小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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30話 : 転機(6)

 

 

「――――ラーメン!」

 

「俺の名だ。地獄に落ちても忘れるな」

 

  小池メンマのラーメン風雲伝「暗闘~黒板に隠された秘密の塩」より抜粋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練開始から一週間が経過し、宿に戻ってきた後だった。約束の日になったので会いに来たのだが、肝心の本人がいない。代わりに、壁によりかかって何とか立っているエロ仙人がいた。

 

「おいおい、こんな時間から酒盛りを………って違うようですね」

 

「ああ。情けないが、油断していたようじゃ」

 

「無味無臭の奴でも一服もられましたか」

 

ていうか説得するって言ってたじゃん。あまりのアレっぷりに思わずカンクロウ弁になってしまう。

 

「はあ………」

 

ため息を吐いてやる。何やってんですかチミは。嫌味を言おうとすると、シズネさんが慌ててた様子でやってきた。

 

「自来也様!? すみません、綱手様は………」

 

「すまん。ワシも一服もられて、この通りの様だ」

 

二人の話を聞く。シズネさんの方は、止めようとしたが腹に一撃くらって気絶させられたらしい。自来也の方は無味無臭の薬を飲み物に混ぜられたらしい。ま、確かにそりゃ気づけんか。

 

俺は外様だし、自来也と綱手姫の関係は半世紀近くも前からのこと。手出したら藪蛇になりそうだったし、放置しておいたけど、それが裏目に出たか。

 

(それも仕方ないことだな)

 

あれこれ手を出す気もない。細かい所まで気にして動き回るのは性分に合わないし。それに、基本他人の俺が割り込んでどうにかなるとも思えんし。

 

(でも、ここはまあ俺がやるしかないか)

 

「取りあえず、シズネさんは自来也さんの治療お願いします。俺は先に行ってますから」

「春原さん!?」

 

「キリハも、此処に残っててくれ。相手が相手だし………じゃあ行こうか」

 

「………いいのか、の?」

 

自来也が聞くが、俺は肩をすくめて答える

 

「まあ、仕方ないでしょ」

 

状況が状況だ。でも、これだけは言っておこう。

 

「これっきりだからな………いこうか、マダオ、キューちゃん」

 

「「応」」

 

 

これで自来也に貸しは作れた。後は、約定を完全に認めさせるまでだ。付きそうのはこれっきりにする。隠れ家の場所もばれてはいないし、木の葉に戻ってからはラーメン屋でしか顔を合わせないようにしよう。

 

後は、次代火影である綱手とも約定を定めるだけだ。頼まれたのもあるが、元々そのためについてきたのだし。

 

ギブアンドテイクという奴だ。それで完全に安心できる訳でもないが、留め金にはなる。

 

馴れ合いはゴメンだ。そもそも、俺と自来也では守るものが違う。俺にとっては、ラーメン。自来也にとっては、木の葉隠れの里。

 

道の途中で肩が触れることはあろうとも、いずれは分かたれるのだ。当然だ、目指す場所が違うのだから。

 

接点は作るが、属しはしない。それが互いにとっての最上だろう。俺は、忍び稼業で生きていくつもりは無い。期待されても無駄だ。暁対策に向け、互いに協力はするが、それだけだ。三代目にも告げた。戻る気は無い、と。

 

そして、恐らくはピンチな状況に陥っているだろう、綱手の元へ急ぐ。

 

「あっちだな………」

 

場所はすぐに分かった。戦闘の余波か、何か向こうから破壊音が聞こえてくるからだ。

 

戦闘準備は万端だ。キューちゃんは幻術への対処策として、俺の中に戻っている。外に出ているのはマダオだけだ。

 

「………ちょっと待って欲しい」

 

「?」

 

そのマダオが、何か意を決した声で俺に提案する。

 

「せっかくの男同士ですぞ。もったいないとは思わない?」

 

「………イヤ~な響きがするぞ。で、何が言いたい?」

 

「それは…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フフフ、相変わらず、血に対する恐怖は抜け切れてないようねえ………」

 

震える綱手を見て嗤う大蛇丸。だが、急に何かに気づいたかのように、右の方を見る。

 

「ちっ、新手か…………!」

 

