小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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17話 : 中忍選抜試験本戦・一試合目

「心に刻みたるは唯一(ただひと)麺。我、ただそれを行うのみ」

 

  ~小池メンマ自伝「信念、永遠の恋人よ」より抜粋~

 

 

 

 

 

『いよいよ、だね』

 

ついに中忍選抜試験の本戦、当日となりましたっ!イコール、木の葉崩しも始まるということ。俺は変化した姿で観客席に紛れ込んでいる。再不斬と白は、里の外れで待機中。潜んでいる音隠れの忍を相手に、久々の実戦訓練をするとのこと。

 

『本丸を攻める部隊よりは練度も下だろうからね。里の中心部じゃあ、人目につくし』

 

木の葉隠れの忍者に見つかったら、ややこしいことになるしな。里の外れならきっと大丈夫だ。二人ともあれから、それなりに強くなっている。引き際を間違える程間抜けでもない。

 

『そろそろ始まるようじゃぞ』

 

おっと、本戦参加者達がそろい踏みです。

 

(あ、サスケがおらんねい)

 

『………また遅刻か。あの馬鹿弟子が…………』

 

マダオさん、怒ってらっしゃる。まあ、上忍のすることじゃあないね。ま、あの写輪眼コンビは放っておこう。遅れても、来ないはずがないし。

 

『そうだね』

 

そうこうしている内に試合が開始されるようだ。一試合目は、波風キリハ対日向ネジ。

片や四代目の忘れ形見、片や日向始まって以来の天才。注目のカードに、観客も集中している。

 

そんな中、試合会場の中央で二人が対峙する。まあお菓子をポリポリと食べながら観戦しようかね。暗部が会場のあちこちに配属されているが、無視。なんでもない風に装おう。見つかればことだしね。

 

勿論マダオとキューちゃんの二人は俺の中である。今回は外には出さない。危険が多すぎるのだ。

 

(さておき、試合解説のマダオさん。この勝負はどちらが有利なんでしょう)

 

『3:7でネジ君優勢だね。白眼と柔拳、それに点穴だったけ。あれの有利は大きいよ。一対一だと特にね。キリちゃんの方は一撃受けるだけでもピンチになっちゃうし』

 

(あ、そういえば回天も使えるんだよなー)

 

『本当? ………じゃあ2:8、かな。うーん厳しいね、そいつは』

 

(技量も同じぐらいっぽいしなあ。ていうか、娘でも評価厳しいなお前)

 

『客観的判断だよ。予備戦までの力量じゃあ、ネジ君有利。回天を抜ける攻撃方法でもあれば別だけどね』

 

そうなんか。それにしても、回天ってチャクラの膜で物理攻撃弾くんだったっけ。

術も通じないんだろうなあ。見たことがないのでどの程度かは知らないが、中忍レベルの術でも防ぎそうだ。

 

 

「開始!」

 

 

開始の掛け声と同時、キリハが距離を取る。柔拳相手に接近戦は不利と判断したのだろう。まあ、当たり前の対応か。手裏剣と取り出し複数、投擲する。だがネジは横、上から飛来する手裏剣を難なく避けている。

 

さて、聴覚を強化。戦闘中の二人の会話を聞いてみようか。

 

――――ん、OK。

 

「どうした、四代目の娘。まさかこの程度ではないだろう」

 

「………名前で呼んでくれる? あと判断決めるにはまだ早すぎるわよ、この運命馬鹿」

 

挑発の応酬。どちらも、相手の言葉にツボをつかれたようだ。

纏う雰囲気に、濁った感情が漂っている。

 

「今度は、こちらから行くぞ!」

 

今度はネジが攻勢に出る。間合いを詰めて、柔拳で仕留める気だ。踏み出すその速度は、あるいは中忍に匹敵するほどに早い。だがキリハは焦らず、間合いを遠ざけようと後ろに下がりながらクナイを投擲した。

 

「甘い!」

 

先ほどと違いそれなりに近い距離から放たれたが、そんな単調な攻撃がネジに当たるはずがない。白眼でそれを見切り、手に持つクナイで払いのける。

 

やがて一歩、あとちょっとの所までネジが間合いを詰めるが――――

 

「甘いのはそっち!」

 

それと同時に、キリハは素早く印を組んだ。

 

「―――風遁・烈風掌!」

 

最後の印を組み、柏手を打つと同時、キリハの手から烈風が巻き起こる。

 

「ぐっ!?」

 

近距離まで間合いを詰めていたネジは、その風をまともに受け、吹き飛ばされた。成程、点ではなく面での攻撃か。あれじゃあ見切れても避けることはできない。

 

