小池メンマのラーメン日誌

３３話 ： 風凪

「あ………」

「いいから………しゃべるな」

多由也の傷を確認した上で、努めて優しく語りかける。ここで気を失われては拙い。傷は酷いが、意識を保ち続けていれば何とかもちそうだ。

「何者だ………それに、どこから現れた？」

蹴り飛ばした君麻呂が、こちらを睨みながら訪ねてくるが、あえて無視してやる。うん、間一髪だった。白からの中継で状況を聞いた後、やむを得ず使ったのだ。足止めを頼む事も思いついたが、止めた。札は見せない方がいいとの判断だ。

（………飛雷神の術を使わんと、間に合わんかったな）

木の葉の閃光の代名詞、飛雷神の術がこの上なく役に立った。前にラーメンを食べに来たとき………背中を叩いた時、一応マーキングしておいたのが無駄にならずに済んだようだ。

『………チャクラごっそり減ったから、短期決戦でいかないと不味いことになるかも』

（そこそこの体調で使ってもこれか。まあ、前よりは大分ましだが）

どうにかせんといかんか。それよりもまず。

（………白、治療を頼む）

『了解です』

多由也を安全な場所へ移す事が先決だ。そして、背後の４人を最速で倒す。

そう考えいてると、殺気と共に罵倒が叩きつけられた。

「てめえ、無視してんじゃねえよ！　糞野郎が、質問に答えろ！」

「…………」

答えず、煙玉を使った。

「！？」

直後に影分身を使い、多由也を運ぶ。急所は外れているから、白の所まで連れて行けば大丈夫だろう。白も応急処置程度だが、掌仙術が使えるようになっていた。

任せるしかない。いざとなれば、綱手に借りを作ってでもどうにかする。じゃ、やりますか。

「………さてと」

一息いれて、意識を変える。

『負けるなよ？』

当たり前だ。怒ってるしな、容赦するつもりはない。

『随分と優しいことじゃのう』

賢く生きられないような………ああいう多由也みたいなタイプは、好きだから。それに、元日本人らしく判官びいきなんだ。

―――ーだから。

「殺し合おうぜ、音の４人衆！」

ここはガチでぶっ飛ばしてやる。

メンマが宣告して、間もなくだった。

煙玉の白煙の中からクナイが一つ、空に向けて飛び出したのは。

「！？」

音の四人衆はそのクナイの動きに釣られ、視線を上へと移した。だが、直後に君麻呂が叫んだ。

「間抜けが、気を付けろ！」

直後、煙の中から今度は手裏剣が飛び出した。真横から弧を描き、４人の元へと飛来する。上に意識を逸らされていた三人は反応が遅れるが、それでも回避できるには十分な距離だった。

「っ、飛ぶぞ！」

表面に付いている起爆札を視認したと同時に、上へと跳躍。その跡地を爆炎の花が蹂躙した。

「ぐうっ！？」

爆風に煽られる。それでも、条件が揃えば特別上忍に勝る３人は伊達ではない。瞬時に態勢を立て直すと同時、反撃に移った。

「そこ、ぜよ！」

初撃は鬼童丸。後ろに飛び退きながら、蜘蛛穿弓・凄裂(スザク)を発動。矢を番え、煙の中に佇む影へと撃ち放った。凄まじい速度で放たれた矢は、標的へと吸い込まれた。

「命中………！？」

爆風が消えると、そこには巨大な矢に貫かれた敵の姿があった。

金髪の男はどう見ても致命傷を負って、口から血を流していた、が。

「………覚悟はいいか？」

一言呟いた後、ボンと煙を立てて消え去った。

「なっ」

分身体の言葉に気を取られ、しかも直後に消えた事に驚こうとした瞬間だ。

「影ぶんし「愚か者め！！」」

その頭蓋を打ち砕かんと、上から勢いよく手刀が降ってきた。

「ガっ！？」

死角からの容赦ない一撃。落下エネルギーが上乗せされ、そしてチャクラで強化された振り下ろしの手刀が、鬼童丸の頭部に直撃した。

そのまま前のめりに倒れたまま、起きあがらない。下手人は気絶したようだと判断しながらも、残心は怠らない。気絶を確認したあと、ゆっくりと残りの３人の方へと向き直った。

「ちっ、投げたクナイに化けてやがったな！？」

左近が叫ぶ。フェイクで上側に投げたクナイ。注意をそらすための囮に見せたが、アレこそが本命。手裏剣と、それに付けられた起爆札に注意を集中させて、上からだ。裏の裏を付いたのである。

