小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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18話 : 中忍選抜試験本戦・三試合目。二試合目? え、なにそれ

「骨でも肉でも、持っていけばいい。大切なのはそんなものじゃない」

 

 ~ 小池メンマのラーメン風雲伝 八百十 「海の幸の底力」より抜粋 ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次は第3試合目だ。

 

 

山中いの対テマリ。会場の中央には、金髪の少女が二人、軽い準備運動をしながら、睨み合っている。

 

「解説のマダオさん、この試合はどうでしょう?」

 

『遠距離ならテマリちゃん有利。あの風遁は上忍レベルに達しているといっても良いね。そして近距離でも………ま、それは見てのお楽しみだね』

 

「ああ………っと、始まるようだな」

 

聴力強化、っと。

 

「始め!」

 

審判が開始の言葉を告げ―――たと、ほぼ同時だった。いのが開幕ダッシュ。一気にテマリへと肉薄する。

 

予想はしていたのだろうが、その速度は想定の外だったようだ。テマリは迎撃の攻撃を放つ前に、懐に飛び込まれた。いのの拳がテマリの腕を打つ。

 

「ッチイ!」

 

テマリは拳打を受けるが、そのまま一歩後退して間合いを稼ぎ、カウンターの扇子を横薙ぎにする。伊達に風影の娘はやっていないということか、その動作は極めてスムーズだった。

 

「ふっ!」

 

だが、いのの方もさるもの。地面すれすれに伏せ、横薙ぎの一撃の下をかいくぐった。身体を起こすと同時、また間合いを詰める。

 

「ハアアッ!」

 

懐から取り出し、クナイで一撃。クナイの重量のせいか、さきほどの拳打よりは遅い。テマリには簡単に見切れる速度だったのだろう、扇子から手を放し、同じく腰に潜ませていたクナイを手に持っていのの一撃を受けとめた。

 

鍔迫り合いに似た押し引きならぬ攻防が始まる。これは、テマリが予選で見せた力に対抗するための、いのの戦術か。

 

遠距離ではまず勝ち目がない。あの大扇子から放たれる風に吹き飛ばされ、近づくことすらできないだろう。投擲武器も同じく、風か扇子に阻まれる。

 

つまり、遠距離では圧倒的に不利となるのだ。だからこその近接戦闘。開始直後に飛び込む。チャクラを込めた渾身の踏み込みで勝てる距離まで辿りつく。

 

あとは離れなければ良い。後退する間を与えず、隙を見て心転身の術をたたき込めば終わりだ。だが、いのにとって予想外のことがあったようだ。

 

拳打が、当たらない。蹴りも完全に防がれている。体術で、完全に上をいかれている。

 

思えば、あの大扇子を操るテマリだ。純粋な腕力でも、相当なものを持っているのだろう。その過程で、体術を鍛えない理由もない。

 

これでいのの勝ち目は無くなった――――かに見えたが、いのはまだ退かない。

彼我戦力差は明らかだ。ともすれば、扇子で至近から薙ぎ払われるだろう。

 

だが、いのは歯を食いしばりながらも、必死に喰らいついていた。

 

 

 

 

 

● ● ● ● 『山中いの』 ● ● ● ● ●

 

 

別に自分の事が強いだなんて思っていない。私にはキリハほどの才能はない。この女のように、任務で培った経験も少ない。

 

(それでも、負けられない理由があんのよ!)

 

またクナイを打ち込む。それもまた防がれるが、"それがどうした"。

 

「………お前………っ!」

 

ふん、しつこいって? それでもここは離れないわよ。

 

(あの人を探しに行くのよ………!こんなところで、負けられるかぁっ!)

 

腰を落とし、腕を引き、拳に力を込める。敵は私の気勢に圧されたのか、一歩下がりながら防御の腕を上げた。

 

そこに私は拳を叩き込む――――腕を途中で止めた。これは虚の動作、フェイントだ。見事に引っかかってくれた相手に、私は下段蹴りを放つ。狙いは膝の間接部。クリーンヒットすれば、機動性を大きく減じることができる一撃だ。

 

「グッ!?」

 

苦悶の声。しかし狙っていた部位ではなく、固い脛で受けられた。だけど私は構わず、蹴り足を引きながら逆足での上段の回し蹴りを放つ。

 

「木の葉旋風!」

 

顎先を狙った一撃。まともに当たれば脳震盪ぐらいは起こせるだろう。しかし小憎らしいことに、当たらない。当たる寸前に腕を間に挟まれた。

 

そのまま、蹴りの方向に相手は吹き飛び――――

 

(しまっ!)

