小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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34話 : 変転の兆し

 

 

木の葉隠れの里の、とある屋敷の中。そこでは女の子達の声が飛び交っていた。

 

「しっかし、ご苦労だったわねえキリハ。大変だったでしょ?」

 

「ううん、そうでもなかったよ?」

 

キリハの家の中、テーブルを中心において、3人がそれを囲むように座る。。いのとサクラとキリハ、いつものくの一3人組で談笑している。ヒナタは本家に用事があるとかで、来れなかった。

 

キリハの家は、波風ミナトが四代目火影に成ったと同時に移った家だ。日向本家までとは言わないが、それなりに広い家である。

 

「それにしても、さあ」

 

果汁水を飲みながら、いのがキリハに質問する。

 

「五代目火影は綱手様になるんだ………ねえキリハ、綱手様ってどんな人?」

 

自来也と大蛇丸を見たサクラだ。三忍の最後の1人について、なにか心配があるよう。おそるおそる、といったふうに訪ねる。

 

「うん。まあ……………………………いいひとだったよ?」

 

「その間は何!?」

 

突っ込むサクラに、キリハはあははと笑う。

 

「大丈夫だよ? …………強いし」

 

「念押しが必要なの!? っていうか大丈夫って何に対しての保証なの!?」

 

あと強さと人格関係ないわよね! と叫びながらサクラが頭を抱えた。どうも大蛇丸の一件がトラウマになっているらしい。いのがため息をつきながら、言葉を挟んだ。

 

「うるさいわよサクラ。で、キリハ…………強いって、実際に力を見る機会があったってことよね。あんた、またやらかしたの?」

 

「………今回は向こうから来たんだよ。音の連中だった。それにしてもまた、って人聞き悪いなあ。来るのはいつも相手のほうからだって」

 

正直、対忍者という状況での戦闘が多すぎる。一介の下忍では、有り得ない回数だ。普通、もっと弱い相手………せいぜいが、山賊を相手にするぐらいなのに。

 

「ふーん、でも人間相手に戦闘した後だってのにアンタ、嬉しそうにしてるわねえ。何かあったの?」

 

「………え?」

 

とキリハが自分の顔をつねる。

 

「何か嬉しいことでもあった? ………たとえば、待ち人に会えた、とか」

 

いのが悪戯な笑みを浮かべる。

 

「………うん。実は。あのね、驚かないで聞いてくれる?」

 

キリハが俯きながら、何か落ち行かない様子をみせる。おずおずとしているそれは、まるでヒナタのようだ。

 

やがて、意を決したようにがばっと顔を上げた後、言う。

 

「うん?」

 

いのは、果汁水を口に含みながら返事をする。

 

「………あのね。むしろ………いのちゃんの方の待ち人に会っちゃった」

 

てへ、と舌を出しながら、爆弾発言。

 

「ぶっ!?」

 

それを聞いて驚いたいのは、思わず口に含んでいた果汁水をはき出す。

 

「眼があ!? 眼があああぁぁぁ!?」

 

果汁水の噴射攻撃を顔面に受けたサクラが床を転がった。眼球にグレープフルーツはきつかったようだ。水遁・愚冷腐負流痛の術にサクラは眼球に感じる刺激にのたうちまわっていた。

 

「ど、ど、どど」

 

「ど?」

 

いのは立ち上がり、キリハの肩を掴んで、力一杯前後に揺らす。

 

「どういうこと!? 何で!? ホワイ!? どうやって会えたの!? ていうか何で黙ってた!?」

 

錯乱するいの。キリハはがっくんがっく揺らされながらも、至福の表情を浮かべてほやー、と笑いつづける。

 

「うふふふふふ」

 

「え!? 何笑ってんの!? どういうつもり!? ………あんた、キリハ、もしかして!?」

 

「え? いやあ、まあ、それはないけどねえ………うん、格好良かったなあ。ぬふふ」

 

「何で頬染めてんのよ! ああもう、いいからきりきり説明しなさい!」

 

