小池メンマのラーメン日誌   作:◯岳◯

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外伝の弐 : 死闘!砂の里~赤い狐と緑の狸~

 

「麺道大原則ひとぉーつ! 

 ――――ラーメンは、あまねく人に食べられなければならない!」

 

 

 麺王体系・汁ナイト 10話「豚骨のメンマ、信念の叫び」より抜粋 

 

 

 

 

 

 

 

「熱ちー」

 

きちー。熱すぎる。やってきました砂の里。

良い塩が取れると聞いたんで、心配事は色々とあるけど絶賛訪問中。

 

まあこの里もかなり広いんで、そうそう狸さんに会うことも無いだろう。気を付けていれば逃げられるし。それに、我が特殊変化術こと“影化粧の術”に死角はない。

潜伏なんてお茶の子さいさいだ。

 

「それにしても、熱いな」

 

『砂漠だからね。そりゃ熱いよ。それにしても、懐かしいなあ』

 

ちょっと昔を思い出しているようだった。

 

「つーかマダオはこの里に来たことあるのか?」

 

『第一次忍界大戦の時にね。少しだけど』

 

「観光ですか? 仕事ですか?」

 

『いいえ、戦争です』

 

語尾にキリッ、じゃねえよマダオ。自分で言うな。

でもそういや木の葉隠れの里は此処とも血みどろの抗争してたんだっけ。

 

『この里に、守鶴のやつがいるのか?』

 

キューちゃんが聞く。割とどうでもよさそうだけど。

 

「うん。まあ、人柱力憑きだけど」

 

心底関わり合いに成りたくない手合いだ。視線が合っただけでぐちゃぐちゃに殺されるとかヤンキーより酷え。

 

さておき、噂の良い塩、探してみますか。

容器に入れた水で水分を補給し、里の中へと入り込んだ。

 

 

 

 

(警戒厳重だな………)

 

木の葉とは全然違う。あっちは正面からなら無問題なのに。

入り込むのにえらい苦労した。

 

里への出入り口が少ない分、警備も其処に集中しているようだった。まあ普通、忍の里は外からの侵入者に敏感にならないといけないからな。買い物とか色々しなければいけないので、商人に変化した。本物の商人は別の里に出張中なのは確認済み。

 

そうして里に入ってすぐです。ちょっと大きめの商店が見えた。

 

『ほら、あそこは?』

 

「行ってみるか」

 

ついでに水も確保しておかないとね。さっきので全部飲んじゃったし。

で、店頭一番に飾られてた塩が。味見もオッケーとのことなので遠慮なく。

 

(お………うん。かなーり良い塩だな)

 

良い具合だ。鶏がらスープに合いそうで、雑味も少ない。

大枚をはたいて、結構な量を確保しておこう。

 

「まいどあり~」

 

取りあえず、宿で厨房を貸してもらおう。鶏も買って、と。

麺は市販のものにしますか、と思っていたけど。

 

「え、ラーメンの麺がない?」

 

「はあ………」

 

おっちゃんにすいません、と言われました。

うどんか、素麺しかないそうだ。なんじゃそら!

 

『まあ、無いのは仕方ないんじゃない?第一、こんなに熱い里なのに、ラーメンとか食べないでしょ』

 

(この裏切り者!)

 

『あの、提案なんじゃが………ちょっと、ちょっとだけの、久しぶりにきつねうどんでもしてみんか?』

 

小さい声でキューちゃんが呟いた。

そんなに頬を赤くするんなら、素直に食べたい、と言えばいいのに。

 

『ええい!食べたいわ!食べたい!これでいいのじゃろ!』

 

腕をぶんぶん振り上げて怒った模様。

八重歯を剥き出しにして子供そのものだった。

 

つーか、その………やべえっす。何だこの可愛い生き物は。

じゃあ、まあちょっとだけ――――って嘘。

たらふく作るよきつねうどん。だからそのすげえ悲しそうな顔はやめて。

 

で、もう完敗だった。満面の笑みに女の子らしい仕草に胸を打たれました。ちょっとクラッと来たってマジで。心の中のマダオは脚にきたようで、膝を付いている

 

じゃあ、うどん麺と、素麺を買って帰りますか。でも、ラーメンないのか。

やるとするならば、流し素麺か………って無理だな。この里では水も貴重だろうし。

さっき買った水の値段を見れば分かる。

 

いっそ、忍術でどうにかならないか。

水遁・流し素麺の術!とか。

 

………それも無理そうだな。失敗して、麺諸共に吹っ飛んでいる景色しか浮かばん。

 

 

 

 

 