 

否、跳んだのだ。その先にあるのは、さっき捨てた巨大な扇子。それを開かれたら終わりだ。間もなく風遁に吹き飛ばされてしまう。

 

(させるか!)

 

私は強引に蹴り足を地面に降ろし、チャクラで地面を弾き跳躍。扇子を拾った金髪の頭へと、飛び蹴りを敢行する。

 

(遅かった!?)

 

足は、開かれた扇子の表面で止められていた。そのまま、風遁を使うみたいだ。私はそのまま至近でやられれば終わると、蹴り足を踏み台に、力いっぱい後ろへと跳躍した。

 

「はあっ!」

 

宙に居る内に、カマイタチの術が放たれた。ある程度は離れたといえど、十分な射程範囲内だったようで、足、腕、肩の数カ所が切り裂かれるのを感じた。

 

鮮血が巻い、強い風になすすべもなく、まるで木の葉のように私は吹き飛ばされた。

 

「ぐっ!」

 

そして空中で回転して着地。

 

「………」

 

「離れたな………っ!」

 

また扇子を構え、またカマイタチの術を放ってくる。

 

(あれじゃあ、無理よね)

 

正面から突っ込めば今度こそやられるだろう。アスマ並、上忍にも匹敵しかねないその術の威力を見て、私は下がらざるをえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『距離を取られた………こりゃ、決まったかな。時間がたてば経つほど、傷を負って血を流しているいのちゃんの方が不利になるし』

 

「いや、分からんよ。いのの目はまだ死んでないぜ」

 

『ほう……あそこから、何かやるつもりか』

 

 

何かを狙っているようだ。タイミングを図っているのか、近づこうとするいの。

それを防ぎ、着実にダメージを与えていくテマリ。

 

開始から十分たった頃、いのの方はもう、ぼろぼろになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした?………降参、しないのか?これ以上やると命の保証はできないぞ」

 

「………降参はしない。あの人に胸を張って会えなくなりそうだから」

 

「随分と私的な理由だな………お前も、探している人がいるのか。奇遇だな。私もだ」

 

「へえ、あんたも? 参考までに聞くけど、どんな人?」

 

時間を稼がなければ。こいつは油断している。あと一息、つけば"アレ"を使う。それまでの一時の休息に――――しかし、次の言葉に脳みそが停止する。

 

「まあ、お前が知っている訳もないが………金髪の癖毛で、マスクをしたでたらめな男だ。木連式柔とかいう体術を使う」

 

「………へ?」

 

「通りすがりのラーメン屋だとか何とか言いながらも………私が知る最も恐ろしい存在に、真っ向から立ち向かっていった男だ。何故か怒りながら、な」

 

「………」

 

「化物だろうが何だろうが関係ないと怒り、正面から立ち向かい、殴り飛ばす。あのでたらめな背中が忘れられなくてな。

この気持ちがなんなのかは分からないが………一度だけ会ってみたいと思った」

 

ま、見つからないがな、という諦めた風な金髪女。その姿を見て、私のボルテージが最高潮に達する。諦めた口調に、なぜだかしらないが腹がたつ。

 

「………そう、所詮その程度の想いか。だったら無理ね。アンタには見つけられないわ」

 

「何ぃ?」

 

私の一言に、金髪女の眉がつり上がる。

 

「私も、諦めかけた。でも、忘れられなかった。忘れるには、諦めるには男がよすぎた」

 

 

思い返すは、あの人の背中。あの人の言動。………そして、あの人が殺した死体を見ながら、何かを呟いている時の、目。

 

戦っている時は、怒っていた。怒りのまま、真っ直ぐ練られた体術で相手を打ち倒していたあの人。何も言わず、告げず、去っていった人。助けたことに見返りを求めず、通りすがりだと言って去っていくまるで絵本のヒーローのような人。

 

でも絵本とは違う。殺した事を、後悔しているようだった。怒るような相手でも、命を命として見ていた。それで尚戦える人。砂隠れにまで行くとか、どんな馬鹿な人なんだろう。

 

何も、得することなんてないのに。私と、シカマルと、ヒナタを助けた人。会ってみたい。怒っていた理由を聞いて、それで色々な話をしてみたい。

 

………それなら?

