「お?」
綱手姫が居ると聞く街へと移動する途中、その街の近くで丸々と太った豚を発見した。マダオと視線に合図を送ると、同じことを思っていたようだ。
「まだ気づかれてない………ていうか美味しそうだね」
マダオと顔を見合わせ、頷き合う。そして、素早く捕獲した。
「ブキー!?」
何故か今晩のメインスープは忍犬並に動きが鋭かったが、マダオと俺にとってはなんてことない。飛ばない豚はただの以下略。まあ、ほんとに飛ばれてもそれはそれで困るんだが。がっしと二人がかりで捕まえ、素早く紐で縛り付ける。
「あらこんな所に豚肉が~」
「豚骨、ラーメンあったかなー」
歌いながら、暴れる豚の4足を木の枝にくくりつける。そして肩に担ぎながら、はいほーはいほーとはしゃぎ街に入っていく。
「今夜は豚肉だ!」
「やったね!」
喜ぶ俺とマダオ。ハイタッチを交わす。
「塩で丸焼きがいいかなー、しょうゆで味付けするのもいいよねー」
「馬鹿野郎、ここはチャーシューの一択で。骨は豚骨に」
くくく、骨の髄までしゃぶりつくしてくれる。文字通り。麺とあと具を買って、即席ラーメンを作ろう。
「旨そうじゃの!」
笑いながら豚を見るキューちゃん。よだれ拭いて、よだれ。そして何故か震え出す豚。
「ふむ、しかしその豚どこかで見たような………」
自来也が首を傾げる。だが、豚と思い出せないといった風に、首を振る。
「言われて見れば、僕も見覚えが………それに何か、服着てますね。腹にサラシ巻いてるし」
マダオが首を傾げて、考え込む。だが、「ま、いっか」と結論づけ、先を歩く二人についていく。
だが、街の入り口付近に来た時だった。
「ちょーーーーーー!?」
何故だが、黒髪の女性がこっちを指さして叫んでいる。その女性は豚を確認し、担いでいるこちらを睨んだ後、“手練か”とか呟いて。
何故か上忍に匹敵する速度で襲いかかってきた。だが、それで大人しくやられる馬鹿二人ではなかった。
「甘い!」
木の葉瞬身。襲撃者の攻撃を避ける。そしてマダオと俺は豚を抱えたまま、屋根の上へと逃れた。
「何処の誰かは知らないが、俺たちの夕飯は奪わせな…………い……?」
勝ち誇るように胸を張って言葉を発したが、泣きそうな顔をしている襲撃者の顔を確認した途端、硬直した。
「あれ?」
全身から薄幸さがにじみ出ている顔と――――
「ちっぱい?」
思わず声に出してしまいました。
「お、シズネか?」
自来也がシズネ女史を見て驚いていた。その本人は、何故だが俯きながら、肩を震わしていますが。
「取りあえず、言いたいことは色々とありますけど………」
途端、シズネ女史の全身から、黒いチャクラが溢れ出す。怒れる鬼の背後には、棍棒を持ったパンチパーマの赤鬼が映っていた。
「チャ、チャクラが具現化するだとぉ!?」
お約束ですので、取りあえず言ってみますた。そして、チャクラが高まりきった瞬間、シズネ女史が叫びます。
「………誰が行かず後家シスターズの貧乳の方ですかーーーーーーーー!!」
「そこまでは言ってねえーーーーーー!?」
魂の叫びと共に、毒針の嵐が吹き荒れました。
「あー、死ぬかと思った………」
何とか逃げ切りましたが。いや、多分ですがあれ、当たると即死級の毒でした。色が何て言うかこう、虹色でしたし。当たるとパラレルな西遊記の世界に誘われそうだった。
「あー…………これはどういう状況だ? 自来也」
そこに、背中賭一文字のおぱーいが現れた。前に会った時も思ったけど、相変わらずの若作り。年齢不詳の綱手姫(51)。変化を駆使して、借りた金を誤魔化してるそうだ。
………きたないさすが忍者きたない。
ちなみに『忍者』を『三忍』に入れ替えると、説得力は3倍になります。大事なのでここテストに出ます。
「人のこと言えるの?」
「いや、正直あまり………」
言い訳できえね。でも逃げるためじゃん、仕方ないじゃん。怪人ストーカー集団に狙われてるし。ほぼ全員、大蛇○クラスの力量持ってるし。
「そうだったね………」
遠い目をするマダオ。大蛇丸×9という事実を改めて認識してしまったらしい。
しかし、別の意味で嫌な絵面だな。
「いや、でも流石に大蛇丸ほどでは………」
一部、大蛇○に匹敵する程のキワモノはいるが………イタチとか、あのあたりは人格的にはまともだろう。まあ、てめえらなめとんのか、と言いたくなる程に強いので、見つかってはいけないという意味では変わらないが。
と、視線を綱手の方に戻す。対する自来也は何か戸惑っていた。
「いや、のお」
