「いくぞ、饂飩王。麺の貯蔵は十分か………!」
小池メンマのラーメン風雲伝 第七百五十四話
「麺王は二人も要らぬ~究極のラーメン 対 至高のうどん~」より抜粋
昼の営業が終わった後、俺は木の葉の中央にある病院の前に来ていた。此処に来た目的は、リー君の見舞いである。眉毛一号ことマイト・ガイ上忍から、リー君の容態が一応は安定したと聞いたので。
リー君はまあ常連まではいかないけど、何度か店に来てくれた客なので土産持って来ました。お土産、といっても白特製の稲荷寿司だけどね。リー君、前に店に来たとき美味しいといってたからなー。
受付で病室を聞いて、目的の場所へ――――ん?
リー君の病室の前に来たところで、感知出来た気配が………3つ。
3つが全部、知っている気配だ。
おいおい、リー君はともかくとして、シカマルも分かる。
でも残り一人はやばい。
と、俺はそこで原作のシーンを思い出して、あちゃーと頭を抑える。
よりにもよって、一番騒げない場所で我愛羅と遭遇かよ。
シカマルが影真似の術で我愛羅を足止めしてるみたいだけど…………抑えきれてない。
このまま見捨てると、やばいな。仕方ない、割って入るしかないか。
俺は周りに誰もいないのを確認すると、変化の術を使った。
「くっ………!」
どうしたこうなった。チョウジの見舞いのついでに、面会謝絶が解けたロック・リーの様子を見に来ただけじゃないか。
それが―――何で今、俺はあのイカれた砂のひょうたん野郎を影真似で止めるのか。
尋常じゃない気配を察して、飛び込んだだけだ。見過ごせなかっただけだ。というか、なんで病室によその里のこいつが侵入できる。暗部はなにしてんだ――――早く来いよ、間に合わなくなる。
いっそ俺だけ………いや、めんどくせーけど、同じ里の下忍の事だ。放っておく訳にもいかねえ。
「………クク」
状況を把握してやがんのか、笑ってやがる。ああ、確かに術は成功して、動きは止められたさ。しかし、この先の手が思いつかない。俺は、こいつの防御を破るような術を持っていない。それをこいつも察しているのだろう。
(クソが……!)
もう限界だ。目の前には、凍えるような殺気。気を抜けば膝を屈したくなるほど濃密で、アスマ達上忍とはまた質の違う嫌なチャクラ。
こいつ、本当にヤベエ。いったい、どうすればこの状況を抜けられるか。
――――と、解決策を模索している時だった。
その男が入ってきたのは。
「待てい!」
割り込んで来た声と共に、入り口の方から煙り玉が投じられた。我愛羅の視界が遮られたそのスキに、俺は影真似を解いてリーが寝ているベッドへ駆け寄る。悔しいが、今の俺には我愛羅を止めることはできねえ。場合によっては、リーを連れて逃げる。
しかし、その心配は無用だった。ベッドの横に立っていた我愛羅が、何者かによって殴り飛ばされたのだ。
(早い………砂での防御が間に合ってない!?)
驚いている内に、煙玉の煙が晴れた。目の前に、我愛羅を殴った人物が見える。
(――――な)
その風体を見て、俺は呼吸が止まった。金髪の癖っ毛に、口を覆うマスク。
忘れもしない、あの夜に見た姿そのままだ。
子供の頃、他国の忍者に攫われたあの時に助けてくれた人だ。
その人は目を瞑ると、歌うように口を開いた。
「戦争上等のこの世界。美味をもって相互の理解を求めんとする我が意志の象徴。
悠久なる味と、果てしない広がりをもつ食べ物!」
一拍おいて、そいつは宣言した。
「人、それを『ラーメン』と言う………!」
「「何者だ!?」」
目の前の我愛羅と一緒にハモってしまう。締めの言葉が予想外も予想外だ。色々な意味で何者だアンタ。
「おまえらに名乗る名前は無い!」
返答と同時、男は我愛羅へと一歩踏み出して更なる一撃を加える。先ほどと同じか、我愛羅が持つ自動防御の砂を上回る速度で放たれたそれは、正しく神速の域にある。
次の瞬間には我愛羅の外殻がぶれた。全身を覆っている砂の鎧ごと殴り飛ばされ、そのまま窓から外へと吹き飛んでいったのだ。
アスマ以上、いや、見たこともない速度だ。俺はその事実に混乱しながらも、目の前の男を見る。男はゆっくりと突きだした掌を修め、ため息を吐くと窓の方へと向かっていく。
「じゃあな、少年。里の仲間をしっかりと守れよ」
我愛羅を追って窓から出て行こうとする男。ここに留まるつまりはないらしい。俺は、とっさに叫んでいた。
「待ってくれ! アンタ確か、昔に俺を助けてくれた人だろ」
「………ああ、覚えていたのか」