「うう………ハンマーで頭叩かれたみたい痛い………」

 

サクラは泣きながら、ハンカチで顔を拭いていた。

 

 

カオスだった。

 

 

 

もう、いのの正面には座らないとサクラのみ席替えをした。話を仕切りなおす3人。

 

「で、そこで助けてもらったわけね?」

 

「うん」

 

「…………はあ。まったく」

 

会えなかった無念さもあるのだろういのが、キリハの方を向き、心配そうに声をかけた。

「あんたも、もう少し用心しなさいよ? 下忍のあんたが中忍か上忍クラス複数相手に乱戦とか………正直、正気の沙汰じゃないわよ?」

 

「うん、確かに………危なかった」

 

と、貫かれた手の方を見る。

 

「うん?どうしたの………って、医療忍術の跡じゃない。あんたまさか」

 

「ちょっと痛かった」

 

てへ、と笑うキリハに、いのの拳骨が降る。

 

「みぎゃ!?」

 

「…………アンタは!」

 

怒るいのと言い訳するキリハ。いつもの、幼なじみのやりとりだ。昔から無防備なところがあるキリハに、いのが注意する。何十回も繰り返されたやりとり。そうして、締めの言葉も平時と変わらなかった。

 

「全く、無茶しやって。シカマルには同情するわ」

 

「うん? いのちゃん何か言った?」

 

「何も言ってないわよ」

 

それでもこの笑顔見ると怒る気なくすよのねえ、といのがため息を吐く。

 

「で、その人の名前は聞いたの?」

 

「えーっと………聞けなかった」

 

間が空いた上での返答。それにひっかかるものを感じつつも、いのは問いつめない。

 

「言えないなら言えないでいいわよ。どうみてもA級ランクに匹敵するの任務だったんだし。言えないっていえば、無理に問いつめないわ」

 

「でも………」

 

いのに悪い、という顔をするキリハ。それに、いのが腹を立てる。

 

「お互い下忍になったんでしょ? そんな事もあるわよ。私としてはひっっっっっっっっっっっじょ―――――に聞きたいことではあるけど………我慢するから」

 

「あはは………」

 

苦笑しか返せないキリハ。その隣で、サクラが別の話を切り出した。

 

「そういえば砂隠れとの休戦協定、今日だっけ?」

 

「そう、今日。火影就任から2日経ったし、まあ言い頃合いなんじゃない? もちろん、含む気持ちはあるけど………」

 

「それでも、今揉めるのは得策じゃないよ。そこらへんはみんな分かってるから」

 

「でも、使者に来るのが………あの、我愛羅なんだよね」

 

中忍試験の時に起こった出来事を思いだし、サクラがため息を吐く。

 

「でも、前に比べると格段に落ち着いていたってアスマが言ってたわよ? 使者を迎える時に見たらしいけど………人柱力だっけ。その力を随分と使いこなせていたようだって」

「へえ、何かあったのかなあ」

 

「それは知らないけど………テマリにでも聞いてみようかなあ」

 

「………へ? いのちゃん、テマリさんと仲いいの?」

 

「はあ!? 仲なんて良くないわよ! あんな奴と!」

 

「そういえば、本戦の試合終わった後………いの、喧嘩してたよね。何かあったの?」

 

サクラの質問に、いのはああと手のひらを叩きながら、答える。

 

「大したことじゃないわよ。言ってなかったっけ? テマリとアタシはね…………」

 

「うん」

 

「何?」

 

二人はストローでちゅーちゅー果汁水を飲みながら、答えを待つ。

 

「所謂、あの人を巡る恋のライバルなのよ!!」

 

「ぶっ!?」

 

と、キリハが口に含んでいた果汁水を正面に吹き出す。

 

「眼があ!? 眼がああああああ、あああぁぁぁ!」

 

蜜柑の汁の弾が全力でサクラの眼球に直撃。サクラは予想外かつ二度目の攻撃に眼を押さえながら、床の上をのたうち回った。

 

「ど、ど、っっどお」

 

「うん?」

 

