小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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31話 : 転機(終)

 

 

「おーおー、でかいねえ」

 

自来也のガマ文太、綱手のかつゆ、大蛇○のマンダを見上げ呟く。ちなみに先ほど吹き飛ばされたカブトも、マンダの上に乗っている。死んではいない。拘束の封印布からの一撃だったし、あの布の防御力で、螺旋丸の威力も殺されたみたいだ。それでもかなりのダメージを受けているようだが。

 

状況だが、カブトが吹き飛んだ直後、遅れてきた自来也が到着するなり土遁・黄泉沼を使って口寄せの蛇を沈めた。大蛇○との攻防後、ガマ文太を口寄せした。

 

同時、大蛇○の方も巨大蛇のマンダを口寄せ。同じく。綱手の方もオオナメクジのかつゆを口寄せ、3すくみの硬直状態に陥った。

 

マダオはチャクラの消耗が激しかったので、俺の中に戻っている。キリハとシズネさんは俺の隣にいる。

 

………あと、キリハの輝かんばかりに何かを期待している視線がな。

 

痛いぜ。

 

(シカマルじゃないけど、めんどくせーことになったな………)

 

深い付き合いは無理だっちゅーのに。火影目指しているのに、木の葉ではある意味鬼門な俺と一緒にいることになるってのもなあ。

 

『…………ま、それはともかく。どうするの? 大蛇○にはばれたようだけど』

 

(どうもせん。暫くは戦いも無いだろうし、メンマの姿で一日過ごすよ)

 

後は自来也に釘を刺しておくだけだ。スタンスは変えない。

 

(どうも、ね。木の葉にはいらんお節介を焼く人が多そうだし)

 

ここ2週間に満たない付き合いだが、分かった事がある。善意は嬉しいが、時には重荷になるってことを。狙われる身としては、基本独りの方が気楽で良いのだ。

白と再不斬の二人は一緒にいて気楽だけどな。白は基本優しいし、再不斬も同じ。それなりの過去持っているし、深くは踏み込んでこない。触れられたくない場所があるってことは、互いに分かってる。

 

(でも、自来也とか木の葉の忍びは違うんだろうなあ)

 

俺を俺として見てない感じがする。四代目の息子ってフィルターがかかってるんだろう仕方ないとは言えど、ね。正直、うっとうしいって思う事がある。

 

『え、でもチャンスかもしれないよ。彼女欲しいんじゃ無かったの?』

 

いいや、暁を倒すまでは無理だよちくしょう。屋台でイタチと鬼鮫を見て、分かったことがある。今まで、暁の事を甘く見てたってこと。大蛇○と対峙した時点で気づくべきだった。

 

(どうにかなると思ってたけどな。いやー、どうにもならんわ)

 

一対一ならどうにかできる。イタチが絡まなければ、一対二でも何とかなる。でも、イタチ絡んでの一対二だと間違いなく負ける。

 

(それに、1人であれだけの力量だとねー)

 

6人いるっていうペインにも勝てない。

 

(………ペインが自来也と対峙する所まで見たんだっけか)

 

それ以降は分からない。勝敗の行方も分からない。まあ、敗北が死と同義な世界だし。今までより慎重に行くしかないかあ。

 

『ま、そうだね』

 

その前に、大蛇○を無事逃がさないとな。情報の使い方次第で、暁と音隠れを対峙させる事も可能だ。互いの消耗を狙う俺としては、3年後までは生きていてもらう必要がある

 

『じゃ、行く?』

レッツゴー、と足にチャクラをこめて跳躍する。

 

「………何のよう? 九尾のガキが」

 

「まあまあ蛇さん。そう怒らんと。そんで、お三方に話があるんだけど」

 

軽く切り出した後、告げる。

 

 

 

 

「うちはイタチと干柿鬼鮫が近づいてるんで、ここは一つ退いてくんない?」

 

「「………何?」」

 

自来也と大蛇○がハモる。もちろん、嘘である。だが、俺が出す情報だ。一部では、信じざるを得ないものがあるだろう。俺が暁に追われる身だってのは………自来也と大蛇○は知っている。その対策に云々~と、良い感じに裏を考えて、納得してくれるだろう。そして、追撃の一言。

