「…………え、何だこの状況? 私が収集つけるのか?」

 

 

その横で、どうしてこうなったと呟きながら、綱手が汗を一滴流す。

 

 

 

自業自得であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●砂隠れの里

 

「………はあ」

 

風影の葬儀が終わった後。その風影の長女である、テマリは物憂げに窓の外を見ながら、ため息を吐いていた。元気が無さそうだ。

 

「…………」

 

風影の次男、尾獣が一尾、守鶴の人柱力である我愛羅も同じく黙り込んでいる。こちらも元気が無さそうだ。

 

(………いったい何があったじゃん?)

 

元気のない姉と弟の姿を見て、長男…カンクロウが慌てる。木の葉崩しの後、2人と話し合って何とか和解したものの、未だに信頼関係は厚いとは言えない。そんな2人が、間近で背景に黒いものを背負われて落ち込んでいるのを見ると

 

(何とも落ち着かないじゃん)

 

そんな時、2人がほぼ同時にある言葉を呟いた。

 

「ラーメン………」

 

「メンマ…………」

 

直後、2人は顔を見合わせて、その後また落ち込んだ様子に戻る。

 

(!?!?!?)

 

一方、カンクロウは訳が分からないという表情になる。

 

(ラーメンって………砂隠れではまず見かけない食べ物じゃん…………なんかますます分からなくなったじゃん)

 

訳が分からないと、ため息を吐く。そこで時計を見て呟いた。

(………時間じゃん)

 

あと数十分後、昨日里から依頼された任務が始まるのだ。任務の内容は簡単だ。アカデミーで下忍候補である訓練生を相手に、兵器術、忍具を使った戦闘に関する講師、教官を務める事。

 

「そろそろアカデミーに向かう時間じゃん、2人とも………」

 

とカンクロウが2人に話しかける。

 

「ああ………」

 

「分かった………」

 

だが、2人とも元気が無い返事を返す。それを見たカンクロウが怒った風に言う。

 

「いいかげんにするじゃん! そもそもラーメンって何じゃん! そんな熱くて不味い物なんかほおっておいて、教官の、し、ごと、を………」

 

最後までは言えなかった。

 

「ラーメン………」

 

「なんか、だって?」

 

前者の呼び声は我愛羅。俯いたまま、肩を振るわせている。あ、ひょうたんの蓋取れた後者の呼び声はテマリ。こちらに笑顔を向けたまま、ゆっくりと背中の鉄扇に手をかける。

(ふ、2人に一体何が!? というかこの殺気、洒落にならないじゃん! 何でここまで怒ってるじゃん!?)

 

急に訪れた修羅場に狼狽えるカンクロウ。だが2人は殺気をおさめ、武器を収めた後、カンクロウの襟元を一緒に掴んで引きずりだした。

 

「そうだな………アカデミーの訓練生に手本を見せてやるか」

 

今日の授業は血の雨が降るな………と呟く我愛羅。アレ、試すか、って何を? え、最硬絶対攻撃…守鶴の矛? 何それ、怖い。

 

「そうだな………忍具の威力を知って貰うためにも、的になるのはできるだけ本物がいいよな」

 

知識には代償がつきものだよなあと笑っているテマリ。見えないが、目は笑っていないのだろう。そういうチャクラを発している。等価交換、等価交換と呟いているが、何と何を交換するのだろうか。怖くて聞けなかった。

 

「ちょ、ちょっと待つじゃん!」

 

「「待たん」」

 

ハモる姉と弟。

 

(い、いつの間にそんな仲良くなったじゃん!? ていうか、このままじゃガチで殺されるじゃん!)