ネジは正面から人一人を吹き飛ばす程の風を受け、後ろに転がりながらもその勢いで立ち上がった。キリハの方を見ていた。

 

「………成程、な」

 

――――呟き、死角である筈の頭上から飛来する手裏剣を、無造作に弾いた。あの角度なら、普通の忍者からすれば死角になって見えなかっただろう。だけどネジには通用しなかったようだ。

 

「やっぱり、死角からの攻撃も見えてるのね」

 

「俺が転がっている刹那に放ったのか。上手い手だが………言ったはずだぞ。俺の白眼に死角はないと」

 

ネジは改めて構えなおし、またキリハに接近しようと走り出した。だが、結果は先ほどと同じだ。キリハの放った烈風が、近づこうとするネジを吹き飛ばす。

 

「!?」

 

だが、そこからは先ほどと違う。キリハはネジを吹き飛ばした後、今度は手裏剣ではなく、クナイを投擲した。直後に再度、風遁・烈風掌を放つ。

複数のクナイは烈風の勢いに押され、通常とは倍する速度でネジに襲いかかる。

 

「くっ」

 

だが、そのクナイもネジの白眼によって捌かれた。だが完全に避けきる事はできなかったようだ。ネジの頬にクナイがかすった後であろう、血が一滴浮かび上がる。

 

術の練度も、精度も、放つタイミングも完璧だ。ネジが唸っているのが見えるが、それもそうだろう。言うのは簡単だが、並の下忍ならばまず実行できない。

 

普通ならば白眼と柔拳の重圧に印をミスったりする。あれほど冷静に間合いを読み、対応するなど下忍になってまだ一年も立っていない新人とは思えない。

 

『余程修行を積んだのだろうね』

 

マダオが呟き、俺も同意する。2次試験の時より、かなり動きが鋭くなっている。

キリハはネジの能力を見極め、戦術を選定したようだ。

 

クナイにも、緩急つけているので、ネジの方はタイミングが計りづらいようだ。

 

やがて、キリハの力量を認めたのだろう。ネジの表情から、侮りの色が消えた。

 

新たに気を引き締めなおしたネジ。同じ突進を幾度か繰り返し、近接戦に持ち込もうとする。だが、キリハには届かない。

 

隙のないキリハの戦法に、これでは埒があかないと判断したネジ。意を決した表情を浮かべ、また突進する。

 

正面から近づこうと踏み出した。だが、今度は烈風に弾き飛ばされなかった。ネジは烈風が身を包む直前に、更に一歩を踏み込んだのだ。そして、ネジは切り札を切った。

 

「回天!」

 

日向の秘術。全身に纏ったチャクラの膜と回転力で風を弾きネジはその場に立ち止まる。キリハは術の直後のため、即座には動けない!

 

「もらった!」

 

ネジが一歩踏み出す。狙うのは、腕にある点穴か。あの烈風掌の術を使えなくするためだろう。キリハは逃げきれないと判断したのか、左手を前にして防御の構えを取る。

 

好都合だ、とばかりに、ネジの白眼が強まる。

 

そして、その指が点穴を捕らえた………否。

 

『――――捕らえ"させた"、か』

 

「な―――」

 

ネジの顔が驚愕に染まる。そう、わざとらしく利き腕ではない左腕を前に出したのも。

ここまでの行動も、全て布石にすぎなかったのだ。来る場所とタイミングが分かっていれば、あとは反射と集中の問題。

 

そして今日のキリハは最高に集中力が高まっていた。全ては、通常ならば速くて掴めないだろうその指を―――――弱点でもある、一本だけ突き出された指を掴むために。

 

誘導したのだ。全てはこの一手のために。

 

『肉を切らせて』

 

直後、キリハの右手が点穴を突いているネジの指を掴んだ。

 

「骨を断つ」

 

骨が折れる音が、俺の鼓膜を震わせた。

 

 

「ぐあっ!?」

 

点穴は確かにキリハを捕らえた。だが、キリハは点穴を突かれた左手を囮に、右手でその指を掴み、そのまま折ったのだ。そして痛みに仰け反るネジの足に、隠し持っていた千本を、投げる。機動力を殺ぐために。あとは遠距離で封殺するだけだ。しかし、日向ネジもここで終わる"タマ"じゃなかった。

 

指を折られ、足に千本を受けた痛みに耐えながらも反撃に出る。詰めた間合いの、最後の一歩を踏み込み、キリハの腹目掛け掌打を放つ。

 

