小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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14話 : 前準備

森乃イビキ試験官は、頭巾らしき被り物と手袋を外して、ゆっくりと椅子に腰を掛けた。そして机の上に腕を置き、祈るように手を組んだ。

 

部屋にいる全員の目を見据える。沈黙が空間を満たす中、やげて試験官は笑いながら、あくまで穏やかに宣告した。

 

「今からここにいる皆さんで、ちょっと殺し合いをしてもらいます」

 

   ~ 突発的NG集 お題「説得力(パースエイダー)というもの」 ~

 

                            by 森乃の人

 

 

 

 

「ふー」

 

一息をつく。今日も空は青く、ラーメンはやはり美味しい。

麺を愛でる事は我が人生の半分であり、麺を求める事は我が人生の意味である。

 

スープに愛を注ぎ、麺に情熱を注ぐ。やがて二つは混ざり合い、至高の情愛となって世界を包みこむのだ。

 

―――そして。全ては、麺に『おい』

 

「なんでしょうか、キューちゃん」

 

『いい加減、現実逃避は止めたらどうじゃ?』

 

その言葉に、ため息をつく。そして改めて、メニューを見ている客の顔を見た。

 

「………」

 

「………」

 

『………』

 

沈黙する2人+1人。

 

『僕は?』

 

マダオ君は欠席です。

 

『いや、いるから。いつも君の中に』

 

きめえ。

 

ちなみに白は修行の日。桃地君+俺の影分身と一緒に修行している。まあ、これから先は修羅場になりそうなんで、とのこと。目的があるのだろう。いえいえ邪魔はしませんとも。

 

『それより、注文聞かなくていいの?』

 

………聞くよ。聞けばいいんだろ。

 

「へい、お客さん何しやしょう」

 

と手を揉みながら言った。仏頂面をしながらメニューを睨む、テマリに向かって。

 

「………」

 

てかシンキングタイムが長え。

見た目と違って、こういう時は優柔不断なのか?と思っていると、

 

「店主」

 

タン、とメニューを置き、テマリは言い放った。

 

 

「しょうゆラーメンで」

 

 

普通でした。

 

 

 

 

 

 

「………美味しい」

 

はい。その一言のために生きてます。テマリはコクコクと頷きながら、しょうゆラーメンを食べている。その勢いの凄いこと凄いこと。ちょっと、テマリに対する印象が変わった程だ。

 

「ふー」

 

そうして、豪快にスープを飲み干した後だった。

彼女は笑顔で言ってくれました。

 

「木の葉風ラーメン(魚介系のやつ)に、稲荷寿司のセット追加で」

 

なん………だと………。

 

『突っ込まないんだね』

 

結局全部食うのかよ!なんて、突っ込めねえ。歯を見せて笑うテマリ。その男気溢れる笑顔に、ちょっとだけ惚れてしまった。

 

やだ、この娘………格好良い。でも、歯にネギがついてるよ。

 

でも指摘するのは何故だか拙そうな。

 

なので、早速注文の品を作った。へいかしこまりやした、の後、お嬢!とか言いそうになったが止めた。

 

家柄的にはぴったりなんだけどね。というか筋モンよりも物騒な家だね。

何にしても、多く食べてもらえるというのは嬉しい。

 

嬉しさの余り、稲荷寿司を2個多めにしてしまったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま」

 

「ありがとうございやしたー」

 

テマリさん、結構礼儀正しいです。流石はいいとこの娘。

ある意味お嬢様だ。でもお嬢様忍者って何だろう。

 

『キリちゃんも似たようなものだけど』

 

そうでしたね。箱入り娘忍者?それ何てスネー『それ以上言うのは止めようね?』

怖っ。背筋に寒気が走ったじゃまいか。

何でそんなに怒って………あ、そうか蛇っていったらアレだものね。

 

「えっと」

 

呼びかけられたんで、テマリの方を見る。

ていうか、え、勘定は済んだはずですけど、何で帰らないの?