その後、宿で厨房を借りて調理を開始。どうもこの店、客が少ないようで、多めの料金を渡したら快諾してくれた。世知辛え。

 

出汁を煮込んでいる間、暇なのでマダオと一緒に術の案を練った。材料は四代目火影の知恵と知識に九尾のチャクラ。どんな術でも作れそうで、夢が広がる。

 

とはいっても、今の自分が持っているチャクラ、何やら混ざり合っていて、純粋な九尾のチャクラとは違うみたい。禍々しさは少し成りをひそめて、質も普通。

きゅーびのチャクラ、と言った具合か。原因は分かってるけど。

 

修行を初めてから数年、ここ最近やっと気づいたんだけど、どうも俺たち魂レベルで癒着してしまっているようだった。

 

この身体の本来の持ち主であったナルトの精神が崩壊した後、取って代わろうとした九尾、封印術式に組み込んであったミナトの人格、そして暴走して時空間の隙間から口寄せされた俺の魂。

 

入り乱れ、頭と頭がごっつんこ♪負けたーらどんどこしょ。ってな具合だ。

今の所、主人格は俺で、マダオは別人格みたいなもの。

キューちゃんはまた違った感じだけど、イマイチそのあたりは不明だ。

 

もちろん、記憶等は共有していない。ていうか、何か多重人格みたいだ。

 

これも、なんとなくのフィーリングで推測した事なので、詳細はまだ解明できていない。キューちゃんがまともな人格を有しているのも、このためと思われる。

 

原理とか解明でき次第ある事をしようと思っているけど、それは先の話になるだろう。

 

 

ともあれ、術の開発だ。一応砂の里の中なんで、普段の五倍は真面目にするっきゃない。術を磨くっきゃない。囲まれると流石にやっかいなことになりそうなんで。

 

「捕縛系の術とかほしいな」

 

破壊系、というか正面から倒すような系統の術は、螺旋丸でどうにかなるし。背後からなら術なんて不要。機を読む目と気殺があれば逃げるのには十分だし。

 

ここは一つ、正面から立ち向かう場合で、それでも相手を殺さないようにする術が欲しい。あまり殺しすぎると、どうなるか分からないし。

 

それに、使えば人間があぼーんとなる術を量産するのはちょっと。

 

『うーん………でも、基本は動いている相手に使う術でしょ? 捕縛術が必要となると、最低でも上忍クラスになるしね』

 

それ以下だと、殴って気絶させた方が早い。

速度を上げて物理で子守唄というか。

 

『………そうか、そうだね。追尾型捕縛術とか、どうかな』

 

相変わらず頭の回転が速い。それに、知識も豊富。

おかげさまで、次々とネタ技ができあがる。で、どんな具合?

 

『標的に術式をマーキングして、それを追尾するようにすればいいと思うよ。飛雷神の術の応用だね』

 

捕縛する網は、封印の術式を組んだ柔らかく強靱な布がいいそうで。

空間跳躍する飛雷神の術よりは簡単だそうだ。

 

検討して仕様を煮詰めた所、何とか形になりそうだという結論に至った。

欠点は、チャクラを食い過ぎるのと、その捕縛布を作るのに時間と材料代がかかること。これはきゅーびのチャクラでなんとかなりそうだ。布はマンパワーこと影分身かね。ちょっと金を食うけど、そこは必要経費ということで我慢する。

 

そして、料理の方が完成した。きつねうどん。俺のテンションは余り高くないけど、キューちゃんの方はもう有頂天というか至高天に。

 

『『「いただきまーす」』』

 

三人でいただきますを。ある程度、主人格である俺が意識すれば、感覚を共有できるのだ。初めてそれをやった時は、二人に呆れられた。何で呆れたのか未だもって謎だ。

 

『・・・・♪』

 

キューちゃん、すごい美味しそうに鼻歌を。

で、感想は――――顔見りゃ分かるな。もう、無茶苦茶美味そうに喰ってる。

 

俺たちがもっっっっっっっっっっのすげえ美味いラーメンを食ってる時の味がするとか、そういう感じなんだろうな。好みの問題か。俺は何よりもラーメンが好きだけど。

 

キューちゃんはラーメンを食べても、あまり美味しいとは言わない。ラーメンは普通、だそうだ。むしろきつねラーメンとかどうか、と言ってくる。いや考えたことはあるけど、それはどうだろう。

 

くそ。いつか絶対、俺の作ったラーメンで、美味いと言わせて見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「熱いなー」

 

夜。熱くて寝られねえ。仕方ないので、窓を開けた。

おお、温いけど柔らかい風がいい感じ。

 

『綺麗な満月だねー』

 

そうだねい。世界は違っても、月は変わらないしな。

うん、いいこと言った………って何か忘れているような?