「どういうこと!? 何で、おに………」

 

「………おに?」

 

訝しげに、いのが呟く。

 

「お、お、お」

 

「続きをいいなさいよ」

 

「………眼…………柑橘…………全力で…………」

 

二人とも、サクラはガン無視である。やがてキリハは、何とか答えを口に出す。

 

「………お………大蛇丸」

 

「なぁ…………何てこというのよ! キリハ、アンタ、ちょっとそこに直りなさい!」

 

嫌な想像をしてしまったのか、いのが立ち上がり激昂する。それを見て、キリハがすばっと後退する。

 

「いや、御免なさい! ついノリで………ん?」

 

と、手を前にしながら、後ずさるキリハの背中に、何かがぶつかる。

 

「あ、シカマル君だ」

 

「………何やってんだ? お前等」

 

床で転げ回るサクラと、殺気を放ってこちらを睨むいの。シカマルのその明晰な頭脳をもってしても、その状況は理解できなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

「へえ、あの人に会ったのかキリハ」

 

「うん。シカマル君と同じ、二回目だね」

 

「………一回目はほぼ気絶寸前だったらしいじゃねえか。しかも死ぬ寸前だったとか。サクラとサスケから聞いたぞ」

 

キリハの言葉に、シカマルが不機嫌そうに答える。

 

「そうよ、キリハ。このむっつり、随分とアンタの事心配してたんだから」

 

何でもない風に言うんじゃないの、とキリハを叱るいの。

 

「………ごめんなさい」

 

と、素直にシカマル頭を下げるキリハ。

 

「………まあ、お前が無事だったらそれでいいんだけどよ」

 

言いながらも頬を若干染めながら横を向くシカマルを見て、いのとサクラがひそひそ話していた。

 

「ふうん………あんなに慌ててた癖に、ねえ」

 

「やっぱりそうなんだ。で、幼なじみのいのから見て、あの二人はどうなの?」

 

「暖簾に腕押し。糠に釘。柳に風に、水遁に火遁」

 

全て手応えなし、という意味である。

 

「うるせえぞ、そこ」

 

聞こえてはいなくても、何を言われているか、気づいたのだろう。また不機嫌そうに、シカマルが言う。

 

「でも、格好良かったんだよ? 大蛇丸とも渡り合ってたし」

 

「………ま、あの人だからな」

 

うんうん頷くシカマル。

 

「………時にシカマル君。シカマル君は、あの人についてどう思っているの?」

 

「え? っと………だなあ」

 

「うん」

 

「まあ、憧れるよな。男の俺からしても、魅力的だと思うし」

 

あの背中が良いよなあ、と言うシカマルに対し、キリハは慌てながら告げる。

 

「同性愛は駄目だよ!? 非生産的な!」

 

「己の言動に責任もってるのかお前………ていうか、そんな言葉、誰から教わった?」

 

「え!? お………」

 

「お?」

 

 

「お父さん、とも言えないし………」

 

極々小さい声で、キリハが呟く。

 

 

「ん? 何か言ったか? 聞こえねえぞ」

 

シカマルが聞き返すと、キリハは慌てながら何とか答えを探す。

 

「えっとね。お、お、お………」

 

「お?」

 

口に茶を含みながら、シカマルがからかうように笑う。

 

「………大蛇丸」

 

「ぶはっ!?」

 

「今度は熱い!?」

 

ほうじ茶を全身に浴びたサクラが、床の上を転げ回る。

 

「………よりによってあの大蛇丸がそんな事言うわけねえじゃねえか! むしろ推奨するわ!」

 

オカマの三忍は随分と有名らしい。

 

「だよねえ」

 

えへ、と困ったように笑うキリハに、シカマルはすぐ引き下がった。

 

「まあ、それも言いたくなかったらいいんだけどよ………」

 

「このチキンが」

 

「何か言ったか、いの」

 

「いいええ、ちっとも?」

 

心底おかしそうに笑ういのに、シカマルがよりいっそう不機嫌となる。

 

 

「医者をー!? 医者を呼んでー!」

 