 

「店主」

 

「はい」

 

何でしょう。取りあえず返事したけど、なんだろうかこの緊迫感は。

 

「あの、だな」

 

「はい」

 

「店主の知り合いに………ええと、その、変な体術を使うバカ強いラーメン屋はいないか?」

 

「………はい?」

 

一瞬だけ、思考が止まる。

 

(………ええと)

 

「はい、いないです」

 

本人ですから。知り合いじゃありません。

 

「そうか」

 

テマリは残念そうな顔をしながら、すまない、とだけ言って去った。

 

『ひゅーひゅー』

 

何だよマダオ。

 

『えー、どう見たって探されてるんじゃん。乙女に。これはあれだね、フラグたったねフラグ』

 

「………そう、かなあ」

 

『そうだって』

 

目を閉じて考えた。少し前、白の一件で痛い目を見たけど……これはあれか。期待していいのか。モテ期か。スプリング・ハズ・カム?

 

『ホーホケキョ!』

 

合いの手ご苦労!来たぜ、来た!俺の時代がやって来た!我が世の春が天から此処に!

 

『………だがちょっと待て、馬鹿者共。もしかしたら砂隠れの一件で、指名手配になっているかもしれんぞ』

 

………えっと、キューちゃん?それはどういうことでせうか。

 

『何しろ、あの守鶴をぶっ飛ばしたのだからな。一尾を殴り飛ばせる程の実力者に、不様にも侵入を許し、あまつさえ気づかなかったとあってはな。砂隠れの里の威信を損ねかねんし』

 

………ああ、そうだね。うん、きっとそうだ。

短い春だったね。さよなら、リリー。機会があれば、また次の春に。

 

『………ふーん』

 

何?マダオ。笑ってくれよ。この哀れな道化をさ。それが仕事なんだ。指さして笑われるのが、さ。

 

『いやあ、そういう訳じゃないんだけど』

 

何だよ。何ニヤニヤ笑ってるんだよ。

 

『春爛漫だなあ、と』

 

夏だよ。熱いよ。訳分からんよ。むしろ日照りが燦々だよ。

………まあ、いっか。俺には麺があるし。

 

『MEN?』

 

男じゃねえから! 蛇と一緒にするんじゃねえよ!

さっきの仕返しか!ラーメンだよ!

 

()・MEN?』

 

「よしちょっと表へ出ろ」

 

10分ばかりマダオと死闘を繰り広げました。

 

 

 

 

 

「いらっしゃいー」

 

「こんにちはーっと………あれ、新メニュー」

 

「はい、セットもできます」

 

「じゃあ、それひとつ」

 

アンコ女史がやって来ました。何やら疲れてるご様子だけど。

………まあ、そりゃあ疲れるわなあ、あんな変態と遭遇したら。

 

『へ、アンコちゃん、会ったんだっけ?』

 

そうだろ。あの術、致死性は全然無いからな。あとアンコちゃんってなんだよ。

 

『いや、僕自来也先生の弟子だったでしょ?』

 

(ああ)

 

『ほら、アンコちゃんは大蛇丸の弟子だったし』

 

(そういう繋がりか。と、いうことは綱手姫の弟子?だったっけ。あのシズネ女史とも、結構面識あるのかマダオ)

 

『少し、だけどね』

 

ふーん。まあ、今はいいか。

 

「何やら疲れていますね」

 

「………まあね。ちょっと、あってね」

 

深くため息を吐くアンコ女史。哀愁を漂わせています。何があったんだろう。取りあえず、稲荷寿司を一個サービスしてあげよう。肩を落としたその姿が、あまりにも不憫に思えたし。

 

「あら、これ美味しいわね」

 

「ありがとう御座います」

 

「はあ、癒されるわねえ………あんなものを見た後だと、特に」

 

思い出したのか、首をものすごい勢いで横に振るアンコ女史。ちょっと乳揺れ。眼福。

 

「あんなもの、ですか?」

 

「そうなのよ。まあ詳しい事は言えないんだけどさ………全裸の変態、しかもおっさんをね………見ちゃったのよ。何の悪夢かと思ったわ」

 

(………はい?)

 

ちょっと、解説のマダオさん?