 

………その後アカデミーの訓練場で、3姉弟による大乱闘スマッシュブラザース的な激闘が開催されたらしい。未来永劫語られない、砂隠れの里の恥部であったので、事実に関しては定かではないが、取りあえず風と砂が訓練場を蹂躙したらしい。

 

目撃者によると、人形が空を舞っていたとか何とか。またそれを見た砂の忍び達の証言に、「我愛羅様って変わったよな………」という呟きがあったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

●麺隠れ邸

 

 

 

~ 多由也 ~

 

「らあっ!」

 

「甘いし遅い! 寝てんのか!」

 

隠れ家の外。窓から、2人の声が聞こえてくる。毎度のごとく、うちはサスケが体術の修行をしているのだろう。とにかく攻め続けるうちはサスケと、それらを全部捌ききるメンマさん。

 

(………いや、メンマか)

 

名前はナルトではなくメンマで、さん付けは止めてくれと言われたばかりだ。何か変な感じだから、と。

 

「あれ、多由也さん、仕込みは終わったんですか?」

 

「全部終わったよ、白」

 

返事をすると、早いですねと白が微笑んだ。

 

「それにしても昼から動きっぱなしなんだけど………大丈夫なんかな、あの2人」

 

「まあ大丈夫でしょう。サスケ君の方は知らないですが、メンマさんの方はこの程度でバテる程、柔らかい鍛え方していないでしょうから」

 

「………それもそうか」

 

何せ大蛇丸様………いや大蛇丸に勝る迄はいかないが、それでも真っ向から打ち合える程だ。

 

基礎能力だけでも相当な域に達しているのだろう。

 

「そういえば多由也さん、例の呪印に施した封印ですが、どんな感じですか?」

 

「………ああ。封印を施してもらう前から発動は出来なくなっていたから………再び発動する心配は無いよ。封邪法印も、保険みたいなもんだったしな」

 

「そうですね。でもマダオさんが『凄い』って言ってましたよ。念入りに仕込まれた洗脳と呪印による人格変化。その両方を気力で振り切ったっていうのは」

 

「………それも、切っ掛けがあってこそだ。情けないが、自力だけでは不可能だっただろうから」

 

あの言葉を聞かなければ今でもウチは、音隠れの里で忍者を続けていたに違いない。ひょっとしてメンマと戦う事になって、結果誰かに殺されていたのかもしれない。

 

「それでも、ボクは凄いと思いますよ? 切っ掛けは何であれ、断ち切っれたのは自分の意志の強さによるものでしょう?」

 

「………よしてくれ、何かそんな直球の言葉………恥ずかしいから」

 

聞いているこっちの方が照れちまう。

 

「はは、すみません………あ、終わったようですね」

 

白が窓の外を見ながら言う。

 

「そうだな………あーあー、うちはサスケの奴、ぐったりして動かないぞ」

 

「限界ぎりぎりって所ですね。まあ数分もしたら立ち上がるでしょう…………それじゃあ、夕食の用意を始めますか」

 

「ああ」

 

白と2人で、下ごしらえが済んだ食材の調理に入っていく。そこに、入り口の方から声が聞こえた。

 

「ただいまーっと、お………今日は肉か!」

 

「ええ。出来上がるまでもう少し時間がかかりますから、先にお風呂の方、済ませておいて下さい」

 

「了解。って事だけど………サスケー聞こえたかー」

 

メンマが外でへばっているうちはサスケの方へと声をかける。声を返す気力も無いのか、あいつは寝転がりながら手だけ挙げて答えた。

 

「うっし。でも多由也って料理上手いんだな」

 

意外だ、という顔をするメンマ。

 

(まあそう思うだろうな)

 

覚えたくて覚えた訳じゃないけど、ウチは料理が得意だ。元4人衆………とはいっても、次郎坊、左近・右近、鬼童丸の事だが。忍者に成り立ての頃、まだ一緒に訓練をしていた頃は、ウチが料理担当だったのだから。

 

(あいつら、クソみたいに料理が下手くそだったからな)

 

どうせなら上手い物を食べたいということで、多少なりとも母に仕込まれていたウチが料理を担当していたのだ。

 

(………そうだな。何時からだったか)

 

思い出す事も無かったな。今となって振り返ってみれば………あいつらも、変わった、いや。

 

(変わり果てたといった所か)

 

呪印を刻まれる前と後を思いだし呟く。

 