加え、爆発音と爆風が注意力を散漫にさせてくれる。

「一人目………次！」

男は、メンマは、左近の言葉に答えずに今度は次郎坊へと肉薄した。

正面からの肉弾戦ならば負ける筈がない。そう驕った次郎坊は、最も威力が高いチャクラをこめての体当たりをぶちかますが――――無駄になった。

まともに当たれば、大樹をも破砕する次郎坊の一撃、だが。

「見える！」

小池メンマが使うは、相手の攻撃を正面から受け止めずに逸らして防ぐ事に特化した拳法。次郎坊が使う大威力低速度を信条とする羅漢拳との相性は抜群と言える。大きな力も、当たらなければ意味がない。

次郎坊の掌打、その腕の側面に掌を引っかけ、円を描く軌道で外へと逸らす。少し前、カブトに対しても使った技だ。敵の攻撃を端に追いやると同時、その勢いを利用して、逆の手で顎をかち上げて、

「ふっ！」

かちあげられた後、もとの位置に戻った顎へ、左右の掌打を交互に叩き込む。

「………！？」

左右に脳が揺らされ、一瞬だが脳震盪を起こす次郎坊。そこからは瞬きする間もあればこその、一瞬だった。

「憤！」

懐に踏み込み、渾身の震脚と同時、崩拳。

「破！」

鳩尾への一撃に硬直する次郎坊。メンマは間髪入れずにその側面に回り込み、震脚とともに鉄山靠をぶち当て、

「覇ぁ！」

とどめの一撃。体勢を崩し、がら空きになった背中に向かい、一歩、震脚。背面は脂肪が薄く、筋肉にも守られていない、背骨や臓器までの距離が近い急所。そこに、渾身の双掌打を叩き込んだ。

「ガアアアッ！？」

震脚による打撃と、チャクラによる強化を併用した三連撃。

「１０年早いんだよ！」

お決まりの言葉。少しでもずれると手打ちだけの打撃になってしまう連撃が炸裂する。そうしてメンマは、残る二人に宣言した。

「あと、二人だな」

「「…………」」

一瞬にして、二人を撃破したナルトに、警戒態勢を取る左近と君麻呂。対峙しながら、数秒間にらみ合う、そして君麻呂は眉間に皺を寄せながら、訝しげに語りかけた。

「理解ができない………何故、邪魔をする？」

「……………なに？」

「お前が誰だかしらないが………多由也とは何の関係も無い筈だ。あの女に家族はいない。味方する人間などいないはずだ、なのに………お前は、何者だ？　何故、僕達の邪魔をする？」

その問いに、ナルトは空を見上げる。

「………夢をみようと思った」

「何？」

「ゴミのような世界で………それでも、夢をみようと思った馬鹿者がいた。だから俺は戦う。命を賭けて」

視線を元に戻す。その中には、とある意志の光が灯っていた。

「確かにあの少女は一人なれど、今此処には似たような夢を見ている者がいる………同じような志を持つ友がある。だからこの一戦だけは、少女のために」

両手を広げた直後、印を組む。

「一心不乱の友情のために！　俺は少女に手を貸そう！　理由などそれで十分だ、貴様らなどに俺の心友は殺させん！」

「音隠れの里を、大蛇丸様を敵に回す事になってもか！」

「だからどうした！」

メンマは印を組み終え、術を発動する。

それが、決戦の合図となった。

～　小池メンマ　～

風遁・大突破。念入りにチャクラを篭めた、暴風に左近が飛ばされていく。だが、君麻呂は地面に刀を突き刺し、耐えている。

そして暴風が収まった。目と目が合う。

………飛ばされた左近はすぐに戻ってくるだろうが、それまでは、１対１。

「さあ、踊ろうか！」

「ほざけ！」

君麻呂が呪印を発動させるが、臨む所だ。同時に懐へと踏み込み、君麻呂へと間合いを詰める。相手の方がリーチが長い、つまりは近距離での打撃戦が最も有効だと判断したが故に。

