小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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38話 : 脱出(後)

 

 

「成る程成る程。なおも正面から挑もうとするとは。仲間を取り戻したいという気持ち、素晴らしいことだな? 何とも心温まる話だ………おかしくて涙が止まらない」

 

笑う。

             ・・・

「その程度で、見るも哀れなか細い体躯で挑もうとするとはな。は、成る程………命に代えてもという訳だな?」

 

笑い、腕を上げる。

 

「ならば死ね。死んで果てろ。望み通りだ。文句はあるまい? ………風の前の塵芥に過ぎないお前達よ」

 

そして腕が降ろされた。宣戦を告げる言葉と共に。

 

 

「灰は灰らしく。塵は塵らしく………不様に吹かれて散り消えろ!」

 

 

一斉に動き出す影分身。

 

 

「くっ!」

 

一瞬の状況変化に、シカマルが部隊の全員に指示を出そうとするが、間に合わない。

 

(まずは、散らばらせる。一対一の形に持ち込む)

 

放射状に展開。連携を封じ込めながら、平原の外にある森の中へと追い込んでいく。

 

 

 

 

 

 

~ 日向ネジ ~

 

 

「くそっ!」

 

森の中、対峙する相手を睨み毒付く。先程から繰り出されるのは、クナイか手裏剣という遠距離からの攻撃のみ。鋭く、急所ばかりを狙ってくるので、気が抜けない。

 

「ちっ!」

 

それに、クナイ自体の飛来速度が速い。基本能力が違いすぎるのだろう。戦闘が開始して数分後には、悟っていた。絶妙な遠距離攻撃に、近接する糸口が掴めない。柔拳を振るうこともできない。完全にこちらの得意な戦闘方法を封殺されている。

 

「………ちっ」

 

舌打ちをする。父上に逆らった結果がこれか、と。確かに、日向にはその性質上、遠距離戦に対応する戦術がいくらか練られてきたと聞く。

 

だが、少し前から最近までの俺は父上の教えに逆らうことばかりで、回天や点穴の修行ばかりを重点的に行ってきた。父上と和解した後、その戦術の話を聞きはしたが、まだまだ修行は足りていなかった。

 

(その結果がこれか)

 

近づけないのでは、点穴も柔拳もくそもない…………!?

その直後、クナイと手裏剣が四方八方から飛来した。

 

「回天!」

 

回避できないと瞬時に判断し、回天を使う。飛来したものを弾けはした、だけれども。

 

 

「悲鳴を上げろ」

 

 

直後、正面に見えたのは狐の面。回天の終わりを、待ちかまえていたのだ。一歩、懐に踏み込んで来る。次の回天、いや間に合わない。

 

 

「――――豚のような!!」

 

 

屈辱の言葉が浴びせられる。だが、その言葉に怒る暇もない。

 

 

「ガアッ!?」

 

 

まるで、内臓が破裂したかのよう。激烈な威力の掌打が俺の腹部に叩き込まれたのだ。

 

「………グッ…………が、あ」

 

俺はそのまま前のめりに倒れ込み、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 小池メンマ ~

 

 

(………終わったな)

 

連携を封じ込められた下忍達は、次々と影分身達に打ち倒されていった。遠距離が得意な下忍達には体術、体術が得意な下忍達に対してはクナイや手裏剣の投擲による遠距離を保った戦闘を。長所に応じて戦闘方法を変え、打ち倒していく。

 

(成程? 各員、長所は確かにあるけど………)

 

秘術に血継限界。それは確かに使えるものだろう。適した状況で使いこなせれば、この上ない武器となるだろう。それでも、だ。

 

 

・・・・・・・・・・・ 

出す前に打ち倒されれば、価値はないのだ。

 

長所を発揮する状況があるとして、だ。それは何時訪れるのか。相手が同じく勝利を目的として戦闘に挑んでいる以上、自分に都合の良い状況など、待っているだけでは訪れないだろう。自分で、そういう状況を作り出すしかないのだ。

 

当然、それまでに倒されれば意味が無い。例えば日向ネジ、ヒナタ。白眼は近づかなければ、その特性を発揮しずらい。それに、防御も同じ事が言える。回天による防御は成る程素晴らしいものだが、駒のようにグルグルと回り続けられるものでもない。

 