二人とも、も、何か話しづらそうな雰囲気。そりゃあねえ。シズネさん、隅っこの方で1人で三角座りしているし。それはもう盛大に落ち込んでいた。豚に前足で慰められてるけど、処置なしのようだ。いや、正直すまんかった。
10数分後、居酒屋に移動してシズネさんを励ます会を開いた。宴もたけなわの頃、場の勢いにおもいっきり流されてた我が妹がシズネ女史の慰めに入った。
「大丈夫ですって! ほらシズネさんすごい綺麗だし!」
「ほんとうですか?」
ぐしぐしと泣きながら、こっちを見るシズネ女史。いや、正直すまんかった。ということでフォローに入った。良心がずきずきと痛んでますので。
「大丈夫ですって! シズネさん若いし、綺麗だし、気だてもよさそうだし!」
「………いやあ、それほどでもないですよ………」
まくしたてる言葉に照れ始めるシズネさん。めちゃめちゃ耐性無いな、おい。ほんとに出会いも何も無かったのか。こういう美辞麗句を言われた経験もないのか………あ、ちょっと涙が。
「28なんて、まだまだですよ!というか、これからですよ!シズネさん程の美人なら、絶対にいいひとが見つかりますって!」
「ほんとう!?」
俺の言葉に喜ぶシズネ女史。はい、頑張ればきっと。というか、今までが今までだったんで、木の葉隠れの里に帰ればいい人が見つかる…………かも。
「ちなみに私はどうだ?」
笑顔で聞く、綱手姫。
「いや、それ無理」
こっちも笑顔で答える。途端、強烈なプレッシャーを感じたと思うと、次の瞬間、俺は建物の外まで吹き飛ばされた。
「春原さーん!?」
叫ぶキリハ。
「………何をするんですか、綱手さん」
腕をさすりながら、店の中に戻ってきて一言。アブねーアブねー、ガードしなきゃ死んでたぜ今の拳。
「いや、つい」
てへ、と言いながら頭をかく姫(笑)。というか、ついで人を撲殺するのかあんたは。いや、間違いなく加減してたんだろうけど。でも一般人なら粉砕されてるよ、今の拳。
おほん、と咳をする綱手姫。笑顔で、再度質問を重ねてきた。。
「もう一度聞こう………私は?」
「51歳はちょっと………」
唸る閃光。吹き飛ぶ俺。
「春原さーん!?」
叫ぶ以下略。そして、帰ってきた俺に向かって、綱手姫は満面の笑顔でおっしゃった。
拳に浮かぶ青筋は無視することにしよう。怖いし
「これが、最後だ…………私は?」
どんよりと光る綱手姫の目。頬が赤いのは酔ってるからだろう。
でも、流石にここは言葉を選んだ方がいいか。所詮、この身はしがないラーメン屋。三忍の相手は無理ですたい。というか、相手したくないですたい。
ということで、ばっさりと一言。
「博奕狂の年齢詐称=サンはちょっと」
綱手から、膨大な量のチャクラが吹き上がり、腕に集中される。だが、そのチャクラによる怪力が発揮される前に、言葉を紡いだ。
「――――って自来也様がおっしゃっておりました」
「ぶほっ!?」
1人静観していたエロ仙人が、飲んでいた酒を吹き出します。
「自来也?」
笑顔の綱手姫。
「ワ、ワシは言っとらんぞ!?」
必死で弁解するも、無駄でした。怒れる乙女に慈悲の心はありません。
「ネギ、貴様………謀ったな!?」
「いや、ね………」
小声で囁いた。俺の正体を探り当てたあなたが悪いんですよ、と。がびーん、とショックを受ける自来也。古い?いや、だってエロ仙人だし。
恐怖に震える自来也。だが、そのまま殺られるつもりもないらしい。死の運命と戦う姿勢を見せて一言。
「だが、ワシも男だひでぶ!?」
怒れる綱手を前に男らしく立ち上がったけど、怪力の拳が自来也の腹部を直撃した。チャクラと体術で衝撃は殺してるようですが、あれはめっちゃ痛いな。そして綱手姫は、うずくまる自来也の襟元を掴み、勢いよく前後に振り始めた。
「私だってなあ、私だってなあ!」
襟元を締められ振り回され、蟹のように泡をふいているエロ仙人。
ここに、新たな英霊が1人生まれた。自来也様、あなたの事は忘れない。
「死んど………らん………わ………」
ちっ、大丈夫そうだな。取りあえず、あっちは無視しておこう。見てても面白くないし。こっちの綺麗所の方が良い。
「あ、これ美味しいですねー、シズネさん………ってキューちゃん、どんだけ食べてるの!?」
皿を山積みにして色々と食べてるキューちゃんに、キリハがマジで驚いてた。
「………ん、呼んだか?」
「いや………ああ、もう、口の横を拭いてって」
そりゃ、昔は作法も何もなかったのかもしれないけど。
「だが、それがいい」
「おい、マダオ!」
怒りの声を浴びせます。
「――――ありがとう」
そしてお礼。今の怒りは自分に向けてだ。そう、マダオの言うとおり、口の端を汚さずに食べるキューちゃんなど、キューちゃんじゃねえ!