「舐めるな！」

迎撃に、椿の舞を繰り出す。目にも留まらぬ連続刺突。それを、全て掌で逸らしながら前へと進み、挨拶がわりの一発を叩き込む。

「どうしたあ、骨なしが！」

「くっ、舐めるなぁ！」

防ぎきった後、円を描くように走り、また激突――――するかと思った直前に、君麻呂の体術が変化する。

穏やかに、間断無く流れ行く攻撃の型――――柳の舞。風に揺れる柳のように、流麗かつ不規則な連続体術が繰り出される。

しったことか。毒づき、肉薄した。

華麗であろうが、綺麗すぎる体術にはパターンがある。故に、流れに逆らわず。

「ここだぁ！」

動きに合わせて運足を組み、舞の切り返しの一瞬を狙い、掌打を当てる。

「破！」

えぐるように捻りこむ。それは骨の膜に阻まれ、ダメージにはならない。

相手はそう思っただろう。ほくそ笑むのと同時、君麻呂が苦悶の声を上げた。

「ぐ………っ！？」

舐めるな、と言いたい。こちとら九尾流。外部の硬度に関係なく、そしてチャクラを使わず、特殊な打撃法を用いることで、ダメージを与える事ができるのだ。

元より、内部を破壊するのを目的とした拳理を持つ拳法。その意味では、君麻呂の天敵と言える拳かもしれない。

一歩下がった君麻呂に、追撃しようとするが、

「！？」

悪寒を感じて、飛び下がった。直後、君麻呂の全身から、骨という骨が飛び出す。

「唐松の舞」

放射状に、骨が飛び出ていた。防御用の舞だ。その姿はまるで、

「………ハリネズミかよ、ちくしょう………でもな！」

その姿をと、戻ってきた左近を見てにやりと笑いながら印を組み上げる。

「こういうのはどうだ！？」

印を組み、再び風遁・大突破を使う。

「またかああああああぁぁぁあ！」

左近がまた吹き飛ばされた。戻ってきて着地した瞬間を狙われたので、避けられなかったのだろう。

「………僕には通じない！」

先ほどと同じ状況だ。だが、どこのバカが無駄にチャクラを使うというのか。ニヤリと笑い、印を変えた。

「こっからがお楽しみだ――――我愛羅、技を借りるぜえ！」

叫びながら、素早くまた印を組む。

「風遁――――封刃縛風！」

直後、風が変化する。ハリネズミ状に広がった骨に、風の乱流を絡みつかせた。風は衝突したものに絡みつくものである。飛行機にも活かされている力、それを揚力という。途轍もない鉄の塊をも宙に浮かせるその力は膨大で、

「………なっ、動けない！？」

笑う。鉄塊を運ぶ風に、個人が逆らえるはずもない。尖った骨があれば余計にだ。風が複雑に絡みあい、巻き取られた君麻呂は動きを封じられた。

「はあっ！」

また印を組み、今度は地面を両手で叩く。同時、君麻呂の直下から、爆発するような勢いで上昇気流が吹かせる。

「ぐっ！？」

下から吹き上げる爆風に耐えきれず、君麻呂が宙に浮かされる。更に絡み合う風の中、懐から起爆札を取り出し、叫んだ。

「仕上げだ！」

唐松の舞を解いて骨の膜で防御してはいるが、風は未だ君麻呂を束縛している。そして放たれた数枚の起爆札が、風に乗って君麻呂の元へと運ばれた。

風の中心部、君麻呂の元へと起爆札が届いた瞬間。

俺は両手をパンと叩き合わせて、術の名前を叫んだ。

「風・塵！　封・爆・札！」

同時、幾重にも重ねられた起爆札が、一斉に爆発した。

「くっ………」

爆発が収まった後、全身から煙をあげている君麻呂が、地面に倒れ伏す。

「爆発によるダメージは防げても、爆圧の衝撃によるダメージは防げないだろ」

我愛羅さんの言葉です。骨で防御した結果、外傷はないだろうが、内部にはダメージが残っている筈だ。爆圧も、ある程度は内に向かうようにした。四方八方の爆発による衝撃だ。脳震盪のせいで、視界は今ぐちゃぐちゃになっているだろう。

「俺の勝ちだな…………ん？」

と、何かに気づいたように、遠方を見る。

「暗部か。くそ、こんなときに」

呟き、焦るようにきびすを返す。

………全部、嘘である。先ほどからカラータイマーが鳴っているのである。

チャクラが限界なのである。思ったよりてこずったのである。

（仕方ない、といった風に逃げよ）

これもハッタリだ。虚勢とも言う。みっともないし。苦手意識を持ってくれれば良し。

「じゃあな」

その場をひとまず去った。

その後、限界が近かった俺はひとまず、白の元へと戻ることにした。

『それが良いね………大丈夫？』

「疲れなんてなんのその。友人を出迎えに行こうか」

本当に疲れたけどな………今は、気高い友人を助けられた事を誇ろうじゃないか。