直上もしくは直下からの攻撃に対しては、防御力も落ちるだろう。ならば、遠距離で戦えばいい。そして隙を見て、回天の直後に近接して一撃を与えるか、奇襲による直上からの攻撃を加えるか。相手の都合に合わせる必要など無いのだ。

 

戦闘は、戦術次第。

 

どんな忍者だって、長所があれば短所もある。近接戦闘が得意ということは、遠距離戦闘に弱いということ。その逆もまた然り。じゃあ長所が無ければいいのかと言えば、そんな事はない。

 

長所が無いということは、場合によっては短所にも成りうるからだ。場合によっては、一部に特化した能力が必要になる事もある。器用貧乏という言葉もある。それも、上手くないことだ。

 

まあどれもこれも得意で隙の無い、真に万能な忍者というのが理想だが、理想は理想。そんな忍者などまず存在しない。

 

秘術も然り。影真似、心転身、倍化の術、成る程、場合によっては決定打と成りうる秘術だが、もちろん付けいる隙がある。忍具口寄せによる兵器術も同じだ。ようは、出させなければいい。口寄せをする前に近接されれば、そしてその後近距離で張り付かれれば出す暇もあるまい。

 

………まあ、上忍レベルが使う術は違うのだが。それぞれが工夫されているので、付けいる隙がほぼ無くなっているのだ。その分チャクラを喰ってしまうので、そうそう乱発できないというのが短所と言えば短所となるが。

 

戦術云々に関して。まあ、某アゴヒゲメガネの鬼指揮官が言っていた、戦術の基本の通りだと言えよう。“こちらのしたいことをして、逆に相手にはさせない”

 

得意な状況、適した状況、それに持ち込むには、どうしたらよいか。どういう方策をとれば良いか。何が必要となるのか。戦術を組むに辺り、基本として“何”を知っておかなければならないのか。

 

忍術を扱う者、忍者として最も大切なのは“自分の足りない点を自覚する”ことである。

欠点を自覚すれば、どういう状況に持ち込ませなければいいか、逆にそういう状況に陥った時、どういう対処方法をすれば良いのか。長所がない場合は、短所を持つ人間のフォローをする。器用貧乏は器用貧乏なりに、役立てる所があるのだ。短所がないという長所があるのだから。

 

場合によっては弱点を囮に、相手を嵌める事もできる。連携の大事さも再確認することだろうし。

 

(無力感を味合わせる事もできたな)

 

何もできずに倒された、という結果。その後、どう立ち上がってくれるのかは木の葉隠れの指導者次第だろう。俺はきっかけを与えるだけだ。

 

後は………まあ基本だが、基礎能力。動体視力、投擲能力他、チャクラコントロールの修行の大事さも認識する事だろう。忍者に取って必要不可欠な能力を鍛える事だ。基礎がきちんとしていれば、それぞれの特性も発揮しやすくなる。基礎は全てに通じるしな。

 

(どうも、最近の下忍はそこらへんを蔑ろにする傾向があるらしいからな。聞いた話だけど)

 

俺の場合、修行を始めて最初の半年は徹底的に基礎を叩き込まれた。思い出しただけでも吐き気がする。マダオ死ねと何回呟いた事か。

 

『酷っ』

 

まあ、御陰で今の俺があるわけなのだが。気配遮断に気配察知、チャクラコントロールに基礎体術。全てがかなりのレベルに達しているので、戦術の幅も広がった。

 

影分身を併用すれば、大抵の事はできるようになった。逆に、基礎能力が疎かになっていれば、何をするにも中途半端になってしまっただろう。今でも、基礎に関する修行は怠っていない。ラーメンを作っている時でもそうだ。合間を見て鍛えてはいた。

 

(まあ、そこらへんの事………まとめるのは、5代目に任せるか)

 

そこからは知らん。頼まれた分は果たすけど、そこからは5代目の仕事だろうし。

 

 

 

『得意な分野だけの知識では、生きていくのは難しい………人生と一緒だね! 好きな事だけ選んで、それを行って………それだけを考えて生きていければいいんだけどねえ』

 

(そうだなあ………まあ、そんな事は不可能だけどな)

 

苦笑する。そこら辺は前世と同じだ。全くもって世知辛いぜちくしょう。

 

(………っと。終わったな)

 

1人を除く、8人の気絶を確認。

 

(残る1人は無事………影分身4体を退けたか…………うん、残ったのは、やっぱり)