 

「そうよ」

 

諦められない。

 

 

「だったら――――やれるだけやるだけじゃない!」

 

 

全身をチャクラで活性化する。そして、地面にクナイを突き立てる。突き立てたクナイはスタート台だ。このまま突っ切ってやる。

 

「ク―――っ」

 

金髪女は風遁の準備中。このタイミングじゃあ、間合いに入る前にカマイタチが来る。

 

「風遁・カマイタチの術!」

 

予想通りで、致命的な忍術。しかし――――たかがそんな術で今の私が止められるか!

 

「だからどうした!」

 

それに構わず、右手を突き出す。そこから放つのは――――失敗型の螺旋丸。キリハに教えてもらったが、修得できなかった術だ。私のチャクラコントロール技術だと、チャクラは一点に収束しない。

 

故に必然として、拡散したチャクラの渦は暴風となって手のひらから溢れ出す。

 

(後に残る傷跡ができようとも!)

 

―――それが、盾になる。螺旋丸の成り損ないは、腕を傷つけながらも目の前の突風を全て弾き返した。右腕に走る痛み――――だけど省みてなんていられない!

 

私は思いっきり跳躍して、空中で体勢を整えながら、テマリへと飛んでいく。

 

「一点集中、一意専心………………貫く!」

 

先端の足にチャクラを篭めた、速度と威力を一点に集中した跳び蹴り。扇子を振り切った体勢であるテマリは、横にも後ろにも逃げられない。

 

 

「しまっ!「はあああああああああああああああああ!」

 

 

 

衝撃が、私の全身に広がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相打ちか!」

 

『同時だったよ!』

 

カマイタチの術と失敗型螺旋丸、そして二人の激突の余波で、会場の中にはまたも砂埃が立ち上がっていた。先の試合と同じ光景だ。

 

立っているのは一人、倒れているのが一人。

 

 

 

そして、煙が晴れた。

 

 

 

『………あと一歩、か』

 

 

 

審判から、試合終了の宣告がされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「3試合目、勝者・テマリ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『見事な戦術だったね。爆風を追い風にするなんて、まるで君みたいだ』

 

「起爆札の正しい使い方と言ってくれ。でもあれ、背中が辛いんだよなぁ」

 

仰向けに倒れるいの。その背中は、少しだろうが焼けているだろう。そこに、横腹を押さえながらも立っているテマリが近づいていった。

 

聴力強化、っと。

 

「………咄嗟に扇子を盾にするとはね」

 

「だが、衝撃は殺せなかった。肋骨を何本か持って行かれたよ」

 

「私も、無茶しすぎて足が折れたわよ………いたた」

 

いのは片足で立ち上がり、痛そうに折れた足を動かす。

 

「………」

 

その言葉を聞いたテマリは、いのに肩を貸す。

 

「………何?何のつもり?」

 

「いや、ただ何となくだ………お前の言葉、随分と効いたしな」

 

自分の胸を指しながら、テマリは呟いた。

 

「………へえ、じゃあ探し続ける気になったの?」

 

「まあな」

 

と笑うテマリ。その顔に、いのはしまったという顔になる。

 

「どうした? しかし、傷だらけの汗まみれだなお前。探していたとはいえ、そんな姿で会ってどうするんだ?」

 

特に失敗型螺旋丸を使った右腕がひどい。その姿に、テマリは呆れたような顔をしていた。

 

「それで私を疎ましく思う人じゃない。それにそんな人なら、こっちから願い下げよ。ま、絶対に違うと思うけどね」

 

「………なんか、無茶苦茶だなお前。でも、そうだな………そうかもな」

 

と虚空を見て何かを思い出すテマリ。そこに、いのの爆弾発言が。

 

「………あ、そうだ。私の探している人と、アンタの探している人、多分同一人物よ」

 

「………何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、肩からいのちゃん落ちたね』

 

急に立ち止まったテマリ。肩に捕まっていたいのがバランスを崩し、こける。

 

「向こうを向いているから、何を言っているのか分からんがったが………」

 

試合中の言動も、カマイタチの術で立ち上がる砂埃のせいでよく分からなかったし。

転けたいのが怪我をしているだろう足を押さえて転げ回っている。

 

「何か言い争いを始めたけど………」

 

そして少女二人は、ぎゃーぎゃーと出口付近で何かを言い合っている。

 

『あ、特別上忍の人に連れてかれたね』

 

見かねた特上の人が、二人を連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何だったんだろ?」

 

『知るか』

 

「?」

 

何故か拗ねたように怒っているキューちゃんであった。

 

 


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