 

            ・・

「いや、俺としては………今は、対峙したくないんだよね。暁と」

 

「………へえ? そこまで知ってるのね」

 

言外に含ませたニュアンスも悟ってくれる蛇さん。

 

(うん、やりやすいな)

 

今はと強調する。これだけで、俺を追う事はないだろう。暁にも情報は流さない筈。大蛇○としては、俺が暁に捕まったら困るのだ。故に情報は流さない。

 

同時に、暁という組織としての目的も知っているという事を連想させる。そして、俺が暁と対峙する意志を見せているならば、今もしくは3年の期間内という時間制限はつくが………俺を害すという選択肢は選ばない。俺と同じく、俺と暁でつぶし合って貰うという状況が最上となるのだから。

 

「と、いうことで、一刻も早く退いてくれ。このままじゃ全滅する」

 

手負いの大蛇○と綱手、そして完調ではない自来也だと、事実そうなる可能性が高い。

 

(仙人モードになれば分からんけどね)

 

薬が抜けきってない状況で使えるかも分からんし。

 

「ふ、ふん、いいわ……でもこの借りは必ず返すからね!」

 

大蛇○がツンデレのテンプレを発動。俺の精神に多大なダメージ。いや、表情はね。睨んでるし、殺気もあるし、ちょっと怖いんですけど。でも、そういう言葉の使い方をされるとちょっと………連想してしまった。自分の現代知識を憎んだのは初めてでした。

 

『き め え』

 

全力で同意する。テンションだだ下がりじゃあ、ボケ。

 

「………はあ。じゃあ解散、解散」

 

とやる気なく手を叩く。グダグダな空気のまま、戦闘は終了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、宿に戻った俺たちは、一泊した後木の葉に戻ることとなった。キューちゃんは、少し話があるとのことで、離れている。どうも自来也と話をする約束をしているそうだ。俺はといえば、キリハ待ちだ。正体について話すと約束したから。

 

それもキリハが綱手姫と決着をつけた後のことだ。窓の外ではキリハと綱手が何ごとか話している。あの首飾りを見るに、話は上手くいったのだろう。

 

(五代目火影の件は問題ない、か)

 

二人を遠目でみながら安心安心と呟いていると、声を掛けられた。

 

「少し、話があるのですが」

 

「ん? 何、シズネさん」

 

「………今日の事です。綱手様が1人で大蛇丸に会いに行ったと聞かされた時、あなたは慌てなかった」

 

「え? ああ、まあ、ねえ」

 

「大蛇丸の誘いについては、分かっていたのでしょう? 何故………」

 

と、うつむくシズネさん。

 

(ああ、ちょっとだけとはいえ、裏切ったと思ってしまったんだっけ。付き人なのに、とか考えているんだろうか)

 

うーん、何ていったらいいのか。

 

「えーと、綱手さんって医療忍者でしょう?」

 

「え、ええ」

 

「医療ってものは、生きている人を治すわけで」

 

「はい、そうです」

 

「つまり、ね。誰より腕が良い医療忍術の使い手である綱手さんは………誰より知っていると思ったんですよ。何があっても死人は蘇らないってことを」

 

その言葉に、シズネさんは息を飲む。死人が蘇る。それは、医療忍術の存在意義を根底から覆す理だ。それに、人体の理不尽を誰よりも熟知しているだろう綱手の事だ。

 

(生き返る? そんな事は有り得ない、ということは分かっていた筈だ)

 

死は死で。生は生だ。覆すことなどできない。生きる者、死んだ人、その両方を冒涜することになる。

 

「それに、大蛇丸の目的については知っていたんでしょう? なら、協力するはずが無いって分かります。木の葉を潰すってことは、大切な人の遺志を潰すって事なんだから」

 

ダンと縄樹の話は、5ヶ前にキリハと一緒に聞いた。

 

(火影は俺の夢だから、か)

 

今はキリハが持っているだろう、夢。木の葉を守る火の影になるという夢。ならば、答えが出るだろうと言う。

 

「そう、ですね」

 

「まあ………確かに、大切な人だったんだろうね。知っていながら、それでも期待してしまう程に」

 

「………はい」

 