 

「…………」

 

残った下忍の中の1人………満身創痍だが、しっかりとした足取りでこちらに向かってくる。

 

「よく、あれだけの影分身を消し去る事ができたな。恐れ入ったよ…………奈良シカマル」

 

そう、1体4にも関わらず、すべての影分身を消し去ってみせたのだ。シカマルは。まさか影縫いを使っての死角から攻撃を仕掛けてくるとは思わなんだ。月光を使っての影からの攻撃は、致命には至らずとも影分身を消すには十分だった。影分身の、少しでも攻撃を受けたら消え去るという弱点を突いた、見事な戦術と言える。

 

「あんたもな。よく、やるよ………“うずまきナルト”さんよ」

 

その言葉に、一瞬虚を突かれる。

 

「へ、気づいたんだ………というか、知ってるんだ」

 

「木の葉流の多重影分身を使った時に気づいた。あれだけのチャクラ、普通有り得ないだろ………キリハを殺さずにこちらに渡したのも、な。

 

まあ気づく要因は色々とあったから別に驚くことじゃねーだろ」名前だけはキリハに聞いていたしなと言うシカマル。大したものだと言うと、嫌な顔をされた。

 

「この“模擬戦”、五代目も承知の上なんだろ? ………めんどくせーことこの上ないし、趣味が悪すぎるぜ? ………あんたら」

 

「俺も、趣味じゃないけどな。頼まれて了承したからには手を抜くわけにもいかん。この戦闘、色々と意味があるのも分かるだろう」

 

「………ああ。でもこういうのは、相手方、つまり俺に悟られたら意味が無いんじゃないのか?」

 

「これがネジあたりなら話は違ったがな。お前なら別にいい。今更だしな。でも、指揮官として………学んだ事はあるよな?」

 

「………ああ。色々と、な」

 

シカマルは顰めっ面をしながら答えた。俺が敵ならば、本来の殺し合いであれば、部隊は全滅だ。学ぶ事なんて探そうとすれば腐る程あるはず。一々口に出したりはしないけど。

「それに、キリハも死んでいた………っとそう睨むな」

 

「うるせーよ………で、サスケの事に関しても、五代目は承知しているんだな?」

 

「ああ、それはな………」

 

と、重大な機密を話し出す俺。内容を聞く内に、シカマルの顔がみるみる青くなっていった。

 

「ちょっと、ちょっと待ってくれ。色々と聞きたい事があるんだけど、まず、これだけは聞かせてくれ」

 

青白い顔色になったシカマルが、訪ねてくる。この情報の秘匿度は? と。俺は笑顔で告げてやった。

 

「特A級。五代目と自来也、里の上層部と“根”のダンゾウしか知らない」

 

「それを、俺に、聞かせたってことは………」

 

「ああ、俺達の事、知っているのが1人いた方が色々と動きやすいと思って。シカマルならば情報を洩らすようなヘマはしないだろうし」

 

「………聞くんじゃなかった。ああ、ちくしょう、聞くんじゃなかった………」

 

眉間を抑えて落ち込むシカマル。

 

「まあ、勘弁してくれ。もう中忍なんだし、な?」

 

「………あと、一つだけ聞きたい。小さい頃俺達を助けてくれたの、アンタ………ナルトだったんだよな?」

 

「うんその通り。とはいっても、修行中偶然見つけた程度のあれだし、特別感謝されてもね。そのために助けたんじゃないし」

 

「………はあ。でも、何で助けてくれたんだ? ………木の葉隠れの里の忍びに対する恨みとかは、無かったのか?」

 

言いにくそうに視線を落とし、シカマルが訪ねてくる。うーん、木の葉に対する恨み辛みねえ。

 

「うーん、有るといえば有るかもしれないし、無いといえば嘘になるかもしれない。今の状況が状況だし。いまいち自分でも複雑で分かっていないんだけど」

 

成り行きとはいえ、その場に出くわしてしまって。そこで、年端のいかない子供が死んでいくのを見過ごす程憎んでいるわけじゃない。

 

「九尾とかはほっといて………見てしまったし、そこで見捨てたら後味も悪いし、助けたいから助けた………うん、そんな感じ?」

 

皮肉なもんだけど、力もあったし。そう言うと、シカマルは目を丸くした後、笑った。

 