 

隣では、火傷したサクラが空に手を伸ばしながら叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「で!?」

 

「いや、でっていうか」

 

三人ともサクラに拳骨を喰らったのか、頭のてっぺんから煙が立ち上っていた。怒るサクラの気を紛らわそうと、シカマルが話題を変える。

 

「そういえば、火影の執務室前でサスケを見たぞ?」

 

「………サスケ君が? そうなんだ、退院したんだ」

 

何者かの襲撃にあって、入院していたサスケの事を聞いて、サクラが安堵のため息を吐く。見舞いに行くと、何故か面会謝絶だと言われた。肋骨が折れていただけらしいので、サクラはそれを訝しみ心配していたのだ。

 

「ああ。なんか、自来也様と会っていたみたいだぜ。相変わらずのつんけんした態度………いや、いつも以上に険悪な空気を撒き散らしてた」

 

「そうなんだ………」

 

サクラがため息を吐く。キリハが、ぼつりと呟いた。

 

「誰に襲われたんだろう。それに、4日前だったっけ。木の葉の森の外れの方で、大きな爆発があったのって」

 

「ああ。戦闘の後らしいな。起爆札を使った跡らしいのが見つかったってアスマが言ってた」

 

「ああ、それ私も聞いた。でも、見回りの中忍の人が爆発音を聞いて辿り着いた時には、誰もいなかったって」

 

「そう、なんだ」

 

「戦後の処理も終わっていないのに………あ、そういえばカカシ先生と会ったよ。今日退院だったんだね」

 

「ああ………正確には昨日だったけどね」

 

後半だけ、小さい声で呟く。

 

「何言ってるんだキリハ? 『まっくのうち!まっくのうち!』って………何だそれ?」

何かの名前か?と首を傾げるシカマルの隣、サクラが不思議そうに呟く。

 

「そういえばなんか、カカシ先生の顔に青痣ついてたけど、アレ何だったんだろ」

 

「まあ! それはおいといて!」

 

と、強引に話を断ち切って、キリハは提案をした。

 

 

 

「これからお昼、食べに行かない?」

 

九頭竜に、というキリハの言葉に、全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 無いね、屋台。」

 

「あ、ほんとだ。どうしたんだろう………」

 

「ここ最近、休んでる日ってあったっけ?」

 

「定休日は今日じゃないよ。それに休むなら前もって言ってくれてた筈だけど」

 

首を傾げて不思議そうにするキリハ。

 

「どうしたのかなあ………………っ!?」

 

4人とも背後に何かを感じたのか、素早く振り返った。

 

 

「っ我愛羅!?」

 

「………と、確か、テマリだったっけ?」

 

キリハとサクラが驚いたように呟く。

 

「一応年上なんだ。呼び捨てじゃなくてさんを付けろよデコ助野郎」

 

「テマリの言う通りよデコ助野郎、うおっ、眩しっ!」

 

呆れたように言うテマリとしみじみと諭す風にサクラの肩を叩いて即座に仰け反るいの。サクラは、ぷちっと軽くキレた。

 

「あんた等………いい加減にしないと挽肉にしてくれんゾ?」

 

肩を震わせながら殺気を放ち怒るサクラ。ブラッドがヒートしている様子だ。デコから火が出そうとはこのことだろう。テマリはため息を吐きながら、言う。

 

「それに、一応命の恩人だろう?」

 

「いや、その原因が横にいる状態で言われても…………」

 

サクラがジト眼になる。

 

「………正直すまん」

 

急に、我愛羅が頭を下げた。だが、すぐに頭を上げて言う、

 

「と謝っても、今更意味が無いことは分かっている。これからは行動で示すこととしよう」

個人の感情はどうであれ、同盟は成ったのだから。我愛羅の真剣な表情で放たれた言葉に、木の葉の忍び達も頷いていた。

 

「そう、ね………言いたいことは山ほどあるけど、何もかもがも………今更、だしね」

 

肩をすくめながら、いのが呟く。

 

