「麺のメンマのラーメンは、銃弾よりも強いのさ」
劇場版…小池メンマのラーメン日誌「美味という力」より抜粋
翌日。何故か俺はキリハの修行を手伝うことになっていた。
「ワシは綱手を説得するから」らしい。あのガマじじい、いつかコロス。というかキリハとの縁を強めて里に残ってもらおうと画策してるな。みえみえ過ぎて嫌なんだよ、あのエロ仙人の気遣いというか目論見は。
「よろしくお願いします、春原さん!」
「ん………頼まれたからには、ちゃんとやるけど」
勢いよく頭を下げるキリハに今更無理だとも言えない。正体を隠している負い目もあったまあ、仕方ないか。断らずに了承はしたんだし。報酬は後でせびるが。高い酒とかで。
「うん、じゃあ始めようか、キリハ」
名字ではなく、名前で呼ぶ。「名前で呼んで」と言われたので。それなんてフラグ?
いつか拳で語り合いをしなければならない日が来そうだな。それはともかくキリハさん。額当ての上に鉢巻きを巻いているけど、それはダサイのでよしなさい。
「え、でも特訓なんだから………」
お約束はいいから。ていうか誰が教えた。もしかしてガイか。あるいはリーか。大穴はカカシか。
「分かりました………」
としょぼくれて、鉢巻きを外すキリハ。やっぱり天然なのか。
ま、まあここは気を取り直して。
「じゃあ、始めようか」
とは言ったものの。何を教えたらいいのやら。
(どうしようか、マダオ)
(うーん、まずはアレを教えたら?)
アイコンタクトで確認。ああ、あれか。その方が早く修得できるかもな。
「えーと、手の平の中心部に何か書いて、チャクラの集中点を示すっていう方法は知ってる?」
「はい。自来也のおじちゃんに教えて貰いました」
「で、だ。あれに工夫をこらすとこうなる」
俺はキリハにその書いた文字を見せる。
「『麺』、ですか」
「そう、麺」
頷き、俺はキリハから少し距離を取る。
「そして、これに魂を注ぎ込む感じで………!」
偽りはない。これぞ我が起源なのだから。その魂の芯にチャクラを放出し、そしてスープをかき回すかのように回転させ、その場に留める。
「凄い………」
「とまあ、こんな感じ。まあ、これはあくまで補助用だけど、実戦でも使えるよ。手のひらにさらされと書けばすむことだけどね」
愛用の筆を取りだして言う。
「イメージしやすいように、力を注ぎ込みやすいように、何かを書く………キリハも、何か書くかい?」
「えっと」
首を傾げて考えるキリハ。
「じゃあ………これで」
「これは、うずまき?」
螺旋ともいう。ペロペロキャンディーの中心のアレ。
「はい。『螺旋』丸ですし。あと、母と………兄の名字が『うずまき』だと聞いたので、私はこれにします」
少し悲しそうな顔で、それでも笑うキリハ。うう、胸の奥が痛むぜ
あとマダオやめろ。鼻水垂らして泣くな、きめえから。
(だってだってだって!)
急に乙女になるな。え、何、キュンと来たから仕方ない?
知るか、ヴォケ。
「………それじゃあ、サラサラサラリと」
手のひらに渦巻きをかく。くすぐったいのか、キリハの肩が跳ねる。
「はい。じゃあ、乾くまでちょっと待ってね………あ、あと構えについてなんだけど」
「構え、ですか?」
「そう。キバ戦で使った時の構え。右脇に抱え込むかのような構えだったっけ。あれがいいね。逆に、こういう構えはよくない」
と左手で右手首を掴み、右手の手のひらを上に向ける。これじゃあまるで操気弾。死亡フラグになっちゃうね。あと、口に出しては言えないが某カ○シ上忍と同じになっちゃうし。
「………かませ犬属性?」
「あ、ほんとだ。良いところに気がつきましたね、マダオ君。で、キリハは覚えてるよな」
「キバ君と戦ったって……ああ、中忍試験予備戦の、あれですか」
「そう。長い間留められない以上、発動から当てるまでの時間は短い方がいいし。そして、抱え込む事で相手の視線を防げるから、術の正体を悟られにくい」
「そうですね」
「あと、邪道だけどこんな方法もある」
まず影分身を発動する。
「あ、影分身の術」
「そう。それで、こうやって」
原作のナルトと同じ方法だ。チャクラを出す役と、抑える役を2分する。
「分割思考、展開………なんちて」
「いや、思考は分割できてないでしょ。それに、本格的にやるにはミニスカニーソが必要になるけど………居るなら縫うよ?」
「きめえ」
「噛むぞ?」
「すんません」