 

『うーん、組み込んだ術式に変なの混ざっちゃったかなあ』

 

変なじゃねーよポケが。そんなもん組み込んだ捕縛術があるか。まるっきりエロ技じゃねえか。ああ、女の子相手に使わなくてよかった。しかし、麗しのおぱーいをお持ちのご婦人に心の傷を与えてしまったようだ。

 

想像してもみよう。繭から生まれた変態オカマ、しかもおっさん。

加えて蛇属性。かつ全裸。

 

『うん、トラウマものだね』

 

同意せざるをえない。夢にまで出るわ、そんなもん。申し訳ないので、アンコさんに特製団子をあげた。白が作ったお手製団子で、本当は三時のおやつ用だったけど、詫び料としてプレゼントした。

 

心の傷を埋めるには、食べるしかないということで一つ。

後で白には謝っておこうか。

 

「美味しい!」と笑うアンコさんの姿。

その眩しい笑顔を見て、何故か涙がこぼれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『で、だけど』

 

何だよ。

 

『真面目な話ね。大蛇丸というか、木の葉崩しの件はどうすんの?』

 

問いかけには率直な答えを。結論からいうと、若干だけど手は出す。

守鶴だけね。猿蛇の師弟対決には手を出さないけど。

 

『何で?』

 

分かってるのに聞くなよ。あの戦闘は、猿飛の爺さんのケジメなんだよ。師匠として、そして何よりも3代目火影としての最後の務めなんだよ。大蛇○に対しての。そしてその他諸々の、な。

 

それこそ俺なんかがしゃしゃりでる問題じゃあない。

 

『三代目と共闘して大蛇丸を倒す方法は選ばないんだね?』

 

布石は打ったから、それもやり方によってはできるかもな。

でも、しない。爺さん任せです。弟子のケツは師匠が拭こうね!

それが責任ってやつだから。他人の戦争にしゃしゃる程恥知らずではないし。

 

『まあ、そうだね』

 

(それにあの戦いは………火影としての、最後の戦場。死に場所みたいなもんだ)

 

死に場所を見つけた老兵の邪魔はしない。俺も恥をかきたくはない。

 

『………木の葉崩しが起きる前に大蛇○を叩くっていうのは?』

 

リスクが高すぎる。失敗すれば、追手がばかみたいに増えかねない。それに、いつまでも偽装がばれないとは思えん。それこそ見つかったら一巻の終わりになる。

 

ラーメン屋としてのな。今まで以上に周りに気を配る必要が出てくる。そんなストレスが溜まる余生はまっぴら御免だ。それに何より、音隠れと砂隠れの上層部にこれ以上慎重になられるのが、ね。それが一番怖いよ。

 

大蛇○と風影を相手にするのは、流石の木の葉隠れの里もかなり危ない状態まで追い詰められるだろう。あの二人に好き勝手絶頂に暴れられた場合、木の葉側の被害が洒落に成らんことになりそうだ。

 

イコール戦後がヤヴァイ。蝶ヤヴァイ。

 

それに、蛇の暗殺に成功したとしてもその後が怖い。音の忍びに面が割れた場合、大蛇丸の信奉者、というか狂信者共に地の果てまで追われる事になるだろう。

 

そんなリスクは犯せない。木の葉隠れにそこまでの義理は無いし。

 

『まあ、そんなもんだね。よく分析できました』

 

(けっ、お前の受け売りだよ)

 

マダオのくせに、頭は回る。今まで大した危機もなく生き残れたのは、マダオの知恵による部分も大きい。

 

『それでも、守鶴は相手にするんだね』

 

「こっちは仕方ない。下忍じゃ100%無理だろ、あのでっかいのは」

 

ていうか上忍でもあれぶっちゃけ無理ゲーだろ。悪けりゃカカシでも勝てなさそうだぞ。例の万華鏡写輪眼でもない限り。

 

『確かにね。巨体、砂の防御、幅広い攻撃方法………五影が、三忍クラスでもないと無理だろうね』

 

何より、巨体と砂の攻撃がやばすぐる。ガマ親分でも呼ばないと相手にならないのでは。あ、でもあの巨大ドス使って、一回やってみたいなあ。『我に断てぬもの無し!』とか。

 