と落ち込むシズネさん。甘く誘う夢に陥り、眠るように腐っていく。辛い現実、それを良しとする選択もあるが、内に残る誇りが勝った。そういう事だろう。

 

「はいはい、この話は終わり終わり。過ぎた事でしょ? 明日からまた頑張ればそれでOKOK」

 

「はい………」

 

いかん。暗い。ここは話題を変えよう。

 

「でも寂しいなあ。会うのは二度目だってのに、俺の事忘れてたんですか?」

 

「え?」

 

「ほら、あの時、麻の里での事覚えてません?」

 

「えっと……………あ!」

 

思い出したようだ。

 

「あの時、お金を取り戻してくれた人ですか! 思いだしました!」

 

「忘れられてたんだ………」

 

やっぱり。ノーリアクションだったし。

 

「いや、すいません………恥ずかしながら、今思いだしました。えっと、あのときは本当に有り難うございました」

 

「ま、いいよいいよ。あの時は路銀を稼ぐついでだったし」

 

本命はラーメン代だけど。

 

「それでも、助かりましたから」

 

顔を赤くしながら、頭を下げるシズネさん。

 

「でも、奇妙な縁ですよねえ。あの時はただ綺麗なお姉さんを助ける事が目的でしたから。まさか忍びだなんて、気づきもしなかったですよ」

 

「え、ええ?」

 

一部の言葉に反応して、赤い顔を更に赤くするシズネさん。ほんと、耐性ないなあ。年上だってのに、からかい甲斐がある。

 

「ま、あの時は失礼しました。でも、木の葉に戻ったらね。心配ないと思いますよ?」

 

本心である。アクが強い木の葉くの一群(代表格:アンコ)の中、トップクラスの癒し系要素を持つシズネさんはもてにもてるだろう。姑(綱手)がちと難問だが。

 

(でも、綱手の付き人ってだけでなあ)

 

ものすごい忍耐力を持っている良妻賢母、と思われるんだろう。料理の腕も立つと見た。

「そうでしょうか」

 

「そうですよ。保証します………っと」

 

窓の外を見ると、綱手の姿はすでに無かった。キリハが1人、佇んでいる。俺を待っているのだろう。

 

「………じゃあ、キリハと色々話す約束してるんで」

 

「はい。あの、有り難うございました」

 

「って俺の方が年下ですって。敬語はいらないです」

 

「あ、そっか。じゃあ………ありがとうね?」

 

微笑むシズネさん。

 

 

「それですよ。その微笑みがあれば、男なんてイチコロです」

 

 

親指を立てながら、「笑顔を忘れずにー」とだけ言って、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約束の場所に来ると、キリハが1人星空を見上げていた。そして俺の気配を察知すると、すばっと視線を正面に戻す。

 

「「…………」」

 

ちなみに、変化は解いている。背丈は同じくらい。いや、キリハの方がやや上といったところか。

 

「え、えっと………」

 

「ん?」

 

何を話していいか分からない、といった風なキリハ。なんでか、頬が赤い。

 

「お、お兄ちゃん!」

 

「うおっ?!」

 

いきなりの直球過ぎる呼びかけ。見知ったキリハの口から出た言葉に、俺の頬も赤くなった。

 

「な、なんでせう妹」

 

「お兄ちゃん!」

 

「いもうと」

 

「お兄ちゃん!」

 

「妹!」

 

『………な、何してるの?』

 

(はっ!)

 

マダオの突っ込みを受け、我に返る。

 

『いやあ、眼福眼福』

 

とによによした笑い顔をしているであろうマダオ。ふと周りを見ると。

 

綱手は宿の扉の裏でゲラゲラと笑っていた。

 

シズネは宿の三階の窓の上で、微笑まし気に見守るように。

 

自来也は屋上で殴りたくなるようなニヤケ顔で。

 

キューちゃんも同じく屋上だが、若干不機嫌に見える。え、何で?

 

要約すると羞恥プレイだった。

 

 

 

 

 

(ど、どうしたら良い!?)