(何もかもが変わっていったな………)

 

昔はもう少しまともだったと思う。少なくとも、血に飢えた猟犬のような言動も、嫌っていた筈だ。ウチら全員、戦災孤児だったのだから。

 

(思い出しても、な)

 

どうにもならない。どうにもできなかった。

 

「多由也さん?」

 

「あ、すまん」

 

白の心配そうな声に返事を返し、ウチは夕食の支度を再開した。

 

 

 

 

 

「………ただいま」

 

「おかえりなさい、もう出来てますよ」

 

「ああ」

 

うちはサスケ………ああもう面倒臭い、サスケは席に着くなり、ものすごい勢いで晩飯を食べ始めた。豚肉のしょうが焼きとみそ汁、野菜サラダを作ったのだが、不味いとは思われなかったようだ。

 

「………旨い」

 

まともに話す気力も無いのか、感想も単語だけだ。だが、旨い、美味しいとは言ってくれる。そういえば、ウチが料理できると知った時、滅茶苦茶意外そうな顔をしてたな、こいつ。思わず殴りかかっちまったが、それでもウチは反省していない。

 

訓練後疲れていたこいつは、ウチの拳を避けきれずに殴り飛ばされていた。その後怒ってはいたが、ウチが作った飯を食った後何ともいえない驚いた表情を浮かべこっちを見ていたっけ。

 

(あの表情は笑えたな………あと、そうだ、アレもあったっけ)

 

この隠れ家に来て、初めて訓練をした日。ボロボロになりながらも、この家に帰ってきた時だ。

 

(白とメンマのおかえりって言葉になあ)

 

今思い出しても笑ってしまう。きょとんとした表情を浮かべた後、顔を赤くして「た、ただいま」とか返して、メンマに爆笑されていたっけ。

 

でも互いに、ちょっと嬉しそうで。

 

(そうだよなあ)

 

実際、ウチも初めてそう言われた時はびっくりした。

 

 

 

おかえりなんて。ただいま、とか。そんなの、言う相手なんかいなかったから。迎えてくれるのは、暗い部屋。帰った部屋はいつも暗くて、明かりも点いていなかった。

 

考えるべきは次の任務。人を殺すための段取りか、作戦を――――

 

(………よそうか)

 

考えると、どんどん暗くなっていく。よそう、今考えるのは。その時、また入り口の方から声が聞こえた。

 

「帰ったぞ」

 

「あ、再不斬さん! おかえりなさい」

 

白がもの凄い綺麗な顔で、再不斬を出迎える。再不斬の方は、何かぶっきらぼうな応答を返しているが、あれは照れているのだろう。傍から見たら分かる。ばればれだ。

 

(ウチでも聞いたことがある、あの霧隠れの鬼人とも呼ばれている再不斬もな………)

 

白の笑顔の前では形無しである。まあウチでも見惚れる時があるもんな。

 

「多由也ちゃん?」

 

「………えっと、マダオさん。前から言ってるけどちゃん付けはちょっと」

 

「ああ、ゴメン。えっと多由也さん?」

 

「多由也でいいです」

 

「じゃあ、多由也。練習始めるよ」

 

「はい」

 

そういえば、マダオってどういう意味なんだろう?メンマは『まあ名前みたいなもの』って言っていたけど。

 

 

 

結界が張られている室内。ウチは笛を取りだし、指にチャクラを篭めると、練習曲を奏で始めた。室内に、音が響き渡る。

 

「………そう…………いや、そこはもうちょっと…………そう、いい感じかも」

 

「………こう、ですか?」

 

「そうそう、そんな感じ」

 

手探りしながらも、練習は続く。ウチが何を練習しているのか。それは、ウチが音忍になると決めた時、心に描いていた理想の忍びの形に関係している。

 

(この形見の笛の音で、人を癒す。そういう術を使えるようになる)

 

最近思い出した事。あの日までは、忘れていた事。ウチは、そういう決意を抱いていた筈だ。そして、大蛇丸の元でチャクラなど、必要な技術を鍛え続けていた。

 