千本を放った直後のキリハには、かわしきれなかった。直撃は何とか避けたものの、脇腹に一撃を受けて仰け反る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(徹ったな)

 

ネジは内心でほくそ笑んでいた。あれでは、内臓の一部にチャクラが浸透したことだろう。だが、キリハはその場に昏倒せず、痛みを耐えてまた距離を取った。

 

やがて一秒に満たないような、数分のような。長いようでその実一瞬の攻防の後、両者とも少なくない傷を負っていた。

 

相対する二人。にらみ合ったまま、その場から動かないでいる。

 

「………大した戦術だ。俺はお前の掌の上で踊らされていたと言う訳か」

 

「指を掴むのは、正直分の悪い賭けだったけどね。練習でも半々だったし。それに、お腹に一撃受けたのも予想外だった」

 

キリハの唇から、一滴の血が垂れる。柔拳が当たった証拠だろう。ネジの顔から、わずかに笑みが溢れた。

 

「だが、これで決まりだ。点穴を突いた。もう、その術は使えまい。俺も折られた左手は使えんが、回天と残ったこの右手がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解説のマダオさん、どうでしょうか。

 

『四分六のイーブンだね』

 

暗号か。

 

一方で、試合中の二人は焦っていない。状況把握は正確なようだ。キリハの方は、内臓へのダメージもある。今まで通りの動きは無理だろう。あとは接近戦に持ち込まれて、キリハの負けだろう。そして、声が聞こえた。

 

「この勝負は俺の勝ちだ。今のお前では俺に勝てない。これもまた、運命だ」

 

ネジも分かっている。

 

(だけどネジさんよ。勝利を確信するのはまだ早いぜ?)

 

そう、キリハに勝機はない。だが―――それは、これ以上切る札がなければの話だ。

 

そして予想通り、キリハはまだ切れる札を持ち合わせている。用意した、という方が正しいか。その目から、意志の光は消えていない。

 

「………うるさい」

 

「何?」

 

「うるさいって言ってるの。運命がどうとか、ぴーちくぱーちく、やかましいのよ。運命?それがどうした。宿命?お呼びじゃないのよ」

 

キリハが、唾と一緒に横に吐き出した。それには血の赤が混じっていたが、それも完全に無視して腰を落とし、構えを取り――――告げる。

 

「私は、運命なんかを言い訳にしない」

 

ネジの目を真っ向から睨み付ける。

 

「関係ない。諦めろと言われても、諦めない。いつだって全力で自分の守りたいものの為に戦う。それが、私の忍道だから!」

 

構えた掌に、チャクラの渦が奔る。現れたるは、螺旋の奔流。完成形に比べれば、規模、精度共に劣るがそれは螺旋丸だった。

 

 

「真っ向勝負よ、日向ネジ………逃げないでね?」

 

 

口の端に血を流しながらも、キリハは笑った。そしてネジに向けて、一直線に走り出す。日向ネジは、回避の姿勢を取らず。応えるように腰を落とし、迎撃の構えを取った。

 

「いいだろう、受けて立つ………来い! 波風キリハ!」

 

ネジもうけて立った。回避に努めれば、勝てるだろう。だがキリハの言葉と顔に何かを感じたのか、その場で迎え撃つことを選択したようだ。

 

やがて、放たれるはキリハの螺旋丸。対するは、ネジの八卦掌回天。

 

下忍らしからぬ高ランク忍術がぶつかり合いった。そのあまりの威力に、会場の大気さえも揺れ動く。

 

 

「いっけえええええええええェ!」

 

 

「アアアアアアアアアァァッ!」

 

 

 

 

ぶつかる両者の叫び声が響き、その激突の余波で周囲の地面から砂煙が舞いあがる。

 

 

 

煙で見えなくなったキリハとネジ。

 

 

 

やがて、煙の中に一つのシルエットが浮かび上がった。

 

 

 

 

地に倒れている者が1人と―――――立っている者が、1人。

 

 

 

やがて、煙は晴れる。

 

 

 

そこに、立っている者の姿が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

ぼろぼろになりながらも、その親譲りの金の髪は、陽光に照らされ輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一試合目、勝者・波風キリハ!」

 

 

 

 

 

審判の声が、会場に響いた。

 

 

 

 

 

 

○ ● ○ ● ○ ● ○ ●

 

 

 

 

 

 

キリハは仰向けに倒れているネジの元へ近寄る。

 

「私の勝ちだね」

 

笑って言うキリハ。

 

「ああ。俺の負けだ」

 

負けたネジも笑っていた。

 