笑顔で八重歯剥き出しにするキューちゃん。即座に謝るマダオ。
「あの………」
あ、ゴメン話がそれたね。
「まあ、こんな方法もあるって事。おすすめはしないけどね。馬鹿みたいにチャクラ使うし、発動時に影分身が必須になるようじゃあ、使い所が限られてくるからね」
「そうですね。1人で発動できた方が、使い勝手が良いです」
不満顔で頷くキリハ。その裏の感情までまるわかりだった。
「その他にも嫌な理由がありそうだな、って驚かなくても。分かるって。そういう方法では勝った事にならないから、だろ?」
「はい。螺旋丸は以前から練習していた術ですから、1人で完全に発動できるようにならないと………勝った事にならないです」
真剣な表情で手のひらのうずまきを見つめる。
「意地じゃの」
「はい、乙女の意地です!」
むん、とガッツポーズをして気張るキリハ。可愛い。でも才能だけはかなりというかこの世界でもトップクラスっぽいので怖いなあ。でも、努力をしなければそれも無駄になる。
「ラーメンは語るより食べるものってね。じゃあ墨も乾いたようだし、いっちょやってみようか」
そうして、訓練を初めて30分。キリハは全力で頑張っていた。というか早い。なんだこの才能は。ウイングさんの気持ちが分かるぞ。完成一歩手前までのレベルには至ってるけど………もう少しって事か。全力で放出すると、未だに留めきれてない感じ。でも、うずまきマークが効果あるのだろうか。前に中忍試験で見たアレよりは大分コントロールできているようだ。
「全力で放出し、留める………!」
が、失敗。
「きゃあ!?」
抑えきれなかったチャクラが散乱し、その余波の風に弾き飛ばされる。だが懲りずに、また立ち上がり続ける。
それを少し離れた場所で見ている。まあ、1人で集中するのが一番だからね。チャクラコントロールが肝の術だから、これ以上こっちが教える事もできないし。あとは、本人の感覚と技術次第。まあ、それにしてもだ。
「懐かしいなあ………」
「そうだねえ………」
失敗して弾き飛ばされるキリハを見て、自分の修行時代を思い出す。1人森の中、必死に頑張ったもんだ。
あと、『麺元突破・螺旋砲弾』の術の開発中の時にあったことも思い出した。
「最初、失敗して酷い目にあったもんなあ………」
「あれはもう局地的な台風そのものだったねえ………」
分かりやすくいうと空子旋だった。風龍のケツ触ってないのに。余波で部屋がえらいことになるし、もう散々だった。
「しかし、見ているだけっていうのもな。時間がもったいない」
「こっちも、何か術の開発でもする?」
「そうだなあ」
「案としては、こういうのあるんだけど、どう?」
言うと、マダオは印を組んだ後、両手を上げて術の名前を言う。
「ばーりーあー」
言葉と共に、術を発動。激しい風の壁が、マダオの周囲を包んでいく。成るほど、確かに使える事は使えるだろう、だがしかし。
「人生守りに入ってるやんけー!」
術が切れたマダオの顔面に、ドロップキックをかます。
「チグリス!?」
反応できなかったマダオが顔面に蹴りを受け吹き飛んでいく。俺は倒れ込むマダオに駆け寄り、襟元を掴んで引き起こす。
「てめ、そんな事で視聴率取れると思っとんのか!芸なめとんやないで!」
怒りのあまり、関西弁になってしまう。ちゃうんや、守りに入ったら終わりなんや。
「もっと派手に、視聴者に分かりやすい方向に! そんでもって漢気でも女の柔肌でもええから、色気を前面に出す方向で! ………ということで、キューちゃんが見本を見せてくれるようです」
無茶振りする俺に、キューちゃんは真っ赤な顔で「せんわ!」と怒鳴る。
「えー………」
俺とマダオはキューちゃん白けた視線を送る。
「そもそもこの外見でそんなこと出来るわけなかろう!」
と、自分の胸を叩くキューちゃん。
「えーっと、本来の姿ならできるの?」
「当たり前じゃろう」
ふふんと胸を張り偉ぶるキューちゃんだが、無い胸を張られても痛ましいだけだ。おいたわしや。
(………ってそれどころじゃなくて!)
「マジで………!?」
あの大きい狐の姿で色気を出すって、モフモフでどうにかすんのか。え、想像できん。どういう事なのか。
「む、そういえば一度も戻った事なかったのう………やってみるか」
「ちょ!?」
こんなところで!?と叫ぼうとするが、時既に遅し。
「変化!」
ボンという音と共に、キューちゃんの姿が煙りにつつまれる………アレ?
