小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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22話 : 木の葉崩し(4)

 

 

狸さんの返答は、風遁・練空弾の術でした。

 

「危ねえっ!?」

 

迫り来る巨大な風の砲弾。足をチャクラで強化して速度を上げ、何とか避ける。

 

「………あ、そう!回答は2だな!?それでいいんだな!?」

 

「フザゲルナアアアァァァ!」

 

「ふざけてんのは手前の方だろうが!」

 

激昂した守鶴が砂を操って捕らえようとしてくるが、無駄だ。というか捕まったらぺしゃんだし、それは嫌だ。

 

 

「それじゃあ………派手にいきますよっと!」

 

 

集まってきた砂を、四方八方にばらまいた起爆札付き手裏剣を放つ。砂に触れると同時に盛大に爆発するよう調整してある。念入りに仕込んだ起爆札だ。その威力は、通常のものとは比較にならない。

 

「アマイワァ!」

 

と、今度は超巨大な砂の槍が、地面から隆起する。

 

「大玉・螺旋丸!」

 

迫り来る砂の暴流を、十倍まで膨らませた螺旋丸で打ち砕く。

流石の威力で、砂の槍は次々に砕かれていった。

 

 

「どうしたあ!?デカブツ!てめえの方こそこんなもんかあ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ うちはサスケ~

 

 

 

走り続けて、数分。あの化け物から、大分離れることができた。後方から聞こえた地鳴り、あいつがいる方向だ。振り返ると、巨大な化け物の姿と。

 

「あいつは………」

 

丘の上に悠然と立ち、巨大な化け物を真っ向から睨み付ける、金髪の忍の姿があった。

 

「誰だ………?」

 

呟きながらも、足は止めない。なにやら、嫌な予感がするからだ。さらに走り続けて数分。

 

「サスケ!」

 

「………キバか。それに、シカマルとヒナタも」

 

肩に担いだキリハをそっと地面に降ろし、膝をつく。

 

「サスケ、キリハは気絶しているだけか?怪我は?」

 

「衝撃と痛みで気絶しているだけだ。命に別状は無いと思うが、一応、医療忍者に見せた方がいい」

 

「ああ………それで、あれは何だ?」

 

「あの化け物は………恐らくは我愛羅だろう。砂を纏っているからな」

 

「………あの、戦っている人は?」

 

「いや、分からねえ。名前を聞いても名乗らなかった………!?」

 

地鳴りが、辺りに響き渡る。遠くで、木が吹き飛ぶのが見えた。あれは風遁か。風で出来た砲弾だろうか、威力が桁違いだ。

 

「何て戦いをしやがる、まるで嵐だぜ………!」

 

「………今は退くぞ。俺等がここにいても、あの化け物相手に出来ることなんかねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 九那実 ~

 

 

遠い昔でしかあり得なかった、自分より圧倒的に大きな敵。否、このような敵と対峙するのはただの狐であった頃でも無かったことだ。

 

友も居らず、ただ一人。9つにわかれた尾を見ながら、九那実と名乗ろうと決めた日の事を思い出す。

 

それさえも些事だった。今、大事なのは目の前の事だ。

覚醒した尾獣を前に吠える馬鹿をみて、戦う馬鹿を見て、考える。

 

(何のために? こいつは何のためにこのような強敵と戦うのだろう)

 

人の身で戦うならば、守鶴は強敵だ。ワシら尾獣のような巨大な体躯を持たないのであれば、あの砂の攻撃は厄介も極まるだろうに。

 

昨夜に重ねた問答を、頭の中で反芻する。

 

『これは、俺の戦いだからさ。それに、キューちゃんにはチャクラ借りてるし、それで十分だよ』

 

馬鹿は言った。違うだろう。ワシは覚えている。“俺は強くなんてない。力があるから強い、なんてのは違うと思う”と零していたこいつの背中を。力はあっても、殺し合いは怖いらしい。

 

『それに、力はすぐに裏切るから』

 

それは、確かにそうかもしれない。一瞬の油断で、生と死が入れ替わる。どれだけ鍛えても、その力で人の心を動かせようもない。

 

力は万能ではない。逆に巨大過ぎる力を持てば人に疎まれる事もある。頷いた。それはよく知っている。

 