まあそれはともかく、口寄せ使えない小兵サイズじゃあ無理無理だね。

でかいぶん削らなければいけない体積が増える、つまりは馬鹿みたいにチャクラを喰う忍術を使う必要がある。上忍でも並クラスじゃあそこまでのチャクラは絞り出せまい。

 

まともにやり合う場合、怪獣大決戦に持ち込むしかないかもね。

正攻法では近づけそうもないし。

 

『でも、目立つ術は使えないっていうか………ガマ口寄せは正体バレるから無理。

 そもそも、先生の持っている巻物持ってないし、口寄せの契約もできない。

 九尾自体を呼び出すのも無理でしょ。色々な意味で』

 

そんなことしたら全力で死ねる。怨敵の九尾を見た時の、木の葉隠れ側の反応が怖いっす。何より、俺がそれをしたくない。キューちゃんを今更『使う』とか、絶対に嫌だ。

 

だからしない。うん、自分勝手?

―――それでもよし。

 

だから方法を考えよう。生半可な搦手は通じない。

でも、真っ向からの潰し合いも無駄が多い。

 

『つまりは、短期決戦?』

 

その通り。一瞬の隙をついてそこに全てを注ぎ込むような戦術でGO。

あんなデカブツと力勝負なんて馬鹿馬鹿しいし。

 

『ということは、裏技だね? ………でも飛雷神の術は、まだまだできそうにない』

 

あれを自由に使えれば一番速かったんだけどなあ。戦闘における最重要項目である“間合い”の概念を崩壊させるしね、あの術。まあ修行してできる事はできるようになったけど、厳しい回数制限付き。

 

『仕込みに仕込んだ術式を使って、そして術の反動を無視してやっと、だからね。肉体に掛かる負荷を考えれば、一日一回が限度だよ』

 

それ以上は無理なのは分かってる。前に試したけど、あの状態からもう一回とか、肉体が爆散しそう。一回目だけですごいゲロ吐いたし。いやー酔う酔う。

視界が沙○の唄の例のアレみたいに、グチョグチョになったよ。

 

2回目は無理です。決行したら、死ぬことは免れん。チャクラが爆散して自分がスープにになっちゃいます。だから、良い方法考えといてね。俺も考えるけど。

 

『おk。でも良い方法あるかなあ』

 

そうそう裏技もないか。その時はその時だな。

 

取りあえず、頼むわマダオ。

 

 

 

 

 

 

 

午後、夕方過ぎ。キリハ、いのが来店。何やらぼろぼろだ。一緒に修行でもしているのだろう。

 

質問せず、ただ注文を聞く。今日はしょうゆの気分らしい。分かる分かる。あるよねー、そういう時。原点にかえるっていうの?

 

チャーシューを切っている最中、二人が何やら熱く語り合っている。

俺はその会話で出てきた単語を聞いて、少し驚いた。

 

「えっと、その………聞いても良いかな。『だからどうした』っていうのは」

 

「昨日、桃さんから聞いたんです!いいですよね、何かこう、言い続けるだけで勇気が湧いてくるような!」

 

まあ、言われてみれば、いのにはぴったりですね。

 

「ヒナタちゃんにも教えてあげたんですよ。ヒナタちゃん、嬉しそうに呟きながら、ヒアシさん相手に柔拳を練習してました」

 

あれ、日向家、親子の仲いいのか。意外だな。それにしても、「だからどうした」と良いながら臓腑を抉るような掌打を繰り出す少女ってのは………絵面的に最強だな。

白い目だし。もしやってるのが妻だったら、タイトルは「浮気の言い訳を一蹴する鬼嫁」って所か。白い目ですね。分かります。

 

「はあ、それにしても、今日も収穫無かったわね」

 

「うーん、やっぱり避けきるのは難しいんじゃない? 風遁は威力が限定される分、範囲は大きいから。避けきろうって言う方が無茶だよ」

 

「………そういうもんかなあ」

 

頷きます。そういうもんです。風遁は対人戦には持ってこいですからね。

 

「うーん、それでもなあ………そうだ、違う視点から言ってもらうのもいいかも」

 

「はい?」

 

急に話しを振られて、びっくりする。

 

「えっと、中忍選抜試験の本戦で、日向の人と当たるんだ。何でもいいから、良いアイデアない? おじさん」

 

………おじさん? ああ、おじさんか。おじさんね。

 

まあ見た目しょうがないかもしれないけど、この年の少女相手に面と向かって言われると………結構、くるものがある。

 

泣いてない、泣いてないもんね!