 

『まあ、いいじゃないか。取りあえず寝ようよ』

 

 

そのまま何とか寝ようとして、小一時間過ぎた後だった。

ようやく、眠れそうな案配になってきたのは。

 

だけど、その時に事件は起きた。

 

「何だ!?」

 

轟音に飛び起きる。発生源は部屋の上からで、震動もセットで付いてきた。

眠気が一瞬で霧散していく感触に、歯ぎしりをした。

 

せっっかく眠れそうだってのに、どこの馬鹿だ。

怒りに身を任せ、窓の外から屋上へと駆け上がり、元凶らしき人物に怒鳴りつけた。

 

 

「うるさいんだ………ょ………………ぉ?」

 

 

屋上を上がった先、見たものは!

 

 

右を見る―――――砂の忍者の死体。

 

左を見る―――――隈、ひょうたん、デコがチャームポイントの、少年。

 

 

で、その少年とおもいっきり目があった。

 

「あ、およびでないようですね――――それじゃ」

 

シュタっと手を上げて、よっこいせ、と屋上から降りようとした、が。

 

「みぎゃー!?」

 

砂が追いかけてきた。ちょっ、不味いって!

 

「取りあえず、明日への脱出!」

 

屋上から跳躍。空中でくるりと一回転し、地面に着地。

 

「ってえ、ついてきてるぅ!?」

 

まるでホラーだ。いざ、自分の立場になってみたら分かった。追尾して押しつつもうとしてくる大量の砂とか怖すぎる。それでも、俺の脚よりは遅い。

 

「ふははは、さらばだ明智くん!」

 

得意の逃げ足。逃げます。断固逃げます。

でも、一歩目を踏み出した所だった。

 

「女の子?!」

 

砂の里の者だろう。3歳ぐらいの女の子が地面に座り込んでいた。

 

(っ、我愛羅との殺し合いを見ちまったのか)

 

我愛羅は親である風影にしょっちゅう命を狙われている。

死んでいたのは、その暗殺の任務を受けた暗部だろう。

 

それを我愛羅が撃退。女の子はその時の現場を、全てでは無いようだけど、ある部分を見てしまったのだろう。恐怖のあまり、気の毒になるぐらいガタガタと震えていた。

 

(くそっ!)

 

咄嗟に助けに行こうとする。だけどその前に、女の子の元へと飛び込む姿があった。

速さから察するに、下忍か中忍だろう。

間一髪、砂が振ってくる前に、女の子を抱えて飛び上がった。

 

しかし、砂の衝撃で砕け、飛び散った外壁がその忍びの足に直撃した。

 

「くっ………我愛羅! もう止まれ!」

 

叫ぶ少女。原作で見た服の詳細はもう覚えていないけど、その巨大な扇子には覚えがあった。

 

我愛羅の姉、風影の長女であるテマリだ。彼女は未だ震えている女の子を抱え、膝を突きながら、必死に我愛羅に呼びかける、けどムダだったようだ。

 

「ぐっ…………ガ、アアアアアアアアアアア!」

 

苦しむ声を上げるだけ。それでも我愛羅は止まらなかった。

 

(くそ、満月のせいか!)

 

満月の夜には守鶴の血が騒ぐ。そう言っていた気がする。やがて、ゆっくりと腕状に変形した砂の塊が、二人を打ち据えようとした。

 

回避できないタイミングだ。直撃した場合。その末路は分かりきっていた。

外壁と同じか、屋上で死んでいた忍者と同じ躯を晒すことになるだろう。

 

 

(仕方ない、か)

 

 

振り下ろされる――――

 

 

(原因は俺なんだから)

 

 

その腕を――――

 

 

(見過ごす訳にはいかない)

 

 

――――チャクラを込めた掌打で破壊する。

 

渾身の一撃は砂を砕き、あたりに四散した。

 

 

「――――何?」

 

 

背後で、テマリの戸惑うような声が。だけど、ここで振り返る訳にはいかない。

 

 

「取りあえず、下がってろ。こいつの相手は俺がするから、お前はその女の子を逃がしてやれ」

 

自分の右手の掌に左手の拳を打ち付け、目の前の化け物を正面に、構える。

 

テマリは戸惑いながらも、後方に跳躍して、その場を退いた。

そうして、俺は対峙する。初めて外に見る、その異様と。

 

だけど、怖くはなかった。

 

「ガキが………」

 

『ケケッ。テメエ、ナニモノダァ?』

 

 