「ここで俺達がくだらねえ諍いをおこして、木の葉と砂の同盟を台無しにするわけにもいかないしな」

 

シカマルがいのの言葉に同意する。

 

「………それより、だ。ここはラーメン屋じゃ無かったのか?」

 

「え? そうだけど」

 

我愛羅の言葉に、キリハが応えた。

 

「小池メンマさんのラーメン屋だよ。ラーメン屋台九頭竜。あなた、知っているの?」

 

「知っている、というか………」

 

我愛羅が、キリハの方をじっと見つめる。

 

「な、何?」

 

聞き返すキリハに、我愛羅は首を振って答えた。

 

「………いや、何でもない。ラーメン屋だが、今日は休みなのか?」

 

おかしいな、と首を傾げて言う我愛羅に、テマリがフォローする。

 

「そんな筈ないと思うけど。前にきたときはこの曜日で開いていたから」

 

「臨時休業みたい。何かあったのかな」

 

何気ない言葉に、我愛羅が舌打ちをする。

 

 

 

 

 

 

「やはり、あの時聞こえた声は………」

 

「え、何?」

 

呟く我愛羅に、テマリが聞く。

 

「何でもない………まあ、休みなら仕方ない」

 

いくぞ、という言葉と共に、我愛羅とテマリは去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうしたんだろ」

 

「知らないけど………なんか、最後の方、焦ってたみたいだよ?」

 

我愛羅の方が、と呟くキリハ。

 

「ここにいても仕方ないな。ひとまず、街の方に戻るか」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの、我愛羅?」

 

「………大至急だ。5代目火影に会う」

 

「え?」

 

「伝えなければならんことがある」

 

急ぐぞ、と二人は走り出した。

 

 

 

 

 

その後、火影執務室。我愛羅は木の葉の忍びに通されて、執務室に入った。

 

 

「………失礼する」

 

「何だ? 本日の会見をする予定は無い筈だが」

 

「………大至急、話したい事がある。『とある友人』の事で、だ。悪いが、人払いをしてほしいのだが」

 

一呼吸おいて、綱手が答えた。

 

「………分かった………下がれ、お前等」

 

「綱手様?」

 

訝しむシズネに、綱手はいいから、と退室を命じた。

 

 

「で、どういう用件だ? お前の要件、人柱力に関する事のようだが」

 

眉間に皺をよせながら、綱手が我愛羅に訪ねる。

 

「………先ほど、だ。2時間程前の………そうだな、12時ぐらいだったか」

 

「ああ。何でも、お前のチャクラが大きく乱れたそうだな。報告には聞いている」

まったく、という風に呆れる綱手に、我愛羅は真剣な表情で答える。

 

 

「別に、言い訳をしているんじゃない。あの時、チャクラが震えたのには原因がある」

 

「………原因?」

 

腕を組んて聞き返す綱手に、我愛羅は自分の頭を差して、いった。

 

 

「聞こえたんだ……………ただ一言」

 

 

我愛羅にしては珍しく、恐怖に震えたかのような表情になる。

 

 

 

「『殺す』と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何?」

 

「氷より冷たい声だった。そしてその一言で、たった一言で、俺の中にいる守鶴が………まるで恐怖に震え上がったかのように、暴れ出した」

 

「一尾が、恐怖に………信じない訳じゃないが、それを証明するものはあるか」

 

「無い。だからうずまきナルトに会って確認しようと思ったのだが」

 

「そういえば、知っているんだったな」

 

「会いに行ったのだが、いなかった。どうも今日は店を休んでいるらしいな。臨時休業だと聞いたが」

 

「ああ。確かに、そうだが………くそ」

 

綱では、胸を抑えながら毒づく。

 

「………どうにも、いやな予感がするな」

 

「まずはうずまきナルトと至急連絡を取って欲しい。あと、こちらでも対応するが………他の里の人柱力にも確認を取るべきだ。あの声、ただ毎じゃない」

 

「たった一言で、尾獣を震え上がらす、か」

 