「忘れるかよ。それであんた、何者なんだ? 木の葉の忍びじゃねえ、って事は親父達から聞いて知ってるけどよ」
助けられた後、親父達が言っていた。俺たちを助けてくれた人は、木の葉隠れに属する者じゃないって事を。
暗部の警備の裏をかかれた形になったので、俺たちが攫われた事は、親父達も暗部も完全に気づいていなかったらしい。戦闘の気配で、俺たちが攫われたって事を察知したらしく、この人がいなければ間に合わなかっただろうとも聞かされた。
それを聞いて、俺たちは唸った。誰か助けてくれたのか。木の葉の者じゃない、でも木の葉近くにいた、凄腕の忍び。正体不明のヒーローみたいな助けてくれた人について、昔はヒナタといのとよく話していたもんだ。
そして、それからは3人で探していた。俺は一言、助けられた礼を言いたかったから。
あの二人はまた別の思いがあるらしいが、俺のはただ純粋な感謝だ。
だから、礼を言わなきゃならねえ。
「ありがとう。あんたが何者かは知らねえけど、あの時アンタが居なければ俺たちは死んでたよ。助けてくれて、本当にありがとう」
柄でもない言葉に、顔が赤くなる。男は言葉では答えず、背中を見せたまま片手をあげて答えた。
一度も振り返ること無く、あの時と同じだ。窓の外へ、我愛羅を追うためにだろう、去っていった。
両足が地面を叩く。三階程度の高さから落ちる衝撃など、チャクラで強化すれば無いも同じ。
すぐさま、先ほど殴り飛ばした我愛羅に追撃を仕掛ける。相手が砂で防御するよりも更に速く殴り飛ばした。勢いを殺さず、すぐさま反対の方向へと逃げる。
ここまですれば俺の方を優先するだろう。あとは、人気の無いところへ誘導するだけ。
そして我愛羅が追ってくるのを感知しながらそのまま数分走り、十分に病院から離れたところで立ち止まった。ゆっくりと振りかえった。
そこには狙いの通り、砂を周囲に浮かせ笑っている我愛羅の姿があった。この状況下で心底可笑しいという顔で声を殺して笑えるとは、まともな精神状態じゃない。
(………って、いったい何が可笑しいのかよ。あんな所であんなことしちゃって)
受験者への追撃とか、しかも予備選で負かした相手を襲うとか!
下手すりゃ本戦を待つことなく戦争が始まっちまう。
「ばかかお前、ばっかじゃねえのか!もしくはアホかあ!」と言いたい。はいだらー。
でも言えない。情緒不安定すぎるので、むやみに刺激するのは良くない。しかし腹立つなこいつ。デコの右側に『麺』と書いて『麺』『愛』とラーメンの使徒にしてやろうか。そう考えて筆を取り出そうと寸前、我愛羅が話しかけてきた。
「くっくっく………こんな所で会えるとはな。『通りすがりのラーメン屋』」
「こっちは会いたくなかったけどな。いやマジで。心の底から」
即答する。やーなの、こんな砂狸さんと殺し合いするのは。ほら、何か強い者を殺す事で~、とか生きる意味~とか言い始めたし。あと、目が怖え。
(――――それにしても)
誰かを殺した時に自分が生きている事を実感するってどういうことだろう。それがなければ、己の生を実感できないのか。それじゃあ風影が望んだ兵器そのものじゃあないか。生きているといえない。殺すために動いているだけだ。
(ここまで、壊れてるとはね)
旅の途中でも見たことがなかった。完全に壊れた敗残者ともまた違う。そんな生き方じゃあ、行き着いた果てに見える光景など決まったものになるだろうに。
目に映る全てを殺せば、何もかも真平らになるだけだ。そうすればみんな壊れる。狂った精神にも許容は存在する。殺して自分が壊れて、あとに残るのは地平線のみ。
それは兵器の本懐だぞ。“誰かが定めやがった”宿命をはたしてしまう行為だ。
でも、こいつはまだそこまで行き着いていない。
(――――気に入らねえ)
こちらの複雑な心境を無視して、我愛羅は殺気を膨らませる。
「………さあ、殺し合おうか!」
砂を展開する我愛羅。それを、俺は止める。
「待て。ここは木の葉隠れの里だぞ。しかもど真ん中。ここでやり合ったとしても、余計な横槍が入るに決まっている」
威圧するようにチャクラを発しながら、言う。
「はっ、誰かが来る前に潰せばいい事だ!」
「それが、可能だとでも?」
視線で圧力をこめる。
「ふん、もうすぐに、だ―――――あるだろう? 徹底的にやり合う機会が。そこで決着を付けてやる。だから、今日はひとまず退け」
その言葉に、我愛羅は沈黙する。
そして、舌打ちして何かに気付いたように後ろに振り返った。