………でも、
「横で豚のトントン君が震えてるのはなんで?」
「ん? ………さっき、裏でちょっとお話をしただけじゃが」
それが何か?と首を傾げるキューちゃん。今はその可愛さが逆に怖え。
「………可愛い娘ですね。妹ですか?」
「いや、恋人じゃ」
「キューちゃん!?」
「やっぱり春原さんそっちの人!?」
「だから違うって!」
「え、僕とのグフォア!?」
先制攻撃!マダオは死んだ。
「やっぱり、私は年なんだ………」
「違いますって!」
「ダンはなあ、縄樹はなあ!」
「死ぬ………死んでしまう………」
そうして、場がいよいよ混沌に染まりきった時だった。
「あの………お客様方、ちょっと………」
「「「え?」」」
そこには、額に青筋を浮かべた店長さんがいた。
騒いだ結果、店の外にたたき出された。二度とクルナと念を押されたけど、邪神みたいな睨み付けに、俺たち全員が硬直しながらも頷いた。逆らえないって。まあ、かなり迷惑だったしなあ。悪魔みたいな客に対しては、店長も邪神になるか。
「ま、仕方ないねえ」
「誰のせいだと思っとるんじゃ」
半眼でエロ仙人が睨んできますが、無視した。平穏を奪った罪は重いのだ。おかしい………とか、思ってたのと違う………とか、そういえば昔ミナト、というかクシナも………とか。色々と呟いていますが、ガン無視だ。
(…………っと)
「ほら、話しあるんでしょう?」
と言いながら、視線で合図します。
「ああ、分かった」
一瞬の合図。自来也は反応を返し、頷きながら綱手に話しがある、と言い出した。ついていくキリハとシズネ。それを見送った後、背伸びをしながら、マダオとキューちゃんに視線で合図を送った。
二人は笑って頷き、俺も頷きを返した。
「さて、と――――食後の運動と行きますか」
と勇んで行ったはいいものの。
「この先は行けないか………」
監視であろうこちらを見張っていた音の忍びを追っていった先。とある宿の中に、大蛇○と眼鏡君の姿があった。
「深追いは禁物、か」
あの様子から察するに、すでに綱手とはコンタクト済みだろう。
(ここは………うん、邪魔するのは駄目だな)
火影の事や戦うことなど、綱手には未だ迷いがあると見た。それらを断ち切るためにも、大蛇○との戦闘は必要になる。
あわよくば、大蛇○護衛の音忍の戦力を削って起きたい所だが、それも無理。気づかれると、事態がどういった方向に転がるか予測できない。五代目火影の誕生は、できるだけ早いほうがいいしな。
恐らくは、自来也とキリハが火影襲名要請について話している筈だ。火影を尊敬するキリハにとって、迷っている綱手の言葉は許容できないものがあるだろう。
(殴り合いでしか、分からない事もある)
迷いを断ち切るためにも、一度本気でぶつかるしかないだろう。女性同士、何か間違っている部分があると思うのだが。
(まあ、すっこんでろと言われるわなあ)
まあ、意地の張り合いを邪魔する気はない。静観しておこう。
「ちいーっす、戻りました」
肩を落とし歩いている自来也の元に駆け寄った。
「………戻ったか。音の忍びは?」
「いや、追いついたんですけどね」
町中でおっぱじめる訳にもいかんですし、と肩をすくめる俺に、エロ仙人は仕方ないの、と呟く。
「んーなんか、暗いですねえ。何か言われました?」
「実は、の」
先ほど、綱手と交わした言葉の内容が語られる。三代目の死。五代目火影の要請。それを断る綱手。年甲斐も無く~とか、火影になる奴は馬鹿だ~という言葉を聞いたキリハが、切れたらしい。
ぷつん、という音を聞いたとかなんとか。
「見たこともない程の怒りっぷりだな………」
頭から湯気が出ている。怒り心頭だけど、なんかキューちゃんとは別方向に可愛い。
「当たり前です!」
激昂するキリハ。ってかやべえ、ネジの時よりも怒ってる。そりゃそうだよな、三代目と四代目、親しい人の両方を貶されたらそうなるか。
「それで、勝負ですか………勝算は?」
「意地と努力でカバーします!」
ふんす、と気合をいれた拳を自分の手のひらに打ち付けるキリハ。無駄に男前だ。
「いや、そこでだのう。お主に頼みたい事があるのだが………」
「は?」
いや、ちょっと待て。この会話の流れは不味い。
「お主も、螺旋丸は使えるだろう? 少し、キリハの修行を見てやってくれんか」
「「え?」」
互いに、驚きの表情を浮かべながら、顔を見合わせる。驚く点は互いに違う。だが、その直後。
「「はぁ!?」」
俺とキリハの驚く声は重なり、青い空の下響き渡った。