 

かつてない危機的状況に、焦る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 九那実 ~

 

「まったく………」

 

屋上から見える、兄妹の姿に苦笑する。

 

(何をやっているのだあやつは)

 

抱きつこうとする妹と、何故かそれを避けようとする兄。いつのまにか一進一退の攻防になっている。

 

(照れているのか。相変わらずあほじゃのう………)

 

傍目から見れば随分とアレな絵だ。まあ、笑えるが。攻防の途中、キリハから聞こえる、

「見守ってくれていたんですよね…………………ずっと」

 

とか

 

「ずっと会いたかった」

 

とか

 

「これからは一緒だよね」

 

とか。一々言葉に反応しているあやつに、何故か不機嫌になる。

 

(まあ、不機嫌になるのは、の。それだけではないだろうが)

 

と、その原因を横目で見ながら、訪ねる。

 

「それで? 話があると言っておったが、ワシに何が聞きたい?」

 

「いやのお………」

 

「妖魔核の事か?」

 

その言葉に、自来也とやらの動きが止まる。

 

「気づいておったか………いや、思い出したと言う方が正しいのか?」

 

「ふん、その通りじゃ。もっとも、思い出したのは最近じゃがな………それで? それだけじゃなさそうだが」

 

「妙木山の蛙の爺様から聞いたんじゃがのお………本来、天狐とは気位の高いものだと」

「うむ」

 

その通りだ。遙かに高い霊格を持つワシ達………といっても、極々少数じゃがの。そのどれもが、気位の高い奴らばかりじゃ。

 

「有り得ないと言われた。本来の自我を取り戻した天狐が、宿主である人間を殺さず、自由も求めないで………その現状を良しとするというのは」

 

それも然り。妖魔核が抜けた今、ワシが外に出たとしても、問題はあるまい。すでに、新たな九尾は生まれておるじゃろう。断言しても良い。絶対にそうなっている。

 

(容赦など無い存在だからのう)

 

今宿主であるあやつを殺しても、ワシが再び堕ちる事はあるまい。

 

「それでも、お主は動かない。宿主を殺そうとしていない………それは何故じゃ?」

 

「そうじゃのう………」

 

満ちる月を見上げながら、呟く。

 

「狐として生まれ、妖魔に堕ち、災厄の権化となって生きた」

 

そこからは無色の日々。ただ目の前にあるもの全てを、喰らって生きてきた。人を、獣を、草花を。目の前に移るものすべて、動く者全てを屠り尽くした。

 

あるいは、己の存在でさえも。殺さずには生きていられなかった。

 

あれが………己に根ざした妖魔核が、どこから生まれたものなのかは知らない。妖魔に堕ちた時の記憶も曖昧だ。でも、あの殺戮の日々は肉の隅々まで、骨の芯に至るまで染みついている。考える事もできず、いつの間にかそれを受け入れ、ただ殺すだけの日々。

 

「そこで、出逢った」

 

人でないものでも、その目で見つめ、言葉を交わし、理解しようとする馬鹿者を。人が持つ悪意に怯え、驚異に怯え、それでも人が持つ誇りが大好きだと信じたい馬鹿者を。

 

損得だけで動かず、感情のままに動き、そして時に間違え、それでも諦めない馬鹿者を目覚める時も眠る時も、明日の事を信じている馬鹿者を。

 

思い出すだけで笑ってしまう。胸の中の灯火が揺らいだ。心の臓の奥が心地よく暖かい音を発しているようだ。

 

「ああ………そうじゃの。確かに。『天狐』としては、おかしいのかも知れぬな」

 

問うてくる人間、自来也に視線を戻し、その問いの答えを言う。

 

「でも、決めたのだ。あの馬鹿者の傍にいられるなら、そんな位などいらないと。そんなつまらないものなど、必要ないと」

 

今、ワシは笑っているだろう。誇らしげに。出会えた幸運を思い、そしてこれからも共に在れるであろう巡り合わせに感謝しつつ。

 

「何も選べず、奈落に堕とされ………………それでも、だ」

 

生まれは選べない。運命とやらは理不尽だ。それでも、死に方は選べる。

そして、譲れないものがある。望む事があった。

 

 

「死ぬときは、ただの九那実として死にたい。あやつを好ましいと思う友としてな」

 

 

それが共に有る理由だと。美しい月の光に負けないように。感情のままに笑おうとする顔のままに。微笑みながら、歌うように告げた。

 

 

 

 


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