お前が、そういう事でつまらない嘘をつく奴にもみえないしな、と綱手は了承の意を示す。

 

「分かった、至急…………」

 

 

と、呟いた時だった。

 

遠くで、遠雷のような音が聞こえた。

 

 

「何だ!?」

 

 

「………爆発による揺れ、か。かなりの規模みたいだが」

 

 

急ぎ、窓の外を見る二人。

 

 

「煙が………あそこ、か。くそ、妙な予感が収まらん」

 

胸を押さえながら、綱手はシズネを呼ぶ。

 

「至急、現場に急行しろ。上忍も何人か連れて行ってかまわん」

 

「承知しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木の葉の少し外れの森の中。そこは、爆風によって辺りの木々が蹂躙されていた。

 

「ここで爆発が起きたのか………」

 

シズネとアスマと紅、他中忍複数名が、現場に到着する。

 

「かなりの爆発だったようね………何かしらの建築物………家、かしら。あったようだけど、全て吹き飛んだようね」

 

「その割には、延焼の類は起きていないようだな。不幸中の幸いだったか」

 

「それにしても、この辺りに家なんてあったでしょうか?」

 

「どうも誰かの隠れ家みたいだな。それにしても………この有様は、なあ。容赦ってもんが無いやり方だ。これをやった奴は、相当にアレな野郎だぜ」

 

「………まあ、火遁ではないようだけどね。何かの秘術かしら………………あれ、これは?」

 

紅があるものを見つけ、立ち止まった。

 

「箱?」

 

吹き飛び損ねたのだろうが、あちこちぼろぼろになっている。

 

 

その焼け焦げた箱を、慎重に開き、中のものを確認した。

 

 

「これは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、見つけたのはこれだけか」

 

「はい。他のものは全て吹き飛んでいました。手がかりになりそうなものは、これだけです」

 

「そうか………」

 

「失礼します!」

 

そこに、キリハが執務室に入ってくる。

 

「おお、きたか」

 

「はい。あの………皆さんは?」

 

「ああ。先ほどの爆発跡を調査していた者達だ」

 

「とはいっても、ねえ。何もかも吹き飛んでいたし」

 

派手すぎるわよ、とアンコが愚痴る。

 

綱手が頭を抑え、愚痴るように言う。

 

「手がかりがこれだけっていうのもな…………キリハ?」

 

どうした? という言葉は繋がらなかった。キリハの眼は、一点だけに固定され、動かなくなっていたからだ。蒼白になっていく顔色。驚愕に染まっていく表情。

 

 

「っ!」

 

 

焼け焦げたそれに走りより、手に持って間近で確認する。そして変わり果てたそれを確認すると、信じられないといった風に呟いた。

 

 

「嘘だ…………」

 

 

何とか原型を留めていた球型。焦げた表面の隙間に残るは、星空の下で遊んだ時に見た、あの模様。螺旋丸の修行の時に、メンマより渡されたものと酷似していた。

 

 

「………………嘘だ!!!」

 

 

慟哭が響き渡る。涙がその球に落ちた。それは、あの時4人で遊んだ時に使った、手鞠の成れの果ての姿だった。

 

 

 

 

 

 

突然の悲痛な叫びに、その場にいた全員が狼狽える。そして、その慟哭が冷めやらぬ内に。

 

 

「失礼します!」

 

 

1人の暗部が、慌てた様子で火影の執務室に入ってきた。

 

 

「至急、報告します!!」

 

 

「今度は何だ!」

 

 

綱手は声を荒げ応答する。

 

 

「うちはサスケが失踪しました! 里内の何処にも………その姿を確認できません!」

 

「何…………!?」

 

「何だって!?」

 

 

また、その場にいた全員が驚愕する。

 

 

「………確かか?」

 

嘘であってほしいと、聞き返す綱手。

 

「はい」

 

だが、答えは覆らなかった。

 

「………分かった。下がれ」

 

 

綱手は頭を抑えながら椅子に座り、呟いた。

 

 

 

「何が起こっているんだ………?」

 

 

 

 


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