4試合目油女シノ 対 カンクロウ
「俺は・・・棄権する!」
だったけど、いきなりのカンクロウ氏の棄権発言。いやいやめっちゃ怪しいですがな。ほら、横のテマリも怪しんでるし、って。
『え………何で怪しんでるんだろ。予定通りならおかしいよね』
そうだ。もしかして、木の葉崩しの事を知らされてない?
『分からないけど、どういう事だろう』
情報が足りないな。まあ、ここで考えても分からんか。それよりも、次だ。
シカマルはシードなので、一回戦は試合がない。ということは、だ。
我愛羅 対 うちはサスケ
出番が来たとたん、やってきました。木の葉を携えて。出待ちか、おうい。でもあれ、盛大に遅刻した人がやることじゃないよね。
『………』
もう言葉もないマダオさん。さて、そろそろ用意しときますか。
試合は、原作通りの展開。修行の成果を見せるサスケ。速さに翻弄され、守勢に回る我愛羅。そして、場面は決定的なものに。壁に立つサスケと、砂玉子に引きこもる我愛羅の姿が。
(………って、ここで覚醒するつもりかよおい!?)
まさか、俺もまとめて此処で相手してヤルゥアー!とか思ってるんじゃ。流石にここでは相手できんぞ!
焦る俺を尻目に、サスケ君が千鳥を放った。
「いけいけ、サスケ!ゴーゴー、サスケ!」
かつてない程にサスケ君を応援する。その応援の声があったお陰か、千鳥が炸裂。
破られる殻。そして、出てくる守鶴の腕。
飛び降りるテマリとキバとカンクロウ。何やら、テマリがキバとカンクロウに言っているようだ。
(『どういうことだ』だって?テマリは知らんのか)
キバがなにがしか言い終えた後、我愛羅がテマリに連れられて試合会場から出て行く。
ということは、だ。
『来るよ』
「――――イッツ・ア・ショウ・タイムってか?」
涅槃精舎の術。会場に幻術で映された白い羽が舞い踊った。
羽の動きに捕らえられた幾人かが、夢の中へと旅立っていく。
でも、俺には効かない。人柱力の特権だ。キューちゃんと完全に共生しているので、幻術にかかってたとしても一瞬で元の状態に戻る。
(始まる、か)
3代目がいる展覧場から、煙幕が上がった。その少し後、屋上へと飛び上がる火影と風影。それを追って、四人集も屋上へと辿り着く、そして、四紫炎陣で結界を―――って。
「はあっ!?」
あり得ない四人集の顔ぶれを見て、思わず叫んだ。
「何で、ここに、君麻呂が来てんの?」
病気じゃなかったのか!ホネホネの実の能力者!
(………これも、考えても仕方ないか。イレギュラーばっかりだなクソ)
俺自体もイレギュラーか。まあ、これは仕方ないのかもしれないが、予測が外れるのは心臓に悪い。
それに、極めつけは――――と、クナイを懐から取り出す。
「甘い」
そして背中に向けて投擲された、クスリメガネの千本の一撃を弾いた。
「………やっぱりね。君だったか」
カブトか。なんで―――ーって、君麻呂って名前が出たらそりゃ怪しむわな。
『呟き、聞こえてたようだね』
流石に迂闊だったか。5秒前の自分を殴ってやりたい。
『ん………我愛羅追って、キリちゃん達いっちゃったね』
カカシとガイのいる方向を見る。下忍の幾人かが、試合会場から外へ、我愛羅を追って出て行った。
(サスケ、シノ………続いて、忍犬(名前忘れた)、キリハとサクラとシカマルか。でも、あいつらを追うその前に)
「まずはこのメガネを何とかするか」
宣言しながら構える。俺の後を追ってこられても厄介だから。
「この僕を前に、自信満々だね。時間がないし、君が何者か率直に聞くよ?」
メガネ君は、試合会場内で繰り広げられている修羅場を横目で見ながら、聞いてくる。
(ま、聞かれても答えないけど)
「大蛇丸様と互角にやりあったという――――ロジャー・サスケの、手の者だね?」
「グホッ!」
思いも寄らない名前に、咳き込む。真面目な顔なのでツボに入った。
『そんな反応したらダメだよ。知り合いだってバレバレじゃないか』
(いや、急だったから!ていうか真面目な顔して言われると、そんなもんいくらなんでも吹きだすわ!)