ならば、何故鍛える。何故、力を持とうとする。その問いに、馬鹿は何でもないように答えた。

 

『力は所詮、手段に過ぎないよ。これみよがしに振るわなければ逆に持っていた方がいい類のものだと思う。俺のような境遇だと、特にね。それに、話しを聞こうとしないきかん坊には、必要なものだから』

 

力が欲しいのではなく、死なないために。自分の身を守るために必要だから、と言う程度。だから人柱力についても役割程度で、どうでもいいと言う。大事なものは其処にはないといった風に、馬鹿は馬鹿の論理を説いた。

 

それを否定はしない。だが、それを聞いているから思う。この状況は矛盾していると。

 

怖いと言ったお主が、なぜ守鶴と戦う。そんな義理はないだろうに。

 

『うーん、義理ならあるよ。ある程度はね。でも、それだけじゃない』

 

何?

 

『気にくわないんだ。親が息子を兵器にしようとするのも、不安定だから殺そうとするのも、怯えた子供が力に縋り付いたままなのも………人柱力の運命とやらをそのまま体現してる境遇、そして、あの目も。それを利用しようとする、砂隠れの里の意志も、何もかも。ラーメンは好きで、夢だ。でもこれを置いたままじゃ、きっと気になって専念できない』

 

それは、同情か。問いかけには、否定が返ってきた。

 

『俺の勝手な我が儘。そして俺としての意地だね。だから、痛みも何もかも、俺が引き受けるから。そいつが責任ってやつだよ』

 

正気か?ワシは九尾だぞ。最強の妖魔だぞ?

 

『今は、キューちゃんだね』

 

その言葉に、確信した。こいつは馬鹿だ。しかも、底なしの。ワシを九尾として見ていないのだ。いや、九尾としても見ているのだろう。だが、それはおまけで、本質的にはただ1人の個として、見ている。

 

それを理解した時、世界が逆転したかのような錯覚に陥った。

 

陰のチャクラが封印された今。ワタシを個と扱い、個として接する馬鹿を、どうして殺せる筈もあろうか。それに、一緒にいても面白い。

 

偽善を振りかざす訳でもなく、運命など知ったことかと自分のしたい事をする。それがラーメンなのだろう。人にはそれぞれ誇るべきものがあると聞いた。大切なものがあると聞いた。

 

こいつにとっては、ラーメンと、ラーメンによってもたらされる笑顔が、何よりも大切なのだろう。

 

(なるほど、『九尾の人柱力』はついでだな)

 

苦笑する。こいつは『うずまきナルト』であって。

そしてどこまでも『小池メンマ』であろうとするのだ。

 

ならば、応援するしかあるまい。馬鹿だから、理解してはもらえないだろう。それでも長い間一緒にすごしてきた、1人の友としては理解してやらなければ。

 

 

どこかの誰かの理屈などしらない。

 

ただ1人の女として。死の恐怖を前にした上で、こうと決めた意地を通そうとする馬鹿な男の背を押したいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 小池メンマ ~

 

 

「来た」

 

呟く。風の砲弾と、砂の槍を避け続けて数分。ついに、最大の難術を使ってきた。

 

――――守鶴が使う攻撃方法で、口寄せを使わない今の自分にとって、最も恐ろしいものは何か。それは、練空弾でもなく、砂の槍でもなく、巨体でもない。

 

「まるで津波だな………!」

 

恐れていた術――――秘術・流砂瀑流。津波のような砂が、俺を押しつぶそうとしてくるのは、圧巻の一言だった。

 

避けようにも、範囲が広すぎて無理。螺旋丸だけでは、効果範囲が狭すぎて足りない。特製の起爆札でも、砂の津波の大質量では、威力が足りない。

 

だからこその新術だ。螺旋丸のバリエーション。準備はしていた、成功すれば抜け出せる筈だ。

 

それでも身体は震えていた。チャクラを上手く練れない。途轍もない大質量の砂の波が迫るのを見て、内側から本能的な恐怖がこみあげてきたからか。

 

だが、その恐怖は内側から発せられた、キューちゃんの一言でかき消された。

 

『ナルトよ! 小池メンマと名乗る貴様よ! 人としてのその身、宿る意地を通そうというのなら、ただ押し通せ!』

 

叫ぶ。キューちゃんが叫ぶ。

 

『馬鹿は、馬鹿らしく!一発、ガツンと、蹴散らしてやれえ!』

 

キューちゃんの声。その中に篭められた気持ちを受け取ると、身体の震えは止まった。それは、歓喜。見てくれている。1人の女性が、見てくれている。

 

なら、男は格好つけるしかないよなあ!