飛んできた手裏剣とクナイを、カブトが弾く。そのまま、綱手から距離を取った。

 

そこに、二つの影が降り立った。

 

「「――――そこまでよ!」」

 

「アナタは………!」

 

「君は…………!」

 

こちらの姿を見て、大蛇○とクスリメガネが驚く。

 

 

「「ロジャー…サスケ………!」」

 

ともう1人。

 

警戒の態勢を取る大蛇○とクスリメガネ。

 

 

「「でも…………」」

 

と前置きして、二人は俺とマダオを指さす。心なしか、その指は震えていた。

 

 

「「………何故、女装しているんだ(の)!?」」

 

 

「………は?」

 

背中しか見えてない綱手が、何それ?といった風に呟く。

 

「ついに来た、やっと来た。新世代超ヒロイン伝説でござる」

 

「いくわよ、ロジャー子」

 

別名ナル子とも言う。その口には艶やかな紅が引かれていた。

 

「ええ、お姉様」

 

マダオの口にも、紅が引かれていた。グラサンとのコラボレーションが良い感じにキモさを引き出している。

 

 

これが、マダオの提案した作戦であった。大蛇○はキモイ。超キモイ。対峙するのに、多大な精神を使う。それに、力量も凄い。超ヤバイ。

 

これは、それに対抗するための画期的な策である。化物を倒せるのは、より強い化け物だけ。つまり、オカマを倒せるのは、より強いオカマだけ!

 

『いやいや、その理屈はおかしいんじゃないかの………』

 

いやだってキューちゃんさあ。この世界の強い忍者って、人としての大切な何かを捧げてるの多いでしょ。存在の引き算ってやつで、力と尊厳を等価交したんだよきっと。

 

『本気か?』

 

全部冗談です。いや、意表をつくのと、時間稼ぎが狙いですけど。ここで大蛇○を殺るわけにもいかんし。音の残党に破れかぶれに攻めてこられても困る。あと、音の里はできれば対暁戦の時に利用したい。それまでのまとめ役が必要だ。

 

でも、大蛇○はお気に召さなかったようだ。

 

「…………何なのよ、アンタ達」

 

「いやねえ、他人行儀で。同じオカマ同士じゃない。もっと奔放になりましょう!?」

 

俺の言葉に、クスリメガネは大蛇○とこっちを見た後、虚空を見上げながらため息を吐く

「………何か、帰りたくなってきた」

 

心底疲れた声を出すクスリメガネ。曇っている眼鏡が余計に哀愁を誘う。

 

「ふふふ、何か言っているわよお姉様」

 

「きっと照れているのよ」

 

「いや、もう、それでいいよ………」

 

諦めの声を出すメガネ君。

 

「それで、何のよう? いつもとは違った格好だけど………目的はあの死の森の時と同じかしら?」

 

大蛇○が聞いてくる。確かあの時は少女の盾、と言ったか。

 

でも。

 

「いや、今回は助ける相手が少女じゃないので趣向をこらしてみました………どう?」

 

といいつつ、背後の綱手に紙を投げる。書かれている内容はこうだ。

 

『自来也、シズネ、キリハは後で来る』

 

「お前…………!」

 

こっちの正体に気づいたのか、背後の綱手が驚いた声を出す。あと殺気も出してくる。いやだって少女じゃないじゃん。

 

「巫山戯ているの………!?」

 

大蛇○が怒りの声と共に、殺気を放ってくる。

 

「いつにない真剣な声ね………でもアナタに言われたくないわ」

 

「それぐらいで怒るなんて、典雅ではありませんわね。オフォフォフォフォ」

 

もう誰がだれやら分からない。

 

『………はあ』

 

心の中のキューちゃんはまた眉間を抑えている。小じわになるよ。

 

『誰のせいだ』

 

油断した自来也のせいです。と、キューちゃんと話していると、大蛇○が動き出した。

 

「もう、いい………全員、死ね!」

 

 

堪忍袋の緒が逃げだしたようで、凄い殺気だ。その余波で近くに居た鳥達が一斉に逃げ出した。とはいえ、右手は使えないのでこちらが有利――――と考えている最中だった。

 

森の中から口寄せの蛇が現れた。3体で、どれも大きい。前もって潜ませておいたのだろう。唸りを上げて、襲いかかってくる蛇。俺は避けようとするが、咄嗟に身体が動かなかった。

 

(金縛りの術か。だが!)