 

『変化を解けば戻るじゃない』

 

まあそうだけどね。見た目は子供! 頭脳は三十路!

名探偵小南、この後すぐ!

 

『えっと、突っ込む所は多々あるけど取り敢えず小南って誰?』

 

式紙使いです。いつか紙で城を作ってもらうつもりです。ちなみに白ではありません。

空に浮かべて里の中心部に落とします。でも軽いからみんなが和むだけで済むんだぜ。そして遊び場になるんだぜ。もしくはラピュタごっこでもいい。

 

………まあそんな少年の夢はおいといて。

 

『少年(笑)』

 

おいマダオ、後でセッキョーな。

それはおいといて、っと。

 

「お嬢さん、相手がどうでようが、構いません。むしろ構ったらだめです。

 相手の事ばかりを気にしすぎても駄目です。やることを決めて、そこを一点集中」

 

「一点集中?」

 

「そうです。真に万能なラーメンはない。であれば、“売りにする”味を――――戦闘でいえば、“他に勝る”点を。自分が相手より勝る場所で戦えばいいのです。問題は、負けない事ではありません。諦めないことです。お嬢さん、桃が伝えた言葉の中に答えはあります」

 

後はあなた次第です、頑張って下さいと真剣な声で答える。

 

「………そうか。そうよね。おじさん、ありがとう」

 

「いえいえ。あとできればお兄さんと呼んでくれると有り難いんですけど」

 

それと、話してみて思いつきました。

守鶴に勝つ方法。随分と仕込みに時間がかかるけど、恐らくは勝てるはず。

 

今日から当分、影分身達は内職に励ませます。道具と………後は、新術。これがあれば勝てる筈。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ういー、帰ったよー」

 

と言っても、誰も出迎えてくれません。

奥で修行してるのか。ちょこっとだけ寂しいのは秘密。

 

「………てめえか」

 

「はあっ、はあっ、ナルト、くん」

 

二人は修行をしていました。いやしかし、肩で息をしながら喋ってる白だけど、字だけ見るとエロいなー。

………いや、ちょっと落ち着こう。話しを変えようか。

 

それにしても白、顔が赤いな。もはや紅白だね。際だつコントラストが色っぽいね。

 

『繰り返しとるじゃろ。ちょっとは落ち着かんか、この馬鹿者』

 

拗ねたキューちゃんの声に、我に帰る。ふー、危ない危ない。

汗をぬぐって、再不斬に向かって犬歯を剥き出しにする。

 

え、理由?

――――むかついたから。

 

「いろんな意味で精が出てるねー、じゃあ再不斬君。久しぶりに、俺と手合わせしてみようか」

 

「………あ? 影分身任せでラーメンばっかり作ってるお前が、どういう風の吹き回しだ。」

 

「いや、ちょっと試したい事があってさー」

 

マダオ、準備は出来てるな?

 

『ほいきた』

 

手裏剣影分身の術って………別に得物が手裏剣じゃなくても使えたよな。

 

『まあ、一応』

 

 

 

ということで先制攻撃! 忍び同士の戦いに、開始の合図など在るはずもない!

 

俺は懐に隠していたあるものを抜き放った後、再不斬との距離を詰め、そのの顔めがけてそれを差し出す---!