「…………はっ、案外お人好しなんだな、アンタ」

 

「はっ、シカマルには負ける………えっと、それじゃあ、な。キリハとか他の下忍に対するフォロー、頼んだ」

 

「………案外人使い荒いんだな、アンタ。でも任されたよ………借りは必ず返す主義だしな。めんどくせーけど。それにキリハの事に関しては、アンタに頼まれなくても………いや、何でもない忘れてくれ」

 

急におし黙り、そっぽを向くシカマル。俺は苦笑しながらあるものを懐から取り出す。

 

「それでこそ、だ。じゃあこれを渡しておくから」

 

一切れの紙を渡す。飛雷神の術の転移先を示す術式が刻まれた紙だ。

 

「………これは?」

 

「内緒。でも、肌身離さず持っていてくれ。万が一の時、役に立つから」

 

そこで俺はきびすを返す。向かうべき方向(偽装の北側の方向だが)を向き、背中越しに別れの言葉を継げる。

 

「じゃあなー、未来の弟君ー」

 

「ちょっ!?」

 

『おま!?』

 

シカマルの慌てた声を無視し、俺は構わず走り去っていった。

 

 

『無自覚ってねえ………もう何ていったらいいか………うーん、どうしてくれよう………でもねえ』

 

『間違いなく無駄骨じゃと思うぞ。自重すればコヤツでは無いような気がするしの』

 

(ん、2人ともなんか言ったか? うんうん唸ってるし、何事?)

 

『…………いや、もういいよ………なんか疲れたし』

 

『疲れたの………』

 

(へえ、珍しいな。誰のせい?)

 

『いや、君のせいなんだけどね………』

 

『そうじゃな………』

 

珍しく意見の合う2人。

 

(何だよ、聞かせろよ)

 

『だからいいって。多分言っても無駄だし………それより、そろそろ方向転換したら?』

「そうだな」

森の中、針路を偽装の北側から、隠れ家のある南西側へと変更する。目指すは皆が待つ隠れ家だ。

 

『………でも、変わったね。君も』

 

(うん、急になんだ?)

 

『いや、昔………木の葉に来る前の事を思い出していてね。結構、何もかも割り切って行動していたし、誰かとずっと行動を共にするとか考えもしなかったでしょ?』

 

『………そういえば、そうじゃな』

 

(え、そうかあ? ………いや、そうなのかもな。あんまり………特別変わったって自覚は無いけど)

 

『明確に変わったのは、あの時からかな? テウチさんを師事した時もそうだけど………ももっちと白ちゃん連れてきて、僕たちを口寄せした辺りから』

 

(まあ、そうかもなあ)

 

『他人に触れた時から? 僕たちの事もそうだけど、心の中と外とでは………また違った?』

 

(それは確かに有るな)

 

外部で触れあう事で、何かが変わった気がする。明確に存在を認識できるというか………うん、何か温もりを感じるし。

 

『それに、木の葉隠れの里を意識して考えるようになったけど………それも?』

 

(ああ、それに関してはちょっと違うかも。多分だけど、お前の思念というか魂的な何かが少し混じってるからそのせいじゃないか? お前も、実際に木の葉隠れの里とその人達をその目で見たろ?)

 

『………そうだね………うん、そうかもね…………でも、君はそれで良いの?』

 

何を心配しているのかは分かる。でも、それはある程度は予想していた事だし。根本から変わった訳じゃないし。

 

(それにまあ、今のところはな。力にはリスクが付きものだし、精神の浸食という観点で見れば、他の人柱力と大差ない………でも、悪くない浸食なのかもしれないし)

 

特に、キリハに対しては前より明確に妹としての意識を持つようになった。さっき言った、マダオとキューちゃんの口寄せが成功してからは特に、かな。明確な意識を持つようになってから、その存在を認識してから、浸食が進んだと思うが。

 

『前より積極的に戦う事を選ぶようになったのもか?』

 

(そうだね、キューちゃん。キューちゃんに関しても同じ事が言えるのかもしれない)

 

木の葉に来てからは特に………チャクラ消費量が段違いだしなあ。

 

(まあ、いいよ。“我思う故に我あり”だ。陳腐だが、それしか言えない。実際、俺自身が変わっていったのかもしれんしな)

 