 

「甘いわ!」

 

大蛇の牙が届く前に、力任せに術を振り切る。

 

(くそ、良いタイミングで術を使ってくるな)

 

下忍でも使える基本忍術。下忍レベルなら拘束はされないが、カブトレベルの術者に使われると一瞬だが硬直してしまう。今のはちょっと危なかった。

 

(舐めてかかれんな)

 

そういえば、多対多の戦闘は始めてになる。まずは、影分身を使っておくか。

 

「影分身!?」

 

驚く綱手の前に、護衛として一体置いておく。潜んでいる音隠れの暗部がいつ襲ってくるとも限らんからな。前に追撃出来なかったツケが此処で来ちまった。

 

一方、大蛇○の方は口寄せの蛇を前面に出して、自身はこっちに近づいてこない。腕を使えない今、勝ち目は無いと見たか。

 

慎重になっている証拠だ。力量を知られている故の対応だろう。油断の欠片もない大蛇○。手傷を負っているにしても、そう容易く御しきれる相手ではない。

 

3体の蛇が織りなすコンビネーションも厄介だ。螺旋丸を使うにしても、一瞬だが溜めが必要になる。その隙もない。

 

(百戦錬磨ってことか)

 

腕が無い程度、やり方次第でいくらでもカバーできるか。引き出しの多さは現存する忍びの中でもトップクラス。

 

ここは、機を待つしかないか。長丁場になるかもしれないな、と内心で溜息をつく。

一方で、マダオの方はカブトを抑えていた。

 

「こっちだよ!」

 

「なんの!」

 

こちらはガチの近接戦闘だ。基本、チャクラのメスを武器とした近接戦闘が得意なカブトは、もちろん体術のレベルも高い。

 

ガイみたいに体術専門の忍びほどではないが、通常の上忍よりも高い。だが、マダオもさるもの。身体能力やチャクラ量は本来のものと比べ大分落ちているが、腐っても元4代目火影だ。忍界大戦を生き延びた猛者。こちらも、潜ってきた修羅場の量が違う。

 

上忍にしても速いカブトの猛攻をしっかり目と勘でとらえ、回し受けで凌ぎ、逸らし、避ける。

 

(受ければ斬られるからな)

 

手のひらでカブトの攻撃する腕の側面を引っかけ、攻撃の軌道を外側に逸らし続ける。あれだと、連続攻撃もし辛い筈だ。攻撃を逸らされると言うことは、重心が崩されるのだから。防戦一方にはなっているが、時間稼ぎはできている。勝つことはできなそうだが、負けもしないだろう。

 

「っとお!」

 

森の方から飛んでくる、複数のクナイと手裏剣群を避ける。護衛の忍びだろう。気配を察知するに………3、の、4人か。木の葉崩しの後だし、音隠れの方もあの戦争における消耗が酷いということだろう。

 

(どれも中の上といった力量だけど、この人数なら何とかなるか………!?)

 

「春原さん!」

 

「綱手様!」

 

後方から、シズネとキリハの二人が駆けつけた。

 

(やばい!)

 

それを見た音隠れの暗部が、一斉に手裏剣とクナイを投げつける。

 

 

そこからは一瞬。

 

 

マダオと視線を交錯して、目配せだけでスイッチ。

 

 

俺がカブトを抑え、マダオはキリハの方を対処する。シズネさんの方は対処できるだろうとしての判断。

 

キリハに飛来する手裏剣とクナイに向け、マダオはクナイと手裏剣を投擲して弾き落とした。投擲術の腕は落ちていないらしい。神業だ。

 

 

(まあ、当然か。飛雷神の術を有効に使うために、投擲術は徹底的に鍛えたと言っていたしな)

 

流石の腕であり、このあたりはまだまだ敵わない。

 

 

「隙あり!」

 

 

よそ見をしている俺に向け、カブトがチャクラのメスを突きだしてきた。

 

 

「見せたんだよ」

 

 