 

しかし、あと一歩というところで“ソレ”は止められてしまった。

 

「………何してやがる?」

 

「ちっ、惜しい」

 

掴まれた手には、筆。

あとちょっとで眉毛書けたというのに、いや実に惜しい。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

無言のまま勢いよく離れる。対峙した直後には、両方共に凶器が顕れていた。

俺の手には、筆。墨汁のついた筆だ。

 

再不斬の手には、名高き七本刀が一、首切り包丁。包丁だからいーじゃん、とあの大刀を使ってチャーシューを切っていた所、微妙な顔されたのはいい思い出。

 

「てめえ………もう我慢ならねえ。ことある毎に妙なちょっかいをかけてきやがって! 今日は、今日こそ俺は手前に勝つ!」

 

「いいだろう。来たまえ、桃地君! 俺が勝ったらガイばりの海苔眉毛を、お前の身に刻んでやる!」

 

それも身体のあちこちに刻んでやる。

これはこの世界の彼女無き無数の男共の怨念だと思え。

 

「………」

 

「………」

 

無言でにらみ合う俺と再不斬。

 

片や、手に筆。片や、手に大刀。傍目で見る分にはどうにもあれな光景だろうな。

もう少しこちらの筆が大きかったら、絵になったかもしれないが。

 

『東北宮城乙』

 

リバースだべ! ってネタはおいといて、行くぞ!

 

「嫉妬パワーぁぁあ、ぜんっかい!」

 

掛け声と同時に再不斬に向かって筆を投げ、高速で印を組む。

 

「食らえ!」

 

忍法・手裏剣影分身の術!

 

「って、ちょっと待てえ!」

 

再不斬に殺到する、筆、筆、筆。

百を超える筆が、再不斬の身に黒を刻まんと殺到する――――!

 

「くそ、アホらしい!」

 

といいながら、手に持ったクナイで、筆の流星群を弾き飛ばしていく。

そしてその全て弾き飛ばした後、再不斬は印を組んだ。

 

「水遁・水龍弾の術!」

 

なんと、筆についた墨汁を使って、水遁・水龍弾の術を発動。

小さいながらも、墨でできた黒い龍が襲ってくる。

 

「おお!?」

 

それを跳躍して避ける。

チィ、腕を上げたな。ああいう返し方をされるとは思ってなかった。

 

 

「今度はこっちからいくぞ!」

 

 

そして、再不斬が手に持つ大刀を、頭上に掲げた直後。

 

 

 

 

 

 

 

――――――室内の空気が、凍った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

 

俺は大刀を掲げたまま硬直している再不斬と視線で話し合う。

 

何が起こったのか。この空気を発している者は、一体誰なのか。

 

………俺ではない。もちろん再不斬でもない。とすれば、後は1人しかいない。

 

 

 

恐る恐る、俺と再不斬は残る1人である、白の方を向いた。

 

 

 

そして、すぐに後悔した。

 

 

 

 

 

白さん、真っ黒です。墨にまみれて真っ黒クロスケ。

どうやら再不斬が弾いた筆の墨が当たった後に、墨殺黒龍破を浴びた模様。

 

白黒どころじゃありません。しげるも真っ黒になるほど黒まみれ。

あと纏ってる空気も。「白から黒へバロスww」とか笑ってる場合じゃありません。

ドス黒いです。赤貧グロ魔術師殿も驚きの黒さ。

 

「………(汗)」

 

「………(汗)」

 

その冷え冷えとした殺気に、俺と再不斬は身動きが取れない。

 

――――ってあれ、足が動かないよ?

 

『あ、足下凍ってるね』

 

見れば、いつの間にか。

墨で出来た氷の手が、俺の両足を拘束している。

 

 

もちろん色は黒なので、ってまじ怖いんですけど!

 

 

 

「………メンマさん、再不斬さん?」

 

 

 

言葉と同時、部屋の壁から音が。

 

あれ、部屋の壁全体が魔境氷晶に包まれている!?

 

 

どこにも逃げ場がないよおとっつあん!

 

 

 

 

『まあ自業自得だね』

 

 

 

 

そして、凍りついた空気が怒声と共に開放された。

 

 

 

「誰が掃除と洗濯をして片付けると思ってるんですかぁ―――――!」

 

 

 

「qあwせdrftgyふじこlp;!?」

 

「俺が何をしたぁぁァアア?!」

 

 

 

 

 

激怒した白嬢に、氷の鏡を利用した超高速エリアルコンボをかまされました。

 

 

もちろん、二人とも。

 

 


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