(誰かが、近づいてくる)
我愛羅にも、その気配が分かったのだろう。また舌打ちをした後、砂をひょうたんに戻した。
「いいだろう。ただし、逃げるなよ」
肩越しに睨まれた視線。その全てを受け止め、俺は笑いながら返してやる。
「お前がな」
その言葉に、我愛羅はまたおかしそうに笑いながら、去っていった。
そうして我愛羅を見送っている、マダオが言葉を挟んできた。
『………ああいう風に、なる。可能性も、あったのか』
「何?」
何気ない言葉。聞こえた、が――――聞こえない振りをする。マダオはなんでもないよと返してきた。いつもとは違う真剣な口調だが、それも深く追求しない。
今のはきっと、失言だから。
聞かれたくない類の言葉だろう。だから、それででいいのだ。
『………ん、いやいや強敵だなあ、って。さて、対策もあることだし、帰りますか』
ああ。でも、お客さんの応対をしてからな。と、言っているうちに来たし。
―――銀髪のマスク忍者が。
「………何者だ?」
すっと目を細めて聞いてくる木の葉の業師。
ああ、カカシさんじゃないですか。気づいていたけど。
俺はその問いに答えず、煙玉を放って一目散に逃げた。
やり合ってもいいが、面倒くさい。ここはひとまず、逃げた方がいいしね。
(まあ追ってくるよな、やっぱり)
逃げたのは見せかけだけ。まあ追ってこなければそのまま逃げたけど、追ってきたからには、仕方ないというもの。人目に付かない所へ誘導して、そこで一戦した後、逃げるか。
病院近くはまずい。あそこは里の中心部に近いので、応援がやってくる可能性が高い。
流石に、複数を相手にするのは面倒だ。
(よし、ここらへんでいいか)
逃げ続けて、数分経った。この森の中なら邪魔も入らないだろう。
俺は逃げる振りをして樹の枝を思いっきり蹴った。
その勢いのまま、追ってくるカカシの方向へ跳躍し、一気に懐へと飛び込む。
「なっ!?」
一瞬の奇襲に、不意をつかれたようだが、カカシの動揺も一瞬だった。即座に反応し、俺の右の掌打を腕で防御すると、横にすべるように抜け、先ほどまで俺の進行方向だった場所に立つ。
「………」
「………」
退路を断ったつもりだろうか。いや、安心はしていまい。俺がどちらに逃げるか、どちらの方向へ逃げていくのかなど、予測がつかないだろう。
(なら、ここで仕留めるのが一番ってことだ)
そして予想通り、カカシは仕掛けてきた。
(注意するべきは写輪眼!)
キューちゃんやマダオが居るので、幻術は効かない――――が、出自がばれる可能性がある。それなくても、瞳術による幻術は危険だ。俺はガイと同じ、カカシの足元を見ながら応戦。
自然と体術合戦になった。樹の枝を足場にしながら、跳躍。
高速ですれ違う一瞬に、互いの拳と蹴りが、幾度と無く交差する。
「クッ!」
「当たらねえよ!」
カカシは体術の応酬の合間に火遁に水遁、色々な術を使ってくるが、どれも様子見程度だった。そんなせまい範囲の術など、俺には当たらない。
そして2分が経過した。互いにまともな被弾はなし。だけど数十を超える合の果て、俺はカカシの力量を悟った。
(やっぱり、大蛇○ほどではないか)
純粋な体術でいえば、再不斬の方がやや上。瞳術による心写しも見破っているので、アドバンテージは圧倒的に俺の方が上だ。
雷切も対策はしているので、問題ない。万華鏡写輪眼が使えればまた違うのだろうが、それも無い。
(それよりも………カカシ、勘が鈍ってないか?)
再不斬もそうだったが、生きるか死ぬかの実戦だっていうのに動作に鋭さが無い。もしかして格上とのガチンコとか、必死になる実戦をここ五年くらい経験してないんじゃないか。
『その点、常に格上というか化物との戦闘を想定している君にスキはなかった?』
(それほどでもない)
『かっこいいなー……憧れないけど、そんな環境』
(俺もだよ!)
ともあれ、今のカカシでは大蛇○に勝てなさそうだ。そして、更に十合。こちらは術を使っていないので、コピーしようにもできないようだ。やがてカカシは、肩で息をしながら聞いてきた。
「………ここまで強いとはね。もう一度聞くけど、何者だ?」
「貴様に名乗る名前はない!」
もう、確認は終えた。後は、この戦闘を終わらせるだけ。そう判断した俺は、きゅうびのチャクラを解放する。出来るだけ後にダメージが残らない方法で、昏倒させるために。
「!?」
膨れあがったチャクラに驚くカカシ。それを無視して、俺は構えを取って心の中に呼びかけた
(賢狼よ、導きを!)