人と接するということはそういう事なのかもしれない。変わっていくのも、当たり前なのかもしれない。自分で違和感を感じないのは、そういう想いを元々持っていたのかもしれないし。この肉体に刻まれた意志なのかもしれないし。そこまで細かい事は分からんけど。はっきりとは分からないけど………まあ、俺の夢は無くなっていないし、胸に確かに残ってる。何より優先すべき事としてね。それに助けたい人を助けるというか、したいことをするという意識も別段特別変わったという訳でもないし。

 

割り切って夢を叶えるという目的に全部つぎ込んで。それに徹しきれば、木の葉側に追われるとかのリスクも無く、今のような事態にはなっていなかったのかもしれないけど。

 

(しょうがないじゃん。色々な意味で………出逢っちゃったんだから)

 

出逢うたびに選び続けた。そのどれもを、今は後悔していない。

 

『まあ、そこで見捨てるっていうのも、君に関しては………うん、無いねえ。そういえば昔、言ってたね“人は損得と理屈だけで動くわけじゃない”って』

 

『“器用は綺麗だけどつまらない”とも言っていたな』

 

(ぐおおおおぉぉお! 頼むからむしかえすのは止めて!)

 

思わず頭を抱えてしまう。

 

改めて聞かされるとなんかすげえこっぱずかしくなるよこれ!

 

『はは、他にもたくさんあったねえ』

 

『そうじゃな、次は………』

 

(もう話さないで! 私の羞恥心ポイントはとっくにゼロよ!)

 

慣れていない悪役の演技とかしたし!

 

『HA☆NA☆SE!』

 

『HA☆NA☆SE!』

 

でも話せコールを続ける二人。

 

…………キューちゃんまで!

 

「聞けよこの無視野郎共!」

 

 

 

そんな、いつものやりとり。心の中だが、相変わらずの笑い声が木霊していた。

 

 

………そう、騒ぎながらも。

 

 

3人共分かっていた。いずれ、別れの日は来るのだと。選ぶ時はやってくるのだと。

でも、今は笑おうと。それが一番良いということも、分かっていた。

 

胸中に秘する互いの思い、全てが共通している訳ではないし、互いに把握している訳でもない。だけど、3人は笑っていた。

 

 

 

そしてこの時、ナルトでメンマな1人の少年な男は、心の中で一つの選択肢を選んでいた。

 

人と接して、変え変わり。それが世の常、人の常。自らの立場から見た平穏と同じく、いつまでも同じとは限らない。心の中もラーメンの味も。まだまだ完成したという訳じゃない。

 

まだまだ未熟で、まだまだ過渡期で。分からない事は山ほどある。知らない事も山ほどある。この選択、正しいのか、間違っているのか。

 

それは、終わってみないと分からないだろうけど。振り返ってみて、後悔するのかもしれないけど、もっと楽な道があるのかもしれないけど。それでも、譲れないものがあると知ったから。

 

数え切れない程の戦場を共にした、親友で戦友で悪友で相方で師匠的兄的存在のマダオ。その本当の願いを知っているから、その願いを否定せずに。

 

数え切れない程の喜び。そして怒り、哀しみ楽しさを共にした、親友で戦友で悪友で相棒で妹的女友達的存在のキューちゃん。ようやく掴めた自分の意識持つ在り方、その在り様を誰にも汚させないように。そして2人に誇れる自分で在れるように。

 

時の流れの中生まれた、血よりも濃い絆。日々の思い出が胸に残り、自分の今を形取っているから。思いつく限りでいい、3人にとっての最善を目指そうと思った。

 

 

選んだのだ。皆が望む結末を目指して。この先の荒野を駆け抜けようと。傷つき、苦しくとも、冗談を飛ばしながら行こうと誓った。

 

 

 

ただ、走り抜ける事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――はるか未来。

 

 

この時、この選択肢を選んだ事を改めて思い出す事になる。

 

ここで拒絶すれば。自らの変化を恐れ、かごに籠もり、隠暁の影に怯えながらも、平穏を望み隠れ暮らすような日々を望み選んでいれば。

 

あるいは違った結末になったのかもしれないと。

 

 

でも、こうも思うのだ。どちらが良くて、どちらが悪かったのかは分からないが、こう思うのだ。

 

 

 

――――この選択を選んだ時から。

 

 

あの激動かつ極彩色な日々の全てが、本格的に始まっていったのだから。

 

 

 


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