化物が問いかける。それに、俺は笑って答えてやった。

 

 

「・・・・通りすがりの・・・・・・・・ラーメン屋さんよっ!」

 

 

震脚。大地を揺らすと同時、全身にチャクラを行き渡らせる。

 

 

言葉、意志に気迫を混ぜて全身に。

 

化物こと守鶴はそれを見て、嬉しそうに笑って――――その笑いが収まったと同時、砂の飛礫が俺を打ち砕かんと殺到してくる。砂時雨の術か、だけど。

 

「憤!」

 

その全てをチャクラを込めた手の平でいなし、捌き、逸らす。同時、込めたチャクラで微塵に砕いた。砕かれた砂は、ただの砂塵となって周囲を漂う。

 

捌ききったその後も、安堵のため息はつけない。丸太のような大きさの、砂の塊。化け物の異様をそのまま現したかのような醜悪な腕が、俺の頭蓋を砕かんと振り下ろされた。

 

「遅え!」

 

でも、上忍には及ばない。その一撃を、半歩横に出てチャクラを込めた掌で受ける。

そして力の方向を逸らし、横に受け流した。

 

「もらった………っ!?」

 

その砂を横に捌き、距離を詰めようとしたが、捌いた砂が解け、またこちらを捕まえようと絡みついてくる。

 

「破ぁ!」

 

絡みつこうとする砂を、チャクラを込めた裏拳で砕く。そして、後ろに飛び下がった。

また、最初と同じ距離だ。

 

『………逃げないの? 女の子達、もう無事な所まで逃げられたようだけど』

 

「最終的には逃げる。一発だけ殴ってからな」

 

気に入らないのだ。忍者どうしの殺し合いに興味はない。でもこの化物はあんなに小さい女の子、そして実の姉を殺そうとした。

 

むかついたから一発だけでも、この気持ちを拳に込めて叩きつけてやらなければ気が済まない。

 

『馬鹿だね』

 

と、マダオは嬉しそうに笑った。

分かってるよ。これが馬鹿な行為だって事は。逃げた方がいいって事も分かってる。

 

 

それでも、だ。俺も理屈だけで生きてる訳じゃない。計算だけで生きてる訳でもない。

取りあえず、ぶん殴る。あの光景にむかついたから、ぶん殴る。こいつがむかついたから、ぶん殴る。

 

痛いのも怖いのも嫌だけど。困ったことに、それでも引けない時がある。

 

『不器用じゃの。人間は』

 

器用は綺麗だけど、つまらない。そう思うんだ。

そんで、そう思っている自分としては、ここは。

 

目の前では尾獣の雄叫びが、聞くだけで臓腑が凍える殺意がある、だけど。

 

「――――行くしかないだろう!」

 

前に進みながら、捌く、捌く、捌く。

その飛礫も、波のような砂も、その腕の一槌も。全て見定め、捌く。

 

心技体と誰かが言う。そしてそれはその通り。

武は技。武は体。そして何よりも、武は心。

 

(この場は戦うと決めた、その選択、その意地、そしてその一を、)

 

捌いた先の間隙。攻撃と攻撃の間。

生まれた、一瞬の機がある、そこを。

 

 

「貫く!」

 

全身を強化し、全力で踏み込む。相手から見れば、消えたかと錯覚するような速度。

腕を振り、砂を弾きながら震脚。

 

振った時に生まれる、腕の遠心力。そして踏み込んだ地面からの、反動。その力を全て腰に乗せ、回転させながら、腕を突き出すその先へと集中する。

 

同時、腕自体も回転させた。

 

――――九尾流・絶招の壱ぃ、 

 

螺旋螺旋(らせんねじ)!」

 

腰の回転と腕の回転。重螺旋を一転に集中させた一撃。

衝撃を浸透させるよりも、貫く事を重視した技である。

 

 

「グアゥ?!」

 

吹き飛ぶ、我愛羅+守鶴。それを尻目に、俺は撤退を開始した。

 

(砂隠れの奴らも集まってくる頃だろうから………?)

 

視線と気配を感じて、その方向、建物の上を見るとテマリが呆然とした表情でこちらを見ていた。

 

(おー、落ち着いて見ると結構可愛いじゃん)

 

やがて俺は軽く手を振ると、その場を去った。

 

 

 

「さー、逃げるか」

 

『塩、忘れてるよ』

 

「しまった!?」

 

といっても、今更取りに戻れない。

 

「………ま、いいか」

 

 

収穫はあった。塩ラーメンを作る時は、ここの塩を使おう。

 

しかたない、と呟いて、俺は砂隠れの里を脱出した。

 

 

 

 


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