そっちに行っていいでもありんすか? と顔を赤らめる獣耳乙女を思い浮かべる。
み な ぎ っ て き た 。
全身をチャクラという名の何かで活性化する。そして高めた脚力で一歩、カカシの元へと踏み出した。
「とああああっ!」
「速い!?」
きゅうびのチャクラによる運動力強化を上乗せして、先ほどとは段違いの速さで踏み込む。飛翔するかの如き神速の一歩で、一気にカカシの懐に飛び込んだ。
先ほどの奇襲とは違い、カカシはこちらの動きに反応しきれていない。
(いくぜ、絶招の壱・改!)
チャクラを雷に性質変化させる。微粒な電流が、手のひらを奔った。
「
螺旋を描く掌打をカカシの腹部にねじ込み、電流に変化させたチャクラを開放する。
「ぐ、あっ!?」
腹に広がる衝撃と、身体を走る雷に、カカシの動きが止まった。
「とおああ――――!」
返す刀に、逆の手で掌打。止まったカカシを後方に更に吹き飛ばす。
それを追って、また一歩。カカシへと肉薄する――――!
「神手・昇打崩!」
とどめの一撃。仰け反るカカシの腹部へ、風を纏わせた打ち上げの掌打を叩き込む。
カカシはそのまま吹き飛び、やがて地面に倒れると気絶した。
「成敗!」
遅刻的な意味で。
「ただいまー」
で、帰ってきました我が家。カカシはあと数分は身動きが取れないはず。
まあ連絡の煙玉も上げたしね。すぐにでも医療班が駆けつけるだろう。
『いやー酷いことするね、君も』
いや、あれだとダメージが後残らないし、いいじゃんサスケの修行に付き合うと、どうしてもカカシ自身の修行が疎かになりそうだからね。
実戦の勘も鈍っているようだし。緊張感を増やすためにも、というやつだ。それに、たまには負けないとね。まあ全部ノリでやった言い訳なんだけど。
まあ、イチャパラとか遅刻の事もあるし、いいんでないの?
自重しろ、という意も含めてさあ。
『おぬしには言われたくないと思うが――――それと、メンマ。カカシのこととは別に、話があるのだがな?』
何、キューちゃん。気のせいか、声がもの凄い冷たいよ?
『先ほどお主が頭の中で思い浮かべた“女”の顔じゃが………』
(げっ、分かるの?)
『あのチャクラを使ってる時は、の………それで、だ』
(はい)
『何故ワシを思い浮かべん?』
(はい………え?)
綺麗に笑うキューちゃん。うん、聞き返せないぐらい怖い。犬歯が凄い。背後に夜叉を背負っているし。
(ぐ、しまったな。賢狐とかにした方が良かったか………!)
でも賢くなさそうだし、と言ったら怒られそうなので言わない。後悔しても遅いか。キューちゃん、どうやらハブにされたことに怒っているようだ。
(ここは………マダオ、助けてくれ!)
『只今留守にしております。緊急の用がある方は近くの詰所に駆け寄るか、諦めてください』
(居るじゃん! てか、諦めたらそこで試合終了ですよ!?)
『のう………ちょっと、表で話しをしようか?』
ぎゃあああああああ!? フラグたった!死亡フラグ!
違うから、俺が欲しいのは青春色の旗であってそんなフラグはいらねえから!
『まあ、これもある意味フラグと呼べるんだけどねえ』
ちょっとまてマダオ! その旗、何の旗、気になる旗!?
どう見ても赤色フラグだろ!血の色だろ!
『まあ、桃色ではないかなー』
『おい、返事はどうした?』
(イエスマム! ………えっと、何もしないよね?ただお話するだけだよね?)
『勿論じゃ』
とにっこり笑うキューちゃん。あらやだ、可愛い。
………まあ、もしかしたら単にお話するだけかも知れないし。ちょっとだけ呼び出してみようかなー?
笑い顔を信頼し、口寄せを発動させる寸前だ。マダオが何か呟いた。
『ざんねん、あなたのぼうけんはここでおわってしまった!』
(――――え?)
そして、その言葉の通り。口寄せの煙が消えたその先には、金色の夜叉がいました。
「………そなたの中には夜叉がいqあwせdrftgyふじこlp;!?」
誤魔化そうとネタに走った所、顔を真っ赤にして怒るキューちゃんに飛びつかれて噛みつかれました。
「うわきもの!」とか何とか言っていたのはどういう意味だろう。
ってこら、マダオ。にやにやしながら見てないで、助けろよ。