だが、そのよそ見はフェイクだ。隙見せは誘い。実際は、注意を逸らしていない。突き出された手を左手で外に逸らしながら左足を一歩踏み出し、右の掌底で顎をかち上げた。

 

かこん、という打撃音。カブトの視界が上にそれる。同時、左足を震脚しながら、左の掌打をカブトの腹に繰り出す。

 

「ぐっ!?」

 

こちらは反応され、ガードされる。だが、威力は殺せなかったのか、後方へと吹き飛ばされる。

 

 

一方、あちらではマダオが大蛇○の口寄せ蛇を抑えていた。そして、キリハとシズネさんが近寄ってきた音の暗部と対峙。

 

「ふっ!」

 

仕込み針による毒弾を受け、1人が倒れ伏す。後方から忍び寄った1人は、気配を察知したシズネさんの忍法・毒霧の術を真正面から受けて、こちらもまた倒れた。

 

(やっぱり、毒使いは初見の相手だと強いな)

 

一撃受けたら終わり、っていうのが容赦ない。解毒できなきゃそれでゲームオーバーなのだから。一方、キリハの方は苦戦していた。

 

「つっ!?」

 

「どうした、こんなものか!」

 

「まだまだぁ!」

 

気概は一人前だけど、防戦一方だった。だが、手を貸せる状況ではない。シズネさんは残りの1人と対峙しているし、マダオも蛇の相手でせいいっぱい。

 

こっちも、カブト相手では気を抜ける状態ではない。互いに油断なく対峙している今、一瞬の隙が致命傷になっていてもおかしくない。

 

ある程度のレベル、致命打を持つような力量に達する者同士の死合では、互いの地力の差など、一瞬の隙があれば埋まってしまう。

 

(チャクラのメスによって心筋とか肺を裂かれるのは不味いしな)

 

呼吸が出来ない状況では、追撃もかわせないかもしれない。だから、俺は目の前のカブトに集中する。それに。

 

「死ね!」

 

突き出された暗部のクナイ。

 

「死なない!」

 

それを、キリハが手のひらで受け止める。

 

「ぐうううっ!」

 

血が吹き出るが構わず、そのままその暗部の腕を力任せに引き寄せる。そして、空いているもう片方の手のひらを突き出した。

 

「あれは…………!」

 

成り行きを見守っていた綱手が、驚きの声を上げる。

 

一週間前に約束した、あの術だ。

 

「螺旋丸!」

 

正真正銘、全力全開の螺旋丸が、音の暗部を吹き飛ばした。

 

(本当に、やった………)

 

 

修行の段階では五分五分だったのに。それを、実戦でしかも掌を貫かれ激痛に耐えながらも完成させるとは。本番に強いというレベルじゃない。これが天性か。それよりも注目すべきは、あの意志の力かもしれない。ふんす、と気合を入れていた可愛い姿とのギャップに思わず笑みが零れるが。

 

『こら、油断するなよ』

 

キューちゃんの言葉に、分かってるよと答える。気は抜いてないから大丈夫――――っと。

 

「一体、行ったよ!」

 

マダオが相手していた蛇が、一体こっちに来た。マダオの攻撃能力が乏しいと見たか、残りの二体で十分だと思ったのだろう。

 

「だが甘え!」

 

迎撃の螺旋丸を繰り出そうとするが、また身体が動かない。

 

「同じ手を食うか!」

 

先ほどより速く、その拘束から抜け出る。そして蛇の突進を跳躍して避けた後だ。再び正面から向かい、螺旋丸を発動する。

 

「これで終わり…………!?」

 

そして、螺旋丸を繰り出そうとした時だった。

 

 

「大蛇丸様、万歳!」

 

 

叫び、蛇の中から残りの1人が。勢いよく飛び出て来た音忍が全身に纏っているものを見て、戦慄した。

 

 

(大量の、起爆、札、まずっ…………!)

 

 

避けきれない。

 

 

一瞬後、爆音と共に、視界が閃光に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 波風キリハ ~

 

 

 

「春原さん…………!」

 

口寄せの蛇も巻き込んだ、自爆。あの爆発の規模だ。避けられたとも思えない。

 

「他人の心配している暇はないよ!」

 

呆然としている私のところに、カブトさんが襲いかかってきた。

 

「くっ!」

 

まともに相対しても勝てるとは思えない。そう判断し、木の葉瞬身を使って距離を取る

 

(悔しいけど、私じゃ勝てない………!)