あー、といいながら、顔の前で手をパタパタと横に振る。
「………違うでゲスよ?」
「もの凄い白々しいよ? それに今、一尾の人柱力の方を見ていたね。思った通りだ。やはり、君は―――」
(やはり君は?)
「『暁』の手の者だね?」
「断じて違うわっ! あんな万国吃驚人間衆と一緒にすんなっ! 不名誉な!」
『………ダウト』
(しまった!)
「万国吃驚人間衆、不名誉………」
とメガネ君は屋根の上の方を見る。俺も見る。蛇を見る。二人で見る。
そして思い出す。あの集団の面々を。
二人静かに、そして深く頷いた。
「………まあ………き、気を取り直して。その物言い、『暁』の事を知ってるのは知っているんだね?」
咳をしながら、仕切り直しとメガネが真面目な顔をする。
「イエス!イエス!イエス!」
もう自棄だ。どうせ戦るしかないなら、早いほうがいい。これ以上時間取られると我愛羅を追っていった下忍達が危ない。
もう、こんなイレギュラーだらけの状態では、何が起こるか分からんし。
と、いうことで一刻も早く目の前のメガネ君を倒さなければならない。話の途中で、俺は殴りかかった。やや相手の意識を外しての一撃、ただの上忍ならば十分すぎる拳打、それでも。
「甘いっ!」
届かない。掌打はメガネ君の脇腹をかすめただけだった。ちっ、このメガネ慎重になってるな。もしかして、俺の事をを格上の相手と見ているのか。
いくつか攻防を交わしている内に分かった。油断がない上に、基本的には守勢に回っている。それに、確かこいつは自動回復っぽい術を使っている筈だ。
(拙いな。かなり時間がかかりそうだ)
時間稼ぎにはもってこいの戦術だ。かといって、こんな場所できゅうびのチャクラは使えない。ここはまだ試合会場の中。いくらなんでも目立ちすぎてしまう。螺旋丸も同じ。ばれますがな。
「今、一尾を奪わせるわけにもいかない。時間稼ぎをさせてもらうよ」
「誤解だっつーの!」
もう、言葉は意味を成さない。
俺は叫びながら、メガネ君に殴りかかった。
「キリハ!」
「うん、このまま追う!」
サクラちゃんの声に答えながら、パックンに尋ねた。
「パックン、サスケ君はどっちの方角へ行ったの?」
「あっちじゃ!」
スリーマンセル+1で、我愛羅って子を追いかけていったサスケ君を追いかける。
「絶対に、追いつく前に止めなきゃいけない。あれは、今の私達が策も無しに勝てる相手じゃない!」
先ほど、試合会場で見た禍々しい形をした砂の腕を思い出す。
「どういうこと、キリハ!何か知ってるの?」
「うん、サクラちゃん。あれ、きっと人柱力ってやつだと思う」
「………人柱力?」
初めて耳にする単語に、シカマル君とサクラちゃんが首を傾げる。
「………シカマル君。10年前、私達が生まれた頃に起きた、事件のこと知ってるでしょ?」
「当たり前だろ。九尾の妖狐が里を襲った事件だ。けど、それと何の関係が………」
とシカマル君の言動が止まる。人柱力という言葉と、今の私の言葉から色々と推測しているのだろう。
「九尾の妖狐はお父さんに、四代目火影に封印されたって伝えられているよね?」
「キリハ殿!?それは「黙ってて」」
パックンの言葉を途中で遮る。
「敵を追っている今、伝えなくちゃいけない。話すべき情報でしょう。敵の情報にもつながるんだから」
「そう、いう、ことか………ちっ、胸くそわりーな!」
流石にシカマル君だ。今の言葉だけで答えに辿り着いた。あまり、私も口に出したくないから、助かる。
「人柱、そして、会場で見せたあの異形。そこから推測するに………人柱力ってのは妖魔を宿した忍者って所か。でも、何でキリハはその事を知ってるんだ?」
キリハが四代目の娘ってことだけじゃないだろう、と言外にシカマルは訪ねる。
「兄さんが、ね」
「兄ぃ? 初耳だぞ、キリハに兄がいたとか」
「あの時、大蛇丸って人………『キリハのお兄さんは木の葉の暗部に殺された』っていってたよね」