(………いつからだったのか)

 

呪印が刻まれた頃かもしれない。少しずつ、ずれていった。確かに描いていたのに………例えそれが子供の戯れ言でしかなかったにしろ。夢は砕かれ、音は赤く染まり、血へと落ちた。

 

(大蛇丸………『様』には、どうでもいいことだったのかもしれないけど)

 

皮肉を篭めて、揶揄する。結局は駒だったのだ。それ意外の価値など、ウチの意志など求めていなかった。使いやすい駒を作るため。ウチの想いを踏みにじった。

 

(それでも、ウチには大切な事だったんだ。何に代えても守るべき大切なものだった)

 

でも、いつの間にかすり替えられて。それでああいう風に落ちていった。思い出したくないけど、忘れられないだろう。

 

(………思えば、今こんな生活ができてる事自体が夢のようだ)

 

自分1人では、到底掴めなかっただろう。全て、ここにいる全員の御陰だと思う。そう言った時、メンマは笑って否定した。

 

――――切っ掛けは多由也が掴んだのだと。

 

――――クソみたいな世界の中、それでも足掻こうと手を伸ばす事を選んだのは多由也なのだと。

 

――――俺はその手を掴んだに過ぎないと。

 

 

でも、自分が傷つくかもしれないのにその手を掴んでくれる人がどれだけいるか。リスクが大きすぎるのに。まあ仕方ないと言いながらも、手を差し伸べてくれた人。

 

そのためにも、そしてウチの夢のためにも絶対に完成させる。ウチだけの術を。

 

 

 

 

 

 

 

~ うちはサスケ ~

 

 

「………くそ」

 

食後、疲れ切った身体を引きづり、何とか自分の部屋まで戻る。そして部屋に着くと布団へと倒れ込んだ。日中、外に干していたのか陽の匂いがした。

 

「………何か、変な感じだな」

 

ずっと1人で暮らして………まあお手伝いさんとかいたけど、基本は一人きりで暮らしていた。

 

「おかえり、か」

 

笑ってしまう。そう言われただけで、涙が出そうになったなんて。

 

「あいつ、馬鹿みたいに笑いやがって。それも、嬉しそうに………つっ」

 

筋肉痛が全身を襲ってきた。ここに来てからずっと、容赦無い体術訓練。時には水面の上で、時には樹上で。“チャクラコントロールを鍛えると同時、体術に関しても鍛える”らしい。実戦訓練みたいなものだ。俺は殺す気でやっているのだから。まあそれでも、掠りもしないのだが。

 

「………くそ、体力馬鹿め」

 

あいつは、今日も食後にラーメンの研究をしていると聞いた。何か、インスピレーションが煌めいたとか何とか。

 

「………まさか、あの屋台の親父だったなんてなあ」

 

告げられた時、俺はどういう表情を浮かべていたのだろう。あの『してやったり』な笑顔を思い出す。

 

(なんか、ムカツクぜ)

 

看板を持って走り回っていたし。何だドッキリって。マイクを向けられて『今のお気持ちは?』とか聞くし。何かむかついたので、即座に殴りかかっていったのは仕方ないと言える………筈。

 

………まあ勿論、ひらりとかわされたのだが。

 

「………くっ」

 

仰向けになり、天井を見上げる。

 

(あー、眠い。今日も疲れた……………ん?)

 

扉の向こうから、僅かだが笛の音が聞こえてくる。

 

(………綺麗な音色だな)

 

夢うつつに、その笛の音を聞く。外の鈴虫の鳴き声と合わさって、耳そして頭へと入ってくる。何ともいえない感情が浮かぶ。

 

(………明日も、頑張るか)

 

 

まだ走り始めたばかり。先はまだまだ遠くても………それでも、ここならば、何かを諦める事なく頑張れる。

 

窓から流れてくる風が、頬をなでる。その風が運ぶ、鈴虫の鳴き声と綺麗な笛の音に誘われるまま目を閉じて、夢の中へと旅だった。

 

 

 

 


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