(大きくならない………?)
と不思議に思う時間もなかった。
煙が晴れた先には、桃源郷が存在していた。
「どうじゃ」
ふふん、という言葉もその時は聞こえなかった。背が高くなっただけではない。
長く美しい睫に、切れ長の赤い瞳。顔には、健康的な白い肌の上に、天上の桃のような美しさをもつ、形よく色もいい整った唇が浮かび上がっている。腰まで伸びて風に棚引く、絹のような金の髪を手でかきわける。仕草が色っぺえなおい。
小さくなく、そして大きすぎない、着物の上からでも分かる美しい胸元の稜線。折れるかという程に細く、たおやかな腰。
其処には、この世全ての美そのものが顕現していた、だけど。
「あ」
呟きと共に、変化が解けた。そうして煙が晴れた先には、子供ながらに大人なセクシーポーズを取っている童女キューちゃんの姿があった。
髪も元に戻ったので、手が空しく虚空を彷徨っている。何か盆踊りのワンカットみたいなポーズ。夏だなあ、って言ってる場合じゃねーや。
「「「……………」」」
あまりの状況に、俺とマダオ、キューちゃんの3人全員が固まった。
(な、なんか、何ていったらいいのか分からねえ………!)
子供セクシーポーズみたいな何かを取ったまま、赤い顔で固まるキューちゃん。予想外の事態に驚いているのか、微動だにしない。今の自分がどう見えてるのか、分かっいるようだ。耐え切れなかったのか、爆発する火山の前のように赤い顔をするキューちゃん。迂闊な事はいえない。噴火は嫌で御座る。
フォローについて、マダオとまたアイコンタクトで会議する。
(お前言えよ)
(やだよ)
(俺が言うとまた噛まれるだろ)
(いいじゃない。それも一つの愛の形っていうことで)
(それは食料に対する愛なんじゃないか?)
(食べられる男。いいじゃないかちぇりーぼーい)
(ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわ!)
会議らしく、脱線した。意見がまとまらない。そこに、キリハが何かあったのかと駆け寄ってきた。
「何やってるんです………うわー、キューちゃんかわいー」
と、キリハは顔を真っ赤にして固まるキューちゃんの頭を撫でる。
「うーん、でもキューちゃんにはちょーっと早いかなあ」
キリハは苦笑しながら、キューちゃんの頭をポンポンと叩く。
「………う」
「う?」
「うわーん! お前ら全員狐のうんこ踏んで死んでしまえーー!」
キューちゃんはいつぞやの俺の口調を真似て、泣きながら森の方へ走っていった。
「え、え、どうしたんですか?」
いきなりの逃亡にキリハが焦る。
「後生だ。何も語るな。言ってやるな。追ってやるな。武士の情けだ」
忍者だけど。キリハの肩をポンと叩いて、目頭を抑えながら首を振る俺とマダオ。
「え、でもここらへん熊が出るって聞いたんですけど、大丈夫ですか?」
「………あー、それはあぶないねさがしてこよう(棒読み)」
キリハの心配を聞いて、すぐさま後を追おうと走り出す。まあ熊より強いキューちゃんだから食われる心配はないけど、離れすぎるのもまずいしね。
「………って、え?」
ところが、キューちゃんはすぐに戻ってきた。片手で何かを引きずっている。
「熊、取ってきたぞ」
「うそお!? ってか早いね!?」
襲ってきた所を、八つ当たりも兼ねて返り討ちにしたらしい。うん、弱肉強食だね。
ということで、その日の特訓が終わった後。晩飯は熊を材料とした即席ラーメンとなりました。他の材料は街で購入済みだ。
火力調節役はキューちゃん。昼頃から長時間煮込んでいる。熊で元の出汁を取ってラーメン、これぞ熊元(熊本)ラーメン!