 

『手は綺麗に、心は熱く、頭は冷静に、だよ』

 

マダオはマダオらしく、ネタであっても分かりやすい的確なアドバイスをくれる。

ふざけては居ても、締めるところは締めるマダオ。あんがとよ。

 

 

「応!」

 

 

声を撃鉄として、チャクラを練る。

身体が動くようになった。恐怖に、戦意に、心が熱くなる。

 

――――だが、頭は冷静に。ただ成すべき事を成すと、馬鹿の最善を、馬鹿の意地をここから貫き、押し通す!

 

 

下ごしらえは、影分身。4体の影分身を本体の俺の前方に配置し、一点に手を向けさせた。

 

 

「「「「アイン!」」」」

 

 

影分身が作り出すは、大玉の螺旋丸。密度は普通より若干薄めで、その場に留める。

 

 

「―――ツヴァイ!」

 

 

そこに、本体である俺が、突っ込む。両手に、超大玉かつ超高密度の螺旋丸を携えて。

 

 

 

「「「「「ドライ!」」」」」

 

 

 

5人の螺旋を一つに合わせ。指向性を前方に。五重に重ねられた螺旋の大玉が、世界を引き裂かんとばかりに荒れ狂う。

 

 

「麺・元・突・破!」

 

 

だけど俺は、手が傷つくのも構わず、その反発する螺旋の巨塊を!

 

助走の勢いのまま、前方へと押して押して、押し通す!

 

 

 

 

 

「螺旋砲弾!」

 

 

 

 

 

天をも貫く螺旋の瀑龍が、目の前にある全ての障害物を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

守鶴が砂の津波を被せ、これならば逃げられまいと嗤った直後だった。本能が危険を感じ取ったのか、守鶴が両腕を前に突き出した。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!?」

 

だが、津波の向こうから発せられた風の暴流は、天を覆う砂の津波を吹き飛ばし、前に出された、山ほどにある巨大な砂の腕をも貫いた。そして、守鶴がその風余波を受けて、倒れる。

 

 

「おらあああああああああ!」

 

 

砂煙の向こうから、馬鹿が突っ込んだ。助走を付けて、影分身を踏み台にして、大跳躍。守鶴の所に向けて、愚直なまでの一直線。

 

 

「ツブレロ!」

 

 

空中にいる馬鹿を潰そうと、前方を覆い、そして死角である背後から砂の塊を放つ。だが、その砂の塊も届かない。

 

 

「派手にいきますよっとぉ!」

 

後方にある砂は全て、馬鹿が大量にばらまいた起爆札に吹き飛ばされた。そして前方の砂は、莫大な量のチャクラが篭められた、ただの掌打に吹き飛ばされる。

 

馬鹿は走った。起爆札の爆風を背に受けた勢いのまま、着地後も転がり、勢いを殺さないように疾走を始める。

 

倒れた守鶴の上を全力で疾走し、ただ一直線に我愛羅の所へと向かいながら叫ぶ。

 

 

「だらっしゃああああああああああああああああ!」

 

 

「っ、ハヤい!?」

 

 

捕まえようにも、砂が追いつかない。前に展開した砂は、そのことごとくが逸らされ、打ち砕かれ、届かない。

 

止まらない。止められない。そう悟った守鶴は、即座に憑代である我愛羅の前に砂の壁を展開する。だが、突進は止まらない。

 

 

「それがどうしたああぁっっ!」

 

 

 

走る勢いのまま繰り出されたラリアットは、その砂の壁をも打ち砕いて。

 

 

 

 

「目え覚ませえええええええええぇぇぇぇ!」

 

 

 

 

 

本体である我愛羅の顔面を真正面からぶっとばした。

 

 

 

 

 

 


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