「まったく………これでは、父上にどやされるな」

 

晴れ晴れとした顔をしている。まるで憑きモノが落ちたかのように。

 

「………いいじゃない。怒ってくれる父がいるんだから。私にしたら、羨ましい限りだけどね」

 

キリハの返答にしまった、という顔をするネジ。

 

「あやまらなくていいよ?これはただの愚痴だし。あなたも、宗家と分家のしがらみとか色々あるんだろうけど………ま、取りあえず全力でやってみたら?」

 

キリハの言葉に、何故知っている?という顔をするネジ。

 

「そりゃあヒザシさんから聞いたからよ。ヒナタの家に遊びに行ったときにね………息子が分家の呪印のことで悩んでいてで困ってる、とか愚痴られたんだよ」

 

キリハは苦笑する。

 

「一回、腹を割って話し合ってみたら?まずはお互いに思うことをぶちまけて、さ。きっと、誤解している部分も多いと思うよ」

 

「………そうか、そうかもしれないな。俺も、変に意地になっていたのかもしれない」

 

「ヒザシさん曰く反抗期かな、らしいよ?」

 

その言葉に、ネジは反抗期か、と呟き苦笑する。

「じゃあね」

 

去ろうとするキリハの背に、ネジがちょっと待ってくれ、と声をかける。

 

「………最後に、ひとつだけ聞きたい」

 

「何?」

 

「波風キリハ。君の守りたいものとは、なんだ?」

 

波風キリハは淀まず。慣れた調子で、迷わず笑顔で答えた。

 

「かつて木の葉のために死んだ人と、今木の葉に生きている人。その全ての人の笑顔を」

 

そして、どこかにいるはずの兄、という言葉は風に消えたが。

 

「亡き父が、木の葉に光を残した四代目火影が望んだこと。そして今、自分の望んでいる事。これだけは、死んでも譲れないから」

 

 

そう言って立ち去るキリハの背中をみながら、ネジは空を見上げて呟いた。

 

 

 

「完全に、俺の負けだな」

 

 

 

 

 

 

 

負けを認めるネジ。だがその目に宿る色は、見上げた空のように澄み切っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うう、キリちゃん………立派になって』

 

「ええ話やでほんま………」

 

マダオとナルト、二人とも号泣である。

 

『おぬしら、ハンカチ噛みながら泣くな。気持ち悪いぞ』

 

読唇術を発揮して、二人の会話を把握していた二人は男泣きしている。相変わらず無駄に高スペックな二人である。

 

『それにしても、最後の一撃じゃが………あの未完成の螺旋丸、ネジの回天とやらを抜くには、威力が足りなかったように思うたが』

 

(あれ、見てなかったの?キューちゃん。俺らの体術の技術と併用しての一撃だったよ、あれ)

 

踏み込み、体重移動、そして掌打の回転。それが、未完成だった螺旋丸の威力を補ったのだ。

 

『まさか、予備選のあの試合で僅かながらも盗んで………しかも、この短期間で実用段階にまで持ってくるとはね。我が娘ながら才能が怖い』

 

まあキリハの才能、サスケ並っぽいし。いや、下手したらサスケを越えてるかも。あっちには写輪眼あるし。でも、あの体術見たろ?相当鍛錬しないと使えないと思うぞ。一朝一夕で何とかなるもんじゃないし。

 

『必死に修行したんだろうね』

 

………そういえば、修行中店にやってくる時はいつもぼろぼろだったなあ。確かに、全力で挑んでたな。ああいうのは好きだな、俺。

 

『手、出すなよ』

 

だから妹だろ!まあ、今の試合みて、かっこかわいいなーとは思ったけど。

 

『………オレサマオマエマルカジリ?』

 

思っただけだよ!黒くなるなマダオ、怖いから。

 

『信じるよ?………あ、次の試合始まるみたいだね』

 

今の試合で、会場は良い具合にヒートアップした模様。

 

でも、次は確か………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我愛羅 対 うちはサスケ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だがうちはサスケは現れなかった!

観客のテンションがみるみるうちに下がる。

 

『『「空気読めよ」』』

 

3人で総つっこみ。だがサスケは来ない。カカシも来ない。遅刻だ。ある意味忍者失格である。というか忍者以前に社会人失格である。人間失格である。

 

『………オレサマカカシマルカジリ』

 

疑問形ですらない。いいですマダオさん、是非やっちゃって下さい。機会があればの話しだけど。ということで、遅刻者は待っていられない。

 

本戦は、二試合目を置いて三試合目が、始まろうとしていた。

 


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