サクラちゃんの口から出た新しい単語に、シカマル君が立ち止まる。そして、虚空を見上げたあと、何かに気づいたような表情を浮かべる。
「おいおいおいおいおい、まじかよ、くそっ………時々見せてた、キリハを見る親父達の目は………そういう訳か!」
珍しく激昂するシカマル君は叫びながら、地面を叩いた。
「シカマル君、きづいてたんだ………シカクさんの事とか」
「何となく、だけどな………わりい。叫びたいのはむしろキリハの方だよな」
「ううん、ありがとう」
そうやって怒ってくれる所とか好きだよ、と私が笑いかけると、シカマル君は何故かそっぽを向いた。
(どうしたんだろう、頬を赤く染めて)
「あー、話を戻すと、だ」
ごほんと咳をするシカマル君。複雑な表情をしながらも、呆れた顔をしているサクラちゃん。
「いいよ。今考える事はあの我愛羅って子の事だから」
「ああ。つまりは、だ。九尾ほどとは行かなくても、それに準ずる力を持ってるって訳だな。そりゃ俺達じゃ勝てねーわ」
「と言うことはサスケ君見つけた後は一目散ね。でも、状況次第では仕掛ける事も頭に入れておいた方が良いんじゃない?」
「ほっとくわけにもいかんだろーしな。と、その前に、だ」
「気づいておったか。追手がきとるぞ。後方に5、6人か。音か砂じゃな」
「次から次へと厄介な」
頭を抱えるシカマル君。
「少なくとも中忍クラス。しかも音の忍者となると、ここらの地形にも詳しいか………撒けないな、こりゃ」
大蛇丸の配下だし、事前に予習は済んでいると考えるべきだ。
「対するこっちは、ここいらの地形は詳しくない。待ち伏せは使えないわね」
「ああ。誰かが残って足止めをするのが最善だろうな」
「………私が「言うなって」」
シカマル君ははっきりと、私の言葉を遮った。
「分かってんだろ? 陽動に向いてるのが誰か、足止めできそうなのは誰か、試合をしていなくてチャクラがまだまだあるのは誰なのか」
「うん、でも………それは」
「キリハ、お前が優しいのは分かるけどよ。今ここでのその判断は、優しさじゃねーぞ。ああ、泣きそうな顔するなって」
「シカマル………やれるの?」
「大丈夫だ。俺は臆病者だからよ。ちょっと足止めしたら直ぐに逃げっから。だからキリハとサスケの方頼むぞ」
「ええ」
「………うん」
「小僧………最悪は降伏して助けを待て。生命を無駄に投げ捨てるな」
「いざとなったらそうするさ――――それじゃあな」
3人で拳をこつんとぶつける。シカマル君は立ち止まり、地面に降り立って後方へと振り返った。私とサクラちゃんは木の枝の上で、サスケ君が居る前方の方向を見る。
私とサクラちゃんは、半身だけ振り返って、シカマル君へと声をかける。
「またね、だよ………死なないでよ、絶対だよ?」
「ああ、約束でも何でもするさ」
シカマル君は振り返らず、片手だけあげて答えた。
「死なないでね、シカマル」
「死なねーよ。俺は、『死ぬ時には大勢の孫に囲まれながら』って決めてんだ」
そして、その手を横に振る。
「行け――――ここは俺に任せろ」
「「うん」」
あー面倒くせーことになったな。胸くそ悪い事を聞いちまったし。
(俺、1人か)
援軍が期待できそうな、同班の面々を思い出す。いのは怪我、アスマとチョウジはその付き添い。恐らくは怪我したいのを守るために、会場に残ってる。
援軍は絶望的、と見ていいだろう。下手に援軍に期待しても危険だ。
(助けはこない。なら、俺が何とかしなけりゃな)
仲間を守るために。ったく柄じゃねーっての、と呟き頭をかく。でも、逃げる訳にもいかねえだろ、と気を引き締める。
(男が女に任せろ、って言ったんだからよ)
一試合目。キリハが日向ネジ相手に言った、あの言葉。あの言葉を、そしてあの笑顔を曇らせないためにも。
(俺がここで死ぬわけにはいかねーよな………!)
約束を守らなければ泣くだろう幼馴染の顔を思い浮かべ、そんなのはゴメンだと却下し。俺は頭をフル回転させ、自分より強い敵に勝利する方法を考え始めた。