「熊本って何処さ」
「肥後さ」
「肥後って何処さ」
「熊本さ」
「だから熊本って何処さ」
「船場さ。船場山には守鶴がおってさー………っていらんこと思い出した」
狸を撃ったのは鉄砲どころか風の砲弾だったが。でも砂狸さんの相手はもうしたくないでござんす。煮ても焼いても食えんし。むしろ泥団子になるし。
もう戦う事はないと思うけど、次対峙する時があれば自分、木の葉隠れの里でちょっと隠れますっす。
(あ、そういえば砂隠れの里で塩取ってきてないなあ)
守鶴で思い出した。いやな思い出し方だなあ、と考えているとキリハが首を傾げていた。歌に興味を持ったらしい。
「聞いたことないけど、春原さんの故郷の歌ですか?」
「へ? ………そう、童歌の一つで手鞠歌………って言っても分かんないか」
「テマリ歌?」
「そう、テマリの歌………って違う」
思わずテマリ=猟師、狸=守鶴で考えてしまったじゃないか。そんな姉弟で繰り広げられる家庭バイオレンスなドラマは心底ゴメンです。
「手鞠ってこれさ」
忍具口寄せの応用で、自作の手鞠を口寄せする。
「これをこうやって、つきながら歌うんだ。やってみる? 息抜きも大事だからね」
「はい」
スープを煮込んでいる間、鞠つきで遊びました。
優勝は、ジョン・ウー監督作品並にアクロバティックな鞠つきを披露したマダオに決定。歌も何故かロック風になってました。肥後ってここさー、イエイ!じゃないって。
「自重しろマダオ。動きは凄かったけど」
だがマダオは親指を立て、笑いながら歯を煌めかせ、言う。
「心はいつでも15歳。愛されるボクでいたいのザヴォィ!?」
ボディが甘いぜ! と、突っ込み待ちのマダオに一撃。キューちゃんとのツープラトン攻撃に、マダオは吹っ飛び、頭から地面に突っ込んだ。
「………車田ぶっ飛びとは、やるな。流石は歴戦の勇。安らかに眠れ」
「いや、死んでないから」
「ちっ」
しぶといな。
「あはは、仲いいんですねー3人とも」
一連の光景にを見た後で、俺たちの仲が良いと断定するキリハ。やっぱり天然なのか。
そうしている内に料理が。虫の鳴く声をBGMに、ラーメンを取り分ける。うん、店で出す時のように洗練された味じゃないけど、野性味溢れていい感じだ。脂もおおいけど、それだけエネルギーが多いってこと。修行で疲れてるキリハにはもってこいだ。
さあ、出来上がったので食べましょう。
「あ、美味しいですね意外と」
「うん」
野性味があっていい。野菜もあれこれ入れたから、栄養も抜群だ。なんか熊鍋ラーメンみたいになったけど、旨いことは旨い。
「おかわり!」
疲れて腹が減ってたのか、キリハがもの凄い勢いで一杯目を食べ終わりました。
「はい。今日一日頑張ったから大盛りね………螺旋丸だけど、一週間以内に出来そう?
「………正直、わかりません。ですが、やってみま………いえ、『やります』」
「その意気だ!」
じゃんじゃん食べてと、どんぶりに大きい肉を入れてやった。あふあふと可愛く食べるキリハ。そうして全て食べ終わった後、全員で寝ころびながら夜空を見上げる。
「綺麗ですねー」
「そうだねー」
マダオが星座について色々と説明している。キリハは興味を引かれたのか、その説明を受けながら「そうなんですかー」とわくわくした声で相づちをうっている。
(『父親』っていうのは、こういうものなのかね………)
前世も今も親父というものを知らない俺に、二人の姿は眩しく映った。横目で見ていた二人から目を正面に戻し、1人空の星を見続けている。
すると、
「ん?」
不意に、手が握られた。横を見ると、キューちゃんが悪戯な表情を浮かべている。これはキューちゃんの手か。
「そんな顔をするな。似合わんぞ」
「悪かったね」
といいつつも、手を握り返す。すると、キューちゃんはそういえば、と前置きしてある事を質問してきた。
「………昼前のあれ、どうじゃった?」
昼前のあれ………というと、童女セクシーポーズ事件?
「そっちじゃない」
「痛い」
思いだし笑いをしていると、手に爪が立てられた。そっちじゃないとすると、本来の姿という、あの美女の姿の事か。
「………うん、綺麗だったよ。今まで出逢った誰よりも綺麗だった」
嘘はない。傾国のと頭につけても違和感がないぐらいには。
「………そ、そうか」
ストレートな言葉が返ってくるとは思わなかったのか、キューちゃんの頬が桃色に染まった。でも、本当に綺麗だったし。
「………でも、持続はできないみたいだね」
「ん、まあ、そのようじゃのう………」
(………ん?)
何か、キューちゃんの返答に含まれたものを感じる。
(何か知っている、いや感づいている?)
それで、それを知られたくないのか、そういう感じがする。
「キューちゃん?」
「ん、なんじゃ?」
「………いや、なんでもない」
何を隠しているのか知らないが、言うべき時がきたら自分から言ってくれるだろう。
(ここで追求する必要はない、かな)
今は黙って、星の煌めきと手の温もりを堪能しよう。
(本当、贅沢な時間の使い方だな)
流れる風の音と共に、夜は更けていった。