 

カカシ先生に匹敵するレベルと聞いた。

 

(自来也のおじちゃんが来るまではもたせないと)

 

最低限の役割だろう。そう決めたが、それも無理そうだった。瞬身後の所を捉えられ、間合いを詰めてくるカブトさんを見て、私は悟った。

 

(速すぎる………!)

 

見て動いても間に合わない、圧倒的速度の差。住んでいる場所が違う。

まるで上忍を相手にしている時の感覚に似ている。

 

(この間合い、逃げ切れない………!)

 

「殺った!」

 

勢いのまま突き出されたメスが、私の心臓に迫り――――

 

「…………!?」

 

その直前、カブトさんの動きが不自然に止まった。理由は分からない。だが、するべき事は決まりきっている。

 

最速の一撃を。混乱していて最高の一撃とはいえなかったけど、咄嗟に掌打を突き出す。

「ぐうっ!?」

 

避けられず、吹き飛ぶカブトさん。それでも致命打には程遠く、吹き飛ばされた先で簡単に立ち上がった。忌々しげな表情でつぶやく。

 

「くっ、今のは………金縛りの術か」

 

「――――まあな。天丼で油断させてくれたからな、お返しだ」

 

驚くカブトさんの後方、まだ漂っている爆風で起きた煙の中から、声がする。

 

「春原さん!」

 

生きていたんだ、と安堵のため息を吐く。だけど煙が晴れた先、現れたその姿を見て、何も言えなくなった。

 

 

「………………………え?」

 

 

息が止まったかのように錯覚する。あちこち跳ねている、金髪の癖毛に、青い瞳。

 

 

「はっ!」

 

 

私の隣に降り立つ。その姿を見て、鼓動が早くなる。

小さい背丈に、何処かで見た顔立ち。

 

そこには、夢にまで見た人の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

~ 小池メンマ~

 

くっそ危なかった。発動前のなり損ないの螺旋丸を盾代わりにしないと、結構なダメージを被っていただろう。まあ、余波で変化が解けてしまったけど、仕方ないか。

 

『油断したバチが当たったのじゃ。正体についても、時間の問題じゃったろう』

 

キューちゃんの言う事も最もだった。隣で硬直するキリハを見て、苦笑する。ま、遅いか速いかの違いだっただけだ。

 

――――ともあれ。

 

「説明は後だ。やれるな、キリハ」

 

「は、はい!」

 

 

元気の良い返事に苦笑を重ねる。そう、取りあえず今やる事は一つだ。下準備に、口寄せの術で例の布を取り出す。途端、カブトが警戒の態勢に入る。

 

「一度殺されても」

 

それを聞いたカブトが、詠唱の間に逃れようと、俺から距離を取ろうとする。大蛇○から要注意術として、事前に詳細を聞いていたんだろうが――――

 

「今に見る夢は同じなり、以下省略!」

 

「ええ!?」

 

無駄だっての。事前知識が仇となったな。術の発動に、詠唱は要らないんだよ。

ただ俺がしたかったというだけだ。

 

「精霊麺!」

 

不意をつかれたカブトは避けきれず、封印術を組み込んだ布に腕を拘束される。

 

「キリハ!」

 

隣のキリハに視線を送る。

 

「はい!」

 

 

キリハは俺の呼びかけに応える。そして、一緒にカブトの元へと走り出した。横並びに走るキリハに、左手を差し出す。

 

「いくぞ!」

 

「………了解!」

 

握手するためではない。流石は双子か、キリハは俺の呼びかけに応えると意図を察して応えた。怪我をしていない右手の方をこちらに差し出してくる。

 

これはそう、訓練中に冗談で語った双子の協力技だ。互いに掌を近づけ、共にチャクラを放出し、回転させて留める。

 

大きさは二人分、その更に倍プッシュだ、喰らえ!

 

 

「「双龍・螺旋丸!!」」

 

 

螺旋の大玉が、封印の布ごとカブトを吹き飛ばした。

 

 

 

 


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